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1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/05(金) 20:22:45 ID:R4QiEhY.O


146120/140:2013/09/14(土) 02:12:03 ID:BxExUQ.Y0
地に伏したミセリの左腕に、シューはそっと手を触れた。
呪毒をなぞるように、彼女の遺した"黒"の精霊がその身体を押し包む。


lw;*~/._ ノv「『我が名において』――『命ずる』……ッ!」ゲホッ

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「何をしている……おい、その詠唱を止めるだす」


シャーミンの歪な腕が、強かにシューを打つ。

ミセリには、何も出来なかった。
無造作に拳を振り下ろすシャーミンに剣を向けることも、身を捨てて盾となるシューを止めることも。

血を吐き、歯を食いしばって詠唱を続けるシューをただ見上げることしか出来なかった。


lw;*~/._ ノv「『八重八十重の、花――』」
,(:::::゚:;;;;)(::::::。:;;;;),「……止めろ。詠唱を止めろと言っているだす! 」


精霊が渦を為し、シューの手に集まる。
止める事は、もはや叶うまい。
シャーミンは忌々しげに彼女を殴りつけた。

目や口、耳鼻から血を流しつつも、彼女は自ら生み出した金色の野に不死の王を振り返る。
ミセリは呪毒に苦しむはずの彼女の、満足気な、勝ち誇ったような顔を見た。

147120/140:2013/09/14(土) 02:12:34 ID:BxExUQ.Y0
"黒"の親和は、魂に触れる忌まわしき力。
心を繰り、情を繰り、果ては命にすらその手を触れる、異端の力。

魔人は、その力を命に触れる術に注ぎ込んだ。
死せる身体を、消えゆく魂を、精霊の"黒"を持って補う、酷薄たる死の取引。
得たものは消し得ぬ呪いに満ちた、病める生命を樹海にもたらす。

呪式士は、その力を心に触れる術に注ぎ込んだ。
内なる記憶を、刻まれた意思を、精霊の"黒"を持って書き換える、強欲な闇の取引。
得たものは――


『八重八十重の花――灰折り重なる空に咲け』


その命は、柔らかく、優しい言葉。
精霊は主の意に従い、彼女の手の中に薄く温かな光を灯す。

その姿は、春の風に眠る幼子の如き。

148120/140:2013/09/14(土) 02:13:52 ID:BxExUQ.Y0
,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「……枝、と、花?」

lw;*~/._ ノv「……ああ。理知的な私らしく、なかなか洒落が利いているだろう?」


この花は、私なんだ。

呪式士の言葉を理解する前に。
鮮やかに柔らかく色付いた、紅色の蕾が花開いた。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「え」
ミセ*; −)リ「!」


穏やかな光に、ミセリは身体がスッと楽になるのを感じた。
腕と首に刻まれた呪毒の苦しみが、ゆっくりと引いてゆく。

赤子の柔肌の白、色付けるは血潮の深紅。
己の身体を抜けてゆく呪毒、その行く先を、ミセリは見上げた。


ミセ*; −)リ「……何が……?」


その手に捧げ持った一枝が花開くと共に、呪式士は淀んだ『呪』に黒く染め上げられてゆく。
……そして、八重に咲く花に『呪』を奪い取られているのは、ミセリだけではなかった。

149120/140:2013/09/14(土) 02:15:00 ID:BxExUQ.Y0
シャーミンが断末魔に喘ぐ一方で、『呪』の苦しみから解放されたミセリの身体には、僅かに力が戻っていた。

必死に剣に手を伸ばすミセリを振り返り、シューは穏やかに微笑む。
呪毒に命を侵され、身体を引き裂かれ、それでもその二本の足で立つ彼女は、美しかった。


ミセ*; −)リ「止めろよ……もう、あなたは……」

lw;*;;;~/::._ ノv「……流石に私の呪毒までは消せないのさ。せめて、最期まで出来る事をさせてくれ」

ミセ*; ‐)リ「そんな、そんなの、それじゃ、私――私は、あなたを助けたかったのに――」


彼女はゆっくりと首を振った。

魔人となった魔導師の、シャーミンの身体が、日差しの中の湿り土のようにボロボロと崩れてゆく。
再び剥き出しになった術式核が、削れた芋虫の胴の下で断末魔の悲鳴を上げ、"黒"に明滅していた。

呪式士の枝には次々と新たな蕾が芽吹き、咲き誇ってゆく。

150以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 04:15:58 ID:JZ.kedSU0
きてたー!乙

151以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 04:16:44 ID:rb7556EcO
いいところで……、朝起きてPC直ってたら続きを!

152以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:37:24 ID:H2SISWgY0
lw;*;;;~/::._ ノv「……充分だよ。キミは私の……私達の旅を、見届けてくれた」

ミセ* ‐)リ「!」


呪式士の手の中で、かつて生命の輝きを失った魂達が再び淡い薄紅に光り、咲き誇る。
闇に舞う花弁の儚い色は、彼らの、そして彼女自身の旅の、その終着点を飾るように。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「ヤメロ、やメ――」

lw;*;;;~/::._ ノv「『我が名において、命ずる――八重八十重の花、吹き抜ける東風に舞え――』」


幾千にも散った薄紅色が稲穂の海の金色を照り返し、暗い湿林を引き裂いて天へと昇ってゆく。

陰を消し飛ばす淡い光の大渦の中で、ひび割れてゆく術式核の声が聞こえた気がした。
それは寂しげな、安堵するような、小さな言葉。

十数年にも及んだラウンジの長い夜が、終わりを迎えた。

153以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:39:18 ID:H2SISWgY0
……

役割を終えた薄紅の花と金色の野が、静かに光を失い、消えてゆく。
人型に戻ったシャーミンは、術式核から精霊を噴きだし、膝を突いていた。

戦うだけの力は無いだろうが、それでも、まだその核は生きている。

静かに見下ろす呪式士に、シャーミンは背を向けた。


,冫,,)( ,,;; ノ",「あ、あぎぃ……おいどん、の身体がぁ……!」
  A"  「こんな、所でっぇぇええぇ……!」


ボロボロの身体を引き摺って、魔人の残骸は樹海の奥へ逃げてゆく。

呪式士は、それをただ見送った。
彼女の全身を覆う『呪』は今も緩やかに主の命を蝕んでいる。


lw;*~/._ ノv「あれのことは放っておけば良いよ。どの道、すぐに消滅する」

ミセ* −)リ「……すぐに、森の外に」
lw;*~/._ ノv「それも要らない。どの道、私もすぐに消滅する」


根っこのところまで『呪』にやられていて、もうどうしようもないのさ。

呪式士はミセリのすぐ側に腰を下ろした。

154以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:40:27 ID:H2SISWgY0
ミセ* ‐)リ「じゃあ……それじゃあ……!」

lw;*~/._ ノv「何もしなくて良いよ。もう終わったんだ」

ミセ* ‐)リ「だって、私、何も……!」

lw;*~/._ ノv「気付いてるかい? 最後の術のとき、シャーミンが私の憎悪を糧にできなかったこと」


キミが居たからだよ。
キミが居たから、私は憎しみのまま終わらずに済んだ。

呪式士は、ミセリの左胸で熱を持つ痣に、そっと指を触れる。

――術式印。
ミセリが気付いたのは、その痣が身体を離れ、精霊となって呪式士の元に戻ってからだった。

自分を為していた大切な何かが、そのまま抜け落ちたような感触。


ミセ* −)リ「……ヨツマで既に付けてたの?」

lw;*~/._ ノv「そ。なに、預けていたものを返してもらっただけだよ」

155以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:41:15 ID:H2SISWgY0
ミセ* −)リ「私の記憶を消したのも、それ?」

