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係争の異能力者(アビリター)

31ライナー:2011/06/12(日) 12:10:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「下っ端はもうほとんど倒したからちょっと見たら帰るぞ」
洞窟の中はやけにひんやりしていた、進む度滴の落ちる音も聞こえる。
暫く大きい一本道を進んで行くと2つの分かれ道と遭遇した。
「俺は右手に行く、啓助お前は左の方へ行ってくれ。後でここ集合な」
「分かった、後で戻ってこないとかミステリアスな事すんなよ」
「する訳ないだろ」
そうしてお互い別々の道へと進むことになった。
「・・・・ハァ、啓助の奴大丈夫かな・・・?」
煉は細い道を通り抜けると、洞窟の広間へと出た。
「この先・・・・は無さそうだな」
煉がこれ以上進めないと認識し、回れ右をすると後ろから声が掛った。
「ちょっと待たんかい!」
煉が思わず振り向くと、赤いニット帽と紫のラインのゴアテックパーカーを着た少年が立っていた。
「何だぁ?第6番隊・・・・?見ねェ顔だな」
「そりゃそうや、この前入ったばかりやからな」
煉の前に立っているのは、なんと柿村熱也の姿だった。
「悪いが、死んで貰うで」

その頃啓助は同じように細い道を歩いていた。
「気味悪ィな、早いとこ終わらせてサッサと戻るか」
すると穴から少し太陽の日差しが差す洞窟の広間へと出た。
「んーと、これ以上進めないな・・・ってええ!?」
何とその広間内には先行隊員の血だらけになった死体が幾つも転がっていた。
啓助は床に転がる死体を見ながら奥へと進んでいく。すると和服を着た男が胡坐をかいて座っていた。
男は黒く長い髪をしていて片手には長刀を持っている。雰囲気からしても『侍』がにじみ出ていた。
「拙者もしたくて殺したのではない、正当防衛というやつだ」
そういうと男は刀を杖代わりにして立ち上がり、刀を腰の鞘にしまった。
「ここまでして正当防衛はないだろーが!」
今の啓助には何故か恐れはなかった、今までの自分の心の弱さがどこかに吹っ飛んでいたのだ。
「恐れを知らん眼だな、良いだろう。正々堂々お主には新刀で楽にしてくれる」
男はしまった刀とは別にもう1つの刀に手を掛けた。
「拙者の名は沙斬キルブラック前陣隊長。お主は?」
「俺はアビリターユニオン第6番隊D班所属、辻啓助だ!」
沙斬はかすかに笑う。
「行くぞ、若造!」

32ライナー:2011/06/18(土) 08:59:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
8、ファスト
沙斬は足を踏み出した、だがもうその瞬間から遅かった。
啓助は沙斬が踏み出してくる瞬間しか見ることが出来なかった。
「鈍いぞ、御主!」
沙斬の声が聞こえ、その方向に目を向ける。すると、右肩が出血の音をあげて一直線に刀傷が付いた。
「グゥっ・・・!」
啓助が肩を押さえ痛みを堪えていると、その背の幾らか先に沙斬の姿が現れた。沙斬は横目で啓助の傷を確認すると、刀を鞘にしまった。
「その程度の素早さで拙者に挑むなど無意味、命を無駄にするだけだ」
しかし啓助は、笑みを浮かべている。
「どーかな、それは?」
沙斬は目を疑い振り向くと、啓助の右肩からは凍った血の塊が見えた。
「止血くらいなら容易いぜ」
「しかし、いくら止血が出来たとしても所詮は素早さがなければ無意味だ」
「勝負はまだ始まったばかりだ。ファストくらいどおってことねぇよ」
「ファストの能力を知っておったか・・・・」
沙斬は啓助の方へと向きを変え、刀に手を掛ける。
「だが、拙者の速さを見破れるかな?」
沙斬は同じように気配と一緒に姿を消した。
「(ふー、流石に速いな。もしかしたら煉より速いかも)」

「確か、城嶋煉って言うたなお前」
煉は大量の血を流しながら地面に倒れている。
「・・・・お前は・・・・何・・・・モンだ・・・・」
「済まんなぁ、わいキルブラックの一員やねん。お前が追い詰めた赤羽っちゅうヤツの仲間なんや」
「貴様ぁ・・・・・!」
「お前が死ぬ前に早くアビリティ取り出さんとなぁ」
熱也はなにやらポケットから奇妙な機械を取り出し、煉に取り付けた。
「・・・・!」
機械音と一緒に煉は声を出せずに苦しみ、周りをのたうち回った。
機械音がやむと、煉はぐったりして目を瞑った。
熱也は機械から1本の試験管を取り出すと、その場に煉を残して去っていった。
「煉、命と引き替えにアビリティ有り難く頂いたで・・・・」

33ライナー:2011/06/18(土) 12:01:51 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

「結局はただ早く動いて姿が見えないだけ・・・・」
啓助は目を凝らして辺りを見渡す。ゆっくり構えながら両手に冷気をため込む。
すると、不意に背中に刀傷を負う。
「くっ・・・・」
啓助が後ろを振り向くときにはもう姿は見えなくなっていた。
「(やっぱ速いな、全然見えねェ・・・)」
次の瞬間、さっきよりも勢いよく刀が飛んでくる。次々と連続で啓助の全身に傷を付けていく。
啓助は歯を食いしばり、痛みをはね除け冷気を纏った突きを繰り出す、が、沙斬の驚くほど速い動きに追いつくことが出来ない。
「(これ以上冷気で止血すると体温が・・・・)」
啓助が疲れ行っている瞬間、沙斬の刀の峯に後頭部を襲われた―――。

啓助は目を覚ますとテントのベッドの上にいた。起き上がろうとすると激痛が走った。ほとんど全身に包帯が巻かれていたのだ。
「痛っう・・・!」
すると、テントから苑寺が暖簾くぐりをするように入ってきた。
「あ〜、動くな動くな。その体じゃ歩くのを大変だぞ」
「あの・・・俺・・・・」
「何も言うな、分かってる。あの幹部のことだろ?」
そう言った苑寺の左腕は白い包帯で包まれている。
「傷を負ったが、何とか追い払うぐらいはやった。にしてもとんでもなく強ぇなキルブラックの奴ら・・・」
「・・・・・」
啓助が園児の顔を見ると突然顔が曇った。
「実はお前に話しておきたいことがある」
この言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。煉の事だ。
「城嶋のことだが、アイツ・・・・死にやがった」
「・・・・・・・!」
啓助は信じられなかった、あのキルブラックでさえ追い詰める実力がある煉が何故死んだのか考えたくもなかった。
「恐らく、キルブラックの連中か、それとも獣にやられたか・・・・」
啓助は、アビリティで家族が死んだことが頭からまた蘇ってきていた。

34ライナー:2011/06/18(土) 17:05:16 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
済みません、≫33の園児は苑寺です。
毎回毎回済みません^^;

35ライナー:2011/06/18(土) 18:47:44 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
暫く啓助は怪我が治るまで治療を受け、完治するまで1ヶ月以上の時が過ぎた。
「キルブラックはここ最近動きがないようですね」
チームルームで乃恵琉はコンピューターを使い、ユニオン情報を調べていた。
「・・・・・」
乃恵琉は黙り続ける啓助を見て、ため息を吐いて言う。
「前から気になっていたのですが、柿村君のことについて調べたほうが良いかと・・・」
「まぁ、そりゃあんだけチームルームに来てなきゃ怪しいわよね」
「・・・・・・決まりですね、麗華も賛成のようですし洋も賛成ですよね?」
「僕はどっちでもイイケド〜」
「・・・・・では偵察しますか、洋この設計図通りにお願いします」
乃恵琉は何かの設計図を取り出し、洋に見せた。すると、洋はチームルームの隅に置いてあるゴミ袋を持ち出し手のひらに置いた。
洋はその手のひらに力を込め、もう片方の手のひらで上からゴミ袋を押さえる。するとゴミ袋は光を帯びて輝きだした。
「・・・・?」
光は見る見るうちに小さくなって行き、手のひらに収まる程度の大きさで輝きが消えていった。
「こんなんで良いかな〜?」
洋の手のひらにはボール型の小さく白い機械がちょこんと乗っていた。
乃恵琉は洋の手のひらから機械を取り上げると機械を一回転させるように確かめた。
「ええ、設計図通りの最高の出来です」
「これは・・・?」
「そう言えばボクのアビリティ知らなかったね〜。ボクのアビリティは『メター』って言って物質変化能力なんだ、物質変化能力にも色々あるらしいんだけどボクは金属を作り出すのが得意なんだ」
そして、本格的に熱也の監視が始まった。

36ライナー:2011/06/19(日) 11:05:03 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
乃恵琉は部屋の外にボール型の機械を置くと、コンピューターの画面に向かってキーボードを操作した。
啓助達も顔を揃えて画面に目を向ける、すると画面からはユニオンの廊下が映っていた。
「カメラに異常はないようですね」
乃恵琉は機械の異常を調べ終えると、不規則にキーボードのキーを鳴らし始めた。
「てか、洋ってこんな複雑なモンまで作れるって凄いな」
「作れるようになるにはだいぶ勉強したけど、あれ以上の小型機は作れない。て言うかあれしか作ったことがないんだ」
そう言っている間にも、コンピューターの中の映像は動き出している。
「でも乃恵琉さぁ、そんな簡単に柿村探せるの?」
「集団訓練ではグループごとに行われますが柿村君は僕らと1度もやっていません。すると、野外の出入り口から待ち伏せすれば、いずれかのグループに紛れて見つかる可能性大です」
暫く操作して、カメラは野外集団訓練所出入り口付近に着いた。しかしいくら待っても熱也の姿は見えてこない。
「ちょっと乃恵琉、完全に的外れじゃないの・・・・」
乃恵琉は必死にコンピューターの画面と睨めっこしている。
「しかし、これで分かったとおり推薦を受けて来ているのではと・・・・・」
流石の乃恵琉も予想できなかったのか、額に汗を浮かべている。
すると突然、カメラの画面から画面故障による白黒の砂嵐が映った。
乃恵琉はとっさにカメラの異常を確かめるために、チームルームのドアノブに手を掛ける。そして開けたドアの目の前には・・・・・・。
熱也が立っていた。

37Cruel crown:2011/06/19(日) 19:35:35 HOST:KHP222009082198.ppp-bb.dion.ne.jp
ご忠告ありがとうございます。
皆様の迷惑にならないよう、気を付けますのでこれからも宜しくお願い致します。

38ライナー:2011/06/25(土) 18:55:49 HOST:222-151-086-017.jp.fiberbit.net
「ど、どうしたんや?そんなに急いで」
その瞬間チームルームの時間が止まった。
乃恵琉はすぐさま正気に戻り、額の汗を服の袖で拭くと熱也に問いた。
「な、何でもないです。それより柿村君もどこに行ってきたんですか?」
「隊長に呼ばれっぱなしで肩が凝ってもうたんや」
乃恵琉はそうですかと一言言うと黙って部屋を出て行った。周りもとても静かにしている。
「・・・・・お前ら何でこんなに静かなんや?もっと明るくパァッとやろうや!」
「こっちは昔のチームメートが亡くなってそれどころじゃないのよ!」
麗華の少し悲しそうな叫び声はチームルームに微かにこだました。
「悲しんでたって何も変わらんやろ!」
そしてまた一つこだまが響いた。

