[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
メール
|
1-
101-
201-
301-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
ζ(゚ー゚*ζは天使でも悪魔でもないようです
1
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 21:00:21 ID:W9hMhZsU0
・女の子のAAをたくさん使ってみようというテスト
・ながら
2
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 21:09:46 ID:W9hMhZsU0
転校の挨拶なんてなんで必要なんだろう。
そんな形式ばったものは省略して、
すんなりと教室に入れてくれてもいいのに――と、間際になってデレは思う。
ζ(゚ー゚;ζ「うわあ、手の平の汗が凄い」
この薄いドア一枚挟んだ向こう側には、この先苦楽を共にする仲間たちが待っている。
馴染めるだろうか、うまく付き合えるだろうか。
無視されたりしないだろうか。
そう考えると期待と不安が渦巻いて、時間が経つほどにひたすらに緊張が肥大化していくのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「……いけない。いきなりネガティヴはいけないよね。まだ実際に会ってもないのに……。
ええと、まずは、笑顔で……はきはきと……爽やかな声で……印象よく……」
「えーそれでは、鈴院デレさん、どうぞ入室してきてください」
ζ(゚ー゚;ζ「あっ、ひゃ、ひゃいっ!」
いきなり声が上ずる。この世の終わりかと思った。
3
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 21:21:28 ID:W9hMhZsU0
ドアを開けると、一斉に自分に視線が注がれるのを感じた。
ζ(゚ー゚;ζ(うわあ、見られてる見られてる……当たり前だけど)
注目の中デレはぎこちない歩き方で教卓の前へと向かい、そして。
ζ(゚ー゚;ζ(なんと恐ろしい光景……)
皆の前に立つ。相変わらず教室中の眼差しはデレの顔に集まっている。
俄然緊張感が増すが、何秒かすると、デレはむしろその視線の数々に安心を覚えた。
ζ(゚ー゚*ζ(関心持ってくれてる、ってことだもんね……)
その眼によくない感情は籠っていない。だからほっとできた。
冷たい視線だけは嫌だった。
一度息を整えて、デレは口を開く。
ζ(゚ー゚*ζ「ええと、鈴院デレです。
ν速県から家族のお仕事の都合でここVIP県に引っ越してきました。
右も左もわからないことだらけですけど、なにとぞよろしくお願いします」
それから軽く笑った。無難な挨拶だと思った。
4
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 21:32:05 ID:W9hMhZsU0
拍手が上がる。
社交辞令的なものなのだろうが、やけに暖かみを帯びているように感じた。
(´・_ゝ・`)「まーそういうわけで、お前ら仲良くするんだぞ」
担任が念を押すように添える
ζ(゚ー゚;ζ(逆に恥ずかしいんですが)
(´・_ゝ・`)「んじゃ、デレさんは……えーと、あそこだな。
窓際の一番後ろの席。あそこ空いてるから今日から君の席ね」
ζ(゚ー゚*ζ「わかりました」
ああ、無事に終わった。
安堵して指示された席へと向かい、着席する。
もう周囲の注目は消えている。そのぐらいの扱いがちょうどいいようにデレは思う。
隣席は女子だった。
5
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 21:44:50 ID:W9hMhZsU0
見るからに活発そうな少女だった。
端正で鋭角的な顔立ち。
やや釣り気味の目、細く尖った顎。口は大きいけれど唇は薄い。
その肌はほんのりと小麦色をしている。
顔が小さく、その代わりに首が少し長い。
制服のシャツのボタンを二つ外しているから、余計に長く見える。
茶褐色の髪は肩の辺りまででざっくりと切られていて、それが随分と似合っていた。
少女は右肘を机に置いたまま、半身になってこちらを向いた。
从 ゚∀从「おう、よろしくな」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、はい、よろしくお願いします」
从 ゚∀从「いやいやいや、同級生なんだからさ、そんなよそよそしい感じじゃなくていいって」
ζ(゚ー゚*ζ「あ……うん、ごめんごめん。まだちょっと緊張してて」
デレが照れ笑いを浮かべると、少女は眼を細める。
6
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 21:55:26 ID:W9hMhZsU0
从 ゚∀从「緊張なんてするこたぁないぜ。
このクラスの奴はどうしようもないのが揃ってるから、気遣う必要なんて、なし、なし」
ζ(゚ー゚;ζ「どうしようもない、って……ひどい評価だね」
从 ゚∀从「いいんだよ事実だから。それより……デレだっけか? 名前」
ζ(゚ー゚*ζ「うん」
从 ゚∀从「アタシ、高岡ハインリッヒってんだ。覚えといて」
ζ(゚ー゚*ζ「高岡、さん」
从 ゚∀从「あーダメダメ、そういうの。むずむずしちゃう。背中とか首筋とかそのへんが。
アタシのこと高岡って呼ぶのなんて先生様一同ぐらいだぜ。
ハインって呼んでよ。皆からそう呼ばれてんだ。あ、あと『さん』付けもよしてくんないかな。
そういう感じで接されるの、なんか気恥かしくて顔赤くなっちまうからさ、アタシ」
ζ(゚ー゚*ζ「分かったよ、ハイン。改めてよろしくね」
从 ゚∀从「おう!」
そう言ってハインが笑いながら親指を立てる。つられてデレも親指の腹をハインに見せた。
自然と口元が綻び、心が弾んだ。
そして実感する。
いい席に座れたな、いい人に出会えたな――と。
7
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 22:08:10 ID:W9hMhZsU0
( ^ω^)「――素晴らしい、素晴らしいお!
今まさに僕は友情の芽生えをこの耳でしかと聞き届けたお!」
ζ(゚ー゚;ζ「うわ、びっくりした!」
驚くのも無理はない。突然前の席の男子が威勢よく振り向いたのだから。
ζ(゚ー゚;ζ「なっ、なに?」
丸顔の男子はこちらを見てにやけた表情を浮かべている。
本来ならば不審に映りそうなものだが、
なにせそのにやけ面が人の良さそうな笑顔にしか見えないので、嫌な感じはしなかった。
从 ゚∀从「おいブーンてめー、いきなり後ろ向くんじゃねーよ! 心臓に悪いだろ」
( ^ω^)「だってあっという間に打ち解けて仲良くなっちゃってるんだもん……。
僕が話しかけるタイミングなんて今しかなかったんだお。分かれお」
从 ゚∀从「相変わらずめんどくさい性格してんなお前は。
要するにお前も転校生といちゃつきたいってことだろ? ん?
悪いけど友達一号の座はアタシのもんだから。な? デレ」
ζ(゚ー゚;ζ「わっ、わっ!?」
そこでハインはデレの肩を抱き寄せた。
なぜだか分からないが、頬が上気するのをデレは確かに覚えた。
8
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 22:17:33 ID:W9hMhZsU0
从 ゚∀从「てかお前、あれか、あれだな。
下心か! 最低だなおい」
( ^ω^)「何をおっしゃいますやらハインさん。
僕はただ純粋に新しいクラスメイトとの親睦を深めたいんだお」
ブーン――と呼ばれた少年――は力説する。
( ^ω^)「僕たちがこのVIP県立高校に入学してはや半年近く!
九月! 二学期! 季節はまさに秋! 新たなシーズンの始まりを迎えているお!」
从 ゚∀从「まあまだ余裕で暑いけどな。衣替えもだいぶ先のことだから夏服だし」
襟を引っ張ってぱたぱたと前後に揺すり、ハインは少々汗ばんだ胸元に風を送る。
( ^ω^)「そういう風流に欠ける発言はやめるお。
とにかく今は分類上は秋。春が別れの季節なら秋は出会いの季節だお」
ζ(゚ー゚;ζ「え、そうなの?」
从 ゚∀从「聞いたことねーよ」
( ^ω^)「僕が独自に生み出した概念だお!」
从 ゚∀从「面倒くせぇなあ……」
9
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 22:26:42 ID:W9hMhZsU0
( ^ω^)「現にこうして新しい出会いがあったじゃないかお!
僕はこの機会を大事にしたい!」
从 ゚∀从「どうでもいいけど、一応ホームルーム中なんだから少しボリューム下げろよ」
そんなハインの忠告も無視して少年は熱弁をふるう。
( ^ω^)「ハイン、君は僕の入学当初より抱き続けてきた目標を忘れたのかお!
このクラスの全員と友好な関係を築き上げる! 人類トモダチ計画!」
从 ゚∀从「覚えてるけどよ、いい加減その胡散臭すぎるネーミングだけはなんとかしろって」
ζ(゚ー゚*ζ「はあ……要するにクラスみんなと仲良くするってこと?」
( ^ω^)「まさしく! それこそが僕がこの学級で健やかに過ごすための必須事項なんだお!」
言い切った少年の顔は、ひどく晴れやかだった。
ちょうどチャイムが鳴った。
担任が退室する前に何か話していたが、あまり記憶には残らなかった。
从 ゚∀从「……な? めんどくさいだろ?」
ハインが呆れたように視線を送ってくる。
10
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 22:35:27 ID:W9hMhZsU0
ζ(゚ー゚*ζ「ううん……でも、悪い人じゃなさそうだよね」
( ^ω^)「わかってくれたかお!」
ζ(゚ー゚;ζ(暑苦しいけど)
どうもこのブーンという少年は、人の顔に自分の顔を近づけて話すきらいがあるらしい。
ζ(゚ー゚*ζ「ええと、ブーンくん、だっけ」
( ^ω^)「おっ? なんでその名前を」
从 ゚∀从「アタシが喋ってたからだよ。
会話の内容覚えてないのかよ。本当にイノシシだなお前」
( ^ω^)「高名なハインリッヒ女史からお褒めいただき誠に光栄ですお」
ζ(゚ー゚;ζ「一切称賛の要素なかったけどね」
気にするふうもなく、ブーンは咳払いをしてから言う。
( ^ω^)「ご紹介与りましたとおり、僕はブーンといいますお!
まあ本名は内藤ホライゾンなんだけどブーンのほうが呼ばれ慣れてるからそう呼んでお」
やはり人当たりのいい温順な笑顔だった。
11
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 22:45:26 ID:W9hMhZsU0
デレは少し嫉妬する。
無意識に他者から好感を得られる術を体得しているのだから、ずるい。
自分は自己紹介ひとつ行うのにも苦心するというのに。
( ^ω^)「よろしく頼むお」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、よろしくね」
そこで再度チャイムが鳴った。
先程の鐘はホームルームの終了を告げていたから、今度は一限目の開始を知らせているのだろう。
教壇を見るといつの間にか教師が大儀そうに腰を押さえて立っている。
ζ(゚ー゚*ζ「あっ、そうだ」
急に思い出す。
从 ゚∀从「ん? どした」
ζ(゚ー゚*ζ「委員会の所属先、今月中に決めておかないと。
学生は全員部活動か委員会活動のどちらかに属さないといけないって
転校前に聞かされてたの忘れてたよ」
12
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 22:54:28 ID:W9hMhZsU0
从 ゚∀从「よりにもよって委員会選ぶのかよ。部活やんねーの?」
ζ(゚ー゚;ζ「一番大事な夏休みの時期をスルーしちゃってるから……」
从 ゚∀从「あー……確かにな。
アタシも夏合宿で伸びたし、そういう段階踏んでないとついていくのしんどいわな」
うんうんとハインは頷く。
前方では数学教師が黒板に糸を散らしたような字で公式を書き殴っているが、
座席が最後列ということもあってこちらの私語に勘付いている気配はない。
ζ(゚ー゚*ζ「部活してるんだ。何やってるの?」
从 ゚∀从「陸上。短距離と幅跳び」
ぴったりだな、とデレは内心思った。
あまりにも外見に適しすぎているので、おかしくさえ感じた。
从 ゚∀从「……で、何か『これ!』ってのはなんとなく考えてたりすんの?」
ζ(゚ー゚;ζ「うーん、それが全然……」
漠然とすらしていない。完全に白紙なのである。
13
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 23:01:35 ID:W9hMhZsU0
从 ゚∀从「やるならそうだな、内申稼げるのがいいぜ!
