てんしさまのすむところ-刹那の大空- - 1308916143

19：霧月　蓮_〆 ◆REN/KP3zUk：2012/03/04(日) 21:16:10 HOST:i121-116-249-115.s04.a001.ap.plala.or.jp: 第二章-欠片使いと狙う悪魔-

　ぼんやりと外を眺めながら、欠伸を一つ。人間の回復力と言うものは案外侮れないものだと思った。……三日前までは高熱を出して喘いでいた俺も、今ではすっかり回復していた。途中、高熱ってレベルじゃない熱が出たが、ステッラが必死になって看病してくれた影響で難なく回復。……これって俺の回復力じゃなくてステッラの力な気がするけど。
　気がつけば、周りのクラスメートは教室から出て行くところだった。俺の友人たちは何も言わずに出て行く。……俺が風邪から回復して、学校に復帰した後はずっとこの調子だった。きっとまだ治りきってないんじゃないかと疑っているらしい。まぁその気持ち分からない気はしないけどさ。
　ルチが駆け寄ってきて、俺の手を引っ張った。まるで駄々っ子のように見えてくる。俺の友人が離れていったのもルチが俺にべったりなことも関係あるんじゃないだろうか？　ルチは愛想はいいけど人見知りなところがあるし……。あ、でもアイツら知らない人とか関係なく巻き込む奴らだし……うーん。

　「おー？　葵さんよ、何しけたツラしてんだよ？　今日は四時間の楽園デーじゃないか!!」

　目の前が暗くなったかと思えば、頭上からテンションが高い声が聞こえた来た。顔を上げれば、色素の薄い黒髪……ぶっちゃけると灰色に近い毛色の髪。長さは肩ぐらいまでで、ふわふわとウェーブがかかった髪をもっている少年。その少年の瞳は透き通った青でややつり目気味……その影響か常に人を睨んでいるように見えてしまう。
　しかし顔立ちは整っているためか人気は高い。愛想も良いしな。時たま眼鏡を上げると、それだけで歓声が上がるほど……まぁ色々残念な性格の持ち主なんだが、知らない奴は幸せだと思う。そんな目の前の少年の名前は月城　玲(ツキシロ　アキラ)。小学校の頃からの友人である。

　「逆に聞くけどよ……お前は何でいつもそんなにテンション高いんだよ？」

　俺が呆れたように問いかけると、玲はニヤリと笑って、腰に手を当てていた。……そんな様子をルチが危ない人物を見るかのような目で見ている。……本能的に危ないとでも思ったのだろうか？　だとしたらその本能は間違ってはいない。……コイツ、可愛いは正義とか言って、性別とかを気にしない勇者だしな。
　フッとルチに目をやった玲は、ニコリと笑って、軽く会釈。どうやら今まで気づいていなかったようだ。玲に会釈されたルチは、慌てたように頭を下げた。悶絶する玲の頭を鞄で思いっきり叩いて現実に帰ってきてもらう。わざわざ別のクラスの玲が来たんだ、何か用事があるんだろう。出来るならさっさと終わらせて欲しい。

　「あー、そうだ。葵、カラオケ来るだろ？」
　「えー……めんどいから行かない」

　俺が言うと、玲は露骨に顔を顰めた。何だ、言いたいことがあるならはっきり言えよ、なんて考えていると玲は深くため息をつく。ルチは自分がいたら駄目なのかと思ったようで、そろーっと教室から出て行こうとしていた。それを玲は優しく引き止める。

　「いや、面倒っていう理由なら来てもらうぜ？　今日は美穂(ミホ)がコンクールに入賞した祝いなんだしさ。んでそこのちっこいのも来いよ。人数は多い方が楽しいしな！」

　明るく玲が言うと、ルチは困ったような表情をして首をかしげていた。そりゃ、ほぼ初対面に近い奴に突然誘われればそうなるよな……。俺が呆れて、最初からそう言えよ、と言うと玲は悪びれもせずに玲は笑っていた。もうため息をつくことしか出来ない。
　仕方なく頷いて鞄を持つと、ルチが駆け寄ってくる。来ていいものなのかが分からないらしく、今にも泣きそうな表情で俺の顔を覗き込んでくる。出来るだけ優しくルチの頭を撫でてやると、玲が再び悶え始める。……駄目だコイツ、早く何とかしないと……。あ、もう手遅れか。
　しばらく悶え続ける玲を眺めていると、教室の後ろのドアからにゅうっと顔を出した少女がいた。腰ぐらいまでの長さがある、明るい茶色の髪に、緑の瞳……。こちらは玲と違ってたれ目で、入学数日で一年男子のアイドルと化している少女だ。玲と仲が良くて、よく愚痴を聞かされているのを目撃する。
　ちなみにこの少女、性格に一癖あり……というか癖の塊のようなものだ。だから玲が言っている多少過激な愚痴にも素で対応できる。一言で表すならば、不思議ちゃんを通り越して、軽く電波……。普段は比較的まともな方なのだが、一度スイッチが入ると訳の分からない発言を繰り返すマシーンと化す。……ちなみに好物は赤いチューリップ。あ、食べるわけではないぞ？