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てんしさまのすむところ-刹那の大空-
1
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/24(金) 20:49:03 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
なぜか平仮名多めなタイトル。わざとです、変換ミスではありません。
のんびり更新ではありますが出来るだけ完結を目指していくのでよろしくお願いいたします。
今回は一応、ギャグを中心として物語を進めて行こうと思います。ギャグなんて書くのは久しぶりなので色々と酷いことになると思われますが、生暖かい目で見てやってください。
シリアスも入りますが……。それと相変らずファンタジーしか書けないようです。これは何とかしなくては……。
!注意事項!
・誤字、脱字、言葉の誤用が多いかと思われます。1度辞書を引いてから使おうとは思いますが、そういうのを見つけた場合お知らせいただけると大変助かります。
・一応まろやかに描写するようにしますが、主人公その他諸々、非常に口と頭が悪いです。気分を害された場合直ちにブラウザバックを連打してください。
・アドバイス等常時お待ちしています。すぐに繁栄できない可能性もありますが、出来うる限り反映させていきます
-ふと見上げたその空は……-
2
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/24(金) 21:32:00 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
書き忘れていた。この小説は基本的に主人公が語り手となる、一人称小説となっております。視点が変わる場合のみタイトルの横に明記して置きますね。
序章-落ちた天使と、見つけた欠片-
俺は大嫌いだった。へらへら笑っているだけの奴らも、自己中心的で自分の保身で精一杯になっている馬鹿野郎も、人のことばかり言って自分のことは棚に上げてばかりの奴も、周りには沢山の人がいるのに一匹狼を気取っているような奴も……。そして、こんな見方しか出来ない自分自身も。何でそんな人たちが嫌いなの? なんて問われればはっきりと答えるだろう。自分を見ているようでイライラするからだと。所詮はそんな物だ、そう考えて俺は息を吐く。異端を気取った馬鹿野郎の一人語りだ。それがどれほど滑稽で馬鹿らしいものなのか、俺は理解しようともしない。
「やれやれ……馬鹿みたいだな」
小さくため息をついて肩をすくめてみた。全く俺は何をしているのだろうか、そう考えて手に持っていた本を放り投げる。そんな俺を心配そうに見るのは白金の髪に澄んだ金の瞳をした少年、ルチアーノ・クローチェである。一応はこのクラスの仲間の一人で、名前から解るとおり日本人ではない。だからどうだというわけでも無いが。ちなみに身長がやたらと低く、髪を腰より少し下程度まで伸ばし、黒のリボンでまとめている。本人が言うには願掛け、らしいのだが本当に効果があるのかは俺にとって眉唾ものである。まぁ本人は本気で信じているらしいので俺も何も言わなかった。
ちなみに願い事は他者に教えてはいけないらしい。まぁそういうものは、願い事を人に教えた途端に効果が消えてしまうとか言うものよく聞くし、言及はしない。だって本気でやっている物を邪魔してまで願い事を聞くのはなんだか無粋だと思うし。ちなみにルチアーノ、ここからはルチと呼ばせてもらおうか……。ルチ本人としては髪の毛が長いのは相当鬱陶しいらしい。一週間ほど前に床屋の前で睨めっこ状態になっていたときは流石に、大人しく切ればいいのに、と思ったりもしたが。
「はい、アオちゃん」
やけに明るい笑顔で本を差し出してきた。ルチは基本的に俺に構ってくることが多かった。なぜかは知らないし、俺の思い込みかもしれないが気付けば横にいることが多かったと思う。俺も自然に受け入れているのだから不思議なものである。ああ、アオちゃんというのは俺のことだ。俺の名前は櫻井 葵(サクライ アオイ)。特徴がないとよく言われるごく普通の高校一年生である。まぁ本当に特徴がないかはどうでもいい、自分でそう思っているだけなのだし。
ルチが差し出した本を受け取れば、ルチは満面の笑みで早く帰ろうと促してきた。現在放課後である。教室内に残っているのは噂好きの女子数名と、居残りを食らった哀れな男子数名である。邪魔になるのもあまり好ましくはないしサッサと帰るか、そう考えて机の中に残っていた教科書類を鞄の中に入れる。手に鞄を持って、すでに帰る気満々なルチは俺の周りをくるくると回っている。落ち着きのないやつめ……。
3
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/24(金) 23:37:29 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
「なールチ、今日は何処に寄り道する?」
校門を出たところでルチにそう問いかける。最近はルチとあちこちを回って歩くのが日課になっていた。真面目な頭のお堅い連中は真っ直ぐ家に帰って勉強をしているようだが俺にとってはどうでもいいことである。まぁある程度の成績はキープしないといけないとは思うが。ルチは何だかんだ言って授業でやったことは良く出来るし、それを応用してテストの問題を解いたりすることが出来る。その点については俺らのクラスの中ではトップクラスだ。しかしなぜかそれが日常生活に生かされていない。馬鹿、というのかは解らないが、とりあえず日常生活でありえない行動をするのは確かだった。
初めて会ったときなんて、携帯を見て酷く脅えていたし、一般常識なるものが極端に欠落しているのかもしれない、そう考えた。もっとも、その辺がどうであろうがルチと遊ぶのは楽しいのであまり気にならないのではあるが。ふと俺の横からルチが消える。慌てて辺りを見渡してみれば手に毛虫を乗っけて、こっちに向かって手を振っているルチの姿を見つけた。……前言撤回あいつは馬鹿だ。俺も毛虫や虫自体は苦手ではないし触ることも出来る。しかし毛虫となれば話は別である。全部が全部といったわけでは無いが、中には毒を持っているような奴もいる。もっとも毛虫の毒程度で死ぬかは疑問なのだが。
「ルチ、むやみやたらに虫をさわんな。特に毛虫は。毒持っているような奴だったらかぶれるぞ」
俺の言葉に驚いたかのようにした後に手に乗せていた毛虫を叩き落とすルチ。残念ながら俺はどの種類の毛虫が毒をもっているかなどの知識はほぼないに等しい。だから毛虫全体を避けている。まぁごく稀につまんだりするが多くは布越しだったりと素手で触ることはまずない。……本当に予防できているのかは良く分からないが。
しばらく毛虫を乗せていた手をブンブンと振り回すルチを眺める。なんと言うか幼い子供を見ているような気分だった。ルチが小柄なのもあるかもしれないが、別の何かがあるような気がする。やはり、知識、の面だろうか? ふと知識や一般常識が普通にあるルチを想像しようとしたが俺にはできなかった。……俺ってつくづく失礼な奴だな。ルチの前で口に出したら真っ先に殴られるだろう、そう考えてただただ、苦笑いを浮べた。
「ふぇ? 雪でしょうか?」
ふとルチが天を仰いだ。何の前触れもなく降り注いだ白に手を掲げる。それは羽根だった。鳥のものとはまた違う、真っ白な羽根。なんか巨大な白鳥でも居るのだろうか、そんな非現実的なことを考えて空を見上げる。……確実に、何かが落ちてきていた。それも凄いスピードで。落ちてきている物の正体を探ろうと目を凝らしてみた。
4
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/24(金) 23:47:07 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
「なールチ、今日は何処に寄り道する?」
