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信濃藩家中見聞 其の壱

20太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:15:55
http://6027.teacup.com/situation/bbs/61204
其の十九

城代「どうじゃ、不満分子どもの処分は、順調に進んでおるか?」

勃樹「はい、方面ごとに、その責任者に申し付けやらせております」

城代「して首尾はどうじゃ? 皆、厳しくやっておるか?」

勃樹「ここぞとばかりゴマを擦ろうと、熱心にやる者もあれば、このようなことが本当に殿のご指示かと疑いながらシブシブやっておる者もあるやに聞いております。中には、反論されたり、例の“律令方報告”を見せつけられて、逆に動揺している者もあるようです」

城代「ええい、もっと締め付けを強化せい! して城中のほうは?」

勃樹「はい、首切り上手で藩士管理奉行にまで出世した石島偽賂賃(いしじま・ぎろちん)どのが目を光らせておりますのでご安心を。中でも、梶岡新六郎(かじおか・しんろくろう)を切ったことがことのほか効いたようで、今は、ピタリと静かになっております」

城代「さようか。あの時は、梶岡の出た八王子学問所の関係者や、八百の守率いる学友会が騒ぐかと危惧したが、思いの外おとなしいものよのう。今後は、更に強気で行こうぞ」

勃樹「はは。まっ、そのうち、学友会もつぶして、いずれ全て我が赤門で固めて見せます」

城代「新藩律の方はどうじゃ? “藩創立の日”も近づいておる。今年は、必ず実行せねばならん」

勃樹「万事予定通りに。我が赤門の先輩、宮田新学堂(みやた・しんがくどう)が、いつもの通りヘラヘラしながらも、独自性を発揮した斬新な新藩律を作成いたしております。内藤新宿黄金町の菅野有中呑兵衛(かんの・あるちゅうのんべえ)の助けを借りながら・・・」

城代「それは安心した。ところで話は変わるが、そちの三七四九告訴はどうなっておるのじゃ」

勃樹「それが、どうも町奉行所の動きが悪くて、、、、、」

城代「実のところはどうなのじゃ? オヌシやったのじゃろ?」

勃樹「な、なにを突然・・・・」

城代「ええい、ここだけの話じゃ! ありていに申せ。恥ずかしがることはない。誰にもいわぬわ」

勃樹「な、なにを申される。ご、ご城代こそ、本当は何号さんまで、、、、、、」

城代「・・・・・」

勃樹「・・・・・」

城代「ご苦労であった」

勃樹「御免」

(つづく)

21太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:18:11
http://6027.teacup.com/situation/bbs/61256
其の二十

