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( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです
1
:
◆vVv3HGufzo
:2011/02/20(日) 20:10:49 ID:xjlGxIHwO
***
この作品はフィクションです
作品の団体名、人名、地名などは一切関係ございません
***
228
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:04:22 ID:VlUe/HtcO
_、_
( ,_ノ`)「そんでェ渚本介!今日は何の用だい」
(´・ω・`)「虎恍丸を見てほしい」
鞘から虎恍丸を抜き、渋沢に差し出す渚本介。
それを受け取った直後、渋沢は明らかに難しい顔になった。
その表情を見れば、虎恍丸の状態が良くないということがハッキリと伝わってくる。
虎恍丸をじっくりと見ながら、渋沢は独り言のように呟き始めた。
_、_
( ,_ノ`)「…おめぇにしちゃ、血錆は少ねえ方だ。こいつぁ問題ねェ」
_、_
( ,_ノ`)「問題は刃こぼれだな。鋭い鉄板でも斬ろうとしたのかぃ?それとも──」
229
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:05:07 ID:VlUe/HtcO
渋沢がゆっくりと顔を上げ、渚本介に目を合わせた。
険しい視線が渚本介と重なる。
_、_
( ,_ノ`)「斬馬刀…天野擬古成と合わせたのか」
(´・ω・`)「……」
何も言わず、じっと渋沢を見つめる渚本介。
その態度が渋沢の問いに対する肯定か否定かなど、聞き直すまでもなかった。
視線を虎恍丸に戻し、刃を優しく撫でながら、渋沢が溜め息混じりに口を開いた。
_、_
( ,_ノ`)「…刀ってェのは、人斬りの道具だ。その理由が護身や復讐でも、人さえ斬ってりゃ刀は生きる」
230
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:06:41 ID:VlUe/HtcO
_、_
( ,_ノ`)「でもよ、人の魂までは絶対に斬れねえ。絶対にだ」
(´・ω・`)「……」
_、_
( ,_ノ`)「考え直せ渚本介。おめぇが擬古成を斬ろうと、擬古成の天下統一の精神までは斬れねえ。刀っつーのは、所詮刀なんだ」
_、_
( ,_ノ`)「おめぇか擬古成のどっちかが犬死にするだけさ。考え直すんだ」
渋沢が話し終えると、その場に重い沈黙が生まれた。
誰も何も言わないまま、ただ時間だけが流れていく。
やがて、渚本介が口を開いた。
(´・ω・`)「……虎恍丸を鍛え直してくれ」
231
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:07:43 ID:VlUe/HtcO
( ^ω^)「!」
_、_
( ,_ノ`)「……」
渋沢の「考え直せ」という台詞を無視するかのように、虎恍丸の鍛え直しを依頼した渚本介。
半ば諦めたように、渋沢も頷いた。
_、_
( ,_ノ`)「ま、俺ぁこういうのが仕事だからよ!依頼がねえと飯も食えねえや!ヒッヒッヒ!」
(´・ω・`)「…すまない」
_、_
( ,_ノ`)「とにかく、状態が悪ぃから時間はかかるぜ。表の川で釣りでもしてな!」
(´・ω・`)「それでは頼む」
_、_
( ,_ノ`)「あいよ!」
虎恍丸を預け、小屋を出た二人。
刀が無いと落ち着かないな、と渚本介が笑う。
232
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:08:50 ID:VlUe/HtcO
表にかけてあったいくつかの釣り具を勝手に取り、二人は川辺に立った。
(´・ω・`)「ブーン、川釣りの経験はあるか」
( ^ω^)「一応ありますお」
(´・ω・`)「ようし、勝負をしようではないか」
(;^ω^)「…はい?」
(´・ω・`)「俺は幼子の頃から釣りが好きでな。昼間は複数人で釣りをするのがいいってものだ」
その気持ちはわからなくもない。
しかし、渚本介が釣り好きとはまったくの予想外だった。
ブーンの顔に、笑みが浮かぶ。
( ^ω^)「受けて立ちますお」
(´・ω・`)「ははは、上等じゃないか」
233
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:10:09 ID:VlUe/HtcO
木の枝をそのまま削ったような竿に糸を通し、その先に針と餌をつけ、川に垂らす。
ブーンと渚本介は、少し距離を取って釣りに臨んだ。
暫くも待たないうちに、ブーンの竿に何やら手応えが来た。
(*^ω^)「おっ…?」
(´・ω・`)「む、もう来たのか」
ブーンの糸の先に、何やら大きな影が見える。
渚本介が横で見つめるなか、ブーンは竿を上げ始めた。
(*^ω^)「でかい!幸先いいですお!」
(;^ω^)「ってあれ?上がんね…うおっ…」
234
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:10:26 ID:VlUe/HtcO
途端、ブーンの手応えは一気に軽くなった。
尻餅をつきそうになりながらも、どうにか持ちこたえる。
水面から跳ね上がった糸の先は、針が虚しく揺れていた。
( ´ω`)「逃げられちゃったお…」
(´・ω・`)「ははは、まだまだだなブーン…おっ」
( ^ω^)「お、今度は渚本介さんに!」
今度は渚本介の竿がしなりだした。
自分の針に餌を付けるのも忘れ、渚本介の様子を見守るブーン。
直後、ブーンの時と同じような大きさの獲物を、渚本介はいとも簡単に釣り上げた。
235
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:11:40 ID:VlUe/HtcO
釣り上げた魚を、水の貯まった桶に放り込む。
(´・ω・`)「川魚にしては大きいほうだな」
(;^ω^)(……すげえ…)
(´・ω・`)「さ、勝負はまだ始まったばかりだぞ」
(;^ω^)「おっお。わかってますお」
流石は、自称釣り好き。
今の一手だけで、ブーンはまったく勝てる気がなくなった。
しかし、それでも諦めまいと糸を垂らし続ける。
穏やかな時間が、二人を包んでいった。
──
236
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:13:26 ID:VlUe/HtcO
──
結局、釣り勝負は夕暮れまで続いた。
結果は、ブーンが2匹、渚本介が11匹。
渚本介の圧勝で、勝負は決まった。
゙(ii´ω`)'「惨敗ですおー…」
(;´・ω・`)「いや落ち込みすぎだろ…夕飯は焼き魚だな」
( ^ω^)「お、了解ですお」
夕飯に備え、慣れた手つきで火を起こす渚本介。
少しばかりの沈黙が、その場に流れる。
237
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:14:35 ID:VlUe/HtcO
(´・ω・`)「ブーン…」
ブーンの向かいで火を起こしながら、渚本介が不意に話しかけた。
返事をする間もなく、続きの言葉がこぼれてくる。
(´・ω・`)「…俺をうつけ者だと思うか」
火種を探す渚本介の顔は、薄暗くてよく見えない。
しかし、先ほどまで釣りを楽しんでいた者とは思えないような重い口調が、今の渚本介の表情を容易に想像させた。
( ^ω^)「え…」
(´・ω・`)「本当はわかってるのだ。俺の復讐なんて、極まりなく無駄なものなのだと」
238
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:15:32 ID:VlUe/HtcO
(´・ω・`)「それでも、擬古成が来るであろう根十城への足は止まらぬ。擬古成を討たんが為の、虎恍丸を振るう腕は止まらぬ」
(´・ω・`)「幼子の我が儘さ。こんな俺を、うつけ者だと思うか」
( ^ω^)「渚本介さん……」
言葉が出てこなかった。
昼間の渋沢の短い説得に、多少なりとも心を揺らされたのだろう。
煙の上がってきた枯れ枝を見つめながら、渚本介が続ける。
(´・ω・`)「釣りで重要な事は、魚との駆け引きだ。駆け引き次第で容易く釣り上げることができる」
( ^ω^)「……」
239
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:16:49 ID:VlUe/HtcO
(´・ω・`)「俺は復讐に身を走らせたいが為に、虎恍丸を鍛え直しに来た。あまつさえ、古き友の渋沢をも駆け引きの相手にしてしまったのだ」
(´・ω・`)「誰も俺を許さないだろうな…俺はただのうつけ者だ」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「…悪かったなブーン。さ、魚を焼くぞ。渋沢を呼んできてくれ」
( ^ω^)「…はいですお」
渚本介に背を向け、小屋へと向かうブーン。
