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短編小説

27:2013/08/25(日) 14:58:30 HOST:ntiwte061027.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「―網膜の未来―」沙織side


「沙織、見える?」


包帯がとかれたと同時、母親の心配そうな声が降ってきて

それを合図に目を開けた。

視界に入った人工的な光に照らされた。

自分の腕を見て、涙が溢れた。

春の出張中、手術を受けた。

担当医からは成功しますよ、と微笑まれたけど

あの時のことを後悔している春には、どうしても言い出せなくて

春のいないこの日を狙って手術をした。


「見、える……」


みえる。その言葉を噛み締める。


「見える、見えるよ。」


病院の壁の白、お母さんの黒い目も、

お医者さんの青いネクタイも。

存在する色彩全部、網膜がとらえてる。

先生は明日には退院できますから、と

微笑んで去っていった。


「沙織、沙織、よかったね…っ」


お母さんが隣で泣き出して、

わたしはそれを見て、さらに幸せを実感して思わず笑う。

網膜が光をとらえて、それがキラキラと瞬く。

――あぁ、なんて綺麗な世界。


「退院おめでとうございます!」


綺麗な看護師さんが笑顔で小さく手を振ってくれた。

わたしは照れ臭さを隠しきれずに、

曖昧に微笑み返して、お辞儀をした。

見える。そう、わかるんだ。

看護師さんが美人だということ。

わたしは、ちゃんと見えてる。

ねぇ、春。わたし、見えてるんだよ。


今日は手料理をしてあげよう。

ハンバーグ?カレー?

それとも中華にしようかな。

ねぇ、春。

春はあの日のことをずっと後悔するかもしれない。

けどね、それだってわたし達の一部なんだよ。

きっといつか、あの日はごめんな、って春が笑って

わたしも、ほんとだよ!って笑える日が来るよ。


―――だから、ねぇ、春。


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