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( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです

1 ◆vVv3HGufzo:2011/02/20(日) 20:10:49 ID:xjlGxIHwO
***
 
この作品はフィクションです
作品の団体名、人名、地名などは一切関係ございません
 
***

280 ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:57:20 ID:VuIUXoJAO
 
( ^ω^)「……終わりですお」

 
 ギターから手を離し、出麗の方に目を向ける。
 そこには、ぽかんと口を開いたままの出麗の顔があった。

 
ζ(゚ー゚;ζ「…ちょっとアンタ」

(;^ω^)「何ですかお」

ζ(゚ー゚;ζ「アンタ凄いじゃない…他人の演奏にこんなに聴き入ったのは初めてよ」

(;^ω^)「あ、はい…恐縮ですお」

 
 出麗はブーンの演奏を聴いて、感動のような驚きのようなものを受けたらしかった。
 また何やら感想を言おうと口を開く。

 しかし、その声はすぐに掻き消された。
 城内に大きく鳴り響く、鐘の音によって。

281 ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:58:47 ID:VuIUXoJAO
 
 カン、カン、と音は大きく鳴り続ける。
 暫くもしない内に、城内がやけに騒がしくなった。

 
ζ(゚ー゚;ζ「え!?何これ!?」

(;^ω^)「ヤバいですお出麗さん!早く逃げなきゃ!」

 この音には覚えがあった。
 そう、かつて二子堂城が落とされた時。
 夜襲を知らせる合図として、城内を鐘の音が鳴り響いたのだ。

 今もこの根十城に鐘が鳴り響いている。
 そこから導き出せる答えは一つ。

 
(;^ω^)「夜襲ですお!!天野勢が攻めてきたんですお!」

ζ(゚ー゚;ζ「そんな…!」

(;^ω^)「いいから早く逃げますお!」

 
 ギターを背負い、出麗の手首を掴んで牢屋を飛び出したブーン。
 城内は鐘以上に大勢の怒号が響き渡っていた。

 

──

282 ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:59:49 ID:VuIUXoJAO
──

 
(;´・ω・`)「やはり夜襲か…擬古成め」

 
 最悪の事態が起きた。
 根十城に集まった約五千の二茶根瑠勢は、全くと言っていいほど戦の心準備ができていなかったのだ。
 混乱状態の中、なんとか城内上部に弓隊が、城外にまずは一番槍隊が着いた。

 城内合戦に備え、城内で待機する渚本介と兵達。
 やがて、城の向こうから、大勢が地面を踏み走ってくる音が聞こえてきた。

 
(;´・ω・`)(大軍か…)

 
 地鳴りのようなその音に、二茶根瑠勢の兵達は身を固める。

283 ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 02:01:40 ID:VuIUXoJAO
 
 月明かりに照らされる、小高い丘の下。
 弓隊と一番槍隊の視界に、大軍の天野勢が映ってきた。

 大軍が来たぞ、と誰かが叫ぶ。
 兵達の身が、緊張で更に引き締まる。

 
 根十城に、約五千の兵を持つ二茶根瑠勢。
 それを攻めるは、天野勢、全隊にして約一万五千。

 後の歴史を揺るがす城攻めの戦が、今、始まろうとしていた。

 

第八話 終

284 ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 02:03:47 ID:VuIUXoJAO
今回の投下は以上です。
次からは投下の時間帯に気をつけます…あと投下予告もw

285以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:04:27 ID:bWCcjkbkO
乙乙
面白い

286以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:49:30 ID:SZYpBPvg0

ギコェ……

287以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 08:37:01 ID:V9qrWYxg0

すげぇワクワクする

288以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 14:16:45 ID:0jWVAm.kO
勝手に代理
http://www.youtube.com/watch?v=QnVMB_oQSHY
これで良いのかな

289以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 20:30:30 ID:tAgIqnUI0
デレの性格…wwwww

いや、ご褒美か

290以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/24(木) 13:13:38 ID:BeYQqW8k0

続き気になる

291 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:13:05 ID:MY5i2l3gO
皆さんコメントありがとうございます!
そして曲紹介ありがとうございます!

つい今、続きが出来上がって、早く投下したいので
今回は予告なしで投下させてください、フヒヒ

292 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:14:39 ID:MY5i2l3gO
***
第九話 「戦には獣」

***

 
 徐々に近づいてくる地鳴り、怒号。
 そして殺気。

 何の準備も出来なかった二茶根瑠勢に、天野勢が獣の如く向かってくる。

 
(;`゚∽゚)「臆するでない!一番槍隊、密集せよ!!盾の用意だ!」

 浮き足立つ兵達に、何とか統率を計る将。

 この男の信頼がよほど高いのか。兵達の目が、ようやく戦のそれに変わった。

 
(#`゚∽゚)「我ら泉槍衆は最強の前衛部隊!!天野のうつけ共を、いざ蹴散らさん!!」

293 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:15:53 ID:MY5i2l3gO
 
 根十城の前で構える泉槍衆を統率する男──泉は、自らは一番隊の後ろに付き、前方を睨みながら叫び続けた。

 その視線の先には、鬼の如く駈けてくる天野勢の槍騎兵隊、およそ千。
 

(#`゚∽゚)「蛮族よ!前方を揃えただけの陣で、我らにかかる気か!」

 
 兵力戦では、兵の数が勝敗を決定的にしてしまう。
 泉が見る限り、天野の軍は特にこれといった陣形はとっておらず、兵の数で押してくるようだった。

 しかし、泉率いる槍隊はこういった兵数の差には慣れていた。
 というのも、もともと百人程度の槍隊を更に五番隊まで分けていたので、常に少人数で戦ってきた経験があるのだ。

 今回も相手が兵数で押してくるに違いない。泉槍衆が最も得意とする形だ。
 敵の槍騎兵隊は、真っ直ぐ此方に向かって突進してきた。

 
(#`゚∽゚)「──え?」

 
 はずだった。

294 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:16:44 ID:MY5i2l3gO
 
「分かれェェェイ!!!」

(;`゚∽゚)「!?」

 
 途端、目の前で天野勢の槍騎兵隊が二方向に分かれた。
 挟み撃ちをするわけでもなく、分かれた部隊はそのまま城を回るように、見当違いの方へ駈けていく。
 上の弓隊もこれは予想外だったらしく、第一射だけで攻撃を一旦止めた。

 
(;`゚∽゚)「どういうつもりだ…!?」

 
 目の前の敵が取る不可解な行動に、暫し困惑する泉。

 しかし、天野勢の取るその行動の意味を理解するのに、さほど時間はかからなかった。

 
(;`゚∽゚)「しまった……弓隊下がれェェ!!!」

295 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:17:55 ID:MY5i2l3gO
 
 しかし、もう手遅れだった。

 天野の槍騎兵隊が二手に分かれ、その後方が完全に見えたその時。
 耳をつんざくような爆音が、辺りに響いた。

 
(;`゚∽゚)「クソったれ!!鉄砲隊か!」

 そう、その後ろに構えていたのは、強大な攻撃力を誇る天野の鉄砲軍団。
 この鉄砲隊をなるべく城に近付ける為に、天野勢は槍騎兵隊でフェイクをかけたのだ。

 そして、その鉄砲隊が弾を放った先は、城内上部の弓隊。
 城に敵を近寄らせない為の弓隊は、いとも簡単に壊滅した。

296 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:18:52 ID:MY5i2l3gO
 
 そして、更なる悲劇が泉槍衆を襲う。
 

(;`゚∽゚)「泉槍衆全隊!一番槍隊の周りにつけ!!」

 
 敵の策略がわかってしまった泉は、焦りに焦った。
 時間がない。早く陣形を整えなければ──

 
(;`゚∽゚)「我ら泉槍衆が…こんな…」

 否、もう体勢を立て直すまでもなかった。

 泉槍衆の全隊、百人の兵達は、あっという間に天野の槍騎兵隊に吹き飛ばされていった。

 
 そう、最初に槍騎兵隊を二手に分かれさせたのは、単なるフェイクではなかった。
 二手に分かれた後は、鉄砲隊が弓隊を撃墜している間に城を外周し、今度はそのまま泉槍衆を挟み撃ちに行ったのだ。