先ほどの渚本介の台詞を反芻させながら、ゆっくりと歩き進む。
あんなにも落ち込んだ渚本介を、ブーンは見たことがなかった。
恐らく、後悔しているのであろう。
そして自分を責めているのだ。
復讐を止めようとしてくれた友に、復讐を手伝わせてしまっている事に。
240
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:18:14 ID:VlUe/HtcO
小屋の扉を小さく叩き、中に入る。
そこには、真っ赤になった虎恍丸をさらに火に入れる渋沢の姿があった。
_、_
( ,_ノ`)「おうブーン!扉を開ける前に合図くらいしろや!」
(;^ω^)「え、あれ…しましたお」
( ^ω^)「……あっ」
途端、ブーンは気付いた。
渋沢は少し耳が遠いのだ。
此処を訪れたときの渚本介の大きなノックは、それを気遣ってのものだったのだろう。
二人の友情が垣間見えた気がして、ブーンは少し嬉しくなった。
( ^ω^)「渋沢さん、外で夕飯を用意してますお」
_、_
( ,_ノ`)「おうそうか!客に飯を用意させるたァ、俺も偉くなったもんだぜ!ヒッヒッヒ!」
_、_
( ,_ノ`)「おうし待ってろ!こいつをもう一回り叩いたら飯だ!」
241
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:19:32 ID:VlUe/HtcO
そういうと、渋沢は分厚い鎚を手に取った。
これから始まる刀の鍛え直しに、急に興味が湧いてくる。
(*^ω^)「渋沢さん、ちょっと見ててもいいですかお?」
_、_
( ,_ノ`)「なんでェ、鍛冶屋が珍しいのかい?ヒッヒ、そういや南蛮人は飛び道具しか使わねえって話だな!」
_、_
( ,_ノ`)「よーしそこに座ってろい!火花が飛ぶと危ねェからな!」
(*^ω^)「ありがとうございますお!」
渋沢はもう一度此方を向いてニヤリとすると、火の中から刀を戻した。
左手に持った大きなペンチのようなもので取っ手を押さえ、右手の鎚を赤い刃に振り下ろす。
直後、金属的な乾いた音と共に、綺麗な火花が辺りに散った。
242
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:21:05 ID:VlUe/HtcO
(*^ω^)「おお…」
カン、カン、と音は響き続ける。
その度に火花が散り、薄暗い小屋を明るく照らす。
暫くその作業に見入ってると、渋沢が手を休めぬまま話しかけてきた。
_、_
( ,_ノ`)「なァ、渚本介の野郎、何か言ってたか?」
( ^ω^)「え?」
_、_
( ,_ノ`)「いや、まさかと思ってんだがよ!まさかあいつ、俺に虎恍丸を鍛え直させてるのを後悔してんじゃねェのか?」
(;^ω^)「ど、どうしてわかったんですかお?」
隠したつもりはないが、まさかバレているとは思わなかった。
渋沢の横顔を見ると、作業に歯を食いしばりながら、少しだけニヤリとしていた。
243
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:23:01 ID:VlUe/HtcO
_、_
( ,_ノ`)「ヒッヒ、やっぱりそうか!あいつは昔からそういう奴さ!何かある度に自分を責めやがる!」
_、_
( ,_ノ`)「いつもに何かに後悔しながら、復讐の旅をしてんだぜ…お笑い草さ!んな人生なら捨てちまえって話なんだよ!」
ふと手を止め、腰を逸らす渋沢。
横にあった布で顔を拭くと、そのまま布で刀を煽り、ゆっくりとかぶせた。
_、_
( ,_ノ`)「あいつはやっぱり、復讐を続ける気なのか?」
( ^ω^)「…そうですお」
_、_
( ,_ノ`)「死なねェとわかんねえらしいなあの阿呆は。復讐なんて誰かが死ぬだけだってのによ」
さあ飯だ。と先に小屋を出る渋沢。
すれ違う瞬間、ブーンは見た。
渋沢の顔が、悲しみに染まっていたのを。
──
244
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:24:20 ID:VlUe/HtcO
──
空はすっかりと暮れ、魚を焼くための火が辺りを強く照らしている。
その火を、既に渚本介と渋沢が囲んでいた。
(´・ω・`)「ん?ブーンはどうした」
_、_
( ,_ノ`)「あぁん?あんやろ、まだ中にいんのか」
少し気になって、小屋の方へと目を向ける二人。
その視線の先で、ちょうどいいタイミングで扉が開いた。
そこには、少し張り詰めた顔のブーンが立っていた。
その肩にはギターが掛かっている。
(´・ω・`)「…ブーン?」
_、_
( ,_ノ`)「んだァありゃ?南蛮の武器か?」
245
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:25:42 ID:VlUe/HtcO
火を囲う形でどっしりと座り込むブーン。
少し混乱したような二人に、ブーンが口を開く。
( ^ω^)「渚本介さん、心配はご無用ですお。渋沢さんは確かに渚本介さんを心配してるけど、それでも背中を押してくれる友なんですお」
(´・ω・`)「……」
( ^ω^)「渋沢さん、渚本介さんは強いんですお。簡単には死にはしませんお。それに…」
_、_
( ,_ノ`)「……」
二人の顔をもう一度見て、表情を崩すブーン。
( ^ω^)「渚本介さんは、なにも復讐しか見えてないような人間じゃないですお」
246
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:27:01 ID:VlUe/HtcO
少し恥ずかしそうに、一瞬だけ、渚本介と渋沢は目を合わせた。
途端、二人は目を逸らしながら苦笑いを浮かべた。
( ^ω^)「…それが友情ってやつですお」
柔らかな雰囲気のなか、ブーンはギターを構え、ゆっくりと演奏を始めた。
曲はKiroroの「best friend」のソロギター。
人を思う気持ちが、朗らかな旋律に乗って、その場に流れていく。
(´・ω・`)「……」
_、_
( ,_ノ`)「……」
友を気遣うこと。心配すること。引き留めることも、背中を押すことも。
すべてが友情であり、友の証なのだ。
物静かな渚本介も、口うるさい渋沢も、ブーンの演奏に静かに聴き入っていた。
ひどく心地の良い、暖かい夜だった。
そう思えたのは、果たしてこの三人の囲う小さな火のおかげなのか。
──
247
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:28:02 ID:VlUe/HtcO
──
翌朝。
陽の光が眩しい川辺で、渚本介は渋沢から新しくなった虎恍丸を受け取った。
_、_
( ,_ノ`)「おめぇの刃を合わせる戦い方を考えて、耐久性を考えて鍛えた。少し重くなってるが問題ねェか?」
(´・ω・`)「ああ」
渚本介は近くの木を軽く蹴り、落ちてきた葉に居合いを合わせた。
数秒遅れて、葉は二つに分かれた。
(´・ω・`)「相変わらず質の良い上がりだ」
_、_
( ,_ノ`)「ヒッヒ!そりゃどーも!」
248
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:29:16 ID:VlUe/HtcO
虎恍丸を鞘にしまい、懐から小銭入れを取り出した渚本介を、渋沢は慌てて制した。
_、_
( ,_ノ`)「ああ代はいらねェよ!こっちも暇つぶしに刀叩いたようなもんだ!」
(´・ω・`)「しかし…」
_、_
( ,_ノ`)「代はいらねェけどよ、一つ約束してくれよ」
小さく首をかしげる渚本介。
後ろで荷物を用意していたブーンが、少し笑った。
_、_
( ,_ノ`)「絶対に死ぬんじゃねェぞ!擬古成を斬ったあとは、またうちに寄ってくれや!そん時は酒出してやらァ!」
(´・ω・`)「ははは、わかった、約束しよう」
249
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:30:13 ID:VlUe/HtcO
_、_
( ,_ノ`)「おめぇもだブーン!またそのぎたーとやらを弾いてみせろよな!」
( ^ω^)「了解ですお!」
荷物を持ち、ブーンと渚本介は渋沢を背に歩き出した。
何度も振り向いて手を振るブーン。その横で、渚本介は前を向いたまま歩き続ける。
しかし、渚本介の顔はこれまでに無いほど明るいものだった。
渋沢の癖のある笑い声が、二人のずっと後ろから聞こえてきた。
第七話 終
250
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 01:31:49 ID:HemFoSno0
http://www.youtube.com/watch?v=u8bUzMJtCRM
今回はこちら様
251
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:33:58 ID:VlUe/HtcO
今回の投下はこれにて。
>>250
さん、曲紹介ありがとうございます!
