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蝶が舞う時…。 ―永遠―
60
:
燐
:2012/01/19(木) 13:46:23 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…付き合ってたけど…別れたの…。少し距離を置かないか。なんて言われたから。」
私は自分自身の身体を抱えて蹲った。
「誠が?ふーん。そんな事言うんだ。アイツさ…俺と初めて会った時、全然口聞いてくれなかったんだぜ?
何かさ…帰ってくれ!って感じだったんだよな…。」
亮介は未だに笑いながら言った。
それって私と同じ…。
半年前…誠と初めて会った私もそうだった。
人と関わるのが怖くてずっと脅えていた。
誠と私は何処か接点が似ていてまるで対になる関係。
「でもアイツは半年前ぐらいから変わった。引越しして変わったんだ…。
それはきっと誠にとって大切な存在が出来たからだと思った。」
亮介は上を見上げながら呟く。
「そうだったんだ…。」
そう言うと亮介は私を優しく抱き締めた。
「ちょっと…。」
私は亮介の身体を引き離そうとしたが、女の力ではどうする事も出来なかった。
「…夜那ちゃんが今でも誠を好きでも構わない。俺と付き合ってくれない?」
亮介の言葉に私は黙り込んだ。
61
:
燐
:2012/01/19(木) 14:34:22 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…いいの?さっきも言ったけど私と付き合ったら何時か絶対裏切るよ?」
私は目線を逸らして言った。
「いいよ。覚悟は出来てるし。」
亮介は私の背中を擦りながら言った。
あぁ…この人は何処まで優しいんだろう…。
如何してこんなに優しくしてくれるの?
“甘え過ぎ”
頭に誠のあの言葉が過る。
もう甘えちゃ駄目なんだ…。
此処最近…ずっと誠に甘えてたからあんな事言われたんだ…。。
そう思うと涙が溢れてくる。
「Don't cry.」
亮介はそう呟くと私の唇を塞いだ。
亮介…。
その時瞬時に私はハートのペンダントを握った。
自分を見失わないように。
「あっ…ごめん…。」
亮介は私から静かに唇を離した。
「…どうして…。どうしてなの…!!」
私は亮介の身体にしがみ付いた。
亮介は黙って私の身体を包み込む。
亮介のキスは誠の物と変わらなくて思わず涙を流してしまった。
「亮介…。お願いがあるの。」
「何?」
亮介は優しく問い掛ける。
「誠の変わりになって欲しいの…。」
62
:
燐
:2012/01/19(木) 15:28:55 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
その言葉に亮介は驚いた顔を見せた。
「本気なの?夜那ちゃんは。」
亮介は訊く。
「…本気です。」
私は答える。
「ふーん。そんな童顔で言われても困るんだけどね。」
亮介は笑いながら言う。
「童顔って何?」
私は首を傾げて言った。
「子供のような顔をしてるって事。分かった?」
亮介は私の額にデコピンを一発した。
「痛いよ…。」
そう言った瞬間、玄関方面でガタンと言う音がした。
瞬時に私と亮介の身体は離れた。
「何で亮介が此処に居んだよ。」
誠は部屋の扉越しで頭を掻きながら言った。
「おっ!誠いい所に来たな。今日は此処に止まらせてもらうからな。」
亮介は誠に駆け寄り、ニコニコ笑顔で言った。
「不用意によく言うぜ。ま、いいけどな。」
誠はそう言うと私を一瞥せず2階に行ってしまった。
63
:
燐
:2012/01/19(木) 16:15:26 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
私の存在は誠の眼中には映っていない。
そう思った。
「アイツ…何であんな怒ってんだ?意味分からん。」
亮介は不機嫌な様子で階段を見つめていた。
怒ってた?
行かなきゃ…誠の所に。
でも足が竦んで進まれない。
「夜那ちゃん?」
亮介が心配そうに私に問い掛ける。
両手が震えていた。
私は誠に脅えているの?
今はきっと誠の所に行かない方がいい。
またあの時のように追い返されるだけだ。
「大丈夫か?手震えてるけど…。」
亮介が私の両手を優しく握り締めてくれた。
亮介の雰囲気は何処か誠に似ていた。
笑った顔も心配してくれる顔も誠に似ていた。
「亮介は誠に似てるね…。誠が二人居るみたいで面白い。」
私は泣き笑いながら言った。
64
:
燐
:2012/01/19(木) 18:05:04 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「それって褒めてんの?」
亮介には理解が出来なかったようだった。
「褒めてるとかそんなんじゃない。きっと亮介が居れば悲しくても笑える。
そう思っただけ。」
私は笑顔で言った。
いつの間にか涙は止まっていた。
「俺が居れば笑える…か。そんな事言われたの夜那ちゃんが初めてだ。
サンキューな。」
亮介はそう言って私の頭を撫でる。
その仕草が如何しても誠と被った。
「誠…。」
65
:
燐
:2012/01/19(木) 22:33:19 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
私は思わず亮介の身体に抱きつく。
改めて亮介に抱きつくと誠と同じ温度を感じた。
「夜那ちゃん?」
亮介は心配そうに抱きつく私の頭を撫でる。
誠じゃないって分かってる。
分かっているけど…似てるんだよ?こんなに。
誠の温度や仕草までもが似ているんだよ?
誠はもう以前の頃の誠じゃない。
狂ってるんだ…。何もかも…。
だから私の存在なんて無視した。
絆…。そんな物は私と誠の間にはない。
もう縁なんて切れたんだ…。
だから赤の他人になる。
なのに涙は無償に溢れてくる。
「大丈夫?さっきから泣いてばっかだけど…。」
亮介は私の顔を覗き込んだ。
もう誠の事は忘れなくちゃ…亮介に悪い。
「うん。大丈夫。あのね亮介…。」
私は静かに呟いた。
「ん?」
亮介は訊く。
「…誠の事はもう忘れたいの。忘れるにはどうすればいいかな?」
「そっか…。それで後悔しない?」
亮介の言ってる意味が分からない。
でも私は言ってしまったんだ。
「うん。後悔しないよ。もう決めたから。」
「分かった。」
亮介はそう言うと私の頬に手を添えてそっと私の唇を塞いだ。
66
:
燐
:2012/01/20(金) 12:00:11 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
――――…
「…な…夜那…。」
何処かで私を呼ぶ声がする。
“誰…?”
「う〜ん。。れ…ん?」
私はうっすらと目を覚ました。
「良かった。目を覚ましてくれて。」
憐は笑顔で私を抱き起こしてくれた。
「憐…。」
名前を呟いた瞬間、目に溜めていた涙が音を立てて溢れ出した。
「いやぁぁぁぁ!!!」
私は憐の身体がしがみ付いた。
ポタポタと大粒の涙を零しながら憐の身体に顔を埋める。
「大丈夫?」
憐は優しく問い掛ける。
「憐…。」
「あら夜那じゃない。久しぶりね。」
憐の後ろに誰かが居た。
姿を現したのは影の私だった。
「何勝手に出て来てるの?夜那が怖がってるよ。」
憐は言った。
「そうだったらごめんなさい。」
67
:
燐
:2012/01/20(金) 14:30:34 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
影の私は深く頭を下げた。
「滅相も無いよ。はは…。」
私は笑いながら言った。
「で、今日は陽の夜那に紹介したい人が居るの。きっとびっくりするわ。」
影の私はそう言うと奥の方から誰かがやって来るのが見えた。
「えっ…。」
その誰かはすぐに分かった。
「此処では初対面だな夜那。」
その誰かは誠だった。
現実世界とは全然変わらない誠の顔、容姿。
何もかもが現実世界の誠だった。
でも此処に居るのは影なんだ。
本物じゃない。
「…っ。」
私はゆっくりと立ち上がった。
唇が微かに震えていた。
「夜那。」
影の誠が私を優しく抱き締めた。
温かくないのは変わらなかった。
影と言う存在だから体温が無い事ぐらい分かっていた。
これが甘え過ぎとか…。
ずっと人に頼ってちゃ駄目なんだよね…。
誠は私にそう気づかせる為にあんな事言ったのかな?
