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( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです
1
:
◆vVv3HGufzo
:2011/02/20(日) 20:10:49 ID:xjlGxIHwO
***
この作品はフィクションです
作品の団体名、人名、地名などは一切関係ございません
***
195
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:19:23 ID:IMU23ugAO
二人が黙って考えているところに、寝床の準備を終えた辺尼指が戻ってきた。
やはり本人に聞くしかない。あまり大きな声で言えない事かもと考えた渚本介が、少し身を乗り出した。
(´・ω・`)「少し答え難いことかもしれぬが…」
('、`*川「なんでしょう」
(´・ω・`)「須貝付の人間はこの家族に対して妙な態度をとっていたのだが、理由を教えてくれないか」
('、`;川「!……」
顔を伏せて黙り込む辺尼指。
マズい質問だったか、と少し後悔していると、辺尼指はぽつぽつと語り出した。
('、`*川「……私のせいなのです」
196
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:21:26 ID:IMU23ugAO
('、`*川「畜生腹、というものを御存知でしょうか」
(´・ω・`)「!」
(;^ω^)「あっ…」
聞いたことはあった。
昔の日本では、双子を産んだ女性のことを「畜生腹」と称し、忌み嫌う風習があったのだ。
それを避ける為に、双子の一方を捨てていた、なんて話も珍しくない。
「畜生腹」の風習は現代でも一部で存在しているらしい。
となると、辺尼指に何が起こったのかはある程度想像できる。
('、`*川「私はお産で足を悪くし、町の人間からはその畜生腹が原因で蔑まされてきました」
('、`*川「しかし、私の夫はそんな町の人間達にいつも反発しておりました。子を二人産んだくらいで何が悪いんだ、と」
197
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:22:50 ID:IMU23ugAO
('、`*川「しかし、夫が海難事故で死んでから、私達に対する町の人間達の扱いは更に酷くなっていきました。畜生の夫だから、海にも飲まれるんだ、って…」
('、`*川「それから私達家族は村八分にあいました。須貝付を追い出され、行くあてのなかった私達は、この廃屋に住まうことにしたのです」
(;^ω^)「……」
(´・ω・`)「……」
かける言葉が見つからなかった。
町の人間達は間違っている。いや、この習わし自体が間違っている。
しかし、どうすればいいのだろうか。
間違っているとしても、これからも町の人間達のこの家族に対する態度は、きっと変わりない。
二人が黙りこくっていると、辺尼指は笑顔を残して去っていった。
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「……」
これほどまでに寂しい笑顔を、ブーンは見たことがなかった。
──
198
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:24:25 ID:IMU23ugAO
──
夜も更けた頃。ブーンと渚本介は寝室にいながら、眠れない夜を過ごしていた。
二人共起きているのに、特に話をするわけでもない。
ただ眠れずに、この家族に起こっていることをひたすら考えていた。
この家族の為に、自分に何かできないことはないのか。
ただ天井をぼーっと眺めていると、その視界に急に双子が現れた。
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「…おい南蛮人、起きてるか?」
(;^ω^)「うわっ、なんだお急に」
(´・ω・`)「こんな夜中にまだ起きていたのか…」
( ´_ゝ`)「武士様も起きてたのか、ちょうどいいや」
(´<_` )「なあ、頼みがあるんだ」
199
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:25:34 ID:IMU23ugAO
突然現れたかと思うと、何やら頼み事を言おうとする双子。
とりあえず、黙って聞いてみることにした。
( ´_ゝ`)「南蛮人の持ってるそれ、琴っていう楽器なんだろ?琴を母ちゃんの前で弾いてほしいんだよ」
(´<_` )「母ちゃんは俺らが生まれる前から琴に憧れてたらしいんだ。だから是非弾いてくれよ」
( ^ω^)「……」
心優しい少年達だ、とブーンは思った。
ということは、昼間の双子の行動は、母親の為に刑を受ける覚悟で盗みを働いたのだろう。
疲れきった母親に、琴を聞いて元気になってもらう為に。
ただのいたずらっ子なんかじゃない。本当は、常に母親を想っている優しい子供達なのだ。
しかし、彼らは一つ大きな間違いをおかしていた。
( ^ω^)「これ琴じゃねーお」
200
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:26:53 ID:IMU23ugAO
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「……」
(;´_ゝ`)「……えっ」
(´<_`; )「なん…だと…?」
そう、これは琴ではなく、ギターなのだ。
琴を見たことのない双子にとっては当たり前の間違いかもしれないが、それにしても痛い。これは痛い。
(;´_ゝ`)「…じゃ、じゃあさ、これを琴だと言って母ちゃんに聴かせてやってくれよ!」
(´<_`; )「そうだよ!嘘でもいいから弾いてくれ!」
(;^ω^)「うんまあ…いいけど…」
('、`*川「こんな夜中にどうしたんだい」
(;´_ゝ`)(´<_`; )「!!」
('、`;川「…ってあんた達何してるの!!申し訳ございません、息子がまたも非礼を…」
(;^ω^)「ちょ、ちょっと待ってくださいお!」
201
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:28:16 ID:IMU23ugAO
急いで双子を連れ戻そうとする辺尼指を、ブーンが呼び止める。
少し驚いたように辺尼指が振り向いた。
( ^ω^)「僕は子供達に頼まれたんですお。僕の持ってるギ…琴を、辺尼指さんに聴かせてやってくれって」
('、`*川「!」
目を丸くした辺尼指が、双子の方を向いた。
双子は嬉しそうにニヤニヤしている。
('、`*川「あんた達…」
( ^ω^)「ではいきますお」
いつものように渚本介がブーンの見える位置に座り、ブーンがギターを構える。
相変わらず目を丸くしている辺尼指と、わくわくした顔を向ける双子。その真正面で、ブーンは演奏を始めた。
曲は久石譲の「summer」のギターアレンジバージョン。
ゆったりと流れる時間や思い出、そして人の優しい感情を、ギターの音色に乗せて響かせていく。
202
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:29:03 ID:IMU23ugAO
('、`*川「……」
( ´_ゝ`)(´<_` )「……」
うっすらと涙を浮かべる辺尼指。
その両手には、双子の手がしっかりと握られていた。
子が何人いようと、子供達は間違いなく親を愛している。
それさえ親がわかれば、これ以上の幸せなんてないものだ。
町の人間にいくら蔑まれようと、忌み嫌われようとも構わない。
自分にはこの子達さえいればいい。
と、そう思っているに違いない。
辺尼指の頬をつたう雫が、それの何よりの証明になっていた。
──
203
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:30:34 ID:IMU23ugAO
──
翌朝。
ブーンと渚本介が寝床を出ると、既に朝食の用意ができていた。
辺尼指が腫れた目で挨拶をし、そのまま三人で食事を始めた。
(´・ω・`)「ん?子供達はどうなされた?」
('、`*川「まだ寝ております。あんな夜中まで起きるもんだから…」
そう言うと、辺尼指は小さく笑った。
ブーンと渚本介にも、自然と笑顔がこぼれる。
('、`*川「…昨晩は本当にありがとうございました。息子達の嘘にも付き合ってくれて」
(;^ω^)「あれっ、バレてたんですかお?」
('、`*川「ええ。実は、私の父が琴作りの職人だったのです」
204
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:31:48 ID:IMU23ugAO