ヒッヒッヒ!
252
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 01:39:05 ID:HemFoSno0
そして乙ー
いい感じで和めました
253
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 01:43:12 ID:65u996QE0
乙です! 毎度わくわくします。
254
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 02:25:00 ID:ZKOT5IPkO
乙乙!
255
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 22:26:44 ID:rq8XMcl.0
乙
やっぱり友情っていいな
256
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:26:14 ID:VuIUXoJAO
コメントありがとうございます!
なんて温かいんだここは…まるで膣のようだ
そろそろ行きますぜ第八話!カモン!
257
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:30:02 ID:VuIUXoJAO
***
第八話 「如何なる音も、闇を照らす」
***
二茶根瑠領、根十城。
領土自体はさほど大きくはないが、どの国にも引けを取らない武力を誇る国だ。
その軍隊の中心指揮地であり、二茶根瑠一族の居城が、この根十城なのだ。
小高い丘の上に位置する根十城からは、二茶根瑠領をある程度見渡すことができる。
その景色の美しさは、ブーンのいた五百年後には観光名所や絶景スポットとして知られるほどだ。
258
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:30:40 ID:VuIUXoJAO
(*^ω^)「すげえお…」
その景色に見とれながら、ブーンは渚本介に付いて丘を登っていた。
疲れが吹き飛ぶほどの景観だ。
緑が茂る山に、遠くに浮かぶ水平線。
そして、二人が歩く先にそびえる大きな城。
夕暮れの近い時刻ということもあって、そこはとても心地良い場所だった。
涼しい風が、二人の体を撫でていく。
(*^ω^)「すごく良いところですお…こんなところに城を建てるなんて、二茶根瑠家も贅沢なもんですお」
(´・ω・`)「ははは、そうだな」
259
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:31:29 ID:VuIUXoJAO
その心地良さに半ば酔っていたブーン。
しかし、根十城のすぐ手前まで来ると、その軽々しい気分は一気に重く落ちた。
かつて訪れたことのある二子堂城とは比べものにならないほど、根十城の威圧感はとてつもなかったのた。
その巨大さだけじゃない。何か重苦しい空気のようなものを、ブーンは感じていた。
(´・ω・`)「…どうした?」
(;^ω^)「あ、いえ、何でもないですお」
門の辺りまで来ると門番が詰め寄ってきたが、前回のように渚本介が軽くあしらい、二人は根十城の中へと入っていった。
──
260
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:32:45 ID:VuIUXoJAO
──
( ゚д゚ )「……真か?」
(ー_ー)「はい、まごうことなく太田渚本介本人でございます。それに、妙な南蛮人を引き連れておりました」
( ゚д゚ )「用は?」
(ー_ー)「それが、二人はそれぞれ別の目的があるようで。太田渚本介は“来る天野勢に対する戦力になりたい”と。南蛮人の方は、“二茶根瑠家近習の尾付出麗に会いたい”とのことです」
( ゚д゚ )「ふむ…」
二茶根瑠領領主、二茶根瑠巳留那(みるな)。
その鋭い目を近習頭の尾付比岐(ひき)に合わせ、空気が張るほどの重く低い声を向ける。
立派な椅子に腰を下ろし、体を大きく広げるその姿は、流石は一国一城の主だと思ってしまうほどのものだ。
齢は既に初老と呼べるもだが、その風貌からみえる威圧感からは、年齢以上のものを感じさせられる。
巳留那は、渚本介とブーンが自ら居城する根十城を訪れたことを、比岐から告げられていた。
とりあえず二人に此方まで来るように指示し、小さな椅子に座る。
261
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:33:51 ID:VuIUXoJAO
待つこと数分。
巳留那の前に現れたのは、確かに“戦魔”と唱われた太田渚本介と、妙な衣を着て妙な道具を持った南蛮人、ブーンだった。
渚本介は巳留那の目の前で礼儀正しく座り、ブーンはその横でぎこちなく座りこんだ。
(;^ω^)(すっげえ威圧感だお…)
( ゚д゚ )「珍しい顔が来たものよ…戦魔、太田渚本介よ。お前の用はなんだ」
(´・ω・`)「はっ。某(それがし)、彼の天野擬古成が、近いうちに根十城に攻めるとの話を耳にしております」
(´・ω・`)「擬古成には私怨が存ずる故、某が貴勢に加わり、擬古成を討たんと考えております」
( ゚д゚ )「フ…正直な口よの」
262
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:34:50 ID:VuIUXoJAO
太田渚本介の話は聞いたことがあった。
天野擬古成に強い復讐心を抱き、その首を取る為に旅を続ける武者。
この話が本当なら、今回の渚本介の依頼も合点がいく。
巳留那は暫く黙り込んだ後、小さく頷いた。
( ゚д゚ )「余は戦功や武勲など欲さぬ。特にこの戦、天野勢に城を落とされさえなければ、それで良いと思っておる」
(´・ω・`)「……」
( ゚д゚ )「擬古成のことは好きにしろ。但し我軍を惑わすようなことは決して許さぬ」
(´・ω・`)「はっ。有り難うございます」
( ゚д゚ )「…して、そこの南蛮人」
263
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:36:02 ID:VuIUXoJAO
(;^ω^)「え、はお、は、はいお」
巳留那と渚本介のやりとりを生唾を飲んで見ていたブーンは、急に呼ばれたことに大きく驚いた。
そんなブーンの様子を気にかけることなく、巳留那が続ける。
( ゚д゚ )「余の近習、尾付家の者に会いたいとな?」
(;^ω^)「は、はっ、そうでごぜえます」
(;´・ω・`)(ごぜえますってお前…)
( ゚д゚ )「ふむ、理由は何だ」
(;^ω^)「は、えと、こないだ尾付出麗さんの、こ、琴爪を拾ったんですお。そそそれを渡そうと思って」
( ゚д゚ )「琴爪か…」
264
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:37:32 ID:VuIUXoJAO
ブーンの言っていることに嘘は無い。
拾った琴爪を出麗に渡し、元の時代へ帰るヒントが欲しい、というのがブーンの本音だった。
たかが近習を務める娘に会うだけだ。簡単に許可は下るはず。
しかし、巳留那の発した言葉は、ブーンにも渚本介にも予想外なものだった。
( ゚д゚ )「……比岐よ」
(ー_ー)「はっ」
( ゚д゚ )「この南蛮人を捕らえよ」
(ー_ー)「御意」
(;´・ω・`)「!!」