lw;*~/._ ノv「ちょっとだけ違うな。コメとライスくらい絶妙に違う」


言うなれば、魂の表面に薄い膜を付けておいたようなものだ、呪式士は説明する。
ミセリの中の彼女の記憶を、または、ミセリの魂を侵す呪毒を、表面に留める為の膜。
後にそれらを剥ぎ取りやすくする為の、言うなればただの下準備だ。


lw;*~/._ ノv「つまり、あれは言うなれば田植えの前の開墾だ。こう言えばわかるかな?」

ミセ* ー)リ「分かりにくいよ……」


汗と泥にまみれたミセリの頭を、細い指が梳く。
呪式士の優しい指に、身体に溜まっていた疲れは眠気を為す。

そうして微睡むミセリを置いて、彼女はスッと立ち上がった。

156以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:41:59 ID:H2SISWgY0
「私ももう行くよ、ここに居たらキミも新しい『呪』に巻き込んでしまうから」

ミセ* −)リ「……あ」


彼女の袖へと伸ばした右手は、何も掴めなかった。

――大丈夫、目覚める頃には、すべて忘れてるから。
名を呼ぼうとして初めて、ミセリは彼女の名前が既に思い出せないことに気付いた。


「ああ忘れてた、その腕輪はキミにあげるよ。心ばかりの報酬だ」

ミセ* ‐)リ「待ってよ……待って」

「『悠久に座す静寂よ――』」

ミセ*;−)リ「お願い、待って――」

157以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:42:53 ID:H2SISWgY0
……


,冫,,)( ,,;; ノ",「あひぃ……『呪』、『呪』を吸収、いや、人の、人を――核を交換しなければ……ッ!」


破れた魔人の残骸は、樹海をふらふらと逃げていた。

信じ難い、有ってはならない敗北。
歩みを進めるシャーミンの"心"は、怒りと憎悪に震える。

しかし、今はそれよりも。
彼は体内で明滅する核に目を向けた。

傷つきひび割れた'それ'は、もはや崩壊を待つのみだった。

――この身体は、じきに"死"ぬ。
狡猾な魔導師は手にした不老不死に早々に見切りをつけ、"生き残る"手段を必死に探す。


( )


彼が樹海をさまよう小柄な人影を見つけたのは、その手段を『憑依』に定めた丁度その時だった。

158以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:43:46 ID:H2SISWgY0
,冫,,)( ,,;; ノ",「お、あ……あの、そこの、方――頼む、助けて――」

( )「……」


シャーミンは出来る限りの哀れさを装い、よろめく足取りで影に近付く。

影は、答えない。
シャーミンは内心で舌打ちしつつも、尚も必死な素振りで話しかけた。


,冫,,)( ,,;; ノ",「すまねぇ、ちょっとでいい、近くに来て、ぐれッ」


もはや、核は崩壊し始めている。
これは彼にとって、事実上の最後のチャンスだった。

……縋るような声に答えるように、人影は緩慢に振り返る。

159以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:44:31 ID:H2SISWgY0
(` )「……待ってろ」

,冫,,)( ,,;; ノ",「は、はぁぁああ、恩にき――!!」
「――そうやってオサム達も騙して、『呪』にしたんだな」


背中に、衝撃。
血も痛覚も無い身体は、ただ違和感だけを訴える。

――核、核を守らなければ。
無意識に伸ばした手は、腹から突き出した人の腕に触れて止まる。

どてっ腹を突き破った腕の、その指先には、小さな女物の髪留め――シャーミンの術式核が握られていた。


,冫,,)( ,,;; ノ",「え……あ……おぁ、お前ぁッ!」

「久しぶりだな。再会早々で申し訳ないが……もう歳なんだ、そろそろお休みの時間じゃないか?」

,冫,,)( ,,;; ノ",「ま、待で、やめてぐれ! お前は俺の息子だろ――」


胴体から引き抜かれる腕、シャーミンはその主を振り返ろうとして、しかし出来なかった。
膝が、腕が、腰が、身体中が、支えを失った糸繰り人形のように崩れ、土塊と化してゆく。

小さな術式核は、小柄な影の手の中で粉々に砕かれていた。

160以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:45:09 ID:H2SISWgY0
,冫,,)( ,,;; ノ",「――おのれ――ド――ク、オ――」


それが、呆気ない終わりを迎えた魔人もどきの、最後の言葉だった。
遺された土の塊には、呪砲を発明し、ラウンジを隆盛せしめた、偉大なる魔導師の面影は無い。


('A`)「気安く呼ぶんじゃねぇよ、クソ親父。……じゃあな」


別れの言葉は、たった一言ですんだ。
踵を返し、男は独り暗い樹海を歩む。

161以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:45:43 ID:H2SISWgY0
……

エピローグ2/3-1/3-1/3

……

162以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:52:34 ID:H2SISWgY0
('(゚∀゚∩「肩と肘が見事に砕けてるよ。手首もきっと折れてる。で、それぞれ炎症のおまけつきと来た」


温厚なナオルヨ先生が冒険者を叱り飛ばす様子は、この薬方院の名物だ。
私はつい気になって、脇腹の傷に響かないようにそっと寝返りを打った。

今朝隣のベッドに入ってきた患者さんは、女性だった。
女性というか、まだ少女と呼ぶ方が良い年齢の冒険者。

肌着から伸びる彼女の左腕には、芍薬の甘い香りが染み込んだ包帯。
伝承のミイラを思わせるその腕に、先生は木彫りの腕甲を当てがう。

彼女が昏睡から目覚めたのは、確か数刻前だったはず。
つまり、彼女は数刻にも渡って先生に説教されている。


('(゚∀゚#∩「ここまで酷いのはそうそう見ないよ! どんだけ長い間感覚を遮断してたのさ!」

ミセ ;-ー)リ「ご、ごめんなさい」

163以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:53:07 ID:H2SISWgY0
痛みは身体の大事な信号云々、先生の怒りの説教はゴリゴリ続く。

私は思わず目を背けた。
先生は本当に、本当に優しい人だ。冒険者が無茶をすると、決まってああして説教に入る。
今日ほど怒っているとなると、誰かが止めなければ、朝までだって延々と話し続けるだろう。

今日この場についてその役を請負ったのは、彼女に付き添っていたもう一人の少女だった。


(*‘ω‘ *)「……で、どれくらいで治るっぽ?」

('(∀゚∩「……うーん、薬漬けで絶対安静にしてれば、たぶん一月ないくらいで治るよ。自信無いけど」


付き添いの少女の問いに、ナオルヨ先生は顔を顰めた。

先生のそういう様子は珍しいから、私もつい身を乗り出してしまう。
もしかして、よっぽど症状が重いのだろうか。


(*‘ω‘ *)「怪我の割にはえらく早いな。自信無い、ってのは?」

('(゚∀゚∩「"緑"持ちは自然治癒が馬鹿みたいに速いからね。有る程度処置したら、あとはほぼこの子次第だよ」

(*‘ω‘ *)「成程」


成程。

164以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:53:30 ID:H2SISWgY0
('(∀-#∩「全く、今はアイシス局長も戻ってないのに……」