どうせやるからには成績に反映させてもらわねぇとな」
ζ(゚ー゚*ζ「そういうの知ってるの?」
从 ゚∀从「いや皆目」
デレの左肩がずり落ちた。
ζ(゚ー゚;ζ「まあそうだよね。どの委員会が一番評価されてるかなんて知りようがないか」
从 ゚∀从「確実なのはひとつだけあるぜ。生徒会だ!
十一月ごろに生徒会役員選挙があるからワンチャン狙ってみっか?」
ζ(゚ー゚;ζ「無理だって。立候補したところで『誰?』で終わりだよ」
从 ゚∀从「んーじゃあ、なんか思い当たる? よさげなの」
ζ(゚ー゚*ζ「そうだなぁ……風紀委員会とか?
言葉でしか聞いたことないけど、なんとなくポイント高そう」
从 ゚∀从「風紀委員会……ねぇ」
そこでなぜかハインは――神妙な顔をした。
14
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 23:10:36 ID:W9hMhZsU0
从 ゚∀从「……いや、やめたほうがいい。風紀員会はおすすめしないぜ」
ζ(゚ー゚*ζ「えっ、どうして?」
突然、それまで朗々としていたハインの声のトーンが下がったので、デレは不思議に思った。
从 ゚∀从「とにかくやめたほうがいいって。うん、そうしたほうがいい」
ζ(゚ー゚;ζ「えっえっ? なんでそんなに否定的なの? 何かあるの?」
気になる。無性に気にかかる。
高岡ハインリッヒは明らかに『隠している』。
しかし――。
理由を聞くのもどこか恐ろしく感じた。
デレは落ち着かない心地になる。
沈黙の末、言い澱んでいたハインが、やがてゆっくりと口を開いた。
从 ゚∀从「天使委員会と悪魔委員会――」
ζ(゚ー゚*ζ「え……?」
从 ゚∀从「この学校には『ふたつ』あるんだよ、風紀委員会は」
15
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 23:19:07 ID:W9hMhZsU0
ζ(゚ー゚*ζ「ふたつ……ある?」
特定の委員会がふたつ機能しているとは、どういう訳か。
いや、それよりも。
なぜそのことが所属すべきではないという名分になるのだろう?
ζ(゚ー゚*ζ「天使と悪魔……それが関係あるの?」
从 ゚∀从「もういいじゃん。とにかくやめとけって。
入ってもいいことなんて絶対ないから」
ζ(゚ー゚;ζ「でもっ……!」
追及しようとしたその時。
16
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 23:26:58 ID:W9hMhZsU0
( ゚д゚ )「おいそこぉ、うるさいぞ一番後ろ! 授業中ぐらい静かにしとけよ、ったく」
ζ(゚ー゚;ζ「あっ、すみません」
教師から怒号が飛び、そこで都合よく――おそらくはハインにとって都合がよく――会話が途切れた。
ζ(゚ー゚;ζ(でも小声だったよね。委員会の話をする前のほうが声大きかったのに……変なの)
ハインは既に正面を向いている。
釈然としないものを抱えながらも、デレは教科書を取り出して、一旦座り直してから授業へと参加した。
( ゚д゚ )「だからぁ、一個ずつxに代入していったんで答え出るけど、それじゃ意味ないからな。
ちゃんと式で解けよな。先生そういうローラー作戦一番嫌いだから」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ちっとも頭に入ってこない。
依然としてすっきりしないのだ。どうしても先程のハインの話がひっかかる。
从 ゚∀从「……そのうちわかるよ」
ζ(゚ー゚*ζ「えっ?」
ささやくような声にデレは横を向く。だがそれだけだった。
結局授業が終わるまでハインは一言も発さなかったし、
終わってからもその話題は露骨に避けたので、それきりになってしまった。
17
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 23:35:28 ID:WxDVmh9oO
時々髪の毛が広がるのはワザと?
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ
支援
18
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 23:37:58 ID:W9hMhZsU0
昼食はハインと、それからブーンと共に食べた。
ハインはいつもは学食で済ませていたらしいが、
デレが弁当を持参していることを知ると購買部からパンを買ってきた。
( ^ω^)「ふいー、んじゃ、僕はこのへんで!」
ブーンは五分ほどで弁当箱を空にすると、二個目の弁当箱を持って別のグループに混じっていった。
ζ(゚ー゚;ζ「いつも二食分食べるの? ブーンくんって……」
从 ゚∀从「あいつの理論だと、食事はコミュニケーションツールらしいから。
凄い時は三食だぜ三食」
ζ(゚ー゚;ζ「徹底してるね。ある意味尊敬」
从 ゚∀从「はー、明日からアタシも弁当にすっかな。
朝練あるから無理か。母さん叩き起こすのも悪いしさ」
ζ(゚ー゚*ζ「自分で作ってみるのはどう?」
从 ゚∀从「無茶言うなよおい。大腿には自信があるけど指先はてんでダメなんだって、アタシ。
デレの弁当だってメイドイン母親だろ? その小奇麗な感じだと」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、私……お母さんいないから」
19
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 23:46:51 ID:W9hMhZsU0
从;゚∀从「あっ、わりぃ。そういうつもりじゃなくてだな……」
ζ(゚ー゚*ζ「いいよ。言ってなかったもん。初日から家庭の事情話すのも、ちょっとあれだしね」
締め方が失敗だったとデレは思った。
ζ(゚ー゚;ζ(言葉のチョイスが湿っぽい感じになっちゃった……)
気まずい空気が流れる。
膠着した静寂を破ってくれたのは、ありがたいことにハインだった。
从 ゚∀从「……ってことは、自分で作ってるってことか? すげぇな、マジで」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、そうだけど。でも別に凄くなんてないよ」
从 ゚∀从「わかってないなー、アタシら料理できない系の女子からしたら
そういうテクニック持ってることは憧れのステータスなんだって。
そのナスビの揚げてるやつとかめちゃくちゃうまそうじゃん。タレかかってて見栄えもいいし」
ζ(゚ー゚*ζ「茄子の挟み揚げのこと?」
从 ゚∀从「そう、それ! あーダメだな、そういうしゃれた単語知らないから。
ナスビとか言っちゃうもんなアタシ。ビて」
ζ(゚ー゚;ζ「大してしゃれてないよ。普通の料理名だよ。それにそんなに難しくないし」
20
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/21(火) 23:57:28 ID:W9hMhZsU0
从 ゚∀从「いやいやいや、謙遜すんなって。揚げ物は難しいよ絶対」
ζ(゚ー゚*ζ「そうでもないよ。作り方教えてあげようか? 本当に簡単だから」
从 ゚∀从「ん……いや、やっぱり無理だな。野菜切らなきゃいけないし。
血を見たくなかったらそういう提案はアタシに持ちかけない方がいい」
ζ(゚ー゚;ζ「そんなレベルなの……」
午後からの授業は随分と短く感じた。
ζ(´ー`*ζムニャムニャ
何せ授業の大半を寝て過ごしたのだから。
気がつくと、というより微睡から覚めると、六限目は終わっていた。
从 ゚∀从「おっさきい! じゃあな、デレ!」
ハインは鞄を翻すようにして抱えると、軽やかな足取りで教室を後にした。
これから陸上部での練習に励むのだろう。
21
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 00:10:48 ID:Dsu8GcHU0
( ^ω^)「僕も部活に行かなきゃならないお。ばいばいだおー」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、また明日」
一人、また一人と去っていき、最後にデレだけが残った。
がらんとした教室。
窓の隙間から漏れる風の音だけが響く。
ζ(゚ー゚*ζ「私も帰ろっと」
まだどこにも所属していない、言うなれば帰宅部でいられるのは今だけである。
気楽なものだ。改めてそう思う。
ζ(゚ー゚*ζ「VIP高校、か……」
今日から与えられた自分の居場所。
その内部をデレはしみじみと歩く。
足音もなく、ただ踏みしめるように。
22
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 00:18:44 ID:Dsu8GcHU0
廊下ですれ違う生徒は活力に満ちている。
校舎の外に出ると、野球部のランニングの列が目の前を通り過ぎていった。
それから武道館より上がる剣道部の気勢が宿った声。
少し遅れて金管楽器の音が高らかに鳴り始めた。
校門の手前まで来て、足を止める
誰もまだこの門から出ていっていない。そういった痕跡も、そうする気配もないし、予感さえしない。
ζ(゚ー゚*ζ「みんながんばってるんだなぁ……」
ふと振り返る。
分厚い壁で覆われた堅牢な校舎。時を刻む頂点の大時計。色づく直前の鮮烈な陽光を映すガラス窓。
コンクリートに走った小さな亀裂。一階玄関のタイル。その先に僅かに垣間見えるリノリウムの廊下の床。
すべてが硬質な感触を持っている。
冷たい建物にデレは見下ろされている。
どこか寂しかった。
ζ(゚ー゚;ζ(私も早いところ何をやるか決めちゃわないと)
そこで思い出す。
忘れられるはずもない。
ζ(゚ー゚*ζ(天使委員会と悪魔委員会……か……)
23
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 00:32:15 ID:Dsu8GcHU0
これといって目的もなく寄り道をした。
そのまま真っすぐ帰宅するのはなんとなく気が引けた。
空が淡い紫色を湛えだしたころ、ようやくデレは引っ越して間もない自宅に到着した。
大きくも小さくもないマンションの一室。
表札には『緒本』とある。
ζ(゚ー゚*ζ「……ん?」
玄関口に、無駄に行儀よく整列した革靴がある。
ζ(゚ー゚*ζ「兄さん、もう帰ってきてたの?」
家の中に上がりながら呼ぶと、リビングのドアからひょっこりと顔が飛び出た。
垂れた眉。大きな鼻。せっかくの長身を目立たせない猫背。
見慣れぬ空間の、見慣れた人間。
(´・ω・`)「そうだよ。おかえりデレ」
兄、緒本ショボンはそこにいた。
24
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 00:39:33 ID:Dsu8GcHU0
(´・ω・`)「遅かったね、僕より遅いとは思わなかったよ。用事でもあったの?」
平素と変わらない飄々とした口ぶりでショボンは言う。
ζ(゚ー゚*ζ「別に何もないよ。ただゆっくり歩いてただけ」
(´・ω・`)「そう。あっ、そうだ。デレ。学校どうだった?