私は静かに誠の身体から離れた。
68
:
燐
:2012/01/20(金) 16:03:19 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「私…行かなきゃ…。」
私は静かに後ずさりをした。
「陽の俺を止めに行くんだな。」
影の誠がふと呟いた。
「うん…。もし事件が解決したら誠と共に此処に来るよ。」
私は笑顔で言った。
「そうか…。じゃ気長に待ってるな。」
影の誠は私の頭を撫でてくれた。
「うん。」
「何だ。もう帰っちゃうの?」
影の私は何処か納得の行かないようだった。
「うん。ごめん…。」
「謝んないでよ。しょうがない事だし。」
影の私は笑いながら言った。
「ありがとう…。」
69
:
小説家の神児
:2012/01/20(金) 17:13:23 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
感想
書きたいものを書くだけじゃ、つまらない。
自慰小説であり、評価は低し。
読者への、意識足らず。
もっと、意識すべき。
趣味止まりなら、特に構わず。
70
:
燐
:2012/01/20(金) 17:18:29 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
69>>荒らしと見なします。
こっちは趣味で書いてるんですからほっといてください。
71
:
小説家の神児
:2012/01/20(金) 17:27:54 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
感想や評価は、大歓迎は、嘘なんだね。
過去の自分と今の自分は、違うもんね。
荒らしじゃないよ。
趣味ガンバんべ。
72
:
球磨川禊
:2012/01/20(金) 17:31:06 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
中二病って、病気があるらしい。
73
:
黒神めだか
:2012/01/20(金) 17:31:53 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
荒らしとみなされたから、荒らします。
法には触れないことだから、大丈夫。
74
:
黒神めだか
:2012/01/20(金) 17:32:26 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
将来大物になるよ、ある意味。
75
:
燐
:2012/01/20(金) 17:34:35 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
荒らさないでください。
76
:
僕
:2012/01/20(金) 17:35:22 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
昔、君に僕のスレ荒らされたから、仕返ししたんだよ。
君は、覚えてないだろうけど、これは、因果応報というんだ。
趣味でやってたのに、上から目線で感想禁止と書き込んだにもかかわらず、
君は、僕のスレに上から目線の感想を書き込んだ、反省してないようだから、やり返した。
77
:
僕空
:2012/01/20(金) 17:36:02 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
ごめんね、君も悪気なかったんだろうね。
応援してるよ。
78
:
燐
:2012/01/20(金) 17:36:03 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
そうだとしたらごめんなさい。
79
:
ルキフェル
:2012/01/20(金) 17:38:56 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
仲直りしよう。
僕は、君には、これから迷惑かけないから。
バイバイ。
僕の悪口は、言わないでね、どこのスレにも書き込まないでね。
バイバイ。
80
:
燐
:2012/01/20(金) 17:39:33 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
分かりました。
もし破った場合、この掲示板を去ります。
81
:
燐
:2012/01/20(金) 17:41:30 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
後・・どこのスレにも書き込まないと言う事は
人が書いた小説のコメントも駄目なんでしょうか。
82
:
計ちゃん
:2012/01/20(金) 17:42:07 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
小説の続き、どうぞ書きなんし。
83
:
玄野計
:2012/01/20(金) 17:44:36 HOST:ntfkok250252.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
悪口とか、誹謗中傷のこと。
少し前に、君に嫌な感想を書き込まれたから、君にも分かってほしかっただけ。
嫌な書き込みは、誰に対しても禁止ってことだよ。
ネットでの不快な感想はやめてほしいってだけだよ。
84
:
燐
:2012/01/20(金) 17:46:03 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
分かりました。
ご丁寧にありがとうございます。
85
:
燐
:2012/01/20(金) 18:22:40 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
――――…
「ありがとう…か。」
私はうっすらと目を開けた。
夢はそこで途切れていて、私は有耶無耶な記憶が辿っていく。
あの後…どうしたんだっけ?
あれ?思い出せない…。
86
:
燐
:2012/01/20(金) 18:59:13 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
何で?
理由が見つからない…。
それに私の手元にはいつの間にか小さな花束が置いてあった。
「何これ…。」
私は花束をじろじろ見ながら呟く。
誰が置いたんだろう…。
と言うよりこの花は何て名前なんだろう…。
花の見た目はアヤメと言う花に良く似ている。
でも何処か違う…。
花屋の南さんに聞けば何の話か分かるよね。
私はふと時計を見た。
「7時半か…。まだお店は開いてないよね。」
それでも私の足は玄関に向かっていた。
私は茶色のサンダルを履いて玄関の扉を開けた。
扉を開けると冷たい風が身体中に吹き抜ける。
朝方だからこんなに寒いのは当たり前。
でももう3月…。寒いけどもうすぐで春がやって来る。
私は花束を抱えて花屋さんに向かった。
87
:
燐
:2012/01/20(金) 20:11:01 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
第3章 憎愛
足が寒い…。
そりゃそうだ。
サンダルにパーカーで外に出て来たから寒いのは当たり前。
ズボンはショートパンツなので余計に寒い。
うぅ…。
今日に限って風はやたら強い。
私は花束が飛ばされないように両手でしっかりと抱え込んだ。
数歩歩いただけで身体が飛ばされそうだったが、進んだり、止まったりしながらやっとの思いで花屋に着いた。
窓越しに中の様子を伺うがやっぱり開いてない。
どうしよう…。
ここで一層待った方がいいのかな?
それとも引き返す?
そう迷っていると後ろから声を掛けられた。
「あら夜那さんじゃないですか。今日はどうしたんですか?
まだ開店前ですよ。」
その声に後ろを振り向くと南さんが紙袋を抱えて立っていた。
88
:
燐
:2012/01/20(金) 22:43:11 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「えっと…その…。」
私がモジモジしていると南さんは明るく呟いた。
「とりあえず中入って。朝は冷えるし。」
南さんはいきなりタメ口になる。
何かもう友達関係になっちゃってる…。
うぅ…年上なのに…。。
「夜那ちゃん。さぁさぁ入って。」
南さんは紙袋を地面に下ろして店の扉の鍵を解除して扉を開ける。
扉を開けた南さんは再び紙袋を抱えて、店内に入る。
私もそれに乗せられて店内に足を踏み込む。
店の中に入るとほんのり暖かい。
南さんはカウンターに抱えてた紙袋を置くと、店内の電気を付けた。
「あの…南さん。」
私は言った。
「何かしら。」
南さんは振り返る。
「あの…この花の名前を知りたくて此処に来たんですけど…。」
私はそう言って南さんの目の前に花束を差し出す。
「これね…。ジャーマンアイリスって言う花よ。花言葉は伝言よ。
あっ…そうだわ。少し待ってて。」
南さんはそう言うと店の奥に行ってしまった。
89
:
燐
:2012/01/21(土) 22:00:13 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
私は静かにカウンター席に座った。
ジャーマンアイリスの花言葉が伝言って事はどう言う意味だろう?
私にはさっぱり意味が分からなかった。
恐らくこの花束を私にくれたのは誠だろう。
でも何で?
私に伝えたい事でもあるのだろうか。
そんな事を考えていると南さんは何かを片手に戻って来た。
その何かを私の目の前に差し出す。
何かとは白い洋形封筒だった。
その封筒の真ん中には丁寧で小さな文字で“Dear夜那”と書かれていた。
私は封筒の封を丁寧に切って封筒の中身をそっと取り出す。
出てきたのは一枚の白い紙。
如何してかその白い紙に何となく重みを感じた。
私は紙を広げ、中の内容を静かに目で追って行った。
90
:
燐
:2012/01/21(土) 22:14:04 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
『夜那へ
いきなり手紙って言う形になってごめんな。びっくりしただろ。
でもどうしてもお前に伝えたい事があって、手紙と言う選択をした。
俺さ…昨日の夜那と亮介の光景を見て一瞬焦ったんだ。
その時亮介は密かに夜那に好意がある事ぐらいは見当がついていた。
でも今の俺にはどうする事も出来ないから…そのまま流したけどさ。
亮介は俺と似てて一途な奴だし、サバサバしてるし…俺にとっては最高のダチだ。
お前が亮介を選ぶなら俺は何も言わない。と言うかもう別れたんだし。気にする事ない。
あの頃は本当にお前が好きだった。でも付き合って行くうちに俺の気持ちに余裕が無くなって来て…。
一旦、俺はお前に距離を置かないか?と言う選択を選んだ。でも夜那には誤解を招くような感じになってしまってごめんな。
俺はいつの間にかこんな風に狂ってしまってさ…。本当に申し訳ないと思ってる。
俺の事はもう忘れてくれよな。 ただそれだけ言いたかっただけだから。
じゃあな。
神頼 誠。』
91
:
燐
:2012/01/21(土) 22:55:36 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
全部読み終えると私は手紙にポタポタと大粒の涙を零した。
気にする事ないって…自分が一番気にしてるじゃない…。
忘れる事なんて出来ないよ…。
嫌だよ…。
何で`簡単に忘れろ′なんて言えるの…?
それにあれが誠の本心なの?
普通に考えたら本当かもしれない。
でもそうじゃない気がする…。
私は紙を強く握り締めた。
「大丈夫?」
南さんが私にピンクのハンカチを差し出す。
私はそれを無言で受け取った。
「…南さん。」
「ん?何?」
南さんは私に紅茶の入ったカップを差し出しながら言った。
「…私ってこの世界に必要なんですかね。」
私は俯きながら呟いた。
「…何でそんな事言うの?」
南さんは優しい言葉で私に問い掛ける。
「だって…だって…私と居た人は皆不幸になっていくような気がするんです…。
私がこの世界に居た駄目なのかな?って…思ってしまって…。」
私は泣きながら言った。
「この世界に必要でも不必要でもそんなの関係ない。それに私が居たら皆不幸になるって事も
考えすぎよ。もしそう思うなら本当に今まで周りに居た人が不幸になったりした?
そう考えてみると実はそうでもない事もあるものよ。」
南さんはコーヒーを啜りながら言った。
南さんのその言葉は私の心に大きく響いた。
たしかに考えてみると…意外とそうでもないかもしれない。
単なる思い込みかもしれない。
「後ね…もう一つ預かっていたの。誠さんから。」
そう言うと南さんは私の前に赤いリボンで結ばれた小さな白い箱を置く。
92
:
燐
:2012/01/21(土) 23:01:23 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「開けていいんですか?」
私は訊くと南さんは頷いた。
私はゆっくりと赤いリボンを解いて箱を開けた。
「これ…。イヤリング?」
箱の中身は三日月型の可愛いイヤリングだった。
イヤリングの中心はステンドグラスのように少し色がついていた。
イヤリングとかつけるのは初めてだった。
今まであまりお洒落とかに興味はなかったが、何処かこのイヤリングに惹かれていた。
93
:
燐
:2012/01/22(日) 10:56:10 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「つけてあげよっか?」
南さんはニコニコ笑顔で言う。
「お願いします。」
私は南さんに三日月型のイヤリングを渡す。
「あら。これは穴開けなくても大丈夫なヤツね。」
南さんはイヤリングを持って私の隣まで来てくれた。
「イヤリングって穴開けるんですか?」
私は不思議そうに訊く。
「うん。普通はそうだけどね。」
南さんはそう言うと私の右耳と左耳にイヤリングをつけてくれた。
耳に冷たい温度が伝わる。
「よし出来た。」
南さんはそう言うと私の隣の席に腰を掛けた。
「ねぇ夜那ちゃん。少し聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「はい。良いですけど…。」
私はキョトンとした顔で答える。
「夜那ちゃんって南亮介って子知ってる?」
その言葉を聞いた時、私は黙り込んでしまった。
亮介ってあの亮介…?
