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小説家になろう!
24
:
傷羽
:2012/03/16(金) 14:37:05 HOST:ntehme084254.ehme.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
05 とうばつするもの
小鳥がさえずり、朝日が日本庭園のため池をきらきらと反射させている。
広大な敷地の日本家屋。
歴史的建造物といっても過言ではない重々しい風格をもつ篁宗家。
その家屋の一部屋。
篁家宗主の私室。
ぱたん。
ファイルを閉じる音が、それだけが和室に響く。
「・・・・・・・・。」
スッ、と両の眼を刮目させた宗主の瞳に映るのは、宗主の最愛の一人娘にして、時期宗主の地位を約束された少女。
平安の姫君を思わせるような腰までとどくたおやかな黒髪。
強い意志がこもった気強そうな瞳。
白くなめらかな肌が際立つ、漆黒のセーラー服を身にまとった篁八重だった。
「八重。」
宗主の唇が震えるように、わずか、動く。
「――はい。お父様。」
凜とした声が、打てば響くように返ってくる。
今朝、篁家にひとつの知らせが舞い込んだ。
いはく、
警視総監が自宅で、体の半分を食いちぎられたような、無惨な死体となって発見された、と。
明らかに人間の所行ではない。
八重は遺体を直接目にしたわけではないが、その損壊の具合は報告書で知っていた。
半身が無くなっており、そこから内臓がだらりと垂れていた。
部屋一つがまさしく血の海。
第一発見者の警視総監の部下がその場で嘔吐し、細君はショックのあまり寝込んでしまわれた。
世間に公開できる事件ではない。
細君や部下、そのほか警視総監と親しくつきあっていた人間にはほどなく記憶修正が行われるらしい。
警視総監の死は心臓発作と発表されるだろう。
八重は、確信していた。
これは、妖のしわざ。
討伐命令は・・・・・・自分に下りるだろう。
八重は拳を膝の上でグッと握りしめた。
これは、挑発だ。
命に差をつけるわけではないが、警視総監といえば、治安維持において最も重要な人物。
篁家をはじめとした陰陽師達ともそれなりに密な協力関係があった。
それを・・・・・・・、あえて、殺す。
見せしめ、何らかの宣告、挑発。
いずれにせよ、奴は、妖は、この篁家を馬鹿にしているのだ。
赦されない屈辱だ。
犬畜生にも劣る妖に、人々を守るという大義を掲げし絶対的正義、篁家がなめられている。
殺す。
何のためらいもなく思う。
この篁家を馬鹿にするということがどういうことか、その身に知らしめてくれる。
篁家への冒涜を雪ぐ。
八重は、確信している。
それをできるのは自分であり、命じられるべきも、自分である。
「八重。」
「はい。」
「おまえは、この件においては手を出すな。」
「っは―――?」
八重は思わずつんのめった。
今、父はなんと言った?
「別命在るときのみ、おまえには動いてもらう。良いな。」
「―ちょ、ちょっと待ってください!」
絶対に正しいと思っている父の言葉に、八重はこのとき初めてもの申した。
「なんだ。」
父はいつもと変わらず落ち着き払った声色である。
「私が動かないって・・・、え?・・だ、誰を動かすというのですか!?」
戸惑いはやがて反感となった。
よもやこの自分が他の連中よりも、親愛なる父に軽んじられているのでは。
「・・・・・・・。」
父は目を伏せた。
言うべきか、思案しているようだった。
伏せたままで、父はやがて静かに告げた。
「いずれ、おまえにも教える。今は、早い。」
奇妙な答えだった。
「で、でも――――」
「もう良い。下がれ。」
なおも食い下がる八重に父がピシャリとはねつける。
むぐ、とひるむ八重。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・。」
無言の抗議でも、やはり父は動じず、すました猫のように表情一つ動かさない。
「・・・わかりました。」
根負けしたのは、結局八重だった。
立ち上がり、襖に手をかける。
「・・・。」
最後の抵抗として、ちら、と父を上目遣いに見る。
「・・・。」
その視線もどこ吹く風。
父は目も合わせようとしない。
ぱたん。
襖を閉める音だけがむなしく響いた。
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