 合戦開始、僅か数十分。
 根十城の外守りは、いともあっさり破られた。

 

──

297 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:20:11 ID:MY5i2l3gO
──
 

 二茶根瑠勢が信頼を置いていた泉槍衆が、粘る間もなく全滅してしまった。それも弓隊ごとだ。
 他の隊を出そうにも、もう遅い。
 すぐに根十城内部に天野勢が進入し、乱戦が巻き起こった。
 

(;´・ω・`)「くっ…!」

 根十城内部に待機していた渚本介も、乱戦に巻き込まれた一人だった。
 襲ってくる槍や刀をかわし、止め、反撃を繰り返す。

 
(;´・ω・`)(キリがない…)

 
 正直なことを言うと、もう根十城は陥落すると見ていた。
 大した策も出来ないうちに、ただ大軍に押し寄せられる。
 それだけでも、勝敗はもう決まったようなものだった。

298 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:21:29 ID:MY5i2l3gO
 
(;´・ω・`)(…仕方ない)

 途端、渚本介は踵を返し、馬小屋の方へと走り出した。
 渚本介と刃を合わせていた何人かが追いかけてきたが、すぐに乱戦に巻き込まれていった。

 
 途中で敵を何度も斬り伏せながら、全力で走り続ける渚本介。
 暫く走ると、ようやく兵士宿舎に辿り着いた。
 このあたりには誰もいないようだ。

 宿舎から長刀を取り、隣接する馬小屋で適当な馬に跨る。
 馬に乗った渚本介は、そのまま元来た道を戻るように走り出した。

 狙いは、城外に待機しているであろう天野勢の本隊。

299 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:22:24 ID:MY5i2l3gO
 
(´・ω・`)「ハッ!」

 
 虎恍丸を鞘に戻し、長刀を構えながら、城内を馬で駈けていく。

 渚本介の姿を見た味方は驚いて身を引き、敵は刃を向けてきた。
 長刀を両手に構え、まずは数の多い槍を払う。

 
(#´・ω・`)「ふんッ!!」

 渚本介の払った一刀は、槍を向けていた五人の敵兵を一気に吹き飛ばした。

 渚本介の存在と、馬上刀の予想外の力に、思わず固まる敵兵達。
 恐怖の色が見えた天野勢を、渚本介が止まることなく長刀で斬り倒していく。

 その姿に勇気付けられたのか。
 乱戦に疲れ始めていた二茶根瑠勢の兵達は、新たに雄叫びを上げながら、渚本介の後に続くように敵軍に攻めていった。

 

──

300 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:23:49 ID:MY5i2l3gO
──
 

 城外に待機する天野軍本隊。
 そこに、一人の伝令が慌てた様子で走り込んできた。
 

(;・*・)「も、申し上げます!!」


 伝令が膝を付いた先、そこには天野勢の大将が落ち着いた様子で馬に跨っている。
 

(,,゚Д゚)「…何だ」
 

 "剛拳"こと、天野擬古成。
 斬馬刀を背負い、足下の伝令を睨む姿は、周りの兵達も息を飲むほどだ。

 伝令は顔を伏せたまま、大声で用件を言い始めた。

301 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:25:01 ID:MY5i2l3gO
 
(;・*・)「はっ!根十城内部、我が軍は未だ一階に留まり候!」

(,,゚Д゚)「…なんだと?」

(;・*・)「乱戦の中、一騎の兵が我が軍を混乱に陥れている様子!」

(,,゚Д゚)「一騎?一体誰だそいつは」

(;・*・)「はっ!恐らくは、彼の太田渚本介でございます!」

(,,゚Д゚)「!!」

 
 伝令の話が終わり、重苦しい空気が流れる。
 擬古成は少し考えるように地面を睨むと、そのまま口を開いた。

 
(,,゚Д゚)「…奴は恐らく本隊を目掛けている。乱戦を突破するくらい、奴には容易いはずだ」

(,,゚Д゚)「奴が本隊にやってくる前に、俺らは城内に入ったほうがいいな。その方が簡単に二茶根瑠巳留那の首も取れよう」

302 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:25:54 ID:MY5i2l3gO
 
 擬古成は一旦話を止めると、横に並ぶ大男に目を向けた。

 
(,,゚Д゚)「狗久流(くくる)よ。俺らが根十城に入る為に、彼の"戦魔"の足止めを頼みたい」

( ゚∋゚)「御意に」

 
 狗久流と呼ばれた大男は、低く唸るような声で擬古成に返した。

 狗久流は他の兵達よりも頭二つ分ほど背が高く、その体躯は野獣のように大きい。
 巨大な甲冑を身につけるその姿は、まさに"鬼"の様である。

 
 擬古成が狗久流に頷き、いざ走り出そうとした途端。
 何やら、城門のほうが騒がしくなってきた。

303 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:27:11 ID:MY5i2l3gO
 
 何事だ、と聞くまでもなかった。
 城門のあたりを騒がせている原因は、すぐに擬古成の視界に飛び込んできたからだ。

 
(#´・ω・`)「ハァッ!!」

(,,゚Д゚)「戦魔…!」

 
 馬上にて長刀を振り回し、天野勢をことごとく蹴散らしている。
 まさに魔物のような戦いぶり。"戦魔"の名に相応しく、渚本介が本隊を目掛けながら天野の兵を斬り伏せていく。
 

(#´・ω・`)「擬古成!!」

(,,゚Д゚)「ムッ…!」

 
 とうとう城門の包囲網を切り抜け、本隊に一気に向かってきた渚本介。
 その中心にいる擬古成を睨みながら、更に怒号を上げる。

304 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:29:34 ID:MY5i2l3gO
 
(#´・ω・`)「出あえッ!!この太田渚本介、今度こそ貴様の首を頂戴する!」

( ゚∋゚)「そうはいかぬ」

(#´・ω・`)「!!」

 
 本隊に切り込む直前。
 渚本介と本隊の間に、見覚えのある大男が入り込んできた。

 
(;´・ω・`)(アイツは…)