ほう、と呟く渚本介。
辺尼指は笑顔のまま続けた。
('、`*川「幼子の頃から、私は父の作る琴に強い興味がありました。しかし、これは偉い人が使うものだから、と絶対に触らせてくれなかったのです」
('、`*川「ですから私は琴に憧れのようなものを抱いておりました。それを息子達に話したのは随分前の事ですが…まさか覚えていたとは」
(´・ω・`)「……」
( ^ω^)「本当に優しい息子達ですお」
気分の良くなる、爽やかな朝。
三人は温かい雰囲気の中、朝食を食べ終えた。
しばらくすると、廊下の方から二人分の騒がしい足音が聞こえてきた。
205
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/06(日) 00:32:20 ID:DNPBHqZE0
http://www.youtube.com/watch?v=rqURgEh9jDM
今日の一曲、波の音も丁度よく
206
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:33:02 ID:IMU23ugAO
( ´_ゝ`)「おはよう母ちゃん!!見て見て、弟者とこれ作ったんだ!」
(´<_` )「名付けて"木の実鉄砲"!!兄者!狙いはあのキチガイ南蛮人だ!」
('、`;川「こ、こら…」
( ´_ゝ`)「バアアアン!!」
(;゚ω゚)「ぎゃあああああ!!」
朝早くにも関わらずテンションの高い双子。
いつの間に作ったのか。双子は自ら編み出した武器「木の実鉄砲」を構え、たくさんの木の実を放出させた。
直後、その全てがブーンの顔面に命中した。
( ´_ゝ`)「やりい!!」
(´<_` )「流石だよな俺ら!!」
('、`;川「あ、あんた達何やってんの!」
207
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:34:08 ID:IMU23ugAO
( ^ω^)「……」
前言撤回。こいつらを優しい子だなんて言った自分がバカだった。
この双子はまごうことなくクソガキです。本当にありがとうございました。
( ^ω^)「てめえら……」
(#゚ω゚)「ちょっとそこ座れやあああああ!!」
(;´_ゝ`)「うわっ!逃げるぞ弟者!!」
(´<_`; )「おう!!」
(#゚ω゚)「待てやごらあああああああ!!!」
('、`;川「ああ、もうあんた達!」
(´・ω・`)「ははは」
爽やかな朝は、一変して騒がしい朝になった。
小さな双子を追いかけるブーン。オロオロする辺尼指。それを見て楽しそうに笑う渚本介。
そこは、須貝付の町よりも賑やかな場所だった。
──
208
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:35:53 ID:IMU23ugAO
──
(´・ω・`)「随分と世話になった」
('、`*川「いいえ、こちらこそ。またお越しください」
( ´_ゝ`)「じゃあね武士様!あとキチガイ!」
(´<_` )「また来…いやなんでもない」
(#^ω^)「クソガキが…」
('、`;川「ああもう!…申し訳ございません」
(´・ω・`)「ははは、もう行くぞ」
( ^ω^)「わかりましたお。…覚えてろよ」
三人の親子が見送るなか、ブーンと渚本介は歩き出した。
須貝付の町とは反対側に、山を登っていく。
ふと振り向くと、水平線から上る朝日に照らされた須貝付の町が、ブーンの目に飛び込んできた。
209
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:37:48 ID:IMU23ugAO
( ^ω^)「……」
綺麗な港町だ。町は賑わい、人々は元気に行き交っている。
しかし、すぐそこに見える辺尼指とその息子達が住むボロボロな家のほうが明るく見えるのは、果たして気のせいなのか。
(´・ω・`)「?どうしたブーン」
( ^ω^)「…なんでもないですお。行きましょうお」
活気のある港町だろうと、陰気な山の中だろうと、人が住めば明るくなるものだ。
そう、「人」が住むのだから。
相変わらず傾斜の強い山道だったが、ブーンは昨日ほど苦しくなかった。
白い朝の光が、なんだかやけに眩しかった。
第六話 終
210
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:39:43 ID:IMU23ugAO
今回の投下はこれにて。
ご支援、
>>205
の曲紹介、本当にありがとうございます!
毎回の曲紹介が何気にめちゃくちゃ嬉しいという
211
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/06(日) 00:40:40 ID:40N/9IxAO
乙
ギターとか触ったことないから分からないけどこのブーン結構ハイスペック?
212
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/06(日) 00:45:44 ID:IMU23ugAO
>>211
ありがとうございます
このブーンはギターではかなりハイスペックな方です
今回のsummerもアコギではかなり難しい曲ですし…
てゆうか、ぶっちゃけ今まで物語の中で出してきた曲に、僕が弾けるのは一曲もありません
本当にありがとうございました
213
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/06(日) 00:46:49 ID:DNPBHqZE0
余計なことしてやしないかと思いつつTears in Heavenから曲紹介してたけど
喜んでもらえてるようで何よりです。
次回も楽しみにしてますお
214
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/06(日) 00:50:04 ID:40N/9IxAO
>>212
そうなのか、ありがとう。次も期待してる
215
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/06(日) 01:30:52 ID:K59Hr1z20
乙ャァァ!
ギター関連除いてもブーンは中々ハイスペック
216
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/06(日) 08:45:56 ID:CFKuqkT.O
乙です
>>177
第6話
217
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/13(日) 18:32:45 ID:M48noiUw0
ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。
ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。
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218
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/13(日) 18:32:57 ID:M48noiUw0
ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。
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219
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/13(日) 18:33:07 ID:M48noiUw0
ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。
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220
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/13(日) 18:33:33 ID:M48noiUw0
ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。ブーン系有名作者は地震と津波で死ね。
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221
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 00:52:46 ID:VlUe/HtcO
コメントありがとうございます!
さあ第七話いきまっせ!ほれいきまっせ!