39ライナー:2011/06/26(日) 09:35:01 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
9、遠征
ある日のチームルームで・・・・・
「僕は思うのですが、柿村君は怪しい者ではないと思うのです」
「え、何で!?」
乃恵琉の答えに対し、全員は声を揃えていった。
「あれから暫く聞き込みをしていたのですが、まともに訓練を受けていると言う情報や、任務にも参加してるようで・・・・」
「まぁ、確かにいっつもチームメイトと同じ行動ってのもある訳じゃないしな」
啓助は、乃恵琉の意見に賛同していたが、内心怪しいと感じていた。
すると急にスピーカーから応答が来た。
「第6番隊D班、遠征のことだが急に早まることになった。柿村もすぐに合流させるから準備に着いてくれ」
堂本は急いだ声調でそう言うと、スピーカーの電源が静かに音を上げて切れた。
「遠征?」
啓助は何も分からぬままノエルに問う。
「そう言えば啓助君は、遠征をまだ未経験でしたね。遠征とは2ヶ月に1回交代で行われ、遠くにキャンプを張りその地域の安全を確保することにあります。いざとなれば災害が起こってからじゃ遅いですからね」
「でもさぁ〜、ボク達ってあんまり仕事ないよね」
洋が遊びに行くが如く、暢気そうに話す。
「アンタ本当に馬鹿ね!仕事があるから呼ばれたんでしょうが!?」
麗華はいつものように洋のおちゃらけた所を鋭く言い返す。こう何回もあると怒ると言うより漫才のツッコミをしているように愉快だった。
だが、啓助はそうもしていられなかった。殺された煉の分も、あの時倒しきれなかった沙斬というキルブラックの幹部を今度倒すためにも・・・・・

40ライナー:2011/06/26(日) 11:00:34 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
遠征による地域転送が終わり、第6番隊D班一行は指定位置まで歩いている。
「荒らされてるって言っても、結構家建ってんな」
啓助は19世紀風の家々を見渡しながら言う。
「まぁ、原材料不足で電気などは使えませんがね」
啓助と乃恵琉が話しをしていると、後ろからは腹の鳴る音がした。
「なぁ、そこらでなんか食わへん?」
「そうだよ、もうおなか減っちゃって・・・」
麗華はだらしなく歩く二人を見て、鋭い視線を送る。
「アンタら、今は遊びに来ている訳でも食べ歩きしに来てるわけでもないのよ!?」
麗華のどぎつい姉御口調は、洋と熱也の背筋を思わず伸ばさせる。
「堪忍してぇや・・・・・」
「ハハハ、では適当に飲食店でも探しますか」
「あ、乃恵琉。俺はそこまで腹減ってないからその辺にいるよ」
「そうですか、では暫くしたらあそこの店で落ち合いましょう」
乃恵琉の指さす方向を確認すると啓助は分かったと一言言うと、互いは別々に歩いていった。
啓助は1人町中を歩いていると、左耳から強い刺激が走った。何だ何だと言わんばかりに刺激が走った方に駆け寄ると、木材で象られた吹き抜け窓から見えたのは老若男女がアビリティと思われる技の数々を駆使し切磋琢磨している姿だった。

41ライナー:2011/06/29(水) 22:33:29 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
啓助はその姿にびっくりしていた。アビリティはユニオンでしか使われているところを見たことがなかったからだ。
「気になるかい?」
集中して見入っている中、突然後ろから声を掛けられ驚き振り向いた。すると目の前に立っていたのは黒縁のメガネを掛けた男だった。
その男は少し伸びた茶色い髪を後ろで束ね、ワイシャツに黒いズボンという格好だった。
「その服はユニオンの方だね、何のようですか?」
その男は笑顔を絶やさず、ただひたすらに笑っていた。
「いや、ただ見てただけなんですけど、アビリティってユニオンでしか使われていないんじゃ・・・・・」
啓助の問いに対して、男は表情一つ変えず笑って答えた。
「ああ、その件ですね。それは私がちゃーんとお偉い所に交渉して、免許さえ取れればアビリティを誰でも使えるようにしたんですよ」
啓助はそうだったんですかと言って、その場を立ち退こうとした。しかし、男は啓助の腕を掴み笑って言った。
「まあまあ、せっかく来てくれたんですから私の道場を見ていって下さいよ。ユニオンの方と知ったら門下生も喜びます」
男は啓助の話も聞かぬまま、道場へと引っ張り込んだ。
道場の中にはいると、やはり老若男女が組み手でもするように異能力を使っていた。
「みなさーんただいま戻りました!!」
男が門下生達に呼びかけると門下生達は一斉に動きを止め、その場に正座して「お帰りなさいませ、お師匠様」と声を揃えて言った。今時こんな風景は見ないと思っていたが、こんな所に出くわすなんてと二度三度啓助は驚きを隠せなかった。
「実は、ユニオンのお方が来て下さったのでこれから僕とこの方で一本試合をしようと思いまーす」
「え!?」
ちょっと見るだけのはずが、急展開になってしまった事にびっくりしている、それを見越したのか男は大丈夫ちょっとだけですからと啓助の耳元でささやいた。

42ライナー:2011/07/02(土) 00:29:30 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は相手のペースに乗せられたまま、1つの試合を始めようとしていた。
「そう言えば自己紹介がまだだったね、僕は黒沢英治(くろさわ えいじ)君は?」
「・・・・辻啓助です」
英治と名乗った男は啓助の名を聞くと、やり慣れたようにスッと構えた。男はさっきからずっと笑顔を絶やさなかったが、この瞬間は笑顔の中に少しの真剣な表情が漂っていた。
啓助も負けじと相手の顔を睨み付ける、そして男に向かって一歩を踏み出した。男は啓助がいくら接近してきてもピクリとも動かなかった、気のせいか先程よりも笑みが溢れている。
啓助は男へ向かう足を速まらせ、冷気を込めた渾身の突きを繰り出した。しかし男はそれを慣れた手つきで腕の方から簡単にはらう。
「どうしました?一発で終わりですか?」
わずかに苛立ちを見せた啓助は、連続で冷気を込めた蹴りや突きを繰り出した。しかしまた、最初に出した一発と同じように全て男の両手で防がれてしまった。
啓助は疲れが溜まり、思わず息が荒くなる。そして男の方は、さっきから気持ち悪いくらい攻撃を受けているのに足場も動いてなければ息一つ乱れていない。
「では、そろそろ私の方から攻撃させて貰います」
男はそう言うと啓助が息の荒いうちに先手に出た、そして啓助の目の前まで接近すると、手に冷気を込めて氷を纏った突きを繰り出した。
「ぐぅっ!!」
啓助はその場に腹を抱えて倒れた。
「はい、1本取らせて貰いました」
勝敗が付き、男は啓助に手を差し伸べる。啓助はその手を取って立上がり、負けましたと一言言って男と力強く握手を交わした。
「あの、そのアビリティは・・・・・」
「そうですよ、君と同じ『フリーズ』のアビリティですよ。しかし、君の敗因はアビリティにあらず戦い方にあります」
「・・・・・」
「戦い方に迷いが見えます。何か考え事ですか?」
男の言うことは啓助にとって百発百中当たっていた。

43ライナー:2011/07/02(土) 10:18:52 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は煉が亡くなってからというもの、そのことばかり気にしていたのだ。
「私も思えば迷ってばかりの少年時代を送っていましたねぇ。今でも後悔することが山ほどあるくらい・・・・・」
男は一息吐くと、啓助にこう問いた。
「君は強いとはどのようなことだと思いますか?」
突然の問いに啓助は不意を突かれる。しかし、男はその顔を見つめ答えを待っていた。
「・・・えーと、俺にはよくは分かりません」
「では、何のために強さが欲しいですか?」
男は再び笑って問いかける。
啓助は何故ユニオンに入ったのかを思い出してみた。家族を失い、生きる場所を取られ、ただユニオンに頼り縋り付くしかなかったことを。そして啓助が出した答えは・・・・・
「ありません」の一言だった。
男は啓助の言葉にあまり驚きを見せずに言った。
「君は本当に凄い人ですね」
啓助ははっきりと男の言っていることが分からず、頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
「大抵の若者は、強いとは名誉であること、人を守るための強さ、などという人がいます。確かにそれは当たっているのかもしれませんが、それが全てではないのです。若いうちに迷う者が大成すると言いましょうか・・・・アビリティが出た世の中は戦いの価値観が変わると思うのです」
男は今まで浮かべていた笑顔を真剣な表情に変えた。
「そして君の答えは全て理に当たっています。どうでしょう?私の元で修行してみませんか?もちろん暇なときなどで良いですし、君ならこの世界をもっと良いものにしてくれる気がするのです」
「・・・・じゃあ、俺が世界を変えて見せますよ」
2人はその瞬間笑顔を交わした。

44ライナー:2011/07/03(日) 13:26:22 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
10、もう一人の洋
時は午前0時、啓助と洋は見回りをしていた。
「うぅっ・・・おなか減ったからあの売店でなんか買ってきていい?」
洋が腹を抱えながら、もう片方の手で指さして言う。
「あのなぁ、さっきもそんなこと言って食ってばっかりだったろーが!しかもお前のせいで獣なんて出なさそうな大通りに出てるし!」
そう、2人は見回りにも関わらず堂々とランプの灯が光る大通りにいた。
「確かに大通りでは何かと人間が犯罪を起こしたりするけど・・・・・」
「買ってきたよ〜」
啓助がふと洋の方へ目をやると、レジ袋いっぱいの片手にぶら下げてあった。
「早ッ!ていうか今日の昼だって待ち合わせしてたら食い過ぎで動けなくなったただろ!」
「大丈夫だよ〜そう簡単に獣が来るわけが・・・・・」
すると、大通りの向こうから爆発音が鳴り響いた。遠くを目を凝らして見てみると、黒く大きな狼の体と赤く光る目が見えた。
「ゴメン、来るわけ会ったね〜」
「そんな暢気に言ってる場合かー!!」
啓助は遠くにいる相手にも関わらず、その場で構えてしまっている。
そして啓助は気付いた、あの黒く大きな体と赤い目の正体を、啓助が一番初めに見たあの獣だった。それが分かった途端、啓助の中で無数の怒りが立ちこめた。
「アイツは・・・・!」
「啓助あの獣知ってるの?」
「知ってるも何もアイツが俺を絶望の淵に立たせやがったヤツだからな!」
「何だか良く分かんないけど、あの獣は炎狼(えんろう)って言って体内に『フレイム』っていうアビリティを持ってるらしいよ。でも何でアビリティを作った科学者はこんな能力作ったんだろ?」
「・・・・・何でもいい、俺は家族の恨みを晴らすためにあいつを殺す」
啓助はそう言って、炎狼に向かって走り出した。