(#゚∋゚)「せいやァッ!!」
 

 渚本介の前に立ちはだかった大男、狗久流。
 両手に握った武器を、渚本介の乗る馬を目掛けて薙ぎ払う。

305 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:30:23 ID:MY5i2l3gO
 
(;´・ω・`)「!?」

 何の武器かはよく見えなかった。
 しかし、危険を察知した渚本介は、狗久流の攻撃が馬を捕らえる前に飛び降りた。

 直後、渚本介の乗っていた馬が、十メートル近く吹き飛ばされた。
 

(;´・ω・`)「なっ…!」

( ゚∋゚)「ふん、勘は鋭いようだな」
 

 信じられない光景だった。
 人間五人分の重さと言われる馬を、たった一撃で軽々しく吹き飛ばしたのだ。

 何が起こったんだ、と相手の武器を見る。
 大男の握る武器は、長槍の柄に斧を引っ付けたような、巨大な戦斧だった。

306 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:31:48 ID:MY5i2l3gO
 
(´・ω・`)「…そうか、思い出したぞ」

( ゚∋゚)「……」
 

 見覚えのある姿に、見覚えのある特殊な戦斧。
 渚本介は記憶を辿りながら、話を続けた。

 
(´・ω・`)「天野家家臣、堂土狗久流。未だ擬古成の腰巾着を務めているとはな」

( ゚∋゚)「ぬかせ。貴様のような不浄者、我が戦斧の餌食にしてくれん」

( ゚∋゚)「擬古成様!今のうちに根十城へ!」

(,,゚Д゚)「ああ」

(;´・ω・`)「!!」

 
 しまった、と狗久流から目を離す。
 しかし、擬古成率いる本隊は、既に根十城へと走り出していた。

307 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:32:52 ID:MY5i2l3gO
 
(´・ω・`)「チッ……」

 どうやら、擬古成を討つにはまず狗久流を倒さねばならないようだ。

 長刀を投げ捨て、虎恍丸をゆっくりと抜く。
 対する狗久流も、両手に構えた戦斧を渚本介に向ける。

 
( ゚∋゚)「これも武功の為。擬古成様を喜ばせる為……堂土狗久流、参る!」

(#゚∋゚)「せいッ!!」

(´・ω・`)「!!」

 
 腰を低く落とし、戦斧を横に払う狗久流。
 あまりにもリーチの長いその攻撃を、更に低い姿勢でかわす。

(´・ω・`)(…今だ!)

 長い武器を振った後は、必ず大きな隙ができる。
 それを狙って一気に飛び込む渚本介。
 しかしその攻撃を読んでいたかのように、狗久流が戦斧を短く持ち、柄の部分を振り回してきた。

308 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:33:57 ID:MY5i2l3gO
 
(;´・ω・`)「くっ…」

 その攻撃を虎恍丸の刃で止める渚本介。
 しかし、その一撃のあまりの強さに、バランスを崩してしまった。

 
(#゚∋゚)「でいっ!!」

(;´・ω・`)「!!」

 この好機を見逃すまいと、戦斧の返し手が渚本介に迫る。
 咄嗟に飛び上がり、その一振りを避ける。
 そのまま上段から虎恍丸を振り下ろすも、戦斧の柄に防御されてしまった。

 
(´・ω・`)(クソっ…)

(#゚∋゚)「隙ありィッ!!」

(;´・ω・`)「!?」

 速い。
 あまりにも速い狗久流の四振目が、渚本介の胴に迫る。

309 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:35:03 ID:MY5i2l3gO
 
 なんとか虎恍丸をその攻撃に合わせ、防御することができた。
 しかし。
 

(;´・ω・`)「がはッ…!!」

( ゚∋゚)「フン」

 
 虎恍丸越しとはいえ、馬を吹き飛ばす程の攻撃を受けてしまった渚本介。
 体は勢い良く弾かれ、先程の馬以上に飛ばされてしまった。

 よろよろと立ち上がり、涼しい顔で近づいてくる狗久流を睨みながら、虎恍丸を構え直す。

 
(;´・ω・`)(堂土狗久流…まさかここまでとは…)

( ゚∋゚)「どうした"戦魔"。口ほどにもなし」

(;´・ω・`)「……」

 
 あれほど柄の長い戦斧を簡単に操り、近付きすらさせない技術。
 どうすれば勝てるのか、とにかく思案を巡らせる。

310 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:36:30 ID:MY5i2l3gO
 
 ふと、渚本介は自らの足元に何か武器が落ちていることに気付いた。
 長刀だ。先程渚本介が投げ捨てた長刀が転がっている。

 
(´・ω・`)(…なるほどな)

 一つ不敵な笑みを見せ、その長刀を拾い上げる。
 虎恍丸をしまって長刀を構えると、渚本介は自信の籠もった声を狗久流に向けた。

 
(´・ω・`)「わかったぞ、貴様を倒す術が」

( ゚∋゚)「ふん、刀が長刀になったくらいで何が変わるというのだ。…さあ、行くぞ!」

311 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:37:38 ID:MY5i2l3gO
 
 先程と同じように、まずは狗久流がそのリーチを生かして戦斧を降ってきた。
 渚本介もまたも低い姿勢でかわし、同じように狗久流に飛び込んでいく。
 

(#゚∋゚)「何度同じ手を使おうと、俺には効かぬ!」

 今度はすぐに狗久流が返し手の攻撃を向ける。
 渚本介は、またもその攻撃を飛び越え、上段から長刀を振り下ろしてきた。

 
(#゚∋゚)「効かぬと言っとろうが!!」

 先程と同じように、柄を上に向けて防ごうとする狗久流。

 しかし、そこに渚本介の姿は無かった。

 持ち主のいなくなった長刀だけが、落ち際にコツンと戦斧の柄に触れた。

312 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:39:34 ID:MY5i2l3gO
 
(;゚∋゚)「──え?」

(´・ω・`)「手強かったぞ、堂土狗久流」

 
 狗久流の理解が追いつかないうちに、低い位置にいた渚本介の虎恍丸が、狗久流の腹を切り裂いた。

 膝をつき、戦斧を落とし、震える声で狗久流が尋ねる。

 
(;゚∋゚)「な…何をした…貴様……」

(´・ω・`)「"形"が欲しかったのだ。その戦斧が追いつかないほどの、絶対的な隙の形が」

(;゚∋゚)「…形……?」

(; ∋ )「……そうか…そういうことか…」

313 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:41:11 ID:MY5i2l3gO
 
 その場に崩れ落ちながら、狗久流はようやく理解できた。
 

 渚本介の言う"形"とは、狗久流の戦斧の"位置"のことなのだ。
 長い戦斧を操るのが人一倍上手い狗久流だ。360度、ほぼどの位置にいても攻撃を喰らってしまう。

 しかし、一瞬だけなら、全く攻撃を喰らうことのない条件があった。
 それは、「戦斧の位置が横向きに、かつ上段にある場合」だ。
 これならばたとえ狗久流でさえも素早い攻撃が出来ない。
 これが渚本介の言う"形"の正体なのだ。

 渚本介はこの"形"を作らせる為に、狗久流に飛び込み、上段から長刀で攻撃すると見せかけた。
 その防御の為に、狗久流は前述した"形"を作らざるを得ない。
 狗久流が戦斧をその"形"に構えた時点で、渚本介は長刀を手放し、懐に飛び込み、虎恍丸の居合いを合わせたというわけだ。

314 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:42:06 ID:MY5i2l3gO
 
(; ∋ )「…フ……戦魔の名の通りの実力よ……俺の負けだ…」

(´・ω・`)「……」

(; ∋ )「さあ行け……俺に勝っ…た……から……に…は………」

(´・ω・`)「…ああ、わかってる」

 
 虎恍丸を鞘に戻し、冷たくなった狗久流に背を向け、渚本介は根十城へと走り出した。

 もう体は疲れきっているが、それでも走らなければならない。
 擬古成を討つ為に。そして、ブーンを救う為に。

 