222
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 00:54:33 ID:HemFoSno0
ジャーンジャーン
223
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 00:55:02 ID:VlUe/HtcO
***
第七話 「語るも友、黙るも友」
***
(´・ω・`)「村田領を出たら、すぐ二茶根瑠領だ。二茶根瑠領に入れば根十城は近いぞ」
( ^ω^)「もうそんなに進んだんですかお」
(´・ω・`)「ああ。しかし二茶根瑠領に入る前に寄っておきたい場所があるのだが、行っても構わぬか?」
( ^ω^)「?構いませんお」
須貝付を出て、海沿いを歩いている二人。
大平洋から吹いてくる潮風を浴びながら、ブーンと渚本介は二茶根瑠領に向かってひたすら進んでいた。
224
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 00:56:33 ID:VlUe/HtcO
しかし、渚本介が珍しく寄り道の提案をしてきた。
用件を聞くと「昔の馴染みの家に行く」そうだ。
やがて二人は海沿いから逸れ、山道へと入っていった。
( ^ω^)「それにしても、地図もないのによく場所がわかりますおね」
(´・ω・`)「一度来た場所に地図は要らないだろう」
(;^ω^)「あそっか…」
山道をずっと歩くと、今度は小さな川に着いた。
潮風でベタついた体を少し洗い流し、水分をとったところで、二人は川沿いに歩き出した。
渚本介曰わく、目的の家はこの川の上流あたりにあるらしい。
225
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 00:58:41 ID:VlUe/HtcO
川沿いを上流に向かって歩きながら、ブーンが尋ねる。
( ^ω^)「てゆうか渚本介さん、一体何の用でその人の家に行くんですかお?」
(´・ω・`)「ああ…そいつは名を渋沢といって、腕の良い鍛冶職人として有名なのだ」
( ^ω^)「鍛冶屋ですかお」
(´・ω・`)「ああ。この虎恍丸も渋沢の作だ。あいつの造る武器は本当に質がいい」
( ^ω^)「じゃあ、渚本介さんは渋沢さんに虎恍丸を見せに行くんですかお?」
(´・ω・`)「まあそんなとこだな」
鍛冶屋、鍛冶職人などといった言葉はよく聞くが、ブーンは実際の鍛冶屋というものがあまりイメージできていなかった。
それにこれから会えるというのだから、自然に足取りも軽くなる。
歩くこと一時間。二人は小さな建物の前に着いた。
226
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:00:04 ID:VlUe/HtcO
(´・ω・`)「ここだ」
(;^ω^)「…え?これ鍛冶屋?」
(´・ω・`)「なんだ不満か?」
(;^ω^)「いえ、そういうわけじゃ…」
不満というより、拍子抜けだった。
プレハブ小屋をそのまま木造にしたかのような外装。ブーンのイメージと重なっていたのは、屋根に煙突があることくらいか。
工場のようなものを想像してたブーンにとっては、かなり意外な外観だった。
(´・ω・`)「行くぞブーン」
( ^ω^)「あ、はいですお」
渚本介は小屋の前に立つと、大きく扉を叩いた。
直後、「うっせえぞ!」というドスの効いた大きな返事が返ってきた。
それを聞いて、遠慮なく扉を開けて中に入る渚本介。ブーンも速やかにその後に続いた。
227
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:01:58 ID:VlUe/HtcO
_、_
( ,_ノ`)「なんだぁこんな昼間に……って渚本介じゃねえか!」
中に居たのは、椅子に座っている初老の男性のみだった。
ボロボロの扇子をたたみ、二人に豪快な笑顔を向ける。
(´・ω・`)「久しいな渋沢」
_、_
( ,_ノ`)「ヒヒ、おめぇが刀を血錆だらけにしてきた以来だな!ところで、その南蛮人は何なんだ?」
( ^ω^)「ブーンといいますお、よろしくですお」
_、_
( ,_ノ`)「南蛮人なのに言葉が通じるのか!ヒッヒッヒ!こりゃいいや!」
癖のある笑い声でまたも豪快に笑い飛ばすと、渋沢は二人に座るよう促した。
よく笑い、よく喋る、とても明朗な人間だとブーンは思った。
バイト先や親戚にもよくいる普通のオッサンだ。こんなオッサンが鍛冶職人だなんて、あまり想像がつかなかった。
228
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:04:22 ID:VlUe/HtcO
_、_
( ,_ノ`)「そんでェ渚本介!今日は何の用だい」
(´・ω・`)「虎恍丸を見てほしい」
鞘から虎恍丸を抜き、渋沢に差し出す渚本介。
それを受け取った直後、渋沢は明らかに難しい顔になった。
その表情を見れば、虎恍丸の状態が良くないということがハッキリと伝わってくる。
虎恍丸をじっくりと見ながら、渋沢は独り言のように呟き始めた。
_、_
( ,_ノ`)「…おめぇにしちゃ、血錆は少ねえ方だ。こいつぁ問題ねェ」
_、_
( ,_ノ`)「問題は刃こぼれだな。鋭い鉄板でも斬ろうとしたのかぃ?それとも──」
229
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:05:07 ID:VlUe/HtcO
渋沢がゆっくりと顔を上げ、渚本介に目を合わせた。
険しい視線が渚本介と重なる。
_、_
( ,_ノ`)「斬馬刀…天野擬古成と合わせたのか」
(´・ω・`)「……」
何も言わず、じっと渋沢を見つめる渚本介。
その態度が渋沢の問いに対する肯定か否定かなど、聞き直すまでもなかった。
視線を虎恍丸に戻し、刃を優しく撫でながら、渋沢が溜め息混じりに口を開いた。
_、_
( ,_ノ`)「…刀ってェのは、人斬りの道具だ。その理由が護身や復讐でも、人さえ斬ってりゃ刀は生きる」
230
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:06:41 ID:VlUe/HtcO
_、_
( ,_ノ`)「でもよ、人の魂までは絶対に斬れねえ。絶対にだ」
(´・ω・`)「……」
_、_
( ,_ノ`)「考え直せ渚本介。おめぇが擬古成を斬ろうと、擬古成の天下統一の精神までは斬れねえ。刀っつーのは、所詮刀なんだ」
_、_
( ,_ノ`)「おめぇか擬古成のどっちかが犬死にするだけさ。考え直すんだ」
渋沢が話し終えると、その場に重い沈黙が生まれた。
誰も何も言わないまま、ただ時間だけが流れていく。
やがて、渚本介が口を開いた。
(´・ω・`)「……虎恍丸を鍛え直してくれ」
231
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:07:43 ID:VlUe/HtcO
( ^ω^)「!」
_、_
( ,_ノ`)「……」
渋沢の「考え直せ」という台詞を無視するかのように、虎恍丸の鍛え直しを依頼した渚本介。
半ば諦めたように、渋沢も頷いた。
_、_
( ,_ノ`)「ま、俺ぁこういうのが仕事だからよ!依頼がねえと飯も食えねえや!ヒッヒッヒ!」
(´・ω・`)「…すまない」
_、_
( ,_ノ`)「とにかく、状態が悪ぃから時間はかかるぜ。表の川で釣りでもしてな!」
(´・ω・`)「それでは頼む」
_、_
( ,_ノ`)「あいよ!」
虎恍丸を預け、小屋を出た二人。
刀が無いと落ち着かないな、と渚本介が笑う。
232
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:08:50 ID:VlUe/HtcO
