てんしさまのすむところ-刹那の大空- - 1308916143

28：霧月　蓮_〆 ◆REN/KP3zUk：2012/04/06(金) 01:28:23 HOST:i121-116-249-115.s04.a001.ap.plala.or.jp: 　しばらく好き勝手に歌ったりしていた。もちろん中心となるのは美穂だ。美穂の無茶振りに玲が答えるため、女声で歌うなど色々やらかしている。しかも何気に音域が広い玲……目さえ瞑ってしまえば普通に女の声に聞こえる。地声がそこまで低くないのも影響しているかもしれないが。
　俺はなぜか演歌を歌わされた。……嗚呼、そう。お前らの中の俺のイメージはそうなんだな。遊莉は聞いているだけで苦しくなるような早口、高音の曲を歌って高得点をたたき出す。もう人間じゃないよこいつら……。
　彩花の選曲が何気に古いことには誰も突っ込まなかった。凛は明らかに苦笑いを浮べていたが、茶々を入れたりしない。しかも歌いもしない。ひたすらイチゴ牛乳を飲んでいるか雑誌を見ている。……コイツ何しに来たんだろうか。

　「あー歌ったねー」

　そう言って伸びをする凛に全員が息をそろえてお前は歌ってなかっただろとツッコミ。今はカラオケ店の周辺の広場で休憩中だ。美穂は玲に買ってこさせたクレープを頬張っている。その横で全力疾走でクレープを買ってきた玲がノックダウン。呼吸をするたびにヒューヒューと音を立てている。
　心配そうに玲の額に手を当てるルチをとりあえず俺の横に非難させておくが、玲が暴走し始める様子は無かった。どうやら相当苦しいらしい。遊莉が玲の鞄をあさって小さなポーチを取り出して、玲に渡す。
　彩花が玲の身体を起こして、ポーチの中から小さな吸入器を取り出して玲に差し出していた。メプチンエアーと言う薬で、喘息の発作が出る度に使っていらしい。玲は吸入器を受け取るも、さほど酷い発作でもないからと使わずに片付けていた。

　「大丈夫か？　急に発作なんてあるものなのか？」
　「ああ……平気だ。今日はちょっと調子が悪かったが……やっぱりかって感じ」

　苦笑いを浮べてそう答える玲の顔色は良くない。呼吸も荒くて、本当に苦しそうだ。美穂が謝っても気にしなくて良いというだけ。ルチが心配そうに背中をさすったりしているがやはり暴走なし。先ほどまでの元気は一体何処へ？　と問いたくなってくる。
　今日はと言っていたから、朝から調子が悪かったのか。それなのに俺らに合わせていつものテンションを保って、長距離を全力疾走して発作……何と言うか間抜けな気がして仕方がない。元々調子が悪かったなら大人しくしていれば良かったのに。
　凛の姿が見えないと思って辺りを見渡すと、噴水の近くで両手を空に向けて何かを叫んでいた。……他人のフリだ、他人のフリ。間違っても同類には見られたくない。周りからの視線が痛くないのだろうか。

　「あ、玲。バス来たよ。今日はもう帰ろう？」

　クレープを食べ終え、辺りを見回していた美穂が声を上げる。玲は力なく頷いてバスの方へと歩いていく。玲と美穂の住んでいるマンションは町から少しだけ離れた高級住宅街と呼ばれているところにあり、登下校や移動は基本的にバスで行っているのだ。歩いて帰れない距離でもないが今の玲では無理がある。
　よたよたと歩く玲を支える美穂に手を振る。本当は俺らもついていきたいところだが、俺と遊莉、ルチはそろそろ駅に向かわないと帰れない。彩花は学校の周辺に家があるのだが、今日は家のことをやらないといけないらしく無理。凛については玲と二人きりにすると大喧嘩して、玲の状態を悪化させかねないから却下。
　仕方なく同じマンションに住む美穂に玲を押し付けて、俺と遊莉、ルチも走り出す。時々ルチが不安そうにバス停の方を振り返っていたが、そのたびに急かして前を向かせる。

　「だ、大丈夫なのでしょうか？　相当苦しそうでしたけど……」
　「大丈夫だよ。美穂がついているから心配ないよ。いざとなったら美穂の家に玲を引きずり込むかな」

　どうにか電車の時間に間に合って、ホームで息をついているとルチが不安そうに言う。そんなルチの頭を撫で、まるで言い聞かせるかのように遊莉は言った。俺もそれに言葉をかぶせてとりあえずルチを安心させようとするが、無駄なようで。本人から連絡が来ればいいんだけどなぁ。
　深くため息をついて、遊莉に頭をなでられつつ、電車に乗り込む。ガラガラの車内を見渡した後、三人で固まって座席に座る。何気ない内容で談笑をするけれども、頭の中に浮かんでくるのは玲の体調のこと。後でメールでもしてみようと呟いて息を吐くのだった。