ナオルヨ先生は頭を掻きながら個室を出てゆく。

人出が足りないというだけの事はあって、それなりに忙しそうだ。
恒例のお説教が若干短いのもそのせいだろう。

傷だらけの少女が、その背中に声を掛けた。


ミセ ゚ー゚)リ「そだ、ナオルヨ先生。渡辺さんは元気?」

('(゚∀゚∩「……渡辺さんって誰?」


不思議そうに問い返す先生に、ベッドの少女は驚いた様子。
彼女はそれ以上深く追及せずに、言葉を濁して先生を見送った。

先生の姿が敷居の向こうに消えると、付き添いの少女も首を振って、もたれ掛かっていた壁から背を離した。


(*‘ω‘ *)「……あたしも先に用事を済ませて来るっぽ。一人でも寂しくないな?」

ミセ ゚ー゚)リ「大丈夫だよ……あ、ぽっぽちゃん、ちょっと待って」

(*‘ω‘ *)「あん?」

165以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:54:11 ID:H2SISWgY0
ミセ ゚ー゚)リっ∮「このブレスレット、知ってる? すごく良い増幅器みたいだけど……」

(*‘ω‘ *)「……それは、依頼人からお前への報酬だっぽ。大事にしてやれ」

ミセ ゚ー゚)リ「……? うん」


当然だけれど、ほとんど盗み聞きしているような私には、二人の話が全く分からない。
ところが、それは寝ている方の少女も同じだったらしく、少し困惑したように頷いた。

二、三言葉を交わして付き添いの少女が出てゆくと、ベッドの少女は窓の外を眺めた。


ミセ ゚ー)リ「……あのさ。そこの樹だけど、あれってなんて名前?」


私ははじめ、それが私に向けられた言葉だとは気付かなかった。

この病室には、他に誰も居ない。
どうしたものかと悩む私に、彼女はちらっと視線を寄こす。

あれは、桜っていう樹だよ。

私はなるべく平静を装って答えた。


ミセ -ー)リ「……そっか。ありがとう」

166以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:56:59 ID:H2SISWgY0
少女は起していた上体をベッドに寝かせ、天井を仰ぎ見た。

窓の外では、秋の風に桜花が静かに揺れている。


ミセ ー)リ「なんでかなぁ」


一人きりの病室に、呟きが漏れる。
遠くの足音、話し声。窓の外で風が草木を揺らす音。

私は静かにベッドを抜け出した。
そのまま壁をすり抜けようとする直前、彼女はもう一度、私に声を掛けた。


ミセ ∩ー)リ"「……ごめんね、気を遣わせちゃって」


私はただ何も言えず、静かに中庭へと降り立った。

いずれ彼女にも再び武器を取り、樹海へと挑む時が来る。
血や涙を、心を失った私には、そんな彼女が羨ましかった。

……

167以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:57:39 ID:H2SISWgY0
……

親和で強化した目を通しても、一寸先も見通せやしない。
彼女は諦めて親和を切り替え、嗅覚に神経を集中させた。

微かな花の香りが潮の磯香に交じり、道標のように漂う。

……螺旋階段を下りた先は、光片一つすら無い、真の暗闇だった。
彼女はゆっくりと磯を辿り、やがて一つの独房の前で足を止める。


从'ー'从 ノ「よっす。不様ですなぁ」

「……嫌味でも言いにお出でなさったのかな」

从'ー'从「そんなんじゃないよぉ、追加のお仕事」

「っと、何これ……マメノキ?」

从 'ー从「外区画の素直別邸、五刻後。どっくんが潜伏してるから、補佐して」

「補佐……って、親和も殆ど無いあたしに何をしろって?」

从'ー'从「呪毒の除染治療だって。ラウンジとの重要な情報管だから、何としても死なせられないんだ」


独房の闇の奥から、溜息が暗闇に漏れる。

168以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:59:02 ID:H2SISWgY0
「無茶言ってくれるよね。ま、ドクオさんが居るなら何とかなるか」

从'ー'从「うん。それじゃお願いね、局長」

リハ*゚−リ「……はいはい、サクッと行って来ますよ」


音と光、風の無い独房に、背を向ける。
巻き添えになるのも、疑われるのも避けなければならない。

数刻の後、巨大なマメノキの蔓が地下牢を貫き、ラウンジはシハサ牢獄の屋根をぶち破った。

……

169以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:00:31 ID:H2SISWgY0
……


飛び散った欠片を拾い集めるように。

物語は、続く。


……

170以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:03:50 ID:lDx7oePY0
長らくのご静聴、ご愛顧、ご支援、誠にありがとうございます。
長くて重くて筆の乗らない第二章はここまでとさせて頂きました。

例によって、何かありましたらこちらにお願いします

171以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:09:17 ID:lDx7oePY0
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/link.cgi?url=http://www.youtube.com/watch?v=neibvJHm55Y

172以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:10:34 ID:lDx7oePY0
おっと、誤送信。参考資料でhttp://www.youtube.com/watch?v=neibvJHm55Y

引き続き、ミセリ樹海をよろしくお願い申し上げます。

173以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:22:34 ID:gG6dZ6fI0
おつ!

174以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 11:57:58 ID:tmj2j0qg0
乙!
さっさと仕事終わらせよう

175以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 17:43:16 ID:rb7556EcO
痣はレズシーンのときだろうが記憶はいつ消したんだろう 
誰か教えて!

176以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 20:27:07 ID:cjYADz8.0
……あれ、レズシーンなんてあったっけ?
記憶はシャーミン戦の最後の方、地の文からシューって文字が減りはじめたタイミングを裏設定してました

177以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/15(日) 01:12:59 ID:.S/qUy860
おおう、シュー…
ドクオも複雑な生まれだったんだね
乙!!!!

178以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/15(日) 02:07:44 ID:Hi8l056UO
>独房の闇の奥から、溜息が暗闇に漏れる。 
 
誰が幽閉されてるか気になるがこれはネタバレだからだめな質問だろうな

179以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/15(日) 05:43:04 ID:Cfzo/lqk0
>>178 アイシスじゃない?
渡辺さんってラウンジで工作してたって下り、確かどこかにあったよね。読み返して来るか……

180以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/16(月) 04:04:09 ID:FT/CcP6U0
何気にクーが天涯孤独になってしまったなあ

181以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/16(月) 21:56:55 ID:DeX6v6sA0
え?
シュー生きてるんじゃ無いの?
俺の勘違いなのか?

182以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/16(月) 22:55:54 ID:HCt7uo5U0
そもそもクーの実家は普通に健在……だよな?
しばらく待てば拳マスタリーLv10のヒートちゃんも出して来るはず

183以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/28(土) 03:15:23 ID:6OHruua20
|ω・`)チラッ

184以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/03(木) 18:48:21 ID:/wB/xqdQ0
すんません、ちょっと職探しがですね。このままだと僕自身も樹海に入る事になってしまうのです
良ければまた月末を目処にお願いします

185以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/03(木) 22:57:46 ID:9hCeOGbU0
就活乙
俺もなんだぜ、お互いがんばろうな!

186以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/18(金) 10:51:04 ID:iVKaWUls0
作者「樹海で逝く者のようです」、か

187以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/29(火) 02:38:28 ID:NikpwrD60
月末やでー!就活どうよ?

