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てんしさまのすむところ-刹那の大空-

57霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/09/02(日) 20:32:31 HOST:i121-115-63-50.s04.a001.ap.plala.or.jp
 玲が好きだと言う感情に気づいたきっかけは、中学一年の出来事。美術のコンテストに出した作品が盗作されて、そっちが入賞。……一年だった私が盗作したことになって、絶望。頑張って必死に作り上げたのに。私の主張は認められることなく、時だけが過ぎた。酷い言いがかりをつけられて、悩んで……部活を止めようとした。
 そうしたら、話を聞いた玲は夏のコンテストにも作品を出せ、と言ってきたんだ。どうせまた、盗作されて、言いがかりをつけられて……居心地が悪くなるだけだというのに。
 悔しくないのか、と聞かれた。悔しいけど、そう答えたときの彼の言葉はとても単純だった。悔しいのなら、諦めないで見返してやれ。……何も知らないくせに。ずっとずっとトップで努力もしないくせに、そう考えて八つ当たり。
 玲は優しく私の頭をなでて、受けとめてくれた。散々酷い言葉を投げつけたのに、玲は変わらずに笑って私の言葉を聞いてくれたんだ。誰も聞いてくれなかった、私の主張。不満。……そして怒り。全部を聞いて静かに頷いて、私の頭を撫でてくれる。
 そして、部室で描いて盗作されたのなら、別の場所で描けばいいといった。別に大会にだす作品は部室で作らなきゃいけないなんて決まりはなかったから。……空いている部屋がないのなら、自分の家の部屋を貸してやるとまで言ってくれた。
 そこから、私は玲の家で絵を描き始めた。時々、電話相手に玲が声を荒げているのを聞きながら、ひたすら絵を描く。寝てしまったときは、必ず玲が毛布や、カーディガンをかけてくれた。私が時間を忘れて作業をしていれば、お母さんに連絡を入れて、食事まで用意してくれる。
 構図に悩めば、夜遅くまで一緒に考えてくれたり、色が足りなくなれば、すぐに買ってきてくれたり。簡単なお菓子を作って持ってきてくれたり……。
 そうして、玲と一緒にいると、どうしようもなく、どきどきしている自分に気づいた。玲が他の女の子と話しているだけでイライラして……気づいたら芯まで玲のことを好きになっていた。我ながら単純だと思う。

 「……あの時、玲も家のことで凄く大変だったんだよね……」

 苦笑いを浮べる。絵の完成を一緒に喜んでくれたその時、玲には父親の再婚相手と本来の母の間で色々問題に巻き込まれていたらしい。なのに常に私のことを気にかけてくれた。……これはただの思い込みなのかも知れないけどね。
 そうして、夏休みの頃から、玲は大きく変わり始めた。どこか周りに冷たくなったし、嘘つきになった。何よりも、真っ先に猜疑心を現すようになって行く。嘘の言葉を並べて、強がるその姿が酷く痛々しかったのを覚えている。
 ……玲が1つのものに執着しなくなったのも、確かその頃だった。
 前までは、仲良くなったメンバー一人一人に強い執着心を見せて、他の人間が入ってくるのを異常に拒んで、避けていた。私達にべったりで、ことあるごとに一緒に行動しようと話しかけてくる。葵たちと話すようになったのも私を通してだったはずだ。……もう弟のような感じだったんだと思う。
 それが妙に可愛らしく見えたのは、当時の玲がかなり小柄だったこともあるのだろう。今やられたら、流石にドン引きする自信があるしね。

 「今も家の状態、酷いのかなぁ……?」

 ぼんやりと考える。元々、玲は私にさえ、家柄を教えようとはしなかった。家の問題についても誰にも相談しようとしないで一人で抱え込んでしまう。だから私は過去に玲の家で問題が起きたのを知っていても、それがどんな問題で、現在はどうなのかを知らない。
 このままだと、玲が……玲の心が壊れてしまう。葵たちがどうかなんて知らないけれど、私には分かる。玲は、私たちといるときでも気を張って、無理をしている。……心から笑っていないんだ。そうして、一人でいるときに、ふと遠くを見るような目をしてため息をつく。……ぼんやりと窓の外を眺めて、何かを考えるような素振りをする。
 そして、私たちが近づくと、咄嗟に笑って嘘で塗り固めた玲を演じるのだ。分かりやすくて困ってしまう。その癖して、しばらく時間が経つと、本心を完全に殺して、偽者の玲で溶け込んでくるのだ。それは、あくまで当然のように。
 ……やれやれ、何を考えているだ、私は。

 「あーあ……全然寝れないや」

 ため息をついて、天井を見つめる。こういうとき、葵ならどんな対応をするのだろうか。何も考えずに眠ってしまうのだろうか? 無理にでも騒いで、疲れきって、自然に意識が落ちていくのを待つのだろうか。案外、眠れないで延々と悩み続けるタイプかもしれない。そう考えて笑う。
 布団に潜り込んで目を閉じる。目の前で今起こっているかのように浮かぶ思い出に浸りながら、自然に眠れるのを待つ。不思議と、玲が、皆が傍にいるような気がして、落ち着いた。


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