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Breather

3ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/09/16(日) 11:39:13 HOST:EM117-55-68-26.emobile.ad.jp


   Breather


 わたしには、一つ上の彼氏がいた。
 といってももう別れたわけで、もうわたしには関係ない存在なんだ。

 毎日毎日、彼にお弁当作るのも疲れて飽きたころだったし、それにずっと尽くしてきたから。
 だからもう、疲れきったから――いいんだこれで。
 そう自分に言い聞かせているうちに涙があふれでてきたのがわかった。

 なんで、なんでさみしくないのに。
 ぽつりと心の中でつぶやいた瞬間、幼馴染の健(たける)が後ろから呆れたように声をかけてきた。


「ばーか、強がんなよ」
「強がってなんか! わたしはこれでいいと思ってるもん!」
「本当は寂しいくせに」


 ふっと笑ってその場を去っていく健の背中を見つめて、目が熱くなるのがわかった。

 そうだよ、寂しいよ。
 疲れたのも飽きたのも嘘。
 心に大きな穴が開いたみたいに辛くて苦しくて、彼の幸せを願いたいのにやっぱりどうしても嫌な気持ちにしかなれない。

 今日だって見てしまったんだ。
 彼の新しい彼女がお弁当を作ってあげて、彼の隣で仲良く楽しそうに食べているところ。
 そこはわたしの居場所なのにって、胸がズキリと痛んだ。
 でもわたしはもう違うんだ。
 彼にとっては他人といってもいいくらい、どうでもいい存在なのかもしれない。


「……もうやだ、苦しいよ」


 そうつぶやいた瞬間、携帯が鳴りだした。
 彼からの電話だ。
 わたしはもうどうでもよくなって、それでもどこか期待をしながらそっと電話に出る。


「もしもし」
『梨花(りか)が泣いてるって聞いて電話したんだけど……何かあったか?』


 彼の――日向(ひなた)くんのこういうところを好きになってしまったんだ。
 突き放すならもう優しくしないでほしかった。


「……ほんとはっ、日向くんと別れたくなかったよお……」


 泣きながらそう言うと、日向くんは驚いたような声でつぶやいた。


『梨花……』
「ごめんね、泣いて……日向くんには彼女がいるのに」


 日向くんは、一単語分あけて寂しげにつぶやいた。





『別れたくなかった、今だって大好きだ』





 驚きで言葉が出なくなった。
 でも何があったのか尋ねようとしたらもう電話は切れていて――わたしと別れたのには、何か深い意味があるんだなって思った。
 

     ×


 時刻は五時。
 休日でも自習しにきた生徒や部活をしている生徒のために、学校は開いていた。
 わたしは部活に入っているわけではないけれど、バスケ部の日向くんをずっと見てきたからわかる。
 この時間帯は、バスケ部は休憩時間だ。
 そしてその時間に、わたしは屋上にいた。


 人を待つために。


 ガチャリと、屋上のドアが開いた。


「日向くん……呼び出してごめんね」


 どうしても、話が聞きたくて。
 日向くんは少し言いずらそうに言葉を詰まらせたあと、ぽつりとつぶやいた。


「俺、そろそろ死ぬんだ」
「え……」


 冗談かと思った。
 嘘だよって言って、笑ってほしかった。
 なのに日向くんはとても辛そうな表情で――微笑んだ。


「どうしてもっと早く言ってくれなかったの?!」
「そしたら梨花は傷つくだろ? 梨花の傷つく顔を見たくないから振ったのに、そしたら梨花が泣いてるって聞くし」


 わたしはぽつりとつぶやくように聞いた。


「いつ……死んじゃうの?」
「余命一年だって――まだ運動とかも許されてるっていうか、俺がただ続けたいっていってやってるだけなんだけど」
「一年……」


 短いよ。
 やだ、日向くんと別れるなんて考えられない。


「……ごめ、ん」


 日向くんが謝ったあと、何かつぶやいたような気がした。
 小さな声すぎて聞き取れなくて聞き返そうとした瞬間――


「日向くん?!」


 日向くんが、倒れた。


     ‐


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