でも違うかもしれないし…。
「…ごめんなさい。知りません…。」
私はつい嘯く真似をした。
そう言った直後、店の扉が開き誰かが入って来た。
94
:
燐
:2012/01/22(日) 11:40:51 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「あら亮介じゃん。今日は何しに来たの?」
南さんはニコニコ笑顔で扉方面を見る。
「学校行くから荷物取りに来ただけだし…って夜那!?」
その声に私は振り返った。
「えっ…あっ…。」
私はつい戸惑ってしまった。
「あれ?二人とも知り合いなの?亮介の事聞いた時は知らないって言ったのに…。」
南さんは私を睨みながら言った。
「えっと…違う人なのかもって思ってしまって…。」
私はオドオドしながら答える。
「なるほど。そう言う事もあるしね。」
南さんは笑顔で言う。
この二人はやけに仲が良い。
以前から顔見知りのようだ。
この店の常連客と考えても可笑しくない。
95
:
燐
:2012/01/22(日) 11:59:14 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「てか、夜那ちゃんが姉ちゃんの客だったとはな。驚きだぜ!」
亮介は笑顔で私にグットサインを送る。
姉ちゃん?
どう言う事…?
「ちょっと亮介、夜那ちゃん困ってるじゃない。と言うかちゃんずけで呼んでるの?」
南さんはニヤニヤしながら言う。
「煩い。姉ちゃんは黙ってて。」
亮介は南さんと口論になる。
「あの…南さん。亮介とは知り合いなんですか?」
「知り合い?知り合いじゃないよ。あたしと亮介は実の姉弟なだけ。」
南さんは笑いながら言う。
「姉弟なんですか!?でも全然似てないですよ?」
私はつい失礼な事を言った。
「それ良く言われる。ま、いいんだけどね。」
南さんは言った。
96
:
燐
:2012/01/22(日) 12:22:47 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「姉ちゃん。今日は学校に連絡しておいて。」
亮介はだるそうに私の右隣の席に腰を掛ける。
「あら珍しいね。アンタが学校休むなんて。ま、いいわ。」
そう言うと南さんは奥に行ってしまった。
うぅ…。気まずい空気…。
私は紅茶のカップに手を掛けて紅茶を啜ろうとした。
「姉ちゃんてさ…あー見えて結構面倒見がいいんだ。だから子供ん時はアイツが母親変わりだったんだぜ?」
亮介は笑いながら言った。
「…母親変わりって…お母さん居ないの?」
「うん。俺と姉ちゃんは父子家庭なんだ。俺らが生まれた時にはもうすでに母親は居なくてさ。
ずっと父ちゃんに面倒見て貰って来た。だから姉ちゃんは父ちゃんと性格が被ってるんだ。
面倒見がいい所とかさ。」
そう話している亮介の顔は何処か寂しげだった。
97
:
燐
:2012/01/22(日) 13:17:20 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「いい家族なんだね。」
私は言う。
「まぁね。そういや夜那ちゃんの家族はどんな家族?」
亮介は笑顔で言う。
私は正直戸惑った。
本当の事を言えば亮介の期待を裏切るはめになっちゃうかもしれないし…。
「どんな家族って…何処にでもあるような普通の家族だよ。」
私はつい誤魔化した。
「…嘘吐きだな夜那ちゃんも。今誤魔化しただろ?」
亮介の図星に私は黙り込んだ。
「…お母さんは数年前に事故で無くなりました。お父さんは私を守ってそのまま犠牲になりました。」
私は涙声で言った。
「そうだったのか…。何か聞いてすまなかったな。」
亮介は気を悪くしたのか俯いた。
「…でも半年以上前…。正確には去年の6月ぐらいに…お父さんは私を守ってそのまま他界しちゃったけど…
私はお父さんが守ってくれたこの命を大事にしてこれからも前を向いて進んで行くんです。」
「そっか。いい父ちゃんなんだな。」
亮介は顔を上げて私の頭を優しく撫でてくれた。
98
:
燐
:2012/01/22(日) 13:41:41 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「うん。亮介のお父さんもそんな人だったりして。」
「いや…。面倒見がいいのを裏腹に実は適当だったり。
でも数年前に病死しちゃってさ…それっきり姉ちゃんがバイトとかで頑張ってお金貯めて
去年の4月にこの花屋をオープンして姉弟でかんばってる訳だ。姉ちゃん、昔から
“絶対二十歳になったら花屋を開くんだ”とか昔から言ってたし。」
亮介は笑いながら言う。
「そうなんだ…。って事は南さんは今二十歳かぁ〜。」
私は言うと横から亮介がすかさず指摘する。
「いや22歳だ。去年まで大学行ってたけど…花屋開くって決まってすっぽり辞めたんだよね。
それ以来此処でオーナーとして働いてる。俺はその接客係。毎日姉ちゃんに扱き使われててさ…。
疲れるぜ。」
亮介はため息を吐いて呟く。
99
:
燐
:2012/01/22(日) 14:27:49 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「でも姉弟愛でいいと思うよ。扱き使われるって…案外亮介ってMなんだね。」
私はクスッと笑って言った。
「Mって言うかドMだな。大体アイツは身勝手過ぎんだよ。頭ごなしに俺を奴隷扱いにしやがる。」
「誰が奴隷扱いだって?」
亮介を前を見た瞬間、頭上に拳が振ってきた。
「いてぇ…。本気で殴る事ねーじゃん…。」
亮介は両手で頭を押さえながら言った。
「本気で何が悪いの?それよりアンタ…夜那ちゃんと付き合ってるんだよね?」
南さんは再び私の左隣の席に座る。
「まぁな。それがどうかしたのかよ。」
「今のうちに別れた方がいいかもね。」
南さんは意地悪そうに言った。
「ちょっ…南さん…。」
私は予想外の言葉に躊躇ってしまった。
「知ってるよ。それぐらい…。夜那ちゃんが何時か俺を裏切る事ぐらい…。」
亮介は南さんに差し出されたオレンジジュースを飲みながら答える。
100
:
燐
:2012/01/22(日) 14:30:25 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
100行ったぜw
ひゃっはーw
101
:
燐
:2012/01/22(日) 15:13:09 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「その事なんだけど…やっぱ私と別れてくれないかな…。
誠の手紙見て分かったんだ。何時までも逃げてちゃ駄目だって…。
誠は…私の手で何とかしなくちゃって思っちゃって…。
だからごめん…!!」
私は席を立ち上がって亮介に向かって深く頭を下げた。
「いきなりかよ…。でもいいよ。じゃせめて友達って事で居させてよ。
誠の事で何かあったら俺や姉ちゃんが力になるからよ。遠慮せずに何でも言えよ。」
亮介は笑顔で言った。
「そうよ夜那ちゃん。あたし達友達でもあるんだし。」
南さんは笑顔で言う。
友達…。
その言葉は私の心を大きく動かした。
「亮介…南さん…ありがとうございます!!」
そう言った直後だった。
店に一本の電話が入って来た。
南さんは傍に置いてあった小型受話器を手にとって耳に当てた。
102
:
燐
:2012/01/22(日) 15:33:19 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「はい。fiore・giardinoの南です。はい。分かりました。少々お待ちください。」
南さんは受話器を耳から離して私に差し出した。
「夜那ちゃん。誠さんのお母様から。」
南さんはいつもの笑顔で言った。
私は受話器を耳にあて深呼吸してから一声を発した。
「もしもし。」
『あっ夜那ちゃん。朝から何処に行ってたの!?急に居なくなるから失踪かと思ったわ…。』
誠のお母さんは心配そうに言う。
「そうじゃないんです。詳しい事は帰ってから言うので。」
私は落ち着いた口調で言った。
『それより…誠が居なくなっちゃったのよ。』
えっ――…?
居なくなった?
その時私の手から誠から貰った手紙が地面に落ちた。
受話器を握り締め、ただ硬直していた。
地面に落ちた手紙は亮介が静かに拾い上げた。
103
:
燐
:2012/01/22(日) 15:53:14 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「何だこれ…。これって誠が書いたのかよ。つーか…この花ってアツモリソウじゃねーか?」
亮介は不思議ように紙をジロジロ見る。
『…と言う訳だから夜那ちゃんも今から誠を探してね。私も今から探してみるから。』
そこで会話は途切れた。
「おい夜那ちゃん!大丈夫か?」
亮介の声に私は我に返った。
「えっ…!?あっ…ごめん。聞いてなかった。。」
私は席を立ち上がって扉方面に向かった。
「夜那ちゃん…。きっと誠はもう限界なんだよ。だからアツモリソウなんて絵を描いたんだよ。」
亮介は冷たい口調で言った。
104
:
燐
:2012/01/22(日) 16:59:09 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「アツモリソウ…。花言葉は?」
私は訊く。
「…“君を忘れない”だよ。本当はこんな事言いたくないんだけど…。
きっと誠は今でも自分を責めている気がしてさ。もしかしたら夜那に幸せになって欲しくて
自分は死ぬ気なんじゃないかな…。」
えっ…。
死ぬ気?
