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中国語諸方言・日本語・朝鮮語・ベトナム語の漢字音比較スレ

18名無しさん:2011/01/27(木) 04:57:19
>>17
/ŋ/が音節の頭に立つことができず、音節末にのみ現れるというのは、
英語やドイツ語などにもあるありふれた現象だから、それ自体は不思議ではないと思う。

/ŋ/がないとすれば確かに日本語では/ɡ/で代用しているし、台湾語でもそうしているわけだけど、
よく考えると朝鮮語には有声破裂音がない。音声としては現れるけど、音素としての無声と有声の対立がない。また音節の頭では無声になる。
/ɡ/がない以上、次に近いのは/k/ということになるだろうが、/ŋ/と/ɡ/ならともかく、/ŋ/と/k/では遠すぎる気もする。
/ɡ/を持っていれば/ŋ/が/ɡ/に聞こえるかもしれないが、
軟口蓋音が/k, kʰ(, k')/しかないのなら、/ŋ/がそれらには近く聞こえず、むしろゼロ子音に近く聞き取ってもおかしくない気がする。

ただ、ハングル創世時の中期朝鮮語では語頭に/ŋ/が立つことができたにも関わらず、疑母の漢字はゼロ子音だったというのが説明できない。
朝鮮語で音節の頭の/ŋ/が消えたときに巻き込まれたのなら、ハングル創世時には疑母の漢字は/ŋ/を持っているはずだし。
朝鮮語に漢字が入ったときには音節の頭の/ŋ/がなく、その後で音韻変化で/ŋ/ができたというのは無理がありそうだし…

19名無しさん:2011/01/27(木) 10:49:11
>>13
推論が逆。朝鮮語の場合、現代語には有気子音・無気子音の弁別が存在しているのに、
中国漢字音の如何なる時代の有気・無気の弁別も体系継承して「いない」ことのほうがはるかに重要。
これは、実は朝鮮語側の問題で、朝鮮語が漢字音を受容した時点では、
朝鮮語には有気音と無気音の対立が、どうやら存在しなかったらしいことを意味する。
そして訓民正音制定時にはこの対立は完全に存在しているので、それよりずっと前ということになる。
明清の漢字音を受容したのなら、朝鮮漢字音と官話音の有声・無声は綺麗に対応するはずだ。
すでにこの時点で、朝鮮人は中国人の子音弁別を聞き取り母国語に転写できるのだから。

20名無しさん:2011/01/27(木) 12:31:30
たとえば古くは朝鮮語では無声/有声の対立のみがあったとして、
ある時代に無声→無声有気、有声→無声無気にスライドしたとしよう。
それなら中国語の全清・次清は無声有気に、全濁は無声無気に対応しているはずだが、
実際にはそうはなってないだろう。
現在の無気/有気の対立ができあがる前はどういう子音の対立があったのか。

21名無しさん:2011/01/27(木) 13:18:42
>>20
>現在の無気/有気の対立ができあがる前はどういう子音の対立があったのか。

何もなかったんじゃないかね?「対立」や「スライド」を所与のものとして考える必要は全くない。
調音点の同じ子音に、声でも気でも対立のペアが全くない言語も珍しくない。アイヌ語などが典型だ。
朝鮮漢字音と中国漢字音(の歴史)の対応から導かれる答えは、
A説「朝鮮語の漢字音受容時には、中国語の子音対立を受け入れる弁別は何も存在しなかった」
というのが、一番素直な解釈。
ただ、中期朝鮮語に/z/があるという点から、なんとなく有声音の痕跡が見え隠れするので、
B説「昔は有声・無声の対立があったかもしれないが、一端潰れた」
という説が、論理的に一応成立することになる。今の議論はこれを前提とするもの。

22名無しさん:2011/01/27(木) 13:22:37
ちなみに、朝鮮語の有気・無気の対立の発生原因はかなりの難問で、
子音/h/が後の子音を有気化して逆に飲み込まれたとするのが多数説だが、異論も有力だ。
そもそも朝鮮語の/h/の起源自体がよく分かっていない。

23名無しさん:2011/01/27(木) 14:50:35
>>18
> ハングル創世時の中期朝鮮語では語頭に/ŋ/が立つことができた

語頭には立てなかったんじゃありませんでしたっけ?

音節の頭に ng が書かれている場合も、Vng-V を V-ngV と書いた見かけだけの
ものが多かったような。とすると

> 朝鮮語に漢字が入ったときには音節の頭の /ŋ/がなく、その後で
> 音韻変化で/ŋ/ができた

というのでいいのではないかと。

24名無しさん:2011/01/27(木) 14:53:53
>>19
> 中国漢字音の如何なる時代の有気・無気の弁別も体系継承して「いない」

例外も多いけれど、舌歯音では原則として反映してますよ。

25名無しさん:2011/01/27(木) 15:34:02
>>23
訓民正音というのは、形而上学的な「あるべき発音体系」を作って、
そこからいろんな文字や音節組み合わせを演繹しているので、
現実には存在しない音節やら組み合わせが、堂々と載っていたりするからねえ。
日本でいえば、ある種の「ローマ字綴字法の発案・啓蒙ヲタ」とメンタリティが大変よく似ていて、
"kwya, kwyi, kwyu, kwye, kwyo"なんて表を堂々と載せたりするのとよく似ている。
>>24
混乱を防ぐため、IPAか何かで書いて欲しい。このへんは、近代言語学用語、日本の伝統的発音呼称(本籍はインド系)
中国語史固有の用語、さらには朝鮮独自の用語もあったりして、何を指しているのかわからなくなることがある。

26名無しさん:2011/01/27(木) 16:47:48
>>25
『訓民正音』に載っている「業」の漢字音は「ŋəp」(ə = 어)
だけど、これは人工音なのでとりあえず無視することにして、解例にあるのは
普通の語。
* rə-ŋul (現代語 neoguri, 狸)
* sə-ŋəi (現代語 seong-e, 流氷)
* i-ŋa (現代語 ing-a, 綜糸)
のように、いずれも母音にはさまれた位置に出てくる。

> 混乱を防ぐため、IPAか何かで書いて欲しい。
舌歯音っていったら伝統的な等韻学の用語しかないと思うけれど……
今の用語でいうと coronal initials (日本語がわからん。「舌頂頭子音」?)