校門を出たところでルチにそう問いかける。最近はルチとあちこちを回って歩くのが日課になっていた。真面目な頭のお堅い連中は真っ直ぐ家に帰って勉強をしているようだが俺にとってはどうでもいいことである。まぁある程度の成績はキープしないといけないとは思うが。ルチは何だかんだ言って授業でやったことは良く出来るし、それを応用してテストの問題を解いたりすることが出来る。その点については俺らのクラスの中ではトップクラスだ。しかしなぜかそれが日常生活に生かされていない。馬鹿、というのかは解らないが、とりあえず日常生活でありえない行動をするのは確かだった。
初めて会ったときなんて、携帯を見て酷く脅えていたし、一般常識なるものが極端に欠落しているのかもしれない、そう考えた。もっとも、その辺がどうであろうがルチと遊ぶのは楽しいのであまり気にならないのではあるが。ふと俺の横からルチが消える。慌てて辺りを見渡してみれば手に毛虫を乗っけて、こっちに向かって手を振っているルチの姿を見つけた。……前言撤回あいつは馬鹿だ。俺も虫自体は苦手ではないし触ることも出来る。しかし毛虫となれば話は別である。全部が全部といったわけでは無いが、中には毒を持っているような奴もいる。もっとも毛虫の毒程度で死ぬかは疑問なのだが。
「ルチ、むやみやたらに虫をさわんな。特に毛虫は。毒持っているような奴だったらかぶれるぞ」
俺の言葉に驚いたかのようにした後に手に乗せていた毛虫を叩き落とすルチ。残念ながら俺はどの種類の毛虫が毒をもっているかなどの知識はほぼないに等しい。だから毛虫全体を避けている。まぁごく稀につまんだりするが多くは布越しだったりと素手で触ることはまずない。……本当に予防できているのかは良く分からないが。
しばらく毛虫を乗せていた手をブンブンと振り回すルチを眺める。なんと言うか幼い子供を見ているような気分だった。ルチが小柄なのもあるかもしれないが、別の何かがあるような気がする。やはり、知識、の面だろうか? ふと知識や一般常識が普通にあるルチを想像しようとしたが俺にはできなかった。……俺ってつくづく失礼な奴だな。ルチの前で口に出したら真っ先に殴られるだろう、そう考えてただただ、苦笑いを浮べた。
「ふぇ? 雪でしょうか?」
ふとルチが天を仰いだ。何の前触れもなく降り注いだ白に手を掲げる。それは羽根だった。鳥のものとはまた違う、真っ白な羽根。なんか巨大な白鳥でも居るのだろうか、そんな非現実的なことを考えて空を見上げる。……確実に、何かが落ちてきていた。それも凄いスピードで。落ちてきている物の正体を探ろうと目を凝らしてみた。
___________________________________________________________________
消し忘れがあったため修正。
しかし中々本題に入れない……
5
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/26(日) 13:04:59 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
人、のように見える。それも真っ白な翼が生えた……言うのなら天使、だろうか? ルチも驚いたように空を見上げていた。そりゃ空から人が落ちてくれば驚くよな。ルチが空を指差して口をパクパクと動かしている。とりあえず乱暴にルチの頭をなでて歩き出すことにした。ああいうのに関わるとろくなことないし、無視したほうがいいと考えた。つか普通に助からないだろ。あれを見るところ絶対頭から落ちてるし。
驚いたように声を上げながらも俺の後ろについてくるルチ。キュッと俺の服をつかんで「た、助けないんですか?」と聞いてきた。残念ながら同姓にそんなことをされてもどうとも思わないので無視して進む。小さな声で白状者とか言われたけど気にしない。助けようにも手出したら逆に危ない気がするし。凄いスピードで落ちてくる人間を生身でキャッチするなんて俺には出来る自信が全くありません。絶対手とか潰れるだろ。不意に後ろから形容しがたい音が聞こえてきた。……お亡くなりになったな。街中でスカイダイビングなんてするから……。
「て、天使っ!?」
ルチが声を上げる。悲鳴にも近い声だったが、惨劇でも目撃してしまったのだろうか? 確実にトラウマ物だろうに……そう考えていたらルチがいっそう強く俺の服を引っ張った。なんか震えているような気がする。仕方なく振り返ってみればルチが一点を指差して震えていた。これは絶対に惨劇だろ、見ちゃいけないだろ、モザイクだろ、そう叫びたいが、そんなことをすれば確実にルチが泣き出すだろうと考えて押さえ込む。残念ながら見たものにモザイクをかけるような処理能力を俺はもっていない。とりあえず震えるルチを抱き上げて、その場を立ち去ることにする。
思っていたよりもルチは軽かった。それが酷く助かるところである。走り出そうとしたところで俺はあることに気付く。
「あれ……?」
誤って、というかなんと言うか、視線を下に向けてみたが何も飛び散ってはいない。血か何かが飛び散っていると思ったが案外飛び散らないのだろうか? 首をかしげているとルチが「て、天使が落ちてきた……」と呟いた。あまりのショックで頭がおかしくなってしまったのだろうか? 俺は直視してないから何とでもなるけどさ。ご愁傷様としかいえない。
「おいおいおーい!! このきゅーとな天使ちゃんを無視とはいい度胸なの!!」
後ろから凄い勢いで襟首をつかまれた。やめろ、首が絞まる、死ぬ、死ぬって。気付けばルチを放り投げて自分の服の襟首をつかむ相手に抵抗するので精一杯になっていた。放り投げられたルチが恨めしそうに俺を見てくるが、今は無視。自分の命の方が優先である。どうにか襟首をつかんでいた奴を引っぺがす。
羽根が生えている小さい子供だった。流れるような太股まである金髪に透き通った宝石のような青の瞳、頭には光を放つ金色の輪、背中の真っ白な翼。……天使のようである。右肩から引っ掛けたような布を左脇下のあたりで十字架を使ってとめている。着ているのは短い真っ白なワンピースであった。って、俺は一体何がしたいんだよ。何でこんなに小さい子をまじまじと観察してんだよ!? 明らかに変態だろ。危ない人の仲間入りだろ……。
6
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/07/08(金) 23:18:36 HOST:i121-114-190-171.s04.a001.ap.plala.or.jp
とりあえずこの羽根は本物なのだろうか? そう考えて首を傾げる。背中から生えているように見えるから翼というべきなのだろうか? その辺は良く分からないが、見れば見るほどに不思議な子だった。抜け落ちた羽根はその辺の鳥とは違って真っ白で……。ルチは怯えたように震えた後、鋭く女の子を睨みつけている。なんだかルチがそんな表情をするとは思っていなかったからか、俺もどうすればいいかわからない。ルチのことだからやさしく接するだろうと思っていたのだが、どうやらそれは見当違いだったらしい。まぁ背中に翼が生えた怪しい子供ならば仕方がないのだろうか? 俺には良く分からない。
困ったものだった。元々小さい子の相手をすることがなかったこともあるが、何よりも相手は翼を生やしたいかにも怪しい子。下手に機嫌を損ねれば、なにやら珍妙な力で殴り殺されそうな気がした。白い翼と先ほど言った言葉に反せずに慈悲深いキュートな天使様なら大いに助かるのではあるが。……相手の口調から感じるにそんな希望は通らないようである。
「天使……か。ルチどう思う?」
すっかり険しい表情のルチに話を振ってみる。ルチはすっかり不愉快そうな表情で腕を組んで「天使はもっと気高いものだと思います」と言い放った。ルチ天使とか神話とか空きそうだしな。ある意味予想通りの反応だった。どうしたものかと頭を抱えていたら少女がニコッと明るい笑みを浮かべた。何を考えているのか、そんなことは俺には分からない。超能力者なら別なのだろうが、おあいにく様そんな非科学的なものは信じない。だから天使や神なんていうものも信じていないのだが、場合によっては天使の存在を信じなくてはならなくなる。それは目の前の少女次第だが。