誠が…?
私は唇を思いっきり噛み締めた。
「となれば早く探さなくちゃね。あたしも協力するね。今日はお店閉店にしておくから。」
南さんはそう言って私の紅茶のカップを下げて、奥の部屋に行ってしまった。
しばらくして南さんはお店用の服からラフな格好になった。
「鍵閉めるから二人とも外に出て。それと夜那ちゃん。これ履いて。」
南さんに渡されたのは黒のスニーカーだった。
「大丈夫。サイズは問題ないから。あたしのお古だけど…サンダルじゃ歩きにくいでしょ?
そう思って持って来たの。」
南さんは笑顔で言った。
105
:
燐
:2012/01/22(日) 17:14:51 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
南さんのその優しさに私は思わず泣いてしまった。
「何泣いてんだよ。夜那ちゃんって泣き虫なんだな。」
亮介は笑いながら言った。
「泣き虫…かもね。」
私はすぐに泣き止んで南さんから渡してくれた黒いスニーカーを履いた。
たしかにサイズはぴったり。
きつくもないしブカブカでもない。
ちょうどいいサイズだった。
「どう?」
「ちょうどピッタリです。ありがとうございます。」
106
:
燐
:2012/01/22(日) 20:17:13 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「さて、誠さんを探しに行きますか。」
南さんは陽気に言った。
「姉ちゃん…。本当に店休んでいいのかよ。最近なってまた店が繁盛して来たのにさ。」
「いいの。大切な友達の為に頑張らなくちゃならないしね。」
南さんは仁王立ちして言った。
「姉ちゃんは暢気でいいよな。俺とは大違いだな。」
亮介は呆れた表情をする。
「アンタは元気が有り余ってるだけ。さっさと行くのよ。」
南さんは亮介の背中を押して外に追い出した。
「南さん…ちょっとやり過ぎなんじゃないんですか?」
私は横から入る。
「いいの。亮介にとってはいい薬でもあるし。」
そう言うと南さんは指と首をポキポキと鳴らし始めた。
「…でも亮介が可哀想です。」
「そうだよ姉ちゃん。たまには弟の気持ちも分かってよ。」
亮介は私の後ろに隠れた。
「はいはい。さてと鍵も閉めたし、さっそく探しに行きますか。」
107
:
燐
:2012/01/22(日) 21:21:57 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「そうだな。こんな所で喧嘩してても埒が明かねー…。とりあえず俺は向こうの方面に当たってみる。」
亮介はそう言って行ってしまった。
「亮介もいい加減な奴よね。ま、あたしに似て面倒見いいし。」
南さんは嬉しそうに言う。
「いい加減じゃないです。私より頼りになる人で正義感もちゃんと持ってる人です。
あの顔じゃきっとモテますよ。」
私は冗談半分に言った。
「亮介が?ないない。だって告られた事ないって言ってたし。さ、話はこれぐらいにしてあたしはあっちの方を探してみるわ。」
南さんはそう言うとその場を立ち去ってしまった。
一人残された私はしばらくその場で佇んでいた。
私はパーカーのポケットに手を突っ込んで、ハートのペンダントを取り出した。
憐…。
この2ヶ月間ぐらい私の傍に居てくれてありがとう。
このペンダントがあったから辛い事も乗り越えられた。
でももう迷わないよ。
誠は私が助ける。
今までの全部を誠に恩返しする。
憐…この事が解決したらもう向こうに行って?
ずっと私の傍に居たら何かと辛いと思うし…。
私憐にだけは迷惑かけたくないから…。
私の我儘かもしれないけど…。
108
:
燐
:2012/01/23(月) 12:02:01 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
私…いつも誠に守られてたのかな…。
誠が傍に居てくれたから今まで生きられたんだ…。
きっと誠が居なかったら今の私は居ない。
今思えば今まで誠に何一つ借りなんていう物を返してない。
私も馬鹿だな…。
本当に馬鹿だよ…。
今まで生きてきて大切な存在に何一つお礼なんてしてない。
だから今回で全部…今まで分をちゃんと返す。
そう決めたんだ。
もしかしたら誠は…あそこに居るかもしれない。
一か八かと賭けに出てみるしかない。
いつの間にか私はその場所へと足が動いていた。
109
:
燐
:2012/01/23(月) 13:51:08 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
“あそこ”とは半年前誠が一時期入院した病院だった。
半年前のあの日…誠は私に指輪を渡してくれた。
あの時の誠の笑った顔…今でも忘れられない。。
私は病院の前に着くと、何の躊躇いもなく病院内に足を踏み込んだ。
病院内に入ると人盛りはなくてがらんどうだった。
ロビーの受付には誰も居なくて急に不安になった。
本当に大丈夫だろうか。
私は手に持っているハートのペンダントを首につけた。
ペンダントを首に身に付けた私は屋上を目指した。
階段を上って屋上に続く扉の前に着いた私は小さく深呼吸をした。
此処で怖気づいて逃げては駄目だ。
私は意を決して屋上の扉をゆっくりと開いた。
110
:
燐
:2012/01/23(月) 14:23:01 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
屋上の扉をゆっくりと開き、私は屋上に足を踏み込んだ。
屋上は冷たい風が吹き向けていた。
でも屋上には誰も居なかった。
「居ない…か。」
そう思った時、私の前方から青い蝶が青い燐粉を飛ばして私の目の前に来た。
「蝶さん…。」
蝶は私の前で一回転すると屋上の右側にあるこの病院の空調設備みたいな所で止まった。
私は蝶の所へ駆け寄ると誰かが蹲っていた。
「…誠?」
私はしゃがみ込んで誠の頭を撫でようとした。
「…何で此処に来たんだよ…。」
誠は威嚇するような声で言った。
111
:
燐
:2012/01/23(月) 15:33:52 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「誠を助ける為に来たの。誠を過去から救う為に。」
「うるせぇよ。お前なんかに俺の気持ちなんか分かるか。」
誠はそう言うと右手に握っていたカッターで左手首を切った。
スッーと赤い血が地面に滴り落ちる。
「止めて!」
私は誠の左手首を左手でそっと握った。
「お節介なんていらねぇから。もう帰れ。」
誠は私を睨みつけながら言った。
「帰らない!誠が立ち直ってくれるまで私は帰らないから!!」
私は強気に言った。
「…お前に分かる訳ねー…。俺がずっと耐えて来た苦しみなんて誰も分かってくれねぇ。」
誠は弱々しい声で呟く。
「たしかに分からないよ…。でも誠は私に言ったよね?救う事は出来なくても支える事は出来るって…。
だから今度は私が誠の盾になる。」
「分かったような口聞いてんじゃねぇ…。」
誠は私の左手を強引に振り解き、また左手首を切ろうとした。
「もう自分を傷つけるのは止めて…。」
私はカッターの刃を左手で握り締めた。
左手が微かに震えてる。
112
:
燐
:2012/01/23(月) 15:55:37 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
私の左手の指の間から血が流れ落ちる。
「…何でそこまでする必要がある。」
誠の声は怒りに満ちている。
「だって大切な存在の為に救いたいの。誠はずっと私を守ってきてくれた。
半年前のあの日から…私の人生は大きく変わった。誠が私の家の隣に引越して来てくれて
から全てが変わった。きっと誠が居なかったら永遠に死ぬまであんな事を繰り返してたかもしれない。
それに誠に出会えたから恋も出来たし、生きようと思えたんだ。今頃誠に会ってなかったら私は死んでた。
だから生きてて良かったって思ってるよ。辛い事や苦しい事があっても今まで2人で乗り越えて来たじゃない。
だからこの先も二人で頑張っていこうよ。」
私がそう言うと誠が握っていたカッターの力を緩めて地面に転がり落ちた。
113
:
燐
:2012/01/23(月) 19:15:24 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…でもお前は亮介を選んだ。亮介は俺よりお前を大切にしてくれるだろうな。」
誠はゆっくりと地面から立ち上がった。
「…選んでないよ。昨日はそう宣言されて渋々了承しちゃったけど…。
私には誠しか居ないし…。今日ちゃんと断ってきた。」
私が笑顔で言うと誠も薄笑いで呟く。
「断ってきたって…アイツがそう簡単に諦める訳ねーよ。俺に似て一途な奴だし。」
「…今笑ったね。」
私は誠の顔を覗きこみながら言った。
「……。」
誠は黙って手で顔を隠す。
「あれ?もしかして恥ずかしかった?」
私はクスクス笑いながら言う。
「見んな。」
誠はそう言い放つと私に背を向ける。
まだ怒ってるのかな?
私は心の中でそう思った。
「後…誠の手紙見たよ。誠は…死ぬ気なの?」
私は単刀直入に言った。
「…うん。って言ったらどうする?」
誠は上を見上げながら言った。
114
:
燐
:2012/01/23(月) 20:06:04 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「冗談は止めて。こっちは真剣なの!!」
「お前さ…変わったな。」
ぼそっと出た誠の言葉。
「変わったって何が?」
私は首を傾げる。
「惚けんな。自分が一番よく分かってるくせに。嘯く真似は止めろ。
それに俺が好きだった夜那はもう何処にも居ない。この2ヶ月間でお前は大分変わった。
性格も…全てが変わった。だから正式に別れてくれないか?」
誠の言葉に私は唇を噛み締めた。
本当は別れなくなんてない…。
でも誠がそれでいいなら私はそれで構わない。
「やっと見つけたぜ。お二人さん。」
その声に後ろを振り返ると亮介と南さんが立っていた。
「亮介…。」
私が呟くと亮介は私に近づき、私の左腕を強く引いた。
「ちょっと亮介。夜那ちゃんまた嫌がってるじゃない。」
南さんに注意され、亮介は手を離す。
115
:
燐
:2012/01/23(月) 20:40:34 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「わりぃ。てかよ…誠。お前また夜那ちゃんを泣かせるような真似しただろ!!