27名無しさん:2011/01/27(木) 17:18:02
>>26
前段は、朝鮮語学会お得意の「厳密な形態素分析」をすれば、中期語でも音節末扱いだろうなあ。
つまり現代語と何も変わらないということになる。
今の諺文綴りでも、◯の上にlを書かずゼロと同じパーツにするのは、
NGとゼロ子音が相補分布することを利用して1画省略しているだけだからね。
それから、s,c,zについては、朝鮮語側でいうsかzかということ?
だとしたら、つまり有声/無声説の論拠になるものであって、有気/無気やら明清音の論拠にはならない。
中期朝鮮語においても、sとzの対立だけは、実は気ではなく声の対立だった(ここだけ仲間はずれだった)
これは文字の構造からも分かることで、zのほうが「1画足されている」
朝鮮語の無気/有気体系では、無気が無標とされ、有標の有気子音に1画足されるのがデフォ。
仲間はずれだったからこそ、消えてしまった。

28名無しさん:2011/01/27(木) 18:28:07
>>27
いや、たとえば >>2 の例でいうと、
中国語が次清(有気音)である「七・千」は朝鮮語でも ch- になってるし、中国
語で全濁(有声音)である「兆」は朝鮮語で無気音の jo (< tio) になっている、
という話。

唇音は例外が多いけれども、たとえば「八」が bal でなく pal になっている
のは「七が有気音なので、その類推によって有気音になった」とか、いちおう
説明可能。

29名無しさん:2011/01/28(金) 12:50:01
>>2
タイトルに「ベトナム語」って書いてあるのに、ベトナム語がないから足しとく。
一 nhất
二 nhì
三 tam
四 tư
五 ngũ
六 lục
七 thất
八 bát
九 cửu
十 thập
百 bách
千 thiên
万 vạn
億 ức
兆 triệu
京 kinh

30名無しさん:2011/01/29(土) 00:47:33
>>19
少なくとも中古音のtとtʰの区別はかなり綺麗に継承しているし、
pとpʰの区別も、例外が多く対応が複雑ではあるがある程度引き継いでいる。
kとkʰの区別もごく一部だがある。

漢字音が入った時点で朝鮮語に無気/有気の区別が無ければ、
このように部分的にでも中国語と体系的に対応する無気/有気の区別は見られないはずだろう。
これは漢字音が入ったあとに、朝鮮語内部での音韻変化や類推により乱れたと考えたほうが自然だと思うがどうだろう。

31名無しさん:2011/01/29(土) 04:30:55
>>29
訂正とコメント。

訂正: 「二 nhì」は「二 nhị」に、「四 tư」は「四 tứ」
nhì や tư も存在するけれど、「次 thứ」のうしろに置いて序数(二番め・
四番め)をあらわすときに使う。

「一 nhất」は nh- ではじまるのが特徴的。「二 nhị」の類推かとも思われ
るが、ほかに「因 nhân」という例もある。ちなみに「乙」はふつうに「ất」
である。

「二 nhị」。日母が nh- になるのは南方的?

「三 tam」などの t- は、(ムオン語との比較などにより)借用されたときに
は s- だったのが後に t- に変化したと考えられている。

「四 tứ」。-i でなくて -ư になるのは朝鮮漢字音を連想させるが、-i に
終わる字もある。たとえば「姉」は「tỉ」である。

「五 ngũ」について。中古中国語で同音の「午」は「ngọ」だし、声調のみ
ちがう「呉」は「ngô」。借用時期によるちがいか。

「百 bách」。-ch で終わっているのは朝鮮漢字音が -ik で終わっているの
を彷彿とさせる。

「億 ức」の意味は 10万。ベトナム語は西洋式に 1億を百×百万と表現する。

「兆 triệu」の意味は 100万。中古中国語で有声頭子音(「全濁」)ではじま
る上声字は、大部分の中国語方言と同様、去声に合流。
なお 10億は「tỷ」と言う。「秭」だろう。

「京 kinh」。中古中国語で同じ韻の「英」は「anh」だったり、これも借用時期に
よるちがいか。

32名無しさん:2011/01/29(土) 11:35:17
>>29 >>31
凄い!ベトナム語漢字音はほとんど知らなかったのでありがたい。
ベトナム語漢字音ってネット上で調べられるところはある?
あとクォック・グーの読み方も勉強しないといけないね。何も知らないと読み方を変に勘違いしそうだから。

33名無しさん:2011/01/29(土) 12:25:16
>> ベトナム語漢字音ってネット上で調べられるところはある?

こことかどうでしょう。漢字検索のほか部首・総画などで調べられます。

漢越辭典摘引
http://vietnamtudien.org/hanviet/

ほかにもいくつか似たようなサイトはあるようです。

34名無しさん:2011/01/29(土) 12:31:49
中古音の声母(三十六字母)

      全清   次清   全濁   次濁
重唇音 幫 [p]  滂 [pʰ]  並 [b]  明 [m]
軽唇音 非 [f].  敷 [fʰ].  奉 [v]  微 [ɱ]
舌頭音 端 [t].   透 [tʰ].   定 [d]  泥 [n]
舌上音 知 [ʈ].   徹 [ʈʰ].   澄 [ɖ]  娘 [ɳ]
歯頭音 精 [ʦ].  清 [ʦʰ].  従 [ʣ]
歯頭音 心 [s]        邪 [z]
正歯音 照 [ʨ].  穿 [ʨʰ].  牀 [ʥ]
正歯音 審 [ɕ]         禅 [ʑ]
牙音   見 [k]  渓 [kʰ].   群 [ɡ]  疑 [ŋ]
喉音   影 [ʔ]
喉音   暁 [x]        匣 [ɣ]
喉音                    喩 [j]
半舌音                  来 [l]
半歯音                  日 [ɲ]

35名無しさん:2011/01/29(土) 13:01:19
普通話の声母(ピンイン)

         破裂音  破裂音  破擦音  破擦音  摩擦音  鼻音   側面音  接近音
         無気音  有気音  無気音  有気音
両唇音       b [p]    p [pʰ]                          m [m]
唇歯音       f [f]
歯茎音       d [t].     t [tʰ]    z [ʦ]    c [ʦʰ]    s [s].     n [n].    l [l]
反り舌音                   zh [ʈʂ]   ch [ʈʂʰ]  sh [ʂ]                r [ɻ]
歯茎硬口蓋音             j [ʨ].    q [ʨʰ]    x [ɕ]
軟口蓋音     g [k]    k [kʰ]                   h [x]

36名無しさん:2011/01/29(土) 16:23:54
>>33
ありがとう!こんなのを探してたんだ。

37名無しさん:2011/01/29(土) 23:45:47
朝鮮漢字音で、siが予想されそうな漢字の一部がsaになっているのは何で?