少女は一呼吸置いて、胸元に手を当ててぺこりと頭を下げた。何をするつもりなのだろうか? そう考えていると少女は口を開くゆっくりとした調子だが、別に苦になるほどのものではない。ここで聞かないで後々困るのも嫌なのでとりあえず黙って聞いておくことにする。
「ボクはステッラ=スペランツァって言うの。君達は?」
どうやら名乗っただけだったようだ。小さくため息をついて相手が名乗ったのだから仕方がないと俺も名乗ることにした。別に減るもんじゃないしな。そんなことを考えながら初対面の相手にいつもするように「櫻井 葵。まぁ、よろしく」と言った。頭は別に下げる必要もないだろうと思ったのでそのまま相手をまっすぐ見つめてやった。しかしそんな熱い視線を無視してステッラと名乗った少女はルチのほうに顔を向けて、早く名前を言うようにと笑顔で促している。なんていうか妙な威圧感を感じるのは俺だけなのだろうか? なんというかゴゴゴゴゴなんていう効果音が似合いそうである。
「……ルチアーノ。ルチアーノ=クローチェ」
無愛想に、ボソリとルチが言う。ここまでルチのテンションが落ちているのも珍しいと思った。普段のルチは基本的に笑みを浮かべているし、それが嘘だろうと相手に悟らせないようなところがある。しかし今回はそれが感じられなかった。いつでも気を遣っているルチが本気で不快感を露にしているのである。ルチも人間だ。完璧ではないし、隠し切れないことがあるであろうことも認める。ただ、あまりにもいつもと違うルチに驚いたのは事実であった。そんなこと知ってか知らずか、ステッラは満足そうに笑った。それはもう子供のような無邪気な笑みだった。
ステッラは言う。自分は天使で、探し物をするために来たのだと。やって来たと言うよりは落ちた、ように見えたが本人は断固としてやって来たと断言するものだからそこに突っ込むのもやめた。なんというか面倒だった。天使だ、と言われても信用できないことがある。それこそコスプレなんていうようなものみたいに、実際は違うのにそれになりきっている可能性も否定できないのである。確認すれば言いと言うが、さて、どう確認すればいいのだろうか? それが分からずにただただ首をかしげた。この際、翼の付け根を見れば早いのだろうが、なんと言うか気が引けるのだ。……と言うか俺、何でコスプレを例に出したし。
7
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/07/09(土) 00:14:54 HOST:i121-114-190-171.s04.a001.ap.plala.or.jp
「天使だと言う証拠は? それなりのものがあるんですよね?」
ルチの言葉にステッラはこくりと頷く。同時にバサァッとその純白の翼を広げて数メートル程浮き上がった。大体俺の身長の倍ぐらいの高さで、規則的に翼を動かしてとどまっていた。降り注ぐ羽根はまるで雪のように見える。トリックがあるのではないだろうか、そう考えて空を見上げるもヘリコプターやワイヤーなどはない。と言うよりそんなもので浮いているとしたら相当揺れて、その場にとどまることなんて出来ずにぐらぐらと揺れているのだろう。しかし、ルチは納得していないようだった。まるでそれぐらい誰でも出来るとでもいうかのように鼻で笑った。……俺はまずあんな高くまでジャンプできないし、留まることなんてもってのほかだ。他の人間でも身長の倍以上飛んでそのまま空中に留まっているようなやつは見たことがない。こうなると信じるしかないのである。いや、俺の基準が低いだけなのかもしれないが。
「信じていない、と言うよりは嫌がっているね? 天使と言う存在を」
ステッラもルチに負けてはいなかった。鋭い目つきでルチを見ればそう言ってふわりとルチの前に降り立った。さっき降ってきたときとはまるで別人のように、静かに地面に立つ。なんだか俺、蚊帳の外。すでにルチとステッラの睨み合いが始まっている。どうやら俺のことなんて気にも留めていないようだった。ルチをおいてさっさと帰るわけにも行かず、じっとその光景を眺める。
やがて、フッとステッラが笑った。ゆっくりと俺の方を見るその目に心の底を見透かされたような気がして、背中に悪寒が走る。俺の胸元に突き出したステッラの手が淡く光った。逃げたい、そう思っても不思議と足が動いてくれることはない。まるで縫いとめられたかのように、ただただ俺の胸元で光る手を見つめていた。気持ちが悪い、そう考えたところでステッラの手が光を放つのをやめた。淡い光はまるで吸い込まれるように消えていく。
何のことだかまったく分からないで固まっているとステッラはまた、屈託無い笑みを浮かべて「まぁいいの。ルチアーノさんにはいま興味は無いの」なんて冷たい言葉を放った。ルチもそれを聞いて僅かに表情を緩めたようだった。それでもいつもと比べると大分警戒の色が見えてしまっているのだが。ルチがステッラや天使にどんな感情を抱いているのかそれが良く分からないが、良くは思っていないようだ、と勝手に解釈しておく。ステッラは再び話を始めた。この世界……天使達は下界と呼ぶらしいが、ここに来た理由……つまり探し物について話し始めた。探し物は“欠片”と呼ばれているものらしい。
話があまりにも長かったのでまとめると、その欠片とやらは天使達の世界のバランスを保つためのものだったり、上位の天使に与えられる力の結晶だったりするらしい。俺は欠片といわれるとどうしてもガラスの破片とかその辺を思い浮かべてしまうが。……とまぁそんなことはどうでもいい。とにかくその欠片が何らかの以上で下界に散らばってしまっていた、とのことだ。それは人間からすれば膨大な力を秘めているために危険、だとのこと。使い方を間違えば、すぐに破滅を招くようなそんな危ないものもあるらしい。もっとも正しい使い方をすればそんなことはない上にある程度の恩恵に与れるらしいがそれも好ましくないとステッラは言った。
そもそも人間が天使の使うものの正しい使い方を分かるわけが無いとルチが文句ありげに言っていた。……ごもっともである。説明されれば理解できるだろうがそれが無ければただの綺麗な何か、程度の認識しか持てないであろう。俺がそこまで考えたところで、ステッラは僅かに表情を曇らせて「悪魔なんかに奪われたら大変なことになっちゃうんだよ」と言ってため息をついた。半分理解できていないが何となく大変そうだなぁと思う。
「で、アオ兄が欠片に選ばれちゃってるんだけど……」
申し訳ない、とでも言うような表情でステッラが言った。欠片に選ばれたという意味が分からなくて首を傾げていれば、ルチが「何かアオちゃんが欠片になってる、みたいな言い方ですね」といった。ステッラの話を聞いたのにもかかわらず頭に浮かんできたのはやはりガラスの破片のようなものであった。違うと言うかのようにステッラが首を振る。なんだかもう意味が分からない。欠片に選ばれるって何? 何で俺は初対面の子供に兄付けで呼ばれているの? なんていう具合に頭の容量が吹っ切れてしまいそうである。
「えーっと……欠片に選ばれるというのは、取り憑かれるみたいな感じなの」
8
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/07/15(金) 22:04:10 HOST:i121-114-188-23.s04.a001.ap.plala.or.jp
選ばれた、そう言われればなにやら特別な感じがするというのに、一言、取り憑かれたに変化しただけで大分印象が悪くなるものだった。ここでなんて言って良いか分からずにただただ黙り込む俺をルチが苦笑いを浮かべながら見つめている。ステッラは少し首をかしげて「アオ兄って何か特別な力を持ってたりする? 超能力って呼ばれるやつとかさ」なんて言っていた。……何処の非現実だよ、そう突っ込もうとも思ったのだが、天使と出会ってしまっている時点ですっかり俺の異能、天使等なぞの存在なんて何にもない“現実”なんていうものは既に破壊されてしまっているのだ。これを言うべきなのは目の前の天使、ステッラが名乗ったときだっただろう。……すっかり使い時を逃してしまった。