お前はどうしてそんな変になっちまったんだよ…。」
亮介の言葉に誠は急に笑い始めた。
「はは…お前も面白い事言うな。変じゃねーよ。寧ろ正常だぜ?」
「じゃその手首の傷は何だよ。」
亮介はすぐさま誠に指摘すると、誠は黙り込んだ。
「お前なぁ…いい加減にしとけ。過去の事もあるけどさ…何時までもそうやって引き摺って生きていくつもりか?」
「亮介に俺の何が分かんだよ。何も知らないくせに良く言うぜ。」
誠は鼻で笑って言った。
「たしかに俺はお前の何も知らねぇ。だけどよォお前だって今の今まで辛かっただろ?
一回さ…その辛かった分を俺に肩代わりさせてくれよ。そうすればお前の心の闇は少し晴れるかもしれねぇだろ?」
亮介は明るく言った。
「肩代わりだと?そんな事出来る訳でもねーのに何言ってんだよ。」
誠はそう言って再び地面に座り込んだ。
「ああ出来るさ!たぶんだけどな…。」
亮介は笑って誤魔化す。
116
:
燐
:2012/01/24(火) 15:11:10 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…お前の発想は相変わらず単純だな。」
誠は素っ気なく言った。
「単純で悪かったな。とりあえずさ…家に帰ろうぜ。朝方は寒いしさ。」
亮介は腕を擦りながら言う。
「…なぁ…亮介。」
誠はゆっくりと立ち上がった。
「ん?どした?」
亮介が訊く。
「…お前のお陰で少し頭が冷めた気がする。サンキューな。」
誠は亮介の肩に手を置く。
「夜那…。」
誠に呼ばれ私は振り向く。
「夜那にも迷惑かけたな。ごめんな…。」
誠はそう言って私を軽く抱擁した。
「ううん。誠が謝る事じゃないよ。」
私は言ったが、何か違和感があった。
妙な胸騒ぎがする。
何かがまだ終わってない。
そんな気がした。
117
:
燐
:2012/01/24(火) 18:30:16 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「さて一件落着したし。今からでも俺ん家に来いよ。」
亮介は私にグットポーズをした。
「一件落着じゃないでしょ!!今からでも帰って学校行ったらいいじゃない!!」
南さんは口を尖らせて言った。
「姉ちゃん。そんなに怒んなよ。そんなんだから姉ちゃんには何時まで経っても
彼氏が出来ないんだよ。」
亮介は呆れた表情で言った。
「アンタだって一回夜那ちゃんに振られてるくせに良く言うわね。」
南さんはクスクス笑いながら言った。
何かこの二人…漫才コンビみたい。
一緒に居るだけでこんなに笑えるんだから。
「亮介も止めとけ止めとけ。みっともねーよ。」
誠が笑いながら横から入り込む。
「みっともない訳ねーよ。姉ちゃんが悪いし…。」
「何でアンタはいつも人のせいにすんの!!まったく…懲りない弟だわ。」
南さんは亮介の頭に拳骨を入れる。
「いてぇ…。てか本当の事じゃんか。」
「煩い。アンタのその口引き破ってあげようか。」
南さんはそう言って亮介の口を左右に引き伸ばした。
118
:
燐
:2012/01/24(火) 23:18:23 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「姉しゃん…ちょっとおしょくっただけじゃん…。いたたたた。」
亮介は笑いながら抵抗する。
「今笑ったんじゃないの?姉を愚弄する気でしょ?」
南さんはさらに亮介の口を横に引っ張る。
「いだだだだぁぁぁ!!…破れる…さすがに破れるぞこれ…。」
亮介の声は涙声になっていた。
「南さん…もう止めたらどうでしょう。亮介が可哀想です…。」
「夜那ちゃんがそう言うなら止めるわ。」
南さんから解放された亮介は地面に尻餅をつく。
「ガチでいてーよ。もっとさ…弟には優しくしろよ。」
「何でそんな上から目線なの?まだ懲りないなら今度は腹に殴りこみよ。」
南さんは妙にワクワクしながら言った。
「もう良いですから…。」
私は止めに入る。
「はぁ…。夜那ちゃんが止めてくれなかったら今頃俺は姉ちゃんに殺されてたな。」
亮介は笑いながら言った。
「殺されてたって?なんなら今からでも瞬殺してあげるよ。」
南さんはそう言うと指をポキポキと鳴らし始めた。
「もう良いですってば…。」
「あっごめん。」
南さんは我に返った。
南さんってドS過ぎるよ…。
に引き変わって亮介は南さん相手にいじられキャラって言うか…。
「さっさと帰るぜ。こんな所に長居してたら日が暮れちまう。」
亮介は欠伸をしながら言う。
「日が暮れるってまだ朝方だぜ?」
誠が横から突っ込む。
「あ…そう言えばそうか。でもどっちでもいいじゃんか。ははは…。」
亮介は大笑いしながら歩き出した。
「アンタ何馬鹿笑いしてんの。笑われるよ?」
南さんは呆れた表情をしながら言った。
「笑われてもいいっすよ。俺はどうせ馬鹿ですから。」
「それ全然自慢になってないし。」
南さんは亮介の頭に拳骨を一発入れる。
「いてぇ…。何も拳骨する事ねーじゃんか。」
「いいの。アンタにとっては良い薬でしょ?」
南さんは笑いながら駆けて行く。
「馬鹿姉ちゃんは何時まで経っても成長しねーぞ!!」
亮介は大声で叫び、南さんの後を追いかけた。
119
:
燐
:2012/01/25(水) 16:12:25 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「あの二人って…面白いね。」
私は笑みを浮かべて言った。
「あの姉弟は昔からだ。亮介が居るだけで俺は過去の事を一瞬だけ忘れられた。
もし亮介が居なかったら俺はもうとっくに死んでた。もう生きてなかったかもしれない。」
「そっか…。じゃ亮介は誠の命の恩人なんだね。」
私は上の空で答える。
「そうだな。後さ…別れる件だけど…もう少し考えてみるわ。」
誠は笑顔で言った。
「えっ…。」
それってまだチャンスがあるって事?
誠とやり直すチャンスがあるって事?
もしそうだとしたらやり直したいよ…。
私達の絆を取り戻したい…。
散らばった私達の欠片を丁寧に拾い集めて欠片を繋ぎ合わせたらきっと私達の絆は戻る。
120
:
燐
:2012/01/25(水) 17:13:42 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
そう思っていた。
「何だよ…そんな固まっちまって。」
誠が私の顔を覗き込んだ。
「…何でもない。」
私はそう呟き、静かに歩き出した。
「夜那ちゃん〜!遅いよ。早く行くよ。」
亮介は屋上の扉からそっと顔を出して手招きする。
「…ほら誠も行くよ。」
私は誠の右腕を引っ張った。
「…夜那。」
誠は寂しげに言った。
「何?」
私は明るく言った。
「…アメリカに行く時は亮介も連れて行っていいか?」
誠は頬を赤く染めながら言った。
「…うん。大歓迎だよ。」
「だってさ亮介。良かったな。」
誠は手をズボンのポケットに入れながら亮介の方に首を動かせる。
「よっしゃ!サンキューな。夜那ちゃん。」
亮介は私に駆け寄り優しく私の身体を抱き締めた。
亮介は何処かご機嫌。
「痛いよ…。」
私が呟くと亮介は私の頭をポンポンと撫でて離れてくれた。
何か亮介って猫みたい。
そう思うのは気のせい?
121
:
燐
:2012/01/25(水) 17:46:46 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「で…誠はどうすんだよ…。夜那ちゃんの事。」
亮介は私の肩に手を回す。
「…少し考える事にした。決断が固まったら報告するからさ。」
誠は答える。
「ふーん。あんま長過ぎたら俺が夜那ちゃんを貰うからね。」
亮介はニコニコ笑顔で言った。
「何だよその勝手なルール…。意味分かんねー…。」
誠は不貞腐れた表情で言った。
「亮介…冗談は止めてよ…。」
「冗談じゃねぇよ。俺…夜那ちゃんに振られても本気だし。」
亮介は真剣な顔つきになる。
「…それって今でもなの?」
私は俯きながら言った。
「当たり前に決まってんじゃん。今でも好きだって事何が悪いんだ?」
「…っ。」
そう言われると私は黙り込んだ。
「誠に一応言っとくが…誠に夜那ちゃんは渡さない!!たとえ友達でも俺は容赦しねーから。」
亮介はそう言って私の身体をゆっくりと抱き寄せた。
「…それって宣戦布告のつもりか?」
誠は鼻で笑って言った。
122
:
燐
:2012/01/25(水) 18:02:09 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「せ、宣戦布告に決まってんだろ!!」
「じゃ何でそんなに焦ってる訳?」
誠は無愛想で言う。
「……。」
亮介は黙っている。
「…夜那を自分だけの物にしたいとか?」
誠のその言葉に亮介は唇を噛み締めた。
123
:
燐
:2012/01/25(水) 19:45:37 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…そうだよ。悪いかよ。」
亮介は私の肩からそっと手を離した。
私は亮介の言葉に言葉を失った。
えっ…?
どう言う意味?