巳留那の命で、比岐が屈強な男二人を呼んだ。
その二人がブーンの後ろに回り、腕を胴ごと縛り始める。
(;^ω^)「えっ?え?」
(;´・ω・`)「なっ、待たれよ巳留那殿!何故に!」
265
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:38:40 ID:VuIUXoJAO
室外に連れていかれそうになるブーンを見て、思わず立ち上がって声を張り上げる渚本介。
それを見ながら、巳留那が落ち着いた様子で口を開く。
( ゚д゚ )「我が二茶根瑠家近習、尾付の者は滅多に城外に出ぬ。ましてやその娘の出麗は琴を嗜む女子故、全く外に出ぬのだ」
( ゚д゚ )「その娘の琴爪を持っているなど、盗人でもない限り考えられぬ」
(;´・ω・`)「なれば盗人が立ち入ることも出来ぬはず!どうかお考え直しを!」
( ゚д゚ )「ふん、もうよい。行け」
(ー_ー)「はっ」
(;´・ω・`)「巳留那殿…!!」
(;^ω^)「えっ、嘘、嫌だお、死にたくないお!!渚本介さん!」
266
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:39:58 ID:VuIUXoJAO
二人の男に腕を抱えられ、引きずられるように遠ざかるブーン。
助けてくれ、という強い思いだけを込めて、渚本介の名を何度も呼び続ける。
(;´・ω・`)「ブーン!……ッ!」
しかし、ブーンにあまり構っていると、自分も疑われかねない。
ブーンの姿が見えなくなるのを、渚本介は黙って見ている他なかった。
(;´・ω・`)「……」
( ゚д゚ )「本当はお前も疑い、引っ立てるべきだ。しかし戦が近い。そのような暇があれば、兵どもの士気を上げるよう努めよう」
吐き捨てるように言うと、巳留那はおもむろに立ち上がって客間を出た。
全くの予想外の出来事に、途方に暮れる渚本介。
外界は夜を迎えようとしていた。
──
267
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:41:26 ID:VuIUXoJAO
──
( ;ω;)「し、死にたくな、ないお、渚本介さん…」
根十城地下牢。
窓も灯りもなく、布団の代わりだとでも言わんばかりに積み重なる藁があるだけの部屋。
人生で一度も入ることはないだろうと思っていた牢屋に、ブーンは放り込まれていた。
ギターなどの荷物を没収されたブーンは、その暗い部屋で恐怖のあまりに涙を流してした。
盗みの罪が疑われているのだ。下手をすれば死んでしまう。
それだけは何が何でも嫌だった。
この時代に飛ばされて何日何ヶ月が経ったのかは知らないが、必ず生きて元の時代に戻ることを夢見ていたのだ。
それが今、ブーンは元の時代に戻るどころか、この時代で死刑を受けそうになっている。
涙も、全身の震えも、一向に止まろうとしなかった。
現状を考える度に、気が変になりそうだった。
268
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:42:23 ID:VuIUXoJAO
不安なのは、それだけじゃなかった。
この時代に飛ばされてから、いつも側に居てくれた男が、そこにいない。
( ;ω;)「ヒック…お腹、空いたお…」
( ;ω;)「しょ、渚本介さん……」
お腹が空いたと漏らす度に、笑って飯の時間だと言ってくれた渚本介。
まさかこんな別れ方をするとは思っていなかった。
ブーンを相棒と呼んでくれた彼の男は、もう、仲間ではないのだ。
盗人と兵が、共存していいはずがないのだから。
──
269
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:44:15 ID:VuIUXoJAO
──
根十城内部に小さく設けられた兵士宿舎。
大勢の兵が火を囲んで談笑する広間で、渚本介は一人、寝転びながら夜空を眺めていた。
(´・ω・`)「……」
眠れるものなら今すぐにでも眠ってしまいたいが、目を閉じる度に色々な考えが脳裏をよぎる。
再びまみえることになる天野擬古成のこと。この戦が終わってから、その後のこと。
そして、幽閉されているブーンのこと。
(´・ω・`)(戦が終わるまで、死刑を執行するはずが無いか…)
ブーンを助けるのは、戦が終わってからでも大丈夫だろう。
巳留那とうまく掛け合えば、釈放も充分有り得るはずだ。
270
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:45:16 ID:VuIUXoJAO
気がかりなのは、この戦だ。
天野勢は必ず近いうちに城を攻めてくる。
下手をすれば今すぐにでもだ。
擬古成はそういった夜襲、奇襲を好む。
スムーズに戦を運び、時間をかけることなく勝利を収める男である。
もっと警戒するべきだ。
しかし、兵士達はすっかり日常の気分に入っている。今から士気を上げようなんて無理な話だ。
(´・ω・`)「……」
よく考えてみると、やっぱり今日はそこまで警戒する必要は無いのかもしれない。
昼間に根十城を訪れたとき、一軍がやってくる気配はまるで無かったからだ。
今晩くらいは、重い警戒はしなくていいのかもしれない。
渚本介は一つ深呼吸すると、再び夜空を眺め始めた。
──
271
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:46:19 ID:VuIUXoJAO
──
夜もすっかり更けた頃。
時間の感覚を感じられない地下牢では、ブーンが一人、藁の上に横たわっていた。
( ´ω`)「…マジでお腹空いてきたお……」
どちらかと言えばよく食べる方だったブーン。
昼から何も食べていないことを思い出し、腹の虫が鳴くのを聞きながら、ブーンはただ横たわっていた。
暫くそのまま横になっていると、地下牢の奥から、何やら話し声が聞こえてきた。
一組の男女が言い争っているようだ。
急に好奇心が湧いてきたブーン。
牢屋の入り口に近づき、耳を傾ける。
272
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:47:40 ID:VuIUXoJAO
「出麗様!ああ、もはや何と申し上げれば良いのやら…」
「いいじゃないの顔見るくらい!ほら通しなさい!」
( ^ω^)(出麗様…?)
かなり聞き覚えのある名前が、ブーンの耳に飛び込んできた。
そう、ブーンが何故か琴爪を持ち、探していた女性、尾付出麗。
どうやら、その出麗が看守の男と揉めているようだ。それも、恐らくブーンに会う為に。
(*^ω^)(こりゃラッキーだお!)
元の時代に戻るヒントを得る為の、願ってもないチャンスだ。
どうにかして此処まで来れないか。ブーンは心の中で祈りながら、再びその押し問答に耳を傾けた。
273
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:48:56 ID:VuIUXoJAO
「いいから通しなさいよ!」
「なりません!ほら、もうお戻りになってください!比岐様に察されたら、何を言われるやら」
「…仕方ないわね」
(;^ω^)(おいおいおいもっと頑張ってくれお!)
「ふう…さ、私も付いて行きますから。もう戻りましょう」
「そうね……」
ブーンの祈りも虚しく、二人の声は遠ざかっていく。
ブーンは思わず格子にしがみついた。
(;^ω^)(おーい!行くなお!おーい!!)
