叫号～Io ripeto un incubo～ - 1326182384

10：霧月　蓮_〆 ◆REN/KP3zUk：2012/03/28(水) 22:46:04 HOST:i121-116-249-115.s04.a001.ap.plala.or.jp: 　「副会長、そろそろ……」

　しばらく無言で湊を見ていた白鷺が、時計を確認した後そう告げる。湊は黙って小さく頷いて、白鷺の方へと手を伸ばした。無言で白鷺に視線をやれば、白鷺は黙って頷く。静かに湊の手を掴み、深く深呼吸。湊を連れたまま能力での移動に失敗すると洒落にならない。そう考えると、無意識のうちに肩に力が入ってしまうのだった。
　寮から集合場所である体育館までは相当な距離がある。無駄に広い学園が何度恨めしく思えただろう、そう考えて湊はため息をついた。時計に目をやれば絶対に間に合わない時間だ。そういうときに役に立つのは、白鷺が扱う能力のうちの一つ、テレポート。あらゆる障害物を無視して目的地に移動できるの能力だ。
　もっとも場所で行き先を指定するのではなく、自分のいる場所からの方角、距離から移動先を指定するのでそこまで便利だとはいえない。移動先に障害物があって酷い目にあっただとかそんな話もよく耳にするし、恐ろしいものである。他にも人によっては一度に数メートルしか移動できなかったり、それってテレポートって言えるのかしら？　と首を傾げたくなる低レベルなものも多い。逆に馬鹿みたいに一回の移動距離が長い奴もいるのだが。
　白鷺が静かに目を閉じる。その瞬間に、湊の身体に妙な浮遊感。気づいたときには体育館のステージ上に座っていた。まだ生徒会のメンバーと教師の数人しか集合していない体育館を見渡し、湊は満足そうに頷く。間に合ってよかった、そんな風に呟いて。

　「あれ？　湊さん、いつの間に？」

　入学式の段取り表を片手にあちこちに指示を出していた風雅が湊を見て首を傾げた。相手は自らが率いる派閥の敵の派閥のリーダーだと言うのに、全く警戒せずに湊に近づいていく。その様子を離れたところから見た刹が深くため息をついたが、それは誰に届くわけでもなく消えていった。
　一瞬、湊は顔を顰めたが、これはあくまで業務的な会話だそう自分に言い聞かせて、必死に攻撃的な態度を取らないようにする。仮にも生徒会副会長と言う地位にいる以上は全体に影響が出ることは出来ないと考えているのだ。淡々と確認作業を進めていく。
　その様子をしばらく間近で眺めていた白鷺は、安心したように息を吐いた後刹の方へ。刹は無表情で新入生へ各理事長直属部隊や学園内組織の説明事項をひたすら確認中。これは教師の仕事じゃないのだろうかと考えながらも、さほど苦になるわけでもないため、二つ返事で承諾したのだった。

　「……大変？　お疲れ様」
　「別に。貴方の口からその言葉を聞くと悪寒がしますね」

　ストンと刹の横に座った白鷺は静かに言葉をかける。刹は一瞬白鷺の方を見るが、すぐに興味なさそうに手元の紙に視線を戻し、呟くように言った。白鷺の方も刹のそんな態度など気に留めていないようで、何処から取り出したかも分からない本を読み始める。
　会場設営のときの刹に向けた嫌いと言う言葉は何処へやら、白鷺の表情は何処か穏やかで……。二人が並んで座っている様子は仲の良い兄弟が座っている様にも見える。教師達もそんな二人のことを微笑ましいものを見るかのような目で見ていた。
　全ての確認作業が終わった頃、ぞろぞろと生徒たちが体育館に流れ込んでくる。風雅と湊は生徒会メンバーに与えられた専用の席に座り、風雅の横には刹が、湊の横には白鷺が立った。席を与えられず立ちっぱなしが決定している二人を哀れむような目で見ているものも居るが、当の本人たちは気にしていない様子。

　「保護者の皆様にご連絡いたします」

　ざわついていた体育館の中に凛とした声が響く。マイクを持った刹が諸注意の連絡を始めると、談笑していた生徒たちは姿勢を正して席に座る。保護者達の方も静かに注意を聞いていた。淡々と繰り返される注意に湊が心底退屈そうに欠伸を一つ。
　諸注意を終えた刹は黙ってマイクを司会進行を担当する教師に渡した。新入生の入場を告げる声が響いて、ゆったりとした曲が奏でられる。緊張の面持ちで自分の席へと歩いていく新入生達を風雅は明るい笑顔で眺めていた。まだどちらの派閥に所属するか決まっていない生徒が大半らしく、殆どの生徒が私服。
　この学園は闇か光、どちらかに所属するかを正式に決定するまでの期間が入学から一週間はある。その間は私服で登校することが許されているのだ。生徒の中には所属が決まった後も申請を通し、制服ではない服を着ている者も多い。そうでなくても刹のように既存の制服に自分で手を加えているものが大多数だ。派閥についてもそうだが、色々と変わっている学園なのだ。