38名無しさん:2011/01/30(日) 19:16:29
>>37
「四」とか「史」とかは、もとから sa だったわけではなくて、アレアという
母音でした。アレアの正確な音価は不明ですが、a と o の中間のような音だっ
たようです。後に朝鮮語内でアレアが a に変化しました。現在も済州方言では
アレアがオに似た音として残っています。たとえば下のビデオで鶏を「トッ」
のように歌っています。
http://www.tagstory.com/video/video_post.aspx?media_id=V000060675

さて、中国語で古く -i のような音で終わっていた韻のうち、舌歯音にはじま
る字は、現代中国語では -i ではなく、あいまいな母音(というか、子音の音節
主音化) に変化しています。朝鮮漢字音はその変化する中間の形をうつしたも
のと言えます。かつては、このことをもって朝鮮漢字音が新しい音に由来する
と考えられたこともありましたが、現在はベトナム漢字音・ウイグル漢字音・
コータン資料などでも同様の現象が見られ、さらに慧琳音義の反切でも区別さ
れる傾向があることがわかり、すでに唐代からこの変化が起きはじめていたと
考えられるようになってきました。

現代中国語で「持・支・二・史・四」はすべてあいまいな母音を持っていますが、
これは一時に -i から変化したわけでなく、元代の中原音韻では「持」はまだ -i
でした。朝鮮漢字音で「持・支・二」が -i で終わっているのは、さらに古い形を
示しています。

日本漢字音ですべて -i になっているのは、日本語の母音体系が単純であった
ために区別できなかった、と考えられます。

39名無しさん:2011/01/30(日) 22:57:12
>>38
なるほど!アレアだったんだ!それなら確かにそうなっても不思議じゃない気がする。
アレアは中期朝鮮語で [ʌ]、現在の済州島方言で [ɒ] のような音らしい。

s、ts、z、dzなどの後のiが中舌的になるのは、日本語で「ズーズー弁」と呼ばれる方言とも似ている気がする。
東北方言、雲伯方言、奄美方言、宮古方言、八重山方言などで、シとス、チとツ、ジとズが合流して中舌母音になっている。
北京語のsiなどもこの発音にかなり似ていると思う。特に宮古方言の摩擦の強い発音に似ている。sやzが音節主音化した発音だし。

しかしそうなると、各地で独自にそのような変化を遂げてもおかしくないわけで、ベトナム、ウイグル、コータンの分岐年代を推定するときに
その現象を根拠にして古いというのは危険だと思う。

40名無しさん:2011/01/31(月) 10:24:18
>>39

朝鮮漢字音がすべて sa になっていれば、朝鮮語内で変化したとも考えられま
すが、実際には「示・矢・詩・始・試・施・是・時・市・視」のように si に
なっているものが大量にあります。si になっている字とsa になっている字の
どこがちがうかというと、si のほうは中古中国語で [ɕ] [ʑ] [dʑ] の
いずれかではじまっていた字です。これは借用したときの元の音にすでに違い
があったと考えないと、かなり説明が難しくなります。

41名無しさん:2011/01/31(月) 18:36:52
>>40
なるほど、朝鮮漢字音に受け入れられた時点でそれらの漢字の子音は同じになっているから、
確かに朝鮮語に借用された時点で元の音に違いがないと説明できないね。
借用された後も子音の区別が保たれてる言語・方言なら、借用後に独自に変化した可能性も残るけど。

42名無しさん:2011/02/04(金) 17:29:30
よく知らないけれど、漢語由来のタイ語数詞を。
一 et1 二 yii2, sɔɔŋ4 三 saam4 四 sii1 五 haa2
六 hok1 七 cet1 八 pɛɛt1 九 kaw2 十 sip1

et および yii2 は単独では使わないが、それぞれ 11 の一の桁、 20 の上の桁に出て
くる。百以上の桁を表す語は非漢語。

声調は 5つ。(タイ語で)歴史的に無声頭子音の字については平 = 0(無記号) または 4、
上 = 2、去 = 1、入 = 1。歴史的に有声子音のものは平 = 1、上 = 3、去 = 2、入 =
2 または 3。

おもしろいのは五の haa2。母音が a なのは上古音的? あと七の頭子音が無気音なのが
不思議。二が y- だったり、六が h- だったりするのはタイ語内での二次的変化らしい。

43名無しさん:2011/02/05(土) 16:30:26
>>42

タイ諸語の数詞はここにあることはある。
http://www.zompist.com/asia.htm#THJ

Proto-Tai+ というのが誰の再構によるのかわからないが、けっこう変。「六」
を xok としているけれど、これでは北タイ諸語で r- や z- が出てくる原因が
まったくわからない。

http://language.psy.auckland.ac.nz/austronesian/language.php?id=698
こっちは Pittayaporn の博士論文によっているそうで「六」を krok として
いる。これならありそう。

「五」の母音が a なのは規則的だと李方桂の有名な十二支の論文に、「午」が
Lü語(傣仂語)でsa-ŋa になるという話の所で書いてあった。

44名無しさん:2011/02/05(土) 18:44:24
タイ語も数詞は漢語なのか。知らなかった。

45名無しさん:2011/02/07(月) 16:48:53
>>15
>例えば中古音で「ti」だった「知」などが日本語でも朝鮮語でも「ʨi」になっているけど、
>これは中国語で口蓋化した後で取り入れたわけではなく、「ti」で取り入れたあと、それぞれの言語で口蓋化を起こしたもの。
>漢字音に限らず固有語も含めて起こった音韻変化だし、その結果両言語から「ti」音が消滅している。

文字は発音を載せる乗り物だ。

魏志倭人伝の中に「壱岐」を「一支(大は誤植)」と表記している。
万葉集でも「支」は甲類のキを表わす万葉仮名として使われている。
ところが倭名抄(10世紀前半)では「壱岐」と「キ」を表わす万葉仮名が変更されている。
漢和辞典を見ると「支」は呉音、漢音ともに「し」だ。
これは7世紀初頭の《切韻》(を底本にした《唐韻》《廣韻》)の反切から導かれる北朝系の音。

「いき」という日本の地名は口から耳へと伝承されて不変だ。
しかし万葉仮名という音を載せる乗り物の中国の地図を元にした行き先(実際の音)が
変わってしまったために「いき」という地名の表記を「支」から「岐」に乗り換えた例だ。

46名無しさん:2011/02/07(月) 16:53:05
>>45の続き

一方平仮名「ち」の元の字となった「知」は
上古音〜中国三国時代       [ti]
中国北部中世音と現代広東語   [tsɪ]
中国北部現代音            [ʈʂʅ]

