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俺は小説家を目指している。

31某経大生:2004/08/01(日) 20:35 ID:zApANjY2
  夜空に見上げた星座の記憶

「君がいなくなったって誰も困りはしないさ」
午後八時を過ぎたばかりの盛り場は、サラリーマンや学生の飲み会
で熱気がこもっていた。騒がしい掛け声やら怒鳴り声やらがあちこ
ちから聞こえてきたが、彼の口調はいたって平静だったので、僕は
彼の言葉を聞き取るのに体を彼のほうに寄せなくてはならなかった。
もう少し大きな声で話せばいいのにと思ったが、僕はいつも我慢す
る役にまわる。つまりは人間関係のいざこざが煩わしいのだ。話し
て分かり合えるほど利口な人間なんて、ツチノコが存在する確率よ
りも低いはずだ、と僕は思うわけだ。無駄なエネルギーは浪費しな
い。なんて僕は環境にやさしい人間なんだろうとざっと経済的利益
を頭で計算してみる。しかし、いつの間にかメニューの薩摩芋焼酎の
金額の重心を求めてテイラー展開したあと、繰り返し積分ベクトルを
計算していた。多少酔っているなと感じる。
「君がどんなにかけがえのない人間だとしてもだ、君はいつか死な
なくちゃならない。君が死んでアポトーシスを起こすような脆弱な
プログラムを許容できるほど、社会は不安定じゃない。すぐに君に
代わる才能をリストアップし、計画の修正を図るはずだ。それは誰
が望んだことじゃない、誰もが気づかずそのシステムの一端を担っ
てるっていうだけの問題なんだよ。」
相変わらずつまらない話だった。もう30年近い付き合いになるが
彼の話が楽しいと感じたことが一度もなかった。しかし、それでも
30年もの間交友関係にあるのはある意味奇跡だった。それは今に
して思えば非常に長い年月に感じられたが、やはり彼との交友にな
んらかの意義…それはないとしても、彼の魅力のようなものを僕が
感じ取っていたのかもしれない。僕はグラスに残ったバーボンを呷
った。
「僕はそこまで傲慢な男じゃないさ。僕はただの大学教授だよ。牛
革の座椅子にしがみついてる哀れな老いぼれさ。体も脳も、あとは
縮むばかり。」
そういってつまみのスナックを口に放り込んだ。
時間がゆったりと流れてるのを感じることができる瞬間だった。
体感時間では今までの流れですでに10分は経過していてもおかしく
はなかった。しかし彼といる時間はゆっくりと流れた。まだ3分ほ
どしか経っていなかった。これも奇跡の一つかと思うと可笑しく思
われた。
「お兄さん、この薩摩芋焼酎ってのもらえる?おい君、君ももう一
杯いくだろ?」
彼はカツオの切り身をサラダとあえて醤油と山葵をどっとかけてか
らずずっとすすった。僕にも残しておけよと言いたくなったが同じ
ことは二度言わないことにする。焼酎二杯とサンドウィッチを一人
前注文した。どうも僕は昔からサンドウィッチというやつに目がな
いのだ。
「なんだ、君はまだサンドウィッチ伯爵に拝謁願おうってかい?ま
ったく君って奴は食えない奴だな。」
「君がカニバリストだなんて初耳だよ。」
「まぁ、生きてこそってやつだな。」
「僕を自殺に追い込もうとしてた奴のいう台詞じゃないな。」
「はは、僕はブディストなんでね、ハエっ子一匹殺せやしないの
さ。」


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