頼綱「助兵衛! 助兵衛はおるか! 『あっちも』と言えば?」

助兵衛「・・・・」

頼綱「ん? 『あっちも』といえば!!」

助兵衛「そっちも」

頼綱「な、なんじゃと? それはワシへのあてつけか? しかと応えよ!」

助兵衛「・・・こ、こっちも・・・」

頼綱「よし、出よ! よいか、即刻、この密書を竹林屋(ちくりんや)の誠治(せいじ)に届けるのじゃ!」

助兵衛「はっ、では直ちに、、、、(キャイーン)」


法務庵奥の院

助兵衛「(頼綱さま! 竹林屋誠治さまが、お見えでございます)」

頼綱「うむ、奥へ通せ!」

誠治「御免。かような夜中にお呼び出しとは、例の件でござるか?」

頼綱「そうじゃ。どうも上手く進まんので困っておる」

誠治「なんと、折角、牛角散歩なる者まで誑し込み、やっと京都本漫寺と話を付けたのに、そんなことでは、今までの苦労が水の泡に」

頼綱「わかっておる。だが、古株の役臣連中の抵抗も強くてな」

誠治「何を仰せられまする。既に新城の“祈願の間”に安置すべく、大金をかけて黒鉄造りで仕立ててございます。それを今更・・・」

頼綱「うむう、、、」

誠治「しかも本来なら、来る藩律改正に間に合わせ、今年、新城に安置し、明年には小版を作って、取り換え作業で一儲けするとのご計画ではありませなんだか」

頼綱「そうじゃのう、、、、何か良い手は無いか?」

誠治「わかり申した。役臣たちへの袖の下をご用意いたしましょう。計画通りに進みさえすれば、元は充分取れますゆえ」

頼綱「なるほど、それは良い」

誠治「もちろん頼綱さまにも更なる御礼をはずみまするが、、、ま、ひとまず、こちらをお納め下され」

頼綱「ん、いつもの山吹色か?  竹林屋、お主も悪(ワル)よのう」

誠治「いえ、いえ、大目付さまほどでは・・・」

二人「はっ、はっ、はっ」

頼綱「役臣たちへも袖の下とは、さすがは“さんたくろーす”、もとい、“参牢多数(さんろうたすう)”じゃ。悪知恵がはたらくのう」

誠治「しっ、それは、拙者の忍び名、声が大きゅうございます」

頼綱「なに、心配無用じゃ、聞いておるのは床下におる助兵衛だけじゃ。のう、助兵衛!」

助兵衛「ワォーン」

誠治「おや、頼綱さまは犬をお飼いで?」

頼綱「いや、ただのケダモノじゃよ」

助兵衛「・・・・」


(つづく)

22太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:20:27
http://6027.teacup.com/situation/bbs/61296
其の二十一

頼綱「新藩律、ついにやりましたな」

城代「うむ。して藩民の反応の方はどうじゃ?」

頼綱「一部の跳ねっ返り以外は、静かなものでございます。正教瓦版の四面にコッソリ発表したのが功を奏したものと」

城代「藩民など何も考えてはおらぬわ。しかも皆、殿がご健在であると信じ込んでおるから尚更じゃ」

頼綱「確かに。しかも煙に巻いたような内容でござるから、誰もよく分からんというのが実態であろうかと」

城代「それでよいのじゃ。ワシでさえよく分からんのじゃからな。はっはっは。兎も角も、独自性さえ明確になれば、後は何にも縛られる事なく、自由勝手に決める事が出来る。これが独自性を強調した目的じゃ」

頼綱「なるほど。これで大石藩がなんと言おうと 関係ないばかりか、これまでの藩律や方針も、全て大石藩に気兼ねしたものだった事にして、一遍に葬り去ることができますな」

城代「そうよ、そうなれば、過去との整合性など気にする必要もない。先代や当代の方針さえ過去のものとして退けることが可能になったという話よ」

頼綱「しかも、その殿も、今や風前の灯火。後はご城代の思いのままですな」

城代「まあな。その為にこそ今、殿の存命の内に、殿のご意向とう名目で都合の良い藩律を作っておくことが重要なのじゃ」

頼綱「なるほど、感服仕りました。ただ、、、、」

城代「いかがした?」

頼綱「一つだけ気になる事が、、、」

城代「なんじゃ?」

頼綱「お側用人の次長で、新五猫将軍の一人・中野擁丹(なかの・ようたん)が、『こたびの発表内容は、殿への事前報告文書と違う』などと不平を漏らしておるとか」

城代「気にするな。どうせ殿は、報告文書など読める状態ではない。あんなもの形式に過ぎんわ。発表した者勝ちよ」

頼綱「恐れ入りましてございます」 (城代も大分肝が座ってきたわい。腹の底に隠していた殿に対する生理的嫌悪感が露骨に表に出てきたようだ)

城代「どうした?」

頼綱「あ、いや、なんでもござらん」

城代「それよりも、不満分子の取り締まりを更に強化徹底するのじゃ。北朝の国や旧露の国の如く密告を奨励して、一人残らず殲滅するのじゃ」

頼綱「はっ、承知仕りました。聞いたか? 助兵衛!」

「ワォ〜ン」

(つづく)

23太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:22:21
http://6027.teacup.com/situation/bbs/61336
其の二十二

