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一年だけの契約
81
:
紘暢
◆UvqP0LHSm.
:2013/08/01(木) 21:08:20 HOST:wb79proxy02.ezweb.ne.jp
久追はしっかりとひよりの手を取ったまま、迷うことなく倉庫の出入り口へと向かった。閉じられたシャッターの横にある扉を開けると、外の光が一気に倉庫内に広がる。そこでようやく男子生徒たちは人質を奪われて逃げられることに気付き、慌てて二人のほうへと走り出したが、すでに遅く、久追と共にひよりが倉庫の外へと出ていくのと同時に、暗闇の中、予め出入り口付近にいた山本も外へと走り出した。後ろを振り向けば追いかけてくる姿が目に入る。
三人は会話もない中、ひたすらに脇道を利用して走り続けた。どれほど走っただろうか、後ろを見ても追いかけてくる様子はなかった。
「なんとか逃げ切れたね」
山本が呼吸を整えながら口にする。他の二人も呼吸を整えるのに精一杯で言葉を発せない。立っていられないのか、その場に座り込んだ久追は、壁に体を預けるようにして呼吸を整えていた。その様子に気づいた山本が近づき、久追の顔色を窺う。
「大丈夫か?」
「……ああ」
そう口にしてはいるが、あまり顔色は良いとは思えない。
「少しでも俺が負担を軽減できればと思……」
思ったと告げようとした山本と、ひよりの前で久追は突如激しく咳き込み、最後は吐血してそのまま壁伝いに倒れた。
「久追!?」
「久追くん!?」
山本がすぐに駆け寄り、意識のない久追を揺り動かすが、反応はなかった。切羽詰まった様子の山本は、携帯電話を取り出すと、迷わず救急に連絡する。ひよりは何が起きたのか頭の整理が追いつかず、不安げに見下ろすだけだった。
「やっぱり限界だったんだ……」
山本が後悔するように呟く。
「センパイ……久追くん、どうしたんですか……?」
「……」
ひよりと問いかけに、山本はどう答えるべきなのか迷った。久追本人から口止めをされていたことを、今この場で告げても良いのだろうか。
「答えてください。なにも分からないままは嫌です!」
そうだ、なにも知らないひよりにとっては、久追に起きた何かを理解できるはずがない。なにも知らなくても、今の久追を見れば、彼がなにかの病気なのか火を見るよりも明(あき)らかではないか。
山本は覚悟を決めたように顔を上げ、まっすぐにひよりを見た。
「ひよりちゃん、ショックを受けないで欲しいんだけど……、実は……」
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