[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
| |
NO.10 数珠 浅葱(すず-あさぎ)(古参)
30
:
ε
:2011/06/06(月) 22:18:05
翌日、帰莢はいつもと同じように、浅葱の元へとやってきた。 浅葱はいつもと同じように、軒下にただ、座っていた。「浅葱くん」 珍しく帰莢が彼の名を呼んだ。「あのね、昨日、誰か来たの?」
そう問う帰莢に対して浅葱は「来たな」とだけ告げた。「何か言われたの?」 帰莢はさらに問う。「多少、言葉を交わしたな。ただそれだけだ」「私のことについて聞かれた?」「ああ」「なんて……答えたの?」「愚問だな」 浅葱はそう答えた。
帰莢はそれ以上、浅葱にこのことを問いはしなかった。 こんなやり取りがあった後も、帰莢は時間を見つけては、浅葱の元へやってきた。 二人は一切の会話をしなかったが、不思議と二人の間に流れる空気は優しいものだった。
「お前、この前、何ていった?」 あのときの少年が再び、浅葱の前に姿を現した。 浅葱はただ黙っていた。「おい、言ってみろよ!? てめえ、前、俺に何ていった!?」「……しつこいな」 浅葱は呟いた。
「何だって!?」「俺は何もしていないが? 何か問題があるとすれば、それはお前自身であると俺は思うがな」 少年は絶叫し、怒りを露にして浅葱に殴りかかった。浅葱はそれをひょいと避けて、腰の脇差を抜く。
そして、その切っ先を少年の首元に突きつけた。「……!!」 浅葱は無言のまま、動かない。「お、お前、め、眼が見えないんじゃ……?」 浅葱は答えなかった。
そのときだった。「……何してるの?」 帰莢だった。「道場はどうした?」 浅葱が問う。「父さんが戻ってきたから。それより……」「帰莢……!」
少年が帰莢にどたどたと駆け寄る。浅葱は脇差を鞘に戻した。「み、み、見てただろう? こいつ、俺に刃物を……!」「大丈夫、浅葱くん……?」「え……?」
少年の脇を通り過ぎ、帰莢が浅葱に駆け寄る。「大丈夫だ」 浅葱はそう答える。 「なめやがって……!!」 浅葱が見ると、少年はまだそこにいた。そして、能力を増大させている。
何かをしようとしているのは、誰の目にも明らかだった。だが、浅葱は少年の能力を見誤っていた。「……!!」 浅葱が危険を察知したとき、少年の右手が帰莢の胸を貫いていた。
少年は、ぐったりとした帰莢をぐっと抱き寄せ、そっとその髪に鼻をつけた。そして深く息を吸う。「ずっと、ずっと、見てたんだ。好きだった。触れたかった。一つになりたかった。なのに。お前さえいなければ……」
少年は、ぎょろりと浅葱を見る。「帰莢……!」 見えなかった。少年の動きを彼は見切ることができなかった。その事実が浅葱を慎重にさせる。何かある。しかし、それ以上に、目の前の帰莢の惨状が彼の思考を鈍らせていた。
「悔しいか? 悔しいよなあ? 俺は、今、帰莢と一つになってるんだ」
「ごふっ……!」
帰莢がわずかに顔を上げる。
「きみ……、ま、えに、私の、瞳術が見てみたいって言ってた、よね……?」 帰莢の瞳術――浅葱は、それを知っていた。「言った! 覚えててくれたんだ!」
少年は顔を綻ばせる。「なら、今、見せてあげる……。浅葱くん、君は、どっか言ってて……」「ハハハ! 浅葱ぃ! だってさぁ!」 少年は血の臭いに酔っていた。浅葱は拳を握り締め、さっとその場から去った。
その瞬間、少年の悲鳴と、何かがずたずたに引き裂かれる音が聞こえ、浅葱はすぐに戻った。
「帰莢……」
少年はすでに肉塊と化していた。 そして、帰莢の息もすでになく、浅葱はただ膝から崩れ落ちた。
浅葱は、それ以来、町から町へと放浪する日々を始めた。
・ ・ ・
それが、草月らが知る、浅葱の業であった。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板