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短編小説

3:2013/07/05(金) 18:41:59 HOST:ntiwte061027.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「―届かない―」後編



蒼甫はハッとしたようにあたしの方に手をのばしてきた。

だけどその手はあたしではなくあたしの足元に落ちてるあたしの指輪を手に握った。

無視とかもうやめてよ。わかったから。あたしが悪かったよ」

蒼甫はあたしの指輪を見て、少し切なそうに表情を歪めた。

「そんな顔しないでよ?……蒼甫?」


どうして?どうして返事してくれないの?まるであたしの声が聞こえないみたいに。

あたしの事が見えないみたいに蒼甫は寂しそうにしてる。

来慣れた蒼甫の部屋には沢山のあたしたちの思い出の品が置かれてる。

お揃いのニューエラキャップ。ペアウォッチ。あたしが一昨年の誕生日に上げたガラステーブル。二人で選んで買ったカーペット。

蒼甫の耳で輝いてるのは去年の誕生日に上げたスワロフスキーのピアス。

一対ずつで二万円もしたんだからって言ったら「そんな高いもん怖くて付けらんねぇよ!」って怒られたっけ。

窓際の棚の上には沢山の写真立てがある。

二人で海に行った写真。高校の卒業式で二人で号泣してる写真。蒼甫が車を納車した日の写真。一番手前にあるのはつい二週間前に、

蒼甫の弟とあたしの妹が付き合った記念に4人でご飯を食べに行った時の写真だ。

あたしの妹も蒼甫の弟もラブラブ一直線で、「俺らも負けてらんねぇぞ!」なんて言ってた蒼甫なのに。

どうして今朝は様子がおかしいんだろう。


付けっ放しのテレビから義務的なアナウンサーの声が聞こえてくる。

少しだけ日当たりの悪い蒼甫の部屋は、真冬の今は息をすればそれが白く現れる程寒い。

蒼甫の口から吐き出された息は細く頼りない。

「まじでどうした?具合悪いの?顔色悪いよ?」

青ざめた顔からは力を感じられなくて……

「一服したら?」

テーブルの上の煙草を指差しても蒼甫は反応してくれない。

グレーのスウェット姿で力なくベッドに寄り掛かる蒼甫。

あたしとペアの指輪が嵌められた手には着信の鳴り止まないの携帯電話が握られていた。


《……PPPPPP》


再び鳴りだす携帯。画面には―――

《着信 恭甫》と表示されていた。

「恭甫からじゃん。出なよ」

蒼甫の弟からの着信に出る事を勧めると、やっと蒼甫が受話ボタンを押してそれを耳に付けた。

『今……凛ちゃんから電話来て………』

電話から漏れるいつもの溌剌とした雰囲気は皆無な恭甫の声。

『凛ちゃん、泣いてて……』


あたしの妹が泣いてる?どういう事よ?彼氏のあんたがしっかり支えなさいよ。ね?蒼甫?

そう言って同意を求めるように蒼甫の横顔を見ると、蒼甫の表情がみるみるうちに歪んで行くのが分かった。

「くっ……」

蒼甫の頬に流れた大粒の涙を見て、ギョッとした。

「ちょ……蒼甫?」




“今日未明、渋谷区路上でひき逃げ事故がありました。”




蒼甫の押し殺した泣き声と、義務的なアナウンサーの声。

『愛理ちゃんが……』

それから恭甫の震えた涙声。

「……恭甫、……知ってる。……今警察から俺んとこにも連絡あった…」

あたし、喧嘩してこの部屋を飛び出して……、

「愛理……なんでだよ……」





















―――――あぁ、思い出した。























“被害者の片山愛理さん(20)は搬送先の病院で死亡が確認されました。”

























































































あたしさっき死んだんだ。


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