というかそのうち本当に超能力者やら悪魔やら何やらがわんさかと出てきそうで俺は対応しきれるかが心配だ。俺そこまで許容範囲広くないが大丈夫か? 気づいたら悪魔相手にタイマン張っていました、なんて洒落にもならねぇぞ? 絶対勝てるわけ無いだろ。俺はあくまで一般人なのだから。唯一神社の生まれって言うことだけは挙げられるのかもしれないが、あいにく俺には霊感なんてものは無い。神様の姿を見ることは出来ないし、妖怪と出会ったこともない。……というか出会っていたらステッラを見るよりも前に非現実を信じているだろうし。俺はあくまで見えないものは信じない主義なだけで、見えたら一応は信じるのだから。ちなみに俺は神社の神主等神職になるための資格なんて持っていないのだからほぼ普通の子に近いはずである。
「アオちゃんはとことん普通の子ですよ。あぁ、でも少々異質な感じはあるかもですね。僕はもう慣れているのでなんともありませんが」
ルチが笑いながらそういう。異質な感じってそれがある時点で普通の子って言わないよな? そう考えて深くため息をつけばステッラが「んー欠片に選ばれたってことは何かあるはずなんだけどなぁ」なんていう風に言って首をかしげていた。……俺としては何も無い方がありがたいのだが。生憎超能力だかにあこがれるような歳ではない。確かに一時期は憧れたりしたけど。
「ふーむ。まだ覚醒してないのかもね。そうでもない限り欠片に選ばれるなんて無いはずなの」
ステッラの言葉を聞く限り、俺は普通じゃないらしい。もしくは今は普通でも、この後非現実な力を身に着ける可能性があるようだ。……大きかれ小さかれ、そういうのは勘弁して欲しい。あんまりいいイメージって無いのだが。ほら、よくあるじゃないか。バレたら殺されるだとか、バレたら研究素材、だとか。あくまで漫画から手に入れた知識ではあるがその辺はやっぱりいい気がしないし、正直怖いだろう。って俺、何言ってんだろ? そんな風に考えていたらステッラが軽い調子で「まぁアオ兄の家に住まわせてもらうの。そうすれば、時さえ来れば欠片も取り出せるし、楽なの。ちなみに欠片を探すのも手伝ってもらうの」なんていう風に言って、笑っていた。
え? ちょっと待てよ、何勝手に決定してるんだよ、そう言おうとしたところでステッラは笑う。無邪気な笑顔で。……何というかそういう笑顔には弱いらしく俺は頷いてしまっていた。……俺の馬鹿野郎。もうちょっと頑張れよ。と、言うか何で無邪気な笑顔に弱いんだよ、ぶつぶつとそう呟いていたら、ルチが苦笑いを浮かべながら俺の肩を叩いた。
「……いざとなれば僕も手伝いますから」
そういってルチは笑う。今はそれが酷く嬉しかった。ステッラじゃなくてルチが天使に見えそうなぐらいだ。そのままルチとステッラに手を引かれ俺は家へと向かって歩く。ルチも欠片とやらには興味があるようで、詳しい話を聞きたい、といい始めたのだ。……こうして俺はずるずると“非現実”の世界に足を踏み入れることとなる。
next 一章 欠片≠偉大なる力
9
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/07/18(月) 15:52:51 HOST:i121-114-188-23.s04.a001.ap.plala.or.jp
一章 欠片≠偉大なる力
ステッラとの最初の出会いから、気づけば三週間が過ぎていた。この天使いかにも当然だと言う用に俺の家に出入りしている。……コイツ俺の親とかに見えたりしないよな? ルチにも見えたのだから案外油断はできないのかもしれない。外出禁止にしてやりたいがそんなことをしては“欠片探し”とやらに影響が出るのだろうか、そう考えて言い出せずにいる。いざとなったら気のせいだって言えるよな? と言うよりさっさと事情を説明してしまってもいいのかもしれない。ステッラが親に見えていない場合は俺が頭が少々残念な子、なんていう烙印を押されてしまうかもしれないのだが。
小さくため息をついて、ベッドに倒れこむ。ここ何日か体調が優れないのだ。ストレスだろうか? そう考えていたりもしたが何かが違う気がする。ルチに相談してみたどころでどうせ返ってくる言葉はストレスじゃないか、なんていうことだろうか。あぁ、そういえば今日はルチをおいて帰ってきてしまったな、そんな風にとりとめも無く考え事をしていた。なんというか、ぼんやりとしていると考えたくも無いことが頭に浮かんでくるんだ。重病かもしれない。
「オーイ、アオ兄、ルチ兄が遊びに来たの!!」
開けていた窓からステッラが飛び込んできてそういう。ルチが? 不思議に思って窓から顔を出してみればうな垂れるルチの姿があった。……おいていかれて落ち込んでいるのだろうな、そう考えて出来るだけ大きな声で「ルチ、どうした?」なんていう風に声を掛けてやれば、心底嬉しそうに笑って俺を見上げるのだった。案外嫌われたとでも思っていたのかもしれない、そう考えて俺は薄く笑みを浮かべた。
ルチの声は流石に届かなかったようで、家に入れと手招きをしてやる。意味を察したのかどうか、ルチはこくんと頷くと姿を消した。玄関に入ったのだろうな、そう考えて窓から顔を引っ込め、再びベッドに寝転がる。とりあえずくだらない雑談をして、ルチを帰らせた後、寝ようそんなことを考えた。ぼんやりと天井を見つめているとノックの音。入っていいと言えば少し遠慮気味に見えるルチが立っていた。
「ああ……ルチ。どうした?」
ぽいっと座布団を放り投げて、ルチが座ったのを確認した後、俺はベッドに座ってそう問いかける。しばらく何かを考えるような動作をした後にルチは小さな声で「なんだかアオちゃん調子が悪そうだったから気になって……」と言った。なるほど、心配してきてくれたのか、そう考えるとなんだか嬉しくなった。不思議なものだ、人の言葉ただ一つで一喜一憂できるなんて。フッとステッラが俺の横に腰を下ろした。ルチが一瞬不服そうな表情をしたがあえて触れないでおく。
とりあえずルチを安心させよう、そう考えたところで動きを止める。嘘をつくのは好ましくないが、本当のことを言ったら心配を掛けてしまう。どうするべきなのだろうか、そう考えて首をかしげた。しばらく黙り込んでいればルチが心配そうに顔を覗き込んでくる。ハッとして、自分でも分かるぐらいに胡散臭い、作り笑顔を浮かべれば「ちょっと体調が悪いだけさ。大したことじゃない」と答えていた。
体調が悪い、その言葉を聞いてルチが僅かに顔をしかめる。ああ、失敗した、そう考えて深くため息をつく。それでもルチは安心したように笑って「でも良かったです。倒れたりするほどじゃなくて。欠片に選ばれたと聞かされてましたしその偉大なる力に中(あ)てられたんじゃないかって」なんていう風に言っていた。……ルチには適わないかもしれない、そう考えて俺は苦笑いを浮かべた。
「でも欠片は必ずとして偉大なる力って訳じゃないの」
10
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/07/18(月) 18:43:32 HOST:i121-114-188-23.s04.a001.ap.plala.or.jp
ステッラが複雑そうな表情を浮かべていった。俺は訳が分からないと言うように首をかしげる。天使が扱うなんていうのだから、偉大なる力といわれてもおかしくないと思ったのだが、それは違ったようである。ルチは大して驚きもせずに「どういうことか説明してください」と言った。まるで自分は分かっているが、分かっていないであろう俺に説明しろと言っているようにも感じて、なんだか妙な気がした。……ルチなんだか冷静すぎやしないだろうか? そんな考えが頭に浮かぶ。
ステッラが少し考えるような動作の後、静かに話し出す。やけにゆっくりとした調子で「えっとね、欠片の力って言うのはその欠片の“役割”に合った人物がいてやっと発揮することが出来るものなんだ。欠片単体が馬鹿みたいに力を持っているって訳じゃないんだよ」と言った。と、言うことは欠片だけじゃただのおもちゃ程度に過ぎないとでも言うのだろうか、俺がそう考えて首をかしげていると、それも否定するかのようにステッラが首を振った。……この天使人の考えまでも読み取ることが出来るのだろうか? そう考えるとため息をつくしかできない。下手したら俺の感情駄々漏れじゃねぇか。プライバシーの侵害だ。……俺の部屋に住み着いている時点でプライバシーも何もないのかもしてないのだが。
