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俺は小説家を目指している。

32某経大生:2004/08/01(日) 21:50 ID:zApANjY2
時間はいくらでもあるように感じた。若い頃には想像もつか
なかったことだった。とにかく時間がなかった。本を読むだ
けで過ぎていく時間がむなしくてどれだけ徹夜したかわから
なかった。そういう強迫観念のようなものはいったいどこか
らきたものだったのだろう?どうして今はそんなことを感じ
なくなったのだろうか?
今はほとんど本を読む必要はなくなった。理論的な体系の再
構築が主な仕事になっており、書評を頼まれたとき以外では
専門の分野でも本を開かなくなった。ほとんどの時間を出力
に費やし、システムの開発と支援に取り組んでいたせいもあ
るが、他にも雑誌への寄稿やパブリシティーへの対応など、
割と飄々とこなしていた。
「君は、最近疲れていないか?」
僕が尋ねると、彼はちょっと考えた。時間は2秒から3秒、
言葉の裏を探っているのだ。彼のこうした計算の速さは歳
をとっても衰えない。
「なにか悩み事か?」
「いや、そのままの意味だよ。」
彼はまた少し口を閉じた。今度は記憶領域を検索している
のだ。
「とくに疲れてもいないか。最近はすっかり干されてるか
らな。君はどうなんだ?」
「僕のほうも君と似たようなものかな。平和そのものさ。」
「君が平和だなんて穏やかじゃないな。ちょっと前まで飲み
屋に来てまで戦々恐々と本を読んでた男がだ、平和というの
は信じられんね。」
「それが嘘のように平和でね。僕も最近驚いているのさ。な
ぜだろう?空気の流れ、大気の躍動、大地の鼓動、若木の萌
える草木の馨り、どれをとっても少し昔まで、なんら意味の
なさない記号だった。それが意味を持ち始めたんだな。君に
分かるかな?ほら、色が映えるというか、よく薔薇色の世界
なんて表現をするだろう、あの意味が今ではなんとなくわか
るんだな。」
若い店員が焼酎のグラスとサンドウィッチをテーブルに置い
た。僕らはそれを手に取り、再び静かにグラスを重ねると、
一口呷った。
「小さい頃、憧れてたスポーツ選手がいてね、武道の選手だ
ったんだ。身長は150くらいしかないのにとても強くて、
相手が何人いようとひねり倒してしまう。うそみたいに倒し
てしまうんだよ。」
彼はそこで言葉を区切り、口唇を濡らした。
「僕はどうしてもその強さの秘密が知りたいと思ってね、毎
日彼の真似をしたんだ。同じような動き、呼吸、時には複数
の相手と喧嘩もしたな。まだ10歳のことさ。でも僕はね。
そうした鍛錬を通じて割りと強くなってたんだな。いや、割
となんてものじゃない、当時じゃ負けなしだった。無敵にな
ったような気がしてね、とても気持ちが良かったものだよ。」
「それで、その強さの秘密は分かったのか?」
「いいや、むしろ別の問題がもたげたんだ。結局僕が追求し
ていたことは死んでしまえばお仕舞いなわけだ。それに銃に
勝てるわけがないし、いくら相手が多くて勝てても必ず限界
がおとづれる。」
「当然だ。」
「そう、当然なんだよ。僕はね、このとき目から鱗が落ちる
というのを始めて経験したんだ。つまりだね、僕は死ぬこと
を当然と認識したんだ。恐れなくなったんだ。切り離され、
独立し、生の対極の概念として捉えなくなった。」


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