で「支」と「知」は中国の南部で中世にほとんど同音になった結果
「知家」が「しか」と宋音で振假名されるようになった。
その名残が広東語音(zi 陰平)である。
http://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/Canton/sound/zi1.wav
多知夜麻尓 布里於家流由伎乎
タチヤマに 降りける雪を(万葉集)
万葉時代の「立山たちやま」が現代語では「立山たてやま」に変わっている。
これは万葉時代の「知ち」が現代音とは異なっていて
現代語の「たてやま」が万葉語の「たちやま」に近いことを示している。

陀羅尼では次の3つの漢字にチまたはチイと振假名が付いている。
帝 dai3(陰去声)陀羅尼の音読みチ 現代の音読みは漢音テイ、呉音ダイ煬帝
底 dai2(陰上声)陀羅尼の音読みチ 現代の音読みはテイ
地 dei6(陽去声)陀羅尼の音読みチ 現代の音読みはチ
ラテン文字で示したのは広東語の発音。
陀羅尼が伝わった時代は3つ共チという音がtiだったが
時代が下るにしたがって「ち」という仮名の音価が変わったため
字音仮名遣が変化したというわけだ。

日本語では
一方で「帝、底」は口蓋化した音を避けるべく仮名遣いが変化した。
他方「地」の場合は仮名遣いが変化せず音口蓋化した。

北京語や広東語では「支」「知」は口蓋化したが「帝、底、地」は口蓋化しなかった。

アモイ語、台湾福建語の「支」「知」は口蓋化しなかった。

47名無しさん:2011/02/07(月) 17:31:02
>>45-46
なんか長々と書いてるけど的外れだなあ。
「立山」が「たちやま」か「たてやま」かは、「たつ」と「たてる」の違いでしょ。
「たてやま」は「タティヤマ」という音を写そうとしたものじゃないし。元々「ティ」と「テ」で対立してたものが「チ」と「テ」になっただけでしょ。
日本語じゃない言語に「tatiyama」という語があって、15世紀以前には「たちやま」と写したが15世紀以降は「たてやま」と写したというなら分かるが。
実際は日本語の内部で「たちやま」(tatiyama→tachiyama)と「たてやま」(tateyama)の対立があっただけ。
別に今でも「立山」を「たちやま」と読んでも何の不思議もないわけだし。
下の例も意味不明。「帝」「底」が「テイ」になったのが、日本語の「ち」が口蓋化した15世紀以降だとでもいうのならまだ話は分かるけど、違うでしょ。

「壱岐」の場合、「支」の中国語における発音自体は「キ→チ」と変化したが、日本語では「し」で写されていて、
一見不思議に思えるが、日本語の「し」が「チ→シ」と変化したことを考えれば納得が行く。

48名無しさん:2011/02/07(月) 21:34:36
的外れは>>47だ。

49名無しさん:2011/02/07(月) 21:56:01
都合の悪い例は意味不明ですかw

50名無しさん:2011/02/07(月) 22:37:10
例えば「帝」「底」が、室町時代半ばまで日本語で「チ」と読まれていたっていうんだったら上の話も分かるけど…
「テイ」という音があるのは日本語の「ち」の音の変化とは関係ないでしょ

51名無しさん:2011/02/07(月) 22:53:03
各方言や言語の漢字音の比較をする際には、それぞれの方言や言語がどのような音韻変化を経てきたかをちゃんと知らないとおかしなことになる。
漢字音のみに起こった変化ならば違う漢字音を受容したなどの事態が起きたことを意味するかもしれないが、
固有語なども全て巻き込んだ変化ならばその方言・言語自体の音韻変化だということになる。

例えば日本語の「ti→ʨi」の変化は、「血」「口」「土」「乳」など和語も含んだ全ての語に起こっており、
室町時代半ばから近代初期まで日本語の音韻体系から「ti」が消滅している。すなわち/ti/>/ci/という音韻体系の変化だ。
だから、日本語で「知」がʨiであることを、中国語でti→ʨiの変化を起こした後で日本語に入った証拠だ、などということはできない。

もっと分かりやすい例で言えば、例えば福島だとか秋山郷、沖縄本島南部の方言では「気」「基」「喜」「器」などがチで現れるわけだが、
だからといってこれらの方言ではキ→チの変化を起こしたあとの北方漢字音を取り入れたのだ、ということにはならない。
これらの方言では「霧」「肝」「月」「息」などもチになっていて、音韻体系自体に変化が起きたことが分かるからだ。
また、「気」にはケという音もあるが、別に口蓋化を避けたわけではなく、元々「き」と「け」があったわけだ。

口蓋化なんてのは非常に起こりやすい変化で、各地で全く独立に起こることも全く珍しくない。
共通語の起こりやすい音韻変化を起こしていたり、音の統合を起こしているだけでは、独立した新しい変化による一致の可能性も高い。

52名無しさん:2011/02/08(火) 00:09:09
[ti]>[ʨi]という音韻体系の変化が中国語の影響によって引き起こされたんだよ。
特に朝鮮語の場合は中世〜近世の中国語の音韻変化に引きずられた。

53名無しさん:2011/02/08(火) 00:48:51
>>52
そりゃトンデモだろ。一体どう考えたらそんなことを信じられるんだ。

54名無しさん:2011/02/08(火) 05:49:26
>>46
> 帝 dai3(陰去声)陀羅尼の音読みチ 現代の音読みは漢音テイ、呉音ダイ煬帝

とりあえずこれだけ。

まず、呉音はタイで(帝釈天とか)、ダイは連濁でしょう。

つぎに陀羅尼の中の「帝」は(漢訳時期によるかもしれませんが)サンスクリッ
トの te のような音を写したもので(有名な般若心経の「掲帝」は gate)その
当時の音は tei のようであったことを示すものであり、漢音「テイ」はそれを
そのまま写したものでしょう。

「陀羅尼の音読みチ」については知りませんが、現にそう読まれているとしたら
その読み方は tei → ti の変化がおきたあとに日本に伝わったのでしょう。

したがって
> 時代が下るにしたがって「ち」という仮名の音価が変わったため

ではなく、単に中国語(官話系)で ei → i の変化がおきたためでしょう。

なお「地」の音はいろいろおもしろいことがありますが、とりあえずここの話
とは関係なさそう。

5554:2011/02/08(火) 10:13:32
「陀羅尼の音読みチ」って、ひょっとしてこういうやつのこと?
ttp://www.kibi.ne.jp/~fumonzan/kyouten/daihisin.pdf

