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てんしさまのすむところ-刹那の大空-

53霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/08/18(土) 20:20:43 HOST:i121-115-63-50.s04.a001.ap.plala.or.jp
 美穂が笑う。騒いでいたさっきまでとは違って静かな声だった。美穂は笑顔のまま俺の前に立って、俺の顔を覗き込むような体勢を取る。

 「玲と、葵がさ、神童って呼ばれてた頃のこと。……私は良く覚えてるよ」

 美穂の言葉に、俺の中の何かが凍りついた。頭の中を美穂のものでも俺自身のものでもない声が、言葉が巡り俺を支配していく。俺が、俺じゃなくなっていく。

 ――玲は優秀だから。

 ……止めろ。

 ――玲みたいな生徒を持てて先生は幸せだぞ。

 止めろ……止めろ。これ以上、俺を褒めないでくれ。どうしていいか分からなくなるから。……そうだ、冷たくしてくれていいんだ。優しい言葉じゃなくて辛辣な言葉の方がいいんだ。その方が何十倍もやりやすい。別に褒めて欲しくなんてないんだ。ただ、ただ認めて欲しいだけ。そして、もう、頑張らなくていいって……。

 「私ね……その頃から玲が好き。……美術のコンクールで色々合ったでしょ? その時から、ずっと」

 止めろ……止めろ!!  俺は好きなんて感情は分からない。知りたくない、いらない。そう考えながら、相手が知っている俺を必死に演じる。

 「悪いな。俺は全ての女を平等に愛してるから」
 「……玲、何か無理してる?」

 違う、そんな否定の言葉が、喉から出て行ってくれない。止まって、渦巻いて、“何か”があふれ出しそうになる。殺せ。そんなわけの分からないものは殺してしまえ。感情もそうだ。殺せ。表に出すな。徹底的に殺して、殺して、殺しつくせ。そうじゃないといけない。そうじゃないと、俺は!!

 「別に……俺、先帰るぞ?」

 そういって、美穂の前を通り過ぎようとする。嗚呼なんて不自然な行動なのだろう。でも怖いんだ。目の前にいる、良く知っているはずの人間が怖い。中のいいはずの相手が怖い。怖い。怖い怖い怖い怖いこわい、コワイ!!

 「触るな!! 俺のことなんて放って置いてくれよ!!」

 俺の腕を掴んで、今にも泣きそうな顔をする美穂を振り払って俺は言う。震えが止まらなかった。驚いたような表情をする美穂を無視して、俺は家へと走り出す。ああ、胸が苦しい。……こんなときに発作かよ。ついてないな、本当に……。
 勢い良く家のドアを開けて中に転がり込む。布団に包まっても眠くならない。さっきのことが、昔のことが、延々と俺の頭の中を支配する。一体どうすればいいんだ。誰か教えてくれよ。分からないんだ。いくら考えても分からないんだ。
 胸が苦しい。発作なはずなのに、発作以外で苦しくなることなんてないはずなのに、吸入器を使っても治らないんだ。なぜか流れる雫も止められない。ポタポタとその雫は布団を濡らしていく。
 誰か助けて……。もう死にそうなんだ。息が上手く吸い込めない。吐き出すことでさえできない。

 ――アイツなんて死んでも困らないだろ。

 ……また頭に響いた声。……そうだ。苦しいなら死ねばいい。何でこんな簡単なことに気づくことができなかったのだろうか? 死ネバ楽二ナレル? 我ながら突発的な考えに苦笑いを隠せない。一体何を考えてるんだよ、俺は。


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