したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

−神様立候補−

3ムツ:2012/12/30(日) 13:51:38 HOST:softbank220024115211.bbtec.net

 −神様立候補−  −第一ノ部−

 一年が終わり、一年が始まったその日。神谷−律(かみや−りつ)は一人、家の近所にある神社に脚を運んでいた。
 もう零時を回った時間だというのに神社は人で賑わっていて、参道周りには祭りのように屋台が出ている。こんな時間まで店を出すのはお正月の特権だろう。短い前後の髪とは裏腹に、異様に長い横髪が冷たい冬風に流されながら律は神社本堂に少し急ぎ足で向かう。
 今年で高校二年生になるような者が、冬休み中の今、神社に脚を運ぶのはどちらかと言うと珍しい。そもそも律は近所で不良中学として有名だった天馬東中学校の元頭を勤めていた者だ。しかし今はきちんと足を洗いそれなりの高校生活を送っている。
 そんな律がどうしてこんなところにいるかというと…
 「…っお!こっち、こっち律ぅ〜!」
 「……っあ!」
 昔の、正確には中学時代の戦友と、久しぶりの再会だった。
 「…久方ぁ。っと、その前に明けましておめでとうございまぁ〜す…」
 本堂の裏にいる数人の男女の溜に向かって、深々と頭を下げる律。それを聞いて、皆が同時に「あけおめぇ〜」と軽い返事を返す。
 固くもなければ柔らかくもない。律はその性格と喋り方、そして硬い拳を持って中学時代に間違った青春を送っていた。本人曰く全く間違ったとは思っていなかったが。
 「あれ?リッチャン、冷ちゃんは?」
 丈長のスカートを履いた茶髪女が温かいお茶の入ったペットボトルを片手に持って律に問う。
 「冷夏(れいか)ならそのうち涼介(りょうすけ)と来るよ。今バイトで遅くなんだってさぁ〜。ったく、忘年会だからバイトなんて休めってんだよ…。なぁ!」
 『さんせぇ〜い!!!』全員のそろった声の後にどっと笑いが広がる。
 「ククッ…。まぁ、そういうことなら先にはじめようぜ、忘年会!…ほれ、大将。あんたの茶だ」
 一人の男が片手に握っていたペットボトルを律に放り投げる。それを華麗にキャッチした律は「大将はやめてくれよぉ〜」と苦笑しながらキャップを開ける。
 「ハハッ。…ということで、もう年明けちまったけど…遅めの忘年会っツーことで……――カンパーイッ!!」
 『カンパーイッ!!!』
 全員は片手に握った温かいお茶を一気に半分ほどまで飲み干す。冬風の冷たい今、暖かいそのお茶だけが冷え切った体を暖かくしてくれる。
 「ん〜〜!美味いっ!やっぱ年明けは緑茶だよなぁ〜…!親父は酒が一番だなんて言ってっけど、やっぱ緑茶だよぉ〜…」
 そう言う男に皆笑いがこみ上げた。「オヤジくさぁ〜」や「俺ら酒飲めねぇだろ?」など言葉を返す者もいる。
 この場にいるもの全員は、不良と崇められていたのは確かだが、大将であった律との約束『酒及び煙草の、体に損害を与えるものの飲食着用を禁ずる』というものがあったため、皆は今まで警察に世話になる行為は一切してこなかった。カツアゲは多々あったが…
 「……っあ、俺らなんか食い物買ってくるよ。なんか食いてえ物あるか、元大将?」
 一人の男が律の顔を笑いながら見て聞くと、ペットボトルに付けられていた口を離し「いや、なんか適当なもので良いよ。つか、元大将も止めてくんない…。悲しいから…」と軽い口調で返した。それを聞いて今まで座っていたものがまた笑いながら全員立ち上がり、「っじゃ、行ってきマース」と呟いた。律は驚いた顔で「全員行くなら俺も行くよ」と返した。っが
 「いや、良いよ別に。冷ちゃんと涼介が来て誰もいなかったら困るだろ?」と返されてしまった。
 「だからって…」
 なんで俺だけ……。そう言いたげな顔を見てか見ずか、全員笑って本堂裏から屋台のある表まで歩いて行った。
 「…ったく、なんで俺が置いてけぼり喰らわなきゃいけないんだよ。冷夏や涼介だって、来て誰もいなかったら電話ぐらいするだろうが…」
 置き去りを食らわされた律は分が悪いような顔で愚痴を零す。中学時代は置いてけぼりなんて一回も喰らったことなどなかった。喧嘩だろうが期末テストだろうが皆が皆一緒にやっていたというのに。それもこれもあの頃とは全てが変わったからだろう。
 「……はぁ〜…。なんで人って成長するんだろぉ〜…。この際、全人類が一定の年齢でストップしちまえばイイのに。そうすりゃぁ、人なんて死なないんだろうに…。はぁ〜…――」律が何気に呟いた時。
 『――…ガサッ……』
 「…ん?」
 風も吹いていないというのに、本堂裏の小さな林が何故かなびいた。律は何事かとペットボトルのキャップを締めようとした時――
 『shwosikdnqxqんぢhwくぃおdxjんmxs』
 日本語とも外国語とも取れない言葉を発しながら、黒い塊が律の視界を闇に染めた。
 そのまま律は闇に飲まれ、何処かへと消えていった。
 その後に残ったのは地面に転がるペットボトルから溢れる温かいお茶だけだった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板