「…って行くわけねーだろハゲ!!」
「うごっ!?」
(;^ω^)「えっ」
途端、何やら布を思いきり蹴り上げるような音が、ブーンの耳に聞こえてきた。
恐らく、いや間違いなく蹴り上げたのだろう。看守の声はもはや聞こえない。ご愁傷様です。
274
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:49:55 ID:VuIUXoJAO
(;^ω^)(うんまあ…結果オーライだお)
心の中で手を合わせ、ブーンは格子から手を離した。
その直後、ブーンの目の前に、先ほどの声の主──出麗が現れた。
ζ(゚ー゚*ζ
それはまるで人形のような、綺麗な少女だった。
背は低いが体の線が細く、何より肌の色が透き通るように白い。
出麗はブーンを見て、その整った目を丸めると、吐き出すように呟いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ブスね」
( ^ω^)
275
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:50:53 ID:VuIUXoJAO
ζ(゚ー゚*ζ「何?南蛮の男は皆たくましいって聞いたわよ?何お前そのブッサイクな面」
( ^ω^)
ζ(゚ー゚*ζ「なんか力無さそうだし頭悪そう、マヌケ面」
ζ(゚ー゚*ζ「てゆうかお前何の武器も持ってなかったらしいじゃない。男失格ねこのクズ」
ζ(゚ー゚*ζ「せめて筋肉くらい…」
( ^ω^)「すみませんもうやめてください。僕泣きそうなんで。割とマジで」
ζ(゚ー゚*ζ「あっそ」
久しぶりに浴びた女子の罵声。
心の弱いブーンは何もかもが嫌になった。何故かお母さんに会いたくなった。
ζ(゚ー゚*ζ「それで、アンタが私の琴爪を拾ったんだって?」
(;^ω^)「あ…そうですお、決して盗んではないですお!」
276
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:51:59 ID:VuIUXoJAO
盗人の疑いがかけられていたことを、急に思い出したブーン。
慌てふためくブーンに、出麗が見下した目を向ける。
ζ(゚ー゚*ζ「うるさいわよ。アンタが盗んでないことくらいわかってる。アンタみたいなブス見たことないし」
(;^ω^)「あ、良かった…」
どうやら死刑は免れたようだ。
無意識に胸を撫で下ろし、安堵のため息をついた。
ζ(゚ー゚*ζ「そんなことより、アンタ琴爪をどこで拾ったの?」
(;^ω^)「へ?あ、えと…す、須貝付の町で商人が落としたのを拾ったんですお」
277
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:54:20 ID:VuIUXoJAO
嘘をつくのが苦手なブーン。
出麗が疑うように見てきたが「ま、いいわ」と流してくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうだ。今ちょっと鍵を開けるわね」
(;^ω^)「え?なんでですかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「勘違いしないでよね。アンタに渡したいものがあるだけなんだから」
( ^ω^)「渡したいもの?」
ζ(゚ー゚*ζ「私もね、琴を嗜む身だからわかるの」
呟くように話しながら、鍵を開ける出麗。
開いた扉の中に躊躇いなく入りこみ、ブーンに大きな荷袋を渡した。
中には、ブーンのギターが綺麗に収まっていた。
(*^ω^)「ギターだお!」
ζ(゚ー゚*ζ「ふーん、ぎたーっていうんだそれ」
(*^ω^)「はいですお、ありがとうございますお!」
278
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:55:13 ID:VuIUXoJAO
ζ(゚ー゚*ζ「見たことない形だけど、楽器だというのはわかった。それに、随分とそれを愛しているのもね」
(*^ω^)「そうですかお…」
ギターが戻ってきた喜びに、嬉しさを隠せないブーン。
よく見ると、きちんとピックも挟まっている。
何度も感謝の言葉を伝えながら小さくはしゃぐブーンに、出麗が微笑みながら口を開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、そのぎたー、弾いてみてよ」
(;^ω^)「…え?」
ζ(゚ー゚*ζ「だーかーらっ、弾いてみなさいって言ってるの、それ」
まるで最初に渚本介と会ったときのような状況に、少し戸惑ったブーン。
しかし、すぐに冷静になってギターを構えた。
279
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:56:12 ID:VuIUXoJAO
( ^ω^)「行きますお」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ブーンの前に立ったまま、黙って頷く出麗。
暗く静かな空間に、ギターの音色が響き始めた。
曲はリーチェの「ogiyodiora」のソロギター。
不安を煽る暗い空間に、優しく光る旋律が響いていく。
ζ(゚ー゚*ζ「……」
先程とは打って変わって、何も声を出さない出麗。
ブーンの演奏を、ただ静かに聴き続ける。
やがて、ブーンの演奏が、ゆっくりと終わっていった。
280
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:57:20 ID:VuIUXoJAO
( ^ω^)「……終わりですお」
ギターから手を離し、出麗の方に目を向ける。
そこには、ぽかんと口を開いたままの出麗の顔があった。
ζ(゚ー゚;ζ「…ちょっとアンタ」
(;^ω^)「何ですかお」
ζ(゚ー゚;ζ「アンタ凄いじゃない…他人の演奏にこんなに聴き入ったのは初めてよ」
(;^ω^)「あ、はい…恐縮ですお」
出麗はブーンの演奏を聴いて、感動のような驚きのようなものを受けたらしかった。
また何やら感想を言おうと口を開く。
しかし、その声はすぐに掻き消された。
城内に大きく鳴り響く、鐘の音によって。
281
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:58:47 ID:VuIUXoJAO
カン、カン、と音は大きく鳴り続ける。
暫くもしない内に、城内がやけに騒がしくなった。
ζ(゚ー゚;ζ「え!?何これ!?」
(;^ω^)「ヤバいですお出麗さん!早く逃げなきゃ!」
この音には覚えがあった。
そう、かつて二子堂城が落とされた時。
夜襲を知らせる合図として、城内を鐘の音が鳴り響いたのだ。
今もこの根十城に鐘が鳴り響いている。
そこから導き出せる答えは一つ。
(;^ω^)「夜襲ですお!!天野勢が攻めてきたんですお!」
ζ(゚ー゚;ζ「そんな…!」
(;^ω^)「いいから早く逃げますお!」
ギターを背負い、出麗の手首を掴んで牢屋を飛び出したブーン。
城内は鐘以上に大勢の怒号が響き渡っていた。
──
282
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:59:49 ID:VuIUXoJAO
──
(;´・ω・`)「やはり夜襲か…擬古成め」
最悪の事態が起きた。
根十城に集まった約五千の二茶根瑠勢は、全くと言っていいほど戦の心準備ができていなかったのだ。
混乱状態の中、なんとか城内上部に弓隊が、城外にまずは一番槍隊が着いた。
城内合戦に備え、城内で待機する渚本介と兵達。
やがて、城の向こうから、大勢が地面を踏み走ってくる音が聞こえてきた。
(;´・ω・`)(大軍か…)
地鳴りのようなその音に、二茶根瑠勢の兵達は身を固める。
283
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 02:01:40 ID:VuIUXoJAO
月明かりに照らされる、小高い丘の下。
弓隊と一番槍隊の視界に、大軍の天野勢が映ってきた。
大軍が来たぞ、と誰かが叫ぶ。
兵達の身が、緊張で更に引き締まる。
根十城に、約五千の兵を持つ二茶根瑠勢。
それを攻めるは、天野勢、全隊にして約一万五千。
後の歴史を揺るがす城攻めの戦が、今、始まろうとしていた。
第八話 終
284
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 02:03:47 ID:VuIUXoJAO
今回の投下は以上です。
次からは投下の時間帯に気をつけます…あと投下予告もw
285
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 06:04:27 ID:bWCcjkbkO
乙乙
面白い
286
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 07:49:30 ID:SZYpBPvg0
乙
ギコェ……
287
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 08:37:01 ID:V9qrWYxg0
乙
すげぇワクワクする
288
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 14:16:45 ID:0jWVAm.kO
勝手に代理
http://www.youtube.com/watch?v=QnVMB_oQSHY
これで良いのかな
289
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 20:30:30 ID:tAgIqnUI0
デレの性格…wwwww
いや、ご褒美か
290
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/24(木) 13:13:38 ID:BeYQqW8k0
乙
続き気になる
291
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:13:05 ID:MY5i2l3gO
皆さんコメントありがとうございます!
そして曲紹介ありがとうございます!
