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叫号〜Io ripeto un incubo〜

29霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/10/28(日) 01:25:02 HOST:i118-20-249-88.s04.a001.ap.plala.or.jp
 次に湊が目を覚ましたとき、ベッドの横にある椅子に座っていたのは、紅零だった。その手にはいくつかの果物のようなものが入った紙袋が抱えられている。軽く閉じたままそこに座っている姿が、どうしようもなく美しいものに湊は感じた。
 湊がジッと紅零の様子を見つめていると、紅零はゆっくり、ゆっくりとその瞳を開く。どうやら眠っていたのではないらしかった。考え事をしていたのである。湊に視線を移して薄く微笑んだ紅零は、紙袋の中から一つの果物を取り出す。
 血のように赤い果物だった。思わず身を引いた湊に紅零はその果物を差し出す。その表情は完全に面白がっているようなもの。その表情に疑問を抱きながら湊は自分の身体を起こす。

 「食べなさい。貴方の能力的消耗を解決するのにいい果物よ。この辺にはないから探すのに苦労したけどね」
 「あ、ど、どうも」

 戸惑いながら差し出された果物を齧ってみる。口の中一杯に広がる苦味。そしてどう表現していいかわからない味。吐き出したくなるのを必死に堪えて湊は果物を飲み込んだ。喉が焼けるように熱い。苦しくなっていく。
 一口だけ齧ったその果物を床に落とし、湊は自分の喉を押さえる。その様子を紅零は面白そうに笑ってみていた。しばらくして、短く息を吐いたかと思えば、胸元のポケットから小さな瓶を取り出す。瓶には不思議な色をした液体が入っている。

 「死にたくないでしょう? 飲みなさい。これは安全だから大丈夫よ」
 「ッ、なに、を」

 ひったくるように瓶を奪い取って湊は中身を飲み干す。ゆっくりと引いていく熱さに安堵を覚えながら、紅零を睨みつける。まだ声は出しにくかった。
 紅零はまるで何も無かったかのように床に落ちたその果物を拾う。血のように赤い、赤い果物を。

 「普通は生では食べないわよ。私達人間には毒素の強すぎるものですもの。普通は毒抜きをしてジュースにでもして体内に入れるのよ」
 「そんなもん、生で食べさせないでくださいます? 新任教師様」

 紅零の言葉に、表情を引きつらせながら湊は言う。一応相手は教師なので口調は崩さないで。本当ならば生徒になんてものを食べさせてるんだ大馬鹿野郎と叫んで散々罵ってやりたいところだが、流石にそれは我慢だと自分に言い聞かせる。
 そんな湊の様子を見た紅零は口元に手を当てて笑い、果物を手に持って立ち去っていく。何がしたかったんだあの人は、そんな風に呟いて湊は再び横になる。訳が分からない上に、変なものを食べさせられたせいで気分が悪い。
 しかも紅零はあの果物が危険なものであることを知っていて湊に齧らせたのだ。湊からすればもう腹立たしいのレベルを超えている。その場で怒り狂って精霊を召還しようとしないのが不思議なぐらいである。怒る元気がないだけかそう考えて湊は目を瞑る。
 今度は睡魔に襲われることはなかった。前まであったはずの気だるさを感じない。

 「ほら、ちゃんと処理してから飲み物にしてきたわよ。起きなさい」
 「……もう平気だと思いますが」

 部屋に戻ってきた紅零の手にはトマトジュースに良く似た液体に満たされた一つのグラス。さっきの出来事もあって警戒しながら湊は言葉を放つ。紅零は少し首をかしげた後、グラスを揺らしてみせる。

 「警戒しなくてもいいわよ。確かにあれは人間には毒だけど、生で食べた方が補給にはいいの。証拠に、大分楽になったでしょう? それに貴方の場合は平気だと思っても半分以下しか回復していないことが多いみたいだからね。飲んでおきなさい」
 「誰が余計なことを……白鷺か」

 もう生での方には触れなかった。気になったのは紅零が後で言った方だ。そんな事を告げ口する人間は生憎一人しか思い浮かばない。自らの従者、白鷺である。余計なことを、そう呟きながら紅零の手からグラスを抜き取る。
 深く息を吸い込んでグラスに口をつけた。広がるのは甘い香り。優しい味。さっきとの味の違いに湊は正直に驚いて、思わずグラスの中の液体を見つめる。そんな様子を眺める紅零は、まるで自分の兄弟でも見るかのような表情をしていた。
 静かにベッドの横の椅子に腰をかけて脚を組む。しばらくグラスを見つめていた湊が自分の方を見たのが少し面白くて噴出してしまう。

 「っふふ、ごめんなさいね。甘いでしょう? 毒素をちゃんと抜けば甘くなる、変わった果物よ」

 紅零の言葉を聞いて再び湊はグラスの中の液体を見つめる。赤い、赤い液体。
 グラスに口をつけて、今度は一気に飲み干す。心地のいい甘さが口の中に広がった。一気に飲み干したことに驚いて紅零は目を見開いている。勝ち誇ったような表情をして、湊は空になったグラスを揺らして見せた。


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