45ライナー:2011/07/08(金) 17:55:36 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は、暴れる炎狼の目の前まで走り抜くと足に冷気を込め、その怒りをぶつけるが如く蹴りを繰り出した。その蹴りは炎狼の顔面に直打し、2メートルほどある全身は高く宙を舞い、後方5メートルほど飛ばされた。
炎狼の顔は凍結し、グッタリして動く気配はなかった。この瞬間近くにいた人々や啓助本人も勝利を確証した、しかし凍結した炎狼の顔は汗を流すように氷が瞬時に溶けていった。
「なっ・・・・!」
炎狼は再び立上がり啓助を睨み付けた。すると、口に溢れるほどの炎を溜め啓助に向かって一直線に吐き出した。吐き出した炎は玉のような形になり、急接近している。
啓助は間一髪のところで躱したが、その真後ろには洋が立っていた。洋はそれに気付かず、肉まんをバクバク食べてる。そしてそのまま洋は炎の玉と重なり爆発音を上げた。

46ライナー:2011/07/08(金) 18:00:02 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
訂正です。
≫44の9行目後半ですが、レジ袋いっぱいの肉まんがぶら下げてあった、です。
度々済みません。

47ライナー:2011/07/08(金) 22:49:02 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「洋ッ!」
啓助が煙に上がる方に向かって叫ぶように呼びかける。しかしその煙の中の黒い影は動かず、また返事もしなかった。
「イッタイなぁ〜」
すると煙の中からは洋の声ではない別の声が聞こえた。
啓助が呆気に取られていると、煙は振り払われ洋ではない男が立っていた。その男は金髪をしていて、顔も西洋人のような顔つきでハンサムだった。
啓助は一瞬目を疑ったが、洋を思わせる決定的な証拠があった。あの山吹色のバンダナである。
「お前・・・・洋、だよな・・・?」
分かりながらも恐る恐る啓助は問いた。すると、洋と思われる男は啓助の方を向いて答えた。
「ああ、洋は洋だがボクはもう一人の洋だ」
「どういう事だ?」
「物質変化なんて出来る能力なんか持っているから、強い刺激を受けると自らを別の人間へと変化させてしまうのさ。ちなみにボクはヒロシって呼ばれている」
「ヒロシ?」
「洋ってヒロシとも書くだろう?にしても、ボクの顔に攻撃してくるなんて・・・・・女性と遊べなくなるじゃないか」
啓助はこの時確信した、変化後の洋は女好きだと・・・・
洋はゴアテックパーカーを脱ぎ、黒いランニングシャツを見せつけ、いかにも戦闘モードに入っていた。
そして、ランニングシャツ越しの肉体は驚くべき程鍛えられていた。
啓助はいつも見る様とは違う一面に驚きを隠せなかった。
洋は炎狼に向かって走り出していた。炎狼は先程と同じように、炎の玉を洋に向かって吐き出す。
洋はそれを棒高跳びのように華麗に躱し、炎狼の目の前に立つ。そして、自らの手を刀のように変化させ、炎狼の体を頭から一刀両断した。
「フウ・・・・片付いたしさっさと帰ろうか」
「そ、そうだな・・・・」
すると後ろから軽い拍手と啓助の聴いたことのある声が聞こえた。
「今の剣裁き、お見事」
声がする方に目をやると、そこには洞窟で啓助を死の窮地に追い込んだ沙斬の姿が目に入った。

48ライナー:2011/07/10(日) 16:14:27 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
炎狼を倒した時の拍手喝采は一気に止み、険悪な雰囲気が流れた。
「お前は・・・・」
「フッ・・・・久しいな、若造。あれから少しは強くなれるよう努力はしたのか?」
「何なら今、ここでやってやろうか?」
沙斬は、啓助にまた見下すように笑いかけて言った。
「拙者は、御主のような半人前と遊んでやるほど優しくはないのでな。それよりもそこの御主、拙者と一つ立ち会わんか」
「ん?ボクかい?済まないね、ボクは女性の頼みしか聞かないもんでね」
すると、沙斬は刀に手を掛け洋に向かって言う。
「では、女遊びが出来ぬよう女芸者を建物ごと切り捨てても良いのだぞ」
洋は、一つため息を吐いて沙斬を睨んだ。
「ハァ、場所が悪かったなぁ。もっと人気のないところなら断れたのに・・・・」
「食い物に目が眩んで、ここまで連れてきたのは洋、お前だろっ!」
洋は渋々構え、啓助に背を向けながら言った。
「じゃあこの戦闘が終わったら、今回だけは寄り道せずに帰ってあげるよ」
そして手刀を鋭い鋼に変化させると、沙斬に向かって走り出した。
「遅いわ」
沙斬は一言そう残すと、洋の視界から消えた。
「あれ?・・・ああ、ファストか」
洋は相手のアビリティに気付いたようだが、それはもう遅かった。啓助の視界には沙斬が飛び上がって洋の首を狙うのがはっきりと見えていたのだ。
そして、刀が洋の首へと振り下ろされた。
「どちらにせよ、御主が女と遊べなくなるのは変わらんかったな・・・・」

49ライナー:2011/07/16(土) 17:18:00 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
沙斬の刀は既に洋の首に突き刺さっていた。しかし、一つ変だったのは鈍い金属音がしたことだ。
「・・・・!これは」
「ん?どうしたんだい?まさかこれで終わりって訳じゃないよね」
なんと、洋は首に刀が突き刺さったまま口を開いたのだ。よく見れば洋の首からは血液が一滴も流れていない。
「ボクのアビリティは『メター』ボクは特に金属が得意なんだ。悪いけど刀、取り込ませて貰ったよ」
「そ、そんな刀くれてやるわっ!」
沙斬は刀を洋に押しつけるように飛び上がり、距離を取った。
「にしても良い鉄だ、取り込んだ甲斐があったよ」
「それもそのはず、拙者の刀はなるべく堅くしようと合成金属使用を使った物。ダイヤモンドでも押しつぶせば真っ二つになる」
沙斬は二本目の刀に手を掛け、ニヤリと笑った。
「しかし次はそう出来まい」
沙斬は先程よりも素早く刀を抜いた。すると、火花が散り刀身が勢いよく炎を上げた。
「どうだ、これなら炎で刀を取り込めまい」
「・・・・なるほど、刀身と鞘に摩擦力を向上させる仕組みを入れ、刀身を燃やしたのか」
「よく分かったな、しかも燃えているのは刀の表面だけで、刀は絶対に溶けない。これが我が秘伝の刀『炎上鬼』」
洋は暫く黙ってから啓助にこう言った。
「啓助、ボクがやられたときは助けてくれよ。だけど今は手を出さないでくれ、こんな良い鉄の前で2対1なんて卑怯な真似は出来ないからね」

50ライナー:2011/07/16(土) 17:57:32 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「今はそんなことを言っている場合じゃないだろ!俺も加勢する」
洋は金属に変換していた首を元に戻すと、沙斬の方へ進んでいった。
「啓助、君はアビリティを手に入れ急速にその腕を磨いてきた。だけど君には終えない敵だよ、逆に君にいられると邪魔になる」
「で、でも大丈夫なのかよ」
「ボクは今の洋(ひろし)だからこそ出来るんだ。悪いがやらせてくれ」
「・・・・分かった、でもこれ以上俺の敵持ってかないでくれよ」
洋はそれを聞いてほんの少しの笑みをこぼすと沙斬の前に立った。
沙斬は洋の姿にあざ笑うように言った。
「死ぬ用意が出来たようだな・・・・」
「やってみなければ分からないだろ・・・・」
その途端、沙斬は持ち前の速さで姿を消した。
洋は眉間に皺を寄せると、その場に飛び上がった。すると飛び上がった真下では沙斬が炎上鬼を地面に叩き付けていた。
「やるな」
「その刀のせいで行動が丸分かりだよ」
「炎の微かな光を捕らえたか、それなら・・・・」
沙斬はまたもや姿を消した。
洋も同じように眉間に皺を寄せるが、さっきより苦しそうな表情をしている。
そして次の瞬間、沙斬は洋の後ろを取り刀に火を灯した。そして真っ直ぐに洋へと刀を振り下ろした。
「ぐあぁぁっ!」
洋は叫び声を上げながら、地面に叩き付けられる。
「今度は火を攻撃時だけに付けた、どうだ分からんかったろう」
「くぅ・・・・今のは効いたよ。だけどこっちにも策がある」
肩を押さえている洋の顔は笑顔が溢れていた。
「啓助!悪いが手伝って貰いたい」
「・・・ホントお前って二言ありすぎだろ!」
「大丈夫、100%成功するからさ。そこに氷山を作り出してくれ」
「何をするつもりだ?御主ら・・・・・」

51ライナー:2011/07/17(日) 09:17:08 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は言われるがままその場に氷山を作り出した。
「これでいいのか・・・・?」
「ああ、ありがとう。後は任せてくれ」
「いや、いいけどさ、出番少ないなぁ・・・・・」
洋は何かを察し咄嗟にしゃがんだ。すると今度は洋の頭上で沙斬が刀を振り払っていた。
「おっと危ない、でも流石に目が慣れてきたよ」
「くっ・・・・」
洋は腕を鉄パイプのように変換し、その腕を沙斬の炎上鬼に押しつけ、そのまま啓助の作り出した氷山にぶち当てた。
沙斬の炎上鬼の炎は氷と一緒に音を上げて消えていった。
沙斬は氷から遠ざけようと刀を引き抜く、すると刀にヒビが入り先端から殻を破るように砕けていった。
「なに!?」
「残念だったね、あれだけ刀の温度が上昇していたら冷やしたときにヒビが入るのは当然。まあ刀を取り込めなくなったけどね」
洋は細かく沙斬に説明すると、鉄に変換させた腕で沙斬の炎上後頭部を狙い殴った。
沙斬はその場に倒れ気を失っていた。
「・・・・非情だが、キルブラックの者なら殺さなければならないね」
洋は鉄の腕を刀のように変換させると、沙斬の首目掛けて刀を下ろした。
すると、沙斬の首元で鈍い金属音が聞こえた。
「ここまでだ、沙斬様は引き取らせて貰う」
黒装束の男が小刀で洋の刀を防いでいた。すると沙斬は気が付き男に言った。
「・・・・く、無念だが勝負に負けては帰っても殺されるのは同じこのまま死なせてくれ」
黒装束の男は沙斬の元から遠ざかった。
「では・・・・ご報告しておきます」
啓助達は男を見送り、沙斬の首を討った。
「・・・・帰ろうか、啓助」
「・・・・・これが戦いの常か」
啓助達は沙斬の死体を処理し、キャンプへと戻っていった。