「えっとね、確かに、欠片単体でも凄い力を持ってる。でもそれを偉大なる力って呼ぶにはあまりにも制御が出来ていないの」
理性を失ってとんでもない行動をする人間のようなものであろうか? そう考えていると今度は小さく頷いて「欠片単体だと何を起こすか分からない。全てが全て、って和歌じゃないんだけどね」と付け足すかのように言った。……俺のたとえ合ってると言えるのだろうか? なんか妙にずれているような気がして嫌なのだが。明らかに気を遣われたような気がするのだが。俺挫けそう。何か俺の考えていることは全て見透かされているみたいで、気味が悪い。
ルチがフッと笑って、さも納得したように頷いて見せた。……その動作も俺にはどこか胡散臭く感じてしまって……。俺ってつくづく嫌な奴だなそう考えて自嘲的な笑みを浮かべてやった。それには流石にルチも驚いたようなしぐさを見せたが、俺がルチの不服そうな顔に触れなかったように、ルチも俺の表情に触れてこようとはしなかった。なんて言っていいかわからなかったのだろうが、そんなこと今はどうでもいい。問題は俺に欠片が憑いているということだ。ステッラの話を聞けば欠片は欠片とそれを制御する天使がいてやっと偉大なる力と形容できる様子。……制御出来なければ? そんな不安が俺の頭をよぎった。
俺は欠片を制御できないだろう。天使じゃないのだし、ほぼ一方的に選ばれただけなのだ。制御の仕方なんて欠片も分からないし、そもそも欠片の力すらまともに理解していない。やはり制御できずに暴走してしまうと、中から破裂したりするのだろうか? そんな風に考えるだけで悪寒が走った。いや、考える方も悪いんだけどさ。でも考えれば考えるほど逃げ場が無いことを思い知らされるような気がして、可笑しくなってしまいそうだ。
「まぁ力に中てられたって可能性はあるだろうね。ボクたち天使からならなんでもない力でも人間からすれば大きな力だろうし、なの」
ステッラの言葉を聞いて、ルチが心底呆れたようにため息をついていた。言うのが遅いとでも言うかのようにペチンとステッラの頭を叩いていた。……何時の間に移動していたのだろうか? 移動を捉えられなくなるほど俺は体調を崩しているのだろうか? そう考えているとルチが明るすぎる笑みを浮かべて、俺の額とルチの額をくっつけた。か、顔が近い……。ルチの肌綺麗だなぁ……女の子みたいだなぁ。って俺何考えてるんだろう? ステッラと会ったときといい、今といい俺変態街道をまっしぐらではないだろうか。これは早いうちに何とかしないと将来がヤバイかもしれないなんて考えたりした。
「少し熱があるようですね」
フッとルチが離れる。首をかしげて、ぼんやりとルチの顔を見つめていると思いっきりベッドに倒されてしまった。とりあえず寝ろと言うことなのだろう。そう解釈して、布団の中にもぐりこむ。大胆なのなんていう穏やかなステッラの声とは対照的に酷く焦ったような声で五月蝿いなんて返すルチの声が聞こえてきて、そんな二人のやり取りが妙に可笑しくて、安心できるものに感じた。
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早くも迷走し始めております。一人称はあまり書いたことがないので酷いですね……。
11
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/08/08(月) 23:17:20 HOST:i125-202-253-87.s04.a001.ap.plala.or.jp
気がつけばもう夜だった。何だ俺寝てたんだなぁ、そんな風に考えながらぼんやりと天井を見つめる。額に何か冷たいものが置いてある。ただ体を起こすのが妙に億劫で、額の上の何かをどかそうとも思わなかった。悪化したのだろうか、そんな風に考えていると、下の方からステッラが騒ぐのが聞こえてきた。アイツ、母さんに見つかりやがったのか!? そう考えて、無理矢理体を起こしてリビングに向かう。ああ、頭が痛い、フラフラする……。こんなときに俺の部屋が二階にあるのが酷く憎らしい。元気なときは一階だと嫌なんだけど……人間面倒なものだ。いや、俺が我侭なだけかもしれないけど。
リビングに近づくにつれて良い匂いが漂ってきた。……もう晩御飯の用意ができているのだろうか? そう考えながら壁に手をついてゆっくりと歩く。どんどんステッラが騒ぐ声が大きくなってきた。それに混じってルチが怒鳴るような声も聞こえる。……外を見るに遅い時間だろうになぜまだルチの声が聞こえるんだろうか? 幻聴? それとも母さんがせっかくだから晩御飯を食べていきなさいって誘ったのだろうか? それにしてはルチが大分騒いでるし……。やっぱり幻聴なのだろう、そう考えてリビングを覗けばルチがステッラと大喧嘩を繰り広げていた。つまみ食い禁止とか叫んでいる。
……ついに幻覚まで。俺、相当やばいかもしれない。そんなことを考えているとルチが俺に気づいて駆け寄ってきた。不安そうに俺の顔を覗き込んで必死に俺の体を支えようとしている。身長的にも体格的にも無理があると思うのだが。それでもルチは俺の体を支えながらソファの辺りまで歩いた。その後俺はソファの上に突き飛ばして、ステッラの説教に戻る。……何か母親みたいだなぁ、そんなことをぼんやりと考えて、ルチとステッラの様子を眺めた。……支えられた時点で幻覚じゃないことが分かったが頭がぼんやりして、今の状況を理解しようとしても無理だ。
「あーっと、説明しますか。何かアオちゃんのご両親お仕事で出かけちゃって。それで一人にしとくと危ない気がしたんで泊りがけでお世話させていただきます」
何かルチが敬礼しながらそういった。……待てよ母さん、そんな話聞いてないぜ? その前になぜにルチが泊まることを許可出してんだよ、俺の親は。ぶつぶつとそんなことを呟いているとルチが不安げに俺の顔を覗き込んでくる。そんな不安そうな目で見られても俺の考えは変わりませんよルチさんよ。ステッラが生き生きしているけど、今そうなられても俺からすれば迷惑なだけなんだよ。とりあえず静かにしてもらいたいし。
「アオ兄、晩御飯作る手間が省けたの」
客人に飯作らせて喜んでいる駄目天使がそこにいた。……ルチからかなり前から聞いた話だったら天使ってもっと礼儀正しいやつのはずなんだけど……。例外もいるのだろうか、そんな風に考えていると、バサッと上着が掛けられた。フワッと薔薇の匂いがして……顔を上げればルチが苦笑いを浮かべて笑っていた。と言うことはかけられているのはルチの上着か……。親がこういう匂い好きなのかなぁ……男子にしては良い匂いのする上着だなぁ……。そんなことを考えているとステッラがニヤリと笑って「ホレたかい?」何て言っている。ふざけるなよ、男同士だからな、そう考えて睨みつけてやるとさらに面白そうに笑われた。
深くため息をつけばルチが顔を真っ赤にしてステッラに「びょ、病人をからかうのはやめなさい」なんて注意。何で顔が赤いのかが気になったが触れる元気もないからスルー。ステッラがいい気になってルチをからかい始める。小さく笑ってソファに体を沈める。やたらとふかふかしたソファが有難かった。
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スランプ到来
12
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/11/22(火) 21:29:58 HOST:i121-115-42-103.s04.a001.ap.plala.or.jp
しばらくして、ルチが半ば諦めたようにため息をついて大げさに肩を落として見せた。どうやら駄目天使ステッラの相手に疲れたようである。分かるよ、その肩を落としたくなる気持ち。三週間一緒に暮らして嫌と言うほどに体験したからな。ステッラの鬱陶しさは。ちなみにステッラは相手のテンションが下がれば下がるほどに元気を増していく。……相手を元気付けようとしているのか、単純に面白がっているのかは知らないが迷惑な話である。下手をすると夜、寝かせてくれないし。
