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テーマ前書き集

15編集部:2014/06/12(木) 16:13:13
第32号 「造次顚沛」
第32号 「造次顚沛」 2012/8

          

 「造次顚沛(ぞうじ・てんぱい)」は、『論語─里仁』「君子無二終レ之間違一レ仁、造
次必於レ是、顚沛必於レ是(君子はとっさの場合やつまずいて倒れる場合でも仁から離れ
ない)」に由来し、とっさの場合やつまずき倒れるとき。転じて僅かの時間のたとえ。つ
かのま。一瞬のことである。四字熟語素の「造次」も同じく、にわかの時、わずかの間。
「顚沛」は、つまずき倒れること。転じてとっさの場合、つかのま、と変わらない。造次
顚沛は、『曾我物語』(南北朝頃)で「ききつる法門のごとくさうしてんぱい、一心不乱
に念仏す」。また『東京新繁昌記』(1874)で「口に天祖大神(あまつみおやのおおかみ)
の四字を唱ふれば、千魔万災必ず禳除せん。造次も必ず祖神と唱へ、顚沛も必ず祖神と称し」
などと使われている。(以上『日本国語大辞典』に依る)
 「一瞬」でくくられた語の収まったわが詞嚢は、繙いてみると、案に相違して貧しく、
慌てた次第だ。造次顚沛の他には次に記すのみであった。「瞬一瞬」「機が瞬一瞬と迫っ
て来る」『東京年中行事』(1911)。「瞬息の間」「此頃あくたれた時のお勢の顔を憶ひ
出させ、瞬息の間に其快い夢を破って仕舞ふ」 『浮雲』(1887)。
「倏(しゆつ)忽(こつ)」「然はあれど倏忽にして滅するや、彼も此も迹の尋ぬべきなし」
『即興詩人』(1901)。

 「造次顚沛」の掲出、言い換えると「一瞬」の掲出は、時期尚早に失した。自分でまだ
十分に把握しきれていない、考究中にあるものを出してしまった。少し気取っていたので
ある。それでも、皆さんの考えるきっかけに、ということだから、皆さんにおかれては、
頤(おとがい)を解くことになると思われるが、以下になぜ「一瞬」が大事か綴ってみたい。

 「一瞬」は「生きる」に深くかかわっている。このことが、「生きる」を今「在る」か
ら見つめ直している作業中に浮かび上がってきた。迂遠ながら、当方が大いに inspire さ
れたハイデッガー=古東哲明流の存在論を紹介しよう。
 この存在論は、まず、「存在者」と「存在」を区別する。存在者とは「存在するもの」
のことで、人間を始め森羅万象が含まれる具体的なものを指す。「存在」とは、「在るこ
と」を言う。
 ?「存在者」から見れば「存在」は「存在者」ではない。だから「存在」は存在しない。
 ?「存在者」は存在という底があるが、その「存在」にはもう底がない。 (もしこの
  「存在」に存在というもう更なる底があれば、その存在にまたもう一つの底があるこ
  とになって、というふうにどこまで行ってもきりがない。だから存在に底があるとす
  るのは誤りとなる)。「存在」は無根拠である。
 ?以上より、「存在」は根拠(拠り所)を欠き、存在できない。「存在」は「無」であ
  る。

 「存在」と「無」は同じことの表と裏をなしている。炎(たとえばロウソクの)のたと
えを挙げよう。炎の中には燃え上がる動勢と使い尽され消え去る動勢がある。これらの動
静が一瞬のうちにからみあって燃え上がるという事態が起こっている。ここに「存在」と
「無」が表裏一体をなした。

 この存在論を時間論から見れば、存在=無というのは、直線時間でもなく円環時間でも
なく、垂直時間、「一瞬」というものに目をとめた時間論となる。ロウソクの炎には、一
瞬における生成、消滅がある。
 一瞬は一瞬ごとに始まりがあり終わりがある。始まりがあるのだからその一瞬において
天地が開闢する。人は一瞬ごとに森羅万象に立ち会っている。その生起と消滅とにである。

 この存在論をまた人生論から見れば、こうなる。
存在するものが、存在の根拠がなくて存在しているということは、考えてみると驚き以外
のなにものでもない。存在するものは、なくてあたりまえ、ないことが本来の姿、在るこ
とこそ異様だ、ということである。つまり存在するものが在るということは稀なことで、
神秘ですらある。「在る」こと、このことだけで人は幸せだ。
 私、あなた、そして、森羅万象が、一瞬ごとに出合っているということは、またもう一
つの驚きである。このお互いに稀なものどうしがたまたま巡り合っているということは、
またもう一つの神秘ではなかろうか。
 これらの神秘へ、直線時間で疲れた目をやろう。もう明日のことは思い煩わなくてよい。
昨日のことは忘れろ。あくせくするな。今・ここ、生命の息吹を生きよう。一瞬一瞬湧き
出てくる時間があることへ目をとめれば、人は存在神秘の歓喜に包まれるはずだ。生きて
いる! 生きている! 人はあまりにも目的から目的へ、用から用へまっしぐらに渡り歩
きすぎているのではないか?