クラスの中にちゃんと入っていけたか、僕、心配で心配で」
ζ(゚ー゚;ζ「そんなにドキドキしないでよ。
友達もできたし、きっと楽しくなりそうだよ」
(´・ω・`)「ああよかった」
胸を撫で下ろす仕草まで飄々としているから、本当に気を揉んでいたのか疑わしく見えてしまう。
ζ(゚ー゚*ζ「兄さんこそどうなの?」
(´・ω・`)「何が?」
ζ(゚ー゚*ζ「学校だよ。VIP高校!」
(´・ω・`)「ああ」
ショボンは、ぽん、とわざとらしく手を打った。
25
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 00:52:08 ID:Dsu8GcHU0
ショボンとデレは歳の離れた兄妹である。
妹デレは今春義務教育を終えたばかりの学生で、兄ショボンは世界史を担当する教員。
デレがVIP高校に転校したのもショボンの都合が原因である。
前任の世界史教師が産休に入ったために今月から臨時の補充要員として呼ばれたのだが、
その際にデレも学籍を移すことに決めたのだ。
前任が元々体が強くないこともあり、
ことによっては産後の療養が二年以上に跨るかも知れぬと聞かされていたためである。
ζ(゚ー゚*ζ「授業、ちゃんとみんな真面目に聞いてくれてた?」
(´・ω・`)「まあ簡潔に言ってしまうと総スルーだよね」
ζ(゚ー゚;ζ「やっぱり……」
一次試験で世界史を受験する者は地理や日本史を選択する者に比べ少ない。
学校側からも、ほとんど教養としての役目しか期待されていなかった。
もちろん学生は効率を求めるから利用しない科目の授業など律儀に受けるはずもない。
(´・ω・`)「みんな次の授業の予習をやってたよ」
ζ(゚ー゚;ζ「予想はしてたけど……兄さん、こっちでも大変だね」
デレはそれが不憫だった。
26
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 01:02:14 ID:Dsu8GcHU0
デレにとっては唯一の肉親である。
母は早くに死に、父もショボンが教員試験に合格したころに病に倒れた。
以降デレを養っているのはショボンである。
感謝の念は尽きない。
こうして自分が高等教育を受けられるのも学費を捻出してくれるショボンのおかげなのだから。
そんな兄が仕事にやりがいを感じられていないのは悲しかった。
(´・ω・`)「でも寝られるよりはマシだよね、うん」
ζ(゚ー゚;ζ「な、なんでこっちを見ながら言うの?」
(´・ω・`)「なんとなく」
それより、とショボンは続ける。
(´・ω・`)「そろそろ夕飯にしない? 帰りに半額シール貼られたお刺身買ってきたから」
ζ(゚ー゚*ζ「そうしよっか。ごはんよそうね」
(´・ω・`)「頼むよ。お刺身たくさんあるから明日も食べられるよ。安かったからね」
ζ(゚ー゚;ζ「確実に腐るから。というかそんなにいっぱい買ってきたの?
逆に損だよ、それ」
27
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 01:09:18 ID:Dsu8GcHU0
日頃のショボンはいつもこうだ。
捉えどころがない。雲の上を歩いているようにふわふわとしている。
この人が本領を発揮するのは――物事が自分の専門ジャンルに至った時だけだ。
滅多にないことだが。
ζ(゚ー゚*ζ「そうだ、兄さん」
(´・ω・`)「なんだい」
大量のイカ刺しを箸先で滑らせながら、デレの目を見る。
(´・ω・`)「まったくつかめない……イカは強敵だな」
ζ(゚ー゚*ζ「もう! そんなのは後でいいから!」
(´・ω・`)「ごめんごめん。しっかり聞いてるよ。なんだい?」
ζ(゚ー゚*ζ「私、いつまでお母さんの姓を借りなきゃいけないのかな」
(´・ω・`)「え?」
ζ(゚ー゚*ζ「鈴院じゃなくて、緒本デレって学校で名乗ってもいいと思うんだけど」
聞かされたショボンは、仰々しくもあるが、恐れ慄いたような表情をした。
28
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 01:21:42 ID:Dsu8GcHU0
(´・ω・`)「なっ、なんていうことを言うんだ!
ああなんてことだ。破滅する、磨滅する、壊滅する、消滅する、明滅する、絶滅する!
デレが僕と同じ名字を学校で使うだなんて……何もかも終わりだ」
ζ(゚ー゚;ζ「ちょっ、ちょっと、そんなに慌てふためかないでよ。落ち着いて」
(´・ω・`)「ヒッタイトの地は滅び、海の民が襲来し、ミケーネ文明は終わる!
大変動だ! カタストロフィの始まりだ!」
ζ(゚ー゚*ζ「……兄さん、もういいから」
狂乱したような言葉の数々をショボンは口走っているが、
案の定というべきか挙措が芝居がかっているので然程問題ではないことをデレはすぐに察知した。
(´・ω・`)「あ、飽きた? いつもより更に早かったね今回は」
ζ(゚ー゚;ζ「さすがにね」
第一、これが初めてのことではない。
何度も話を持ちかけたことがある。そしてその都度こういった茶番じみたやり取りを交わしている。
もうすっかり慣れてしまった。
なぜ自分の姓を緒本と明かしてはいけないのかという点も、とっくに教わっている。
本当に瑣末な理由なのだ。
29
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 01:35:30 ID:Dsu8GcHU0
ζ(゚ー゚*ζ「だから、もう私は平気だってば。
兄さんだけだよそんなに気にしてるの」
(´・ω・`)「だって、だってだよ、僕とデレの姓が一緒だと、兄妹だってバレるだろう?
ダメダメそんなの。教師の身内ってだけで弄られ対象になるんだから。
最悪、ああ恐ろしい、最悪の場合、デレが陰湿極まりないいじめにあうかも知れない!」
ζ(゚ー゚;ζ「別に大丈夫だって」
(´・ω・`)「ただでさえ転校と転任が同時で状況証拠が出揃っているのに、
上の名前がイコールならもはや確定事項に定まってしまうよ」
ζ(゚ー゚*ζ「いいでしょ。そのぐらいで何も起きるわけないよ。小学生じゃあるまいし」
(´・ω・`)「石橋は壊れない限り叩いても問題ないんだよ」
ζ(゚ー゚;ζ「手段と目的がすり替わってるよ、それ」
夏期休暇の間この議論を一体どれだけ繰り返しただろう。
デレは兄の反対連呼に既に諦め気味ではあったが、一応今日も提唱してみた。
そして推察通りこれである。
ζ(゚、゚*ζ「もう、わかったよ。兄さんは頑固なんだから」
デレは観念することにした。
30
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 01:46:16 ID:Dsu8GcHU0
家族会議が終わると和やかな雰囲気が戻ってきた。
新しい学校での出来事は妹が兄に聞かせる話の種としては最上だった。
デレがハインについて語っている時のショボンは、心底嬉しそうな顔つきをしていた。
けれどただひとつ。
委員会の話に関してはショボンに伝えなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「ごちそうさま」
(´・ω・`)「もういいの? 太ってないのに」
ζ(゚ー゚;ζ「体重気にしてるわけじゃないから。お腹いっぱいになったの」
相変わらず箸からこぼれ落ちるイカ刺しと格闘しているショボンを尻目に、
デレはそこそこに食事を切り上げて碗を片付けた。
(´・ω・`)「あっ、お風呂は沸かしてるから」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、先に行くね」
考えすぎないほうがいいのだ。
ハインが進言した以上、風紀委員会は選択肢から外すのが賢明だろう。
そうすればきっと楽しく穏やかな学生生活が待っている。
希望に満ち溢れた、
楽しい一時が。
31
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 01:47:34 ID:Dsu8GcHU0
自分用しおり<ここまで書いた>
32
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 16:25:31 ID:VKm3bsRM0
なんか面白そうなのがきたな
乙
33
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 21:43:55 ID:Dsu8GcHU0
やるか
34
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 22:00:47 ID:Dsu8GcHU0
三日ほどもすればデレは転校先での生活にも馴染んだ。
接してくれる人間は皆親切だったし、デレも元々気立てのいい性質をしていたから、
デレがクラスに溶け込んでいくことに不便も障害もなかった。
学校という空間そのものが自分を受け入れてくれている。
校舎は見下ろしているのではなく、見守っているのだ。
そんな気がした。
(´・ω・`)「えー、というわけで、しばらく皆さんの授業を担当することになりました。
よろしくお願いしますね。それでは早速始めたいと思います」
金曜日の四時限目は世界史。
まさに兄のショボンが受け持っている科目だが、週の終わりの金曜日という日にちがそうさせるのか、
あるいは昼休み直前という時間帯がそうさせるのか、どうも教室内に覇気がない。
ζ(゚ー゚;ζ(一番の理由は世界史ってところなんだろうけど)
隣のハインも船を漕いでいる。
35
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 22:21:01 ID:Dsu8GcHU0
居眠りしたり他の科目の勉強をする生徒はまだいいほうで、
ひどいのになると弁当に手を付けている。
蒸れたような臭いが辺りに漂う。デレはその臭気に若干不快になる。
(´・ω・`)「ええと、確か、西欧史は一学期の間にルネサンスまで終わらせてるんでしたよね。
授業計画表にそうありますから。ということで、今日からロマン主義の学習に入ります」
そんな雰囲気を微塵も気にする様子もなくショボンは講義を始めた。
(´・ω・`)「えー、ロマン主義。十八世紀から欧州を中心に起こったムーブメントですね。
人間の『本質』に迫る文化体系とでも呼びましょうか。
その根にあるのは抑圧からの解放、といった精神的な欲求からです」
ショボンは黒板に、『教条主義』と書く。
(´・ω・`)「さて特に試験などで取り上げることのない単語ですが、
一応これにも触れておきます。ロマン主義以前の、いわゆる宗教支配的な考えですか。
当時の欧州では宗教というものは大いに人々の理性を構築する指針となっていました。
理性とは人間が人間である所以ですね。
理性がなければ人は動物と変わりません。理性があるから人なんです」
36
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 22:38:44 ID:Dsu8GcHU0
一定のペースを維持してショボンは続ける。
(´・ω・`)「ただそうした教義は導く能力よりも抑えつける能力のほうが大きかったりする。
要するに人々の自主性、自由、そういったものを奪う側面があったわけですね。
理性とは本来生まれた瞬間から人間に備わっているもの。
そこに注目した、つまり人間自体に重点を置いたのがロマン主義なんです」
デレは顔を上げている。
せめて自分くらいはまともに耳を傾けてやるべきだと思った。
ζ(゚ー゚*ζ(いまいち興味ない話なんだけどね……でも)
なぜか聞き入ってしまう。
ショボンの声は決して大きくなく、むしろ小さめだが、不思議と聞き入ってしまうのだ。
一度聞く体勢に入るとショボンが紡ぐ言葉に惹きつけられる。
奇妙なものだ。
(´・ω・`)「更にそれ以前の文芸復興、おっと、今はルネサンスでした。
どうも僕らあたりの世代だと文芸復興って言っちゃうんですよね。それはともかく」
一旦切る。
(´・ω・`)「既に学んであるとは思いますが、ルネサンスとは古代の文化を現代に蘇らせる運動でしたね。
その後に教義主義が来た。これによって強引さを含みつつもよい方向に進もうとした。
そして時代は移り変わり、時間を遡ることも未来を読むことも終わり、新しい思想が生まれた」
37
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 22:49:03 ID:Dsu8GcHU0
そこでようやく、ショボンは『ロマン主義』というキーワードを黒板にでかでかと刻んだ。
(´・ω・`)「これが『人』にスポットを当てたロマン主義です。
人間そのものを見つめることこそが、ロマン主義の基礎なわけです」
ζ(゚ー゚*ζ(ふうん……)
デレは思う。
ζ(゚ー゚*ζ(自分の得意ジャンルにだけは本当に明るいんだから……)
デレが知る限り、ショボンの世界史学、とりわけ思想面や芸術面に関する知識は膨大である。
彼の脳内にあるデータバンクの底はまったく見えない。
ただ博識を誇っていても、生徒に関心を持たれない限りショボンが報われることはまずない。
だから不憫なのだ。
実際ほとんどの生徒は最初から理解しようとする態度を放棄している。
ζ(゚ー゚;ζ(まあ受験で役に立たないから仕方ないんだけど)
(´・ω・`)「ロマン主義では感情であったり欲望であったりといった、
それまで避けられ気味であった生々しい部分が芸術や文化に反映されていきます。
この時代における代表的な文学作品がドイツの文学者、ゲーテの『ファウスト』です」
38
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 23:04:03 ID:Dsu8GcHU0
ファウスト。デレも耳にしたことぐらいはある。
(´・ω・`)「ファウストは二部構成の戯曲作品ですが、
実は完全なゲーテのオリジナルではないんですね。
元々は、十五世紀から十六世紀ごろに実在したゲオルク・ファウスト博士の生涯を
モチーフにした民間伝承の物語なのです。
彼の伝説として、やれ悪魔の力を身につけた、やれ錬金術に傾倒している、
その代償として研究中に爆発事故を起こして死んだ、などと色々噂されたようですが、
彼が世間から疎んじられていたこともあってか、
そこから『悪魔と契約した男』という物語がいくつか作られたそうです。
いくつか作られた、と言いましたが、
大筋はどれも最後に博士が酷い目に遭うという破滅的なストーリーとなっていますね」
ところが、とショボンは続ける
(´・ω・`)「ゲーテが再編成したファウスト博士のストーリーはまるで違いました。
最大の相違点は『最後に博士が救済される』ということです」
ζ(゚ー゚*ζ(救済?)