これは禅宗だから漢音よりはるかに新しいし、そのことは「阿オ」「婆ボ」な
どから見ても明らかだと思うけれど。

56名無しさん:2011/02/08(火) 12:46:11
>>38
中国の史的音韻変化
    北宋  南宋     元代       明末
児  [ʒi]        [ʐʅ]支思韻   [ɚ]
日  [ʒit] [ʒiʔ]   [ʒi]斉微韻   [ʐʅ]

朝鮮語の「児」が아=aと発音されるようになったのは元代以降で
特に明末に中国北部で児が[ɚ]に移行した時期以降という線が濃厚だ。

57名無しさん:2011/02/08(火) 13:44:18
>>56に示したのは口語音だが
文語音つまり清代の科挙試験の際の発音は
詩韻系の音韻闡微(1726)によると
「児」の反切が「日移」で
「日」の反切が「仁逸」趙元任考案の国語ローマ字でryqとなっている。

つまり北京官話で入声がなくなった清代でも
科挙試験用としての読書音(文語音)で入声は依然として残っていた。

5854:2011/02/08(火) 14:50:49
>>55
追記。不空とかはサンスクリットの ti を「底」と記していることがあって、
音注として「丁以反」(つまり ti)と書いてあったりします。

この場合は一種の破読なので、当然日本語でも「チ」になります。

59名無しさん:2011/02/08(火) 15:33:20
>>56

いや、中期朝鮮語では z@ (@ はアレア)で、後に朝鮮語内部で z → ゼロ、
@ → a の変化がおきたのです。
「二・耳・爾」に比べて新しい時代の中国語を反映しているのは確か
でしょうが、
>明末に中国北部で児が[ɚ]に移行した時期以降

ということはありえません。

60名無しさん:2011/02/08(火) 16:35:35
現代朝鮮漢字音だけを見て漢字音の導入時期を議論するのは危険。
朝鮮語の音韻変化は15世紀半ばのハングル創製期以降のものがかなりの程度終えるので、
その部分は知っておかないと変な結論を導きかねない。
新しいと思える特徴でも、少なくとも15世紀半ばの時点で既に変化していた部分か、
15世紀半ば以降に朝鮮語の音韻変化に巻き込まれて変化した部分かは区別しないと。

61名無しさん:2011/02/08(火) 17:55:40
朝鮮漢字音の導入時期を議論してるのではなくて
中国中古音から現代音に変化するのに
中世以降の中国語がどう関わったかという議論ですよ。

62名無しさん:2011/02/13(日) 19:17:34
普通話で複数の読みがある漢字って、他の方言・言語でもちゃんと用法別に複数の読みが受け継がれてるの?

63名無しさん:2011/02/14(月) 12:54:54
>>62
その記述は正しくない。
「中古音」で複数の読みがある漢字って、「普通話その」他の方言・言語でもちゃんと用法別に複数の読みが受け継がれてるの?
だな。

64名無しさん:2011/02/15(火) 01:31:53
多音字って中古音の時代からなの?上古音の時代から複数の発音があったと確認できる字はないの?
そもそも多音字の発生要因は?元々一つの発音だったのが分裂したの?
それとも元々別々の発音だったのに、一つの字を当てたの?

65名無しさん:2011/02/15(火) 10:02:14
>>64

「悪」のアク・オみたいに、中古音ではあまり似ていない音の対が大量に
あるので、おそらく上古音から多くの区別があったと推定できます。

ただし文献的には多音字の網羅されたものは後の時代のものしかないので、
現実には >>63 の人がいうように中古音を使わざるを得ないでしょう。

> 元々一つの発音だったのが分裂したの?
> それとも元々別々の発音だったのに、一つの字を当てたの?

両方あるかと…… 具体的な例があるとうれしい。

66名無しさん:2011/02/15(火) 11:23:54
> 元々一つの発音だったのが分裂したの?
このタイプは
「各」を構成要素に持つ漢字が
格、客、喀・・・カク
落、洛、酪・・・ラク
というふうに頭子音だけ違っていて韻が同じということで
上古音はkl/glというような二重子音だったかも知れないと言われている。

「楽」もガク、ラクと多音字で、元はひとつの音だったかも知れない。

67名無しさん:2011/02/16(水) 06:03:55
元がklak、glakのような音だったとして、それがそれぞれkak(gak)、lakに分裂した条件というのは分かってるのか?
どのような場合にkak(gak)になって、どのような場合にlakになったかという条件が、音韻変化ならば導けると思うが。
「京」と「涼」なんかも同じように分裂した例かな。

上古音では「二」がgnisだったというのを見たことがあるが、どういうふうに導けるんだろう。
gn-とか-sなんて現代中国諸方言にも中古音にも見当たらないし。
チベット・ビルマ語派にそういう例があるのかな?

上古音はBaxterのものと王力のものの大きく二つの流儀があるようだけど、今はどういう説が定説に近いとみなされてるんだろう。
-rとか-gが大量に出てきて開音節がほとんどないのは、自然言語の音韻体系としてちょっと疑わしい気がするけど。

68名無しさん:2011/02/16(水) 10:59:14
単なる推量だけど日本語で「二」は「に」と読んだり「じ」と読んだりするから
王力は鼻音と摩擦音が交じり合ったような音と推定してるんじゃないだろうか。
今の北京音やアモイ音は摩擦成分が優勢に訛ってriとかji
広州音や朝鮮音は摩擦成分がなくなってiになったとか・・・

69名無しさん:2011/02/16(水) 11:23:30
「戊」は藤堂漢和大辞典(学研)でmugと推定してる。
「戊」の反切下字が「莫𠋫」とか「莫後」で軟口蓋音なのは
韻尾が-gなのと関係あるのかどうか。

-gが有声軟口蓋摩擦音とすると、ちゃんと摩擦音が発音できる民族が最初に中原に居て
その後摩擦音が発音できない民族が征服して発音を真似しようとしても出来ないので
喉の奥で発音してた-gが消えてしまうということは有り得るのでは。

70名無しさん:2011/02/16(水) 17:36:58
「番」が多音字だね。
附袁切、符袁切,音煩。
孚袁切、孚艱切,音翻。
蒲波切、蒲禾切,音婆。
番,音婆。又音蒲。亦音盤。
又《廣韻》薄官切《集韻》蒲官切,音槃。

71名無しさん:2011/02/16(水) 18:11:43
「解」の《韻會》による反切が「舉嶰」で藤堂の推定上古音がkeg
「嶰」は《廣韻》胡買切《集韻》下買切,音蟹。呉音ゲ、漢音カイ

72名無しさん:2011/02/17(木) 02:42:01
-gはそんなに頻出するのに-dや-bがほとんどないって不自然じゃないか?
それに中国語の-k、-t、-pは内破音なのに、無声と有声の区別が付けられるのか?