表にかけてあったいくつかの釣り具を勝手に取り、二人は川辺に立った。
(´・ω・`)「ブーン、川釣りの経験はあるか」
( ^ω^)「一応ありますお」
(´・ω・`)「ようし、勝負をしようではないか」
(;^ω^)「…はい?」
(´・ω・`)「俺は幼子の頃から釣りが好きでな。昼間は複数人で釣りをするのがいいってものだ」
その気持ちはわからなくもない。
しかし、渚本介が釣り好きとはまったくの予想外だった。
ブーンの顔に、笑みが浮かぶ。
( ^ω^)「受けて立ちますお」
(´・ω・`)「ははは、上等じゃないか」
233
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:10:09 ID:VlUe/HtcO
木の枝をそのまま削ったような竿に糸を通し、その先に針と餌をつけ、川に垂らす。
ブーンと渚本介は、少し距離を取って釣りに臨んだ。
暫くも待たないうちに、ブーンの竿に何やら手応えが来た。
(*^ω^)「おっ…?」
(´・ω・`)「む、もう来たのか」
ブーンの糸の先に、何やら大きな影が見える。
渚本介が横で見つめるなか、ブーンは竿を上げ始めた。
(*^ω^)「でかい!幸先いいですお!」
(;^ω^)「ってあれ?上がんね…うおっ…」
234
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:10:26 ID:VlUe/HtcO
途端、ブーンの手応えは一気に軽くなった。
尻餅をつきそうになりながらも、どうにか持ちこたえる。
水面から跳ね上がった糸の先は、針が虚しく揺れていた。
( ´ω`)「逃げられちゃったお…」
(´・ω・`)「ははは、まだまだだなブーン…おっ」
( ^ω^)「お、今度は渚本介さんに!」
今度は渚本介の竿がしなりだした。
自分の針に餌を付けるのも忘れ、渚本介の様子を見守るブーン。
直後、ブーンの時と同じような大きさの獲物を、渚本介はいとも簡単に釣り上げた。
235
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:11:40 ID:VlUe/HtcO
釣り上げた魚を、水の貯まった桶に放り込む。
(´・ω・`)「川魚にしては大きいほうだな」
(;^ω^)(……すげえ…)
(´・ω・`)「さ、勝負はまだ始まったばかりだぞ」
(;^ω^)「おっお。わかってますお」
流石は、自称釣り好き。
今の一手だけで、ブーンはまったく勝てる気がなくなった。
しかし、それでも諦めまいと糸を垂らし続ける。
穏やかな時間が、二人を包んでいった。
──
236
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:13:26 ID:VlUe/HtcO
──
結局、釣り勝負は夕暮れまで続いた。
結果は、ブーンが2匹、渚本介が11匹。
渚本介の圧勝で、勝負は決まった。
゙(ii´ω`)'「惨敗ですおー…」
(;´・ω・`)「いや落ち込みすぎだろ…夕飯は焼き魚だな」
( ^ω^)「お、了解ですお」
夕飯に備え、慣れた手つきで火を起こす渚本介。
少しばかりの沈黙が、その場に流れる。
237
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:14:35 ID:VlUe/HtcO
(´・ω・`)「ブーン…」
ブーンの向かいで火を起こしながら、渚本介が不意に話しかけた。
返事をする間もなく、続きの言葉がこぼれてくる。
(´・ω・`)「…俺をうつけ者だと思うか」
火種を探す渚本介の顔は、薄暗くてよく見えない。
しかし、先ほどまで釣りを楽しんでいた者とは思えないような重い口調が、今の渚本介の表情を容易に想像させた。
( ^ω^)「え…」
(´・ω・`)「本当はわかってるのだ。俺の復讐なんて、極まりなく無駄なものなのだと」
238
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:15:32 ID:VlUe/HtcO
(´・ω・`)「それでも、擬古成が来るであろう根十城への足は止まらぬ。擬古成を討たんが為の、虎恍丸を振るう腕は止まらぬ」
(´・ω・`)「幼子の我が儘さ。こんな俺を、うつけ者だと思うか」
( ^ω^)「渚本介さん……」
言葉が出てこなかった。
昼間の渋沢の短い説得に、多少なりとも心を揺らされたのだろう。
煙の上がってきた枯れ枝を見つめながら、渚本介が続ける。
(´・ω・`)「釣りで重要な事は、魚との駆け引きだ。駆け引き次第で容易く釣り上げることができる」
( ^ω^)「……」
239
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:16:49 ID:VlUe/HtcO
(´・ω・`)「俺は復讐に身を走らせたいが為に、虎恍丸を鍛え直しに来た。あまつさえ、古き友の渋沢をも駆け引きの相手にしてしまったのだ」
(´・ω・`)「誰も俺を許さないだろうな…俺はただのうつけ者だ」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「…悪かったなブーン。さ、魚を焼くぞ。渋沢を呼んできてくれ」
( ^ω^)「…はいですお」
渚本介に背を向け、小屋へと向かうブーン。
先ほどの渚本介の台詞を反芻させながら、ゆっくりと歩き進む。
あんなにも落ち込んだ渚本介を、ブーンは見たことがなかった。
恐らく、後悔しているのであろう。
そして自分を責めているのだ。
復讐を止めようとしてくれた友に、復讐を手伝わせてしまっている事に。
240
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:18:14 ID:VlUe/HtcO
小屋の扉を小さく叩き、中に入る。
そこには、真っ赤になった虎恍丸をさらに火に入れる渋沢の姿があった。
_、_
( ,_ノ`)「おうブーン!扉を開ける前に合図くらいしろや!」
(;^ω^)「え、あれ…しましたお」
( ^ω^)「……あっ」
途端、ブーンは気付いた。
渋沢は少し耳が遠いのだ。
此処を訪れたときの渚本介の大きなノックは、それを気遣ってのものだったのだろう。
二人の友情が垣間見えた気がして、ブーンは少し嬉しくなった。
( ^ω^)「渋沢さん、外で夕飯を用意してますお」
_、_
( ,_ノ`)「おうそうか!客に飯を用意させるたァ、俺も偉くなったもんだぜ!ヒッヒッヒ!」
_、_
( ,_ノ`)「おうし待ってろ!こいつをもう一回り叩いたら飯だ!」
241
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:19:32 ID:VlUe/HtcO
そういうと、渋沢は分厚い鎚を手に取った。
これから始まる刀の鍛え直しに、急に興味が湧いてくる。
(*^ω^)「渋沢さん、ちょっと見ててもいいですかお?」
_、_
( ,_ノ`)「なんでェ、鍛冶屋が珍しいのかい?ヒッヒ、そういや南蛮人は飛び道具しか使わねえって話だな!」
_、_
( ,_ノ`)「よーしそこに座ってろい!火花が飛ぶと危ねェからな!」
(*^ω^)「ありがとうございますお!」
渋沢はもう一度此方を向いてニヤリとすると、火の中から刀を戻した。
左手に持った大きなペンチのようなもので取っ手を押さえ、右手の鎚を赤い刃に振り下ろす。
直後、金属的な乾いた音と共に、綺麗な火花が辺りに散った。
242
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:21:05 ID:VlUe/HtcO
(*^ω^)「おお…」
カン、カン、と音は響き続ける。
その度に火花が散り、薄暗い小屋を明るく照らす。