家臣A「おい、例の新藩律見たか?」

家臣B「見た見た。やばくねー?」

家臣A「オヌシもそう思うか。あれじゃ、これまでの殿のご発言やお考えがウソだったってことになるぜ」

家臣B「そんなはずはあるまい。なにかがおかしいのう」

家臣A「だいたい、あの“認定”ってのが、よくわからねえ。今までそんなことあったか?」

家臣B「そうそう、新藩律じゃ“ご戒壇さま”を認定外と宣言されたのに、朝晩のお勤め教本は、そのまんま。いったいどっちを信じりゃええんじゃ?」

家臣C「それについちゃ、さっそく“宿坊”に出てるぜ」

家臣D「“藩律珍問答”だろ、読んだぜ。一々うなずいちまったよ」

家臣C「こいつは内緒だが、お側用人のお一人が『あの新藩律は、ご城代を中心とする老中たちが決めた事で、殿のご意思とは全く関係ござらん』と仰せになったと聞いたぞ」

家臣B「おおやまー、そんなことを。ありそうな話じゃのう、、、、」

家臣C「しかもなんだ、あの人事は? いつの間にか、遠藤どのの首を森中小判鮫に変えているではないか」

家臣D「遠藤法華の守は、律令方ばかりでなく、こ師範会議からも外されたそうじゃ」

家臣C「年明けには、城中からも追い出されるとのもっぱらの噂だ」

家臣A「まことか? てことは、やっぱりあの“律令方報告”は怪文書ではなかった、書かれていたことは事実だったってことじゃねえか」

家臣E「おぬしら、滅多なことを言うもんじゃねえ。ともかくご城代の方針に少しでもイチャモンを付けようもんなら、即刻首が飛ぶとの噂じゃ」

家臣B「なんか嫌な空気になってきたのう」

家臣C「我らも気をつけようぞ。最近では、あちこちに大目付さま配下の目が光っているとのことだ」

家臣B「あっちもこっちもか?」

家臣A「そういやーこの所、城中にやたら野良犬が増えたようだが、気のせいかのう」

(ワン、ワン、ワォーン)

家臣C「ほれ、また。もう、あっちもこっちもじゃ!」

家臣D「くわばら、クワバラ・・・」


不穏な空気が漂う中、嵐の予感と共に、新藩律制定の年は暮れていったのである。

(弐の巻 おわり)

24太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:28:55
http://6027.teacup.com/situation/bbs/62636
「信濃藩家中見聞」参の巻 (平成二十七乙未の年)

其の二十三

勃樹「ご城代、ご城代、ご城代はおられぬか!」

城代「何を慌てふためいておる。そちもここへ座れ!」

勃樹「おやっ、皆様、お揃いでしたか」

頼綱「遠藤文書の件か?」

勃樹「なんと、すでにご存知で?」

頼綱「先刻、隠密の助兵衛から報告があった。ついに“宿坊の瓦版”に出てしまったらしいのう」

勃樹「はい。して、今出回ったものは、昨年、遠藤がご城代や坂田の守さまへ突きつけたものに相違ございませぬか?」

城代「間違いない。そのものの写しじゃ」

勃樹「なんと。いったいどこから・・・」

城代「わからぬ。よって取り急ぎ、これにて火消しの対策を談義しているところじゃ」

勃樹「それで坂田の守さままで、、、」

重蔵「いえす、あいどぅ〜」

勃樹「して、ご対策は?」

頼綱「とりあえずは、“律令方報告”と同じく怪文書とするほかはあるまい」

勃樹「しかし、すでに書いた両人共、更迭処分にしておりますゆえ、出所不明の怪文書との言い訳は通用せぬものと、、、」

頼綱「そこでじゃ、両人が書いたものであることは認めて、その内容がデタラメな虚偽であると強調するのじゃ」

勃樹「ですが、現状は奴等が書いた通りに進んでおりますゆえ、、、」

頼綱「真にマズイのは、殿のお言葉だけであろう。そこだけを覆せば良い。全て殿のご意向であると申し切るのだ。『そうでなければ、お元気な殿が黙っているはずはない』とな」

勃樹「なるほど、実には既に、自分の意思を通し得ぬお身体。言わば死人に口なしと」

城代「めったなこと申すな。未だ存命であるからこそ、利用価値があるのじゃ。今のうちに『全て殿の方針である』と徹底するのじゃ。いいな!」

頼綱「各々方、では、その方向で」

全員「御意!」


第六天魔王(クックック、最近、我が十軍がよく働きおるわ。クックック・・・)


(つづく)

25太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:30:32
http://6027.teacup.com/situation/bbs/62668
其の二十四

