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俺は小説家を目指している。

160イチゴ大福:2005/02/18(金) 13:09:37 ID:Ts3L3Et6
14.必要性の重要性は可能性の可溶性。Guest in crime scene. ③
まだ空にはお星様がきらきらと輝いていたが、今の前田には星座などどうでもよかったし、第一もともと興味がなかった。
梧桐冬樹の住む家は、およそ彼が断腸の思いで借金して建てた住宅の四点五倍はあり、その二階に彼の部屋があてがわれていた。大学講師の年収と生活への無関心を考えれば、彼に個人の部屋がなかったことなど容易に想像がついた。「くそ、ボンボンが!」前田の第一声がそれだったのはごく自然なものだったといえるだろう。
彼は奥さんが魔法瓶に淹れてくれたコーヒーを飲みながら梧桐冬樹の部屋を車の中から監視していた。とはいっても部屋のカーテンは閉まっており、彼の動向を知ることはできない。明かりが点いていることを確認しているだけだった。
部屋の明かりが消えると、彼も三時間ほど仮眠をとり、監視を続けた。ほとんどまる二日、車の中で仮眠をとっている程度の彼にはこたえる目覚めだったが、奥さんの淹れてくれたコーヒーが彼を元気づけた。
何もしていないと抗いがたい眠気が襲う。前田はラジオのFM放送をかけた。中年男性の声でニュースを流している。
午前七時になると周囲は少しずつ活気づき始めた。梧桐冬樹の部屋も明かりが再び点いている。三十分ほどすると部屋は再び暗くなり、数分後、梧桐冬樹が玄関から出てきた。六年前、捜査員が隠し撮りした十四歳の梧桐冬樹。容姿はだいぶ変わったがどことなく面影を残していた。女性受けしそうな端正な顔つきである。背中にはバックパックを、着ているものは高価そうだ。
捜査書類からは梧桐冬樹の調書は完全に抹消されていた。抹消されていたのは彼だけではない、五人目の被害者の調書も抹消されていた。しかし、今は現在の梧桐冬樹の調書を一から作りあげる必要がある。彼は車を降りて、バックを手にとると彼の後をつけた。
バスに乗り、高崎駅に向かう。梧桐冬樹は定期券を持っており、改札では彼が在来線に乗るのか新幹線に乗るのかもわからない。しかし、まだ八時前という時間の早さからおそらく都内の大学に通っていると考える。
彼は東京までの新幹線の切符を買うため券売機の前に立った。財布を見つめ、溜息をつく。もちろん、必要経費で下りるわけがない。帰りの切符も含め全部自腹だ。人生で何度となく切り、すでにもう甲斐性もなくなりつつある腸を断つ思いで切符を買い、改札を通る。
彼の予想通り、梧桐冬樹はまっすぐ新幹線改札口を通りホームに向かった。
「高崎から東京の大学に通うとは愛郷心のない奴め!」
前田は心の中で舌打ちした。
じきに新幹線がホームに進入してくる。隣の車輌に乗り込んで座席に座った彼の姿を後ろから伺った。バックパックから何やら本を取り出し、読んでいる。耳にはヘッドフォンをあてている。馴れたものだと感じた。
五人もレイプし殺した男がなんら咎を受けることもなく悠々と生きている。この事実は前田の刑事としての、人間としての義侠心に火をつけた。ぐつぐつと煮えたぎる油のように、彼の心は怒りで沸騰していた。今すぐにでも殴り倒したいという衝動に駆られるが、そこは警察官である。裁くのは司法の仕事、彼の仕事は犯人を揺るぎない証拠と共に検挙することだと自分に言い聞かせた。


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