124
:
燐
:2012/01/25(水) 20:01:43 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「ふーん。」
誠は興味のなさそうな目で言った。
「何だその興味なさそうな目は!こっちは恥ずかしいんだぞ!!」
亮介は顔を真っ赤にして言った。
「お前顔真っ赤…。」
誠は苦笑いしながら言った。
「お前ぜってーおちょくってるだろ!!」
亮介は口を尖らせて言った。
「おちょくってねーよ…。」
誠はふいに顔を逸らす。
「今顔逸らしたじゃねーか!それはどーゆう事だよ!!」
亮介は誠に指を指しながら言った。
125
:
燐
:2012/01/25(水) 20:35:56 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「何ムキになってんだよ。もっと冷静になれ。お前は昔から熱いんだよ…。」
誠は笑いながら言う。
「…悪かったな。」
亮介は目を逸らす。
「亮介…。」
私はそっと呟く。
「…ごめん夜那ちゃん。俺だって夜那ちゃんが好きになっちまってさ…。
たとえ振られても俺は本気だから!!」
亮介は掌を握り締めながら言った。
「…っ。」
亮介からの2回目の告白。
断らなくちゃ…。
でも出来ない。
言えない…。
言ったらまた亮介が傷つくかもしれない…。
「とにかくだ。俺は今でも夜那ちゃんが好きだ。振られても諦めねーから。
たとえ相手が誠だとしても俺はこの勝負譲れねーからな!!」
亮介のその声は空まで響き渡った。
「何時から勝負になったんだ?ま…俺も譲る気ねーけど。」
誠がぼそっと言った。
「いいだろう。上等だ。最終的には夜那ちゃんに決めてもらわなくちゃいけねーしな。」
亮介はそう言うと私を強く抱き締めた。
「お前は何時からそんなに偉くなったんだ?偉そうな態度取るのもいいがな。」
誠は呆れた顔をする。
126
:
燐
:2012/01/25(水) 21:22:46 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「いいだろ別に。人の勝手だし。」
亮介はそっぽを向く。
「…相変わらず素直じゃないな。」
誠は鼻で笑いながら言った。
「…っ。」
亮介は一瞬黙り込み、私に顔を近づけた。
「…素直じゃねーと思うか?俺だって成長してんだ。」
亮介はそう言って誠を一瞥して私と唇を重ねた。
!?
唇が離れて私は地面に座り込んだ。
「俺だって成長してんだよ。何時までも捻くれたままではいけねぇから
今証明したんだよ。」
亮介は言った。
「…証明か。そうやって好きな奴の為に真っ直ぐな所も俺にそっくりだな。」
誠は苦笑いしながら言った。
127
:
燐
:2012/01/25(水) 21:37:43 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「亮介…。」
私は亮介の左手を両手で強く握り締めた。
亮介は黙って私を地面から抱き上げてくれた。
「あのさ…誠ってさ…本気で人を好きになった事ねーだろ?」
亮介に痛い言葉を言われたのか誠は答えない。
「何時までも過去を引き摺ってたら夜那ちゃんに嫌われるのも時間の問題だぜ?」
「…嫌われるか。」
「好きだよ!!」
とっさに出た私の言葉。
「えっ…ちょっと夜那ちゃん!?」
私は亮介の元を離れ誠の身体に抱きつく。
128
:
燐
:2012/01/26(木) 11:53:56 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「私は何があっても誠が好きだよ。たしかに亮介も好きだけど…。
亮介の好きは誠の好きとは全く別物なの…。亮介の好きは“Like”で
誠の好きは“Love”だから。」
私は笑顔で誠の身体から離れる。
「Likeか…。それだけ俺が信頼されてるって事だな。」
亮介はニコニコ笑顔で言った。
「信頼?」
私は首を傾げる。
「だって…昨日会ったばっかなのに此処まで仲良くなるって相当ねーよ?」
亮介は笑いながら言う。
「亮介は何時も明るいね。それに面白いし。」
私は微笑みながら言った。
「面白い!?ま…俺はボケ担当だしな…。うーん…。」
亮介は腕を組んで考え込む。
「何でこんなに考え込むの?」
私はクスクス笑いながら呟く。
「だってさ、ボケねーと面白みがねーだろ?ただ俺はボケよりツッコミの方が
向いてるんじゃないかって友達に言われてさ。夜那ちゃんはどう思う?」
どう思うって言われても…。
どう答えればいいのかな?
「お前はボケの方が向いてんぞ。」
誠は横からぼそっと言った。
129
:
燐
:2012/01/26(木) 14:57:11 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「何で誠が言うんだよ。俺は夜那ちゃんに訊いてんのに!」
亮介は不機嫌そうに頬を膨らます。
「…夜那は答えねーよ。」
誠の意味不振な言葉に亮介は首を傾げる。
「は?何でだよ。」
「お前の理解不能な質問されたら夜那だって困るだろ。」
誠は深い息を吐いて言った。
誠の図星に私は固まってしまった。
「そうなの?夜那ちゃん。」
亮介は訊く。
「…はい。ボケとかツッコミとかの意味があまりよく分からなくて…。
ごめんなさい…。」
私は大粒の涙を零しながら私は涙声で呟く。
「何泣いてんだよ…。じゃ俺はこれで御暇する。お前らも出来るだけ早く帰って来いよ。」
亮介はそう言い残すと私と誠だけを屋上に残して去って行った。
130
:
燐
:2012/01/26(木) 16:02:42 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
屋上に残された私は地面に静かに座り込んだ。
「…誠。」
私はふと呟く。
「…何?」
誠は少し間を開けて答える。
「誠は…私の事好きになって良かった?」
「…何で今更そんな事訊くんだよ。変な奴…。」
誠は無愛想な口調で言う。
「だって…私の事嫌いだから別れるなんて言ったんでしょ?」
私は誠に問い詰める。
「それは…違う。俺は今まで一度も夜那を嫌いになったりはしてない。」
「何でそんな事が言えるの?」
私は鼻を啜りながら呟く。
「お前が気づいてないだけ…。俺がどれだけ夜那を好きか知らねぇだろ…。」
誠は恥ずかしそうに私の隣に座り込む。
「…知らないに決まってるよ…。」
私は口を尖らせながら言った。
身体の震えが止まらない。
「夜那…身体が震えてる。」
誠はそう言うと私を優しく横から抱き締めた。
「ごめん…誠。。また誠を傷つけて…。私って誠を傷つけてばっかだよね。。
誠を傷つける事でしか愛せないって変だよね…?」
私は泣きながら呟く。
131
:
燐
:2012/01/26(木) 16:38:17 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…お前は俺を傷つけてねー…。全部お前のした事は俺を守る為なんだろ?
それなら一層の事…お前を殺したい…。」
誠は震えた声で言った。
殺す…?
私を…?
「殺したいんだ…。昨日の夜…あんな現場見てから…俺怖くて…。」
誠は涙を私の両手の甲に零しながら言う。
こんなに弱々しい誠を見るのは何処か久しぶりだった。
「私は殺せない。誠を殺せないよ…。殺したら死んじゃうよ…。」
「でも夜那は2ヶ月前言ったよな。俺が死ぬ時はお前も一緒に死ぬって…。
あれは嘘だったのか?」
誠の言葉に私は唇を噛み締めた。
「嘘じゃない…。誠に捨てられるなら私は命までも捨てられる…!