誠治「大目付さま、話が違うではござらんか! 新藩律が発表されたというのに、、、」

頼綱「まあ、そう声を荒げるな。ご城代や前大老が、そこまでは慌てるなと申されておるのじゃ」

誠治「これまでいくら使ったと思ってござる。本城祈願の間のご本尊を独自のものに変えたいと仰せられたからこそ動いて来たのでござる」

頼綱「わかっておる。だが今回は、藩律の改定で精一杯じゃ。これで先ずは暫く様子を見ようというのが、城代方の方針なのじゃ」

誠治「・・・・」

頼綱「だいたい、オヌシやホーテンの事を前大老がよく思っておらんらしい」

誠治「何を申されますか! 今や蜜月となった幕府とも、最初に気脈を通じさせたのは、拙者たちではござらんか!」

頼綱「だが、『天鼓』の事もあるしのう、、、」

誠治「なにを今更! あれは、頼綱さまもご承知の上、勃樹どの傀儡政権を作るため、我ら三位一体で仕掛けたものでござろう!」

頼綱「まあまあ、そこまで申すな。以前、その方等の作った荒唐無稽、いや高等無比な書き物『最蓮房は日興上人だった』等を高額で買い上げるよう進言したのもワシじゃ。その上、そちの倅を若衆頭にまで取り立てたのじゃ、そのことも思慮に入れて、今しばらく待ってくれんか」

誠治「それは、お互い様でございましょう。いいですか頼綱さま、藩民から集めた年貢を藩命と称して我らが裏工作のために回していただき、その裏工作で得た金をまた頼綱さまや勃樹どのに戻す、これが、我ら三位一体の目指す“循環社会”戦略でござろう」

頼綱「・・・・」

誠治「拙者や芳典とて、カラクリ地獄耳の広野登諜(ひろの・とうちょう)をはじめとする、多くの忍び衆を食わせねばなりませんのじゃ。しかも、頼みの芳典が香港の鼠楽園のグッズ販売に手を出して失敗し、何万両という借財を負った上に、交通事故に遭い、文字通り首が回らなくなったのもご存じであろう」

頼綱「わかった、わかった。明年あたりにはなんとかする。それまでちと待て!」

誠治「何卒、くれぐれもよろしくお願いいたしまするぞ。でわ」

頼綱(せっかくうまく運んでおるのに、ああ急かされては元も子もない。あ奴等ともいずれ手を切らんとならんのう、、、)

(つづく)

26太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:32:23
http://6027.teacup.com/situation/bbs/62723
其の二十五

残暑の某日、虎ノ門・大倉亭別館にて

栄助「いったいなんじゃ、あの出来の悪い新藩律は。のう、森田屋康兵衛(もりたや・やすべえ)」

康兵衛「しかり。城代も、勃樹のような小賢しい青二才を使うからいかんのです」

栄助「まったくじゃ。丸衆峠や丸参ケ原の戦でも役に立たんかったしのう。頼綱も、勃樹を取り立て過ぎると命取りになりかねんぞ。せっかく明電の絢ちゃんの曲がったヘソをとりなしたというのに、、、、」

康兵衛「しかもあろうことか、勃樹の命で新藩律作成に携わったという学問所の二人は、こたび城中律令方指南役に取り立てられるとのこと」

栄助「宮田新学堂と菅野有中呑兵衛の二人のことか」

康兵衛「さようでござる。先日、その一人を自宅まで探ってまいりましたが、日々のお勤めなどしている様子はなく、殿や先君まで小ばかにした口ぶりでござった」

栄助「目に浮かぶわい。日が暮れればすぐに盃に手が伸びる男に、お勤めなど出来ようはずはないわい」

康兵衛「もう一方の新学堂も、先君が終生依り所とされた日寛師を否定しようと教学論文などと称して発表したものの、これがもう誤認だらけで、一般藩民からまでその間違いを指摘されて大恥をかいたばかりでござる。自称“学者”が、実は寛師もまともに読んでいなかったという始末で、、、」

栄助「殿はともかく、我らが薫陶を受けた先君のお考えまでデタラメにされては、旧臣たちは納得できぬであろうにのう」

康兵衛「その通りでござる。それが今や“指南役”というのですから一体どうなることやら」

栄助「学者風情に何ができる。よいか、こたびのことは我ら旧臣の一切あずかり知らぬ事である。よって、万が一問題や騒ぎになった時は、全て皆行の守に押し付け、いざとなれば詰め腹を切らせるようしむけるのじゃ」

