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「うのはな」さん 専用掲示板

661シャンソン:2016/06/05(日) 21:36:07
     今日も地球を削って生きる私たち

 僕にとっての、ネイチャー・フォトの最高の一点は、この絵葉書の本のなかにある数多くの写真のなかの、
任意の一点のどれでもいい。絶滅の危機に瀕している生き物たちの写真を絵葉書にして一冊にまとめたこの本は、
僕にとってたいへんに大事な本だ。シアトルの書店で見つけたとき、この本に対して瞬間的に強く反応する自分を、僕は感じた。

 どの生き物もじつに素晴らしい。造形と色づかいは、本当に芸術的だ。しかしそれは人間の芸術ではなく、人間などはじめから最後まで、
まったく何の関係もない場のなかにおける、芸術的としかいいようがない出来ばえだ。どの生き物も、嘘のようだ。よく出来たフィクションのようだ。
幻想的な映画の小道具のようだ。どの生き物も、それぞれに完璧にちがっている。

 個性的という言葉を使うのなら、これほどにそれぞれ個性的な生き物を、僕はほかに知らない。
たいへんな才能に恵まれた人たちが、ものすごい天啓を得て作り出した、この世に一点しかないフィクション作品のように、どの生き物もその生き方になりきっていて、それ以外ではあり得ない。
 こういう素晴らしい生き物が、どれもみな絶滅の危機に瀕している。人間のせいだ。それ以外にない。

 野生の生き物は生命力が逞しい、と先進文明国の多くの人々は思っている。これは完全にまちがいだ。
勝手な思いこみだ。野生の生き物たちの、それぞれに固有の生きかたは、学んでいくと宗教的な感動を受けるほどにどれもみなよく出来ている。しかし、同時に、どの生き物の生きかたも、きわめて繊細だ。
生態系という微妙な世界のなかで、あやういバランスの上に生きている。そしてどの生き物も、生きかたはそれぞれに異なっている。

 ところが人間は、特に先進文明国の人間たちは、いまさら僕が言うまでもなく、じつに不気味な巨大な一枚岩だ。宗教や言葉がまちまちと異なっていたりするが、生存のしかたの基本は完全におなじだ。彼らは今日も
地球を大規模に削って生きている。人間たちの一枚岩のまえには、これほどに繊細な生き物は、ひとたまりもないだろう。この本のなかに登場している生き物のひとつひとつについて知っているほどには、人間は自分たち自身については知ってはいないようだ。
人間は人間の質の悪さについて理解を深めないまま、いっさいを最終的には破壊する一枚岩となって、野放しで突進している。

 人間はもっと人間の理解を深めなくてはいけない。この絵葉書の本は、僕にそのようなことを確認させてくれる。
絶滅に瀕した生き物たちは、ほどなく絶滅するだろう。微生物まで含めるなら、いまこの瞬間にも、何百種という生き物が絶滅しつつある。
生きのびるとしたら、僕も彼らも、チャンスは対等だと僕は思いたい。対等ならどちらが生きのびてもいい。
自分だけ生きのびようとは思わないし、ともに生きのびようとも、さらさら思わない。

   『ノートブックに誘惑された』 片岡義男 著


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