フッとルチが俺のほうを見て申し訳なさそうに頭を下げる。騒いでごめんなさいって所だろう。確かに五月蝿いが退屈はしなくていいので何も言わずに笑ってやることにする。いや、体調が悪いせいか顔の筋肉が引きつっているような気がして、笑えているかなんてかなり怪しいのではあるが。もしかしたら酷く怖い顔してんのかもしれないなぁ、なんて考えて息を吐く。ルチはしばらくの間不安そうに俺の事を見ていたが、時計の方に目をやって思い出したようにキッチンへと姿を消した。……何をするつもりなのやら。
「アオ兄、ご飯なの、でぃなーなの!!」
テンションが上がる駄目天使。頼むからお前は少しテンションを落としてくれ。出来れば半分以下に。そんな俺の心の声を知ってか知らずかステッラはふんわりとやわらかい笑みを浮べた。いや、誰も笑えなんて考えてないけどな。ステッラの場合、常に大声で笑ってそうだから声を出さずに笑っている今の状態はなんだか不気味だ。そんなことを考えていると何を考えているのかステッラが俺の横になっているソファに近づいてくる。……突然飛び乗ってきたりしないよな?
そんな心配をよそにステッラはどんどんソファに近づいてくる。……何か怖い。そんな風に考えていると体を持ち上げられて、訳が分からずにぽかんとしている内に食事のときいつも俺が座る位置に座らされていた。ステッラに顔を向ければ自信満々に胸を張って満面の笑み。……なるほど俺を運ぶためにソファに近づいてきたのか。ちっこいのに力はあるんだなぁ……。
「あれ、アオちゃん何時の間に移動を?」
小さな土鍋を持ってきたルチが俺を見てキョトンと首をかしげる。すかさずステッラが「ボクが動かしたの!」と胸を張っていった。明らかに怪しいものを見るかのようにステッラを見るルチ。まぁ普通はそうだよな。運ばれた張本人の俺も信じられないし。何よりもステッラかなりちっこくて、非力そうだから。それでもステッラが自信満々に胸を張っているものだからルチは少々納得いかなそうにしながらも、土鍋を俺の前においてステッラの頭をなでていた。俺はといえばさらに偉そうに笑うステッラに思わず苦笑いを浮かべてしまう。
その後ルチが手早く味噌汁をよそったりして、いつもより少し早い夕食をとることになった。焼き魚にご飯、味噌汁に、ホウレン草のおひたし、おそらく冷蔵庫に入っていたのであろうきゅうりの漬物。……見事な日本食だった。ルチのことだから日本食なんて作れないんじゃないかと思ったがそれは外れだったらしい。ちなみに今言ったメニューはステッラとルチのものであり、俺は卵粥。別に食欲もないから丁度いいのではあるが。
つか天使って普通に俺らと同じ食事を取るんだよな。ここ三週間ステッラは特別なものを口にしていない。俺が隙を見て部屋に持ち込んだごく普通の家庭の食事のあまり物を食べていた。あ、あまり物っていっても残飯とかではないから勘違いしないで欲しい。天使というのだから何か特別なものを持参してきているのだろうかとも思ったのだがそんな様子は微塵もない。変わりに俺の提供する普通の人間が食べるものを食べる。案外天使と人間に違いはないのかもしれない。
13
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/12/10(土) 16:28:07 HOST:i121-115-42-103.s04.a001.ap.plala.or.jp
ステッラがもぐもぐとご飯を頬張っている。そんなに焦んなくても食べ物は逃げねえよと言いたくなるぐらいに凄いスピードで、だ。それを見てルチはもう少し優雅に食事をとることは出来ないのか、とぼやいていた。まぁそれは同感。横でこんなに凄いスピードで飯を食われたら気になって仕方がねぇ。つか、喉詰まらせてもしらねぇぞ? いやどっちにしろ俺がちょっかい出さないうちは、喉を詰まらせようと俺が悪いことにはならんし。
そんなことを考えながら俺はルチが少量をスプーンにとって、口元に運んでくるお粥を口に含む。味は良く分からないが食えないようなものではない。少し安心である。いや、消し炭なお粥とか、見た目が普通でも胃薬が必須な食いもんとかそんなものを平気で食卓に並べるやつもいるからな。……主に俺の親父とか兄貴とか。あいつらの作る料理は本気で人を二、三人ぐらい殺せるような気がする。しかも恐ろしいことに本人たちは少し間違えただけだから大丈夫と言い張るのである。そのせいか、男が作る料理イコール危険、なんていう方程式が出来上がっていた。いや、当然だろ? 何回も死に掛けてんだし。
その点ルチの卵粥は安全である。久々に男の作った料理で食えるもんを見つけた気がする。……ありがたや、ありがたや。つかぶっちゃけここでルチが親父達のような得体の知れない料理を出してきたら俺はそれを見ただけで卒倒する自信がある。いや、それほど凄まじい料理なんだ。臭いを嗅いだだけで麻痺したかのように身体が動かなくなって……ああ、思い出すのも恐ろしい。
「アオちゃん? 大丈夫ですか? 顔色が悪いですが……」
ルチが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。大丈夫だと答えると疑うような表情をしながらも、再びスプーンに少量のお粥を取って俺の口元へと運ぶ。俺も黙ってそれを口に含み。ふと視線を落とすと、ルチは食事に全然手をつけていなかった。まぁずっと俺にお粥を食べさせてくれてたんだし当然か。そう考えて俺はルチにスプーンを渡せと要求。しかしルチは首を振ってスプーンを渡してくれない。これぐらい自分で食えるっての。
いつの間にか食事を終えていたステッラが満面の笑みで「僕が変わるの」なんていってルチに向かって手を伸ばす。スプーンを渡せ、と要求しているのだろうかそう考えていると、ルチは冷たく「貴方に任せたらアオちゃんが急速に悪化しそうな気がするのですが」なんていっていた。しかもわりと本気そうな表情で。言いすぎだとは思うのだが、なぜだろうか? ステッラにスプーンを渡して欲しくないと思う自分がいる。……生存本能って奴かもしれない。そんなことを考える俺をよそにステッラはルチからスプーンを取り上げて、少量のお粥をスプーンですくって俺の口元に運んだ。仕方なくそれを口に含む。
ルチよりも量は多かったがそれほど苦にはならなかった。しばらく様子を眺めた後、ルチは安心したかのように自分の食事を取り始めた。にやりと笑って自信満々な表情をするステッラに少々の不安を覚えたが、首を振ってそれを追い払う。
「ちょ、お前零すなよ」
ふと、ステッラがお粥を俺の口に入れそこなって落とした。幸いすっかり冷め切っているので熱くはなかったが。ルチはそんな様子を眺めて、やっぱりかとでも言うかのような表情をして、ため息をついた。そんな事気にせずにステッラは辺りを警戒した小動物化のように見渡して、スプーンを置いた。きょとんとする俺をよそにルチは後片付けをはじめ、ステッラは窓のほうへと歩いていく。よく見れば窓には小柄で少々奇妙な格好をした少年が張り付いている。……不気味だ。
「よぉ、久しぶりだなクソ天使」
その窓に張り付いていた少年も背中に翼のようなものをつけていた。翼といってもステッラのものとは違い悪魔が持つようなぎざぎざしたもので、服は赤と黒を貴重にしている。……目がイテェ組み合わせだ。髪の色は黒、目の色は赤……とことん赤と黒だ。しかし頭にある角だけは黄色っぽくて……ってあれ? 角? ああ……飾りだよな。ただのコスプレだよな? 半ば願うかのように俺は考えをめぐらせる。
14
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/01/05(木) 00:01:18 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
「ネーロ……」
キッとステッラが少年を睨みつけた。……知り合いか? ステッラの知り合いだとなるとコスプレでない確率が馬鹿みたいに上がるんだろうな。事実、ステッラが天使なのだからその周辺がおかしな奴らでも納得がいく。いや、むしろ回りにまともなやつがいるのだろうか?