康兵衛「そうですな。それがようございます」

栄助「殿の余命もそう長くはなかろう。城代だとて病持ちの上、先の読めん男だ。何かあればまた拙者のところに泣きついて来るのがオチ。最後に笑うのは拙者よ」

康兵衛「嫌師の守さまは、尋常ならざる粘り腰でございますからなあ」

栄助「そうさな。先君は信長、当代は秀吉、ワシが家康じゃ。はっ、はっ、はっ」

康兵衛「織田がつき羽柴がこねし天下餅 、座りしままに食うわ徳川、ということですな」

二人「ワハハ、ワハハ」

(つづく)

27太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:34:18
http://6027.teacup.com/situation/bbs/62859
其の二十六

法務庵にて

頼綱「隠密の助兵衛からの報告によればじゃ、前大老の嫌師の守さまが旧臣たちを集めて、どうもオヌシの事を非難しているようじゃが」

勃樹「なんと、あの狸ジジイめ。幕府中枢とのつながりが強いことをかさに着て、今だに威張りくさって。さっさと往生しろ!」

頼綱「おいおい、ワシの法務庵で、さようなことを口走るな。ワシまで敵視されてしまうではないか」

勃樹「しかし、、、どうにかなりませぬか、あの狸、、、」

頼綱「そう焦るな、いくら幕府とのつながりが強いとはいえ、それは大老時代のこと。今や美濃金津園守佐藤泡浩がしっかりと食い込んでおるから前大老に頼る必要もない。それどころか安倍幕府との関係は、今の方がより強固になっておる。であるから、前大老をつまはじきにするのは、左程難しいことではない」

勃樹「でしたら早々にも、、、」

頼綱「おぬしも若いのう。知っての通り、前大老は相当の狸じゃ、矢野明電とのこともある、今は生かさず殺さずが得策というもの」

勃樹「なるほど、、、、つまり狐と狸の化かし合いですな」

頼綱「まあな。それよりだ、その佐藤が重要なことを申してきておる。藩の安泰を望むなら、幕府との関係を更に強く密にすべきじゃと。そのためには多少の悪政にも目をつぶれ、否、できれば積極的に加担してより蜜月になれと。機会を見て、安倍将軍とご城代とを会わせたいとも」

勃樹「よいではありませぬか、どんどんやりましょう。今更きれいごとなど必要ありゃしませぬ」

頼綱「うむ。そこでじゃ、今後は、殿の方針とは大きく外れるが、積極的に幕府の意向に沿う藩政を敷いていくゆえ、そのことが藩民にばれて騒動にならぬよう、うまく立ち回ってもらいたい」

勃樹「簡単でござる。もし批判の声が出れば、『それは、殿の古いお教え、今は変わられたのだ』と言い切ってやりましょう。また、それでも四の五の言う輩には、『殿のご意向に反する者、手打ちにしてくれる!』と徹底的に脅してやりましょうぞ」

頼綱「よし、それでよい。早速、永田町下屋敷の金津園泡浩に伝えよう。オヌシは、今のことをまず城中の役臣たちに徹底せよ。藩を守るための重要な施策であると」

勃樹「承知仕った!」

頼綱「助兵衛!聞いたな、すぐ永田町へ飛べ!」

キャイーン

(つづく)

28太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:36:30
http://6027.teacup.com/situation/bbs/62924
其の二十七

城代「最近、“元藩士三人の暴露句(ぶろぐ)”なるものが出回り始めたと、頼綱より報告があったが誠か?」

勃樹「はい、どうも藩外追放された三人の元若侍が立ち上げた新手の瓦版のようで、小平、滝川、野口なるものが実名で書いているとのこと」

城代「小平、滝川、野、、、、、思い出したぞ。相模へ転属させた厄介者中村悪心溢狼(なかむら・あくしんいつろう)が、相模でも下手を打った為に、大騒ぎになったあの時の」

勃樹「さようでござる。例の巨額横領事件、パワハラ事件等々で失脚した化猫丹治(かねこ・たんじ)の一の子分、中村の引き起こした事件でございます」

城代「あの時は、あ奴中村の口車に乗せられて藩民の女性らを極刑に処したが、なに後で聞けば、発端は正教瓦版を一部減らしただけのこと。もし、そんなことが殿の耳にでも入ればこちらの身が危うくなるところだった。それで事件を隠蔽したのじゃが、、、」