188以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/29(火) 21:08:56 ID:NVbNvU6Q0
就活って一つ内定貰えると勢いつくよね
たまには息抜きも大事だよ

189以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/11/01(金) 21:44:57 ID:FRKYM5lw0
ごめんなさい実はまだ内定いっこも貰ってないんです

190以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/11/04(月) 01:59:10 ID:nGhtVsFw0
俺もなんだぜ…

191以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/18(水) 22:01:38 ID:otpZ82sk0
二つ、報告します

192以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/18(水) 22:03:38 ID:otpZ82sk0
まず一つ目。いいニュース

健闘の甲斐あり、というか、皆様のご支援の甲斐あり、無事に北海道のとある企業様から内定を頂きました!

193以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/18(水) 22:04:50 ID:otpZ82sk0
そして二つ目は悪いニュースですが。




内定もらったんだけどね。
卒論不受理で留年確定しましたorz

194 ◆LpPqFskzB6:2013/12/18(水) 22:09:37 ID:qByO7/qM0
いやー、本当ね。
地球、樹海に沈まねぇかな。マジで

こんなゴクツブシですが、来年もよろしくお願いします

195以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/19(木) 09:46:44 ID:.JWAQoOsO
あらー、色んな意味で乙ですな

196以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/19(木) 18:39:15 ID:wpM4QqA20
おっと、忘れるところだった
ミセリ誕生日おめでとう

197以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/20(金) 00:03:27 ID:W6U854Js0
おお、それは大変だったな・・・乙
俺もたまに隕石降ってこいとか願ってるぜ('A`)地球が樹海に沈むのもいいな

ミセリ誕生日だったのか、おめでとう

198以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/01(水) 20:59:45 ID:vlc7PjZY0
あけましておめでとう
今年も楽しみにしてるよ

199以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/14(火) 20:53:22 ID:AHUnCEGk0
元気ー?

200以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/15(水) 01:34:32 ID:sGS7gzoI0
風邪引いて死にそうだよー
作者は元気ー?

201以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/17(金) 22:18:01 ID:pP6gmeTM0
>>200
お大事にね

202以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/18(土) 01:23:22 ID:b057QQBA0
奥歯二本もぶっこ抜いたせいで色々と問題出てるけど元気です

後始末に手間取ったけれど、そろそろ投下します

203以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/21(火) 18:40:29 ID:.WGEbL1A0
wktk

204以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/21(火) 21:21:53 ID:Hxj0H7E20
おーついにか!
待ち遠しいわ

205以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/07(金) 20:21:16 ID:OW8ngGY.0
たまに、ありがたくも、創作でやってくれって意見を言って下さる方が居らっしゃいますね

ごめんなさい、もう少しこの廃墟板で頑張ってみたいんです。お引っ越しは、当面は行わない心積もりです
ご支援ありがとうございます

2061/50:2014/02/07(金) 20:29:01 ID:g96DFvxs0
据え付けられたノッカーを乱雑に数度打ち鳴らし、返事を待たずドアを押しあける。
歓迎は晩夏に似合わぬ異常な熱気と、所狭しと並べられた増幅器付きの武具の数々。

ぽっぽは重苦しい武具棚の間を抜け、店の奥、工房への扉を潜った。

店主を兼ねる工房主は、鉄輪付きの車椅子に腰かけ、鉱炉を覗き込んでいる。


(*‘ω‘ *)「よっす、久々」

(  ^)「……なんだ、お前か。ちょっと待ってろ」


鉱炉から引き出された金属細工は熱を吸った橙色、刻み針がその熱塊に表情を与える。

ぽっぽはただ、無言で彼の手元に見入った。
空色の石が金属の中心に浮かび、その澄んだ眼を開けてゆく。

2071/50:2014/02/07(金) 20:29:48 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「それは……アンプか?」


工房主は答えず、作業台の術式回路に精霊を流し込んだ。
壺型の冷却機巧が回転し、氷混じりの白い霧を噴きだす。

鉛鉄の覆いを乗せた増幅器の元型を壺の底に慎重に横たえ、主はようやくぽっぽを振り返った。


( ^Д^)「何しに来たんだ、チビガキ」


プギャー・ストロサス。
数十の職工を束ねる溶鉱炉の護主・ストロサス一門の、その落とし子。
貴族を名乗ることを王に許された唯一の工廠一家の、異端のはぐれ者。

不自由な足に代わる車輪を軋ませ、不機嫌そうな声で彼はぽっぽを出迎えた。

2081/50:2014/02/07(金) 20:30:46 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)っ[ミ]


作業台に置かれた布の小包みに、プギャーは怪訝な顔を見せた。
拳大の包みを開くと鉄木の欠片、その中心には上質な大ルビー。

顔を上げると、客人は至極申し訳なさそうに目を逸らしている。


(;^Д^)っ「なんだ、これ。増幅器……付きの、ワンドの欠片?」

(* -ω)「悪い、折れたっぽ」

(#^Д^)「ふざけ、おま、何度目だよ! ウチの武器の評判落とすの止めろって!」

(*‘ω‘ *)「一応聞くけど、それ直るか?」


プギャーは無言でルビーを取り上げ、その脇に纏わりつく鉄木片に小刀の腹を押し当てた。

2091/50:2014/02/07(金) 20:31:14 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「ま、今回は長持ちした方か。……それで?」

(*‘ω‘ *)「蛇剣に芯まで削られて、そのままドラゴンの後ろ頭をおもくっそブッ叩いたっぽ」

(;^Д^)「はぁ? 随分ハデな冒険してるんだな」

(* -ω-)「そのワンドにはずいぶん助けられたっぽ」

( ^Д)「……ふん。それなら良い」


木片から削り出した赤い増幅核を、プギャーは片手で放った。
真球の宝玉が、受け取ったぽっぽの手の中で仄かに熱を放つ。


( ^Д^)「核が無傷なのは不幸中の幸いってところだな。下手に加工しなくても、転用できる」


プギャーは冷却機巧を止め、車椅子を巧みに操って店の方へ抜けた。
ぽっぽは無言でその後に続いた。床木が軋む音色が寂しく後を引く。

2101/50:2014/02/07(金) 20:31:56 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「それで、どうするんだ?」

(*‘ω‘ *)「代わりになる戦棍が欲しい。今ある品を見せてくれ」

( ^Д^)σ「そっちの、奥の棚だ」

(*‘ω‘ *)「さんきゅ」


ぽっぽは指された棚を見上げた。
下段は叩き潰すことに特化した大柄な槌棍から、上段は軽さを優先した細い鞭棍まで、数十の棍が並んでいる。

これらの得物はすべて、ストロサス家の工蔽で製造・量産されたものだ。

隣に並んだプギャーが棚下の引き出しを開け、掛け金の鍵を取り出した。

2111/50:2014/02/07(金) 20:32:22 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「ほら、好きなのを試しな」

(*‘ω‘ *)「ん」


前の一振りと大きさが近い一本を選び、手に取る。
見た目に反して、随分と軽い。

求めているものではない、ぽっぽは精霊を通すことなく棚に戻す。


(*‘ω‘ *)「これより重いのは無いのか?」

( ^Д^)「予算次第だな。基本的には重いほど頑丈で、頑丈なほど高い」

(*‘ω‘ *)「ほう」

2121/50:2014/02/07(金) 20:32:59 ID:g96DFvxs0
続けて手に取ったのは、一周り大きな槌鉄付きの棍。
先端部分にも増幅器が埋め込まれ、赤く輝きを放つ。