──

315 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:43:33 ID:MY5i2l3gO
──

 
(;^ω^)「早く上るお!」

ζ(゚ー゚;ζ「ま、待ってよ、ハァ、ハァ…」

 
 根十城最上階、大広間。
 長い階段を上りきり、ブーンと出麗の二人は巳留那のもとへ向かっていた。

 脱出する前に既に天野勢が来ていたので、脱出は諦め、まずは城主の安全を確保しようと考えたのだ。

 大広間の奥に玉座がある。
 この緊急事態に巳留那が玉座にいるとは思わなかったが、とにかく冷静な思考が出来ないので、ブーンは出麗の手首を引っ張りながら走っていた。

316 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:44:42 ID:MY5i2l3gO
 
 乱暴に玉座への襖を開ける。
 そこには、意外にも巳留那が落ち着いた様子で座っていた。

 
( ゚д゚ )「…無礼者が、何しに来た」

(;^ω^)「巳留那様を連れて逃げる為ですお!てか何で悠々と座ってるんですかお!!」

( ゚д゚ )「勝てぬ戦に慌てる必要などない」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

(;^ω^)「勝つか負けるかなんて終わってみなければわからないですお!」

 
 ブーンの剣幕に、全く引く様子のない巳留那。
 暫くブーンの方を見ると、目を伏せながら、溜め息を一つ吐いた。

 
( ゚д゚ )「残念だが、結果がわかってる場合というのもある」

(;^ω^)「ああもう!だから…」

( ゚д゚ )「なれば」

317 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:47:25 ID:MY5i2l3gO
 
 少し声を上げ、ブーンを差し止める。
 巳留那は視線をブーンの少し後ろに向け、顎で指した。

( ゚д゚ )「なれば、アレをどう説明する」

( ^ω^)「アレ?」
 

 ゆっくりと振り返る。
 途端、ブーンは危うく腰を抜かしそうになった。

 
(,,゚Д゚)「そいつの言う通りだ南蛮人。抗えない勝敗というのは、確かに在る」

 天野擬古成。ブーンにとっては悪魔のような男が、そこにいた。

 
(;^ω^)「う、嘘だお…こんなに早く…」

(,,゚Д゚)「悪ぃが、俺はせっかちでね」

 背中に掛かる大きな鞘から、斬馬刀を抜く擬古成。
 その口元が、不気味に歪んだ。

 
(,,゚Д゚)「全員、死んでもらうぜ」
 

第九話 終

318 ◆vVv3HGufzo:2011/03/24(木) 22:48:35 ID:MY5i2l3gO
今回の投下は以上です!
はい!

319以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/24(木) 22:48:48 ID:Xk8ITH9s0
乙ぅ
やばいな、ギターで解決できるのか

320以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/24(木) 23:37:11 ID:aGrAAR1I0
きてたー、乙! 続きが気になりすぎる

321以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/25(金) 13:08:27 ID:QN0gIVa20

思わず手に汗握った

322 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:04:37 ID:vluT4a/oO
コメントありがとうございます!

それでは第十話を投下しますん

323 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:06:50 ID:vluT4a/oO
***
第十話 「戦の道は死境の道」

***

 
 根十城城門付近。
 天野勢はもう全隊が根十城に進入してしまった為、ここには無数の死体が転がっているのみだ。

 しかし、その奥からは大勢の怒号と刃を交える音が聞こえる。
 内部がやけに明るく見えるのは、城内の所々に火の手が上がっている為だろう。

 
 堂土狗久流を倒し、城門まで走り戻った渚本介。
 馬でもあれば、と辺りを見渡すが、生きてる者の姿は無い。

 
(;´・ω・`)(地下牢か…)
 

 とりあえず、ブーンがいる可能性が高いのは地下牢だ。
 天野勢に捕まる前に、地下牢からブーンを助け出す必要がある。

324 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:08:11 ID:vluT4a/oO
 
 地下牢の場所はあやふやだが、とりあえず建物内にあるのは確かだ。
 誰か味方に遭遇すれば、そいつに聞けばいい。

 渚本介は疲れを訴える足に鞭を打ち、根十城内部へと走り出した。

 
(;´・ω・`)(待ってろブーン…)

 ブーンを必ず助け出す。願わくば、ブーンが元の時代へ戻る為、尾付出麗と共に。

 擬古成を逃してしまった先程の失態を、悔やんでいないわけではない。
 しかし、擬古成を討つのは後でもいい。

 肺が痛い。足が重い。
 それでも渚本介は走り続ける。

 乱戦となった、根十城の中心へと。
 

 
──

325 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:10:04 ID:vluT4a/oO
──
 

(;^ω^)「出麗さん、僕の後ろに隠れるお!」

ζ(゚ー゚;ζ「は、はい!」

( ゚д゚ )「……」

 
 根十城大広間。
 ブーンは絶望感に浸りそうになるのを堪え、出麗を庇うように立ちはだかった。
 そのすぐ傍らで、既に負けを覚悟している男、城主の巳留那がじっと座っている。

 あっさりと彼らを追い詰めた擬古成は、三人に向かって悠々と歩き出した。
 三人が三人とも無力だと確信したからか。斬馬刀の峰を肩に乗せ、余裕を見せながら近付いてくる。

326 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:12:04 ID:vluT4a/oO
 
(,,゚Д゚)「二茶根瑠領領主、二茶根瑠巳留那よ。俺は今よりお前を殺し、この城と領をまるまる頂く」

(,,゚Д゚)「だから最後に聞かせてくれ。この二茶根瑠領、お前にとってどういう国なんだ」

(;^ω^)「……」

ζ(゚ー゚;ζ「……」
 

 巳留那には悪いが、ブーンはほんの少しだけ安堵感を得た。
 恐らく、擬古成は最初に巳留那を討ち、そのついでに自分達を殺すつもりなのだろう。
 上手く行けば、隙を見て逃げ出すこともできるかもしれない。

 擬古成の問いに、少し考えるように黙る巳留那。
 暫く黙ると、威厳の保った低い声で、ゆっくりと返した。
 

( ゚д゚ )「…この国は余の全て、そのものだ。貴様如きに渡すのが惜しいほどに、余はこの国を愛しておる」

(,,゚Д゚)「ハッ、言うじゃねえか」

327 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:13:18 ID:vluT4a/oO
 
(,,゚Д゚)「なれば、俺は貴様の全てを剥ぎ取り、蹴落とし、この国を奪う」

 
 巳留那のすぐ手前まで歩み寄った擬古成が、斬馬刀を構える。
 それでも巳留那は動じる事なく、じっと擬古成を見据える。

 近くに居てはいけないと感じたブーンが、出麗と共に後退った。

 
(,,゚Д゚)「二茶根瑠巳留那。その首、頂戴致す」

(#ー_ー)「させるかァ!!」

(,,゚Д゚)「!」
 

 斬馬刀を振り下ろそうとする擬古成の腕が止まった。
 その一瞬後、擬古成が振り向くと同時に、小さな懐刀がその胸部目掛けて飛んできた。
 反射的に斬馬刀を下向きに構え、盾のようにその懐刀を防ぐ。

328 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:14:08 ID:vluT4a/oO
 
 一つ舌打ちをし、懐刀を投げてきたその男を睨む。

 
(,,゚Д゚)「…貴様、誰だ」

(ー_ー)「二茶根瑠家近習頭、尾付比岐」

 
 鞘から刀を抜き、擬古成を睨み返す。
 途端、ブーンの後ろで、出麗が声をあげた。
 

ζ(゚ー゚;ζ「父上!」

(;^ω^)「!?」

(;ー_ー)「なっ…!?」
 

 重くなりつつあった空気が、一気に別の緊迫へと変わった。

 尾付家は二茶根瑠家の近習を務めている。
 出麗も尾付家の一員であり、近習頭の比岐の実の娘なのだ。

 何故お前が此処にいる。そう言いたげに出麗を見るが、すぐに別の言葉を投げた。

329 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:15:09 ID:vluT4a/oO
 
(;ー_ー)「早く此処から去ね!そこの南蛮人は出麗と共に殿をお守りしろ!」

ζ(゚ー゚;ζ「で、できません!父上を見捨てるなど、私にはとても…」

(#ー_ー)「去ねと言っているのが聞こえぬか!!」

 
 比岐の怒声が大広間に響く。
 押し黙った出麗に、更に続ける。
 

(#ー_ー)「殿をお守りするのが、我ら近習の定め!命などとうに捨て置いている!!」

(#ー_ー)「お前は女子だ!戦に慣れぬ、琴を嗜む女子!しかし、まごうことなく近習一族!」

(#ー_ー)「殿を連れ、守り抜いてみせよ!早く此処から去ね!!」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

