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<長文・連投> HYPER 雑談スレッド II <通な議論>

923N : 入院話   E君:2013/04/10(水) 21:24:16

看護婦は、隣の奴には毎朝恒例の質問をしなかった。
まったくしゃべらないからだ。

年齢はよくわからなかった。顔つきは3〜40代にみえたが頭は白髪だった。

仰向けの姿勢のままぴくりともせず、眼は天井をみつめたまま瞬きもしない。
だから、看護婦が毎日かならず目薬をさしていた。
緊張型分裂病のカタレプシー(蝋屈-ろうくつ-症)ってやつだ。たぶん。

こんなもん、詐病なんかできない。
俺は一日24時間、4日間ずっと隣で寝ていたが
ずっとその姿勢は変わらなかった。(ただし、間にカーテンがあるので
夜中には眼を閉じて寝ているのかどうかはわからなかった。

ただ、夜中やたら息が荒くなるときがあった。
俺はカーテン越しに深呼吸をした。
長く息を吸い、長く息を吐く。
特に、長く息を吐くときに、その音が隣にも聞こえるようにすこし大きくしながら。
それは、俺の思い込みによる「交信」だった。

たぶん偶然だと思うが、それをすると、
カーテン越しの隣の呼吸はおだやかになった。
何度かやったが、その一方的な「交信」をすると
必ず、穏やかになった。

カーテン越しの彼にある変化が起きたのが何日目の夜だったか、今となると判然としない。

その夜も、息を荒げるのは一緒だったが、
そのあと、
「シュ・シュ・シュ・シュ」とシーツの速く擦れる音が始まった。
隣で同じ体勢で横たわっている俺は
その音のする場所がカーテン越しでもはっきりわかった。
彼の股間あたりからだ。


緊急病棟では、夜中でも数時間おきに看護婦の巡回がある。
深夜の巡回にきた看護婦が彼の行為を見つけた。
そして、やつの手を押さえつけているのであろう物音がカーテン越しに聞こえた。

しばらくすると、看護婦は3人に増えていた。
3人がかりでないと抑えられなかったのだろう。

朝、病室の中にあるトイレに小便をしに行った帰り、
(ということはたぶん3日目の朝だ。最初の2日間小便は溲瓶にして呼び鈴を押し
 看護婦に捨ててもらっていた。)

奴のベッドを覗いてみると、奴の右手は包帯でぐるぐる巻きにされて
ベッドの手すりにくくりつけられていた。

昨夜の看護婦との無言の葛藤劇があったはずだが
頭の後ろに組まれた左手は微動だにせずそのままの姿勢だった。

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ここまで書いた後、いろいろ考えてみた(昨夜はそれで中断した)、
俺が奴に向かって発信していた呼吸の「交信」は、もちろん「交信」とは受け止められなかった。
だが深夜の闇の病室の中で、わずか1mほどしか離れていない俺の吐く長い呼吸音は
カーテン越しに聞こえていたはずだ。
その音が、彼の中でどのように変換されたのかは無論わからない。
ただ、それは彼の脳に「他者」を呼び覚ましたのかもしれない。

分裂病は「性」の病だと吉本は心的現象論で書いている。
どこまで本当か判断する材料は持ち合わせていないが
知人がふたり、そのような診断を受けて長期入院(数ヶ月と数年)している。
そのうちのひとりは、毎回必ず、「失恋」が引き金になっていた。

隣の「ヤツ」の中で他者が呼び覚まされたとすれば、
それが性的な色合いを帯びる可能性はある。

もちろんこれは俺の主観に満ちた憶測にとどまる。
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転科するとき看護師に聞いたところ、彼は長期間救急病棟にいるらしかった。
俺がそこにいた四日間、面会客はひとりもいなかった。


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