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哲学・宗教質問箱

50Sekko:2006/04/10(月) 17:39:42
ユダについて
「ナショナルジオグラフイツク協会」は4月9日、15日、27日にこのテーマでTV番組を放映し、その後5月3日号でユダの福音書のダイジェストを発表するといっています。この中でユダは、裏切り者から「英雄」さらに「聖人」として復権という機運があります。
 しかしこの福音書はすでに2世紀からリヨンの司教エイレナイオスの異端論によって伝えられていて、325年にニカイアの公会議によって、他の30ばかりの外伝と共に正典から外され失われました。1978年になってエジプトの洞窟から農民が1部を発見、おそらくグノーシス派の一派カイン派のものだと思われています。カインの子孫と称するこの一派は、3世紀から4世紀ごろに、この「ユダの福音書」を手写したようで、元は、正典の4福音書と同時期(1世紀後半)にギリシャ語で書かれたものだと見られます。
 この手稿の現在の所有者で、エジプト政府に返還を決めているスイスのMaecenas財団で分析されるまでに手稿は痛みました。16年もアメリカ系銀行の金庫に眠っていたため、パピルスが乾いて、上部は裂けたそうです。キリスト教考古学者らが改めてユダの立場について研究しましたが、それ以来巷に出てきた「ユダ擁護」の本はすべて、イデオロギーの色のついたものです。ピエール=エマニュエル・ドザの『ユダからホロコーストへ』は、教会がユダをスケープゴートにして、反ユダヤ主義に必要だったユダヤ人像を生み出し、それがヒトラーにまでつながったとします。ニコラ・グリマルディ(『Le livre de Judas』Puf)によれば、ユダは、イエスの教えがモーセの教えと合致しているか審査してもらおうとしてイエスを司祭に引き渡したのだ、神の意思を確認したかったのだということです。今出ている本のたいていは、学問的考証の影に反教会主義が見え過ぎているものが多そうです。
 でも西方教会ではユダだけじゃなく、ユダヤ人全体が「イエス殺し」「神殺し」という汚名をずっときせられてきました。それは、西方教会を担うローマ人が、ローマ総督ピラトがイエスを有罪にしてローマ式の十字架刑を執行したというイメージを嫌って、「イエスの死を望んだのはユダヤ人」という印象を強める必要があったからでしょう。日本人などの眼から見たら、イエスだって、12使徒だってユダヤ人なのに変だなあと思うのですが、コスモポリタンでギリシャ的なパウロが普遍宗教のキリスト教を創っていったこともあって、イエスのユダヤ・ローカル性からローマ世界帝国領内の人々の眼をそらせるために、「イエスを殺したのはユダヤ人」という形を強調したのでしょうか。今もホロコーストの後遺症が大きいヨーロッパの反ユダヤ主義の根は、キリスト教の「神殺しのユダヤ人」史観そのものにあったので、「ユダ」という一人の裏切りにあったのではない、ユダの裏切りの物語は、イデオロギー的ではなくむしろ人間的な物語としてインパクトを持ち続けてきたと思います。でも私が『キリスト教』でちょっと書いたように、ユダの名前が「ユダヤ人」と重なるのが皮肉でした。彼がシモンとかヨハネという名だったら、大分変わってきたとおもうんですが。
 それで、またアメリカですが、アメリカのメディアが今急にこのことを大スキャンダルであるかのように言い立てるのは、ひとつにはユダヤ人コミュニティのロビーイングの力に支えられたイデオロギー的なものだと思いますし、キリスト教が原理主義的に政治勢力となっているアメリカだからこそ効果があるのですね。フランスでは、One of them という感じです。でも、『ダ・ヴィンチ・コード』の大成功以来、フランスでも、宗教無教養派がアメリカ由来の「スキャンダル」に飛びつく傾向があるので、この『ユダの福音書』を種にしてまたダン・ブラウン、または第二第三のダン・ブラウンがベストセラーを書けばいいなという雰囲気ですね。
 カトリック自体は、すでに4世紀の時点で、この福音書を正典とは認めないという立場を決めてしまっているわけですから、それを前提に発展しているので、個人の信者が動揺するとかは基本的にありません。信仰は考証や証明とかではないし、真実とは史実とイコールでもないのですから。


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