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【新大久保】ウルトラグレイス24 Part.14【ホテヘル】

1700名無しさん:2015/10/31(土) 13:30:53 ID:m9.QzJBg0
ところで、画虎実体化事件に対する馬琴の態度を示した言葉「苛政は虎より酷しと
ぞいふなる、古人の格言思べし」は、礼記・檀弓下第四にある有名な句「苛政者猛於
虎(苛政ハ虎ヨリモ猛キ)」を出典としている。「檀弓」である。まぁ、この字句自
体は人名で、別に重要な人物でも何でもないのだが、「礼記檀弓」は言葉として有名
だったりする。また、礼記は武道の中で弓術を勧める書でもある。唐突だけど、そう
なのだ。戦争は別だが弓道の試合は、相手が如何に動こうと関係ない。競技者は相手
ではなく、的に向かっているからだ。激しい闘志を秘めつつ、相手に順番を譲るとか
何とか、<礼>を尽くすことが出来る。しかも、勝とうが負けようが、痛くも痒くも
ない。当たれば的が破れるだけだ。試合を終えて、ノーサイド、腹蔵なく酒を酌み交
わすことが出来る。まぁ、個人競技は、だいたいそうなのだけれども。……しかるに
よって、弓術は<礼>を養うに絶好の武道なのである。弓道と礼記は、相性が良いの
だ。また、八犬伝中、京で五人の武芸者が登場する。その中には犬飼現八の兄弟弟子
もいるのだが、唯一性格が良いのは秋篠将曹だけだったりする。他の四人は悪役もし
くは小人として描かれている。後に二度、勅使に選ばれている。朝廷の信任も厚い宮
城護衛の士である。この秋篠将曹が得意とする武術が、弓なのだ。そして、礼記・檀
弓下に於いて、上記「苛政者猛於虎」のエピソードの暫く後に、同じく孔子の挿話が
載せられている。孔子の飼い犬が死んだとき、孔子は下男なんかではなく高弟の子貢
にワザワザ命じて、手厚く葬らせた。この挿話は、平八郎が『剳記』に於いて、孔子
の仁心の篤さを表現したモノだと解釈を下した部分でもあるが、まぁ、ソレは措く。
親兵衛は画虎事件を解決、目出度く安房への帰途に就く。仁は馬に乗って帰る。が、
程なく馬が急死する。仁は、馬を葬る。そのとき仁が披露する蘊蓄が、「我聞唐山古
昔の制度に、狗を埋るに蔽蓋を以てし、馬を埋るに蔽帷を以てすといへり。この事礼
記の檀弓に載てあり」(第百六十六回)。まさに、上に掲げた礼記檀弓下第四である。
画虎事件に関して、馬琴、何やら礼記檀弓に拘ったようだ。「礼」もしくは「弓」…
…。そういえば犬江親兵衛は、名馬の力を借り、弓を使って虎を退治した。馬は火気、
火気の徳は礼……。江戸初期、九州に領した加藤清正だって、弓みたいな飛び道具な
んか使わず、槍で虎を倒したことになっている。弓や鉄砲で虎を退治するより、素手
とか刀で倒した方が、親兵衛の化物じみた武勇の証明になろう。しかし、親兵衛は、
馬と弓を使った。……またしても脱線だ。話を戻そう。

 岩波文庫版(八巻)第百四十一回の挿し絵は、寓意に満ちている。画中、喧嘩して
いる於兎子と巽の間に樵六が割って入って仲裁している。しかし、画面には、変なモ
ノが描かれている。部屋の壁に兎の絵が貼っているのは良いとして、画面の右に犬が
描かれている。犬が表戸の間から、何だか笑顔で中を覗き込んでいるのだ。視線の先
には、於兎子がいる。
 『五行大義』論害に云う、「両両相害名為六害、……寅与巳、卯与辰……(リョウ
リョウソウガイナヅケテロクガイトス、イントミト、ボウトシント)」、巳と寅は相
性が悪く、辰と卯は相性が悪いので、巽/辰巳と兎/卯であり虎/寅である於兎子の
相性は最悪だ。また一方、実は五行説は、相性の良さ「合」にも言及している。合の
理に於いては「故卯与戌合(ユエニボウトジュツトゴウス)」(論合)、戌/犬と卯
/兎は相性が良いのだ。いや、そんな事を言おうとしたんじゃなかった。

 この犬、大きさといい、雑毛であるところといい、八房にソックリだ。八犬伝の挿
し絵は馬琴自らラフ・スケッチを描き指示を与えて描かせたという。犬も馬琴が描か
せたのだろう。しかし、何故、馬琴は八房と思しき犬を画面に配し、笑顔で於兎子を
眺めさせているのだろう。お手元にあったら、御覧になるが良い。その犬の表情は、
ナリこそ大きいが、まるで母親に対する子犬の如く愛らしい笑顔なのだ。

 於兎子は別に浮気をしたりはしない。いや、抑もは浮気をして巽と駆け落ちしたん
だが、巽以後は浮気をしていない。相性の良い犬/戌に関係があると思われる異性との
接触は記されていない。ならば、犬が於兎子を笑ましげに見つめる意味は? 
別に愛人関係だけが人の絆ではない。親子の情も、恩愛である。そして、この笑う犬が
八房であるならば、話は如何にか繋がってくるのだ。八房は、幼くして母犬を亡くした。
母親代わりとして八房を育てたのは、狸だった。




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