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叫号〜Io ripeto un incubo〜

35霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2013/01/03(木) 02:05:32 HOST:i118-20-98-64.s04.a001.ap.plala.or.jp
――ねぇ、刹。僕には何故君がよい方へ進んだのかが理解できない。
           だから僕は君が一つ進むたび、二つ君を突き落として見せよう。

 第二章 仮面少年と幽霊少年

 その少年は魘されていた。きつく、きつくワイシャツの胸元を握って、ただただ魘され続けているのだ。蓮が回復の精霊を呼んでも効果は出ない。はて、どうしたものかそんな風に考えながら蓮はベッドに横たわる刹のことを眺めていた。
 四六時中魘されているというわけではないのだが、それでも魘される時間の長さは日ごとに長くなり、間隔も短くなる。消耗のせいで回路がイカレでもしたのだろうか、そうなると後が厄介だなんて蓮は考えてため息を吐く。
 静かに立ち上がった蓮は、無表情のまま、刹の顔を覗き込む。間違ってもいいとは言えない。回復していると言うよりも明らかに悪化していた。困ったな、そんな風に呟いて、蓮は一枚の紙切れを取り出した。こうなりゃダメ元だ、そう考えて。

 「癒しを司る天使、ラファエルよ、今我が名の下に顕現し、その力を揮え」

 蓮の声に答えて、現れたのは杖や水筒を持った人間の姿に、大きな美しい翼を持った不思議なもの……大天使ラファエルだった。ラファエルは現れるなり、刹を見て小さく首を振る。まるで癒すことはできない、とでも言うように。
 そのラファエルの様子に蓮は思わず顔を顰めた。癒しを司る者の中ではトップクラスの力を持つラファエルである。そのラファエルが癒せぬほどのダメージなのか、蓮は考え込む。それを見たラファエルは小さく首を振る。否定の意味だ。
 しばらく考えて、蓮はようやく口を開く。その間黙り込んだ男の横に優しげに微笑むラファエルが佇むという少々奇妙な光景が作られていたが、蓮は気にしていない。

 「もしかして、俺の駒が引っ付いて邪魔になってるのか?」

 今度は頷いたラファエルに、蓮はため息を吐いた。なる程、確かにアイツならそれをやりかねないと考えて。引っ付いているものの意思などは関係ない。問題はその“力と意味”なのである。与えられた意味にしたがって無意識のうちに力を放出してしまうものなのだから。

 「月詠、中(ソイツ)から出て来い。お前が邪魔で回復できないと」
 「邪魔、とは久々に会った相手に対して随分なご挨拶で」

 蓮の言葉に反応して、刹の体から鈍く輝く銀の光が飛び出た。光はゆっくりと人の形をかたどっていき、やがて、黒地の布に桜などの花、蝶の描かれた着物を着た少年へと姿を変える。少年は腰より少し上ぐらいまでの銀髪に澄んだ右が薄紫、左が水色の瞳をしていた。太めのフレームの黒縁の眼鏡をかけている。
 軽く腕を組んで頬を膨らませるその少年の名前は月詠(ツキヨミ)。蓮と契約を交わし、人としての本来の名を失った元人間である。月詠を見た蓮は何も言わずにラファエルに指示を出した。蓮の場合一々指令を口に出す必要はないのだ。
 蓮と月詠は淡い光が刹を包むのをただただぼんやりと眺めていた。お互いに口を開くような様子はない。声を出してラファエルの集中力を削がないようにと考えてのことなのか、それとも単純にお互いが相手が何かを待っている状態なのか、そんな事はわからないが、とにかく二人ともジッと黙って刹の様子を眺めていた。
 ふわり、優しくラファエルが刹の胸元に触れると同時、刹の表情が落ち着いたものへと変わった。それを確認してラファエルは姿を消す。蓮に向けて、軽く頭を下げて。

 「よく気づきましたね。僕が中にいると」
 「あんな大っぴらに身体を乗っ取ってるとこ見せられればそれはな。……紅零も気づいていると思うぞ」

 蓮の指摘に刹は軽く舌を出して笑う。その様子はまるで無邪気な少年のように見えた。まぁ姿が十三、四歳ほどの少年の姿をしているのがそう見えてしまう原因なのだろう。呆れたようにため息を吐く蓮の顔を覗き込んで、今度はにんまりと引き裂くような笑みを月詠は浮かべた。
 その瞳には何処か面白がるような、そんなものが込められている。相変わらずのようだ、なんて少年の変わらぬ様子に安心しながらも蓮はその少年を真っ直ぐと見かえしてやる。少しだけ驚いたようにした後、少年はからかうような笑みへと表情を変える。
 まったく、お前は百面相か、そう言いたくなるのを堪えて、蓮は月詠が何かを言うのを待っている。

 「ようやと行動開始で?」
 「ああ。必要なものは揃うからな」
 「炎、風を担当する鍵がまだ見えてないようですが?」

 ふわり、着物の袖を翻し、ベッドの端に腰掛けた月詠は足を組んで蓮に問う。その表情は何処か楽しげであった。


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