片手に持ち上げると、極端に偏った重さのバランスは存外に持ちにくかった。

首を捻り、棚に戻す。これもまた、しっくり来ない。


( ^Д^)「んで、予算の都合はあるのか?」

(*‘ω‘ *)「とりあえずは考えなくて良い。少なくとも前のと同じ位の額は出せるっぽ」

( ^Д^)「じゃあその打棍は明らかに力不足だな。三つ左隣りの、黒樫を取ってみろ」

(*‘ω‘ *)「これか?」


示されたのは、肉厚の鉈の形に整えられた、単純な作りのオールメイス。
皮を巻いただけの持ち手は馴染みが悪かったが、重みもバランスも悪くない。

ぽっぽは目を細めた。

2131/50:2014/02/07(金) 20:33:54 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「前の捩棍からだと慣れるまではかなり辛いだろうが、それがウチの売り物で一番良い棍だ」

(*‘ω‘ *)「ふぅん……確かに、これは悪くないな」


親和を通すと、先端の精霊機巧は精霊を推進力に変えた。

振り下ろすと、鋭い風切り音。
その形状ゆえだろうか、重さの割には速度が乗り、なかなか心地が良い。


(*‘ω‘ *)「……悪くないっぽ。ああ、悪くない」

( ^Д^)「じゃソイツはダメだな。最初に取った時『良い』と言えない武器は、肝心な時にぶっ壊れる」

2141/50:2014/02/07(金) 20:34:28 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「ん……すまんな」

( ^Д^)「良いさ。半端に選んで樹海で死なれるよりよっぽど良い」

(*‘ω‘ *)「……っぽ」


黒樫を棚に戻し、ぽっぽは棚を眺めた。
姿形はそれぞれで、しかし、「これ」と思うものは一つも無い。


( ^Д)"「ま、気に入るものが無いなら無理に買わなくても良い。気が済むまで試しな」

(*‘ω‘ *)「……なぁ、プギャー」


車椅子を反転させ、工房へと向かうプギャー。
ぽっぽはその背中に声を掛けた。


(*‘ω‘ *)「お前の工房に大事に飾ってある捩棍、アレは売り物じゃないのか?」

2151/50:2014/02/07(金) 20:35:17 ID:g96DFvxs0
(  ^)「……あれは、前の客の特注品だ。縁起が悪くて売るに売れないから、後ろに置いてるだけだ」


ちょっと待ってろ、プギャーはそう言って工房へと姿を消す。
戻ってきた彼の手には、黒鉄木の大戦棍が握られていた。

ビロード二人分にも迫るような大柄な柄材に、先端には精霊出力機巧。
握りの鋳鉄も本体に比例して太く、ぽっぽの手には大きく余る。

名棍の器を持ちながら、その巨大さゆえに常人には振りあげることも、振り下ろすことも困難なほど。


( ^Д^)「『黒天大王』、その棍の銘だ」

(*‘ω‘ *)「……重い、な。どんな客の注文だ?」

( ^Д^)「トカラス人の、バカでかい冒険者だよ。しばらく前、クフ高原のスタンピードで殉死した」

2161/50:2014/02/07(金) 20:35:48 ID:g96DFvxs0
親和を起動。
"赤"の精霊を、柄と先端の増幅器に通す。

埋め込まれた増幅器は決して質の悪いものではなかったが、相性が合わず、求めただけの出力は出ない。


( ^Д^)「その核は仕上げの際に交換する予定だった。もともと仮留めだ」

(*‘ω‘ *)「……良い」

( ^Д^)「あん?」

(*‘ω‘ *)「ここの棚の、他のどれより良い。これが気に入った」


金は言い値で払う。だから、売ってくれ。
ぽっぽの求めに、驚いたのはプギャーだった。

2171/50:2014/02/07(金) 20:37:39 ID:g96DFvxs0
(;^Д^)「な、何言ってるんだ。お前それ、持つこともできないだろうが」

(*‘ω‘ *)「それは……後で握りを削ればなんとか……」

(;^Д^)「そいつは黒鉄木だぞ、素人にそんな加工は無理だ。それに第一、重さだってお前の身体に合わない」

(*‘ω‘ *)「……くっ……」


ぽっぽは悔しげに引き下がった。

戦棍を選ぶ際に基準となるのは、何よりも重さと大きさだ。
腕力が足りなければ振り回す出来ないし、体重が足りなければ自分が振り回される。

切るように叩く鉈型の打棍ならばともかく、重心が先端に寄った捩棍を選ぶ際には、
そのバランスが絶対の条件として挙げられる。

黒天大王、その一振りは、ぽっぽが持つにはあまりにも大きすぎ、重すぎた。
あと、それを買うなら予算は金貨数十枚は下らないぞ。この言葉は、プギャーはなんとか飲み込んだ。

2181/50:2014/02/07(金) 20:38:16 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「だいたい、そんな異端品のどこが気に入ったんだよ」


モノの良さで言うなら、さっきの黒樫だってストロサス本家から取り寄せたものだ。

種別が少し違うとはいえ、使い易さも精霊効率も、段違いに向こうの方が上だ。


(*‘ω‘ *)「うまく言えないが……とにかく、気になるっぽ」

( ^Д^)「……そうかい。だが、それでも売れないな。お前には合わないんだからよ」

(*‘ω‘ *)「ぐぅ……」


ぽっぽは渋々と棍をプギャーに返した。
プギャーはそれを受け取らず、代わりに棚の端、空いた一枠を指差す。
立ち並ぶ棍の数々と比べても、この黒天大王は一周り以上は大きい。

ぽっぽは名残惜しげに示された棚に棍を立てた。

21915/50:2014/02/07(金) 20:39:12 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「どんな奴だったんだ?」

( ^Д^)「……変人。んで、ぶち抜けてバカだった。腕っ節は良かったんだがな」

(*‘ω‘ *)「……ふぅん」

( ^Д^)「放って置きゃいいのに、クフ高原のスタンピードに立ち向かって、喰われて死んだバカだよ」


車椅子を回転させ、プギャーは店の奥へと進んでゆく。
ぽっぽは棚から目を離し、その後を追った。


(*;‘ω‘ *)「なぁ、もしかしてあの黒天大王って……」

( ^Д^)「……ああ、俺の作品だ。昔のモノとは言え、褒められた出来じゃねぇ」

(*‘ω‘ *)「そんな事は無いっぽ。お前、調整だけじゃなくて精造もしてたんだな」

22015/50:2014/02/07(金) 20:40:53 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「その話は良いさ。それより、この先の武器はどうするんだ?」

(*‘ω‘ *)「……どうするかな。気に入ったものがアレしか無い以上、他の物を買う訳にはいかないっぽ」

( ^Д^)「ふぅん……ま、それなら一度、ストロサス本家の工房に行ってみろよ」


プギャーはカウンターの下から一枚の小さな柄付きの鉄判を取り出し、工房へと入った。

鉄判の印形は、ストロサスの銘。
鉱炉の竈に翳して灼熱したそれを、プギャーは小さな羊皮紙片に押し当てた。

獣臭い、皮素材が焦げる匂いが漂い、ぽっぽは思わず顔を顰める。


( ^Д^)っ□「ほら、こいつが紹介状だ」

(*‘ω‘ *)「いいのか? 助かるっぽ」

22115/50:2014/02/07(金) 20:41:13 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「いいか、ただの冒険者が工房に入れんのは日没後の一刻の間だけだ。遅れるな」