暫くその作業に見入ってると、渋沢が手を休めぬまま話しかけてきた。
_、_
( ,_ノ`)「なァ、渚本介の野郎、何か言ってたか?」
( ^ω^)「え?」
_、_
( ,_ノ`)「いや、まさかと思ってんだがよ!まさかあいつ、俺に虎恍丸を鍛え直させてるのを後悔してんじゃねェのか?」
(;^ω^)「ど、どうしてわかったんですかお?」
隠したつもりはないが、まさかバレているとは思わなかった。
渋沢の横顔を見ると、作業に歯を食いしばりながら、少しだけニヤリとしていた。
243
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:23:01 ID:VlUe/HtcO
_、_
( ,_ノ`)「ヒッヒ、やっぱりそうか!あいつは昔からそういう奴さ!何かある度に自分を責めやがる!」
_、_
( ,_ノ`)「いつもに何かに後悔しながら、復讐の旅をしてんだぜ…お笑い草さ!んな人生なら捨てちまえって話なんだよ!」
ふと手を止め、腰を逸らす渋沢。
横にあった布で顔を拭くと、そのまま布で刀を煽り、ゆっくりとかぶせた。
_、_
( ,_ノ`)「あいつはやっぱり、復讐を続ける気なのか?」
( ^ω^)「…そうですお」
_、_
( ,_ノ`)「死なねェとわかんねえらしいなあの阿呆は。復讐なんて誰かが死ぬだけだってのによ」
さあ飯だ。と先に小屋を出る渋沢。
すれ違う瞬間、ブーンは見た。
渋沢の顔が、悲しみに染まっていたのを。
──
244
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:24:20 ID:VlUe/HtcO
──
空はすっかりと暮れ、魚を焼くための火が辺りを強く照らしている。
その火を、既に渚本介と渋沢が囲んでいた。
(´・ω・`)「ん?ブーンはどうした」
_、_
( ,_ノ`)「あぁん?あんやろ、まだ中にいんのか」
少し気になって、小屋の方へと目を向ける二人。
その視線の先で、ちょうどいいタイミングで扉が開いた。
そこには、少し張り詰めた顔のブーンが立っていた。
その肩にはギターが掛かっている。
(´・ω・`)「…ブーン?」
_、_
( ,_ノ`)「んだァありゃ?南蛮の武器か?」
245
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:25:42 ID:VlUe/HtcO
火を囲う形でどっしりと座り込むブーン。
少し混乱したような二人に、ブーンが口を開く。
( ^ω^)「渚本介さん、心配はご無用ですお。渋沢さんは確かに渚本介さんを心配してるけど、それでも背中を押してくれる友なんですお」
(´・ω・`)「……」
( ^ω^)「渋沢さん、渚本介さんは強いんですお。簡単には死にはしませんお。それに…」
_、_
( ,_ノ`)「……」
二人の顔をもう一度見て、表情を崩すブーン。
( ^ω^)「渚本介さんは、なにも復讐しか見えてないような人間じゃないですお」
246
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:27:01 ID:VlUe/HtcO
少し恥ずかしそうに、一瞬だけ、渚本介と渋沢は目を合わせた。
途端、二人は目を逸らしながら苦笑いを浮かべた。
( ^ω^)「…それが友情ってやつですお」
柔らかな雰囲気のなか、ブーンはギターを構え、ゆっくりと演奏を始めた。
曲はKiroroの「best friend」のソロギター。
人を思う気持ちが、朗らかな旋律に乗って、その場に流れていく。
(´・ω・`)「……」
_、_
( ,_ノ`)「……」
友を気遣うこと。心配すること。引き留めることも、背中を押すことも。
すべてが友情であり、友の証なのだ。
物静かな渚本介も、口うるさい渋沢も、ブーンの演奏に静かに聴き入っていた。
ひどく心地の良い、暖かい夜だった。
そう思えたのは、果たしてこの三人の囲う小さな火のおかげなのか。
──
247
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:28:02 ID:VlUe/HtcO
──
翌朝。
陽の光が眩しい川辺で、渚本介は渋沢から新しくなった虎恍丸を受け取った。
_、_
( ,_ノ`)「おめぇの刃を合わせる戦い方を考えて、耐久性を考えて鍛えた。少し重くなってるが問題ねェか?」
(´・ω・`)「ああ」
渚本介は近くの木を軽く蹴り、落ちてきた葉に居合いを合わせた。
数秒遅れて、葉は二つに分かれた。
(´・ω・`)「相変わらず質の良い上がりだ」
_、_
( ,_ノ`)「ヒッヒ!そりゃどーも!」
248
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:29:16 ID:VlUe/HtcO
虎恍丸を鞘にしまい、懐から小銭入れを取り出した渚本介を、渋沢は慌てて制した。
_、_
( ,_ノ`)「ああ代はいらねェよ!こっちも暇つぶしに刀叩いたようなもんだ!」
(´・ω・`)「しかし…」
_、_
( ,_ノ`)「代はいらねェけどよ、一つ約束してくれよ」
小さく首をかしげる渚本介。
後ろで荷物を用意していたブーンが、少し笑った。
_、_
( ,_ノ`)「絶対に死ぬんじゃねェぞ!擬古成を斬ったあとは、またうちに寄ってくれや!そん時は酒出してやらァ!」
(´・ω・`)「ははは、わかった、約束しよう」
249
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:30:13 ID:VlUe/HtcO
_、_
( ,_ノ`)「おめぇもだブーン!またそのぎたーとやらを弾いてみせろよな!」
( ^ω^)「了解ですお!」
荷物を持ち、ブーンと渚本介は渋沢を背に歩き出した。
何度も振り向いて手を振るブーン。その横で、渚本介は前を向いたまま歩き続ける。
しかし、渚本介の顔はこれまでに無いほど明るいものだった。
渋沢の癖のある笑い声が、二人のずっと後ろから聞こえてきた。
第七話 終
250
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 01:31:49 ID:HemFoSno0
http://www.youtube.com/watch?v=u8bUzMJtCRM
今回はこちら様
251
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/19(土) 01:33:58 ID:VlUe/HtcO
今回の投下はこれにて。
>>250
さん、曲紹介ありがとうございます!
ヒッヒッヒ!
252
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 01:39:05 ID:HemFoSno0
そして乙ー
いい感じで和めました
253
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 01:43:12 ID:65u996QE0
乙です! 毎度わくわくします。
254
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 02:25:00 ID:ZKOT5IPkO
乙乙!
255
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/19(土) 22:26:44 ID:rq8XMcl.0
乙
やっぱり友情っていいな
256
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:26:14 ID:VuIUXoJAO
コメントありがとうございます!
なんて温かいんだここは…まるで膣のようだ
そろそろ行きますぜ第八話!カモン!
