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元文学青年の俺が世の中の俗物を徹底的に馬鹿にするスレ

4元文学青年の俺:2025/09/05(金) 13:39:16
『花ざかりの森』

序の巻

この土地へきてからというもの、わたしの気持には隠遁ともなづけたいような、そんな、
ふしぎに老いづいた心がほのみえてきた。もともとこの土地はわたし自身とも、またわたしの
血すじのうえにも、なんのゆかりもない土地にすぎないのに、いつかはわたし自身、そうして
わたし以後の血すじに、なにか深い連関をもたぬものでもあるまい。そうした気持をいだいた
まま、家の裏手の、せまい苔むした石段をあがり、物見のほかにはこれといって使い途(みち)
のない五坪ほどの草がいちめんに生いしげっている高台に立つと、わたしはいつも静かな
うつけた心地といっしょに、来し方へのもえるような郷愁をおぼえた。この真下の町をふところに
抱いている山脈にむかって、おしせまっている湾(いりうみ)が、ここからは一目にみえた。
朝と夕刻に、町のはずれにあたっている船着場から、ある大都会と連絡する汽船がでてゆくのだが、
その汽笛の音は、ここからも苛(いら)だたしいくらいはっきりきこえた。夜など、灯(ひ)を
いっぱいつけた指貫(ゆびぬき)ほどな船が、けんめいに沖をめざしていた。それだのにそんな
線香ほどに小さな灯のずれようは、みていて遅さにもどかしくならずにはいられなかった。




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