(*‘ω‘ *)「ほーん」

( ^Д^)「……さっさと行け。今から行けば、日没には間に合うだろ」

(*‘ω‘ *)「……っぽ。また来る。次は茶の一杯くらい用意しとけっぽ」


足音が遠ざかり、ドアが軋み、静寂。
プギャーは乱雑に印型を放った。

カラカラと、澄んだ、乾いた音が響く。


( ^Д^)「……ふん」


反響音が静まり、再び静寂。
工房の主は、空き手に相棒の鎚を取り上げる。

重く冷たい鉄塊が、炉の赤を照り返した。

22215/50:2014/02/07(金) 20:44:10 ID:g96DFvxs0
ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

幕間δ−表

22315/50:2014/02/07(金) 20:45:05 ID:g96DFvxs0
……

( ^Д^)っ“旦「……んで結局、本家じゃ何も買わなかったと」

(*‘ω‘ *)っ旦~「ぽ。どーにも肌に合わないというか、まぁ、とにかく、気に入らなかったっぽ」

( ^Д^)「贅沢な冒険者サマだな」


差し出された茶を一息に飲み干す客人に、主はあきれた声を出した。
熱気を逃すために開けた窓の外に、白昼の喧騒が遠く聞こえて来る。


( ^Д^)「親父の銘の入った作品なんて、手を触れるだけでも中々出来ないってのによ」

(*‘ω‘ *)「……すまん」

( ^Д^)「いや、良いさ。しっかし、そうすると、お前の気に入るような戦棍なんぞ誰も造れんぞ」


ぽっぽは静かに首を振った。

22415/50:2014/02/07(金) 20:45:59 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「悪くは、なかったっぽ。きっと、誰が扱っても“悪くない”だけの品だった」

( ^Д^)「……だろうな」


なにせ国王お抱えの貴族様だ。

自嘲するようなプギャーの声を背に、ぽっぽは棚を見上げていた。
立て掛けられた巨大な戦棍は物言わず、ぽっぽを見下ろしている。


(*‘ω‘ *)「お前は、貴族や冒険者に戻るつもりは無いのか?」

( ^Д^)「無い。というか、戻りたくても戻れねぇよ。この足じゃな」

(*‘ω‘ *)「……悪い」

( ^Д^)「いいさ。それだけじゃないし、何より……」


プギャーは言葉を切り、ぽっぽの視線の先の戦棍を見やる。
巨大な戦棍はやはり物言わず、プギャーを見下ろしていた。

22515/50:2014/02/07(金) 20:46:31 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「……?」

( ^Д^)「……いや。ソイツにきっちりケリ付けるまでは、ここを畳む気になれねぇんだ」

(*‘ω‘ *)「例の、トカラス人だったか」

( ^Д^)「……」

(*‘ω‘ *)「……なぁ」


車椅子を繰って、プギャーは捩棍に背を向けた。
そのまま工房へと引こうとする彼の背に、ぽっぽは声を掛ける。

22615/50:2014/02/07(金) 20:47:18 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「どうしても、アレを売ってくれるつもりは無いのか?」

( ^Д^)「ああ、無い。お前の身体に合わないし、死んだ客の為の武器なんぞ縁起が悪くて売り物にならん」

(*‘ω‘ *)「……仕方ない」



(*‘ω‘ *)「それなら売ってくれるまで通うまでだっぽ」

(;^Д^)「……あ? 何言ってんだ、お前……おい待てって!」



呼びとめるプギャーを無視し、ぽっぽは一足に店を飛び出した。

乱暴に扉が閉ざされ、再び静寂。プギャーの溜息が静かに蹲る。


( ^Д^)「……どうしろってんだ」


疲れた、そう言外に語る声を、巨大な戦棍は物言わず見下ろしていた。

22715/50:2014/02/07(金) 20:48:19 ID:g96DFvxs0
……


(*‘ω‘ *)「で?」
( ^Д^)「だめだ」

(*‘ω‘ *)「……ち」


堂々の宣戦布告から六日、両軍は膠着状態を打破できず。

片方が頼むと言えばもう片方は駄目だと返し。
片方が諦めろと言えばもう片方は嫌だと返す。

現在までのところ、両者共に根負けする予定などは無い。


( ^Д^)っ“旦「……ったく。ほれ」

(*‘ω‘ *)っ旦~「さんきゅ」


差し出された茶を一息に飲み干すぽっぽに、プギャーは片肘をついてあきれた視線を向ける。
もう三日も前から、彼はこの厄介な客人が来る定刻の直前に茶を用意するようになっていた。

鼻息荒く押し入ってくる彼女も、湯呑を机上に置く頃には随分と大人しくなっているものだ。
良い値段に釣り合う効能は出ているらしい、プギャーは目を細めるぽっぽから目を逸らした。

22815/50:2014/02/07(金) 20:49:42 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「毎日毎日、本当に御苦労なもんだ。糸目のチビはお守してなくて良いのかよ?」

(*‘ω‘ *)「問題無い。奴なら別のチビに任せてあるっぽ」

( ^Д^)「別のチビ、ねぇ……どんな奴?」

(*‘ω‘ *)「あー、えーと……腹黒で意地っ張りで、チビで癖っ毛でオカルト体質で、とにかく良い奴だっぽ」


ぽっぽの回答に、思わず呆れて額を手の甲に押し当てる。


(;^Д^)「良い奴だと思うんだったら少しは良いトコも挙げてやれよ」

(*‘ω‘ *)「いやだ。……んで、今は肘の骨をぐちゃぐちゃに折って入院してるっぽ」

( ^Д^)「肘って……お前の棍を折ったとかいうドラゴンか?」

22915/50:2014/02/07(金) 20:50:21 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「ドラゴンはまた別だっぽ。ミセリはラウンジの、よくわからん親和使いにやられた」

( ^Д^)「はぁ、そりゃまた何とも……」

(*‘ω)「もうあと数日で完治するらしいけどな。出来ればそれまでに心変わりしてくれると嬉しいんだが」

( ^Д)「残念ながら、そんな予定は無いな。今のところ、新しく別の品を入荷する予定も無い」

(* -ω-)「はぁ。……仕方ない、間に合わせに別のを売ってくれ。実はあまり時間も無い」


プギャーは驚き、顔を上げた。
目の前のぽっぽは、空の湯呑に眼を落したまま、動かない。


( ^Д^)「なんだ、依頼でも受けたのか?」

23025/50:2014/02/07(金) 20:51:07 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「D級の任務だがな。ガセウ遺跡へ向かう学者サマの護衛だと」

( ^Д^)「……ガセウか。お前らには縁の深い所でもあるな」


ガセウ。ヨツマの南、数日ほどの距離に広がる、旧時代以来の遺跡群。
完全にヨツマの勢力圏にあるその地下遺跡までは確かに、E級程度の実力があれば安全に旅できるだろう。

かつて自身の両足を完全に焼き殺した“眼”を思い出しながら、プギャーは眉根を寄せた。
十数年前にどこぞの冒険者が隠し通路を見つけて以来、遺跡の深部は探索し尽くされ、今は開かずの扉があるばかりだったはずだ。
確かに常駐の兵を置くほどの設備でもなく放置された遺跡内は様々な生物の“ねぐら”にされ、それなりに危険であることには変わりない。

23125/50:2014/02/07(金) 20:52:01 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「物好きな学者センセーも居たもんだな。今さら別の“オルガン”を探そうってんでもないだろうし……」