 
 擬古成に刀を向けながら、巳留那を連れて逃げるよう出麗に命じる。
 目に涙を浮かべながら、出麗が小さく頷いた。

330 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:16:51 ID:vluT4a/oO
 
 巳留那を立ち上がらせ、ブーンに託し、自らは先導の位置に着いた出麗。
 擬古成に背を向け、比岐が入ってきた入り口とは反対側の外回路へと進み出す。

 外に出る間際、出麗が少しだけ振り向いた。
 

ζ(゚ー゚*ζ「御達者で、父上」

(ー_ー)「……」

 
 恐らくはこれが今生の別れとなる。
 しかし、その別れを惜しむ間など在りはしない。

 比岐は改めて擬古成に目を向けた。

 
(,,゚Д゚)「ハッ、良いじゃねえか。涙のお別れってか」

(ー_ー)「ぬかせ」

331 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:18:02 ID:vluT4a/oO
 
 刀を握る手に力が入る。

 巳留那を一時的に逃がすことに成功した。娘と顔を合わせて別れることも出来た。
 もう、怖いものは何もない。
 

(ー_ー)「天野擬古成。根十城に気安く攻め入った下賤者を、いざ討たん」

(,,゚Д゚)「…やってみろ」

 
 静かに睨み合っていた状態が、一瞬で変わった。
 刀を構えた比岐が、一気に擬古成に飛び込んだのだ。
 思わず防御の姿勢をとった擬古成に、小刻みな突きの攻撃を繰り返す。
 

(,,゚Д゚)(チッ…)

332 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:20:11 ID:vluT4a/oO
 
 あまりにも小刻みに、正確に繰り出される突きに、擬古成は反撃の手が出ない。

 実は、これこそが斬馬刀の弱点だった。
 刃同士を合わせる攻防なら、間違いなく厚みも重みも格段に違う斬馬刀の勝利だ。相手の体ごと刀を弾き飛ばし、その隙に斬り伏せることも出来る。
 しかし、相手の攻撃が小刻みな突きだったら、反撃する隙がない。
 一度防御に入ってしまえば、相手の攻撃を喰らい続ける他無いのだ。
 

(#ー_ー)「ハッ!!」

(,;゚Д゚)「クソッ…」

 
 頭、手、足。
 斬馬刀では隠せきれない箇所を、徹底的に突いてくる。

333 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:21:36 ID:vluT4a/oO
 
(,#゚Д゚)「…図に乗んじゃねえ!!」

(;ー_ー)「!!」

 
 慣れない防御戦に痺れを切らし、擬古成が斬馬刀ごと比岐に飛び込んだ。
 タックルのような攻撃を受け、比岐の体が倒される。

 
(,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」

 その体に、斬馬刀の上段からの一撃が迫る。
 咄嗟に体を回し、斬馬刀を避けながら立ち上がる。

 
(;ー_ー)「ハァ…ハァ……ッ」

 危ないところだった。
 擬古成と距離を取り、刀を構え直す。

 しかし、何故か刀をうまく構えられない。
 不思議に思いながら、比岐は自らの腕へと視線を落とした。

334 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:22:59 ID:vluT4a/oO
 
(ー_ー)「あ……?」

 
 比岐が刀を構えられないのは当然だった。
 視線を擬古成へ戻すことも忘れ、比岐はそのまま固まった。

 比岐が目にして、思わず固まってしまうほどの光景。

 自らの左肘から先が、無くなっていた。

 
(;ー_ー)「う、あ、あ゙あ゙あ゙あ゙ああああ!!」

(,,゚Д゚)「一介の近習にしては、なかなかの腕前だったぞ」

(;ー_ー)「腕が!!ああああ!畜生!畜生!」
 

 片膝をつき、左腕を押さえて悶える比岐。
 もはや反撃の兆しすら感じられないその姿に、擬古成が迫る。

335 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:24:07 ID:vluT4a/oO
 
(;ー_ー)「ああ、ハァ、ハァ…!!」

 目の前の擬古成が斬馬刀を振り上げる。
 途端、比岐は時間が止まったかのように感じた。

 もはや擬古成を倒すことはほとんど叶わない。
 しかし比岐は考える。
 娘の出麗と例の南蛮人は、巳留那を連れてまだそう遠くまで逃げきれていないはず。
 ここで自分があっさりと負けてしまえば、すぐに擬古成は三人を追い、捕まえてしまうだろう。

 それだけは何としても避けたい。
 無事に逃がす為には、まだ時間を稼ぐ必要がある。

 
 此方を見据え、斬馬刀を振り上げている擬古成。
 世界が、動き出した。
 

(,,゚Д゚)「楽に送ってやる。尾付比岐よ」

336 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:25:50 ID:vluT4a/oO
 
 足に力を入れ、笑う膝を抑える。
 擬古成が斬馬刀を振り下ろそうとした瞬間、比岐は擬古成に飛びかかった。
 
(,;゚Д゚)「なっ…!?」

(#ー_ー)「うおおおおお!!」

 
 強引に肩から懐に飛び込み、擬古成を仰向けに倒した。
 そのまま馬乗りの体制で擬古成を押さえ、顔面に向かって何度も拳を打ち込む。

 あまりにも想定外な反撃に、為す術無く殴られる擬古成。
 その顔面が、赤く染まっていく。
 
(#ー_ー)「おおおおおおおおお!!!」

337 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:27:07 ID:vluT4a/oO
 
 激しい運動を続けているせいで、おびただしく出血する左腕。
 必死に殴り続けるも、やがて力が入らなくなってきた。

 
(;ー_ー)「ハァ…クソ……クソッ…」

 
 血が足りないせいで、筋肉が言うことを聞いてくれない。
 比岐の最後の一発。渾身の拳は、ぺちんという音を擬古成の頬に鳴らしただけだった。

 
(;ー_ー)「ハァ……ハァ……」

(; _ )「ハ………」

 
 もう、全身に力が入らない。
 思考すら叶わない。

 擬古成の横に転がるように、比岐は倒れ込んだ。

 暗くなる視界で、ゆっくりと起き上がる擬古成の姿が、最後に映った。

 

──

338 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:28:08 ID:vluT4a/oO
──
 

(;^ω^)「ま、まだ下につかないのかお…」

ζ(゚ー゚;ζ「そろそろ次の階段に着くわ!そこから下に降りられる!」

( ゚д゚ )「……」

 
 大広間から外回路へと抜け、そのまま下へと進んでいく三人。

 既に多くの天野の兵が建物内へ進入したのだろう。
 城内のあちこちから、大勢の怒号が聞こえる。

 
(;^ω^)「それにしても、敵兵に見つかりはしないかお?」

ζ(゚ー゚;ζ「わからないわ。なるべく難しい道を使ってるけど…運次第ね」

339 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:29:17 ID:vluT4a/oO
 
 ブーンが最も懸念し、恐れていること。
 それは、今のこの状況で敵に出くわしてしまえば、あっさりやられてしまうだろうということだ。
 ブーンも出麗も武器を持っていないし、巳留那は刀を持っているものの、何か不安だった。