73名無しさん:2011/02/17(木) 03:07:48
>>67

いろいろな問題がつまっているので、ちょっと分けます。

> どのような場合にkak(gak)になって、どのような場合にlakになったか

これはいろいろ議論されているのですが、決定的な理論はまだないと思います。

まず、中古音に gak は存在しません(g は i の前にしかこないので)。じゃあ
「glak は無条件に lak になった」と考えていいのか、というと、上古 g- は
中古で γ- (匣母)になったと考えられているので、そうもいきません。

李方桂は kl- khl- はそれぞれ中古で k- kh- になったけれど、gl- は「原則
として」l- になったと考えて、 gl- から γ- になったものは少ないので(原
因は不明だが) 例外として扱うとしています。

これについては「本当に例外とできるほど字が少ないのか」という反論がある
ようです(「各」に関する字としては「貉」が例外になる)。

74名無しさん:2011/02/17(木) 04:05:03
>>67 つづき。

> 上古音では「二」がgnisだった

これはチベット語の gnyis ではないかと思います。「二」の上古音が g- では
じめるとしているものは(あるかもしれませんが)ちょっと見あたりませんでした。

「二」の上古音は李方桂が njidh, Baxter が njijs, 鄭張尚芳が njis となって
います。

-s について。去声が入声とおなじく何らかの子音で終わっていた、というのは
昔からある説なのですが、それが -s だったかどうかはあまり確実には言えな
いと思います。もとは Haudricourt がベトナム語の声調の発生に関して -s の
消失がひとつの声調発生原因になっているという仮説を立て(こちらは一般的に
認められているようです)、中国語の去声にも同じことが起きたと考えたのです
が、あくまで理論的な存在で、証拠らしい証拠はなかったのです。

鄭張尚芳の本から -s があった証拠とされるものをあげると(順序は変えた)、

1. チベット・ビルマ語族に -s がある

2. 去声にしかない韻(泰・夬・祭・廃)は六朝期に -t 入声と押韻していた
これは事実のようですが、じゃあ -s じゃなくて -t みたいな音だったんじゃ
ないかとか、ほかの韻はどうだったのかとか、いろいろ考えることがありそう
です。

3. 外国語を漢字で写した古い例に -s に去声をあてたと見られるものがある
これは Pullyblank の説で、タラス川(Talas) を「都頼」と書いたりしている
というものですが、どの程度原音を忠実に表記しようとしたのか不明なので、
たんに -s を無視したとも考えることができると思います。

4. 朝鮮語・日本語の漢語に由来すると思われる語に -s を含むものがある
これは例がかなりこじつけくさい。日本語の例ではナシ(梨)が「柰」に由来
するとか。

というわけで、根拠がかなり怪しいです。

75名無しさん:2011/02/17(木) 04:22:01
>>67 さらにつづき。

> 上古音はBaxterのものと王力のものの大きく二つの流儀があるようだけど、
> 今はどういう説が定説に近いとみなされてるんだろう。

王力は中国(大陸)で権威があったために持ちあげられていましたが、今と
なってはかなり問題があります。

Baxter のは伝統的な上古の韻部をさらに細かく分けたところに特徴があり、
この点は優れていると思います。声母についてはそうとう異論があるでしょう。

> -rとか-gが大量に出てきて開音節がほとんどない

王力も Baxter も -g や -d を認めていません。最近はあまりはやらないよう
です。

76名無しさん:2011/02/17(木) 04:46:39
>>69

反切下字の声母をどうやって選んだかというのは興味深い問題ですが、-n で終
わる字でも「蛮(莫還)」とか「眠(莫賢)」とかいくらでも軟口蓋音ではじまる
下字をもつ例がありますから、それはないだろうと思います。

>>72
いや、-d も多くあります。-b は「内」と「納」のような例がありますが、詩
経の押韻からは -p が入声以外と押韻する傾向が見られないので、かつては存
在したが、詩経の時代にはなくなっていたのだろうと言われています。

> 中国語の-k、-t、-pは内破音なのに、無声と有声の区別が付けられるのか?

英語でも bat と bad の区別が(破裂しなくても)つけられますから、物理的に
区別が不可能とは言えないのですが、周辺民族の言語まで見わたしても実際に
区別している言語や方言が存在しないのが難点です。上にも書きましたが、王
力や最近の多くの説では -g/-d を認めていません。

7774:2011/02/17(木) 05:33:30
>>74
Haudricourt について訂正。ベトナム語の場合は -s じゃなくて -h のような
音が考えられているようです。

78名無しさん:2011/02/17(木) 10:24:51
上古音に詳しい人色々とありがとう。
詩経で閉音節と開音節が押韻する場合、入声と去声が押韻することが多いようだけど、このような関係が生じることを-g説などはうまく説明できるんだろうか?

ちょっとスレタイに戻ると、少なくとも現代の諸方言・諸言語の漢字音では、-g、-d、-b、-rみたいなものは見当たらないよね?
結局、現代の漢字音の祖語にあたるもの(祖音韻体系?)はせいぜい中古音の前後の時代であって、それ以上は遡れないということでいいんだろうか。
現代ロマンス諸語の祖形がせいぜい紀元後数世紀の俗ラテン語にまでしか遡れなくて、紀元前数世紀の古典ラテン語にも遡れないような感じで。

チベット・ビルマ語派まで見れば上古音より前の時代に分岐してるんだろうけど、もはや漢字音という範疇からは外れてくるし。
そもそもシナ語派とチベット・ビルマ語派の系統関係って疑いようもなく証明されてるんだっけ?

79名無しさん:2011/02/17(木) 17:57:11
歴史的な文字情報が示唆する祖語の音韻について、現存する方言についての比較方言学・比較言語学が、
どんなに足掻いてもそのレベルにまで遡れない(現存方言には一切の証拠がない)という例は、
文字言語の歴史の長い言語には、珍しいことではないんだよね。
別に中国語に限った話ではなくて、日本語の「上代特殊仮名遣い」などというのもこれに属すると言って良い。
琉球方言に残滓が若干見られるという説もあるが、これとて牽強付会にもみえるし、
今のすべての日本語方言からどんなに祖語音韻を組み立てても、奈良時代万葉仮名の示唆する8母音または7母音体系は、全く導けない。
(このことから逆に「8(7)母音などは無かった。日本語母音は萬古不易で絶対に5つ」という説すらある。俺はトンデモだと思うけれど)

80名無しさん:2011/02/18(金) 03:05:37
>>78 >入声と去声が押韻することが多い

入声のない北京語話者に入声を説明するときにしばしば去声を例に上げることがある。
入声と去声の共通点は短く発音すること。
音節の長短に重きをおいてリズムを作る場合は他の差異には目をつむることがあったかもしれない。
和歌はリズムを重視し押韻がない。