 こうしてハイデッガー=古東流の存在論をここに受け売りしたが、当方、理解不足の生
兵法披露の謗りを免れ得まい。古東哲明氏の著書を挙げるので、皆さん自ら繙かれ、あた
られたい。
 『〈在る〉ことの不思議』(勁草書房)。これは本格的な理論書である。
 『ハイデガー=存在神秘の哲学』(講談社現代新書)。右の書に似ている。
 『瞬間を生きる哲学』(筑摩選書)。啓蒙書で易しく感情移入できる感がある。
 『他界からのまなざし─臨生の思想』(講談社選書メチエ)。今・ここを豊かにする生
  き方の実例。

 愚老は、学生の頃、「内からあふれ出てくるものを生命と名付け、その強さを力と称し、
外に対して通ることを自由と言う」、確かこんなふうに定式化して、それ以来その「生命」
「力」「自由」に則って生きてきたが、思うにこれは、ハイデッガー=古東流の「今・こ
こ」「生命の息吹」の「生きる」に重なる生を通してきたことになるのではないか。
明日はどんな楽しいことをしようと思いながら就寝の蒲団を敷いたものである。
 就職と言えば、文学部の学生にとっては当時一流の会社であった博報堂に内定したが、
卒業間近の三月になって先方へ出向いて内定を取り消した。わがままなものだ。向こうも
面食らったろう。大きな会社に入れば大きな責任を持たせられる。すると自分の性格とし
てそれを全うしようと全力を注ぐ。そのあまり、自分の心から望む好きなことはできない
であろうと思った。それが断った理由である。そうして小さな勤め先を選んだ。おかげで
長い間に倒産に次ぐ倒産で、生涯勤め先が変わったのは十指に余る。生涯貧乏である。思
うに我が人生は「働く」ではなく「遊ぶ」であった。
 古東哲明はまた、生の純粋形である、剥き出しの簡素な生命、生の息吹「ゾーエー」と
生の所有形である、社会的な生「ビオス」の両方で、人生を押さえる考えも紹介している。
これは古代ギリシャ以来のものだという。(『瞬間を生きる哲学』)
 我が三十の頃「人の像をした美しい青い地球」を着想した。地球のエネルギーをもらっ
て生きたいという思いから、人と地球を合体させた。
 初めて見た地球の天体写真がとてつもなく美しかった。しかし漆黒の宇宙に青い地球が
浮かんでいるが、見ているうちになぜか羊が一匹跳ねた。青い地球のことをなぜ美しく感
じられたのか長い間分からなかったが、この羊が跳ねたのがなぜなのかも長い間分からな
かった。青い地球の美しさは、死を意味する暗黒の宇宙に対して生命に満ちた青い地球と
いう、この死と生のコントラストに感銘したと分かった。羊についてはやっと当節になっ
て一つの解が生まれたが、思うにこの羊は、生の純粋形「ゾーエー」のシンボルではなか
ったか。
 愚老はこのところ己が生涯をたどる作業にいそしみ、恥を含むエポックメイキングな事
件を拾ってきたが、「人生は社会化」との認識が固まりつつあった。子供の天真爛漫が社
会の壁にぶちあたり、子供は次第に社会化して大人になるが、これは生涯続く。これこれ
人生の一つの押さえが可能だ! などと自分の中では発見であった。古東流に引き直すと
この押さえは「ゾーエー」と「ビオス」にあたり、愚老の生は「ゾーエー」マインドの生
だったのではないか。

 皆さん、皆さんの場合は、どうであろうか。この拙稿が、皆さんそれぞれの生を考える
一つのきっかけになれば幸いである。愚老の「生きる」を、六十歳近くになってまとめた
ものがあるので、以下恥を忍んでこれを掲げ、これまた皆さんの参考に供しよう。(なお
この「生きる」はいま「在る」の知見が加わり、組み立て直しが将来あるかもしれない。)


こうしてこの生を生きた

 1.(肉体面)=(生物としての)生命を保つ。
    ・バランスよく食べる。
    ・危ない所には近寄らない。
    ・ちりも積もれば山となる。
 2.(精神面)
          ………原理的には………
    ・よりよく生きること。
    ・充実して生きること。
    前提=生にはしたい事がある。
     「生命」とはしたい事が心に溢れること。(=好きな事)
     「力」とは、したい事へ向かって駆動させる力のこと。
     「自由」とはしたい事ができること。(天真爛漫、自然児)
     「生命」「力」「自由」が十全に働く事を「充実して生きる」という。
   とりもなおさず、いきいき生きること。
   自由であるために、
     憂い・悩み・心配・煩いごとなどを持たぬこと。
     人に束縛されないこと。
   ・(心の状態)快適であること。
         ………具体的には………、
   ・したいことをする(原則)。
   ・好きなことをする(志)。
     創る。
     文学する。
     生を知る、探る、味わう。
     本を読む。
     快楽を味わう。
     五感で味わう。
     なにをする。
      ものを全ていただく。
     生を味わう。
     五感をフルに活用する。
   ・人に束縛されない。
 4.(時間) 長寿を図る。
 5.(範囲) 生命を宇宙の中でとらえる。

神野 佐嘉江


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