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一年だけの契約

97絋暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/11/12(火) 23:37:53 HOST:wb79proxy06.ezweb.ne.jp
「治療を受けちまったら、たぶん……二度と外に出られない」
「……」

 久追は自分の行き着く先が見えている。体を蝕む病は、止まることを知らない。もし治療を始めたら、間違いなく今以上に体力を奪われ立ち上がることさえも難しくなるだろう。それを久追は理解していた。

「だったら動ける間に、あいつとの思い出を作りたいんだよ」
「久追……」

 残された時間はそんなにない。久追の体がどこまでもつのかも分からない中で、その時間をすべて病院暮らしに費やすのだけは久追にとって本位ではなかった。

「だから、俺がいなくなった後……ひよりを頼む」

 ベッドの上ではあるが、久追は山本に向かって初めて頭を下げた。それほどまでに久追にとってひよりは大切な存在だということを山本は口にされなくても察した。そして山本は小さくため息をついて頭を下げ続ける久追を見る。

「頭を上げなよ」

 促されて久追は顔を上げた。山本の表情は困ったような笑みを作り出している。腐れ縁とは言え、久追は他人に頭を下げるような男ではないことを山本は熟知している。だからこそ久追の行動に驚いたし、反面嬉しくも感じた。この複雑な気持ちを山本は掴みきれずにいる。でもこの気持ちはけして嫌なものではなかった。

「久追の気持ちは十二分に分かるから。……まったく、自覚した途端俺を利用するんだから、久追はやっぱり久追だよね」

 可笑しそうに山本は肩を震わせて笑う。久追もつられるように笑みを浮かべた。カーテンの隙間から差し込む夕日の赤。山本は肩越しに後ろの窓の外を眺めた。彼の顔が夕日色に染まる。

「……どんな手段を使ってでも守るさ。久追がいなくなったら、ひよりちゃんを守れるの俺だけだしね」
「……山本」

 夕日を眩しそうに見つめる山本の瞳に映るもの。それがなんなのか久追にはなんとなく分かった。視線を落として、久追はグッと拳を握る。分かったからこそ、滲み出る感情。これは怒りにも似たものだ。しかし、病で弱った久追には山本を殴り倒す力もない。眉間にシワを寄せて、小さく呟いた。

「……ふざけんなよ、山本」
「ん?」

 久追の声に穏やかな表情で山本は聞き返す。怒気の孕んだ久追の瞳が山本を射った。あからさまな久追の怒りに山本は苦笑する。本当にすぐ態度に出るところはなにも変わらない。


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