(´・ω・`)「ファウスト神話は、悪魔と契約した人間には必ず報いがやってくる、
という因果応報の物語ですが、ゲーテはそういった結末を用意しなかった。
最後までファウスト博士を人間として扱ったのです」
39
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 23:16:24 ID:Dsu8GcHU0
ショボンは猫背をほんの少しだけ改める。
(´・ω・`)「簡単にあらすじを話しましょう。
人間が一生で出来ることの限界に悩んでいたファウスト博士は、
ある日悪魔メフィストフェレスに出会い、喜怒哀楽のすべてを経験することを約束されます。
ただし、その代わりに死後の魂の復讐を誓わされたのです。
ここで登場するのが町娘のグレートヒェン」
以前声量は乏しいが、性質はいくらか熱を帯びている。
(´・ω・`)「ファウスト博士とグレートヒェンは恋に落ちます。
二人の恋の邪魔となるグレートヒェンの家族を殺してしまうほどに、
ファウスト博士は彼女を激しく愛しました。
ところがです。ある日、博士が悪魔にヴァルプルギスの夜の宴に呼ばれている間に、
グレートヒェンは投獄されてしまう。
罪状は実子の殺害。グレートヒェンは博士の子供をその胎内に宿していたのです」
ζ(゚ー゚;ζ(な、なんか凄いけど昼ドラみたい。サスペンスチックな昼ドラ?)
40
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 23:32:39 ID:Dsu8GcHU0
(´・ω・`)「そして――グレートヒェンは処刑されたのです。
ファウスト博士は大いに絶望します。二人の仲は永遠に引き裂かれた。
以降はもう、悪魔メフィストフェレスの言いなりですね。
悪魔の力を借りて皇帝に仕えたり、はたまた人探しの旅をしたり、
理想の国家のあり方を求めて戦争を起こしたりもしましたが、
最後はメフィストフェレスの奸計にかかり命を落としてしまいます。しかし」
ショボンは、ここからが大きく異なる、と継いだ。
(´・ω・`)「ファウスト博士は決して悲惨な死を迎えませんでした。
死の間際に彼は最上の幸福を予感したのです。
そこで彼の願いに呼応するかのように奇跡が起きる。
博士の魂を契約どおり横取りしようとした悪魔メフィストフェレスを、
なんと天使たちが追い返してしまうのです。いやあなんともドラマチック」
ζ(゚ー゚*ζ(ドラマチック、かあ……)
確かに感動的ではある。
ζ(゚ー゚*ζ(だけど……)
ご都合主義――ではないかとも思う。
ハッピーエンドに至ることこそが『追い求めるべき人間の本質』なのだろうか?
41
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/22(水) 23:46:30 ID:Dsu8GcHU0
(´・ω・`)「そういえば戯曲ファウストの開幕は天使ミカエル、ラファエル、ガブリエルの歌ですから、
ある意味伏線だったのでしょうかね。そこまではわかりませんが。
いや余談になりました。続けます」
ショボンはもみあげのあたりをかいてから再開する。
(´・ω・`)「更に登場するのが、なんとかつて死別した最愛の恋人グレートヒェン。
彼女の霊が聖母に祈りを捧げたことで、博士の魂は浄化され、無事に昇天します。
ここにファウスト博士の救済は完成しました。
オリジナルとはまったく違う趣の、なんとも美しい物語となっています。
こういったシナリオ展開をゲーテが考えついたのは、ロマン主義の先駆者である
同じドイツ出身の詩人、ノヴァーリスの『青い花』という作品における、
『愛による成長』という抒情性たっぷりのテーマに影響を受けていると考察できいますね」
さて、とショボンは付け加えた。
(´・ω・`)「なぜこれがロマン主義的であるか、というのが問題になります」
デレはここで自分以外にもショボンの話を聴講している生徒が数人いることに気づく。
その一人がブーンだった。後ろ頭がうんうんと頷くかのように上下に揺れていた。
42
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 00:03:44 ID:k3JyGjbQ0
(´・ω・`)「一番目立つ要素としてはグレートヒェンの存在ですね。
彼女を単なるヒロインの立場だけでなく、『救い手』として扱ったことが大きい。
これは女性の本質は清らかであり男性の救世主たりうる、という理想が込められています。
女性の中に聖母マリアを見出してるわけですね。
そういった理想を人の内面に求めていることがまさにロマン主義なのです」
そしてもうひとつは――ショボンは続ける。
(´・ω・`)「最初に宣言したように、
この作品は最後までファウスト博士を一人の人間として尊重しています。
それまでは悪魔と契約した人間はろくな最期を迎えないとして描いていますが、
ゲーテの『ファウスト』では救われています。
すなわち、『悪魔に憑かれた者』が、嫌悪ではなく同情の対象になっているんですよ。
これが非常に興味深い点でして、同時にロマン主義的思想の象徴といえます。
悪魔に魅入られることは不幸であっても、魅入られてしまった当人は糾弾されるべきではない。
人間はどこまでも人間なのです。たとえ何があっても揺るぎません」
まだハインは眠っている。
一方のデレは依然冴えている。
(´・ω・`)「ちょうど、その頃は欧州の魔女狩りもすっかり衰退していましたしね。
そうした時代背景も悪魔に対する考え方の変化に影響を及ぼしたのでしょう」
43
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 00:11:47 ID:k3JyGjbQ0
そこでチャイムが鳴る。
(´・ω・`)「え、もう終わり? しまったあ、教科書が全然進まなかった!
テストに関係ないことを長々と話してしまった!」
ζ(゚ー゚;ζ(え、全部余談なの?)
試しに教科書を開いてみると、
そこには『ロマン主義』『ゲーテ』『ファウスト』という単語が無機質に記されているだけで、
内容や解釈に関してはまったく触れらてていない。
ζ(゚ー゚;ζ(本当に全部余談だった!)
デレはずっこけそうになる。
よくもまあ脇道に逸れたままここまで長広舌をふるえるものだ。
(´・ω・`)「えー、まあ、そういうことでして、今日の授業はここまでということで。
宿題等は出しませんから教科書ノートだけ準備しておいてくださいね。
それでは」
締めの挨拶もそこそこに、ショボンはすたすたと大股で去っていった。
教室の空気が緩和される。ハ
インもようやく目覚めたらしく、両手を突き上げて背伸びをしている。
44
:
改行ミス
:2011/06/23(木) 00:12:25 ID:k3JyGjbQ0
そこでチャイムが鳴る。
(´・ω・`)「え、もう終わり? しまったあ、教科書が全然進まなかった!
テストに関係ないことを長々と話してしまった!」
ζ(゚ー゚;ζ(え、全部余談なの?)
試しに教科書を開いてみると、
そこには『ロマン主義』『ゲーテ』『ファウスト』という単語が無機質に記されているだけで、
内容や解釈に関してはまったく触れらてていない。
ζ(゚ー゚;ζ(本当に全部余談だった!)
デレはずっこけそうになる。
よくもまあ脇道に逸れたままここまで長広舌をふるえるものだ。
(´・ω・`)「えー、まあ、そういうことでして、今日の授業はここまでということで。
宿題等は出しませんから教科書ノートだけ準備しておいてくださいね。
それでは」
締めの挨拶もそこそこに、ショボンはすたすたと大股で去っていった。
教室の空気が緩和される。
ハインもようやく目覚めたらしく、両手を突き上げて背伸びをしている。
45
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 00:22:38 ID:k3JyGjbQ0
从 ゚∀从「んん……ぷはー。やっと終わったか」
ζ(゚ー゚*ζ「ずっと寝てたの?」
从 ゚∀从「おう。フルで寝てたぜ。おかげで体調良好!」
ハインは歯を見せて笑う。なんとも快活な笑顔だ。
( ^ω^)「寝てただなんてもったいない。
中々聞きごたえのある授業だったお! ねぇデレちゃん?」
横からブーンが口を挟んでくる。
ζ(゚ー゚;ζ「え? まあ……そこそこね」
从 ゚∀从「なんだよー同意しちゃうのかよ。
お前ら、あんな退屈な話ずっと聞いてたの? 信じられねぇ」
ζ(゚ー゚;ζ「う、うん、一応試験に出るかもって思ってね」
ここで、『自分の兄だからです』とは答えられない。
なぜ姓が違うか尋ねられても理由が理由だけに真面目に返答するのは恥ずかしいし、
何も訊かれないのも居心地が悪くなるだけだ。
46
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 00:40:24 ID:k3JyGjbQ0
ハインとの昼食を済ませた後、デレはぼんやりと教室中を見渡していた。
ζ(゚ー゚*ζ「みんなリラックスしてるなあ……あれ?」
ふと、ある一ヶ所に目が止まる。
('A`)「……っしゃああああ! フォーカード! 俺の勝ちだな!」
ミ,,゚Д゚彡「んがあ! マジ運ゲーすぎんだろこいつ!」
('A`)「これが持ってる男と持ってない男の違いだ」
ミ,,゚Д゚彡「うぜえ……あー最悪。よりによってこの時に……」
教室の隅の席で、男子二人がトランプで遊んでいる。
確か又聞きした記憶だと、鬱田ドクオという生徒と、房村フサという生徒だったはずだ。
様子を見る限りではドクオが勝利したらしく、
口角が片方だけ吊り上がったいやらしい笑みを浮かべている。
対するフサは悔しそうに眉根を寄せていた。
だが、ただ勝敗が決しただけにしては、妙に感情と熱気が込められすぎている。
47
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 00:45:46 ID:k3JyGjbQ0
('A`)「ほれほれ、諦めてさっさと支払いな、フサちゃんよー」
ミ,,゚Д゚彡「……ちっ、わかったよ。ほら」
フサが卓上の財布を乱暴につかみ、そこから百円硬貨を数枚取り出す。
そしてそれをドクオに握らせた。
ζ(゚ー゚*ζ「あ」
ギャンブルだ。
ζ(゚ー゚;ζ「いいのかなあ、学校でやってて。ばれたら大変なことになりそうだけど」
从 ゚∀从「ああ、あいつらなら頻繁にやってるぜ」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなの?」
从 ゚∀从「まっ、ちんけな額しか賭けてないみたいだから、大事にゃならないよ。
かわいいもんだぜ。百円単位の争いなんだから」
ζ(゚ー゚*ζ「かわいいかな?」
从 ゚∀从「かわいいよ。なんていうか、ガキっぽいっていうか?