つい今、続きが出来上がって、早く投下したいので
今回は予告なしで投下させてください、フヒヒ
292
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:14:39 ID:MY5i2l3gO
***
第九話 「戦には獣」
***
徐々に近づいてくる地鳴り、怒号。
そして殺気。
何の準備も出来なかった二茶根瑠勢に、天野勢が獣の如く向かってくる。
(;`゚∽゚)「臆するでない!一番槍隊、密集せよ!!盾の用意だ!」
浮き足立つ兵達に、何とか統率を計る将。
この男の信頼がよほど高いのか。兵達の目が、ようやく戦のそれに変わった。
(#`゚∽゚)「我ら泉槍衆は最強の前衛部隊!!天野のうつけ共を、いざ蹴散らさん!!」
293
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:15:53 ID:MY5i2l3gO
根十城の前で構える泉槍衆を統率する男──泉は、自らは一番隊の後ろに付き、前方を睨みながら叫び続けた。
その視線の先には、鬼の如く駈けてくる天野勢の槍騎兵隊、およそ千。
(#`゚∽゚)「蛮族よ!前方を揃えただけの陣で、我らにかかる気か!」
兵力戦では、兵の数が勝敗を決定的にしてしまう。
泉が見る限り、天野の軍は特にこれといった陣形はとっておらず、兵の数で押してくるようだった。
しかし、泉率いる槍隊はこういった兵数の差には慣れていた。
というのも、もともと百人程度の槍隊を更に五番隊まで分けていたので、常に少人数で戦ってきた経験があるのだ。
今回も相手が兵数で押してくるに違いない。泉槍衆が最も得意とする形だ。
敵の槍騎兵隊は、真っ直ぐ此方に向かって突進してきた。
(#`゚∽゚)「──え?」
はずだった。
294
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:16:44 ID:MY5i2l3gO
「分かれェェェイ!!!」
(;`゚∽゚)「!?」
途端、目の前で天野勢の槍騎兵隊が二方向に分かれた。
挟み撃ちをするわけでもなく、分かれた部隊はそのまま城を回るように、見当違いの方へ駈けていく。
上の弓隊もこれは予想外だったらしく、第一射だけで攻撃を一旦止めた。
(;`゚∽゚)「どういうつもりだ…!?」
目の前の敵が取る不可解な行動に、暫し困惑する泉。
しかし、天野勢の取るその行動の意味を理解するのに、さほど時間はかからなかった。
(;`゚∽゚)「しまった……弓隊下がれェェ!!!」
295
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:17:55 ID:MY5i2l3gO
しかし、もう手遅れだった。
天野の槍騎兵隊が二手に分かれ、その後方が完全に見えたその時。
耳をつんざくような爆音が、辺りに響いた。
(;`゚∽゚)「クソったれ!!鉄砲隊か!」
そう、その後ろに構えていたのは、強大な攻撃力を誇る天野の鉄砲軍団。
この鉄砲隊をなるべく城に近付ける為に、天野勢は槍騎兵隊でフェイクをかけたのだ。
そして、その鉄砲隊が弾を放った先は、城内上部の弓隊。
城に敵を近寄らせない為の弓隊は、いとも簡単に壊滅した。
296
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:18:52 ID:MY5i2l3gO
そして、更なる悲劇が泉槍衆を襲う。
(;`゚∽゚)「泉槍衆全隊!一番槍隊の周りにつけ!!」
敵の策略がわかってしまった泉は、焦りに焦った。
時間がない。早く陣形を整えなければ──
(;`゚∽゚)「我ら泉槍衆が…こんな…」
否、もう体勢を立て直すまでもなかった。
泉槍衆の全隊、百人の兵達は、あっという間に天野の槍騎兵隊に吹き飛ばされていった。
そう、最初に槍騎兵隊を二手に分かれさせたのは、単なるフェイクではなかった。
二手に分かれた後は、鉄砲隊が弓隊を撃墜している間に城を外周し、今度はそのまま泉槍衆を挟み撃ちに行ったのだ。
合戦開始、僅か数十分。
根十城の外守りは、いともあっさり破られた。
──
297
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:20:11 ID:MY5i2l3gO
──
二茶根瑠勢が信頼を置いていた泉槍衆が、粘る間もなく全滅してしまった。それも弓隊ごとだ。
他の隊を出そうにも、もう遅い。
すぐに根十城内部に天野勢が進入し、乱戦が巻き起こった。
(;´・ω・`)「くっ…!」
根十城内部に待機していた渚本介も、乱戦に巻き込まれた一人だった。
襲ってくる槍や刀をかわし、止め、反撃を繰り返す。
(;´・ω・`)(キリがない…)
正直なことを言うと、もう根十城は陥落すると見ていた。
大した策も出来ないうちに、ただ大軍に押し寄せられる。
それだけでも、勝敗はもう決まったようなものだった。
298
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:21:29 ID:MY5i2l3gO
(;´・ω・`)(…仕方ない)
途端、渚本介は踵を返し、馬小屋の方へと走り出した。
渚本介と刃を合わせていた何人かが追いかけてきたが、すぐに乱戦に巻き込まれていった。
途中で敵を何度も斬り伏せながら、全力で走り続ける渚本介。
暫く走ると、ようやく兵士宿舎に辿り着いた。
このあたりには誰もいないようだ。
宿舎から長刀を取り、隣接する馬小屋で適当な馬に跨る。
馬に乗った渚本介は、そのまま元来た道を戻るように走り出した。
狙いは、城外に待機しているであろう天野勢の本隊。
299
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:22:24 ID:MY5i2l3gO
(´・ω・`)「ハッ!」
虎恍丸を鞘に戻し、長刀を構えながら、城内を馬で駈けていく。
渚本介の姿を見た味方は驚いて身を引き、敵は刃を向けてきた。
長刀を両手に構え、まずは数の多い槍を払う。
(#´・ω・`)「ふんッ!!」
渚本介の払った一刀は、槍を向けていた五人の敵兵を一気に吹き飛ばした。
渚本介の存在と、馬上刀の予想外の力に、思わず固まる敵兵達。
恐怖の色が見えた天野勢を、渚本介が止まることなく長刀で斬り倒していく。
その姿に勇気付けられたのか。
乱戦に疲れ始めていた二茶根瑠勢の兵達は、新たに雄叫びを上げながら、渚本介の後に続くように敵軍に攻めていった。
──
300
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:23:49 ID:MY5i2l3gO
──
城外に待機する天野軍本隊。
そこに、一人の伝令が慌てた様子で走り込んできた。
(;・*・)「も、申し上げます!!」
伝令が膝を付いた先、そこには天野勢の大将が落ち着いた様子で馬に跨っている。
(,,゚Д゚)「…何だ」
"剛拳"こと、天野擬古成。
斬馬刀を背負い、足下の伝令を睨む姿は、周りの兵達も息を飲むほどだ。
伝令は顔を伏せたまま、大声で用件を言い始めた。
301
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:25:01 ID:MY5i2l3gO
(;・*・)「はっ!根十城内部、我が軍は未だ一階に留まり候!」
(,,゚Д゚)「…なんだと?」
(;・*・)「乱戦の中、一騎の兵が我が軍を混乱に陥れている様子!」
(,,゚Д゚)「一騎?一体誰だそいつは」
(;・*・)「はっ!恐らくは、彼の太田渚本介でございます!」
(,,゚Д゚)「!!」
伝令の話が終わり、重苦しい空気が流れる。
擬古成は少し考えるように地面を睨むと、そのまま口を開いた。
(,,゚Д゚)「…奴は恐らく本隊を目掛けている。乱戦を突破するくらい、奴には容易いはずだ」
(,,゚Д゚)「奴が本隊にやってくる前に、俺らは城内に入ったほうがいいな。その方が簡単に二茶根瑠巳留那の首も取れよう」
302
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:25:54 ID:MY5i2l3gO
擬古成は一旦話を止めると、横に並ぶ大男に目を向けた。
(,,゚Д゚)「狗久流(くくる)よ。俺らが根十城に入る為に、彼の"戦魔"の足止めを頼みたい」
( ゚∋゚)「御意に」
狗久流と呼ばれた大男は、低く唸るような声で擬古成に返した。
狗久流は他の兵達よりも頭二つ分ほど背が高く、その体躯は野獣のように大きい。
巨大な甲冑を身につけるその姿は、まさに"鬼"の様である。
擬古成が狗久流に頷き、いざ走り出そうとした途端。
