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てんしさまのすむところ-刹那の大空-

50霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/08/16(木) 00:56:51 HOST:i121-115-63-50.s04.a001.ap.plala.or.jp
 美穂は別れたコンビニの近くにある、喫茶店の前でソワソワしていた。俺の姿を見つけるなり凄い勢いで駆け寄ってくる。そして不安そうに俺の顔を見上げながら。心配させんなとか連絡ぐらいしっかりしろとか、そんな風に言葉を投げかけてくる。

 「ごめん……帰るか……」

 自分の声が酷く無機質なもののように思えた。歩き出そうとする寸前に見えた美穂の表情は完全に曇っていて……。それを見ると、ああ、俺は相当酷い顔をしているだろうなぁと思ったんだ。歩き出そうとすると、美穂が勢い良く俺の手を掴んだ。
 ネーロとは違って暖かい手。その温度が落ち着かなくて、怖くて、俺は黙ってその手を振り払う。美穂は驚いたような顔をしながら、俺の前に回りこんで顔を覗き込んできた。透き通った、綺麗な光の宿った瞳で。

 「玲、無理してる……? 凄い辛そうな顔をしてるよ?」
 「……別に。気のせいだろ」

 フイッと顔を逸らして歩きだそうとすると、美穂が抱きついてくる。訳が分からずに固まっていると、小さな、絞り出すような声で無理しないでと聞こえてきた。……無理などしていないのに、美穂は一体何を言っているのだろうか。
 ふと、自分の頬を冷たい雫が伝い落ちていく。離れようとした美穂の背中に咄嗟に腕を回す。……見られたくない。何故か止まらない雫に自分自身が一番戸惑いながら、必死に美穂を抱きしめる。顔を見られないように。覚られないように……。
 不安そうに俺の名前を呼ぶ美穂。戸惑ったように俺の背中に触れたり、離れたりしていたその手はいつの間にか1ヶ所に落ち着いていた。

 「……ごめん。あと少し、あと少しこのままでいさせて……」
 「うん……いいよ。何があったかはわかんないけど、落ち着くまでお好きなように」

 そっと頭、というよりも首に近いところが撫でられる。温度は心地悪かったのに、そのゆっくりとした優しい動作だけは心地よくて……しばらく美穂の頭に顔を埋めていた。少し息苦しいけど気にしない。フラリと漂う匂いはやっぱり美穂も女の子なんだなぁって感じさせられるもので……。
 雫が止まったことを確認して、美穂から離れる。美穂はいまだに心配そうに俺のことを見つめていた。だから俺は笑って美穂の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやる。そうすれば美穂は少し安心したように笑うのだった。……扱いやすくてよかった。
 二人で並んで町を歩く。幸い家からは近いところだった。数分歩いたところでマンションに到着。俺が美穂に合わせて歩いてやるのを忘れていたようで、美穂は横で息を切らせていた。そのことに軽く謝ってやって、エレベーターに乗り込む。
 一瞬の浮遊感。二人とも無言の空間。エレベーターは嫌いだ。狭いところで他人と関わらなくてはいけなくなるから。その分、ボロが出やすく、気づかれやすくなってしまうから。

 「じゃあな。風邪、引かないよーに」
 「玲には言われたくない。お休みー。ちゃんとご飯食べるんだよー」

 いつも通り言葉を交わしてそれぞれの家に入る。お前は俺の親かとツッコムのも忘れなかった。隣の部屋同士だけど、防音のおかげで物音一つ聞こえない、そんな家。自分だけの空間。一人暮らしを始めて、自分だけの空間がどれだけ心地いいかが良く分かった。
 とりあえずネクタイを緩めて、制服を脱ぎ捨てる。風呂は沸かしてなかったからさっさとシャワーを済ませて、半袖のシャツと短パンを着る。やっぱり人がいないときはこの格好に限るよな。誰かいたら絶対にこんな格好はしないのだけど。
 制服にアイロンをかけて、専用のハンガーにかける。そこまで終わらせて時計を確認すると、時刻は二十二時。ああ、ということは帰ってきたのも結構遅かったな。……美穂怒られてないといいけど。アイツの家わりと厳しいし。
 そんな事を考えながら歯を磨いて、身をベッドに投げる。ふんわりと身を包む布団の柔らかに癒される。しばらく枕を抱きしめていると眠気が襲い掛かってきた。……別に抗う必要もないから静かに目を閉じる。それだけで俺の意識は闇の中へ……。


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