勃樹「はい、ところが、三人の若手藩士が『不当な処分である』と訴え出おったために騒ぎが拡大して、、、」

城代「そうじゃ、ワシを始めとする藩重役たちにまでしつこく直訴をして来おった」

勃樹「あのまま放っておけば、いずれ殿の耳に入ってしまうと懸念して、そ奴ら三人も藩外追放にして口封じをしたのですが、それがまた今頃になって、、、」

城代「いったい、その“暴露句”とやらで何を言っておるのだ?」

勃樹「はい、あの事件の真相を詳細に暴露しているばかりか、最近の幕府追随のわが藩政を『殿の思想・藩政と違う』などと批判してございます」

城代「むう、、、、、」

勃樹「そればかりか、尾張の天野声達(てんのこえだっ!)とか申す一藩民が、藩民を扇動して、『最近の藩政は間違っている。幕府の悪政に従うな!』などと言って署名まで集めているとのこと」

城代「なにをー!」

勃樹「さ、さらには、、、」

城代「まだあるのか?!」

勃樹「はい、八王子学問所の“有志”なる連中が、同じく『安倍幕府の黒船国との武力協力に同調加担するのは、殿の平和思想に反するものだ』として藩政を強く批判しております」

城代「くそー、あっちもこっちも、、、、」

勃樹「まったく、あっちもこっちもです」

助兵衛「お呼びですか?」

城代「わっ! 脅かすな! 突然なんじゃ?」

助兵衛「てっきりお呼びかと、、、」

城代「おぬしなど呼んでおらん! いったいそこで何をしておる!?」

助兵衛「あ、いや、頼綱さまのご命令で、、、あ、いや、、、」

城代「なにー? 頼綱め、わしのことまで盗み聞きさせておるのか」

(キャイーン、キャイーン、キャイーン、、、、、)

城代「ともかくだ、歯向かう者は片っ端から処分、処分じゃー!」

勃樹「ははあー」

(つづく)

29太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:38:11
http://6027.teacup.com/situation/bbs/62992
其の二十八

家臣A「おい、聞いたか?」

家臣B「なにをじゃ?」

家臣A「いよいよ、新しい教本が出るらしいぞ」

家臣B「らしいのう。藩律改正して間もなく一年じゃ。今頃になってどうするつもりかのう。どうもやってることがチグハグじゃわい。さっさと作って配ればいいものを」

家臣A「配る? とんでもねえ、新教本は有料だとの話ぞ」

家臣B「まことか? おのれ等で勝手に変えておいて、売りつけるのかえ?」

家臣A「いい商売よのう。しかもじゃ、今年もまた藩律の改正があるらしい」

家臣B「なに? まだやるのかえ? 殿の不在をいいことに、やりたい放題じゃのう」

家臣A「そればかりではない、同時に次席家老の正木八百の守を追い落とす準備が進められているとの噂じゃ」

家臣B「なんと。それでか、先日の学問所の同窓社中“学友会”に八百の守が初めて欠席されたのは」

家臣A「左様。しかも学問所副学頭で“学友会”社中長の寺西殿が、昨今の幕府追随の藩政を批判して、ご城代の逆鱗に触れたらしい」

家臣B「ほほう」

家臣A「その日、八百の守の代理で出席した長谷川坂田の守がご城代にチクッたとのこと」

家臣B「あの提燈持ちのアホの坂田がか」

家臣A「どうも八百の守の後釜を狙っているらしいぞ」

家臣B「で、寺西殿はいかがあいなった?」

家臣A「当然の如く、藩の学術長官の職を奪われたそうじゃ。“学友会”社中長、さらに学問所副学頭の解任も時間の問題だろう」

家臣B「恐ろしいのう」

家臣A「殿が期待した人材の方々がどんどん切られてゆく・・・」

家臣B「城下でも取り締まりが厳しくなって、皆、暗い顔をしとるわ」

家臣A「殿がお元気な頃が、懐かしいのう」

(つづく)

30太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:45:44
http://6027.teacup.com/situation/bbs/63052
其の二十九

家臣A「ついに藩律の再改定が発表になったのう」

家臣B「ああ、驚いたことに、明年に任期切れが迫っていたご城代が、任期5年を4年に改定した上で3期目に。あと最低4年は藩政を担当することになった」

家臣C「対して、予想通り、八百の守がはずされて、坂田の守が次席家老に就きよったな」

家臣A「“若返り”でなくて“高齢化”だわな。それにしても露骨よのう」

家臣B「そればかりではない。こたびは、“主任老中”が新設された。城代や次席家老にもしものことがあったら職務の代行を行う重要な立場だ。その中に、あのゴマすりが抜擢されておる。元々、八百の守のお取り立てで偉くなったくせに、その八百の守を裏切って皆行の守に取り入ったとの話じゃ」