81名無しさん:2011/02/18(金) 11:21:31
>>80
押韻(ライム)ではなく、詩脚(メーター)ではないのかなあ。
平仄というものが、本来は西洋詩学でいうメトロン(メーター)に近いものだったらしいことには同意する。
「古事記」から「サラダ記念日」に到るまで、日本語の韻文にはメトロンの概念がどこにも全く存在しないので、
(日本語でも卑俗のわらべ歌やポップソングの一部には存在するんだが、「高尚なる和歌の伝統」が下品として忌み嫌うようだ。)
平仄が(日本を除く)ユーラシアの詩歌に共通するメトロンの問題の一環らしいことは、どうも忘れられている節がある。
だが、現代北京語の去声の概念を持ち込んでしまうのは、適切ではないと思う。
北京語の四声は、有為転変を重ねすぎていて、昔の漢語音とは明らかに別物になってしまっている。

82名無しさん:2011/02/19(土) 03:00:53
>>80
> 入声のない北京語話者に入声を説明するときにしばしば去声を例に上げる

これは知らなかった。どういうふうにやるの?
(北京語話者が北京語話者に説明するのか、それとも他の言語・方言の話者が
するのか)

83名無しさん:2011/02/19(土) 03:49:26
>>78
> 入声と去声が押韻

まあそのへんを説明するために -g が立てられたわけですが、入声と押韻して
ないものや、平声や上声のものまで子音で終わることにしたために、かえって
問題が出たわけです。

詩経では去声と入声は押韻しないことのほうが多いです。Baxter によると、国
風・魯頌・商頌ではとくにまれなので(冒頭の関雎に出てきますが)、おそらく
入声 -t と押韻する去声は、もと -ts みたいな形をしていて、ほかの方言では
-ts > -js > -j のような変化をたどったが、西部方言では -ts > -t になった
のかもしれないとのこと。

> 中古音以前に遡れない

個々の音としては中古音で説明できないものもあります。有名どころでは北京
語の「鼻」bi2 で、これは入声に由来するとしか考えられません(平声なら
pi2 になるはず)が、中古音では去声です。上古の去声が有声子音で終わって
いたと考える説であれば、これを *bid のような音のなごりと考えることが可
能です。
ただ、こういう例は体系をなしていないので、漢字音の体系としてみると、比
較によっては中古音にさえ届かないでしょう。

古典ラテン語が俗ラテン語と別に発展した人工言語であることと、中古音が実
は「正しい漢字の読み方」にすぎず、かならずしも実際の言語を反映していな
い可能性が高いこととは、よく似ていると思います。

> シナ語派とチベット・ビルマ語派の系統関係

あまり詳しくありませんが、Coblin のリストを見たかぎりでは、基礎的な語彙
が共通していて、音韻もかなり対応しているようでした。

84名無しさん:2011/02/19(土) 04:11:10
>>81

現代北京語で考えるのは確かに問題があると思いますが、6世紀までは梵語の短
母音に仄声の漢字を、長母音に平声をあてているという水谷真成氏の研究があり、
去声が声調として独立したころは短い音だった可能性が高いようです。
(7世紀以降は短母音に上声、長母音に去声をあてるようになる由)

85名無しさん:2011/02/19(土) 04:52:55
>>79

たとえばアイヌ語諸方言は 5 母音で、古い文献もありませんが、Vovin のアイ
ヌ祖語は比較によって e と o を 2つに分け、さらに内的再構によって 5つの
母音を加えて 12母音のシステムにしています。

日本語の場合、万葉時代の音韻をそのまま再構するのは不可能でしょうが、現
代語しかなくても e が他の母音よりずっと少なく、かつ出てくる場所に特徴が
あることはわかります。そこからアメ/アマのような例を手がかりに e ← ai
のような変化を考えることができ、同様に u/i, o/i の交替例をもつ i をそれ
以外の i から分けるところまではいけるでしょうね。

> 日本語母音は萬古不易で絶対に5つ

これは知りませんが、万葉時代の母音を 5 つとした松本克己氏の講義なら聴い
たことがあります。
トンデモというのは結論に到る過程が言語学的にみてダメなものをいうと思い
ますが、松本説は(結論が正しいかどうかは別として)その意味ではきわめて
まっとうな説でした。手元にノートがあるので紹介できます。

86名無しさん:2011/02/19(土) 04:55:24
>>85
後半の松本克己の話を聞きたいので上代特殊仮名遣のスレで頼む。

87名無しさん:2011/02/19(土) 13:02:29
日本語、朝鮮語、ベトナム語における漢字音の需要はいつ頃どのように行われたんだ?
単発の語彙ならともかく、数千もある漢字音を体系的に導入するのにはかなりの努力がいるだろう。
中国語話者以外が習得して持ち帰ったのか、中国語話者が直接広めたのか、実態はどうだったんだ?

どちらにしろ中国語話者の発音に直接接することができるのは限られた人数だったはずだが、
それ以外の人はどうやって漢字音を習得したんだ?特にそれぞれの言語本来の音韻体系からはみ出す音。

例えば日本語の場合、語頭の濁音とラ行、閉音節の-k、-t、-p、-m、-n、-ng、ai、au、ouなどの二重母音、
開拗音CjVと合拗音CwVなど、本来の日本語の音韻体系に無かった音が大量に入っているが、
このような音が、文字も知らない庶民に至るまでどうやって遍く受け入れられるに至ったんだろう?

88名無しさん:2011/02/19(土) 23:51:05

>>82
次のHPで入声の説明をしている。
http://tieba.baidu.com/f?kz=118321545
>“入声短促急收藏!” 这是最关键的.
「短促」は妊婦に対する指導でよく使われる語。「短促呼吸」とは、「ハッハッハッハッ」という短めの呼吸法。
「急收藏」は急いで(息、音を)収める、止めること。

>一般来说,普通话中,凡是声母为b、d、g、j、zh、z,声调为阳平的字,都是入声字。
普通話で頭子音がB、D、G、J、Z、ZHで第2声だったらすべて入声字だ。

>声母为d、t、n、l、z、c、s,韵母为e
頭子音がd、t、n、l、z、c、sで韻母がeならすべて入声字だ。

>声母为k、zh、ch、sh、r,韵母为uo 
頭子音がk、zh、ch、sh、rで韻母がuoならすべて入声字だ。(例外は「庫」)

>b、p、m、d、t、n、l,韵母为ie
頭子音がb、p、m、d、t、n、lで韻母がieならすべて入声字だ(例外は「爹」)。

>韵母为ue(u读迂)的字都是入声字
韻母がue(uは迂[y]と読む)ならすべて入声字だ(例外は「嗟」、「瘸」、「靴」)。

89名無しさん:2011/02/20(日) 21:11:53
上古音の時代の押韻は母音や子音、声調によるものではなく長さによるもので、
入声と去声が押韻してるからって無理に去声に閉音節を想定する必要はないということ?