「もしもし、堂本さんでっか?沙斬の奴、殺されてしもたみたいです」
「案外やるな。もう氷のアビリティはいい、奴を片付けろ」
「承知しましたで・・・・・」

52ライナー:2011/07/17(日) 13:14:16 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
11、冷気と氷
熱也を抜いた第6番隊D班はキャンプで会議らしきものをしていた。
「また・・・・ですか」
乃恵琉が暗い顔して言う。
「キルブラックもしつこいよなぁ、俺と洋(ひろし)で何とか倒したけど」
「まぁ、でもボクが最初に特殊攻撃を受けて洋(ひろし)になっていたから良かったよね〜」
洋は空腹が起きると食い意地の張った洋に戻るらしく、翌日目が覚めたら元に戻っていた。
「ホント、面倒くさい奴らね」
麗華はキルブラックと一戦も交えていないのにもう疲れた顔をしている。
「これからは各自行動するとき細心の注意を払って下さい。まだ何があるか分かりませんから」
会議はこれにて終わり、啓助は地域の見回りをすることになった。
啓助は見回り中、上の空でよそ見ばっかりして歩いていた。フラフラとその辺を歩いていると、案の定、通行人にぶつかり我に返った。
「・・・・っと、すいません」
啓助が即座に謝り顔を上げると、道場の師範、黒沢英治が立っていた。
「あれ?啓助君じゃありませんか、二日ぶりですね。もしかして指導を受けに来てくれたんですか!待ってましたよ〜」
啓助は相手の一方的な会話のペースに乗せられ、腕を捕まれたまま道場に行くこととなった。
「僕は以前君に何のために強くなりたいか聞きました。しかし、迷うのは良いですが目標自体を持たなければ大成しません。今のところの目標は何かありますか?」
啓助は頭の中で自分自身の『目標』を探してみた。しかし、本来は義務で戦闘を行うしかないわけで別に思い当たる節はなかった。だが、その中でも唯一思いつくとしたらキルブラックを全滅させることだ。しかしそれは世間に多く知れ渡ってもいないことも事実、ハッキリは伝えられない。
「今は言えませんが、とりあえず・・・・」
「では、その今は言えない目標を達成するために頑張ろうとして下さい。女の子にキャーキャー言われたい事や、強さによって地位を高め、金を手に入れる事でも強くなりたいという原動力になりますから」
それを聞いた啓助は、英治の例の例え方が気にくわなかった。自分はそんな煩悩や欲にまみれたことはしないと思いながら、強くなって証明してやるという原動力になっていった。
英治は両手を差し出し、左手には冷気を、右手には氷を作り出した。
「左手の方は今君が使っている冷気です。冷気は氷とは違い物質に氷を纏わり付かせる利点があります、しかし欠点は物理的攻撃力が薄いと言うことです。右手の方は氷、冷気の次の段階と言ったところですかね。この状態で物に纏わり付くことは出来ませんが、相手方の障害物になったり物理的攻撃に優れています」
英治は左手の冷気を消し、右手の氷を差し出した。
「君にはこの氷を使ったトレーニングをして貰います」
英治は壁に立てかけてあった何枚かの板を啓助の元に持ってきた。その中から四角形の板を取り出し啓助の前に置いた。
「君には最終的に複雑な氷を作ってもらいます。まず手始めに一辺50㎝の立方体の氷を作ってもらいましょうか」
「(そんな無理難題いきなり出来る訳が・・・・)」

53ライナー:2011/07/18(月) 12:34:57 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は四角い板に向かって冷気を放った。冷気は板に命中し、氷へと変化していったがその形はメチャメチャで、また大きさも合ってはいなかった。
「・・・・では、暫く練習を続けていて下さい」
そうして啓助は何度も同じ事を繰り返し、練習に励んだ。しかし一向に成果は出ず、体力はほとんど限界まで来ていた。
「フゥ・・・・全ッ然出来ねェ・・・・『フリーズ』手に入れた時みたいにピンチでも作れってか?」
すると、向こうから英治が様子を見にこちらにやってきた。
「調子はどうですか?」
英治は啓助の作り出した妙な形の氷を覗き込んだ。
「・・・・では、少し条件を変えてみましょうか」
暫くして持ってこられた物はどっから購入したかも分からないようないびつな形をした壺だった。
「これと同じ形の氷を作り出してみて下さい」
いくら何でも最終目標の『複雑な形の氷』をいきなりやらされるとは絶対に不可能だ、啓助はそう感じた。
しかし啓助は、まあ、どうせ無理だろうとダメ元で実行してみた。すると、完全に同じとまではいかなかったが壺の形をした氷を作り出すことが出来たのだ。
「!・・・・出来てる・・・」
「君の場合は形より強度の方が全般的に高いんです、ですから逆に奇怪な形の氷をしていた方が奇怪な形の物に変えやすかったんでしょう、それに力を節約するためにこれを練習していますから大きな一歩といえましょう。すると、君の目標は今度からキチッとした氷の立方体を作ることになりますね」
「なるほど・・・・」
啓助はそれからというもの、時間があれば道場に通い詰め、練習を積み重ねた。
「惜しいですね・・・・」
啓助は完璧な立方体の氷を作ろうと専念していた、が、惜しいことに氷は一部がゆがんだりして完璧な物が作れずにいた。
「まぁ、そこまで完璧じゃなくても重要ではありませんし、これからは任務での実践を積みながら・・・・」
英治の言葉に啓助は途中で割り込み、言った。
「いえ!ここまで来たんで、絶対に諦められません!」
「・・・・しょうがないですね、ではここで実践をやって貰いましょう」

54ライナー:2011/07/23(土) 15:14:35 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
英治は暫くしてから一人の門下生を連れてきた。
「彼は私の門下生で、福井健二君です。彼との練習試合でやってみてはどうです?」
健二と名乗られた少年はオレンジの鉢巻きをして、Tシャツに短パンと少々子供じみた格好だった。それに比例して身長まで低いから余計に子供っぽさが目立つ。
試合は道場を全面的に使い、英治の「始め」の一言で開始された。
「それじゃあいくよ!啓助さん」
子供っぽい成りの健二の目は見ているだけで迫力が伝わってきた。その迫力に一瞬動揺した啓助は不覚にも健二の蹴りを食らった。
啓助も負けじと体勢を立て直し、攻撃しようとするが、そのとき健二は啓助の軸足になっていた右足を狙って蹴りを繰り出した。
再び地面に倒れ込み何とか立上がることは出来たが、気が付くともう目の前で健二が啓助に突きを繰り出そうとしていた。
啓助は擦れ擦れで攻撃を躱し、連続攻撃の最後と思われる跳び蹴りをしゃがんで躱す。しかし、しゃがんだ先には跳び蹴りとは逆の足で蹴りを食らった。
「(しまった!跳び蹴りがフェイントだなんて!)」
これでもう三度地面に倒れている。しかも立っている時間よりしゃがんでいる時間の方が多かったのに気が付いた。
「これじゃアビリティを使う暇もねェ・・・・」
健二は余裕を見せ、啓助が立上がるのを待つ。
「そう来なくっちゃ」
「く・・・・」
健二は啓助が立上がるタイミングを見計らい、またも追撃をしてくる。
啓助は飛び上がって躱し、距離を取った。そして両手に渾身の冷気を溜め、着地と同時に放った。
「なっ・・・・」
啓助の目の前には巨大な六角形の氷の壁が出来、健二の突きを受け止めていた。
「出来たぜ、完璧な氷が・・・・」
「そこまで!」
試合は英治の掛け声で終了した。
「結局は立方体じゃありませんでしたがこれでもう完璧ですね」
英治は啓助の前に手を差し伸べ握手を求めた。啓助は恐る恐る手を近づけ、握手をした。
「良い試合だったよ啓助さん」
健二は英治の強い握力で握りしめられた啓助の手を見て言う。
「ああ、良かった。ま、また機会があればやろうぜ」
「もちろんやるよ、そのときはね」
啓助は痛む手を押さえながら道場を後にした。

55ライナー:2011/07/30(土) 13:48:52 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
12、囚われの麗華
啓助達は長い遠征生活を終え、ユニオンに帰還していた。
「啓助君の言う福井健二という人物は、確か特別専攻部隊の一人だったと思いますよ」
乃恵琉は眼鏡を拭きながら話している。
「と、特専隊!?そんなすごい奴と戦ってたのか・・・・・」
「彼は特選隊唯一の武器もアビリティも持っていないユニオン隊員。武術は影着拳というものを習得しており、相手の影のように常に接近して連続攻撃を繰り出す技です」
乃恵琉が眼鏡を掛け直すと麗華が騒々しくユニオンに入ってきた。
「アンタら任務早く行くわよー!」
「大丈夫ですよ、今から行くところなので。だいたい一時間前から待たなくても良いでしょう」
乃恵琉は麗華のあまりの騒々しさにため息を吐いている。
「いつ何が起こるか分からないんだから急ぐわよ!」
麗華の騒々しさは変わらず、そのまま先にチームルームを出て行ってしまった。
「・・・・では、僕達も行きますか」
「お、おう・・・・」
啓助達もチームルームを出て、ユニオンの長い廊下を歩いていった。
「今回はある格納庫が荒らされるという事件で、またもや獣の仕業かと」
「わざわざ格納庫を狙うって航空機に何か良いもんでもある訳じゃないし、何が目当てで?」
「僕にもサッパリです、なんせ相手は獣ですからね。まあ、行ってみれば分かることです」
転送ルームにたどり着くと乃恵琉はゆっくりと転送ボタンを押した。
 同日 午後11時
啓助達は格納庫で獣を待ち伏せしていた。
「来ませんね・・・・」
乃恵琉の言葉に麗華は苛立ちを見せて言った。
「全然出てこないじゃないの!?夜更かしは美容の天敵なのよ!」
「・・・・つくづく呆れますよ。出る前にいつ何が起こるか分からないと言ったのは麗華でしょう?」
乃恵琉は先程より大きくため息を吐く。
「もう止めろってお前ら・・・・それで乃恵琉、獣ってどんなのだったっけ?」
乃恵琉は啓助に言われ我に返り、すかさずショルダーバックからノートパソコンを取り出し、キーボードを鳴らし始めた。
キーボードの音が止むと乃恵琉は啓助の方に画面を向けた。画面に映っていたのは全身が黄土色で、目が奇妙に光った蛙のような獣が映っていた。
「この獣は泥蝦蟇(でいがま)と言い土や、その湿度を操ることが出来る『サンド』のアビリティを持っています。目撃はほとんど夜ということで、来るとは思うのですが・・・・」
乃恵琉はノートパソコンを閉じると、それと同時に強い地響きが鳴った。そして、格納庫の床を突き破りあの泥蝦蟇が姿を現した。

56kalro:2011/07/30(土) 17:44:28 HOST:nttkyo204250.tkyo.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp
ライナーさん
ども。kalroです!
物語が進むたびに面白いね!これからも読みたいから更新頑張ってください!
応援してます!

