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:
M=M
◆eskwQ12oL2
:2010/10/30(土) 00:43:52 ID:i4OQmZ3.
「表層批評宣言」 蓮實重彦
ある名付けがたい「不自由」。それは、読むこと、書くこと、思考することを介して誰もがごく日常的に体験している具体的な「不自由」である。
だが人は一般に、それを「不自由」とは意識せずむしろ「自由」に近い経験のように信じ込んでいる。いまこの瞬間、誰もがごく身近に感じ取っていながら、
その感じとられた生々しい対象を、奥深い影の部分だの不可視の暗部だのに身をひそめたより確実なものと信じられる何ものかを参照することなしにはそれを具体的に容認しがたいという、
徹底して表層的な「不自由」が問題なのである。人が意識しないもの、あるいは意識するのを回避するもの、それは、のっぺら棒の表面だ。
距離の意識も方向の感覚もが対象の認識に貢献しえない、中心や深さを欠いた環境としての表面。「知」は、この環境を距離の意識と方向の感覚とに従って分節化しようとする。
ところでその分節化を可能にする距離と方向とは、実はすでに分節化されている、従って決していま、ここにありはしない抽象的な環境の中にあらかじめ刻みつけられたものにすぎない。
「不自由」を「自由」と錯覚することで、人は「知」と呼ばれる抽象と折り合いをつける。
錯覚されることで希薄に共有される「不自由」、希薄さに見合った執拗さで普遍化される「不自由」、これをここでは「制度」と名づけることにしよう。
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