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叫号〜Io ripeto un incubo〜
36
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2013/01/03(木) 23:58:46 HOST:i118-20-98-64.s04.a001.ap.plala.or.jp
蓮は静かに笑う。それを見た刹はまるで訝しむかのような表情で、蓮を見た。そんなこと気にも留めずに蓮は言葉を紡ぎ始める。先ほどまでの蓮から考えればやけに饒舌で、流れていくように。
「アイツの力も弱まっているのさ。今は見えずとも近いうちに必ず姿を現す。特に風は、な。どちらにせよ、だ。正しい形へと戻ってくれただけで大きな収穫だと思わないか?」
「思いませんね。問題は結果なんですよ。結果が出なけりゃ全て無駄だ」
言うじゃないか、そう呟いて蓮は笑みを消した。しかしその瞳は何処か懐かしむようなもので……。月詠との会話を楽しんでいるようだった。月詠はため息を吐いて天井を見上げる。黒く塗りつぶされた天井は何の面白みもなくそこにあった。
天井を見上げたまま黙り込んだ月詠から視線を外し、蓮は椅子に腰を下ろす。机には読みかけの本が置いてあった。ある学園を舞台とした短い物語である。それに視線を落とした蓮は、顔を月詠に向けることないままに問う。
「結局、だ。お前は終わりを望んでいるのか?」
「さぁ? どうなんでしょうね。どちらにせよ僕は蓮に従うほかないのでしょう? そういう契約だ」
「いや。今はまだ好きにしていてくれて構わないぞ。必要になったら存分にこき使ってやるさ。それとも、だ。戻ってきたくなったか?」
蓮の言葉にまさか、と月詠は笑った。蓮も本のページを捲りながら薄く笑う。
穏やかな時間を堪能するのは悪くない、そう考えて蓮は意味もなく頷いた。それが月詠には何か肯定のようなものにも感じる。どちらにせよ、月詠もただの人間だったころを思い出して楽しげに会話を楽しんでいた。
横目で時計を見ると、時刻は十八時。外は薄暗く静寂に包まれ始めている。
「今はまだ“彼”の中にいて彼の力になっていることにしますよ。僕自身彼が気に入っていますし、何より、貴方のもとより居心地がいい」
「そうか。でもまぁ、あまり身体を乗っ取るのは止めておけよ。壊れられると困る」
「御意」
会話を止めて、月詠は軽く頭を下げた。その身体が静かに光へと形を変えて、刹の中に消えていく。瞬間、刹が僅かに身動ぎをした。月詠が消えたことで話し相手が消えた蓮は、本に意識を集中したために気づかなかったが。
ペラペラと本を捲る音が部屋に響く。本を読む蓮の表情は月詠がいたときに比べ、暗く、真剣なものだった。今ここに月詠がいたらうんとからかわれるかもしれない、そんな事を考えながらも、蓮は眉一つ動かさず本を読み進めていく。
ふと、刹がその目を開いた。何も言わずに腕を自分の目の前に持ってくると、僅かに顔を顰め、その視線を天井へと移す。思考は一瞬であー、今何時だろうから、ここは何処だろうに変化。しばらく天井を見つめた刹は、勢いよく起き上がる。
「何処、ここ!?」
叫ぶような刹の声に、蓮が振り返る。それを見て刹は余計に混乱したようだった。
やれやれ、と蓮はため息を吐いて、刹のそばに寄る。異常な速さで警戒態勢に入る刹に思わず苦笑いを浮べながら。ある程度近づいたところで足を止めて、刹を見下ろす。お互いなんだか睨みあっけいるような状態だが本人達にそんなつもりはなかった。
「まぁ、目が覚めたようでよかったよ。一週間近く気を失ってたぞ。ここは俺の部屋。ほんとならお前の部屋に運んでやった方がよかったんだろうが、場所が分からなかったからな」
「そうなんですか。どうもご迷惑をおかけしました」
蓮の言葉を聞いて、刹は納得したとでも言うように頷いて見せた。そして、ベッドから出て立ち上がろうとしたところで顔を顰める。身体の感覚が可笑しいのだ。座っているだけで身体が左に傾いているように感じる。立ち上がろうとすれば余計。
そして極め付けに眩暈。短く呻き声をあげて刹はその額に手を当てる。その様子を蓮は黙ってみていた。手を貸そうともせずに、ただただ刹が再びベッドに沈むのを眺めている。幾分か戸惑ったようにしながら刹は何度も起き上がろうとする。
でも、もう立ち上がることすら満足にできなかったようだ。うむ、と蓮は呟いて小さく頷いた。
「能力的損傷、消耗が大きかったのだろう。身体が無意識にストッパーをかけているだけで、回復すればなんともなくなるさ。なに、損傷のせいで消耗が増えるのはよくあることさ」
そう言って、蓮は無言で刹に掛け布団をかけてやる。もう少しゆっくり休めと言うことなのだろう。刹の方はやや不安そうな表情をしていた。風雅のことが心配なのである。湊の状態がわかれば多少は安心できたのかもしれない、そんな風に考えて刹はため息を吐く。
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