[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
メール
| |
小説家になろう!
16
:
傷羽
:2012/03/14(水) 17:48:13 HOST:ntehme084254.ehme.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
03 たかむらけ
獣の姿をした妖を討伐した八重はその足で帰路についた。
都内の中心地にほど近い、広大な日本家屋。
一般人が見れば歴史的建築物かと思いそうな、風雨にさらされて長い年月に染まった、しかし手入れの行き届いた屋敷だった。
その厳格かつ和の静寂に満ちる門をくぐり、石畳の道を元気の良い足音が打つ。
八重の気の強そうながらも可愛らしい顔には言いつけ通りに討伐を果たした充実感に満ちていた。
それは、工作の時間にうまく出来た作品を先生に見てもらいたくてたまらなさそうにしている、幼子の笑顔。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ。」
八重のはきとした声に、帰宅時刻を正確に計算したように、静かな恭しい声がかけられる。
着物姿の女中が三つ指をたてて、八重を――篁家宗主の愛娘を出迎える。
八重は彼女に学生鞄を預けてから革靴を脱いでそろえる。
付け焼き刃ではない、楚々とした物腰は彼女が両家のお嬢様であると言わずとも伝えている。
先刻での戦いの荒々しさなどかけらも見せない。
年季が入っていながらも磨き上げられた廊下は厳かな雰囲気を持ち、
それを歩く八重は、間違っても京都の寺院を訪れてはしゃぐ修学旅行生のような場違いさはない。
その堂々とした、しかし自然体である様はまさに百年に一度と賞賛される、陰陽師。
八重は一つの部屋の前で立ち止まると、スッと襖をひく。
「お父様。八重、ただいま戻りました。」
凜とした声が、良い香りのする畳の和室に響いた。
「おお、八重か。」
和綴じの書物に目を通していた、お父様と呼ばれるには若々しい印象を与える男が振り向く。
落ち着いた色合いの和服に身を包み、やはり静かな威厳さえ感じるその和室に、違和感なく座す。
切れ長の一重まぶたには和やかな空気がにじみ、厳とした雰囲気の面が優しげになる。
彼こそが篁家現宗主。
篁藤二。
その人だった。
「封印の破れた妖、たしかに討伐いたしました。」
「ご苦労。」
しっとりとした心地の良い男声がねぎらいの言葉をかける。
それだけで八重は、まさに大きなつぼみが花開き、美しさの絶頂を咲かせるような笑顔になる。
八重は幼い頃に病で母と死別し、それからも惜しみない愛情をかけ、
自分に寂しい思いをさせまいとしてきてくれた父の思いを正しく理解し、故にこの強く誇らしい父のことが大好きだった。
「学校には慣れたか。」
「はい。凪沙と深雪とも同じクラスでした!」
陰陽師と宗主との会話を終えた二人は父娘としての会話を弾ませる。
「そうかそうか。」
父は娘の楽しそうな笑顔に頬を緩めた。
「担任の先生は井上先生という方で―――」
娘は父の笑みにさらに笑顔を濃くして話し続ける。
それは、なんということもない。
ただの家族の、それ故に幸せな光景だった。
自分たちを滅ぼさんと憎悪を煮えたぎらす、狂気が再び目覚めたとも知らずに・・・・・・・・・・・
彼は自分の手首にカッターナイフの薄刃を添える。
それをスッ、と引くと、少年の肌に真っ赤な線が生まれた。
その線から真っ赤な血がぷっくりとふくらみ、その血の珠は表面張力の限界を超えて、
ポタポタポタ・・・・
と落ちる。
そして少年の薄い唇から、すべてを焼き尽くさんばかりの決意を燻らせる、しかし痛々しく悲痛な声がこぼれた。
「・・・・・・・・・・・・来い。」
そう、“来い”と・・・・。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板