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俺は小説家を目指している。

22某経大生:2004/06/25(金) 22:13 ID:5R9dk0LY
十二時三十分になり、私はこの苦痛から解放されるべく手を打たねば
ならなかった。講義に遅れるのはかまわない、実際遅れたことでクレ
ームがきたことはない。しかし、私は非常に苦痛を感じ始めていた。
男の声、口調、笑ったときの口の動かし方、のどを鳴らす癖。表面的
な問題だけではないのは確かだった。もっと言いようのない、感覚的な
もの。ねっとりとまとわりつく感覚。不愉快だけでは説明できない人間。
そう、わからないときのあのイライラに似ていた。統計データの不備や
推敲不足の論文を読まされたときのような不快感。
私はおもむろに腕時計に目を向けた。
「申し訳ありませんが私はこのあと講義がありまして。」
「ああ、すいません、気がつかなくて。では私はそろそろ。」
以外にあっさりと彼が引き下がったことに少し物足りなさを感じた。
彼は立ち上がると一礼した。
「今日は会えて光栄でした。」
右手を伸ばす。握手をしてくれという意味か?私も手を伸ばし、握手する。
「こちらこそ、おかまいもせずに。」
「お体にお気をつけて、それでは、失礼します。」
あくまで彼はジャントルだった。彼がいなくなると、研究室は以前の静寂
を取り戻した。それは、本の湛える静寂。知性ある無機物の静謐だった。
そこにとらわれた私もまた、ステテューのように一つの無機物の様相を
呈していた。外は静かだった。応援団の練習も今日は終わっていた。キャ
ンパスが静かに感じた。この研究室が外部化しているようだった。
そう、もともとこの世界には何もなかった。
私はその表層に穴を穿ち、空虚な世界に色を与えようとした。
世界は美しい姿をしている。しかし、それは見る人間によるものだった。
それに気づいたとき、私の研究はすでに終わったようなものだった。
ベランダに立ち、銀杏を眺めた。
緑の濃い季節だ。樹木の胎動を感じる。風のやわらかさが心地よい。
「ここは、人間の住むべき世界だ。」
研究室をのぞく。ベランダから自分の研究室を覗いたのは初めてだった。
そこには誰もいなかった。あたりまえのことだが、自分の姿をそこに
投影させてみようとしても、うまくいかなかった。
不釣合いに感じた。
空間は私の居場所を残しはしなかったのだろうか?
いや、もはや私は一部になっていたのだ。これらの本の、壁の、扉の
一部に。そして、私はそれらの機能の外部化として、今ここにいた。
私がいることで、この部屋は補完されえない。私はもはや一つのパー
ツなのだから。
ここは人間のいない部屋。そして、彼は、私以外の、この部屋のため
の人間だったのだ。


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