ああいう小さなことに心から熱くなれるのって男子だけだからねーやれやれさ」
両手の平を天井に向けて、首を横に振りながらハインは呆れたように言う。
テンプレートな外国人めいた仕草だったのでおかしかった。
48
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 00:51:45 ID:k3JyGjbQ0
ミ,,゚Д゚彡「くっそう……もう一戦だもう一戦! レート上げて再試合だ!」
('A`)「お前、レート上げろって取り返す気満々じゃねぇか……。
ま、いいぜ。返り討ちにしてやんよ。財布の中空になっても知らんぞ?」
ミ,,゚Д゚彡「馬鹿言えトータルじゃ俺のほうが勝ってるっての。ほら、さっさと混ぜろ」
('A`)「ちょい待ちな……」
ドクオがカードを回収しようとした瞬間である。
がたん。
ドアが勢いよく開いた。
ζ(゚ー゚;ζ「わっ、なっ、なに?」
思わずドアの方向を見る。
デレだけではない。教室にいた全員がそちらに視線を向けていた。
開け放たれたドアの先には――天使がいた。
49
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 01:09:03 ID:k3JyGjbQ0
ζ(゚ー゚*ζ「……え?」
天使――ではない。そんなはずがない。
あれは少女だ。
教室と廊下の境目に立っているのは紛れもなく少女。
けれど、ただの少女とはとても言えない。並ならぬ雰囲気を発している。
ξ゚⊿゚)ξ「少々、いいかしら。すぐに終わりますので」
瞳が大きく、睫毛も長い。だから一層鈴張りの目に拍車がかかっている。
体は華奢で脚はすらりと長い。
腕を組んで立っているから手元は分からないが、わずかに覗くその指は、細く白く、しなやかである。
瞬きは少なく、やや顎を上げ、唇の端に微笑を湛えている。
自信に満ち溢れた表情。
二つにまとめられた巻き髪。
顔のパーツの配置も含め、微塵の狂いもない左右対称の外見。
完璧を擬人化したような、そんな美少女。
ζ(゚ー゚*ζ(綺麗な人だなあ……)
人形のようだとデレは思った。
しかし和人形ではない。西欧の人形だ。顔立ちが日本人的ではない。
50
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 01:17:35 ID:k3JyGjbQ0
少女の登場と同時に教室内がさあっと静まりかえる。
全員が全員沈黙し、ある者は顔を背け、ある者は俯き、ある者は釘付けになっている。
ζ(゚ー゚*ζ「ど、どうしたのみんな? あの人、誰なの?」
从 ゚∀从「天使委員会だ」
ζ(゚ー゚*ζ「え? 今なんて?」
从 ゚∀从「あの人は天使委員会の会長……津雲ツン先輩だよ」
ハインが暗い声で呟く。
ζ(゚ー゚*ζ「天使委員会? もしかして、この前に言ってた、風紀委員のこと?」
从 ゚∀从「うちのクラスにも天使が……来ちまったのか……」
――風紀委員会は『ふたつ』ある。
――『天使委員会』と『悪魔委員会』。
ζ(゚ー゚*ζ「じゃああれが……あの人が」
やはりこの可憐な少女は――天使だったのか。
51
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 01:26:51 ID:k3JyGjbQ0
ζ(゚ー゚;ζ「……でも、でも、変じゃない? なんでみんな委縮してるの?
天使なんだから怖がることはないじゃない」
悪魔を恐れるのであれば理解できる。
しかし天使に恐怖を覚えるなど聞いたことがない。
ツンは変わらずドアの前で直立不動の姿勢をとっている。
注視してみると、その背後に数名の男女入り混じった学生の姿が見える。
あの集団も天使委員会か。
从 ゚∀从「じきにわかるよ……いや、もうすぐだ。もうすぐデレにもわかるぜ」
ζ(゚ー゚*ζ「もうすぐって……そうだ!
天使委員会って、要は風紀委員会なんでしょ?
誰かが校則違反をしたことが……あっ」
思い立ったようにデレはツンの目を見た。
青が混濁した瞳はある一点をひたすらに見つめ続けている。
最初から今まで、ずっとツンはその一点のみを捉えていたのだ。
その射竦めるような眼差しの先には、ドクオとフサがいた。
52
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 01:28:32 ID:k3JyGjbQ0
自分用しおり<ここまで書いた>
53
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/23(木) 08:00:32 ID:BfDolsGoO
乙!
ツンちゃんマジ天使
54
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/24(金) 04:41:20 ID:0EPzuYBE0
おつー
55
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 19:59:37 ID:CH4QBQVk0
よし
56
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 20:14:55 ID:CH4QBQVk0
二人して動かない。固まっている。
ツンは悠然と歩み寄る。
その背後を委員と思しき数人の生徒が追う。
ξ゚⊿゚)ξ「房村フサさん」
相手を直視して言う。
ミ,,゚Д゚彡「な、なんですか」
声が震えている。背丈はフサが上であるのに、ツンが見下ろしているようにデレには映った。
ξ゚⊿゚)ξ「なんですか、ではないでしょう。あなた自身が一番わかっているはず。
当校制定の校則第二十三項『娯楽、嗜好品の持ち込み制限』、
及び第五十七項『強制力を伴った金銭のやり取りの禁止』。
これらの規定にあなたは著しく違反していますでしょう?」
ミ;゚Д゚彡「きょ、強制たって、実際は、こ、こいつと合意してやってんだぞ!
そ、そりゃ、賭けてたことには変わりはないけど、無理やりじゃなく、お互いに理解して……」
ξ゚⊿゚)ξ「相互であろうと合意の上であろうと関係ありません。
厳密な審査の結果、校則違反、それも悪質なケースと判断しましたので」
57
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 20:30:08 ID:CH4QBQVk0
ミ;゚Д゚彡「悪質? ど、どこがだよ!? 誰にも迷惑かけてないぜ?
しかもこんな突然……」
ξ゚⊿゚)ξ「誰にも? あなたの行為によって学校の調和が乱れないとでも?
何よりもあなた自身のためにならないのではないかしら?」
ツンは目にかかった前髪を払って、続ける。
ξ゚⊿゚)ξ「それに突然ではありませんわ。今回の決定には時間を要しました。
当校には具体的に賭博を禁じるような校則はありませんからね。
一般レベルのモラルが備わっていれば、そもそもありえない事例ですから」
視線は交錯したままである。
ξ゚⊿゚)ξ「それが――よくありませんでした。あなたのような生徒を生んでしまいました。
一線を超えた部分をモラルだけに任せるのはやはり問題があるようですね。
そこで今回は、過去の判例なども参照して、規則の解釈を拡張することに決めたのです。
なんとしても不埒な学生を取り締まり我が校の風紀を保たねばなりませんから」
ミ;゚Д゚彡「で、でもさ、誰でもやってるよ、こんぐらい」
ξ゚⊿゚)ξ「誰でも? よくもまあ言えたものですわね。己の罪を薄めようとでも言うのですか?
残念ですがそれは無理な注文というものですわ。
あなたの犯したことは既に起きてしまった事実。見苦しい。認めなさい」
58
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 20:38:34 ID:CH4QBQVk0
ツンの語調が強くなる。
ξ゚⊿゚)ξ「認めなさい! あなたは校則を破ったのです!
まさかまだ言い訳の余地があるなどとお思いかしら?
とんだ思い上がりですわね」
ミ;゚Д゚彡「う……み、認めるのは認めるよ……」
フサはすっかり気圧されて萎びた青菜のようになっている。
それでも何か反論しようと口をもごもごと動かしているが、結局言葉にはならない。
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇハイン」
从 ゚∀从「なんだ」
ζ(゚ー゚;ζ「あんなちょびっとの金額の賭けでこんなに怒られちゃうの?」
从 ゚∀从「額とかそういう問題じゃないんだよ。天使委員会は……厳正なんだ」
厳正。
从 ゚∀从「天使委員会に特別はないんだ。見逃されるなんてこともない。
連中はどこまでも公平で、緻密で、絶対で」
だから皆恐れてるんだよ――ハインはそう結んだ。
59
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 20:54:13 ID:CH4QBQVk0
ξ゚⊿゚)ξ「房村フサさん、あなたには以下のなすべき事項を課します。モララー」
( ・∀・)「はい」
ツンの背後に侍していた男子生徒が返事をした。
ξ゚⊿゚)ξ「伝えて。手短にね」
( ・∀・)「了解しました。ええと、房村フサを甲、風紀委員会を乙として、
今回の校則違反に関して甲は乙に反省文を四百字詰め原稿用紙六枚にまとめ提出。
また甲は二週間の間乙の監視下に置かれることを了承するように」
ミ,,゚Д゚彡「は、はあ……」
( ・∀・)「最後に乙は、甲に対して、罪の告白と改悛の弁を述べることを要求する。
簡単に言うと懺悔だね。会長に向かって頼むよ。ちゃんと聞き取れる声でね」
ミ;゚Д゚彡「やっぱりそれもですか」
( ・∀・)「ああ知ってるみたいだね。誰かがやってるところを見たのかな。じゃあ話が早い。よろしく」
そこまで早口で言い終わると男子生徒はまたツンの後ろへと下がった。
再びツンとフサが対峙する。ツンはこれまでと変わらない、澄み切った瞳で睨むように見つめている。
60
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 21:03:13 ID:CH4QBQVk0
ζ(゚ー゚;ζ「みんなが見てる前でそんなことさせられるの? 嫌だなあ……」
从 ゚∀从「みんなが見てなきゃダメなんだよ。
それが重要なんだ、あいつらには」
ζ(゚ー゚*ζ「どういうこと?」
从 ゚∀从「周りの人間に見せつけてやるのが狙いなんだよ」
ζ(゚ー゚;ζ「恥をかかせようってこと? なんだか性格悪いねそれ」
从 ゚∀从「そうじゃねぇ。見せるのは個人じゃない。場面全体だ」
ζ(゚ー゚*ζ「へ?」
意味がよく解らない。人ではなく場面を見せるとはどういうことか。
从 ゚∀从「まあ見てな」
ハインは多くを語ってくれない。
仕方なくデレはツンの方向に目を戻す。
フサは怯えている。ツンは勝ち誇っている。あまり長く眺めていたい光景ではなかった。
61
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 21:12:27 ID:CH4QBQVk0
ミ,,゚Д゚彡「わ、私は」
ξ゚⊿゚)ξ「小さい」
フサが意を決して開口したそばからツンが咎めた。
ξ゚⊿゚)ξ「小さすぎます。本当に自らの行為を後悔しているのですか?
