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最萌トナメ用支援貼り場

107仁科りえ支援縦読み 小さなてのひら:2007/01/13(土) 20:26:52
 ぼんやりと目の前に浮かび上がる、懐かしい景色。
 くたくたになるまで遊んで、からすの鳴き声に追われるように家に帰った
 ら、ドアの向こうからきれいな音が聞こえてきた。
 はっきり言って音楽は苦手だけど、それでもレコードよりも凄いと思った。
「今日はこれで終わりでいいんだよね、お疲れさま」
「日に日に巧くなっててね。親馬鹿ながら、将来はサラサーテかな、って」
 まるで天使のような白い服の、長い髪の女の子を、大人たちが撫でる。
 でも、あんなにバイオリンが上手で、大人たちから褒められてるのに、そ
 の顔は、嬉しいどころか、むしろ辛そうで……。

 悲しみに打ちひしがれた瞳に気付かないで、お酒を持って居間に行って
 しまった大人たち。取り残されたぼくたちは、仕方なく外に出て……
「いつも、パパとママは、ああやって褒めてくれるの。わたしががんばって、
 こんなに弾けるようになったねって、すごく喜んでくれて。でも……」
 とりとめもなく、涙をこぼしながら。
「全部なくしちゃう、バイオリンが遠くに行っちゃう、夢を見たの……体の一
 部が欠けて、ベッドで泣いてるわたしと、みんなのゆめ……」

 覚めない夢のように、女の子は泣き崩れる。
 えいえんに訪れない希望に絶望する、物語のヒロインのように。
 てんで馬鹿馬鹿しい。心配性だねって励ましたい。なのに、それが避け
 ることのできない運命なんだと、どこかで納得しているぼくがいる。
 かつてぼくも、同じような運命、かけがえのない『何か』を奪われた絶望
 ……そんな幻想を、夢見たことがあったから。

 忘れられない、決して消えることのない傷跡。二度と戻って来ない、失わ
 れた未来、日常、生きがい。でも、その痛みや悲しみは……。
「ただ、それでもバイオリンがやめられないの。どうせ弾けなくなるって分
 かってるのに、支えてくれたみんなを悲しませるのに、どうしてかな……」


 小さな手に抱えたバイオリンのケースを、決して降ろさない少女。それは
 ささやかな希望を、大好きな音楽を放さないと誓うように。
「なんでだろう、ぼくもそういう夢、どこかで見たことがある気がして」
 手のひらを、ちょっと覗きこんでみる。まるでその中にある、希望や意思
 にも似た何かを、見出そうとするように。
「もうずっと前だから、よく覚えてないんだけど……」

 いつか見た夢。大好きなことができなくなり、世界が嫌になった自分。い
 つも一緒にいた誰かが、不意にいなくなる寂しさ。でも、それだけだった
 か?それは本当に悲しくて、泣き出したくて……けどその辛さがあったか
 らこそ、見つけられたものがあった気がして。
 かなりおぼろげだけど、温かくて、優しくて、穏やかで、何よりも強くて、
 ぼくがくじけそうになるたびに、何度も支えてくれたもの。
 くだらない毎日に疲れたぼくを元気付けてくれた、泣きたい位透明で、柔
 らかい、木漏れ日のような歌……。

 追いかけて、追いかけて、それでも届かない夢。だけど……。
「いつか、お母さんが教えてくれたんだけど、生きる希望もなくすほど落ち
 こんで、何もかもが嫌になって……そんな時に助けてくれたのは、失く
 したはずの趣味だったって。趣味のおかげで友達になったひとが、泣い
 てばかりいた自分を助けてくれたんだ、って」
 くだらないと思っていた言葉。痛みや悲しみを乗り越えて、味方に変える
 強い人になりなさい、そして、辛い時に支えてくれる、ママにとってはお父
 さんとかすーちゃんかな、そんな『大事なひと』を作りなさい……。


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