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NO.10 数珠 浅葱(すず-あさぎ)(古参)

16ε:2011/06/03(金) 22:57:35
「た、たすけて……!!」


 消え入るような少女の声が、彼の耳に入る前に彼は動いた。
 両手で、脇差に手を添え、抜刀する。それと同時に、''何か''は、この世のものとは思いたくない、背筋を這うような悲鳴をあげた。


 確かに、両断した。その手応えはあった。しかし、''何か''の気配は、未だにこの空間の中で蠢き、活発に収縮を繰り返している。
 浅葱は、両手に携えた脇差を床に突き刺した。そて、静かに息を吐き、呼吸を落ち着かせる。
 
 浅葱は、生まれながらに背に痣を持って生まれてきた。血で塗りたくられたようなその痣からは、六つの腕が浮かび上がっている。
 現世の万物には、決して見ることも、触れることもできないそれは、冥府の六道の門を預かる。


 浅葱が、その両眼を開いた刹那、六腕のうち一本が、彼の胸を貫く。
 
 浅葱の心臓が、突如として、活動をやめる。浅葱はうな垂れ、前のめりに倒れこもうとする。しかし、何かに吊るされているかのように、その体が床と平行となることはなかった。
 全ての時間が止まっていた。その空間は、まるで凍りついたかのように、浅葱に支配されていた。


 死。


 絶対的な死が浅葱に満ちていくとともに、彼自身の気配が変わっていった。満ちていく死を糧に脳に巣食う四眼が神経を伸ばし、彼の両眼を侵食し、浅葱の肉体、その内部を破壊していく。浅葱のその髪は老婆のように白く、その瞳は、血のように紅く。
 死が浅葱の体を支配したとき、浅葱の体は、四眼に操られるように再び力を取り戻していた。それと同時に動きだす時間と空間。


 六腕が彼の胸から抜かれ、浅葱の意識が、再びその肉体の元に帰った時、''何か''が、「何か」言葉めいたものを、発しているのが浅葱には、本能的に理解できた。
 しかし、浅葱は、それに耳を貸しはしなかった。それもまた、浅葱の本能であった。


 浅葱は、そっとその''何か''に触れた。
 
 その瞬間、全てが決した。


 その''何か''は、吐き出すように、仮足を伸ばして一人の少女を中空に捧げた。弾けるように、少女は破裂し、その肉片を周囲に散らした。
 浅葱はその光景を無表情に眺めていた。


 ''何か''と少女の肉片は、ぱちぱちとさらに爆ぜ続け、やがて消えてなくなった。


 明里はその後、静かに意識を失った。
 気づいたとき、浅葱の姿は無かった。明里は病院で目を覚ましたときは、集中治療室で草月が治療を受けており、それ所では無かったのもある。それ以来浅葱に会っていない。
 草月は、なんとか一命を取りとめ、また、道場で剣を奮っている。
 明里の中には、もやもやがあった。彼女は、浅葱にお礼を言いたいと思った。しかし、草月に尋ねても、草月は彼の行く先を知らなかった。


 それ以来、今も明里は浅葱を探している。


「この人知りませんか!?」


 きちんと、お礼を言って、そして――。


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