家臣C「金沢寝返太郎(かなざわ・ねがえるだろう)のことじゃな。金沢といえば、ある藩民から殿への喜捨献金を、浅見金作匠の守(あさみ・きんさくたくみのかみ)や、岡松殿様金窃(おかまつ・とのさまきんくすね)らと横領山分けしたと、例の『天鼓』で暴かれたあの金沢だろうが、、、」

家臣B「そうよ。浅見匠の守たあ、懐かしい名前じゃのう。唾を飛ばしてたら、自分が北に飛ばされ、今は墓守長をやっているとか、、、クスッ。」

家臣A「そうそう、金沢め、初めはその金作匠の守、次は八百の守、で今度は勃樹に寝返りやがった。しかし、主任老中が八人にもなると、いったい誰が次期城代の本命かわからんのう」

家臣C「そこだ! なるほど、、、読めたぞ」

家臣A「なにが?」

家臣C「いいか、普通は次席家老が次期城代の筆頭だが、今回その有力候補だった八百の守を外して、その席に次期城代にはなりえない年寄りの坂田の守を据えた」

家臣B「ふむふむ」

家臣C「そして、作ったのが“主任老中”だ」

家臣A「それで?」

家臣C「つまりだ、ご城代は、自分の下に次期城代候補を横並びにさせたのさ」

家臣A「だから?」

家臣C「まだわからんか。“主任老中”の顔ぶれを見てみろ。お世継ぎの博若様をはじめ、だれが次期城代になってもおかしくない顔ぶれだ。これまでは、八百の守か勃樹かなどと噂されてきたが、八百の守が失脚したことで、誰もが次期城代は皆行の守で決まりかと思っていたところに、一旦全て振り出し戻すため横並びにしたのが、この“主任老中”職の新設さ」

家臣A「なるほど。次期城代が明確になると、人心がどうしてもそちらへ移り、当代への求心力が落ちるからな。それで代替わり時期の先送りと横並び一線人事で、一度、家中の次期城代争いの火消しをして、ご自身の立場を安泰たらしめたわけだ」

家臣B「そうよ。ヘタをすると、黒船国の怒鳴花札(どなる・とらんぷ)と仮営舎小浜(ばらっく・おばま)の関係みたいになるからな、、、」

家臣A「納得だわ」

家臣C「しかし、城代の腹の中はそれだけではないようだ。今から話すことは、絶対に他言無用だぞ」

家臣A、B「 しかと、心得た」

家臣C「実は、藩律の再改定後、ある古参のお奉行が退任の挨拶に、ご城代と新次席家老・坂田の守殿のところへ別々に伺った折のこと。お奉行が何も聞かぬうちに、城代のほうから、こたびの人事の説明があったそうな。曰く、『八百の守もダメだが、皆行の守もダメだ。醜聞が多いし、人気がない。かといって北条婿の守らを城代や次席家老に抜擢すると、バランスが崩れる。皆行の守が黙っていないからな。だから、自分がしばらく城代職を務め、次席家老職も坂田の守にやってもらうしかなかったんだ』と。坂田の守も、全く同じ説明をなさったとか」

