[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
メール
| |
神下里草紙 〜The Most Happy Days...
2
:
ユリータ=ニットベスト
:2013/03/09(土) 15:16:56 HOST:host210146-27.tvm.ne.jp
第一話
足元から顔をあげてみると、桃色に包まれた校舎が見えた。別に、校舎は特別綺麗だ
というわけではない。校庭の桜の美しさが入学式の高揚感を伴って、より美しく、よ
り鮮やかに見えているのだろう。校舎は坂の上だ。自然と体が動き、私は坂を駆け上
がった。初めて着る制服は少し重く、肩掛けカバンもまだ慣れない。大きく吐く息は
弾み、膝で空気を蹴るたびに期待は膨らんでいった。
少し長い上り坂を登りきると、知ってる人、知らない人がたくさんいた。肩で息をし
ながら立ち尽くしていた。
「よっ!渓那!」
突然後ろから飛びかかられた。後ろを振り返ってみたら、
「なんだ、真琴かぁ…。びっくりした…」
大きな目に明るい表情を湛え、真琴が立っていた。私の親友で、付き合いも長い。
ところで、私の名前は井刈渓那という。可笑しな名前だけど、特にからかわれたこと
もない。強いて言うなら、音楽の授業で「ケーナ」なる笛が登場したときぐらいだと
思う、多分。
さて、さっき飛びかかってきた西宮真琴は、私と比べてもとても明るく、ハイテンシ
ョンだ。ほかの女の子とも仲がいいのだろう。それに…
私は、彼女の胸元に目をやった。
「…何、どしたの?」
ごめん、なんでもない。ただちょっとうらやましかっただけ。うん。
えー…。あ、そういえば、会っていない子がいる。
「あれ、天音は?まだ来てない感じ?」
長くサラサラした髪を撫でながら、真琴が尋ねた。
天音も、真琴と同じく長い付き合いの、私の親友。内気で、私たち以外とはあまり話
さない子だ。
「さぁ、まだ見てないけど…。もうすぐ入学式始まっちゃうけど、探しに行ってみる
?」
というわけで、校庭のフェンスから下を見て、黒いショートヘアの眼鏡の子を探した
。
「あ、いたいた。あれだ」
下を向きながらゆっくり歩いてくる天音を呼んだ。気づいて、私たちを見つけると、
硬かった表情を少し綻ばせた。頬には、相変わらずガーゼが貼ってある。やはり、何
かあるのだろうか。それにしても、天音が遅れてくるなんて。
「天音、遅かったみたいだけど…どしたの?」
尋ねると、無言でうつむいてしまった。何か言えない事情でもあるのだろうか。
「ま、いっか。行こ!時間ないよ!」
「そうね、急がないと」
天音はおとなしく、やはり無口だ。でも、いつもより口数が少ない。おそらく真琴も
そう思っていることだろう。
私は、天音の手を引いて走り出した。
入学式は無事執り行われ、私たちはいよいよ中学生となった。
私の家は母子家庭で、母さんは出張続きでほとんど家にいないから、一人暮らしのよ
うなものだ。真琴は両親が亡くしていて、おばさんの家に預かってもらっているらし
い。ドラマとかで見るように、冷たくあしらわれたりすることはないそうだ。今日は
仕事で来れないみたいだ。天音は確か、両親はいたはずだ。でも、滅多に合わない。
むしろ、会った記憶がない。それに、今日も来ていない。何かあるのかな?
まぁ、深読みはよしておこう。私たちはとりとめのない話をして帰路に就いた。別れ
際、天音はいつものごとく、こちらが悲しくなりそうなほどの寂しそうな顔を浮かべ
ていた。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板