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NO.10 数珠 浅葱(すず-あさぎ)(古参)
48
:
ε
:2011/06/07(火) 09:20:23
「今日はすまねえな」
刹那は、お猪口に口をつけた。
「ある意味、驚いたよ。まさか、あんたが孫を連れてくるなんてね」
女性は遠い目で微笑む。
「なぁに、俺も見た目相応、歳を取ったってことさ」
「何を今さら。まだまだ現役のつもりのくせに」
刹那と、女性は互いに顔を見合わせ笑い合う。
女性の名はユウナと言う。刹那とは幼馴染であり、五十年来の仲である。
「浅葱。ちょっと向こうの姉ちゃんと遊んでてくれねえかい? このお姉さんとお話があんだよ」
刹那がそう言うと、浅葱は小さく頷き、控えていた女性と共に、部屋の外へと出た。
「いくらなんでもお姉さんはないだろ。お世辞を言ってもらって喜ぶ歳でもないよ」
「へへ、俺の目にはいまでも、おめえはあの頃のまま変わらねえよ」
「はいはい。で、今日は何のようだい? まさか、本当にあの頃のようにってつもりでもないだろう?」
「まぁ、俺はそれでも構わねえんだけどなぁ」
ユウナは目を伏せ、寂しそうに笑った。二人の間に沈黙が流れた。
刹那は気まずそうに頭をかきながら言った。
「ま、おめえとは一番付き合いが長えからな、挨拶くらいと思ってよ」
「挨拶?」
ユウナは怪訝な顔をする。
「そんな畏まって、あんたらしくないね」
「もう、長くねえんだよ」
「何を言って……」
「冗談じゃねえんだよ。俺は死ぬ。分かるんだよ。死期ってのかな。最近、妙に体の調子が悪ぃしな」
「医者には、見せたのかい?」
「必要あるか?」
「……」
「一つ、頼みがある」
「なんだい?」
「浅葱のことを頼みたい」
刹那は、改まったように向き直り、ユウナに深く頭を下げた。
「……いったい、何のつもりだい?」
「俺は、このまま姿を晦まつもりだ。だから、お前に浅葱を頼みたい」
「……そんなことを訊いてんじゃないよ。」
「いきなり、孫なんか連れて歩きだして、しかも浅葱って……」
「そりゃ、あいつは浅葱だからな」
「あんた、歳取って耄碌したんじゃないの? あの子は死んだのよ。あの子の代わりなんかいやしない」
「代わりなんかじゃないさ。あれは浅葱だよ」
刹那はそう言ってお猪口に酒を注ぐ。
「もちろん、信じてもらおうなんて思っちゃいないさ。だけどな、あれは間違いなく浅葱だ。その魂は受け継いでるよ」
「あんたの口からそんなオカルトが出るなんてね……」
ユウナはやれやれと首を振った。
「だから、信じてもらおうとなんて思っちゃいないさ」
しばらくの沈黙。刹那が口を開く。
「で、答えはどうなんだ?」
「あんな得体の知れない子を二つ返事で預かれるほど、私はお人好しじゃないんでね」
「……そうか。すまねえな」
刹那は立ち上がる。
「どこ行くんだい」
「さっき行ったろ」
「あんた、本当に最低の父親だよ」
「……浅葱を頼むな」
刹那はそう言い残して、浅葱を置いて行方を晦ました。
行方を晦ます直前、刹那をたまたま見かけた友人が、彼に話しかけた。
刹那は「時間がねえんだ」と取り合わず、先を急いでしまったという。
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