257
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:30:02 ID:VuIUXoJAO
***
第八話 「如何なる音も、闇を照らす」
***
二茶根瑠領、根十城。
領土自体はさほど大きくはないが、どの国にも引けを取らない武力を誇る国だ。
その軍隊の中心指揮地であり、二茶根瑠一族の居城が、この根十城なのだ。
小高い丘の上に位置する根十城からは、二茶根瑠領をある程度見渡すことができる。
その景色の美しさは、ブーンのいた五百年後には観光名所や絶景スポットとして知られるほどだ。
258
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:30:40 ID:VuIUXoJAO
(*^ω^)「すげえお…」
その景色に見とれながら、ブーンは渚本介に付いて丘を登っていた。
疲れが吹き飛ぶほどの景観だ。
緑が茂る山に、遠くに浮かぶ水平線。
そして、二人が歩く先にそびえる大きな城。
夕暮れの近い時刻ということもあって、そこはとても心地良い場所だった。
涼しい風が、二人の体を撫でていく。
(*^ω^)「すごく良いところですお…こんなところに城を建てるなんて、二茶根瑠家も贅沢なもんですお」
(´・ω・`)「ははは、そうだな」
259
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:31:29 ID:VuIUXoJAO
その心地良さに半ば酔っていたブーン。
しかし、根十城のすぐ手前まで来ると、その軽々しい気分は一気に重く落ちた。
かつて訪れたことのある二子堂城とは比べものにならないほど、根十城の威圧感はとてつもなかったのた。
その巨大さだけじゃない。何か重苦しい空気のようなものを、ブーンは感じていた。
(´・ω・`)「…どうした?」
(;^ω^)「あ、いえ、何でもないですお」
門の辺りまで来ると門番が詰め寄ってきたが、前回のように渚本介が軽くあしらい、二人は根十城の中へと入っていった。
──
260
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:32:45 ID:VuIUXoJAO
──
( ゚д゚ )「……真か?」
(ー_ー)「はい、まごうことなく太田渚本介本人でございます。それに、妙な南蛮人を引き連れておりました」
( ゚д゚ )「用は?」
(ー_ー)「それが、二人はそれぞれ別の目的があるようで。太田渚本介は“来る天野勢に対する戦力になりたい”と。南蛮人の方は、“二茶根瑠家近習の尾付出麗に会いたい”とのことです」
( ゚д゚ )「ふむ…」
二茶根瑠領領主、二茶根瑠巳留那(みるな)。
その鋭い目を近習頭の尾付比岐(ひき)に合わせ、空気が張るほどの重く低い声を向ける。
立派な椅子に腰を下ろし、体を大きく広げるその姿は、流石は一国一城の主だと思ってしまうほどのものだ。
齢は既に初老と呼べるもだが、その風貌からみえる威圧感からは、年齢以上のものを感じさせられる。
巳留那は、渚本介とブーンが自ら居城する根十城を訪れたことを、比岐から告げられていた。
とりあえず二人に此方まで来るように指示し、小さな椅子に座る。
261
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:33:51 ID:VuIUXoJAO
待つこと数分。
巳留那の前に現れたのは、確かに“戦魔”と唱われた太田渚本介と、妙な衣を着て妙な道具を持った南蛮人、ブーンだった。
渚本介は巳留那の目の前で礼儀正しく座り、ブーンはその横でぎこちなく座りこんだ。
(;^ω^)(すっげえ威圧感だお…)
( ゚д゚ )「珍しい顔が来たものよ…戦魔、太田渚本介よ。お前の用はなんだ」
(´・ω・`)「はっ。某(それがし)、彼の天野擬古成が、近いうちに根十城に攻めるとの話を耳にしております」
(´・ω・`)「擬古成には私怨が存ずる故、某が貴勢に加わり、擬古成を討たんと考えております」
( ゚д゚ )「フ…正直な口よの」
262
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:34:50 ID:VuIUXoJAO
太田渚本介の話は聞いたことがあった。
天野擬古成に強い復讐心を抱き、その首を取る為に旅を続ける武者。
この話が本当なら、今回の渚本介の依頼も合点がいく。
巳留那は暫く黙り込んだ後、小さく頷いた。
( ゚д゚ )「余は戦功や武勲など欲さぬ。特にこの戦、天野勢に城を落とされさえなければ、それで良いと思っておる」
(´・ω・`)「……」
( ゚д゚ )「擬古成のことは好きにしろ。但し我軍を惑わすようなことは決して許さぬ」
(´・ω・`)「はっ。有り難うございます」
( ゚д゚ )「…して、そこの南蛮人」
263
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:36:02 ID:VuIUXoJAO
(;^ω^)「え、はお、は、はいお」
巳留那と渚本介のやりとりを生唾を飲んで見ていたブーンは、急に呼ばれたことに大きく驚いた。
そんなブーンの様子を気にかけることなく、巳留那が続ける。
( ゚д゚ )「余の近習、尾付家の者に会いたいとな?」
(;^ω^)「は、はっ、そうでごぜえます」
(;´・ω・`)(ごぜえますってお前…)
( ゚д゚ )「ふむ、理由は何だ」
(;^ω^)「は、えと、こないだ尾付出麗さんの、こ、琴爪を拾ったんですお。そそそれを渡そうと思って」
( ゚д゚ )「琴爪か…」
264
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:37:32 ID:VuIUXoJAO
ブーンの言っていることに嘘は無い。
拾った琴爪を出麗に渡し、元の時代へ帰るヒントが欲しい、というのがブーンの本音だった。
たかが近習を務める娘に会うだけだ。簡単に許可は下るはず。
しかし、巳留那の発した言葉は、ブーンにも渚本介にも予想外なものだった。
( ゚д゚ )「……比岐よ」
(ー_ー)「はっ」
( ゚д゚ )「この南蛮人を捕らえよ」
(ー_ー)「御意」
(;´・ω・`)「!!」
巳留那の命で、比岐が屈強な男二人を呼んだ。
その二人がブーンの後ろに回り、腕を胴ごと縛り始める。
(;^ω^)「えっ?え?」
(;´・ω・`)「なっ、待たれよ巳留那殿!何故に!」
265
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:38:40 ID:VuIUXoJAO
室外に連れていかれそうになるブーンを見て、思わず立ち上がって声を張り上げる渚本介。
それを見ながら、巳留那が落ち着いた様子で口を開く。
( ゚д゚ )「我が二茶根瑠家近習、尾付の者は滅多に城外に出ぬ。ましてやその娘の出麗は琴を嗜む女子故、全く外に出ぬのだ」
( ゚д゚ )「その娘の琴爪を持っているなど、盗人でもない限り考えられぬ」
(;´・ω・`)「なれば盗人が立ち入ることも出来ぬはず!どうかお考え直しを!」
( ゚д゚ )「ふん、もうよい。行け」
(ー_ー)「はっ」
(;´・ω・`)「巳留那殿…!!」
(;^ω^)「えっ、嘘、嫌だお、死にたくないお!!渚本介さん!」
266
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:39:58 ID:VuIUXoJAO
二人の男に腕を抱えられ、引きずられるように遠ざかるブーン。
助けてくれ、という強い思いだけを込めて、渚本介の名を何度も呼び続ける。
(;´・ω・`)「ブーン!……ッ!」
しかし、ブーンにあまり構っていると、自分も疑われかねない。
ブーンの姿が見えなくなるのを、渚本介は黙って見ている他なかった。
(;´・ω・`)「……」
( ゚д゚ )「本当はお前も疑い、引っ立てるべきだ。しかし戦が近い。そのような暇があれば、兵どもの士気を上げるよう努めよう」
吐き捨てるように言うと、巳留那はおもむろに立ち上がって客間を出た。
全くの予想外の出来事に、途方に暮れる渚本介。
外界は夜を迎えようとしていた。
──
267
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:41:26 ID:VuIUXoJAO
──
( ;ω;)「し、死にたくな、ないお、渚本介さん…」
根十城地下牢。
窓も灯りもなく、布団の代わりだとでも言わんばかりに積み重なる藁があるだけの部屋。
人生で一度も入ることはないだろうと思っていた牢屋に、ブーンは放り込まれていた。
ギターなどの荷物を没収されたブーンは、その暗い部屋で恐怖のあまりに涙を流してした。
盗みの罪が疑われているのだ。下手をすれば死んでしまう。
それだけは何が何でも嫌だった。