 
ζ(゚ー゚;ζ「よし、もうすぐ階段よ!」

(;^ω^)「了解だお!さ、急ぎますお」

( ゚д゚ )「ああ」

 
 先導する出麗の背中を追い、巳留那を連れて走り続けるブーン。

 広い廊下の奥に、とうとう下へと続く階段が見えてきた。
 足を速め、階段へと急ぐ三人。

 しかし、その足はすぐに止まった。

340 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:30:25 ID:vluT4a/oO
 
ζ(゚ー゚;ζ「あ……」

(;^ω^)「……」

 
 足を止め、肩で息をしながら、前方に視線を向ける。

 三人が目を向ける先。
 廊下の奥の階段から、十数人の敵兵達が現れた。

 
ζ(゚ー゚;ζ「そんな…」

(;^ω^)「…最悪だお……」

 
 恐れていた事態になってしまった。
 どうする。引き返して逃げるか。
 いや、それでは体力が持たない。

 冷静に回らない頭で、必死に考えるブーン。
 敵兵達が、三人に気付いた。

341 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:31:44 ID:vluT4a/oO
 
 何かを叫びながら、三人へと迫る敵兵達。

 もう考える暇などない。
 ブーンは出麗の腕を掴み、巳留那を庇いながら、元来た道を走り出そうと振り返った。

 しかし、その敵兵から聞こえてきたある言葉に、ブーンは思わず足を止めた。

 
「旦那様…?」


(;^ω^)「……え?」
 
 聞き覚えのある声。聞き覚えのある呼び名。

 ブーンはゆっくりと振り向き、目を見開いた。

 
(;゚∀゚)「旦那様…ですよね…?どうして…」

342 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:33:38 ID:vluT4a/oO
 
(;^ω^)「ご、ご主人!?」

 
 敵兵の格好をした男は、紛れもなくブーンの知り合いだった。
 天野勢に焼き討ちをされた二子厨の庄、そこで宿屋を営んでいた男。

 かつてブーンを殺そうとし、改心した男が、そこにいた。
 

(;^ω^)「ど、どうして天野勢の格好なんかしてるんだお!」

(;゚∀゚)「旦那様こそ、どうして根十城なんかにいるんですかい!?」

 
 根十城の城主を連れて逃げているブーン、根十城を攻める天野勢の一員になっている宿屋の主人。
 理由はわからないが、間違いなく二人は敵対する立場にあった。

 あってはならない形で、二人は再会してしまった。

343 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:34:42 ID:vluT4a/oO
 
 実のところ、天野勢が二子厨の庄を襲った際、宿屋の主人は捕虜として天野勢に捕まっていたのだ。

 すぐに処刑はせず、捕虜は戦力にしてしまうのが擬古成のやり方だ。
 主人も天野勢に加わらされ、訓練を受けさせられ、この根十城攻めに参戦させられていた。

 
(;゚∀゚)「……」

(;^ω^)「……」

 
 ブーンも、主人も、兵達ですら、この奇妙な状況に固まっていた。

 しかし、この均衡は長くは続かなかった。
 構うことない、殺せ、といきり立った兵が、刀を抜いて走り出したのだ。

 その直後。
 構えていた槍で、主人がその兵の背中を貫いた。

344 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:35:37 ID:vluT4a/oO
 
 走り出していた兵が、静かに崩れ落ちた。

 
(;^ω^)「ご主人!?」

(;゚∀゚)「あ……」

 
 やってしまった、という顔を自らの槍に向ける。
 その後ろで、十人ほどの兵が一気に騒ぎ出した。

 
(;゚∀゚)「う、うおおっ!!」

 その兵達に向かって、今度は槍を横に払った。
 数人の兵が倒れ込み、それに押されて更に何人かが転ぶ。

 
(;゚∀゚)「旦那様!!今のうちに降りてくだせェ!」

(;^ω^)「な、何言ってんだお!」

(;゚∀゚)「いいから早く!!」

345 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:37:13 ID:vluT4a/oO
 
(;^ω^)「ご主人…」

(;゚∀゚)「…あん時、旦那様はもう後悔はしないでくれって言ってくれやした」

(;゚∀゚)「約束通り、俺ぁ後悔なんてしません!これが俺の選んだ道なんだ!さあ、早く逃げてくだせェ!!」

(;^ω^)「…わかったお!」
 

 主人が槍で兵達をどかした隙間を、出麗て巳留那を連れて走り行くブーン。
 三人の姿が見えなくなると同時に、主人の横腹を、槍が貫いた。

 「謀反者を殺せ」という誰かの掛け声と共に、兵達が刃を向けてきたのだ。

 腹に、胸に、肩に、容赦なく槍が突き刺さっていく。

346 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:38:08 ID:vluT4a/oO
 
(; ∀ )「う……あ…」

(; ∀ )「…だ、旦那…様……」

 
 力無く倒れ込みながら、主人は力を振り絞って手を動かした。

 右手を懐に入れ、中をまさぐる。

 …良かった。無事だったか。
 言葉にならない言葉を吐き、主人は目を閉じた。
 その右手には、かつてブーンから貰った品、ボールペンが握られていた。

 無二の宝物が無事だったことに、安堵の表情を浮かべる主人。
 直後、その首と胴が、兵が振り下ろした刀によって分かれていった。

 

──

347 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:39:10 ID:vluT4a/oO
──

 
(;^ω^)「ようやく下に着いたお…」

ζ(゚ー゚;ζ「あとは馬を取って逃げるだけね」

 
 近くに人の気の無い、根十城大手門付近。
 この大手門を抜けると兵士宿舎がある。そこに隣接する馬小屋に行けば、逃げきる為の馬も確保できるはずだ。

 いざ門を抜けようと三人が進み出す。
 途端、何やら鉄同士がぶつかるような、重い轟音が門の向こうから聞こえてきた。

 
(;^ω^)「この音は…?」

 
 まさかの事態が脳裏をよぎる。
 音のした方、大手門の向こうへと、ブーンは急に走り出した。

348 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:40:30 ID:vluT4a/oO
 
ζ(゚ー゚;ζ「あ、ちょ、待ちなさいよ!」

 
 出麗の制止も聞かず、ブーンは躊躇いなく門をくぐっていく。

 門を抜け、目前に広がる光景に、ブーンは思わず立ち尽くした。

 結論から言うと、例の音の正体は、ブーンの予想通りだった。
 鉄同士がぶつかるような轟音の正体は、かつてブーンが二子堂城で聞いた、虎恍丸と斬馬刀が刃を合わせる音。
 そして、その音から連想できる通り、そこには渚本介と擬古成の姿があった。

 
(;゚ω゚)「え…あ……?」

(,,゚Д゚)「ハッ、生きていたか南蛮人」

 
 擬古成が静かにブーンに目を向ける。
 しかし、ブーンの視線は別のものを捕らえていた。

349 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:41:21 ID:vluT4a/oO
 
(;゚ω゚)「そんな……嘘だお…」

 
 信じられない光景だった。
 冷や汗が全身を流れ、気が遠くなるのを弱々しく堪えながら、ブーンは小さく声を洩らした。
 

(;゚ω゚)「…渚本介さん……?」

(;´メω `)「……」

 
 震えた声が辺りに響く。

 ブーンの目線の先で、頭部から血を流した渚本介が、ゆっくりと膝をついた。

 

第十話 終

350 ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:42:57 ID:vluT4a/oO
今回の投下は以上です!

…はい!

351以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/27(日) 23:49:41 ID:aZNpbJaQ0
きてたーと思ったら終わってた

352以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/28(月) 00:05:17 ID:KmjcXySUO
乙乙!

