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放課後デイズ

2かもめJP@:2013/05/26(日) 00:16:21 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

序章 高校生活の幕開け

 一人の少女が、自分の部屋にある鏡で念入りに身だしなみをチェックしている。
 髪が跳ねていないか。寝癖はちゃんと直っているか。目の下にクマができていないか。初めて着る制服はきちんと着こなせているか。
 今日から高校生となる桜宮和乃(さくらみやかずの)は鏡の前でこれでもか、というほどチェックを重ねる。
 淡い桃色の髪を肩より少し伸ばしており、左耳の上辺りに五枚の花びらのある花の髪飾りをつけている。瞳は大きく、背丈は小柄。割とどこにでもいるような少女だ。
 彼女が通うのはここから徒歩十五分ほどで着く、割と近場にある高校だ。
 私立星河学園(しりつほしかわがくえん)。
 入学者はやむを得ない特別な条件が無い限り、一ヶ月以内に必ず部活に入部しなければならない、という校則がある高校である。
 星河学園は運動部は大会などでいい成績を残し、文化系の部活は数々の賞を受賞したりと中々レベルが高い高校だ。そんな高校にぜひとも入学したい、と思う生徒も少なくない。逆に、単に制服が可愛いから、という安直な理由で入学しようとした和乃の方がイレギュラーといえるだろう。
 彼女は小学生から中学生まで部活動は一切行っていないし、塾や習い事があったというわけでもない。しかし、星河学園ならば。数多の部活が存在するこの学校でならば、自分のやりたい部活もあるのではないか! と思ったのも彼女が受験する一つの理由となったのだ。
「……よし!」
 彼女は胸の前で小さく拳を作り、身だしなみに納得がいったように声を上げた。
 新しい学生鞄を両手で持ち、二階の自分の部屋から一階の玄関まで駆け足で降っていく。新しい高校生活への期待が高まり、うずうずしてじっとしていられないのだ。本来ならば走らなくても十分間に合う時間から始業式は行われるのだが、今の彼女は走らずにはいられなかった。
 友達が出来るかな。思い出を作れるかな。恋とかしちゃうかな。彼氏とかできるかな。などと色んな思いを胸に抱きながら、彼女は『いってきます!』と大きく言ってから扉を開けて走っていく。
 
 走って数分、ようやく学校までの道の半分辺りに達した。
 本来ならば休みなしで走り続けるとへばってしまうような体力が並より少し下の和乃であるが、不思議と今日はそうはならなかった。そこまで高校生活が自分を掻き立てているのか。息は切れているものの、疲れは襲っては来なかった。
 しかしそこへ、右側の一本道から人影が出てくるのが目に映った。その人物との距離は既に目と鼻の先。今からスピードを緩めても、衝突は避けられない。
 想像通り、ドンッ、と人影とぶつかり二人の短い悲鳴が重なる。反動で和乃の身体が大きく後方へと傾いた。これは転ぶ、と確信した瞬間――、
 がっ、と。彼女の腕が不意に掴まれた。和乃は驚いて数秒きょとんとした。
 自分の腕を掴んでいたのが目の前にいる人物、つまりは和乃とぶつかった人なのだから。
「大丈夫?」
 目の前の人は和乃にそう問いかけた。
 長い黒髪を持つ美少女だった。その髪は腰より長く、目はやや鋭いながらも、彼女の雰囲気によく似合っていた。恐らくは同じ高校生だろう――同じ制服を着ている。が、彼女の持つ大人びた雰囲気と妖艶な容姿からとても同い年には思えなかった。胸も貧相な和乃に比べ結構ある。確実に先輩だと和乃は確信した。
 和乃は体勢を立て直し、ぺこりと頭を下げた。
 黒髪の少女は安堵したように息を吐いた。表情は一切崩れず、笑みは一瞬も見せない。だが、冷たいイメージはない。どう表現すればいいのか、和乃の乏しい語彙では適切な言葉が浮かばなかった。
「……気をつけてね。それと……あなたも星河学園の生徒なの? 新入生?」
「え、あ、はいっ! 今日から星河学園に通うことにあんります、桜宮和乃ですっ! よ、よろしくお願いします!」
 黒髪の少女は、和乃が何故ここまでかしこまっているのか分からない、といった様子で首を傾げていた。
 しかしやがて、そう、と短く返事を返すと身を翻して学園の方へと歩いていった。
「ここからならよっぽど遅く歩かない限り遅刻はしないわ。周りをよく見て、気を配りながら歩きなさい」
 言いながら黒髪の少女は去っていった。
 その背中を見つめながら、和乃は羨望の眼差しを向けながら吐息を漏らしていた。
「……美人だなぁ。三年生かな? あんな人が生徒会長だったらいいなぁ。あの人が生徒会の人なら、わたし生徒会に入ろう! お近づきになりたい! ついでに美人になる方法も……!」
 そこで和乃はハッとして学園を目指す。
 十分間に合う距離と時間ではあるが、彼女は再び走り出したい衝動に駆られてしまう。が、

 黒髪少女の忠告を思い出し、早歩きではなく普通に歩きながら、周りに気を配りつつ学園へと向かっていった。


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