それだけ大きい存在なんだよ…。」
私は俯きながら答える。
132
:
燐
:2012/01/26(木) 17:00:52 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…俺も俺の中で夜那が一番大きな存在だ。俺…今まで実の両親をずっと憎んでいた。
純の事も…義理の母さんの事も…憎んできた。
でも亮介や夜那に出会ってたくさん笑えた…。たくさん楽しめた…。
亮介は一緒に居るだけで笑いが飛ぶから俺はアイツが大好きだ。
夜那は俺に生きる勇気をくれた。半年前のあの日…夜那が母親の元を抜け出して
俺の元に来てくれた時…コイツと一緒に生涯共にしたらどれだけ救われるだろうって…。
思ってた。」
誠は泣きながら言う。
133
:
燐
:2012/01/26(木) 17:53:06 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「半年前までの俺は本当に惨めで自分が傷つくのが嫌でお前を救う事が出来なかった。
でも夜那に出会って俺の心が晴れた気がする。お前に出会えて良かった。
これからも宜しくな。それにこれからは存分に俺が夜那を守っていくから。」
誠はそう言って私の身体を離れて、右手を差し出す。
「私も誠が苦しんでる時は一緒に戦う!それが絆ってものでしょ?」
私は笑顔で言った。
「絆か。そういや憐も言ってたな…。絆で結ばれてるとかどうとか…。」
誠は曖昧に答える。
「言ってたっけ?憶えてない…。」
「…そっか。じゃあの事も忘れた訳?」
誠は指摘する。
「あの事って?」
全く心当たりがない私は首を軽く傾げる。
「俺らが相思相愛だって事も忘れた?」
誠は意地悪そうに言った。
「相思相愛?何それ…。」
私は訊く。
「…忘れてたんだな。相思相愛って言うのはな…互いが好きって事を指してんだよ。」
誠は恥ずかしそうに言った。
134
:
燐
:2012/01/26(木) 18:02:23 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「それって…何か恥ずかしいよ…。」
私は頬を赤らめて呟く。
「もっと恥ずかしがって。夜那可愛いし。」
誠はニコニコ笑顔で言った。
「か、からかわないでよ!もっと恥ずかしくなるよ…。」
私は顔を逸らす。
「怒ってる夜那も可愛い。夜那って苛めがいがあるよ。」
誠はそう言うと私の左手をそっと絡める。
「あれ?夜那…指輪は?」
誠は訊く。
私の左手の薬指に嵌めていた指輪は昨日やけになって投げ捨てたんだ…。
誠にどう説明しよう…。
私がモジモジしてると誠はクスッと笑って私の前にあるものを差し出した。
「あっ…指輪。。」
「今日の朝、リビングに落ちてたけど…夜那が捨てたの?」
135
:
燐
:2012/01/26(木) 23:10:02 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「あれは…ちょっとやけになってたから…。ただそれだけだよ。」
私は笑顔で誠から指輪を受け取る。
指輪に残ってた血の痕跡はすっかり消えていた。
「…夜那も嘘吐きだな。」
誠はそう言って私の唇を塞ぐ。
私は右手で誠の服の袖を掴む。
「…涙の味がすんだけど。まだ泣いてんの?」
誠は唇を離して私の耳元で囁く。
「泣いてないよ…。本当だから…。」
私は誠の胸に顔を埋める。
いつから私はこんなに涙脆くなったんだろう…。
何か本当に涙腺が弱くなるよ…。
「本当にごめんなさい…。大切な私と誠の結婚指輪なのに…投げ捨てちゃって…。」
「投げ捨てた?」
誠は怪訝そうな顔つきで言った。
136
:
燐
:2012/01/27(金) 13:07:40 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「あっ…ごめんなさい。本当にごめんなさい…。」
私は震えた声で誠に謝る。
「…じゃ失くさないように左手の薬指に嵌めとけ。」
誠は笑顔で呟く。
「…うん。」
私は指輪を左手の薬指にそっと嵌める。
「この指輪…血がついてたはずなのに…どうして?」
「それ俺が拭いた。水で丁寧に洗って血の痕跡を完全に消しただけ。」
誠は言った。
「そうだったんだ。」
私は安堵の息を吐く。
「何ションボリしてんだよ。亮介に笑われるぞ。」
誠は私の頬を左手の人差し指で突く。
「…意地悪。。ションボリなんかしてない…。ただ嬉しいだけ。」
私はそう言って誠に笑みを浮かべた。
「ならいいけどな。さ、そろそろ戻ろう。亮介が怒るしな。」
誠はゆっくりと立ち上がって私に右手を差し出した。
137
:
燐
:2012/01/27(金) 14:08:34 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「そうだね。」
私は誠の右手をそっと左手で握る。
「そういや亮介ってお前に告ったんだっけ?」
誠は思い出したように言った。
「…うん。2回も告られちゃって…。でもちゃんと断ったよ。
たしかに亮介も好きだよ。でも亮介の好きは“Like”なの。
“Love”じゃない。だから…断ったんだろうなぁ…。」
私は空を見上げて言った。
今日の空は快晴。
雲一つなくて気持ちが晴れ晴れした。
「よし。戻ろう。」
「何が“よし”なんだよ…。」
横で誠が呆れた表情をする。
「気合を入れ直しただけだよ。何か身が引き締まらないって言うか…。」
私は誠の手を引きながら屋上の出入り口扉に近づく。
138
:
ねここ
◆WuiwlRRul.
:2012/01/27(金) 16:58:33 HOST:w0109-49-133-133-145.uqwimax.jp
此処には初めてコメントさせてもらうことになるかな(´・ω・`)?
まだ途中までしか読んでないんだけど、すごく面白いです!
うん、つづきが気になる←
ということで、また時間があるときに読んでコメントするね!
139
:
燐
:2012/01/27(金) 17:04:20 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「ぷっ。緊張してんのかよ。」
誠は笑いながら言った。
「…っ。うん…。」
私は扉のノブに右手をかける。
「…やっぱまだ行くな。ずっと此処に居ろ。」
誠の右手が私の右手をそっと握る。
「何で?早く行かないと亮介に…。」
「亮介が何?そんなに亮介の所に行きたいの?」
誠は何処か怒っていた。
「そう言う訳じゃないけど…。さすがに怒られるような気がして…。」
「怒らねーと思う。アイツそこまで短気じゃねーし。」
誠は優しく私に問い掛ける。
私と誠の身体が密着し過ぎて余計緊張するよ…。
「夜那はやっぱ可愛い。」
140
:
燐
:2012/01/27(金) 17:33:26 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…私は可愛くなんかないよ…。どっちかって言うと不細工の分類に入るよ…。」
「何処か不細工なんだよ…。勘違いもほどほどにな。」
誠は私の頭を優しく撫でる。
まるで猫みたいな撫で方だった。
「じゃ私はそろそろ行くね。」
私はすぐさま話を逸らす。
「じゃ俺も行く。」
私と誠は仲良く手を繋ぎ、屋上を後にした。
141
:
燐
:2012/01/27(金) 17:34:06 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
ねここ>>おうw
了解しますたー!!!
142
:
燐
:2012/01/27(金) 20:55:40 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
私と誠は階段を下りてロビーに向かった。
ロビーに向かうと二つの人影が玄関方面に居た。
「亮介〜南さん〜!」
私はその人影に向かって呼んだ。
すると二つの人影がほぼ同時に振り向く。
「おせーよ。二人とも。」
亮介は不機嫌そうに言った。
「女の子には色々あるの。亮介に分からないと思うわ。」
南さんはクスクス笑いながら言った。
「何だよ色々って…。訳分かんねー…。」
亮介は頭を掻きながらめんどくさそうに言った。
「訳分からなくて結構よ。」
「姉ちゃん…何笑ってんだよ。」
亮介は呆れたのか、玄関に向かって歩き出した。
「逃げるつもりでしょ。そう簡単に姉から逃げられると思ったら大間違いよ。」
南さんはそう言うと首を左右にポキポキと鳴らし始めた。
「姉ちゃんは何時でも本気モードかよ。何か修羅場みてぇ…。」
「修羅場ねぇ…。今から瞬殺してあげるわ。」
南さんは不気味な笑みを浮かべて言った。
「瞬殺?出来るもんならやってみろ〜!」
亮介は余裕の顔を見せた。
「じゃやってあげるわ。」
南さんはそう言って亮介の後を追いかけた。
143
:
燐
:2012/01/28(土) 14:42:12 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「姉ちゃん。冗談だって!何で本気になるのさ!!」
亮介の顔がどんどん真っ青になっていく。
「冗談?冗談なら最初から言うんじゃないわよ!」
南さんは口を尖らせながら言った。
「あの〜お二人さ〜ん!!」
私は遠くに居る南さんと亮介に向かって大声で叫んだ。
でも二人には全く聞こえていない。
「亮介〜!!」
誠の大声に亮介は振り向く。
「何だ誠?」
亮介が油断した瞬間に、南さんが亮介の腹に拳をぶつける。
「うっ…。」
亮介は呻き声をあげて、地面に倒れた。
「完敗ね。冗談半分に言うからよ。」
南さんは勝ち誇ったような顔つきで言った。
一方、亮介は気絶してしまったみたいで動じない。
144
:
燐
:2012/01/28(土) 15:16:08 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「おーい。亮介〜!!」
私は亮介に近づき、右頬を右手の人差し指で突く。
突いても起きる気配が全然ない。
「南さん。こう言う時ってどうやったらいいんですか?」
私は訊く。
「引き摺って持って帰るしかないわ。それか担ぐか。」
南さんは笑いながら言った。
「担ぐって…亮介をですか!?」
「うん。こう見えても怪力はあるし。」
南さんは自慢げに言った。
145
:
燐
:2012/01/28(土) 16:27:31 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「じゃ俺が亮介を担いで行きます。」
誠は言うと、亮介は両目を見開いて呟く。
「いやそれは止めとく。お前は無理すんな。」
亮介は立ち上がって服についた汚れを手で叩(はた)く。
「何でだよ。」
誠は指摘する。
「何でって…身体の事もあるし、心臓だって…。」
どうやら亮介は誠がまだ心臓が悪いとでも思っているかのようだった。
「…亮介に言ってなかったっけ?」
誠は言うと、亮介は不思議な顔をして頭を傾げる。
「俺、半年前に心臓の手術して、無事成功したって言う話。」
誠が言うと、亮介は目を丸くした。
「言ってねーよ。あーだから毎日誠ん家に電話しても居なかったんだな。
なるほどな。」
亮介は納得したのか頷く。
「何か亮介…勝手に解釈してない?」
私は苦笑いしながら誠に訊く。
146
:
燐
:2012/01/28(土) 17:23:29 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「そうか?」
誠はイマイチ分かってないみたい。
「てか夜那ちゃん!」
急に私の名前を呼ばれ、私は我に返った。
「は、はい!」
「…好きだ。」
えっ?