353以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/28(月) 13:35:23 ID:PrtONK/E0
うわあああああああああああああああ!
絶望した

354以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/28(月) 14:44:11 ID:RZfCk.Yo0
おっつ

355以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/28(月) 15:15:32 ID:tv8EY642O

比岐に宿屋の主人…あれぞ漢の生き様だな

356以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/28(月) 16:09:23 ID:7KuKwvDw0

ショボンさああああああん

357以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 01:00:36 ID:yruBIS2c0
投下が待ち遠しい

358以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:15:40 ID:HB0sEhw20
もららー…(ω;`

359 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:29:31 ID:.21OI1/oO
レスありがとうございます!

早速続きを投下しまっせ!カモン!

360 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:30:11 ID:.21OI1/oO
***
第十一話 「復讐と野望の果て」

***
 

 時は少し前後する。

 ブーン達が宿屋の主人と出くわした頃。
 渚本介は地下牢から上がり、搦手門のあたりに居た。

 搦手門とは、簡単に言えば城の裏口のようなものだ。
 地下牢にブーンがいなかった為、もう逃げるのに成功したか、もしくは敵に捕まったかの二択しかない。
 まずは前者であることを考え、一旦は正門を見て、それからの搦手門を確認に来た。
 しかし、搦手門は厳重に鍵が閉められていた。

 
(;´・ω・`)(城外にいることは考えにくいな…)

 となると、ブーンは城内を隠れるか逃げ回っている、もしくは既に捕まっているかだ。

361 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:31:13 ID:.21OI1/oO
 
 いずれにしても、このままだと最悪な結末をブーンは迎えることになる。

 
(;´・ω・`)(休む暇は無いな)
 

 乱れた息を整え、疲労を訴える足を押さえる。
 早く行かなければ、と力無く走り出す渚本介。

 その直後だった。

 
(;´・ω・`)(擬古成か…?)

 
 渚本介の位置から五十メートルほど離れた、大手門近くの天守の下。
 あの擬古成が、フラフラと歩いているのが見えた。

362 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:32:12 ID:.21OI1/oO
 
 遠くてよく見えないが、何やら顔から血を流しているようだ。

 無二の好機だ、と虎恍丸を抜く。
 鞘から刀を抜く音が聞こえたのか、それともその殺気に感づいたのか。
 擬古成が、此方に気付いた。
 

(,;゚Д゚)「戦魔…!」

 擬古成が大手門近くまで降りていた理由。
 それは、比岐と戦っている間に逃げていった巳留那達を追う為だった。

 ところが下に巳留那達の姿は無い。
 代わりに、あの太田渚本介の姿がそこに在った。

 
(,;゚Д゚)「フ……」

363 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:33:20 ID:.21OI1/oO
 
 思わず、口元が緩んだ。

 面白いじゃないか、この巡り合わせ。
 これが、この天野擬古成と太田渚本介の、恐らく最後の戦いになるのだろう。

 ふらつく頭を押さえ、虎恍丸を構える渚本介を睨みながら、斬馬刀を抜いた。

 
(´・ω・`)「……」

 
 その擬古成に向かって、虎恍丸を手にしたまま歩き出す渚本介。
 二人の間の距離が、着実に縮まっていく。

 
(,,゚Д゚)「戦魔よ!」

(´・ω・`)「!」

 
 その距離が十メートル程に狭まった頃。
 突如、擬古成が口を開いた。

364 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:33:37 ID:.21OI1/oO
 
 突然の事に、渚本介の足が止まった。

 根十城にて漸く、落ち着いて対峙する二人。
 斬馬刀を持ったまま、擬古成が続ける。

 
(,,゚Д゚)「お前との長き戦いも、恐らくこれが最後。お前は今容易く逃げられる立場に無いからだ。勿論、それは俺もなのだが」

(´・ω・`)「……」

(,,゚Д゚)「故に、俺とお前は今より命の決着をつける。こうしてまともに話すのも、恐らく何れかの今生の最後だ」

(´・ω・`)「…そうだな」

(,,゚Д゚)「言い残すことは?」

 
 情けや慈悲ではなく、純粋に渚本介の言葉を聞こうとする擬古成。
 それを察し、渚本介も素直に言葉を並べていく。

365 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:34:38 ID:.21OI1/oO
 
(´・ω・`)「今の俺は復讐心のみで生きていると言っても過言ではない。貴様の顔を見る度、声を聞く度、憎悪と殺意が我が体躯を啄む」

(´・ω・`)「そして、今ここで貴様の首を取ったとして、その後の俺は生きていけまい」

(,,゚Д゚)「……」

(´・ω・`)「どうせ死に行くなら、貴様を地獄に送ってからだ。…最後に、貴様に率直な心の内を述べよう」

 
 虎恍丸を構え直し、一呼吸置いた渚本介。
 対する擬古成も、斬馬刀を静かに構えた。

 
(´・ω・`)「……殺してやる」

366 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:35:37 ID:.21OI1/oO
 
 一瞬後。二つの刃が、轟音をあげて交わった。

(#´・ω・`)「ハァッ!!」

(,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」

 斬馬刀の重みに勝てず、虎恍丸はやはり弾かれた。
 そこに擬古成の素早い返し手が迫るが、渚本介はそれを潜り込んで避ける。
 がら空きの腹に虎恍丸を伸ばすも、擬古成がそれを飛び上がってかわした。

(;´・ω・`)「!?」

(,#゚Д゚)「フンッ!!」

 そのまま空中で回転しながら斬馬刀を払う。
 その攻撃をなんとか虎恍丸で受け流し、擬古成の首へと刃を伸ばす。
 しかし、今度は擬古成がそれを潜り込んでかわした。

367 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:36:45 ID:.21OI1/oO
 
 地面についた斬馬刀を、持ち上げるように渚本介に向ける。
 途端、渚本介がその刃に足を乗せた。

(,;゚Д゚)「ム…!?」

(#´・ω・`)「ハッ!!」

 予想外だった渚本介の動きに反応できず、そのまま斬馬刀を振り上げた擬古成。
 斬馬刀の刃に乗った渚本介が、その頭上を越え、擬古成の背後に着地した。

 勝ちを確信し、その背中に虎恍丸を突き伸ばす。
 しかし、その視界から擬古成が消えた。
 渚本介の攻撃が当たる前に、地面スレスレまで一瞬で伏せたのだ。

 そのまま仰向けになりながら、渚本介の脇腹に蹴りを喰らわす。
 それをまともに受け、渚本介は数メートル吹っ飛ばされた。

368 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:37:46 ID:.21OI1/oO
 
(;´・ω・`)「く…はっ……!」

(,;゚Д゚)「ハァ…ハァ…ッ」

 
 脇腹を押さえて立ち上がる渚本介。呼吸を整えながら起き上がる擬古成。
 睨み合いながら、再度武器を構え直す。

 二人の力は、確実に拮抗していた。

 
(;´・ω・`)「……」

(,;゚Д゚)「……」

 
 長くは戦えないと悟った二人。
 短時間で勝負をつける為、次の動きを目で探り合う。

 いざかかろうと渚本介が一歩踏み出した。
 その途端、渚本介のすぐ横に兵が落ちてきた。

(;´・ω・`)「!」

 その兵に一瞬気を取られ、動きを止めてしまった渚本介。
 その首に、斬馬刀が勢い良く迫る。

369 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:38:39 ID:.21OI1/oO
 
(;´・ω・`)(しまっ…!!)