57ライナー:2011/07/31(日) 13:17:08 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 出てきた泥蝦蟇は、体長2、3メートル程ありそれだけに及ばず3匹も出てきていた。
「で、デカイ・・・・ゲームで出てきそうな大きさだな」
「そう言えば啓助君、君まだ電子機器の私物を処分していなかったんですか?」
「・・・・」
「帰還次第、即刻処分します」
「アンタら、早くあの蛙ぶっ倒すわよ!」
 麗華のドギツイ一言で啓助と乃恵琉は我に返り、真剣な表情へと変えていった。
「・・・・では、冗談はこれくらいにして、泥蝦蟇は3匹、こちらも3人ということで1人1匹ずつ処理していきましょう」
 啓助と麗華は深く頷くと、3人は格納庫の2階部分から飛び降り、戦闘モードに入った。すると泥蝦蟇が突き破って出来た穴から人の声がした。
「おーい、待ちなさい」
 格納庫の中は暗く、姿までは見えなかったが声は老人男性のような声音をしていた。
「全く、こんな所まで来おって・・・・ん?そこに誰かおるのか?」
 すると、その声からは懐中電灯の光が差し、その光は一直線に麗華の方へと向かった。
「ちょ・・・眩しいじゃないの!」
 麗華は目が眩み両腕で光を遮る、それと一緒にかすかだが光を照らした声の正体も見えた。
 声の正体は声の通り老人男性で、黒いスーツに身を纏っていた。
「そ、その声は麗華お嬢様!?」
 麗華はその声に驚き、光の方を見て目を疑った様子だった。
「爺や!?何でここに!?」
「お、お嬢様ぁ?麗華が!?」
 啓助は老人の言葉に耳を疑い、大声で叫んでしまった。
「そこに誰かいるのか!?お嬢様を攫っていった者共だな!泥蝦蟇!奴らをやってしまうのだ!」
 2匹の泥蝦蟇は、乃恵琉と啓助に襲いかかり、残りの一匹は老人男性を乗せて麗華の方へと向かっている。
「爺や違うの!」
「そんなことより早く!」
老人を乗せた泥蝦蟇は麗華を口に咥え、そのまま跳び去ってしまった。

58ライナー:2011/07/31(日) 23:19:10 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
「麗華!!」
 啓助は麗華を追い掛けようとするが、格納庫の出入り口には泥蝦蟇が立ち塞がる。
「どうやらこの泥蝦蟇をどうにかしないことには麗華を追うことは出来なさそうですね」
 啓助は舌打ちをしてから、泥蝦蟇の方を睨んだ。
 泥蝦蟇はそれに動じずに口から何発かの泥の玉を放つ。啓助はそれを難なく躱し、泥蝦蟇へと近づいて行く。
 そして、啓助が飛び上がった途端、泥蝦蟇は口を閉じ何かを含んでいる様子だった。啓助はその隙を突き、氷を纏った蹴りを繰り出そうとする。しかし、啓助が蹴りを繰り出す前に泥蝦蟇が口を開いた。
「何っ!?」
 泥蝦蟇の口内は泥が沢山含まれており、そこから無数の泥の玉が放たれた。
 啓助は現在空中で攻撃を繰り出そうとしているので身動きが取れない。そして案の定幾つかの泥の玉に当たってしまった。しかし、空中で上手く体勢を立て直し飛び交う泥の玉を次々と凍らしていった。
「くっ・・・・案外やるな」
 泥蝦蟇の追撃は終わらず、啓助に向かって突進してくる。
 啓助は向かってくる泥蝦蟇を跳び越え、泥蝦蟇の後ろに着地すると背中に向かって冷気を放った。冷気は見事に泥蝦蟇の背中に命中し氷山として現れた。そして泥蝦蟇に向かって手を握ると、氷山は砕け散り、その衝撃で泥蝦蟇は強く地面に打ち付けられた。
 啓助は自慢げに倒した泥蝦蟇を見つめ、乃恵琉の方に振り向いた。すると、乃恵琉も泥蝦蟇を棘のある蔓で縛り付け倒していた。
「・・・・流石だな、乃恵琉」
「まあ、当然ですかね」
 気が付くと乃恵琉の持っている武器が変わっていたようだ。槍の先は三本に割れ、中心の刃が菱形のように大きく尖り、反対側には黄色の透き通った珠があり、それを覆うように後ろの先端には一本の槍の刃が存在していた。唯一変わらなかった部分は外観の深緑の塗装だろう。
 乃恵琉もまた得意げに、眼鏡の奥に輝くエメラルドグリーンの瞳を輝かせた。
「啓助君の初任務の時、大きく邪魔だったので改造したのですよ」
 啓助は乃恵琉の言葉に耳を疑った。以前よりコンパクトに小さくなると言うより大きさが増していたからだ。
「以前より大きくなったとお思いでしょう?まあ、見ていて下さい」
 乃恵琉はそう言うと、ナチュラルランスの後ろの部分に付いている黄色の珠を回した、すると、深緑に塗装された部分は吸い込まれるように黄色の珠の中に消えていった。
「・・・おっとこんな事してる場合じゃねェ、行くぜ!新戦力眼鏡君!」
「新戦力は良いですが、眼鏡君は今後改めて貰いたいです」
 2人は麗華を追い、格納庫を後にした。

59ライナー:2011/08/01(月) 22:46:29 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
「・・・・にしてもどうやって追うんだ?もうアイツらの姿が見えないが」
 乃恵琉は今度も得意げに笑い、眼鏡を中指で押し上げた。
「心配は入りません、隙を見て発信器を付けておきましたから。慎重に追いましょう」
 2人は発信器を頼りに歩いて行き、発信器の示す場所へとたどり着いた。
 たどり着いた場所にはユニオンと同等かそれ以上の大きさの屋敷が啓助達の視界いっぱいに建っていた。
「そういやアイツ、お嬢様とか言われてたな」
「麗華は元々お嬢様育ちで、屋敷から抜け出して今の生活になったらしいです。詳しいことは聞かされていませんが」
「にしてもあれは・・・・・」
「そうですねあれは・・・・・」
 2人が見据える先には屋敷を取り巻くようにいる警備隊と思われる人々がが見回りをしていた。
「あれを突破するには少々・・・・いえ、多々困難ですね」
「あの麗華が逃げ出したくなる様な屋敷だろ・・・・早くしないとちょっとヤバイかもな」
 乃恵琉は暫く黙っていたが、吹っ切れたように言い出した。
「強行突破で行きましょう!」
「大丈夫か?あんな大人数相手に・・・」
「僕達はユニオン隊員ですよ、それに免許があればアビリティを取れるとは言っても、そう大人数でアビリティを持っていることはまず無いでしょう」
「・・・・やるだけやってみるか」
 2人は屋敷の門に向かって走って行くと、警備隊の面々は罠に掛かったように気付き啓助達の前に倒れていった。
「倒せたには倒せたが、流石に疲れてきたな・・・・」
 息の荒い啓助の前には、次の試練が待ちかまえるように重々しい鉄門が目の前に立ちはだかった。
「今の騒ぎで門はロックがかかっているようですね、自力で押すのは不可能となりましたか・・・・」
 啓助は息が荒いまま、門に向かって手のひらを向けた。
「押して駄目なら凍らしてみろってな!」
 啓助は門に向けた手のひらから冷気を打ち出し、強大な門を凍り付けにした。そして、泥蝦蟇の時と同じように凍り付いた部分に向かって開いた手を握りしめた。
 そして次の瞬間、氷と一緒に門も砕け屋敷への道が開いた。
「正しくは、『押して駄目なら引いてみろ』ですが、まあ、結果オーライと言うことにしておきましょう。それより泥蝦蟇の時と同じように凍り付かせたアノ技・・・・」
「あれは、俺が自力で開発した技『氷結界』氷の結界で物体を包みそれを滅する技だ!」
「お互い新戦力は身についているみたいですね」
 すると、屋敷の中にある広い庭の向こうから声がした。
「あーあ、門をこんなに粉々にしてくれちゃって。駄目じゃなーい」
 啓助達が声の方を向くと、メイド服に身を包み、巨大な箒を持った女が出てきた。
「お掃除お掃除っとー」
 そのメイドは両手に持っている箒を凍り付いている門の破片に祓うように当てると、箒からは炎が吹き出、門の破片を溶かし、一つの鉄の玉へと変えた。
「それとー、あなたたちのお掃除も頼まれてるのー」
 その言葉を聞くと、乃恵琉は啓助の前に立ち、啓助に言った。
「ここからは、別行動となりそうですね」

60ライナー:2011/08/02(火) 22:28:45 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
済みません、訂正です。
今更ながら、≫15までの「零華」ですが、「麗華」が正しい方です。
自己紹介も「零華」だし・・・^^;

61ライナー:2011/08/03(水) 00:02:28 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
13、お屋敷バトル 乃恵琉vs水野家のメイド
「乃恵琉、俺も加勢するぜ!」
「いえ・・・・今は麗華を助け出すことが最優先です。二人で素早くやるよりも、一人ずつ効率的に対処しなければ」
「・・・・でも」
「いいから先へ行って下さい!」
 叫んだ乃恵琉の表情は強張り、目の前の敵のことでいっぱいいっぱいのようだった。
「・・・・分かった。気をつけろよ」
「百も承知ですよ」
 2人は言葉を交わすと、乃恵琉は目の前の敵のことに集中し、啓助は麗華を救うべく屋敷の庭奥まで走っていった。
「少ない戦力削って良いのー?」
「1対1がフェアですし当然です。それに女性なら尚のこと僕のプライドが許しませんよ」
「でも、屋敷の中には入れないねー、アタシが鍵持ってるから〜」
 そう言うと、メイドは服のポケットから屋敷の鍵を取り出し、乃恵琉に取れとでも言うように近づけて見せびらかした。
「では、僕が正々堂々あなたを倒し取ればいい話です」
「へー、鍵がこんな間近にあってもがっつこうとしないんだー。でも、後でその馬鹿正直な所で悔いを見るよ〜」
「では、馬鹿じゃない頭脳戦で正直に勝って見せますよ」
 乃恵琉はベルトに付けていた黄色い球を取り出し、ナチュラルランスに変形させた。そして槍の矛先をメイドの首筋に目掛けて一直線に突き出した。
 しかしメイドは、余裕の表情で躱し乃恵琉に取れとでも言った。
「もし眼鏡君がアタシから鍵を取れたとしてもダブルロックでそれぞれ違う鍵だから、あのクセッ毛君も戦うことになるかもよ〜?」
 乃恵琉は突き出したナチュラルランスをメイドに向かって横に思いっきり振った。すると今度は話の途中だったからか、メイドは乃恵琉の一撃で右腕に傷を負った。
「・・・・ったくもー、容赦ないなぁ〜」
「あなたのような戦地に立たされているのにも関わらず、ヘラヘラしている人には容赦ないくらいが丁度良いです」
 そう言う乃恵琉の頭には少々血が上っている。
「戦地に立たされいるからこそ、こうやって相手の心を乱してるんじゃーん」
 その言葉を聞き、乃恵琉の頭にはますます血が上り我を忘れたようにただナチュラルランスという槍を振っていた。
 乃恵琉はその状態のまま、暴れるように戦い続けた。
「フフフー、イライラしてるイライラしてるー」
 メイドは乃恵琉の攻撃をあざ笑うように躱し、乃恵琉を見た挑発している。
 乃恵琉はナチュラルランスで、地面に傷を付け、傷を付けた部分から棘の生えた蔓をメイドに向かって輪を描くように取り巻かせた。
「本来は冷静な男の子なんだろーけど、こうなったら扱いやすいねー」
 メイドはまたも余裕の表情で棘の生えた蔓を眺める。
「ぼ、僕はあのようなヘラヘラしている人は戦人なんて認めない!」
「御覧の通りメイドだから戦人じゃないんだなぁ〜。あ、こんな事言ったらまた怒っちゃう?」
 メイドは少しずつ迫ってくる蔓に、余裕の表情を見せ、箒を振り下ろした。振り下ろした箒は炎を帯び、輪を描いた蔓は跡形もなく焼失してしまった。
「植物に炎は相性悪いよー、『ファイアブローム』にはもっと別の攻撃しなきゃ」
「(攻撃がほとんど通用しない・・・・どうしたら・・・・!)」
 この時、乃恵琉は自分が相手のヘラヘラした言い方で翻弄し、挑発に乗ってしまった事に気付いた。
「・・・・自分を見失うところでしたよ。僕としたことがもっと冷静に事を運ばなくては」
「ありゃー?もう我に返ったのー?君みたいな冷静でくそ真面目な人は気付かずにお掃除されてったのにー」
 すると乃恵琉はナチュラルランスに付いている黄色の珠をしまうときとは逆側に回した。すると槍全体は光を帯び、見る見るうちに変形していった。
 帯びた光が消えると、ナチュラルランスは姿が変わっていた。形は十字型になり、その四方校からはそれぞれ槍の刃が並び、刀身は黄色に、珠は緑に色が反転していた。
「ナチュラルランス第二携帯、『エレクトリックナイフ』!・・・・勝負はまだまだこれからですよ」