反省の気持ちが感じられません。
私はあなたのためを思ってこうして駆けつけましたのに。
これ以上失望させないでくださりません?」
屹然とした口調である。
凹凸がはっきりしている凛とした横顔は惚れ惚れするほど美しく、だけど同時に、
ひどく恐ろしかった。
天使のような顔で鋭い言葉を投げかけている。
ミ,,゚Д゚彡「私は!」
フサは泣きそうな顔で叫んだ。
ξ゚⊿゚)ξ「続けなさい」
62
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 21:31:45 ID:CH4QBQVk0
ミ,,゚Д゚彡「私は! こ、校則で禁止されてい、いるにも関わらず、
トランプを持ち、持ち込んで、あ、あろうことか、賭けの道具に使っていました!」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、その通りですわ。あなたは大いなる失態を犯しました。
その報いを今受けています。当然ですね。はい、続けてください」
温度のない声でツンは言う。
ミ,,゚Д゚彡「も、もう……」
ξ゚⊿゚)ξ「どうしましたか。聞こえませんわ。
これは決意表明でもあるのですから、明瞭な声でお願いします」
フサの肩が震えている。
屈辱からか感情の昂りからかは判別がつかないが、目に涙が滲んでいた。
ミ,,;Д;彡「も……もう二度と、こ、このような行いは、いたしません!
じ、じ、自分は、心から悪いことをしたと反省しています!
だから、も、もう、いたしません!」
63
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 21:38:06 ID:CH4QBQVk0
ξ゚⊿゚)ξ「誓いますか?」
ミ,,;Д;彡「ち、誓います! 今後は、お、同じ過ちは繰り返さないと、誓います!
ほ、本当に、本当に、も、申し訳ありませんでした!」
フサが勢いよくツンに頭を下げる。
外聞もない涙声で懺悔は終わった。
たぶん、フサは精神的に痛めつけられているのだろう。
ツンの糾弾にすっかり参ってしまっていた。
フサは泣き面を晒している。
何人もの部下を従えた少女が、仁王立ちでフサを見据えている。
それを取り囲むクラスメイト。
全員が目撃している。
音はない。
壮絶な光景だった。
ζ(゚ー゚;ζ「……」
デレは言葉を失っていた。
これでは告解どころか、処罰じゃないか――そう感じた。
64
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 21:51:36 ID:CH4QBQVk0
从 ゚∀从「なんとなく分かったろ?
天使委員会ってのは『応報』と『平等』を見せつけるんだ」
ハインが耳元で囁く。
从 ゚∀从「校則こそがすべてなんだ、天使委員会にとっては。
整った風紀を維持するためには校則を遵守させることが一番だって、そう考えてる。
校則に背く学生がいたら徹底的に絞り上げる。ちょうど今のフサみたいに。
その一部始終を周囲の奴に見守らせて、公平性を示す。
公平こそが連中にとっての正義だ。
そうやって全校生徒を支配しようとしてるのさ」
ζ(゚ー゚;ζ「支配って……言い方が悪いよ」
从 ゚∀从「似たようなもんだよ。風紀委員なんて結局、縛りつけるのが仕事なんだから」
ハインが少しも冗談っぽく喋らないから、デレは不安になってしまう。
ζ(゚ー゚*ζ「……誰が告げ口したのかな。このクラスの誰かってことだよね」
从 ゚∀从「そんなのわかんねーよ。昼休みなんていろんな組のやつが出入りするだろ?
誰がどこに繋がってるかなんてアタシらにわかるわけないよ」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん……そっかあ……」
ならば、いつどこで見張られているかも定かではないということか。
65
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 22:07:18 ID:CH4QBQVk0
ζ(゚ー゚*ζ「だけど……呼び名が天使委員会だなんて、変じゃない?」
从 ゚∀从「なんでよ」
ζ(゚ー゚*ζ「普通天使って言ったらいいものでしょ? あの人……なんだか怖いよ」
こんな酷薄な天使がいてたまるものか。
天使とは祝福してくれる存在だ。
从 ゚∀从「だからさ、いいか悪いかじゃないんだよ。
言ってるじゃん。天使委員会は公平って。公平ってことは中立なんだ。
そういう観点じゃ、間違いなくツン先輩は中立だ」
ζ(゚ー゚;ζ「だけど……」
从 ゚∀从「それに天使ってのは、よくわかんねぇけど、清らかなもんなんだろ?
だったらやっぱり天使なんだよ。ツン先輩に汚れたとこなんて一個もない。
……怖いくらいにな」
ζ(゚ー゚*ζ「うん……」
だとしたら、なんとなくわかる気がする。
清純で公正。絶対的に平等な価値観と、絶対的に清浄な信念を持った、堂々たる一人の少女。
それが天使、津雲ツン。
66
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 22:11:19 ID:CH4QBQVk0
言われてみれば納得のいく話だ。
ζ(゚ー゚*ζ(……それでも……)
それでもやはり、デレはツンに対して得体の知れない畏怖を感じている。
ξ゚⊿゚)ξ「……あなたの誓言、確かに謹聴しました。
以後善処してください。さて、もう一人いましたね」
ツンは頭を垂れたままのフサから視線を外し、その後方を見た。
当然のことながらそこには共犯のドクオがいる。
怯えている。友人と同じ目に遭うことが容易に想像できるからだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「鬱田ドクオさ――」
ツンがそう言いかけた時。
また、ドアが開いた。
ζ(゚ー゚;ζ「えっ? なに?」
ざわめきが起こり、注目の的が一気に移動する。
そこに佇んでいるのは、またしても少女。
67
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 22:20:17 ID:CH4QBQVk0
しかし纏っている空気は甚だ異なっている。
だから教室に充満していた空気もがらりと入れ替わる。
デレは背筋に寒気を覚えた。
(゚、゚トソン「その人は」
細く、抑揚のない声だった。
声量も小さい。けれど不思議と耳に沁み渡るような、独特のソプラノである。
(゚、゚トソン「その人の処置は私たちがいたします」
足音もなく、滑るように少女は歩み寄る。
その後ろを三人の男女が列になって追尾する。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと!」
たまらずツンが呼び止める。しかしながら少女に動ずる様子は一切ない。
(゚、゚トソン「なんでしょうか」
表情は変わらない。というよりも、元から少女には表情がなかった。
感情というものが置き去りにされていた。
68
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 22:31:29 ID:CH4QBQVk0
ξ゚⊿゚)ξ「津村トソンさん。後から来て、いきなり私たちの職分を奪うとは、
一体どういう腹積もりでしょう?」
(゚、゚トソン「後から……いえ、後ではありません。
その人は先に私どもが目をつけていた生徒ですから。
情報の入手ルートに差異があったのでしょうか……」
トソンと呼ばれた生徒は終始落ち着き払っている。
一方、ツンは見るからに苛々していた。人差し指で組んだ腕を叩いている。
(゚、゚トソン「どうにも此度の賭け事はドクオさんから持ちかけた話らしく……」
ξ゚⊿゚)ξ「モララー、そのことについては?」
( ・∀・)「……記憶にございません」
ξ゚⊿゚)ξ「ふん!」
ツンは不機嫌そうに鼻を鳴らした。トソンは相変わらず一定の表情を保っている。
(゚、゚トソン「ですので……こちらの方の処遇は私たちが決めます」
今にも消え入りそうな声でトソンは言う。
69
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 22:41:15 ID:CH4QBQVk0
ζ(゚ー゚*ζ「ハイン、あの人は?」
デレが尋ねる。
なんとなくの目星は疾うについているが、それでも確認しておきたかった。
从 ゚∀从「津村トソン先輩……悪魔委員会の会長さんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあやっぱり……あの人が……」
悪魔――か。
(゚、゚トソン「……よろしいでしょうか、ツンさん」
ξ゚⊿゚)ξ「好きにすればいいじゃない。私たちはお邪魔みたいですから」
澄まし顔で返答しているが、明らかにツンはトソンに対してよい感情を持っていない。
そんなツンの様子を気にも留めずにトソンはドクオに向き直した。
(゚、゚トソン「それでは……ドクオさん……これより」
平坦な声音で続ける。
(゚、゚トソン「私があなたを諭します」
70
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 22:59:18 ID:CH4QBQVk0
それにしても、とデレはトソンを見やりながら思う。
不可思議な風貌の少女である。
肌は白いというよりは透明で、若干短く切り揃えられた髪は、黒いというよりも陰のようである。
目が細く黒眼だけが異様に大きい。眉が薄いから余計に目元が目立つ。
唇の色は肌の色とそれほど変わらない。
ほのかに紫色をしている。
そして、ここでもまた重ねるが、表情がまったくと言っていいほど浮かんでいないのだ。
鼻筋も通っているし、顔の作りだけ見ればツンに匹敵するほど整っているのだが、
先に挙げた特徴のせいかまるで生気がない。
背はさほど高くないが、姿勢がいいのと細身であるために実寸より長身に見える。
ζ(゚ー゚*ζ(津村トソン先輩か……)
トソンもまた、人形のようだとデレは感じた。
しかしそれはツンとは意味合いが異なる。
生命が宿っているようには見えない――だからどこか人形のように見えてしまう。
71
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 23:02:01 ID:CH4QBQVk0
自分用しおり<ここまで書いた>
72
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/27(月) 23:33:09 ID:kDOdB8/EO
乙!
もしやながらか
73
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/28(火) 03:35:49 ID:yudCzWDI0
乙!
74
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 21:38:51 ID:meWBuvTc0
やるか
75
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 21:51:06 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「ドクオさん」
(;'A`)「は、はい」
(゚、゚トソン「何も心乱す必要はありません……どうか安らかに……ドクオさん。
あなたは、自分の業についていかほどに思っておられますか。
正直に胸の裡を述べてください。そのことについて責めたりなどしませんから……」
('A`)「そりゃ、悪いことしたなっていう……」
(゚、゚トソン「それだけですか?」
('A`)「へ?」
(゚、゚トソン「それだけなのでしょうか……」
吐息を漏らしながら話すので妙な色気がある。
妖気にも似ている
ドクオはその気配に吸い込まれるように続ける。
('A`)「あ……それと、やっちまった、まずいことになったなって……。
いや、どちらかというとそっちのほうが大きいかな……」
76
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 22:01:39 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「行為自体に対する後悔より、
行為の発覚への悔恨のほうが大きいと……そう言うのですね?」
トソンの調子は変わらない。
('A`)「そう……なりますかね……本音を明かすと」
(゚、゚トソン「結構です」
顎を撫でつつ言った。
両者のやり取りをツンは何か言いたそうな形相で傍観している。
けれど決して口を挟んだりはしない。
トソンの空間は侵されない。
(゚、゚トソン「ドクオさん……そのように考えることは自然なことです。
あなたの所業そのものは押し並べて観測すると悪事ではないのですから」
ζ(゚ー゚;ζ(えっ……?)
