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読書紹介板

1722シャンソン:2019/11/26(火) 23:31:08
   花が食べられないというのは、何たる徳であろう

 一九一四年生まれの杉山平一は、関西詩壇の重鎮だった。
詩集『夜学性』『ぜぴゅろす』などがある。二〇一二年に逝去。
 この言葉は、エッセイ集『低く翔べ』(リクルート出版/一九八七年)からの引用だ。ただし
室生犀星の言葉で出典は明らかではない。

 杉山はこんなふうに書いている。
「この何にも役に立たぬものの喜びを知るのが人間であり、動物とちがうところであろう。
室生犀星は『花が食べられないというのは、何たる徳であろう』
と歌ったが、人間の魂は、何の役に立たぬ花や宝石やスターやひいきのチームや歌に熱狂する。
あの姿こそ、人間の美しさに違いない」

 花は一部食べられるし、花の料理法を書いた本などもあるようだが、ここで言おうとしている精神は、
だからといって変わりない。役に立つもの、便利なものが優先されていく世の中で、必需品とは言えない花が、買われ、
飾られ、贈られる。そういう気持ちをもし人間が失ってしまったら、どうなるか。

 先日テレビでユーミンこと松任谷由実のデビューアルバム「ひこうき雲」(当時は荒井由美)のマスターテープ(録音の原盤)を、
スタッフや演奏に参加したミュージシャンと一緒に聴いて、当時のことを語り合うという番組があった。
詳述はしないが、「ひこうき雲」は日本のポピュラー音楽史に、楽曲の高さと革新性、演奏の技術の確かさで金字塔になったアルバムだ。

 松任谷由実は最初、作曲家志望で、自分で歌う気はさらさらなかった。
プロデューサーの勧めで、キャラメル・ママ(のち、ティン・パン・アレー)という最高のバックを得て、スタジオに通い出す。ところが音程が悪く、声がふらつく。
演奏はとっくに録音が終わっているのに、ボーカルだけは一年がかりとなった。ディレクターは厳しく、スタジオの隅で泣いたこともあったという。
 最後に録音した「雨の街を」のボーカル入りの時は、いい加減いやになっていた。今日こそOKをと思い、スタジオに入ったら、
ピアノの上に牛乳瓶があり、ダリアの花が挿してあった。

 ユーミンは、「ひこうき雲」制作中に、バックのミュージシャン・松任谷正隆とつきあいが始まる。
ちょうど、前日、彼と公園を散歩している時、どんな花が好きかという話になり、ユーミンは「ダリアの花が好き」と言ったのだ。
牛乳瓶のダリアは、松任谷正隆が気づかって置いたものだった。

 「私は、その牛乳瓶に挿したダリアのおかげで、録音がうまくいったと今でも思っています」
 そうユーミンは語っていた。食べられない花が役に立つこともある。

 『読書で見つけたこころに効く名言・名セリフ』 岡崎武志 著


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