この時代に飛ばされて何日何ヶ月が経ったのかは知らないが、必ず生きて元の時代に戻ることを夢見ていたのだ。
それが今、ブーンは元の時代に戻るどころか、この時代で死刑を受けそうになっている。
涙も、全身の震えも、一向に止まろうとしなかった。
現状を考える度に、気が変になりそうだった。
268
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:42:23 ID:VuIUXoJAO
不安なのは、それだけじゃなかった。
この時代に飛ばされてから、いつも側に居てくれた男が、そこにいない。
( ;ω;)「ヒック…お腹、空いたお…」
( ;ω;)「しょ、渚本介さん……」
お腹が空いたと漏らす度に、笑って飯の時間だと言ってくれた渚本介。
まさかこんな別れ方をするとは思っていなかった。
ブーンを相棒と呼んでくれた彼の男は、もう、仲間ではないのだ。
盗人と兵が、共存していいはずがないのだから。
──
269
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:44:15 ID:VuIUXoJAO
──
根十城内部に小さく設けられた兵士宿舎。
大勢の兵が火を囲んで談笑する広間で、渚本介は一人、寝転びながら夜空を眺めていた。
(´・ω・`)「……」
眠れるものなら今すぐにでも眠ってしまいたいが、目を閉じる度に色々な考えが脳裏をよぎる。
再びまみえることになる天野擬古成のこと。この戦が終わってから、その後のこと。
そして、幽閉されているブーンのこと。
(´・ω・`)(戦が終わるまで、死刑を執行するはずが無いか…)
ブーンを助けるのは、戦が終わってからでも大丈夫だろう。
巳留那とうまく掛け合えば、釈放も充分有り得るはずだ。
270
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:45:16 ID:VuIUXoJAO
気がかりなのは、この戦だ。
天野勢は必ず近いうちに城を攻めてくる。
下手をすれば今すぐにでもだ。
擬古成はそういった夜襲、奇襲を好む。
スムーズに戦を運び、時間をかけることなく勝利を収める男である。
もっと警戒するべきだ。
しかし、兵士達はすっかり日常の気分に入っている。今から士気を上げようなんて無理な話だ。
(´・ω・`)「……」
よく考えてみると、やっぱり今日はそこまで警戒する必要は無いのかもしれない。
昼間に根十城を訪れたとき、一軍がやってくる気配はまるで無かったからだ。
今晩くらいは、重い警戒はしなくていいのかもしれない。
渚本介は一つ深呼吸すると、再び夜空を眺め始めた。
──
271
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:46:19 ID:VuIUXoJAO
──
夜もすっかり更けた頃。
時間の感覚を感じられない地下牢では、ブーンが一人、藁の上に横たわっていた。
( ´ω`)「…マジでお腹空いてきたお……」
どちらかと言えばよく食べる方だったブーン。
昼から何も食べていないことを思い出し、腹の虫が鳴くのを聞きながら、ブーンはただ横たわっていた。
暫くそのまま横になっていると、地下牢の奥から、何やら話し声が聞こえてきた。
一組の男女が言い争っているようだ。
急に好奇心が湧いてきたブーン。
牢屋の入り口に近づき、耳を傾ける。
272
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:47:40 ID:VuIUXoJAO
「出麗様!ああ、もはや何と申し上げれば良いのやら…」
「いいじゃないの顔見るくらい!ほら通しなさい!」
( ^ω^)(出麗様…?)
かなり聞き覚えのある名前が、ブーンの耳に飛び込んできた。
そう、ブーンが何故か琴爪を持ち、探していた女性、尾付出麗。
どうやら、その出麗が看守の男と揉めているようだ。それも、恐らくブーンに会う為に。
(*^ω^)(こりゃラッキーだお!)
元の時代に戻るヒントを得る為の、願ってもないチャンスだ。
どうにかして此処まで来れないか。ブーンは心の中で祈りながら、再びその押し問答に耳を傾けた。
273
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:48:56 ID:VuIUXoJAO
「いいから通しなさいよ!」
「なりません!ほら、もうお戻りになってください!比岐様に察されたら、何を言われるやら」
「…仕方ないわね」
(;^ω^)(おいおいおいもっと頑張ってくれお!)
「ふう…さ、私も付いて行きますから。もう戻りましょう」
「そうね……」
ブーンの祈りも虚しく、二人の声は遠ざかっていく。
ブーンは思わず格子にしがみついた。
(;^ω^)(おーい!行くなお!おーい!!)
「…って行くわけねーだろハゲ!!」
「うごっ!?」
(;^ω^)「えっ」
途端、何やら布を思いきり蹴り上げるような音が、ブーンの耳に聞こえてきた。
恐らく、いや間違いなく蹴り上げたのだろう。看守の声はもはや聞こえない。ご愁傷様です。
274
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:49:55 ID:VuIUXoJAO
(;^ω^)(うんまあ…結果オーライだお)
心の中で手を合わせ、ブーンは格子から手を離した。
その直後、ブーンの目の前に、先ほどの声の主──出麗が現れた。
ζ(゚ー゚*ζ
それはまるで人形のような、綺麗な少女だった。
背は低いが体の線が細く、何より肌の色が透き通るように白い。
出麗はブーンを見て、その整った目を丸めると、吐き出すように呟いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ブスね」
( ^ω^)
275
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:50:53 ID:VuIUXoJAO
ζ(゚ー゚*ζ「何?南蛮の男は皆たくましいって聞いたわよ?何お前そのブッサイクな面」
( ^ω^)
ζ(゚ー゚*ζ「なんか力無さそうだし頭悪そう、マヌケ面」
ζ(゚ー゚*ζ「てゆうかお前何の武器も持ってなかったらしいじゃない。男失格ねこのクズ」
ζ(゚ー゚*ζ「せめて筋肉くらい…」
( ^ω^)「すみませんもうやめてください。僕泣きそうなんで。割とマジで」
ζ(゚ー゚*ζ「あっそ」
久しぶりに浴びた女子の罵声。
心の弱いブーンは何もかもが嫌になった。何故かお母さんに会いたくなった。
ζ(゚ー゚*ζ「それで、アンタが私の琴爪を拾ったんだって?」
(;^ω^)「あ…そうですお、決して盗んではないですお!」
276
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:51:59 ID:VuIUXoJAO
盗人の疑いがかけられていたことを、急に思い出したブーン。
慌てふためくブーンに、出麗が見下した目を向ける。
ζ(゚ー゚*ζ「うるさいわよ。アンタが盗んでないことくらいわかってる。アンタみたいなブス見たことないし」
(;^ω^)「あ、良かった…」
どうやら死刑は免れたようだ。
無意識に胸を撫で下ろし、安堵のため息をついた。
ζ(゚ー゚*ζ「そんなことより、アンタ琴爪をどこで拾ったの?」
(;^ω^)「へ?あ、えと…す、須貝付の町で商人が落としたのを拾ったんですお」
277
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:54:20 ID:VuIUXoJAO
嘘をつくのが苦手なブーン。
出麗が疑うように見てきたが「ま、いいわ」と流してくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうだ。今ちょっと鍵を開けるわね」
(;^ω^)「え?なんでですかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「勘違いしないでよね。アンタに渡したいものがあるだけなんだから」
( ^ω^)「渡したいもの?」
ζ(゚ー゚*ζ「私もね、琴を嗜む身だからわかるの」
呟くように話しながら、鍵を開ける出麗。
開いた扉の中に躊躇いなく入りこみ、ブーンに大きな荷袋を渡した。
中には、ブーンのギターが綺麗に収まっていた。
(*^ω^)「ギターだお!」
ζ(゚ー゚*ζ「ふーん、ぎたーっていうんだそれ」
(*^ω^)「はいですお、ありがとうございますお!」
278
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:55:13 ID:VuIUXoJAO
ζ(゚ー゚*ζ「見たことない形だけど、楽器だというのはわかった。それに、随分とそれを愛しているのもね」
(*^ω^)「そうですかお…」