悪事ではない。確かにトソンはそう言った。
デレには理解が及ばなかった。
77
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 22:10:31 ID:meWBuvTc0
なによりも、当のドクオ本人が驚いた顔をしている。
(;'A`)「へっ? な、なんで? 校則違反じゃないんすか?」
現にフサは先立って裁かれている。
しかしトソンは、ゆっくりと首を振ってから告げた。
(゚、゚トソン「それは……観点がミクロすぎるのです。
聞けばあなたから持ちかけた話だそうですが、フサさんも快く乗ったそうじゃないですか。
ここに合意が成立しているではないですか。どこにも問題はありません……」
('A`)「でも金銭のやり取りは……」
(゚、゚トソン「ですから……お互いに重々承知したうえでの取り決め事なのでしょう?
だとしたら校則などという規制が作用するのはおかしいのです……気にすることはありません」
ζ(゚ー゚;ζ(校則がおかしいって、そんなむちゃくちゃな)
デレはそんなふうに密かに思う。
この人が語っていることは異質だ。
ツンが下唇を噛みしめているのが見える。
その心中が手に取るように読めた。
78
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 22:16:35 ID:meWBuvTc0
ζ(゚ー゚;ζ「ハ、ハイン」
从 ゚∀从「なんだ、またアタシに解説役を期待する気か?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうじゃなくて、疑問があるんだよ!
悪魔委員会も一応は風紀委員会なんでしょ?
あんなこと言っちゃっていいの?」
从 ゚∀从「知らないよ、アタシだって詳しいことまでは。
あの人……トソン先輩、ただでさえ何考えてるかわからないのに」
ぶっきらぼうにハインは答えた
从 ゚∀从「だけど、一つだけわかることがあるぜ」
ζ(゚ー゚*ζ「なに?」
从 ゚∀从「あの人は絶対、よかれと思ってやっている」
ζ(゚ー゚*ζ「よかれと思って……」
つまり、校則に捉われないことが校内の風紀を保つことに繋がるというのか。
頭が混乱した。
突飛すぎてよく咀嚼できなかった。
79
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 22:28:52 ID:meWBuvTc0
从 ゚∀从「そうでなきゃわざわざ二つに別れたりなんかしないよ」
天使と悪魔の両方の顔を見比べながらハインが呟く。
ζ(゚ー゚*ζ「別れる? ……ってことは、元々はひとつの委員会だったってこと?」
从 ゚∀从「そうらしいぜ。去年までは普通にひとかたまりの委員会として機能してたそうだからな。
あ、今のうちに言っとくけど、あんまりたくさん訊いたりしないでくれよ。
アタシにもよくわかってない部分が多いんだから
アタシらが入学した時にはもう風紀委員会は分裂してたしさ」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ……」
おぼろげではあるが構造がつかめてきた。
元は一つだったものが二つに分断された。
その結果生まれたのが――天使委員会と悪魔委員会。
从 ゚∀从「あの様子じゃ、たぶん、喧嘩別れなんだろうけどな。
ツン先輩、すげー憎たらしそうな顔してるもん」
ζ(゚ー゚;ζ「あの二人っていつもこんな感じなの? なんだか険悪そうだけど」
从 ゚∀从「知らない。二人が同じ場所でそれぞれに活動してるとこ見るの、アタシ初めてだもん。
おそらく他の奴らも同じだな。個別に遭遇した時よりも明らかにびびってっから。
……まっ、この様子じゃ、そういうことなんだろうなあ」
80
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 22:40:02 ID:meWBuvTc0
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ……だからトソン先輩はツン先輩とは違うやり方をしてるんだ」
从 ゚∀从「だろうな」
ζ(゚ー゚;ζ「……だけどそんなのありなの? 先生に何か言われたりしないのかな?
第一風紀委員会が二個あるとか、普通認可されないような……」
从 ゚∀从「あーもう、細かいな! 現実にこうして二つあるってことは許されてるってことだろ。
生徒の自主性に任せるのがうちの校風なんだよ。
委員会だって生徒の意見で新しく増設されたりするんだぜ?
だからさ、あえて見逃してたりするんじゃないかな、ってアタシは思うんだけど」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなものなのかな……」
どうも腑に落ちない。
从 ゚∀从「……でもまあ、言いたいことはわかるよ。
悪魔委員会は手法だけ見たらむちゃくちゃだからな。
校則破りがいたら『校則なんて意味ない』って言い聞かせて反省を促すんだぜ?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん。今まさにばっちり目撃者になってる」
从 ゚∀从「アタシも噂でしか知らなかった時は『は? なんじゃそりゃ?』って感じだったよ。
目的もよくわかってねぇし……とにかく異端なんだ」
81
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 22:59:47 ID:meWBuvTc0
デレは視線をトソンの方向へと移す。
霊気を身に纏った少女は、依然変わらぬ顔つきで、まだドクオを説き続けていた。
(゚、゚トソン「個人間の約束事こそ一番効力があるのです……。
ドクオさん、たとえば、あなたの懐に拳銃があるとします。
そしてあなたに殺してやりたいほど憎悪を抱いている人物がいるとします……。
ちょうどその人と二人きりになった時、あなたは撃ちますか?」
('A`)「……は?」
咄嗟に投げかけられた過激な質問に、ドクオは一瞬呆然とした。
(゚、゚トソン「いかがしますか……?」
瞳がドクオをずっと映し続けている。瞳の中にドクオは囚われている。
('A`)「いっいや、もちろんするわけない。できるわけないっす」
(゚、゚トソン「なぜです?」
('A`)「だ、だって、憎いからって、実際に殺すだなんて、良心が痛むし、怖いです。
俺にはそこまでの度胸もないし……それに犯罪だ!」
(゚、゚トソン「それが一番の理由ですか」
('A`)「当然ですよ……犯罪者になんてなりたくない」
82
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 23:03:12 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「本能、理性、道徳、法律……」
トソンは呟くように単語を列挙する。
(゚、゚トソン「ドクオさん……あなたは、法律の存在ゆえに殺さないと答えましたが、
はっきりと意識してその決断を下しますでしょうか」
('A`)「ううん、意識は……しないな……よく考えなくてもダメだってわかりますし。
そういうのって意識しないでも身に覚えてますから」
(゚、゚トソン「では今度は、仮に友人と土曜日の午後三時に会う約束を結んだとしましょう。
あなたはこの約束を守る際、はっきり意識しますか?」
('A`)「そりゃ意識しますよ」
ドクオの返答は早かった。すっかり呑み込まれている。
('A`)「頭に入れておかないと忘れてしまうし、それに遅れたら悪いから」
(゚、゚トソン「しかし遅刻したからといって法に裁かれるわけではありません……。
あなたはこの瞬間、価値観の下位と上位が逆転しているではないですか。
校則と、フサさんとの間で取り決めた賭博との関係も、同じことです」
冷えた目つきのままそう言った。
83
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 23:19:30 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「この世界には多くの習律が段階的に存在しています。
そして通常、価値観が適用される範囲が狭くなるほど、細分化されていきます……。
内容が具体的に、取り囲む世間がマイナーになればなるほど、
人々は記憶に留めるために意識下に置くようになるのです」
('A`)「は、はあ」
ドクオは曖昧な相槌を打った。
周辺のクラスメイト達は、黙って訥々と綴られるトソンの演説を聞いていた。
(゚、゚トソン「まず大元にあるのは本能……人間が生物である証……。
次に来るのが理性です。こちらは人間が人間である証。
その後はモラル、コモンセンス、そして国家ごとの法律……ルールが続きます。
ルールは更に、県、市、町と掘り下げられていき、
ついに特定の集団内でのみ発揮される規則に達します。そのひとつが校則です。
以降は個人間で凍結する約束などに進みます……おわかりでしょうか」
('A`)「何が……ですか」
(゚、゚トソン「校則とはあくまで下部に座する概念なのです……。
そのようなものの遵守を強制しておきながら、
同じくピラミッドの底に位置する個々人の取引を否定するのはおかしいではありませんか。
だからドクオさんはささやかな失態を気にすることなどないのですよ」
84
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 23:36:22 ID:meWBuvTc0
('A`)「気にすることはない……」
(゚、゚トソン「ええ……しかし」
トソンは少しだけ表情を引き締めた――ようにデレには思えた。
(゚、゚トソン「校則に則って裁かれる責任はありませんが……しかし。
学校に必要のないものを持ちこむことは常識からは外れます……。
賭け事ならばなおさらです……無論、司法に問われることはありませんから、
それよりさらに大きなステージで目に見える形で咎められたりはしませんが」
(;'A`)「う……す、すみません」
(゚、゚トソン「私は学校が定めた規則などではなく、全体の枠組みの中であなたを諭したのです。
今後は校則如何にかかわらず、とにかく、自分が正しいと思う行動をとりましょう。
そうして生じた自身に通じるルールが最も効果を発揮します」
('A`)「わかりました」
ドクオの表情は晴れやかではあるが、気味が悪かった。
洗脳を受けた人間のそれだった。
(゚、゚トソン「どうやら……私の話を深くご理解いただけたようですね……。
理性や常識に劣る校則に縛られることはありません。
本質に依っていれば過ちを犯すことなどそもそもないのですから……」
85
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 23:48:00 ID:meWBuvTc0
トソンは満足げに瞼を閉じる。
巧みに説き伏せられた少年はは恍惚としている。
まさしく悪魔のささやきだった。
なるほど――悪魔か。
デレは恐ろしくなる。
この女子生徒の思考は無法の極みだ。混沌を奨励しているようにしか思えなかった。
風紀委員会は秩序を重んじるのではないのか。
「――トソン!」
喊声が上がる。全員が一斉にそちらに注目する。
声の主はツンである。
つかつかと大股でトソンへと歩み寄り、顔を突き合わせた。
教室内の状況はすっかり二人にコントロールされた。
誰も何も言わない。
天使と悪魔が向かい合っているだけだ。
86
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/29(水) 23:56:11 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「なんでしょうか……お互いに干渉しないのが契約では……?」
ξ゚⊿゚)ξ「知っています。今更
今しがたあなたがやったことに更文句をつけようなどとは思いません。
ただひとつだけ、言っておきたいことがあるわ」
毅然としてツンは立ち向かう。
トソンの表情にはやはり色がない。
ξ゚⊿゚)ξ「あなたのやり方は間違っています」
断言した。
そして。
ξ゚⊿゚)ξ「この学校の風紀を守るのはあなたではなく、私よ」
揺らぎない決意を秘めた鋭利な声音で、堂々と宣言する。
デレたちは圧倒された。
(゚、゚トソン「そうですか」
トソンだけが不気味なくらいに平然としていた。
汗一つかいていない。涼しげな顔のまま、少しのぶれもなく直立している。
87
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/30(木) 00:08:50 ID:vsnl0yjQ0
(゚、゚トソン「私からすると、あなたたちのほうが遠回しなやり方に思います」
静かにトソンが反論する。
(゚、゚トソン「ツンさんは功を急ぐあまり本来の目的を見失っていませんか?