(*‘ω‘ *)「例の最深部の扉に発明を試したいんだとさ。病み上がりのミセリの、良い腕慣らしっぽ」

( ^Д^)「ふぅん……まぁ良いさ。好きなの持って行けよ」

(*‘ω‘ *)「……ん」

客は棚を見上げ、やがてその視線を両手に落とした。
掛け金の鍵をプギャーから受け取り、彼女は一本のオールメイスを棚から下ろす。

初日に手に取った、均整の取れた一振り。

プギャーは彼女の意図を測れず、ただ車椅子を繰って一歩引いた。
風切り音と共に振り下ろされた木鉈は淀んだ空気を縦に引き裂き、切り飛ばされた空間を返す刃が再び叩く。

美しく、鮮やかな武踏。
見惚れるプギャーをよそに、舞い手は真剣な眼でメイスの増幅器を覗きこんだ。


(*‘ω‘ *)「なぁ、プギャー。多分だけど、これもお前の作品だよな」

( ^Д^)「あん? ……それがどうした」

(*‘ω‘ *)「お前、コレを造った時は何を考えていたんだ?」

23225/50:2014/02/07(金) 20:52:31 ID:g96DFvxs0

( ^Д^)「……バランスと、トップスピード。軽めに仕上げて――」
(*‘ω‘ *)「――初心者にも扱いやすいように、だよな。だからこそ、捻くれ者のアタシには合わない」


プギャーは息を飲む。
ぽっぽはオールメイスを棚に立て掛け、その三つ隣の破砕鎚を掴んだ。

頑丈さにはやや劣るものの遠心力の乗りやすく攻撃力に長ける長柄、その鎚頭には数種の変換器。
ぽっぽが親和を起動する。"赤"の精霊が増幅器を通し、変換器を経てその形を変え――灼熱した。

大気が熱に歪み、鎚頭を覆う白い金属はその色を真っ赤に染め上げる。


( ^Д^)「……」

(*‘ω‘ *)「多くのギミックは、攻撃の選択肢を増やすため。手詰まりを避けるため。賢くないアタシには合わない」

23325/50:2014/02/07(金) 20:53:24 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「……確かにお前は、賢くはねぇな」


プギャーは親和を起動し、鎚の変換器へと精霊を通した。

発動した"白"の親和は拒絶の色。
衝動の"赤"を中和して削り取る。

朱橙の高熱はやがてその力を失い、輝きを白銀に抑える。

ぽっぽは完全に冷えた鎚を受け取り、棚に戻すと、その隣の大柄な一振りを手にした。

硬化熔土で覆われた蔦が双円形の柄を覆い、二段に組まれた護拳は連鉄鎖付きの折れ十字。
重心がやや低く寄った双頭の鋼棍棒の、その巨躯がぽっぽの手元で滑らかな二重円を為す。


(*‘ω‘ *)「これは受け手をより広く、堅牢に。使い手の退路を守るため。負けず嫌いのアタシには合わない」

( ^Д^)「……そうかい。それで? どういった戦棍なら気に入るってんだ?」


この厄介な客が何がしたいのか、まるで分からない。
プギャーは棚に残った武具を見渡すぽっぽに、やや苛々した様子で声を掛けた。

棚に残っている打撃器のうち、プギャー自身の作は――ストロサス本家の大工廠の作でないものは、一振りしか無い。
そして、客人の眼はまさに、その一振りを真正面に見据えていた。

23425/50:2014/02/07(金) 20:54:03 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「お前は良い職工だっぽ。今はアタシにもわかる。どの装具にも、魂が溢れてる」

( ^Д^)「……買い被るな。まだ鎚を振るい初めてたかだか二十数年だ」

(*‘ω‘ *)「……お前は、良い職工だっぽ。でも、分からないんだ、コイツだけは。
激しくて、強くて、深くて、――苦しくて、それなのに、どの一振りより真っ白だ」


言葉を切ったぽっぽが、つと振り返る。
小柄な彼女でも、こうして相対する限りでは車椅子のプギャーよりはやや目線が高い。


(*‘ω‘ *)「なぁ、プギャー。お前、コレを造った時、何を考えていた? 何を思っていた?」


鋭く問いかける客人の言葉に、主人は静かに彼女を見返す。
鉱炉を覗き込んでいる気分だ。体全部が焼けるように熱い。
プギャーは慎重に言葉を選び、灼熱の炉中へと放り込んだ。

23525/50:2014/02/07(金) 20:54:32 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「さぁな。受け取りに間に合わせようと必死だったから、それ以外は覚えていない」

(*‘ω‘ *)「それは嘘だっぽ。冒険者なら分かる」

( ^Д^)「……忘れたんだよ。ああ、そんな事は全部、ぜんぶ忘れたさ。
そんなどうでも良い事なんぞ、勝手にくたばりやがった身勝手なバカと一緒に、ぜんぶ忘れたんだ」


言い聞かせるような答えに、それでも客は目を逸らさず、ただ沈黙をもって主を刺した。

主は目を伏せ、車椅子を操って客に背を向ける。
床の軋む音。僅かに舞う埃が窓から差し込む陽光を受け、日陰に消える。

客人は踵を返し、店の入口のドアに手を掛けた。


(*‘ω‘ *)「……すまないが、やっぱり諦めきれないっぽ。また、来る。なぁプギャー」

( ^Д^)「……」

(*‘ω‘ *)「アタシは…その、お前に何があったかなんて知らないが、お前はきっと――」

23625/50:2014/02/07(金) 20:55:10 ID:g96DFvxs0
――ずっと後悔していたんだな。

その一言に、車椅子は動きを止めた。

23725/50:2014/02/07(金) 20:55:53 ID:g96DFvxs0
(#^Д^)「――消えろ、出て行け! 二度と俺の店に来るな、クソチビ!」

(*;-ω-)「……ッ!」


ぽっぽは思わず息を飲んだ。

過去一度として触れた事の無い程の、熱く根深い彼の激情。
己に向けられたそれに触れ、ぽっぽはその場に立ち尽くす。

息荒く怒声を轟かせた彼は、収まりの付かぬ感情に任せ、乱暴に車椅子を反転させた。
怒りにまかせてぽっぽに詰め寄ろうとした彼の足下で、床が激しく軋み悲鳴を上げる。

そして同時に車椅子の動きが、床の悲鳴に絡め取られるように、その進路を歪めた。

古びた床板の隙間が車椅子の車輪を絡め取ったのだと、ぽっぽはその瞬間に見てとった。
半端に勢いを付けた車椅子が主もろとも棚にその身を投げ出す姿を、直後に見てとった。

掛け金の外れた幾つかの打撃器が――皮肉にも、彼自身の作ばかりだったが――ゆっくりと棚から傾ぐ。


(*;‘ω‘ *)「お、おいプギャー、危なッ!」

23825/50:2014/02/07(金) 20:56:59 ID:g96DFvxs0
ぽっぽは咄嗟に、親和を起動した。

"赤"の精霊は衝動の色。増幅器を通して衝撃と化し、古びた床板を蹴る。


――轟音。

棚の上から倒れ込んだ超大型の捩棍が、木と薄鉄材の車椅子を踏み潰した。
ぽっぽがプギャーの身体を掴み、崩落のその場から連れ出した直後だった。


(#^Д)「う……っぐ、う」

(*;‘ω‘ *)「……ぐ……大丈夫、か?」


プギャーは小さく呻き、腕の力だけで身体を仰向けに反転させた。
手を差し出すと彼は意外なほど素直にその腕を掴み、身を起こす。


(#^Д^)「……ガキどもが、見透かしたような面しやがって……てめぇらに、何がわかるって……」


泥を吐き出すような小さな言葉が消えると、彼はそれきり、何も言わなかった。
ぽっぽは店内を見渡して来客用らしい椅子を見つけ、プギャーの側に運び、手を貸して座らせる。