そんなことを考えていると少年はニヤリと笑った。そして俺の目の前に一瞬で移動してくればジロジロと俺の顔を、嘗め回すかのように見た。なんだ、喧嘩売ってるのか? そう思って顔を顰めると、少年はさも面白そうに笑う。……むかつく奴だ。
「初対面のやつもいるし、名乗っておくか。俺はネーロ=ディスペラッツィオーネ。そこにいるクソ天使の敵、悪魔だ」
ステッラのときもそうだけど、自分が人外であることを自ら明かすのが流行ってるのだろうか? ちなみに少年、ネーロはそこにいるクソ天使と言ったときに、ステッラを見た後にルチを見て嗤った。
なぜルチを見たのか分からないが、まぁいい。この場にいる人物確認と言ったところだろう、そう考えて頷く。この少年が名乗ったときルチは食器を下げていたから見えなかったんだろう。
ステッラは俺の目の前で胸を張るネーロを、まるで危険物を排除するかのように掴んで俺の前から避ける。ムッと頬を膨らませてネーロに詰め寄った。普段は見せないような真剣な表情で「何しに来たの? 欠片はここにはないの」なんていう風にはっきりと言う。ネーロの方は楽しそうに笑っていた。
まるで分かりやすい嘘をつく子供を見るかのようにな表情をしてステッラの手の中から抜け出す。あ、そういえば俺欠片に憑かれているんだっけ? 忘れていた。
「欠片ならそこにあるだろ。欠片に選ばれた器と一緒に」
ネーロが俺を指差してそういう。しかし俺はそんな事はどうでもいい。頭がイテェし、さっさと寝たい。気づくとルチが俺のことを守ろうとするかのように、俺のことを抱きしめ始めた。……ルチの体温が冷たく感じる。 それほどまでに熱が上がっているのだろうか? そもそも熱が上がると他人の体温を冷たく感じることがあるんだろうか? そんなことを考えていると、俺を抱きしめたままルチがクスリと笑った。
……可愛いかもしれない。いや、異性を見る目とかそういう目ではなく。
不服そうな表情を見せるステッラは無視。ネーロは納得したかのように何度か頷いていた。何を考えているか分からないから突っ込む気も起きない。
ゆっくりと近づいてくるネーロに向かってルチが満面の笑みで銀色の何かを投げつけていた。それはもう爽やかな笑顔で。僅かに驚くような声を上げながらもネーロは近づいてくるのをやめなかった。だんだんルチの笑みが引きつっていくのが分かる。あれ、ルチさんなんか怒ってる? それともあまりにも怪しいから威嚇だろうか? 良く分からない。
「おいおい、そんなにカリカリすんなよ。お嬢さん?」
ネーロのその一言でルチの何かが完全に切れたようだった。凄い速さでテーブルの上に置いてあった果物ナイフを投げつけていた。辺りを見てみると包丁やらフォークやらが散らばっていた。……ルチさんそんなもの投げたら危ないから。そんな引きつった笑みでフォークやら何やらを投げるのはやめて欲しい。酷く怖いから。
しかも片手はしっかりと俺の身体を抱きしめているのだ。……何かの間違いで刺されたりしないよな? それが不安で仕方がない。
それにしてもルチの奴、お嬢さんって言われたらキレるんだな。やはり女顔だということを気にしているのだろう。……というかルチの場合は明らかに髪型にも問題があると思うが。ステッラは完全に苦笑いを浮べていた。……ネーロはルチの手から放たれるフォーク等を必死に避けていた。
なんだかそれが珍妙な踊りを踊っているようにしか見えない。まぁ笑おうにもそれだけのことが億劫で仕方がないのだが。
「偉大な力とその器を守るのに必死か? それともお嬢さんって言われたのにキレてんの?」
ネーロは面白そうに笑ってそういう。あぁ、ルチの笑顔がだんだん引きつっていく。というか既に笑顔といえないレベルまで崩れているのだが……。ネーロはそれに気づいていないのだろうか? それとも気づいた上であえてからかっているのだろうか? どちらにせよ止めてもらいたい。
なぜかって? フォークを投げるうんぬんの前に俺を抱きしめる力が、引きつる笑顔に比例するかのように、どんどん強くなって苦しいからに決まっている。抜け出そうにも身体に力が入らないし。
15
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/02/27(月) 19:57:38 HOST:i121-114-186-133.s04.a001.ap.plala.or.jp
「欠片は偉大な力じゃにゃーい!!」
「何言ってやがる。世界を変えることが出来るほどでかい力を持ったものを、偉大な力じゃないと? 笑わせるな」
ステッラが叫ぶ。本人としては大真面目なようであるが、しっかりと噛んでいた。ここまで分かりやすいと笑ってやる気すら起きなくなるものである。それはネーロも同じようで、半ば呆れたようにしながら肩をすくめながら言葉を吐き捨てていた。俺、悪魔と思考がシンクロしちまったのかもしれない。……さらっと言うことは出来るがなんだか妙な気分である。
そんな下らないことを考えていると、ルチが突然「くらえ!!」なんて、幼い子顔負けの可愛らしい声を上げて、何か綺麗な布をネーロに向けて投げつけた。ネーロはそれを楽にキャッチして、僅かに顔を顰めた。ゆっくりとハンカチを捲るとそこには小さな十字架。小さいのに細かい装飾の施されたものだ。それを見て、ネーロは下らないとでも言うかのように笑った。スッとネーロがその十字架を撫でれば、十字架は黒くくすみ、輝きを失う。
俺は何が起きているか全くわからずに首を傾げるだけ。ルチの表情を伺えば、少しだけ笑っているように見えた。ますますわけが分からなくなる。えっと、ネーロの手に渡った十字架が、ネーロが撫でただけで輝きを失って……。必死にことを理解しようとする俺の耳に飛び込んできたのは笑い声。その人を馬鹿にするかのような響きに、思わず思考を中断して眉を潜めてしまった。
「いやー、何かと思えば十字架か。しかも弱いながら天使の力がこもってるし……お嬢さん只者じゃねーな? そして本当に僅かだが、欠片が少年に馴染み始めている……んな馬鹿げた量の力を体内(ナカ)に収めても砕け散らないなんて、大層なもんだぜ?」
一瞬、さっきまでとは違う鈍い痛みが走る。声を上げることもできずに震える手を頭に持っていこうとすれば、ルチに動かないほうがいいと言われた。ステッラが慌てて駆け寄ってくるのがぼんやりと見える。視界が急に鮮明さを失って……また次の瞬間には元に戻る。