私たちならば適切に学校の風紀を正しい方向に導けます……」
ξ゚⊿゚)ξ「ふざけないで。校則違反を見過ごすことの、どこにそんな要素があるのよ」
(゚、゚トソン「各々が正しいと信じた理念に基づいた行動をしていれば、
自浄作用的に風紀は保たれていくのです」
ξ゚ー゚)ξ「ふんっ!」
ツンは虚仮にするかのように鼻で笑った。
ξ゚⊿゚)ξ「そうならないから校則はあるのよ。おわかり?」
(゚、゚トソン「なりますよ……実証している最中です」
ξ゚⊿゚)ξ「賭けをしたことを許すのが実証? 馬鹿馬鹿しいわ。
特例なんてものはあってはいけないの。皆が平等に扱われる場こそが求められてるのよ」
(゚、゚トソン「それは些事です。安寧の本質ではありません」
トソンは少しだけ語尾を強めた。
88
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/30(木) 00:18:19 ID:vsnl0yjQ0
ξ゚⊿゚)ξ「規則は明文化されてるから、どこまでも公平で公正なの。
一人一人の良識になんて委ねてられないわ」
(゚、゚トソン「そういう考え方もあるとだけ記憶しておきます……。
はあ……これで何度目のインプットでしょうか。
上書きしても何ひとつ変化がないというのは困りものですね……」
ξ゚⊿゚)ξ「嫌みのつもりかしら? ふん、好きにしなさい。モララー!」
唐突に呼ばれた男子生徒はびくんと背筋を跳ねさせて反応した。
( ・∀・)「はっ、はい。なんでしょう」
ξ゚⊿゚)ξ「行くわよ。用件はとっくに済んだわ。長居しても仕方ありません」
返事を待つ前にツンはつかつかと出入り口に向けて歩き出していた。
トソンがその背中を虚ろな目で見送っている。
( ・∀・)「わかりました。それじゃ、このクラスの皆さん、お邪魔しました」
そう言い置くと、モララーと呼ばれた男子は他の委員を整列させ、
規律正しい列を組んで退室していった。
89
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/30(木) 00:37:09 ID:vsnl0yjQ0
(゚、゚トソン「では……」
トソンが自身の背後で待機していた三人の男女へと振り返る。
(゚、゚トソン「貞子さん、私たちも戻りましょうか。私は先に行きますので」
川д川「はっ、はい!」
おどおどとした、あまり上質とは言い難い髪を腰近辺まで伸ばした女子にそう言うと、
トソンはまた足音もなくドアをすり抜けていった。
あまりにも軽やかなので、消失してしまったかのようだった。
川д川「じゃあ、あの……そういうことですので」
女子生徒が残る二人に伝える。
( ゚∀゚)「よっしゃ。じゃあな、後輩ども! 迷惑かけたな!」
まずは髪の毛が逆立った、特徴的な眉毛の形をした男子生徒が。
( ゚∋゚)「……」
その後ろを異様に体躯の大きな男子生徒が無言でついていく。
90
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/30(木) 00:40:12 ID:vsnl0yjQ0
そして最後に、トソンに最初に声をかけられたロングヘアーの女子が二人の背中を追う。
今にも転んでしまいそうなおぼつかない足取りである。
一歩進めるたびに右足が左足に絡みつきそうになっている。
ζ(゚ー゚*ζ(貞子……って名前だっけ)
ドアの前に来たところで女子生徒は振り返る。
川д川「あ……どうも、失礼します」
籠った声でそれだけ言って、素早く一礼して去っていった。
突然の訪問者たちがいなくなったことを確認すると、教室にどよめきが起こった。
おそらくツンとトソン、そして両者が代表を務めている委員会について語り合っているのであろう。
ζ(゚、゚*ζ「……」
デレはぼんやりと中空を見つめていた。
二つの委員会が立ち去った後も、まだ胃がひりつくような心地が抜けない。
夢のような出来事だった。
91
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/30(木) 00:40:31 ID:vsnl0yjQ0
自分用しおり<ここまで書いた>
92
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/06/30(木) 01:30:00 ID:PCIUbcEM0
乙
93
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/07/03(日) 18:59:02 ID:LhDHahrI0
やるかー
94
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/07/03(日) 19:10:06 ID:LhDHahrI0
この学校にはこのような抗争があったのか。
デレは身をもって体験した。
津雲ツンと都村トソン。過去、二人の間に何があったかは知らない。
だが何かしら起因となる事件があったのは確かだろう。
それにしても――。
不穏である。
あまりいい予感はしなかった。
午後からの授業は手につかなかった。
まだクラスメイトが荷造りにいそしんでいる中、デレは一番に教室を飛び出した。
チャイムすら鳴り止んでいない。
会いたい人物がいる。
幸いにも、職員室に向かう途中の廊下で都合よく発見できた。
ζ(゚ー゚*ζ「兄さん!」
(´・ω・`)「デ、デレ!? い、い、いや、鈴院さん」
兄である。
95
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/07/03(日) 19:21:08 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「兄さん時間ある? ちょっと相談したいことがあるの」
(;´・ω・`)「こっ、こら! 学校では兄さんって呼ぶなって言ってるでしょ!
僕だって馴れ馴れしくデレと呼ばないように細心の注意を払ってるんだから。
うっかりで妹のバラ色の学園生活が終わってしまったら、僕は生きていけない!」
ショボンは耳元で叱った。
デレは少し呆れる。
ζ(゚ー゚;ζ「周りに誰もいないから大丈夫だよ……。
いても私たちの会話なんて詳しくは聞かないだろうし」
(´・ω・`)「あー、おほん。それより鈴院さん。
先生に相談があるとはどういうことでしょうか?」
あくまで他人を装ってショボンは尋ねる。
デレは気にせず、親族に対する態度のまま返答する。
ζ(゚ー゚*ζ「それなんだけど……一回場所変えようよ。
このままじゃ兄さんとスムーズに受け答えできなさそうだし。
折り入って話したいことなの。生徒と先生じゃなくて、兄と妹として」
(´・ω・`)「折り入って? そんな大事な話なんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん」
96
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/07/03(日) 19:32:45 ID:LhDHahrI0
ショボンは暫く頭を悩ませてから、
(´・ω・`)「ええと、それじゃあ、教員準備室にでも行きますか。社会科の。
あそこなら放課後誰かが来ることはありませんし」
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう兄さん!」
(;´・ω・`)「だから兄さんはやめなさいって再三」
ζ(゚ー゚*ζ「早く連れていってよ、兄さん」
デレは段々焦る兄の様子がおかしくなってきた。
(´・ω・`)「その悪戯っぽい笑顔はなんなんだまったく……。
ああもう! ついてきて!」
ショボンは半ば自棄気味に会話を打ち切ると、早足で歩き出した。
縦に伸びたひょろっとした背中をデレは追いかける。
ζ(゚ー゚;ζ「は、速いってば……」
歩幅がまるで違うから、デレはほとんど走るような移動になる。
97
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/07/03(日) 19:45:00 ID:LhDHahrI0
渡り廊下を通過した先の北校舎二階、その最奥に教員準備室はあった。
北校舎はデレの教室がある南後者よりも建築が幾分古く、
準備室の床を踏むたびに小さくみしみしと不安を煽るような音がする。
(´・ω・`)「……ふう」
ショボンは回転椅子に腰かけると、ひとつ軽い溜め息を吐いた。
見回すと、あるのは資料らしき紙の束だけで、デレにとって面白そうな対象は何もない。
机にあるのもプリント。棚に並んでいるのもプリント。
だからインクの匂いが充満している。
目ぼしいものといえば地球儀ぐらいで、それすらも経年劣化からか金具が錆びついていた。
壁には世界地図が飾られている。至る箇所にシミが浮いている。
(´・ω・`)「ま、こんな具合でどうしようもなくしみったれた場所だから、
他の生徒や先生なんて寄りつかないよ」
ショボンはようやく、自宅で見せるような弛緩した表情と口調に転じた。
そのことにデレは安心する。
98
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/07/03(日) 19:54:12 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「誰も来ない、かあ……。
けど兄さん以外にも社会科の先生はいるでしょ?」
(´・ω・`)「放課後になんて来ないよ。授業もないのに授業用の資料を漁ってどうするんだ。
授業の準備は授業前にやるもんだよ
自己満足で夜な夜な真っ白い壁に向かって高説を垂れたいっていうなら別だけどね」
それより、と兄は訊く。
(´・ω・`)「さて、相談ってなにかな? なんだか深刻そうな雰囲気は感じ取ってるけど」
ζ(゚ー゚*ζ「それなんだけど……」
デレは昼間に起きた出来事をショボンに伝えた。
天使委員会。津雲ツン。品性。規律。平等。拘束。告解。
悪魔委員会。都村トソン。逸脱。破戒。甘言。誘惑。赦免。
一切合財を語って聞かせた。
(´・ω・`)「ふうん……成程ねぇ」
ショボンは思惟しながら顎をさすっている。
99
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/07/03(日) 20:05:02 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「初めて聞いたよ。そんなものがあるんだなあ、この高校」
ζ(゚ー゚*ζ「兄さん知らなかったの?」
(´・ω・`)「うん。初耳さ」
ζ(゚ー゚*ζ「そっかあ……」
デレは残念そうに俯く。
(´・ω・`)「なんだい、そんながっかり感を前面に押し出したりして」
ζ(゚ー゚*ζ「うん……あのね、私、ちょっと気になったの。
先生たちの間でふたつの委員会がどういうふうに思われてるのかなって、
兄さんなら知ってるかもって思ったんだけど……」
(´・ω・`)「ううん、少なくとも僕が職員室にいた時には聞かないなあ。
まあ、誰も話題にしないってことは、存在が黙認されてるんだろうね。
もし教師間で問題になってるのなら僕にも話がくるはずだ」
ショボンは淡々と解析していく。
100
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/07/03(日) 20:23:49 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「黙認って……風紀委員会がふたつに別れちゃってるのに?」
(´・ω・`)「最近はどの高校も生徒の自主性とやらに任せてるからね。
生徒の揉め事は生徒たちで解決しろってことじゃないかな。
竹刀を持った体育教師がビシバシ取り締まる、なんて光景はもはや過去の遺物だね」
あるいは、とショボンは続ける。
(´・ω・`)「単純に関わりたくないだけかもしれない」
ζ(゚ー゚*ζ「どういうこと?」
(´・ω・`)「デレが目にした限りだと、その天使委員会と悪魔委員会というのは、
どっちも周囲の人間に畏怖を与えつけてるように感じたんだろう? 特に会長が」
ζ(゚ー゚*ζ「うん」
天使委員会のツンの説教を聞くと、
当事者でもないのに全身を鋭い針で穿たれたと錯覚するほどに緊迫した。
一方、悪魔委員会の会長トソンからは、形容しがたい薄気味悪さを覚えた。
背中に冷水を少しずつ流し込まれているようでもあり、
体の内側で徐々に温度を上げていくとろけた炎を起こされたようでもあった。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板