90名無しさん:2011/02/21(月) 13:42:44
>>87
二重母音は[j]や[w]の半母音をデリミタ ー【delimiter】として用いて
音節、モーラの区切りとしていた。
「十」を表わす「とお」の古い形は「とを」でそれが訛ったものが
3モーラの「とうお」として関西弁に残っている。
「女王様」を「じょうおうさま」と発音するときの1番目の「う」は
デリミターの[w]の名残りだろう。

「場合」を「ばわい」「ばやい」とも発音する方言がある。
標準語というのはそういうデリミターの[w]や[j]を無視しようとする
引力のような物に支配されているようだ。
例:キヨスク→キオスク、ギリシャ→ギリシア

91名無しさん:2011/02/22(火) 04:32:54
>>87

一般の人が大量の漢語に接したのは、日本では(たぶんベトナムも)
仏教関係だと思う。ただ日本語化した漢語には「せうそこ」みたいに
漢音とも呉音ともかけはなれたものがけっこうあって、それがだんだん
ならされていったようだ。

日本漢字音には -k, -p, -ng はそのままの形では存在していないし、
-t -m -n は音便の形で和語にも存在したはず(奈良時代にあったか
どうかはよくわからないが)
拗音はたしかに新しい音で、今でいうと「ファ」みたいなものだったろう。

朝鮮やベトナム漢字音には、漢語にしかない音というのはあるだろうか?

92名無しさん:2011/02/23(水) 10:43:16
>漢語には「せうそこ」みたいに

昔は「う段音」だったけど今は「お段音」あるいはその逆だという語はけっこうある。
 ゴーグル⇔グーグル
 ヤッホー⇔ヤフー
これは西日本方言の「う」の円唇性が強く東日本方言の「う」と音色が違うので
東日本の人が西日本方言の「う」を「お」で真似したということがあるかもしれない。

93名無しさん:2011/02/23(水) 11:24:30
>>92
いや、これは「博士」をハカセというのと同じ原理で、
前の母音をくりかえしているもの。

94名無しさん:2011/02/23(水) 17:32:31
>>92
さすがにふざけすぎだろw

95名無しさん:2011/02/23(水) 20:11:58
高校漢文に史記の項羽と劉邦の戦いの話が出てくるが
項羽は范増を「亜父」と呼んでいる。

この「亜父」の読みだがドシロウトは「あふ」と読む。
教育TV「新 漢詩紀行」に金曜日に登場する
石川忠久先生は四十年余り昔TV高校講座の時間に
「あほ」と読めと仰せられた。

96名無しさん:2011/02/24(木) 05:08:18
>>95

読み癖だからしょうがないけれど、本来「父」の二つの音は清濁の違いに
過ぎないので、理屈の上ではどっちも「フ」でいいはずなんだよね。

たぶん注釈に「父音甫」と書いてあるせいで、ホと読むようになったん
だろうが、いつごろからこういう読み方が発生したのか疑問。

そもそも「甫」をホと読むのは異例で、こういう例は「甫・輔・簠」のように
「甫」を声符としたものにしか存在せず、おそらくは「浦・補・捕・舗」
などの類推だろう。

朝鮮語でも「父」は bu と bo (= 甫) を区別するらしい。日本語と同じ
ことが起きたんだろう。

97名無しさん:2011/02/24(木) 05:16:03
あと、「漁父辞」がギョホなのに「田父野叟」がデンプなのは
理屈に合わないと思う。漢文の教科書に出るような有名な語でだけ
ホと読むんじゃないだろうか。

98名無しさん:2011/03/09(水) 19:34:42
>>91
日本でも、平安時代頃までは-k、-t、-p、-m、-n、-ngなどの
閉音節がそのままの形で取り入れられていたようだな。

しかし院政時代から鎌倉時代にかけて、
-k、-p、-tなどは母音が付いた形が一般化していき、
日本語の中に取り込まれていった。

その中でも、-tはかなり遅くまで残っていた。
1604年の『日本大文典』には、butmet(仏滅)だとか、
bat(罰)などの形がある。bachiに同じともあるので、併存していたのだろう。
これが日本語の促音が「っ」で表される理由でもある。

-m、-n、-ngなども当初は区別されていたようだが、
-ngは-i、-uの鼻母音を経て母音化した。
また-mと-nも鎌倉時代までに区別が失われ、-Nとなった。

99名無しさん:2011/03/09(水) 19:42:19
butmetとかbatとか、一体何モーラでどんなアクセントが付いていたんだろう?

100名無しさん:2011/03/10(木) 12:11:29
>>98

-t や -n (-m も?)を閉音節として受けいれたことはそうだろうけれど、
それ以外の -k -p -ng については証拠がある?

101名無しさん:2011/03/10(木) 21:27:48
>>100
少なくともPについては、現代語の「合併」「合唱」で例証としては十分なんじゃないの?
これは「ガフ」という音が存在したことを明らかに示すもので、
熟語が促音になっているということからも、
gaΦu>gau(語中Φの消滅は西暦1000年頃)ではなくgapであったことが推測される。
「十個」を「じゅっこ」と発音することは今でも俚言扱いする人がいる。字音語としては訛りだからだ。

102名無しさん:2011/03/11(金) 02:57:45
>>101

いや、gap だったらガウには変化しないでしょ。
最初から -u があったと考えないと。

103名無しさん:2011/03/11(金) 10:59:37
>>102
最初は母音が無かったけど、日本語に馴染んでいくにつれて母音付きの形が出てきたということでしょう。

104名無しさん:2011/03/12(土) 03:34:33
いちおう手元に沼本克明「平安鎌倉時代に於ける日本漢字音に就ての研究」
(1982)があるので、これによると

A. 橋本進吉(「古代国語の音韻」ほか)は -p が直接促音になったとする

B. 小林芳規・小松英雄・奥村三雄ら最近の説では -φu の u が無声化して
&nbsp;&nbsp; 促音になったとする

の二説があり、どっちとも言えない。両方あったかもしれないが、すくなく
とも B があったことは否定できない。

とのこと。したがって「促音化があるから -p と読んでいた」とはならないみ
たいです。


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