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「うのはな」さん 専用掲示板
4315
:
シャンソン
:2018/08/01(水) 10:32:13
中島伝次郎主厨長の「毎朝の同じ話」
厨房に入ると、まずは厨房第二係に所属する料理人たちの休憩室兼打ち合わせ室へ
向かいます。料理人は各自、タバコを吸ったり、コーヒーを飲んだりしながらくつろぎ、
中島主厨長をお待ちするのです。その間、新人の僕は主厨長の朝食の定番、トースト。ミルクティー、ブルーチーズを
用意します。
午前8時ジャスト。ネクタイ姿の中島主厨長が入室してきます。
「おはようございます!」料理人たちは全員一斉に直立不動、背筋を伸ばして主厨長に挨拶をします。
「はい、おはよう」中島主厨長はミルクティーを飲み、朝食を取りはじめると、料理人たちの顔を見渡します。きっと、それぞれの顔色から体調面などの確認をされていたのえしょう。
もしも風邪を引いていたり、具合が悪かったりすれば、味付けにも支障をきたしますし、そもそも聖上にうつしかねません。病気を抱えたままで調理場に立つなど、あってはならないことです。
「さてと....」ひととおり見渡してから、主厨長が切り出します。
「はじまるぞ、いつもの話が....」声にこそ出しませんが、この口火のひとことを聞いて、料理人たちは身を乗り出します。
「それがさ、銀座の『カフェブラジル』の女ボーイがさー」
主厨長の毎度お約束の話題がはじまるのです。「女ボーイ」とはウエィトレスさんのことです。話の内容は、かつて主厨長が働いてたお店には大層かわいい女の子がいたという話から、「浅草のにぎわい」
「銀座ガス灯の美しさ」と順番が違ってもお題はぶれることなく、毎回同じお話をされるのです。
これを毎回聞かされても、先輩たちは興味深そうにうなずき、時折笑いを挟んだりして反応するのですから、慣れたものです。
主厨長の朝食とお話が終わるころになると、前夜から当直していた、聖上の御朝食の担当料理人が部屋に入ってきます。
「失礼します」「はい、おはよう。ご苦労さん」
主厨長が労いの言葉をかけ、その料理人にたずねます。「報告をよろしく」
御朝食を担当した料理人は、聖上と皇后陛下が召し上がったトースト、オートミール(もしくはコーンフレークス)、サラド、温野菜、カルグルトの分量を報告します。
「なるほど、〇△は少しお残しされたか」主厨長は、召し上がった分量から聖上と皇后陛下の体調の変化を分析したうえで、当日の御昼食と御夕食の和食と洋食の献立を変更したりしていたのです。
『陛下、お味はいかがでしょう。』天皇の料理番の絵日記 工藤極 著
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