62ライナー:2011/08/04(木) 23:56:48 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
訂正です^^;(最近多いな)
≫61の四方校→四方向です。

あまりコメントがないので心配していたのですが(駄作だからだろ)、途中しか読んでないんですけどって人でもコメント&アドバイス&リクエスト募集ですのでお願いします! m(_ _)m

63ライナー:2011/08/05(金) 00:51:43 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
「ちょっと武器変えたからって勝てると思っちゃ駄目だよー」
 メイドは燃えさかるファイアブロームを振り回し、乃恵琉に取れとでも向かって火炎放射が放たれた。
 乃恵琉の方はそれに対して真剣な表情を見せ、エレクトリックナイフの交差した柄の部分をV字型に取り外し、二つに分けられた武器をそれぞれ両手に握った。そして向かってくる炎に合計4本の刃を放った。
 刃は棘の付いたワイヤーで繋がれており、電気を帯びたワイヤーは網目状に交差し炎を防いだ。
「武器の相性はこれで五分五分ですね」
「へー、やるじゃん」
 メイドは炎を纏ったファイアブロームに跨り、炎を炎上させ魔法使いのように飛び上がった。
「今度はどのような面白い攻撃をしてくれるのやら・・・・」
「余裕ぶっこいて、後で泣きを見ても知らないよー」
「その言葉、2回目ですよ」
 今度はメイドの方がカッとなり、乃恵琉の頭上でファイアブロームの燃え盛る箒草を下にした。
「火の雨食らえー!」
 すると、箒草の部分からは無数の火の玉が降り、それが乃恵琉を見た襲った。
「くっ・・・・なるほど、攻撃範囲も広いですし申し分ありませんね、しかしエレクトリックナイフの前では何の意味もありませんよ!」
 乃恵琉はエレクトリックナイフを元の十字型に組み戻し、交差部分からワイヤーを伸ばした、そしてそのままエレクトリックナイフを回転させながら放った。回転したエレクトリックナイフは火の玉を防ぎ、そのままファイアブロームの箒草を一部刈り、バランスを崩させ墜落させた。
 メイドもバランスを崩し、そのまま地面へと倒れた。
「では、そろそろチェックメイトと行きましょうか」
 メイドは苦しみながらも立上がろうとしたが、どういう訳か立ったと思ってもすぐに尻餅をついてしまう。
「・・・・!!」
 乃恵琉は余裕の表情で眼鏡を外し、汗を拭くとメイドに言った。
「あなたを墜落させるときに極度に回転させて貰いました。実質、目が回っていなくても体内のリンパ液が揺れバランスが少々取りづらくなっております」
「な、なに・・・」
 空中で回転しているエレクトリックナイフをワイヤーで引き寄せると今度は電流を流し、メイドに向かって放った。そして、ワイヤーの勢いとともに大きな電磁音と爆発音が屋敷の庭に響いた。
 乃恵琉はワイヤーを引き、エレクトリックナイフを手元に戻した。
「僕の勝ちですね」
 そう言う乃恵琉のエレクトリックナイフには、一本の刃にぶら下がった鍵が光っていた。
「済みませんね、あれでも僕らの大切な仲間ですので」

64ライナー:2011/08/06(土) 10:39:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 その頃、啓助は屋敷の扉の前で立往生していた。
「扉は鍵掛かってて入れねェし、窓からも侵入できねェし・・・・」
 すると、向こうから左手に鍵を握った乃恵琉が来た。
「啓助君、鍵持ってきましたよ」
 そう言うと乃恵琉は扉の右側の鍵穴に鍵を差し込み、解錠した。
「おお!これで入れ・・・・・ないじゃん!」
「どうやら、左右別々の鍵を使わなければいけないようです。確かこの庭にもう一人鍵を所有する人物がいるはずなのですが・・・・」
 しかし、屋敷を囲う庭には人の気配はなく草木が揺れる音しかしなかった。
「何にせよもうすぐ日が昇りますし、僕達は一睡もしていないわけで体力が限界に近づいています。慎重に、なるべく戦闘にならないように事を進めましょう」
 そんなことを話していると、近くから水の流れるような音がした。啓助達はすかさずその音のする方に行くと、執事服を着た青年が立っていた。
「おや、庭がやっと静かになって池の水を取り替えに来たら、まだ客人達がご在宅でありましたか」
「もう気付かれていましたか・・・・」
「まあ、落ち着いて。水を取り替えたらお相手いたします」
 庭の隅にある池の水は執事が手をかざすと、その動きとともに池の水は浮き上がった。そして、もう片方の手で大きな水滴を集めると集めた方を池に戻した。
「それは、水を操る『アクア』のアビリティ・・・」
「よくご存じで、まあ、あのメイドを倒したのはあなたと言うところですか・・・・」
 執事の見据える先には門の外に追い出された傷だらけのメイドの姿がいた。
「弱者は水野家に仕える必要がないですから。ちなみに『アクア』はお嬢様や、旦那様に快適なティータイムをお送りするために習得したのですよ」
「あれは、いくら何でも惨過ぎるだろ!」
「威勢がよいお坊ちゃんですね。では、少し眠っていただきましょう」
 執事はそう言うと、池にあった方の水を細かい粒にして啓助達に放った。放たれた水滴は体に纏わり付き、啓助達の体を包んでいった。
「二人仲良く、水死で良い睡眠を・・・・」
 啓助達はそのまま息が出来ずに気絶してしまった。

65ライナー:2011/08/06(土) 11:57:23 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
13〜Ⅱ、お屋敷バトル 恵VS水野家の執事
 執事は水の中で気絶している啓助達を見て、腕組みをしていた。
「まだ、息の根が途絶えていませんね。どちらともなかなかしぶといようで」
 すると、日の出途中の太陽から光が差すように、啓助達に纏わり付いている水に向かって二本の光線が当たり、水を蒸発させていった。
「まだ、侵入者が居たようですね」
 執事がそう言うと、上空から颯爽と一人の少女が舞い降りてきた。その少女の姿は啓助が初めてキルブラックと関わった時に同行していた関原恵の姿だった。
「私が、二人の替わりに戦いますからっ!」
「・・・・そう、ですか。しかし彼らも情けないですね、女性に救われるなんて」
 恵はその言葉にわずかな怒りを見せ、執事に言った。
「ユ、ユニオンレンジャーには、男性も女性もないんです!」
「おっと済みません、君を怒らせる気は無かったんですよ。ま、早いところ勝負付けないと麗華お嬢様救えませんけどね」
「え?」
「・・・・どうやらあなたは事情を知らないようですね。まあいいでしょう、麗華お嬢様と彼らの生死を賭けて勝負しましょう」
 執事は自ら勝負を仕掛けてきたにも関わらず、動く気配がない。
 恵はそれをチャンスだと思い、腰に装備していた二丁拳銃を手に取り執事に向かってビーム性の弾を撃った。
 執事はその弾に向かって水の幕を張り、弾を水の中で爆発させて防いだ。
「ふむ、運動エネルギーを弾丸に変換して撃つ構造だとお見受けしましたが?」
「え!?今の一発で『エナジーボント』の仕組みが分かっちゃうなんて・・・・・」
「なるほど、名は『エナジーボント』ですか」
 執事はそう言うと、手のひらに水滴を溜め恵に向って放った。恵の方はそれに瞬時に反応し、エナジーボントの引き金を連引すると、一瞬にして水滴は消し去られた。
「連射の威力もなかなかの物ですね」
 恵はそのまま執事に向かって連射を続けた。しかし、執事はそれを容易く水の幕を張り全てを防ぐ。
「一度失敗した攻撃は続けて使う物ではありませんよ」
「ううっ・・・・」
 恵は苦戦しながらも、銃に付いているダイヤルを回すとまた銃を連射した。
「だからその手は効か・・・・・」
 執事は水の幕を張って余裕の表情だったが、今度はビーム性の弾丸が幕を突き抜け執事の胸を焦がした。
「な、何を・・・・したんだ・・・?」
「あ、えっと、さっきの弾はクラッシュって言って物理的なダメージだったから水の中で破裂しちゃったけど、今度のはスペシャルって言って特殊的ダメージだったから・・・・って大丈夫?」
 執事は強く胸を押さえながら恵を睨み付けた。
「敵のことを気にするなんて、随分余裕ですね・・・・まあ、でも案外侮れないことは承知しました」
 すると、執事は両手の手のひらを上に上げ、大量の水を溜め始めた。
「これで、終わりですね」
 そして、執事が手のひらを恵の方へ向けると溜めてあった大量の水を一気に放出した。
 恵はそれを冷静に迎え、エナジーボントのダイヤルをまた一つ変えると重々しい感じで両方同時に引き金を引いた。エナジーボントの銃口は勢いよく強烈なレーザーを放った。

66ライナー:2011/08/06(土) 16:00:46 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 レーザーと水泡は互いにぶつかり合った、ぶつかり合った瞬間レーザーの威力が少しだけ勝り、水泡を打ち破ると執事の体を貫くような勢いでレーザーが当たった。
「グハァッ!!」
 執事は胸を押さえながら膝を地面に付き、口から血を吐いた。
「あ、あ、どうしよう・・・・流石にダイヤルをキャノンにしたらまずかったかな・・・・」
「ゆ、許して貰えますか・・・・」
 執事は服の裾で口を拭くと、弱々しく立上がり恵に鍵を差し出した。
「こ、これは?」
「彼らが起きたら教えてもらって下さい、今一番必要な物でしょう・・・・それと、その鍵を使い終わったらその場に置いておいて貰えませんか?僕は、あの者のように落ちぶれたくはないのです・・・・」
 恵は執事が指さした方向を見ると、門の外で倒れているメイドの姿があった。
「僕は、ずっとここで・・・働きたいのです。主人に見捨てられたくないのです」
「じゃあ、あのメイドさんも助けてあげて。私も好きな人に会えなくなるのは寂しいって思ってるから」
 そう言うと恵は一瞬、無意識に啓助の方に目をやっていた。
「ありがとう・・・・ございます。鍵は後で取りに行きますので・・・」
 執事が涙を隠して去ろうとしたのが恵には分かった。そして見えなくなるまでそれを見送ると啓助達を起こした。
「啓助さん、黒沢君!起きて!」
 すると、2人は気が付き素早く起き上がった。
「しまった!早くアイツを倒さねェと!」
「だ、だ、大丈夫!私がちゃんと鍵貰ったから!」
 啓助が恵の方に目を向けると、恵の手にはしっかり鍵が握りしめられていた。
「おおっ!マジか!あ、でも何で関原が?」
「あ、な、何か帰還が遅いからって、私が様子見に行くことになって・・・・」
「そうか、にしてもホントありがとな!」
 恵は少し赤面して浅く頷いた。
「二人とも早くしなければ、麗華がどうなるか分かりませんよ!」
「そうだったな、急ぐか!」
 啓助と乃恵琉は扉に向かって走り、恵はそれに早足で着いていった。
「そういえば、その、麗華さんがどうって何なの?」
 乃恵琉は恵に任務中に何があったのか、そして屋敷がなんなのかを細かく説明した。
「そ、そんなことが!?」
「ええ、ですから急がないと」
 3人は扉の前に着くと、早々と解錠し、扉を押し開けた。