何やら、城門のほうが騒がしくなってきた。
303
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:27:11 ID:MY5i2l3gO
何事だ、と聞くまでもなかった。
城門のあたりを騒がせている原因は、すぐに擬古成の視界に飛び込んできたからだ。
(#´・ω・`)「ハァッ!!」
(,,゚Д゚)「戦魔…!」
馬上にて長刀を振り回し、天野勢をことごとく蹴散らしている。
まさに魔物のような戦いぶり。"戦魔"の名に相応しく、渚本介が本隊を目掛けながら天野の兵を斬り伏せていく。
(#´・ω・`)「擬古成!!」
(,,゚Д゚)「ムッ…!」
とうとう城門の包囲網を切り抜け、本隊に一気に向かってきた渚本介。
その中心にいる擬古成を睨みながら、更に怒号を上げる。
304
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:29:34 ID:MY5i2l3gO
(#´・ω・`)「出あえッ!!この太田渚本介、今度こそ貴様の首を頂戴する!」
( ゚∋゚)「そうはいかぬ」
(#´・ω・`)「!!」
本隊に切り込む直前。
渚本介と本隊の間に、見覚えのある大男が入り込んできた。
(;´・ω・`)(アイツは…)
(#゚∋゚)「せいやァッ!!」
渚本介の前に立ちはだかった大男、狗久流。
両手に握った武器を、渚本介の乗る馬を目掛けて薙ぎ払う。
305
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:30:23 ID:MY5i2l3gO
(;´・ω・`)「!?」
何の武器かはよく見えなかった。
しかし、危険を察知した渚本介は、狗久流の攻撃が馬を捕らえる前に飛び降りた。
直後、渚本介の乗っていた馬が、十メートル近く吹き飛ばされた。
(;´・ω・`)「なっ…!」
( ゚∋゚)「ふん、勘は鋭いようだな」
信じられない光景だった。
人間五人分の重さと言われる馬を、たった一撃で軽々しく吹き飛ばしたのだ。
何が起こったんだ、と相手の武器を見る。
大男の握る武器は、長槍の柄に斧を引っ付けたような、巨大な戦斧だった。
306
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:31:48 ID:MY5i2l3gO
(´・ω・`)「…そうか、思い出したぞ」
( ゚∋゚)「……」
見覚えのある姿に、見覚えのある特殊な戦斧。
渚本介は記憶を辿りながら、話を続けた。
(´・ω・`)「天野家家臣、堂土狗久流。未だ擬古成の腰巾着を務めているとはな」
( ゚∋゚)「ぬかせ。貴様のような不浄者、我が戦斧の餌食にしてくれん」
( ゚∋゚)「擬古成様!今のうちに根十城へ!」
(,,゚Д゚)「ああ」
(;´・ω・`)「!!」
しまった、と狗久流から目を離す。
しかし、擬古成率いる本隊は、既に根十城へと走り出していた。
307
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:32:52 ID:MY5i2l3gO
(´・ω・`)「チッ……」
どうやら、擬古成を討つにはまず狗久流を倒さねばならないようだ。
長刀を投げ捨て、虎恍丸をゆっくりと抜く。
対する狗久流も、両手に構えた戦斧を渚本介に向ける。
( ゚∋゚)「これも武功の為。擬古成様を喜ばせる為……堂土狗久流、参る!」
(#゚∋゚)「せいッ!!」
(´・ω・`)「!!」
腰を低く落とし、戦斧を横に払う狗久流。
あまりにもリーチの長いその攻撃を、更に低い姿勢でかわす。
(´・ω・`)(…今だ!)
長い武器を振った後は、必ず大きな隙ができる。
それを狙って一気に飛び込む渚本介。
しかしその攻撃を読んでいたかのように、狗久流が戦斧を短く持ち、柄の部分を振り回してきた。
308
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:33:57 ID:MY5i2l3gO
(;´・ω・`)「くっ…」
その攻撃を虎恍丸の刃で止める渚本介。
しかし、その一撃のあまりの強さに、バランスを崩してしまった。
(#゚∋゚)「でいっ!!」
(;´・ω・`)「!!」
この好機を見逃すまいと、戦斧の返し手が渚本介に迫る。
咄嗟に飛び上がり、その一振りを避ける。
そのまま上段から虎恍丸を振り下ろすも、戦斧の柄に防御されてしまった。
(´・ω・`)(クソっ…)
(#゚∋゚)「隙ありィッ!!」
(;´・ω・`)「!?」
速い。
あまりにも速い狗久流の四振目が、渚本介の胴に迫る。
309
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:35:03 ID:MY5i2l3gO
なんとか虎恍丸をその攻撃に合わせ、防御することができた。
しかし。
(;´・ω・`)「がはッ…!!」
( ゚∋゚)「フン」
虎恍丸越しとはいえ、馬を吹き飛ばす程の攻撃を受けてしまった渚本介。
体は勢い良く弾かれ、先程の馬以上に飛ばされてしまった。
よろよろと立ち上がり、涼しい顔で近づいてくる狗久流を睨みながら、虎恍丸を構え直す。
(;´・ω・`)(堂土狗久流…まさかここまでとは…)
( ゚∋゚)「どうした"戦魔"。口ほどにもなし」
(;´・ω・`)「……」
あれほど柄の長い戦斧を簡単に操り、近付きすらさせない技術。
どうすれば勝てるのか、とにかく思案を巡らせる。
310
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:36:30 ID:MY5i2l3gO
ふと、渚本介は自らの足元に何か武器が落ちていることに気付いた。
長刀だ。先程渚本介が投げ捨てた長刀が転がっている。
(´・ω・`)(…なるほどな)
一つ不敵な笑みを見せ、その長刀を拾い上げる。
虎恍丸をしまって長刀を構えると、渚本介は自信の籠もった声を狗久流に向けた。
(´・ω・`)「わかったぞ、貴様を倒す術が」
( ゚∋゚)「ふん、刀が長刀になったくらいで何が変わるというのだ。…さあ、行くぞ!」
311
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:37:38 ID:MY5i2l3gO
先程と同じように、まずは狗久流がそのリーチを生かして戦斧を降ってきた。
渚本介もまたも低い姿勢でかわし、同じように狗久流に飛び込んでいく。
(#゚∋゚)「何度同じ手を使おうと、俺には効かぬ!」
今度はすぐに狗久流が返し手の攻撃を向ける。
渚本介は、またもその攻撃を飛び越え、上段から長刀を振り下ろしてきた。
(#゚∋゚)「効かぬと言っとろうが!!」
先程と同じように、柄を上に向けて防ごうとする狗久流。
しかし、そこに渚本介の姿は無かった。
持ち主のいなくなった長刀だけが、落ち際にコツンと戦斧の柄に触れた。
312
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:39:34 ID:MY5i2l3gO
(;゚∋゚)「──え?」
(´・ω・`)「手強かったぞ、堂土狗久流」
狗久流の理解が追いつかないうちに、低い位置にいた渚本介の虎恍丸が、狗久流の腹を切り裂いた。
膝をつき、戦斧を落とし、震える声で狗久流が尋ねる。
(;゚∋゚)「な…何をした…貴様……」
(´・ω・`)「"形"が欲しかったのだ。その戦斧が追いつかないほどの、絶対的な隙の形が」
(;゚∋゚)「…形……?」
(; ∋ )「……そうか…そういうことか…」
313
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:41:11 ID:MY5i2l3gO
その場に崩れ落ちながら、狗久流はようやく理解できた。
渚本介の言う"形"とは、狗久流の戦斧の"位置"のことなのだ。
長い戦斧を操るのが人一倍上手い狗久流だ。360度、ほぼどの位置にいても攻撃を喰らってしまう。
しかし、一瞬だけなら、全く攻撃を喰らうことのない条件があった。
それは、「戦斧の位置が横向きに、かつ上段にある場合」だ。
これならばたとえ狗久流でさえも素早い攻撃が出来ない。
これが渚本介の言う"形"の正体なのだ。
渚本介はこの"形"を作らせる為に、狗久流に飛び込み、上段から長刀で攻撃すると見せかけた。
その防御の為に、狗久流は前述した"形"を作らざるを得ない。
狗久流が戦斧をその"形"に構えた時点で、渚本介は長刀を手放し、懐に飛び込み、虎恍丸の居合いを合わせたというわけだ。
314
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:42:06 ID:MY5i2l3gO
