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短編小説

25:2013/08/02(金) 08:48:59 HOST:ntiwte061027.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「―網膜の罪状―」前編


あの日、帰らなかったこと、一生後悔すると思う。

でも、一番の後悔は、彼女が心から笑わなくなったこと。

彼女は、恨んでいるだろうか。

あの日、拒絶したこと。

でも、もし例え恨んでなくても、

その事を一生俺は背負ってくと思う。


「春っ!おかえりなさい!!」

今日も帰ると沙織の笑顔に出迎えられる。

黒い髪が動きに合わせてふわふわ動いて

犬の尻尾みたいだ。

「ただいま」

そう言って沙織の頭を撫でると、くすぐったそうに沙織は微笑んで、

でもすぐ悲しそうな、申し訳なさそうな表情になる。

「あのね、ご飯……またお母さんが…」

「うん、いつもありがとう、って今度伝えて」

そう言うと沙織はますます顔を悲しそうに歪める。


「こ、今度…もう一回料理練習してみようかな」

「ッ…ダメ」

考えるより先に口は動いてた。

忘れられない。

血の流れる沙織の、人差し指。

深く切った指先は、どんどん赤色を流して、

最初見たとき思わず故意に切ったのかと思って頭が真っ白になった。


「でも、春……」

「頼むから!!」

思わずそう声を荒げると、沙織の肩は大きく跳ねて、

怯えたように、目を伏せた。

そんな沙織を失いたくなくて、繋ぎ止めようと強く抱き締める。

「頼むから……もう、」

「……うん、ごめん、ごめんなさい……」


沙織の謝罪は色々な意味を持っている気がする。

震える沙織にキスをすると、沙織は泣きそうに笑って、

切なげに春、と名前を呼んでくる。

俺は、沙織の照れたように笑う時が一番好きだったのに――。


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