 咄嗟に虎恍丸を向け、直撃を避ける。
 しかし、斬馬刀の力に押され、そのまま体ごと飛ばされた。

 大手門の方に飛ばされ、運良く壁にぶつかることなく門をくぐり抜けた渚本介。
 どうにか体を起こし、顔を上げる。
 

(;´・ω・`)「くっ…」

(,#゚Д゚)「ゴルァッッ!!」

(;´・ω・`)「!!」

 擬古成も門を抜け、そのまま飛び込むように斬馬刀を振り下ろす。
 今度はまともに虎恍丸で攻撃を止めるも、渚本介の体はそのまま後ろへ流れた。

 休む暇なく、またも渚本介に斬馬刀が横から迫る。

370 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:39:50 ID:.21OI1/oO
 
(;´・ω・`)(間に合わない…)

 流れた体のバランスを保つのに必死で、手が空いていた渚本介。

 体を反らしてその攻撃を避けようとするも、斬馬刀は渚本介の顔面を捕らえた。
 

(,,゚Д゚)「…勝負あった」

(;´メω `)「……」


 渚本介の右頬から額に向けて、斬馬刀は深い爪痕を刻み込んだ。

 右目を失い、顔から大量の血を流しながら、よろよろと数歩歩み。
 渚本介はゆっくりと膝をついた。
 

 ブーン達が大手門の方へ飛び出してきたのは、ちょうどその時だった。
 

 
──

371 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:40:11 ID:.21OI1/oO
──
 

(;゚ω゚)「…渚本介さん……?」

 
 何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。
 ただ目の前の現実に、ブーンは固まるしかなかった。

 
(;´メω `)「……」

(;゚ω゚)「そ…んな…」

(,,゚Д゚)「哀れな男よ」

 
 斬馬刀の峰を肩に乗せながら、擬古成が口を開く。
 膝をついた渚本介の背中を見下ろすその目は、異様なほどに冷たい。

372 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:41:25 ID:.21OI1/oO
 
(,,゚Д゚)「たかが復讐の為だけに、俺を追う為だけに、当て所ない旅を続けてきた」

(,,゚Д゚)「それがこのザマだ。殺す為だけに刀を振り回し、闇雲に走り回り、この男は生涯を終える」

(;´メω `)「……」

 
 擬古成の言葉に、渚本介は何の反応も示さない。

 攻撃の兆しのないその後ろ姿へと近付き、擬古成は斬馬刀を振り上げた。
 

(;゚ω゚)「……やめろお…」

(,,゚Д゚)「さらばだ。太田渚本介」

(;゚ω゚)「やめ………!」


 ブーンにはその瞬間が異様なほどゆっくりと見えた。

 斬馬刀が、渚本介の首を目掛けて振り下ろされた。

 

──

373 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:44:18 ID:.21OI1/oO
──
 

 
 応仁元年。
 十一年もの間継続し、その規模は全国にまで広がった、所謂応仁の乱の始まった年。
 戦国時代と呼ばれる始まりの年に、太田渚本介は武家として生を受けた。

 応仁の内戦が広がっていくなか、渚本介の住む国も、否が応に争いに巻き込まれた。

 

 これは、渚本介が十歳になった時のことだ。

 
(`・ω・´)「渚本介、もう日が暮れるぞ。稽古ならまた明日にしろ」

(´・ω・`)「待ってください兄上、もう少し…」

374 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:45:17 ID:.21OI1/oO
 
 幼くして、刀に強い興味を持っていた渚本介。
 武家に生まれたことに感謝しながら、家の庭で刀を振る。それが日課であり、幼心なりの生きがいであった。

 
 渚本介より六つ離れた兄の紗衿丈(しゃきんのじょう)はそんな渚本介を微笑ましく眺めていた。

 その剣術が讃えられ、若くして仕官の職が決まった紗衿丈。
 愛しい弟が一生懸命に刀を振る姿も、もう沢山は見れない。
 そう踏んでいた紗衿丈は、なるべく渚本介の傍にいるよう努めた。

 戦に出向かった父親の代わりになれればと、紗衿丈なりの配慮であった。

 
(`・ω・´)「うむ、振りが鋭くなったな」

(*´・ω・`)「本当ですか!?」

(`・ω・´)「ああ、しかし体の回転が遅いな。回転が遅いと刀が速く届かない上に、視界も格段に狭くなる」

(`・ω・´)「もっと腰を落として、足を速く動かせるようにしろ。そうすれば自然と腰が回り、体も速く回る」

(´・ω・`)「なるほど…ありがとうございます」

375 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:46:05 ID:.21OI1/oO
 
(`・ω・´)「さ、今日はもう終わりだ。飯が待ってるぞ」

(*´・ω・`)「はい!」

 
 男子は剣の達人に育つと言われるほど、太田家は武家として達者な存在だった。

 父親が特別席で戦場に出向くのも当然であり、長男の紗衿丈が仕官に決まるのも当然。

 そして。

 
(´・ω・`)「?」

(`・ω・´)「この音は…」

 
 他勢に狙われるのも、当然であった。

 
(;`・ω・´)「……逃げろ渚本介!!」

376 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:47:06 ID:.21OI1/oO
 
 空気を裂く音が二人を振り向かせ、その正体が二人の背筋を凍らせた。

 夕焼けに染まる空には、数えられぬ程の赤い流星。

 火矢が、此方に向かってきていた。
 

(;´・ω・`)「あ、兄上!」

(;`・ω・´)「フンッ!!」

 歯を食いしばり、家の中へと渚本介を突き飛ばす。
 そのまま紗衿丈も屋根の下へと飛び込んだ。

 直後、屋根と庭が勢いよく燃え上がった。

 
(;´・ω・`)「あ、兄上…」

(;`・ω・´)「いいから隠れるんだ!!」

 
 紗衿丈が声をあげた。
 一瞬体をビクッと浮かし、渚本介は奥の棚の中に転がり込んだ。

377 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:48:14 ID:.21OI1/oO
 
 先程渚本介が振っていた刀を拾い、庭の柵の向こうを睨む。
 その目線の先で、鎧を纏った兵達が、柵を破壊しながら庭に飛び込んできた。
 

(;`・ω・´)(多いな…)

 
 何が起こっているかなど、すぐに理解できた。
 この太田家を、何者かが急襲してきたのだ。


 戦の為、家には紗衿丈と渚本介、そして母親と何人かの召使がいるだけだ。

 相手にできるのは自分しかいない。
 刀を構え、庭とその向こうにいる兵達を睨む。

 その数、およそ百人強。

378 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:49:21 ID:.21OI1/oO
 
 敵からしてみれば、相手はまだ十代の子供一人だ。
 様子見の必要もない、と前列の兵が縁側に乗り込んできた。

 
(´・ω・`)「ハッ!」

 向かってきた刀をかわし、その腹部に蹴りを喰らわす。
 蹴られた兵はそのまま庭へと飛ばされ、何人かの兵を巻き添えに転んだ。

 今だ、と刀を持って飛びかかろうとする紗衿丈。
 その動きが、突如、ピタリと止まった。

 それは、ある男の声が紗衿丈の耳に届いたからだ。

 

「待て」

(;`・ω・´)「!!」

379 ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:50:04 ID:.21OI1/oO
 
 その声に聞き覚えがあるわけではない。
 ただ、その声の冷たさに体が固まってしまったのだ。

 兵達の間から、声の主である一人の男が姿を現した。

 
(,,゚Д゚)「太田紗衿丈。今日は貴様に用があって来た」

 
 この戦乱にあやかって、戦を続ける武将。
 天野擬古成の姿が、そこにあった
 

(;`・ω・´)「……用とは?」

 何故か、自らの声が震えてしまう。
 それほどまでに、目の前の男の威圧感は凄まじかった。


(,,゚Д゚)「簡単だ。我が配下に加われ」


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