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短編小説

13:2013/07/13(土) 23:43:52 HOST:ntiwte061027.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「I love you to kill you.」後編




それは、ハッタリなんかじゃなかった。


大学からずっと、6年もそばにいたのに、こんな風な結末を用意されたことへの悔しさと。


それでいて、いまだに自分の中に燻るこの男への愛しさと。


愛もないくせに、わたしを捨てて、結婚してしまうことへの哀しみと。

当たりどころのない怒り。

わたしは、今なら彼を殺せてしまう。

嘘よ、と撤回する気はなかった。


彼が、嘘だろ、と言ったとしても、わたしは撤回する気がなかった。


撤回する気はないくせに、わたしは、きっと彼は嘘だと笑うと思っていた。



なのに、



「……いいよ」




なんて言って、孝介はわたしを見て優しく笑った。

それはバカにしてるようではなく。

どうせ嘘だと決めつけてるわけでなく。


――彼も、本気だった。


手のひらを、ゆっくり孝介の首にかけた。

小さく、手が震える。

わたしの手の冷たさに孝介の体が少しだけ反応する。

「…美雪の体温は、やっぱり冷たいな」

彼はこの期に及んでまだ柔らかに笑う。

「昔も、そう言ったわ」

少し力を入れる。

首もとだけを凝視して、徐々に指が食い込んで行くのをどこか他人事に見ていた。

孝介の息が乱れてくる。

わたしの手もガクガクと小さく震えてくる。

涙が止まらない。


「ふ…う、ぅ……ッ」


ついには嗚咽をあげて泣き始める始末。情けない。

結局、最後の最後で弱くなる自分が情けない。

カタカタと震える手を首もとから抜いた。

情けなくて笑えてしまう。

「は、っ…いい、の?殺さなく、て」

孝介の苦しげな声に、わたしは恐る恐る顔をあげて孝介を見た。

その瞬間、わたしはわかってしまった。

気づいてしまった。
彼は、もう死んでしまっていたのだ。




そう、彼は。




わたしが愛した、彼は。


ここにいるこの男に呑まれて死んでしまったのだ。




体重の預けどころをなくして、よろりと後ろへ後退した。

涙が止まらない。

それは、この男が結婚してしまうからなのか、

それとも『彼』が死んでしまったからなのか。

彼の首を絞めていた両手にはもう力が入らない。

もう戻れないのだと痛感した今。

わたしにはもう、彼を殺す理由さえないのだ。

男がゆっくりと近づいてくる。

かつてわたしが愛した彼、だった男。

わたしを抱き締めて、掠れた声で謝罪を繰り返す。

その声すら彼と違う気がして。




わたしはオメデトウ、と小さく呟いた。


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