家臣A「ということは、ご城代の腹の中では、もはや勃樹への譲位は無理だと。意中の人物は別にありそうだな」

家臣B「北条婿の守とは、萩本瓢箪唐駒之輔(はぎもと・ひょうたんからこまのすけ)か。今や皆行の守を抜いて、次期城代候補の筆頭ともいうぞ」

家臣C「そうそう、城代の底意が漏れ広まっておるのであろう」

家臣A「となると、寝返太郎金沢あたりは、すでに瓢箪唐駒之輔にすり寄っておるかもな、、、」

31太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:46:50

――その頃、城中奥座敷では――


頼綱「このたびも、うまく運びましたな」

城代「これで、八割方仕上がった」

頼綱「しかし、城代職の任期を短縮したあの改定には、さすがの拙者も感心仕りました」

城代「なに、城代など長くやらぬ方が良いのじゃ」

頼綱「またまたお戯れを。短くすると見せかけて、ご自身の任期を延長させたあの裏技は、お見事でござる」

城代「あれ、わかっちゃった? 考えてもみよ、やれ、次期城代は八百の守だ、皆行の守だと騒いでいたのは、殿が、自分と親子の年の差の世代に譲ると仰せだったからにほかならない。殿が倒れた今、それにこだわる理由がのうなった。皆行の守や北条婿の守ら還暦前後の世代には、まだ譲らん。七十五歳前後の頼綱殿、坂田の守殿、そして拙者の三人で、まだまだこれから5年、10年は引っ張ってゆけるだろう」

頼綱「仰るとおり」

城代「その間に、間違いなく、殿は目をつぶる。そうなれば、時の城代は即ち殿となろうぞ。そうなれば、世はわれらが思うままということじゃ。藩律や任期なんぞ、ただの形式に過ぎんからな。それまで、わずかの辛抱じゃ、、、」

頼綱「御意」

二人「はっはっはっ」

(つづく)

32太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:51:37
http://6027.teacup.com/situation/bbs/63094
其の三十

頼綱「ご城代、大変でしたな」

城代「いやーまいったわ。古参の奥方衆がピーチクパーチクと五月蠅(うるそう)てかなわん」

頼綱「聞けば、坂口一文字来代(さか・くちいちもんじ・くるよ)を筆頭に、お局衆の八矢弓引子(はちや・ゆみひくこ)や、秋山蝶首帯妹子(あきやま・ちょうねくたいいもこ)までが揃ってご城代に詰め寄ったとか」

城代「そうよ、あの忌々しい婆どもめ」

頼綱「して、なにを騒ぎおるので?」

城代「先般の幕府の黒船国共闘戦略に我が藩が賛同追従したことや、八百の守の更迭の件やら、『わらわたちは、なにも聞かされておりませぬ! 奥方衆をつんぼさじきになさるのか? かような重大事をわらわたち奥方衆になんのご相談もなく進めなさるなど、これまでには無きこと! ご説明くださらぬかえ』などと申して・・・」

頼綱「なるほど、で、なんとお答えを?」

城代「決まっとるわ!『おなごが政事(まつりごと)に口をはさむな! 全て殿のご意向じゃ。文句あるか!』と、頭からかましてやったわい」

頼綱「ほほう、やりますな。で、奥方衆は素直に?」

城代「いや、『これまで殿は奥方衆を尊重されて・・・』などとグズグズ申しておったが、無視してやったわい」

頼綱「そりゃなんとも頼もしいことで。ですが、あの婆どもおとなしくなりますかのう」

城代「大丈夫じゃ、『本来なら、殿の意向に逆らう者として極刑申し付けるところだが、こたびだけは大目にみる。しばし蟄居謹慎にて勘弁する』と強く申し伝えた。これで静かになるじゃろう」

頼綱「お見事でござった。小うるさい舅女どもさえ黙らせれば、あとはお花畑の若奥方衆、高柳頬紅濃女(たかやなぎ・おてもやん)や、笠貫男転上手子(かさぬき・おとこころがしうまこ)しかおりませぬ」

城代「左様。かえって良い機会であったわい。あとはその空っぽ頭の若奥方衆をおだてておけば、万事安泰じゃ。まっ、そのうち異国旅にでも連れて行けば上機嫌でおるわい」

頼綱「しかり」

城代「それよりも頼綱、懸案になっておる“海外藩民”への対応はどうなっておる」

頼綱「ご心配なく。既に各国の代表の者に誓約書を書かせ、一切こちらには逆らえぬようさせ申した」

城代「ほう、いかなる仕組じゃ?」

頼綱「はい、これまでの各国への寄付金に条件を付けまして、逆らった場合には全額返納させるという誓約に判を押させましてござる」

城代「なるほど、それなら逆らえまい。これで完全に体制は整ったな。あとは静かに殿を棚上げして、藩律を絶対化すれば完成じゃ。明年はいよいよ仕上げの年じゃ」

頼綱「例の“信濃藩仏”作戦ですな」

城代「しっ! それはまだ口にするでない。おぬしと拙者のみ知る最終兵器じゃ」

頼綱「御意」

(参の巻 平成二十七乙未の年 おわり)


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