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小説家になろう!
37
:
傷羽
:2012/03/20(火) 15:07:26 HOST:ntehme084254.ehme.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
08 おんみょうじのごう
「・・・・・そりゃねーだろ。」
下された命を聞いて、彼は開口一番そう言った。
あまり広くはないが、焚きしめられ仄かに香るお香がある種の威厳と静けさを醸し出しているような和室だった。
彼は目の前の人物の表情を伺う。
「しかたあるまい。」
香るお香のようにしっとりとした老婆の声が答えた。
有無を言わさぬ声色ではあったが、決して強いわけではない。
それはまるで木々を揺らす風のような・・・、そう、まさに逆らいがたい悠然さに満ち満ちていた。
その神秘的な雰囲気を兼ね備えたのは、老尼。
色白の面は老いのみすぼらしさなど欠片もない。
ただ永い年月を経た威厳がそのまま顕れたかのようにしわが刻まれている。
彼を見つめる双眸は慈愛に濡れたようである。
そこには年齢に関係ない美しさが宿っていた。
そしてどこか茶目っ気を含んだ微笑みが、下手をすれば神格さえも感じる老尼に、身近な空気を与える。
その猫のような微笑みを受けて、しかし彼は不満を漏らす。
「だがな・・、ここまでする必要があるか?そこまで信用ないかね、オレたち。」
「そういう問題ではない・・とわかっておろうに。」
「しかし、」
「おまえがおもしろくない、と思うのは儂もわかっておる。
だがわかっておろう?
おまえたちがまた“この世”に喚ばれるのが、まさかこうも時がたつとは・・。」
「・・・・・・わかっている。その間あんたひとりで切り盛りしてくれていたのには感謝してる。」
彼は肺を空にするような深いため息をついた。
「・・・・・・・・・・・300年、か。」
彼のこぼれるようなつぶやきに、老尼も静かに、深くうなずく。
「そう・・・、これだけの時を、あの者は待った。」
「待った・・じゃねえな。蓄えていたんだろう、・・・・力を。」
それきり、二人の間に沈黙が落ちた。
しん・・・。
新雪が降る草原のごとく、ただ静かに二人は黙る。
「・・・・・・・・・・・これも、所詮は我らの業。」
降り積もる沈黙の中、老尼は震えるようにそう言った。
「ああ。」
老尼の溶ける雪のような静かな声と正反対の、木々を轟、と燃やす篝火のような声が応える。
そう。
これは自分たちが生んだ業。
そして・・・・、陰陽師の、“この世”の業。
前まではそれを承知の上で誰も彼もが戦っていた。
しかし今はどうだ?
陰陽師は人々を守るという大義の本当の意味も、自分たちの業も忘れ去った。
ただ“あの世”からこぼれおちる雑魚を滅し、なまじ能力のある一族故に、己らこそ最強、絶対の正義と勘違いしている。
そうだ。
勘違いだ。
彼らは何もかも忘れた。
自分たちが・・・・・・・・・・・・・・何をしたのか。
「殺すさ。」
「・・・・・・ああ。」
殺さなければならない。
陰陽師の業は決して赦してはいけない。
それでも、されるがままに“この世”を蹂躙させるわけにはいかないのだ。
自分たちは、ただそのためだけに“この世”に生まれてくるのだから。
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