フッと、ネーロの顔が目の前にあった。腰を曲げて、座り込んだ状態でルチに抱えられている俺の顔を、至近距離から眺めている。なんというか、至近距離から凝視されるというのはあまり気分が良くないものだ。相手の感情の浮かばない赤い瞳が……怖い。なぜそんなことを思うか分からないけど、どうしようもなく怖い。
「ふーむ……完全に馴染まれて、手に入れるのが難しくなるのも嫌だしなぁ……。ここで殺して欠片だけを持って行っちゃおうか?」
急に、空気が冷たくなった気がした。音もなく俺から離れたネーロの手には、電気の光を反射してキラキラと輝く氷の刀。その輝き方があまりにも幻想的に思えて切っ先が向けられようとしているのに、避けるという行動を取ろうと思わなかった。まぁ、それは熱で体が重く感じるのと、ルチが、きつく俺を抱きしめているのも原因の一つなのだろうけど。
俺とルチを庇うかのように、ステッラが間に入ってくる。動くの遅いなぁ、とも思ったが言わないでおく。これは言っていい雰囲気じゃないのは流石に分かるから。……にしてもステッラのやつ、目の前に刀の切っ先を突きつけられているというのに、全く震えたりしない。案外、肝は据わっているらしい。
ステッラを前にしたネーロは何も言わずに刀を振り上げる。それが振り下ろされる、と思った瞬間にそれは光によって受け止められていた。ぶつかっているのは光と氷だというのに、響く音は金属同士がぶつかるときのもの。……正直に言おう。もう理解しようとすることは諦めた。どうせ俺の現実(リアル)は既に非現実に侵食されているんだ。俺の中の常識なんて通用するわけがない。だってそうだろう? 当然だというように天使と悪魔が目の前で対峙しているのだから。
「甘いだよ、クソ天使!!」
素早く、ネーロがステッラに回し蹴り。それはとても華麗にステッラにヒットして、その小さな体躯を吹っ飛ばす。ごろごろと転がってステッラは勢いよくソファにぶつかった。なんともいえない音が響いて俺とルチは思わず顔を見合わせる。……このままだと家具が壊れかねんぞ、と俺が考えているとルチは呆れたような表情をした。
______________________
やっとPCが使えるから、書き溜めなくなるまでの連続投稿行きます((
一章終わるまで、間隔あけずに落としていきますよん((
16
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/02/27(月) 19:58:25 HOST:i121-114-186-133.s04.a001.ap.plala.or.jp
しばらくして、ルチが俺から離れて立ち上がった。仕方がないとでも言うような表情をしている。……一体何をするつもりなのだろうか? もしかして、ルチは悪魔を祓うべく送り込まれた天才エクソシストで、これから悪(ネーロ)を祓うため戦います、なんて言う、少年漫画もびっくりなバトル的展開が繰り広げられるとでも言うのだろうか? ……何言ってんだろう、俺。自分で言っておいてなんだが、全く意味が分かっていなかったりする。
「そこに正座だ、ネーロ、ステッラ!!」
「……は?」
ルチの口から飛び出した言葉に、俺は思わず声を上げる。ルチさん口調が完全に崩れているけどいいのかな? というか普段はふわふわしているルチのオーラが一気に刺々しくなった。……怒ってる。これは完全に怒っている。のそのそ起き上がって不満げな表情をするステッラ。まぁ俺らを守ろうとして蹴り飛ばされた上に、正座しろ、って言われてるんだから当然かもしれない。
ルチの雰囲気に戦々恐々とする俺をよそにネーロは氷の刀を軽く振り「うるせーなぁ、お嬢さんは黙ってろよ」と悪態をついている。そりゃこっちは武器を持っていないのだから、自分が武器持っているうちは優勢だもんな。従う必要もないわけだ。あれ? そう考えると今ネーロに命令して危ないのってルチや俺じゃないか? ……嫌な予感しかしない。
「いいから……正座、しろ?」
語尾に星が付いても可笑しくないような明るい爽やかな声。わざと正座を強調するかのような言い方が怖い。次に命令するときにはその声に殺気がプラスされるんだろうなぁ……。嗚呼、ルチの笑顔が醜悪なものにしか見えなくなってきた。
ステッラはその笑みに含まれているものを感じ取ったかのようにルチの前に正座。きちっと背筋まで正して、ガタガタと震えている。ネーロの氷の刀が、ルチの首に掛けるためのチェーン付き十字架がぶつかった瞬間に砕けたのを見て、その震えをより一層大きくしていた。言わなくても分かるだろうが、十字架を投げたのはルチである。……普段はステッラに苛立ちを覚えることも多い俺だが今回は流石に同情するしかない。
ちなみに氷の刀が壊されてもなお悪態をついていたネーロは、フォークと果物ナイフを装備して、にっこりと笑うルチを見た途端にその表情を凍りつかせた。そして数秒後にはステッラの横で正座。……ルチは本気で何者なのだろうか? 悪魔を祓う人たちのことは聞いたことがあっても、悪魔を実際に正座させる人なんて聞いたことない。
「人様の家で暴れちゃ駄目です。物が壊れちゃったらどうするんですか? それがその人の大切なものだったら……もう大変ですよ?」
「人間が慌てふためくざまは面白いから、俺からすれば万々歳だがな」
いきなり優しい口調に戻ったルチが、諭すように言うと、ネーロがポツリと呟いた。口調は戻ったものの刺々しい雰囲気を漂わせたままのルチの前でそこまで言えれば俺は十分だと思う。俺なら怖くて無理だ。……だってルチ、まだフォークと果物ナイフ装備したままだし。
「……つか、お前も思いっきりフォークとか投げてたよな」
俺が言うとルチはシュン、と眉を下げて謝ってきた。どうやら怒るだけではないらしい。シュンとして謝る人物と、その前でガクガクと震えて正座している人外二人……なんとも奇想天外な光景である。つか、ネーロ、散々悪態ついていたくせにステッラ並みに震えてんじゃねーか。気持ちは分からなくはないが、もう少し頑張って欲しいものである。
俺が投げやりにもういいと言うと、ルチは泣きそうになりながらも、ステッラとネーロを再び諭し始める。ただ、いまだに漂う刺々しい雰囲気はどうにかならないものか。後で何かされるんじゃないかと怯える自分がいる。……なんかもう頭痛が酷くなった気がする。早く帰ってくんねーかな、コイツら。
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