「それだけだから…じゃ。」
亮介は顔を真っ赤にして何処かに行ってしまった。
今日で2回も亮介から告られた。
トータルで3回も告られてしまった。
「あの子も良くやるよね。夜那ちゃんに1回振られてるのに諦めてないなんて…。」
南さんはそう言って亮介の後を追いかけた。
私は俯いて両手の掌を握り締めた。
147
:
燐
:2012/01/28(土) 18:39:35 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「亮介も大胆な告白するな。」
誠は意外と落ち着いた口調で言った。
「私…もう3回も告られてるんだよね…。どうすればいいのかな…。」
「断れよ。そんなの。」
誠は素っ気なく言った。
「…そうだよね。と言うか誠…嫉妬してるの?」
私の言葉に誠は頬を赤くした。
「…ちょっとだけな。亮介の奴本気っぽかったし…。夜那の事取られそうだし。」
「大丈夫。私は誠から離れないから。」
私は笑顔で呟く。
「大丈夫って…一回離れたのに…良く言う。」
誠は怪訝な顔をする。
「…今思ったんだけど、亮介って昔からあんな性格なの?」
私は訊く。
148
:
燐
:2012/01/28(土) 18:53:35 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「話逸らしただろ。」
誠は私を睨む。
「うん。明るい話にしようって思って。」
私は笑顔で言う。
「ふーん。てかさ…此処2ヶ月で天然キャラになってねぇ?」
誠に言われ私はキョトンとする。
「天然キャラ?何それ…。」
「俺に訊くより辞書で調べろ!人に訊くより自分で調べた方が自分の為にもなるからな。」
誠は明るく言った。
「分かった。で、亮介は昔からあんな性格なの?」
「昔からって…俺と初対面の時は何と言うか…近所迷惑な奴だったな。
声のボリュームは大きいし、苦情が来るぐらいの声の大きさだったな。
でも一緒に居るだけで飽きない奴だ。だから亮介が居るだけで昔の過去も忘れられたのかもしれないな。」
誠は上の空で呟く。
「それ何回も言ってない?今日で2回は聞いてるよ。」
私は失笑しながら言う。
149
:
燐
:2012/01/28(土) 19:26:52 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「ま…いいんじゃね?」
誠は適当に言う。
「適当な所の誠…初めて見たかも…。」
私は肩を落としてため息を吐く。
「初めて?ぷっ…夜那は相変わらず面白い事を言うな。」
誠は笑いながら言った。
150
:
燐
:2012/01/28(土) 21:38:21 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「笑わないでよ…。」
私は恥ずかしくなって顔を逸らす。
「面白いと笑うもんだ。」
誠はそう言いながら私の長い黒髪に手を通していく。
「うぅ…。」
「どした?そんな呻き声みたいの出してさ…。」
誠は心配して私の顔を覗き込む。
「ううん…。何かまた緊張しちゃって…。」
私はつい誤魔化した。
本当は…こんな状況にあまり慣れてないからつい声を漏らしてしまった。
「また嘘吐いただろ…。俺を欺けると思ったか?」
誠は呟く。
「誠は何でも分かっちゃうんだね…。まるで心の中を読んでるみたい。」
私がそう言うと誠は後ろから私を優しく抱擁した。
「顔に書いてあるし。それにもう半年以上も夜那を見てきたからそれぐらい分かる。」
誠の吐息が私の首筋に掛かる。
「顔に?そんなに書いてる?」
私は首を傾げる。
「お前…変な風に解釈してね?顔に書いてあるってのは、言わなくても表情で
分かるって事だ。」
誠は優しく問い掛ける。
151
:
燐
:2012/01/29(日) 13:52:56 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「何か余計意味が分からない…。」
誠の言葉は余計に私の頭の中を混乱させた。
「夜那には一生分かんないだろうな。」
誠は笑いながら言う。
私は…その誠の笑い顔を見るたびにどれだけ救われてきたのだろう…。
きっとそれは手では数え切れないだろうなぁ…。
誠はきっと私を笑わしたくてこんなに励ましてくれる。
それはきっと―――――…。
そう思うだけで胸が痛くなる。
苦しくなる。
涙が出てくるよ…。
私は地面に蹲った。
「夜那?」
誠は私の正面でしゃがみ込み、頭をポンポンと撫でる。
「誠はずっと私を笑わしたかったんだよね?」
152
:
燐
:2012/01/29(日) 14:10:08 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
私は涙声になりながら呟く。
「何だよ急に…。」
誠は困ったような表情をした。
「誠はずっと私の笑い顔を見たかったの?半年前のあの日から全てが変わった。
半年前のあの日…誠は私に初めて声をかけてきてくれたよね?
あの時は正直怖かった。だっていきなり私の名前呼ぶから…びっくりしちゃった。
でも…誠と一緒に居ただけで何時しか笑いたくなって来るの。今まで笑う事がなかった
私を笑わせてくれそうな気がして…。で、誠が私の事好きって言ってくれた時…
私にはそんな感情を持った事がなかったから戸惑っちゃった。」
私は顔を上げて静かに呟いた。
153
:
燐
:2012/01/29(日) 14:44:22 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…お前あの義理の母親に縛られてたんだろ?」
「縛られてた?どう言う事?」
私は首を傾げる。
「呪縛だよ呪縛。お前を強制的に束縛する事だ。」
「束縛…。それって誠も同じ事なんじゃないの?」
私がそう言うと誠は一瞬焦ったような顔をした。
「…そうかもな。」
と、素っ気なく誠は言った。
「何か誠…背伸びた?」
いきなり話題を変える。
「背?何でそんな事訊くんだよ…。」
誠は右手で頭を掻きながら言った。
「だって明らかに私が小さく見えるから…。」
「背丈に嫉妬かよ。どんだけ器の小さい奴。」
誠はそう言うと私をそっと抱き上げた。
「お、下ろしてよ…。こんな所誰かに見られたら…。」
「誰かに見られたら不味い事でもあんの?」
誠の冷たい視線が私に注がれる。
154
:
燐
:2012/01/29(日) 15:28:31 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「そ、そう言う訳じゃ…。」
私は思わず目を瞑った。
「何恥ずかしがってんの?」
誠は笑いながら歩き出す。
「恥ずかしいよ!亮介とかに見られたら…絶対誠に問い詰められるよ?」
「…俺は別に構わねーけど。夜那が嫌なら止めとくよ。」
誠はそう言うと私を地面に下ろす。
気のせいだろうか。
何か妙な胸騒ぎがするのは気のせい?
前もこんな事があった。
2ヶ月前の憐の時だってそうだった。
妙な胸騒ぎがあってその矢先に憐はこの世を去った。
まさか今回もそんなパターンとか…?
そう考えるだけで目の前が真っ暗になるような気がした。
155
:
燐
:2012/01/29(日) 20:13:53 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
まさか誠はまだ何か隠してる事あったりして?
…そんな訳ないよね?
私はそんな事を思いながら私は歩き出す。
「夜那!」
背後から呼ばれ、私は立ち止まり振り返る。
「ねぇ…誠。まだ何か隠してない?」
私がそう言うと誠は面食らった顔つきを見せた。
明らかに動揺している。
「…してねーよ。」
誠は顔を逸らす。
「本当に?」
私は訊く。
「本当。」
誠はストレートに言った。
そんな真っ直ぐに言われても困る。
「…分かった。」
私がそう呟くと、私は誠に抱き締められていた。
「あのさ…夜那。」
寂しそうに誠が呟く。
「何?」
私は訊く。
「アメリカに行く日時なんだけどさ…来月でいい?」
「来月って…もう2週間もないよ?」
私は呟く。
156
:
燐
:2012/01/29(日) 20:55:00 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「うん。来月の1日には此処を旅立ちたいんだ。今日の朝5時に…母さんに話した。
手続きの方はこれからするつもりだ。で、旅立つ前日に書いて欲しい物があるんだ。」
誠は淡々と言った。
「書いて欲しい物?」
私は訊く。
「…今は秘密だけどな。今渡しても夜那には理解出来ないだろうし。」
誠は笑いながら言った。
「理解出来ない?って事はその日になったら分かるって事なんだよね?」
そう言うと誠は深く頷く。
「まぁな。」
そう言うと誠は私に顔を近づけてきた。
「誠?」
「夜那はやっぱ分かってないな。」
誠の言った言葉が私の頭の中を駆け巡る。
「お前が無防備だって事。」
157
:
燐
:2012/01/29(日) 21:11:05 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「無防備?どう言う事?」
私は誠に訊く。
「無防備の意味も知らねーのか?とんだ世間知らずだな。」
誠は呆れた表情をする。
「だって本当に知らないんだし…しょうがないよ。。」
私は誠から視線を逸らす。
「目逸らすな。ちゃんと俺を見ろ。」
誠はそう言うと私に唇を押し付けた。
息が…出来ない…。
それにこんな所人に見られたら…。
うっ…。
158
:
燐
:2012/01/30(月) 14:25:16 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
急に目眩がした。
両手に力が入らない。
まるで両手が麻痺してるかのように感覚がない。
3月って言ってもまだ寒い。
寒いから手の感覚がないのかな?
…分からない。
このまま倒れてしまいそう――――…。
「大丈夫か?顔真っ赤だぜ。」
誠は唇を離し、私の頭を撫でる。
少しヤバイかも…。
頭は痛いし…立ってるだけでも目眩がする。
「お前熱あるんじゃね?ほら、乗れ!」
誠は私の身体から離れて、私に背を向けてしゃがみ込む。
「…悪いよ。それに私重いし…。」
私は少し遠慮がちに言った。
「そんな事言ってる場合かよ。ほら。」
誠の言葉に押されて私は渋々誠の背中に乗った。
159
:
燐
:2012/01/30(月) 14:54:16 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
誠はその姿勢からゆっくり立ち上がり私を負ぶって歩き出す。
誠におんぶなんてされた事がなかった私は少し緊張した。
重たくないのかな…。
と、つくづく考えてしまう。
「誠…。本当に…重たく…ない…?」
私は途切れ途切れに誠に訊く。
「重たくねーよ。お前ってさ…俺が体力ないとかでも思ってんの?」
誠に言われ私は黙り込んだ。
「図星かよ。てか、まだ気にしてんの?俺の身体の事。」
誠は前を向いて言った。
「だって…心配なんだもん…。また心臓が悪くなったらどうしようって…。」
私は涙を零しながら呟く。
「悪くなんねーよ。手術は無事成功したし。再発も恐らくねーって言ってたし。」
「恐らくって…なるかもしれないじゃない……。」
私は誠の背中に顔を埋めながら言った。
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