ぽっぽもまた、何も言わなかった。
折り重なった武具の一つ、床板と車椅子とを叩き砕いた巨大な捩棍が、彼女を見返していた。

23925/50:2014/02/07(金) 20:57:54 ID:g96DFvxs0


( ^Д^)っ“旦「……すまなかった。それと、助かったよ。ありがとう」

(*‘ω‘ *)っ旦~「い、いや。こちらこそ、悪かったっぽ。無神経だった」


差し出された茶を一息に飲み干すぽっぽに、プギャーは片肘をついて静かな視線を向けた。

車椅子を失ったプギャーは、車輪の両脇にあって辛うじて無事だった二本の杖と動かない足を支えに使い、自身の身体を工房へ運んだ。
不便そうではあるが、彼の場合はそれなりの生活を送る程度は支障が無いらしく、ぽっぽはひとまず安堵した。

崩れた武具は一通り棚に戻したものの、店の床板には大きな穴が開き、車椅子の車輪は大きな後輪二つがダメになっている。
プギャーの方は、そんな店内の様子には特に気を置く様子も無く、火の入った炉とその上に吊った"やかん"を見つめていた。

やがて湯が沸くと、彼は椅子の上から手を伸ばし、急須の茶葉の上に注ぎ入れる。
そうして淹れた茶を手持無沙汰のぽっぽに差し出し、長い沈黙を破ったのが先の一言だ。

ぽっぽが空の湯呑を突き返すと、彼は慎重に言葉を選びながら、重い口を開く。

24025/50:2014/02/07(金) 21:00:11 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「お前の言った事は、半分はその通りだ。俺は、ずっと後悔していた」

(*‘ω‘ *)「……っぽ」

( ^Д^)「俺がもっと早く、あの黒天大王を完成させていれば。そりゃ確かに、そうだよ」

(  ^Д )「くたばったマリオルドが、この黒天大王を振るってりゃ生き残れたってのも……その通りだ」

( ^Д)「あいつが……クフ高原で、殉死した時に、使っていたのは……俺が、造った戦杖だった、から」

(*‘ω‘ *)「……それは」

( ^Д )「俺が造った、未熟、な杖が……索塔獣、に、圧し折ら、れ……」

(*‘ω‘ *)「……」

( ^Д;)「俺が、殺した。俺の未熟さが、マリオルドを、……むざむざ樹海に、喰わせちまった」

(* -ω - *)「……そうか」

( ;Д;)「死ぬ直前に泣いたんだ、あのヤロウ、薬方院で。腹ぁ半分も引きちぎられてんのに。
あの馬鹿野郎、もう死ぬの、分かっていて……悔しそうな、顔、それで、泣きやがった」

(* -ω - *)「……」


……

24125/50:2014/02/07(金) 21:00:49 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「……どうしても、樹海に戻るのか?」


再び店の入口の扉に手を掛けたぽっぽに、プギャーの声がかかる。

陽は既に傾き、窓を満たす空は赤。
ドアを僅かに押すと、入り込む空気は僅かに冷たかった。


(*‘ω‘ *)「ま、冒険者だからな」

( ^Д^)「……本当、羨ましいね。怖くねぇのかよ、他にいくらでも生き方はあるだろ」

(*‘ω‘ *)「お前みたいに、か」


問い返してから、その言葉を少し後悔した。
プギャーは苦笑しながら、首を小さく振る。

24225/50:2014/02/07(金) 21:01:26 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「アタシは、冒険者だっぽ。それに、チビ二人の面倒だって見なきゃならん」

( ^Д^)「……そうか」

(*‘ω‘ *)「また来る。……アタシ達は、五日後にガセウへ向かうっぽ」

( ^Д^)「……」


去りゆく客人を見送ると、プギャーは杖を頼りに彼女が並べ直した武具の棚の前に歩き、そこに座り込んだ。

それからしばらくの間、彼は冷たい床上に座ったまま、色彩を失ってゆく大振りの捩れ戦棍を見上げていた。
宵闇が店の中に入り込んだずっと後、再びドアノッカーが来客を告げる時まで、彼はそうして動かなかった。

24325/50:2014/02/07(金) 21:02:03 ID:g96DFvxs0
……

翌日、ぽっぽが訪れた時には、工房にはしっかりと鍵が掛けられていた。

いくらノッカーを鳴らしても返事は無く、しかし工房の煙突からは鉱炉の噴き上げる特徴的な黒煙が昇る。
窓も見える範囲は全て鎧戸が下ろされ、中を見通す事は出来ない。

結局その日、ぽっぽは肩を落として帰るしかなかった。

その翌日に出直した際にも、更に翌日にも、プギャーが呼び掛けに応じる事は無かった。

……

24425/50:2014/02/07(金) 21:03:41 ID:g96DFvxs0
……

その更に翌日になると、ぽっぽ訪れた際には、ドアの鍵は外れていた。

期待せずにノブを引いたぽっぽは、抵抗なく開いたドアに返って意表を突かれ、その場でたたらを踏む。
治安の良くない南東地区とはいえ、白昼のヨツマ市街にあって、窓の光を遮った店の奥は薄暗い闇の中。

これじゃまるで、御伽話に出てきた吸血鬼の根城だ。
キツネに抓まれたような心持ちのまま慎重に様子を窺うぽっぽに、カウンターの向こうから声が掛かる。


( ^Д^)「どうした、なにボーっと突っ立ってやがる。入って来いよ」

(*‘ω‘ *)「……あ、ああ。そうだな」


ぽっぽが躊躇う間に、プギャーは両腕の杖に頼りながら工房へと身体を運んでいた。

暗い店内を横目に見渡すと、叩き割られた床板は四日前のまま、さながら落とし穴のように傷を晒していたし、
その傍らに転がる車椅子の破片もまた、彼が使命半ばで大捩棍に叩き潰され、息絶えた時のまま転がっている。

ただ、その車椅子殺しの下手人たる戦棍、黒天大王だけが四日前に立て掛けた個所に無いと気付いた。

24525/50:2014/02/07(金) 21:04:18 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)っ“旦「……さて、一応は要件を聞いておこうか」


工房に入ってすぐ、主は熱い茶を差し出しつつ、問う。

返事より先に、ぽっぽは差し出された茶を一息に飲み干した。
プギャーは例によって呆れた顔でテーブルに肘を乗せ、器用に半身を乗り出す。
空の湯呑を脇に寄せると、ぽっぽもまた彼に合わせて身体を乗り出し、触れあう程に額を寄せた。

部屋の暗さもありこの距離に至るまで気付かなかったが、よく見ると彼の目の下には大きな隈が広がっている。


(*‘ω‘ *)「戦棍を一振り、アタシに売ってくれ。できればあの黒天大王が良いんだが……どこにあるっぽ?」

( ^Д^)「アレはもうこの世に無い」


(*;‘ω‘ *)「そうか、そりゃ残ね――はぁぁぁああッ!!?」


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