(; ∋ )「…フ……戦魔の名の通りの実力よ……俺の負けだ…」
(´・ω・`)「……」
(; ∋ )「さあ行け……俺に勝っ…た……から……に…は………」
(´・ω・`)「…ああ、わかってる」
虎恍丸を鞘に戻し、冷たくなった狗久流に背を向け、渚本介は根十城へと走り出した。
もう体は疲れきっているが、それでも走らなければならない。
擬古成を討つ為に。そして、ブーンを救う為に。
──
315
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:43:33 ID:MY5i2l3gO
──
(;^ω^)「早く上るお!」
ζ(゚ー゚;ζ「ま、待ってよ、ハァ、ハァ…」
根十城最上階、大広間。
長い階段を上りきり、ブーンと出麗の二人は巳留那のもとへ向かっていた。
脱出する前に既に天野勢が来ていたので、脱出は諦め、まずは城主の安全を確保しようと考えたのだ。
大広間の奥に玉座がある。
この緊急事態に巳留那が玉座にいるとは思わなかったが、とにかく冷静な思考が出来ないので、ブーンは出麗の手首を引っ張りながら走っていた。
316
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:44:42 ID:MY5i2l3gO
乱暴に玉座への襖を開ける。
そこには、意外にも巳留那が落ち着いた様子で座っていた。
( ゚д゚ )「…無礼者が、何しに来た」
(;^ω^)「巳留那様を連れて逃げる為ですお!てか何で悠々と座ってるんですかお!!」
( ゚д゚ )「勝てぬ戦に慌てる必要などない」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
(;^ω^)「勝つか負けるかなんて終わってみなければわからないですお!」
ブーンの剣幕に、全く引く様子のない巳留那。
暫くブーンの方を見ると、目を伏せながら、溜め息を一つ吐いた。
( ゚д゚ )「残念だが、結果がわかってる場合というのもある」
(;^ω^)「ああもう!だから…」
( ゚д゚ )「なれば」
317
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:47:25 ID:MY5i2l3gO
少し声を上げ、ブーンを差し止める。
巳留那は視線をブーンの少し後ろに向け、顎で指した。
( ゚д゚ )「なれば、アレをどう説明する」
( ^ω^)「アレ?」
ゆっくりと振り返る。
途端、ブーンは危うく腰を抜かしそうになった。
(,,゚Д゚)「そいつの言う通りだ南蛮人。抗えない勝敗というのは、確かに在る」
天野擬古成。ブーンにとっては悪魔のような男が、そこにいた。
(;^ω^)「う、嘘だお…こんなに早く…」
(,,゚Д゚)「悪ぃが、俺はせっかちでね」
背中に掛かる大きな鞘から、斬馬刀を抜く擬古成。
その口元が、不気味に歪んだ。
(,,゚Д゚)「全員、死んでもらうぜ」
第九話 終
318
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:48:35 ID:MY5i2l3gO
今回の投下は以上です!
はい!
319
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/24(木) 22:48:48 ID:Xk8ITH9s0
乙ぅ
やばいな、ギターで解決できるのか
320
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/24(木) 23:37:11 ID:aGrAAR1I0
きてたー、乙! 続きが気になりすぎる
321
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/25(金) 13:08:27 ID:QN0gIVa20
乙
思わず手に汗握った
322
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/27(日) 23:04:37 ID:vluT4a/oO
コメントありがとうございます!
それでは第十話を投下しますん
323
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/27(日) 23:06:50 ID:vluT4a/oO
***
第十話 「戦の道は死境の道」
***
根十城城門付近。
天野勢はもう全隊が根十城に進入してしまった為、ここには無数の死体が転がっているのみだ。
しかし、その奥からは大勢の怒号と刃を交える音が聞こえる。
内部がやけに明るく見えるのは、城内の所々に火の手が上がっている為だろう。
堂土狗久流を倒し、城門まで走り戻った渚本介。
馬でもあれば、と辺りを見渡すが、生きてる者の姿は無い。
(;´・ω・`)(地下牢か…)
とりあえず、ブーンがいる可能性が高いのは地下牢だ。
天野勢に捕まる前に、地下牢からブーンを助け出す必要がある。
324
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/27(日) 23:08:11 ID:vluT4a/oO
地下牢の場所はあやふやだが、とりあえず建物内にあるのは確かだ。
誰か味方に遭遇すれば、そいつに聞けばいい。
渚本介は疲れを訴える足に鞭を打ち、根十城内部へと走り出した。
(;´・ω・`)(待ってろブーン…)
ブーンを必ず助け出す。願わくば、ブーンが元の時代へ戻る為、尾付出麗と共に。
擬古成を逃してしまった先程の失態を、悔やんでいないわけではない。
しかし、擬古成を討つのは後でもいい。
肺が痛い。足が重い。
それでも渚本介は走り続ける。
乱戦となった、根十城の中心へと。
──
325
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/27(日) 23:10:04 ID:vluT4a/oO
──
(;^ω^)「出麗さん、僕の後ろに隠れるお!」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はい!」
( ゚д゚ )「……」
根十城大広間。
ブーンは絶望感に浸りそうになるのを堪え、出麗を庇うように立ちはだかった。
そのすぐ傍らで、既に負けを覚悟している男、城主の巳留那がじっと座っている。
あっさりと彼らを追い詰めた擬古成は、三人に向かって悠々と歩き出した。
三人が三人とも無力だと確信したからか。斬馬刀の峰を肩に乗せ、余裕を見せながら近付いてくる。
326
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/27(日) 23:12:04 ID:vluT4a/oO
(,,゚Д゚)「二茶根瑠領領主、二茶根瑠巳留那よ。俺は今よりお前を殺し、この城と領をまるまる頂く」
(,,゚Д゚)「だから最後に聞かせてくれ。この二茶根瑠領、お前にとってどういう国なんだ」
(;^ω^)「……」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
巳留那には悪いが、ブーンはほんの少しだけ安堵感を得た。
恐らく、擬古成は最初に巳留那を討ち、そのついでに自分達を殺すつもりなのだろう。
上手く行けば、隙を見て逃げ出すこともできるかもしれない。
擬古成の問いに、少し考えるように黙る巳留那。
暫く黙ると、威厳の保った低い声で、ゆっくりと返した。
( ゚д゚ )「…この国は余の全て、そのものだ。貴様如きに渡すのが惜しいほどに、余はこの国を愛しておる」
(,,゚Д゚)「ハッ、言うじゃねえか」
327
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/27(日) 23:13:18 ID:vluT4a/oO
(,,゚Д゚)「なれば、俺は貴様の全てを剥ぎ取り、蹴落とし、この国を奪う」
巳留那のすぐ手前まで歩み寄った擬古成が、斬馬刀を構える。
それでも巳留那は動じる事なく、じっと擬古成を見据える。
近くに居てはいけないと感じたブーンが、出麗と共に後退った。
(,,゚Д゚)「二茶根瑠巳留那。その首、頂戴致す」
(#ー_ー)「させるかァ!!」
(,,゚Д゚)「!」
斬馬刀を振り下ろそうとする擬古成の腕が止まった。
その一瞬後、擬古成が振り向くと同時に、小さな懐刀がその胸部目掛けて飛んできた。
反射的に斬馬刀を下向きに構え、盾のようにその懐刀を防ぐ。
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