ギターが戻ってきた喜びに、嬉しさを隠せないブーン。
よく見ると、きちんとピックも挟まっている。
何度も感謝の言葉を伝えながら小さくはしゃぐブーンに、出麗が微笑みながら口を開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、そのぎたー、弾いてみてよ」
(;^ω^)「…え?」
ζ(゚ー゚*ζ「だーかーらっ、弾いてみなさいって言ってるの、それ」
まるで最初に渚本介と会ったときのような状況に、少し戸惑ったブーン。
しかし、すぐに冷静になってギターを構えた。
279
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:56:12 ID:VuIUXoJAO
( ^ω^)「行きますお」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ブーンの前に立ったまま、黙って頷く出麗。
暗く静かな空間に、ギターの音色が響き始めた。
曲はリーチェの「ogiyodiora」のソロギター。
不安を煽る暗い空間に、優しく光る旋律が響いていく。
ζ(゚ー゚*ζ「……」
先程とは打って変わって、何も声を出さない出麗。
ブーンの演奏を、ただ静かに聴き続ける。
やがて、ブーンの演奏が、ゆっくりと終わっていった。
280
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:57:20 ID:VuIUXoJAO
( ^ω^)「……終わりですお」
ギターから手を離し、出麗の方に目を向ける。
そこには、ぽかんと口を開いたままの出麗の顔があった。
ζ(゚ー゚;ζ「…ちょっとアンタ」
(;^ω^)「何ですかお」
ζ(゚ー゚;ζ「アンタ凄いじゃない…他人の演奏にこんなに聴き入ったのは初めてよ」
(;^ω^)「あ、はい…恐縮ですお」
出麗はブーンの演奏を聴いて、感動のような驚きのようなものを受けたらしかった。
また何やら感想を言おうと口を開く。
しかし、その声はすぐに掻き消された。
城内に大きく鳴り響く、鐘の音によって。
281
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:58:47 ID:VuIUXoJAO
カン、カン、と音は大きく鳴り続ける。
暫くもしない内に、城内がやけに騒がしくなった。
ζ(゚ー゚;ζ「え!?何これ!?」
(;^ω^)「ヤバいですお出麗さん!早く逃げなきゃ!」
この音には覚えがあった。
そう、かつて二子堂城が落とされた時。
夜襲を知らせる合図として、城内を鐘の音が鳴り響いたのだ。
今もこの根十城に鐘が鳴り響いている。
そこから導き出せる答えは一つ。
(;^ω^)「夜襲ですお!!天野勢が攻めてきたんですお!」
ζ(゚ー゚;ζ「そんな…!」
(;^ω^)「いいから早く逃げますお!」
ギターを背負い、出麗の手首を掴んで牢屋を飛び出したブーン。
城内は鐘以上に大勢の怒号が響き渡っていた。
──
282
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 01:59:49 ID:VuIUXoJAO
──
(;´・ω・`)「やはり夜襲か…擬古成め」
最悪の事態が起きた。
根十城に集まった約五千の二茶根瑠勢は、全くと言っていいほど戦の心準備ができていなかったのだ。
混乱状態の中、なんとか城内上部に弓隊が、城外にまずは一番槍隊が着いた。
城内合戦に備え、城内で待機する渚本介と兵達。
やがて、城の向こうから、大勢が地面を踏み走ってくる音が聞こえてきた。
(;´・ω・`)(大軍か…)
地鳴りのようなその音に、二茶根瑠勢の兵達は身を固める。
283
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 02:01:40 ID:VuIUXoJAO
月明かりに照らされる、小高い丘の下。
弓隊と一番槍隊の視界に、大軍の天野勢が映ってきた。
大軍が来たぞ、と誰かが叫ぶ。
兵達の身が、緊張で更に引き締まる。
根十城に、約五千の兵を持つ二茶根瑠勢。
それを攻めるは、天野勢、全隊にして約一万五千。
後の歴史を揺るがす城攻めの戦が、今、始まろうとしていた。
第八話 終
284
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/23(水) 02:03:47 ID:VuIUXoJAO
今回の投下は以上です。
次からは投下の時間帯に気をつけます…あと投下予告もw
285
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 06:04:27 ID:bWCcjkbkO
乙乙
面白い
286
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 07:49:30 ID:SZYpBPvg0
乙
ギコェ……
287
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 08:37:01 ID:V9qrWYxg0
乙
すげぇワクワクする
288
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 14:16:45 ID:0jWVAm.kO
勝手に代理
http://www.youtube.com/watch?v=QnVMB_oQSHY
これで良いのかな
289
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/23(水) 20:30:30 ID:tAgIqnUI0
デレの性格…wwwww
いや、ご褒美か
290
:
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします
:2011/03/24(木) 13:13:38 ID:BeYQqW8k0
乙
続き気になる
291
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:13:05 ID:MY5i2l3gO
皆さんコメントありがとうございます!
そして曲紹介ありがとうございます!
つい今、続きが出来上がって、早く投下したいので
今回は予告なしで投下させてください、フヒヒ
292
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:14:39 ID:MY5i2l3gO
***
第九話 「戦には獣」
***
徐々に近づいてくる地鳴り、怒号。
そして殺気。
何の準備も出来なかった二茶根瑠勢に、天野勢が獣の如く向かってくる。
(;`゚∽゚)「臆するでない!一番槍隊、密集せよ!!盾の用意だ!」
浮き足立つ兵達に、何とか統率を計る将。
この男の信頼がよほど高いのか。兵達の目が、ようやく戦のそれに変わった。
(#`゚∽゚)「我ら泉槍衆は最強の前衛部隊!!天野のうつけ共を、いざ蹴散らさん!!」
293
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:15:53 ID:MY5i2l3gO
根十城の前で構える泉槍衆を統率する男──泉は、自らは一番隊の後ろに付き、前方を睨みながら叫び続けた。
その視線の先には、鬼の如く駈けてくる天野勢の槍騎兵隊、およそ千。
(#`゚∽゚)「蛮族よ!前方を揃えただけの陣で、我らにかかる気か!」
兵力戦では、兵の数が勝敗を決定的にしてしまう。
泉が見る限り、天野の軍は特にこれといった陣形はとっておらず、兵の数で押してくるようだった。
しかし、泉率いる槍隊はこういった兵数の差には慣れていた。
というのも、もともと百人程度の槍隊を更に五番隊まで分けていたので、常に少人数で戦ってきた経験があるのだ。
今回も相手が兵数で押してくるに違いない。泉槍衆が最も得意とする形だ。
敵の槍騎兵隊は、真っ直ぐ此方に向かって突進してきた。
(#`゚∽゚)「──え?」
はずだった。
294
:
◆vVv3HGufzo
:2011/03/24(木) 22:16:44 ID:MY5i2l3gO
「分かれェェェイ!!!」
(;`゚∽゚)「!?」
途端、目の前で天野勢の槍騎兵隊が二方向に分かれた。
挟み撃ちをするわけでもなく、分かれた部隊はそのまま城を回るように、見当違いの方へ駈けていく。
上の弓隊もこれは予想外だったらしく、第一射だけで攻撃を一旦止めた。
(;`゚∽゚)「どういうつもりだ…!?」
目の前の敵が取る不可解な行動に、暫し困惑する泉。
しかし、天野勢の取るその行動の意味を理解するのに、さほど時間はかからなかった。
(;`゚∽゚)「しまった……弓隊下がれェェ!!!」
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