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短編小説

4:2013/07/09(火) 00:25:28 HOST:ntiwte061027.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「―愛憎―」 前編


「那緒、帰ろう」

笑顔でゆっくり、吐き出すみたいにして誘う。

彼氏の広瀬那緒はそれに応えるみたいに笑顔で鞄を肩にかけた。

「真琴、待たせた?」

「うん、すごい待った。 だからなんか奢って」

そう笑うと那緒も苦笑いして肩をすくめる。

「仕方ねーなー」

わざとらしく語尾を伸ばして、私の手を握った。

那緒の手は温かくて安心する。


「那緒の手、あったかい」

握られてると、大げさだけど生きてる感じがする。

那緒の笑顔とか、明るい髪の色とか性格とかを裏切らない。そんな体温。

「真琴の手が冷たいんだって」

「その分、心があったかいんですー」

会話が一瞬曇り空に溶けて消えてった。


「那緒ー」

「ん?」

「もうすぐ春だねぇ」

「…なにお婆さんみたいに染々と」

ファストフードのお店に入ると人工的な温かさが、身に沁みた。

会計してる那緒の背中を席から眺める。

那緒の背中が好き。広くて、優しくて。白いシャツが似合う。

「真琴?お待たせ」

「わーいっ、ありがとう」

「いえいえ」

「周りの子達がチラチラ那緒見てたよ」

茶化すように那緒を見上げれば、那緒は興味無さげな反応。

「そうか?」

「……那緒ってモテるんだよ?」

「えー?」

なのに、ごめんね。言わなかったけど、静かにそれだけ思った。


「そういえば今日さ」

ポテトをかじったままの那緒に話題を振るのは、いつも私。

思い出した事柄を考えるより速く口に出す。

「体育のバスケすごかったね!」

体育を見学してた私を含め女子全員、那緒に釘付けだった。

「スリーポイント、カッコよかったもん」

「……ありがとう」


那緒の歪んだ顔を見てハッとした。

話題の振り方を間違えるのはいつも私。

困ったように笑う那緒が、遠い。

右手に持つジュースから水滴が落ちる。



那緒、お願いだから―――…なんて、

もうそれは叶わない。



「ごちそーさま」

那緒が満足そうに手を合わせた。

「ごちそうさまでした」

那緒につられて私も笑ってトレイに頭を下げた。

「そういえば、真琴」

「なに?」

「来年は受験だな」

那緒はいつも唐突だ。

「そうだね」

私の右手を握る那緒の手が強くなる。

「大学も、真琴と一緒がいい」

「……私も」

隣で那緒が勉強しなきゃな、と焦ったように笑う。

頑張ってよ、と私も茶化すみたいに笑う。


―――この、ぬるま湯みたいな関係から抜け出せない。


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