67ライナー:2011/08/07(日) 09:53:57 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
14、真実と裏切り
 扉を開くと、そこには大勢のSPが啓助達の前に立ち塞がっていた。
「これはかなり時間が掛かりそうですね、啓助君!僕達が引きつけますから今度こそ麗華の所へ!」
「分かった!お前らもしっかりな!」
「頑張ってね!啓助さんっ!」
 啓助は恵のその言葉を聞くとこう言い返した。
「関原!」
「は、はいっ!」
「さん付け、もう無くて良いから」
「えっ・・・・」
 啓助は言い終わると、氷を踏み台にしてSPの大群の上を跳び越えていった。
「・・・・そういや、どこ行けば良いんだっけか?」
 啓助は闇雲に階段を上がったり、扉を開けたりを何回も繰り返し、最後に屋敷の中で大きな扉を見つけるとそれを足で押し開けた。
 そして、その扉を開いた先には鮮やかな色のドレスに身を包んだ麗華の姿と、茶色いシックなスーツを纏った男が立っていた。
「麗華!?お前・・・・」
「つ、辻・・・」
「麗華、お前・・・・その服似合わないと思うぞ・・・・」
「アンタ何しに来たのよっ!」
 すると、スーツを着た男が啓助の前に出てきて言った
「君が侵入者の一人か、全くうちのSP共らは役に立たんな」
「おっさん、仲間返して貰いに来たぜ」
「そちらこそ、娘を攫った犯人じゃないのか?」
「おい!麗華、どういう事だよ!」
 麗華は下を向きながら唇を噛み締めている。
「アンタらがここに来なきゃこんな事には成らなかったわよ」
「そう、君達がここに来た時から既に勝負は付いているのだよ」
 麗華の父はスーツのポケットから何かのスイッチを取り出した。
「君達の体内には小型爆弾が仕掛けてある。それが爆発すれば、君達の心臓ごと・・・ドッカーンという訳だよ」
 麗華の父は悪魔のような笑みを溢し、何のためらいもなくスイッチを押した。

68ライナー:2011/08/08(月) 15:52:21 HOST:as01-ppp10.osaka.sannet.ne.jp
「これで邪魔者は全て消える・・・・」
 しかし麗華の父が言う「ドッカーン」は起こらず、ただ静かに時が流れて行くだけだった。
「ど、どういうことだ!?」
 すると、今度は扉の向こうから乃恵琉と恵が走ってきた。どうやらSPの大群は早々と片付けられたらしい。
「お、お前ら大丈夫か!?」
「はい、SP達は一人残らず片付けましたが」
「いや、それもあるんだけど・・・・」
 麗華の父は乃恵琉達の平然な表情を見て、怒りの余りスイッチを床に叩き付けた。
「くそっ!何もかも計算違いだ!白銀の髪の女侵入者も爆弾も!」
 すると、恵は「あっ」と声を上げ、啓助たちの耳元でささやいた。
「そういえば、執事さん倒したときに爆弾は片付けといたって」
「やりますね、白銀の髪の少女 関原さん」
 麗華の父親は指を鳴らすと、天井から1人の人影が降りてきた。
「奴らをやってくれ」
「承知したで」
 その人影は、なんと柿村熱也の姿だった。
「熱也!お前なんで!?」
「まあ、まだ気付かへんのも無理は無いわ。わいはキルブラック潜入監視役の柿村だったちゅう事や!」
 啓助と恵はその言葉に耳を疑った、しかし、乃恵琉の表情だけは平然としていた。
「決定的証拠が無いから断定は出来ませんでしたが、やはり・・・・」
「乃恵琉の頭だけは少々切れるようやったな」
 そこに更にもう1人、影から出てきた。
「よお、ずいぶんと久しいじゃねェかフリーズのガキ!」
 またも驚くことに、キルブラック最初の事件で拳を交えた赤羽の姿があった。
「あの時は一撃悪い場所に入って脳を刺激され起き上がれなかったが、今度は違うぜ?」
「まだ居やがったのか・・・・」
「おい、柿村、ガキ以外片付けろ。ガキは俺が片付ける」
 赤羽の言葉で熱也は瞬時に動き出した。その速さは何度か姿が見えなくなる程で、素早く乃恵琉達の後ろへ回ると、後頭部を手刀で殴り2人を気絶させた。
「今回も2人さんは早々と眠ってくれるなんてな」
「テメェら・・・・」
 それもそのはず、乃恵琉と恵はSP達との戦闘で既に疲労が溜まっていた。
「柿村は横で見物してろ。・・・フッ、ガキ、今度こそあん時の仮を返せるな」

69ライナー:2011/08/11(木) 11:07:18 HOST:as01-ppp20.osaka.sannet.ne.jp
 赤羽は不意を付いて啓助に向かって急接近してくる。それに対して啓助は、相手のスピードを利用し懐に潜り込むと、氷を纏った突きを繰り出した。
「甘いぜ、ガキィッ!」
 赤羽は啓助の攻撃を、天馬のように飛び上がり躱した。そう、「跳んだ」のではなく「飛んだ」のだ。
「えっ!」
 啓助は頭上を見上げると、赤羽の背中からは2本の黒い翼が羽ばたいていた。
「驚いたろ?コイツは『フェザー』っつって・・・・ま、習うより慣れよだ」
 啓助は壁を利用し、赤羽の頭上より高く飛び上がると、足に氷を纏わせ赤羽に蹴り掛かった。
「同じように、くたばっとけ!」
 すると、赤羽は自分の翼を体に覆うように被せ、啓助の一撃を防いだ。
「掛かったな赤羽、翼で防げば浮力は無くなり真っ逆さまだ!」
 赤羽の全身は、啓助の自身と共にスピードを上げて落下していった。
「最初からイイ読みしてんじゃねーか。でもな、それくらい俺にだって想定済みなんだよ!」
 啓助はその言葉に驚いていると、下降速度は段々と失われ、空中でその動きを止めた。下を見ると、守備に使っていた翼とは別にもう2本の翼が真下で羽ばたいていた。
「なっ、何・・・・!」
「更に、こーんな事も出来ちゃうんだぜ」
 赤羽がそう言うと、啓助の攻撃を防いでいた翼からは無数の羽が飛び出し、矢のように啓助の体に突き刺さった。
「ぐっ・・・・!」
 啓助はそのまま、翼で叩き落とされ床に倒れた。
「諦めろ、お前の仲間は助からねーよ。こっちの頭数がひとつ余るくらいだ」
 身体から流血しながらも啓助はゆっくり立ち上がった。
「今はお前を倒すことしか考えてねェから、それに・・・・」
 すると、啓助の身体に突き刺さった羽は見る見ると凍結し始めた。
「こいつらだって、お前を倒せと言うはずさ!」
 凍結した羽は勢い良く啓助の身体から抜け、赤羽の身体の方へと飛び交った。赤羽は戦い慣れたように翼でまたも防ぐが、防ぎ終わり翼を開くと啓助の姿は見えなかった。
「・・・ガキめ、小賢しい真似を・・・!」
 赤羽が辺りを見回していると、背の方から素早く冷気が放たれ、4本の翼は完全に凍り付いていた。
「後ろかっ!」
 途端に振り向こうとするが、思いも寄らない氷の重さに振り向くことも出来なかった。
 そして、それに畳み掛けるように、赤羽の後頭部に目掛けて、足に氷を纏った踵落としを食らわせた。
「翼のせいで視界がかなり狭かったみたいだな、それよりも・・・」
 啓助は熱也の方に視線を変え、問いた。
「どういうことだ、熱也」

70明優:2011/08/11(木) 16:20:43 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
まだ全部読んでませんけど、コメントさせてください!!
前から読んでました!!
早く全部読みたいけど、一応受験生で読む時間が・・・って感じです。
ライナーさんの小説は1つの投稿が長いので、すごいなって思います。
私だったら何か書けないんで(苦笑
これからも応援するし、小説読みます♪

71:2011/08/11(木) 16:48:53 HOST:zaqdadc282e.zaq.ne.jp
さっそく読み始めましたが・・凄い上手いです!!!

私は・・土下手ですし・・・。

頑張ってください!!!

72ライナー:2011/08/11(木) 17:58:12 HOST:as01-ppp6.osaka.sannet.ne.jp
コメント有難うございます!

明優さん
お褒め頂有難うございます、自分としては1000いかないか不安で、なるべく1つにとどめています^^;
これからも読んでくれますか!では、ご期待に沿えて頑張りたいと思います。明優さんのように恋愛系も書こうと思っているので、宜しくお願いします!

燐さん
上手いですか?そう言って貰えると嬉しいです!
燐さんもすごく上手いと思いますよ!

二方様、これからもどうかごひいきに〜。m(_ _)m

73kalro:2011/08/11(木) 18:05:57 HOST:nttkyo204250.tkyo.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp
ライナー君
こんにちは!!kalroだよ^^
ここで本題。雑談スレはどうやって書けばいいんですか?
教えてください!何故か書き込めない・・・;;
よろしくお願いします!

74ライナー:2011/08/11(木) 19:12:10 HOST:as02-ppp20.osaka.sannet.ne.jp
読者の読欲をそそるように、メインキャラデータを!
 辻 啓助(15)
身長 175cm
体重 55kg
 群青掛かった黒髪が特徴。活気はあるがやる事成す事全てが中途半端、ここぞという時に強い。
異能力(アビリティ) 「フリーズ」

 黒沢 乃恵琉(15)
身長 174cm
体重 52kg
 エメラルドグリーンの瞳と眼鏡が特徴。勤勉でとても秀才、計算しつくして戦う。
武器 「ナチュラルランス」

 井上 洋(15)
身長 162cm
体重 80kg
 山吹色のバンダナが特徴。穏やかで食べることが大好き、戦闘はほとんどしない平和主義者。

 水野 麗華(15)
身長 167cm
体重 非公開
 桃色のカールが掛かった髪が特徴。とても口うるさいが結構仲間思い、汚れるのが嫌いなので進んで戦闘はしない。
異能力(アビリティ)「サイコキネシス」武器 未公開

 関原 恵(15)
身長 165cm
体重 非公開
 白銀の髪とそれを結ぶ赤いリボンが特徴。控えめで、大和撫子、戦闘時になると結構天然癖が出る。
異能力 未公開 武器「エナジーボント」

まあ、次も何人か書き込みますので、ご参考までに!

75竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 21:20:25 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

最初から一気に読みました。
いいですね^^僕はこういう能力系の話が好きなので!
疾走感があって、物語がさくさく進むので読みやすいです!続きも頑張ってくださいね!
僕的には麗華とメイドさんが好きなのですが…メイドさんの名前が判明しなくてちょっと残念です((

76ライナー:2011/08/12(金) 07:48:44 HOST:as01-ppp8.osaka.sannet.ne.jp
コメントありがとうございます!
竜野翔太さん
一気読み感謝します!そう言って貰えると何回も推敲した甲斐がありました!
キャラの好みの教えてもらってもうどうお礼言ったらいいのか^^;次僕も書きますね
メイドさんはこれから出番なさそうなので名前はあえて書きませんでした。済みません^^;何か関連性があればまた出したいと思います!

77ライナー:2011/08/13(土) 20:04:30 HOST:as02-ppp2.osaka.sannet.ne.jp
 熱也はひとつため息をつくと話し始めた。
「わいは元々キルブラックなんちゅうとこ、入る気はなかったんや。しかし、そうも言ってられん事態になってもうてな、その為なら何度やって悪いことでも出来る覚悟や」
「熱也、お前は一体どんな事態に陥ったんだ?俺らなら解決出来るかもしれない・・・いや、絶対にしてみせる!だから、戻って来い・・・・・」
 すると、先程まで倒れていた赤羽がゆっくりと立ち上がった。
「・・・・てて、ちっと気を失っていたようだが、止めを刺すのを忘れていたようだな」
「・・・!まだ戦えるのか!」
「しかし、侮れんなぁ。まあ、コイツを試してみるか」
 赤羽はポケットに手を突っ込むと、白くて丸い錠剤を手に取った。そして啓助の方を見てニヤリと笑うと、その錠剤を口に放り投げるようにして飲み込んだ。
 途端に赤羽は飛び上がり、4本の翼から矢のような羽を再び放った。啓助は反応良くそれを氷の盾で防ぐ、しかし、今度の攻撃は恐ろしく強力で氷の盾が一瞬で傷だらけになってしまった。
「さあさあ!どこまで持つかな?氷の盾はよォ!」
 啓助も負けじと氷の盾を自らの力で修復させるが、防御は防御、相手の攻撃は一向に止まるはずが無かった。
「(チャンスは1回・・・・)」
 啓助は氷の盾を抑えていた片方の手を離し、その手に冷気を込め始めた。しかし、片手で相手の攻撃を抑えるのにはかなりの負担があった。
「(耐えろ!耐えろ、俺!)」
「これで消えろォォ!」
 赤羽はその瞬間翼から放つ矢のような羽を、放つ量と勢いを格段に上げて来た。
「お前が消えろっ!」
 啓助は氷の盾を赤羽の方へと蹴り、羽を刺したまま盾は赤羽の方へと急速に滑って行く。赤羽はそれを素早く左に移動し躱すが、躱した先には啓助の放った一直線の冷気があり、避け切れないスピードで赤羽の方に向かった。
 赤羽はそこで避け切る事は不可能だと悟った。しかし避けきることが出来ないだけで、防げばいい、しかし羽なら凍り付く、そこで赤羽がした行動は・・・・・熱也を身代わりにしたのだ。
「なっ・・・!」
「何・・・で・・・・赤羽・・・さん」
「上司が危険に晒されたら、部下が体張って守るもんだろーが!覚えとけ!」
 熱也は顔以外全てが凍り付き、見るからに苦しそうだった。啓助はそんな熱也の姿を見て、「氷解」と一言言うと熱也の体からは氷が消え自由の身となっていた。
 拍子抜けした赤羽と熱也はふと啓助の方を見る。すると、啓助の目は先程よりも真剣な眼差しとなっていた。

78ライナー:2011/08/17(水) 08:30:32 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
15、空に舞う屈辱
「あぁ?随分真剣な表情をしているが、腹を括って死ぬ気になったか?」
 啓助は厳しい表情から一変し、赤羽に涼しげに笑いかけた。
「そんなんじゃ無いぜ。俺は熱也を助けるために解いたんだ」
「お前・・・・馬鹿か?こいつは元々こっち(キルブラック)の一員なんだよ」
「俺の師の言葉でこんな言葉がある。『迷いさ迷う者は大成する、しかし迷わない者はいつかまとめて幾つもの選択肢に迫られる』ってな、俺から見て熱也はただ迷っているだけ、どっちに付くか最後の選択肢を与えたまで」
「ガキ!粋がった事ほざいて・・・・」
 赤羽の言葉はそれきり続くことはなかった。そしてその頬からは打撃音が響いた。
 赤羽は90度傾いた首を元に戻すことが出来なかった。首を動かせないほどの痛みがあったわけではない、向いた方向に衝撃的な何かがあった訳でもない。
 そう、殴られたのだ、赤羽は強く頬を殴られていた。一番の問題だったのは殴った人物が啓助ではなかったのだ。殴ったのは・・・・・柿村熱也、熱也だったのだ。
「柿村・・・・テメェ・・・!」
「啓助・・・・・わいが今まで遣らかしてもうたこと、許して貰えるか分からんけど・・・・借りは返させて貰うで」
 啓助はただ笑って何歩か下がった。そして一つだけ悔いが残った、それは・・・
「(自らいい場面を寄越してしまった・・・・)」
「全く、お前はそう言う奴じゃないと思っていたが・・・まあいい。そう言う奴は速排除と言われているからな」
「上等や、最後のチャンス、物にする為には丁度ええわ」
 その瞬間、二人は天井を突き破り屋根の上へと飛び出した。
「この方が俺の本領を発揮できるぜ」
「わいはどんな状況でも怯まん!」
 ここから、勝負と啓助の屈辱が蘇ろうとしていた・・・・・

79kalro:2011/08/17(水) 12:23:27 HOST:nttkyo204250.tkyo.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp
アドバイスありがとう!!
これからいい作品にする為の参考になったよ!
バトルシーンはこれから増えていくので助かります!!
ライナー君のは・・・言う事無いね(笑)
強いて言うならセリフが少し多いかな?もう少し情景を書くともっと良くなると思うよ。
これからもお互い頑張りましょう!!

80ライナー:2011/08/17(水) 16:01:17 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 赤羽は翼を羽ばたかせ高く上空に舞い上がると、翼を畳み一気に熱也の方へダイブしていった。
 熱也はそれをギリギリまで引きつけると姿が消えるような速さで躱した。そして赤羽が飛び過ぎると熱也は赤羽の後ろへ瞬時に赤羽の後ろに回り、素早い蹴りを繰り出した。
 不意を突かれた赤羽はまともに蹴りを食らうと、屋根のアスファルトルーフィングに向かって叩き付けられた。しかし、土煙の中からは余裕の表情で笑顔を見せる赤羽の姿があった。
「柿村、盗んだアビリティは使い心地が良いようだなァ」
「盗んだアビリティだと!?」
 赤羽は屋根の穴から見える啓助を見下ろした。
「そういやフリーズのガキは知らないんだったな。お前の仲間だった・・・・確か煉と名乗っていたな、そいつは柿村にアビリティを取られ今そのアビリティは、柿村の元にある」
 啓助はその言葉に耳を疑った。そして先程まで信じることの出来た熱也の姿も、敵としか見ることが出来なくなった。
「(熱也が・・・・煉のファストを・・・・)」
 屋根の穴から垣間見える熱也は啓助にとって屈辱を見せる鏡と化していった。
 その啓助の呆然な姿を見て、熱也は目線を赤羽へ戻し強く歯ぎしりをした。
「・・・・柿村、そろそろ続きをやるか?」
 熱也は苦しそうな表情で舌打ちをし、疾風のように赤羽に駆けていった。
 赤羽はその素早いスピードを相手に熱也の方腹部に翼撃を見事に命中させた。
「いい加減その速さに目が慣れてくるんだよ!もう少し頭を使ってアビリティを扱ったらどうだ?」
 後方に飛ばされた熱也は急いで体勢を立て直そうとするが、その瞬間赤羽の背後からは銃声が響き渡った。そうかと思うと赤羽は肩から血を流しそのまま俯せに倒れてしまった。
 そして赤羽が倒れた瞬間、銃声の正体が見えた。啓助が天井の穴を角度を変えて見ると、そこには第6番隊隊長堂本が立っていた。
「隊長!来てくれたんスね!」
 しかし堂本はその言葉に気付いていないようだった。
「赤羽の奴・・・・あの薬は所有時間40分と伝えたはずだ。俺が撃たなければ貴様、死んでいたぞ」
「隊・・・長・・・?」
 堂本は屋根下の啓助に気付くと、背を向けて告げた。
「辻・・・・最後に隊長として告げよう。最後に信じられるのは自分だけだぞ」
 そう言うと堂本は熱也の方へと視線を変えた。
「・・・・お前にはガッカリだ」
 堂本は最後にそう言うと、倒れた堂本を担ぎ屋根の向こうへと去っていった。
 キョトンとしている啓助に熱也は駆け寄るように屋根から下り、啓助に言った。
「啓助・・・・その、堂本隊長も・・・・キルブラックの一員だったんだ」
 啓助はその言葉を聞き、後退りした。そして啓助は裏切りを一度に2度も体験してしまった。
「・・・・わいは、やっぱ今は戻れんようやな」
 熱也はそう言って、啓助の屈辱を乗せたまま跳び去った。啓助はただ空に舞う屈辱を見送るだけだった。

81ライナー:2011/08/18(木) 18:36:28 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 〜 作 者 通 信 〜
 最近は自分の小説よりここの方々の作品が気になる一方なライナーです。作者通信・・・・たまーに書いていきたいと思います^^;
 いろんな方々の作品が気になり出すのはネタ切れ寸前だからですね〜^^;良いアイディアは盗作にならない程度に参考にしていきたいものです。

 さて、今回は僕がこの物語を書こうと思った動機をお教えします。
 元々は漫画を書くのが好きだったのですが、絵は美術部だからか水彩や鉛筆を使ったデッサンや風景画しか描けませんでした^^;(漫画絵は描くとかなり時間が掛かるし、さほど上手くない・・・)だから、話しだけで評価して貰える小説を思いついたのです。
 最初はファンタジーにこだわっていました、でも魔法などどうやれば存在するのか、そんなことまで詳しく書かないと我慢できなくなってしまいました(←変なところで几帳面な人^^;)だからSFにしたのです(1≫にはファンタジーと書いてあるけど^^;)
 たまに恋愛、ギャグ、シリアス系など書いてみますがなかなか上手くいかなくて・・・・・だからこそ、そう言った設定を取り込みやすいのはバトルがあるもの、だからバトルが中心となってしまったんですよね。
 まあ、いろいろな思いがありながらも頑張って小説を薦めていきたいので、読んでくださっている皆様、これから読もうかなと言う皆様もよろしくお願いします。コメントも嬉しいですが、褒められてばっかだと図に乗るのでアドバイスもガツンとお願いしたいと思います^^;

82ライナー:2011/08/18(木) 20:16:21 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 第3章
16、思い出のバンダナ
 麗華の騒動が終わり、啓助達のチームルームから何やら話し声が聞こえる。
「フー、にしてもいつどこで敵が潜んでいるか分かりませんね」
 乃恵琉は火傷している部分に軽く包帯を巻き付けていた。
 現場にいなかった洋はいつものように真剣にパンを頬張っている。
「お前ホントに暢気な奴だな・・・・ってか麗華何であの時助けてくれなかったんだよー・・・・」
 啓助は何か思い詰めたようにふて腐れていた。
「だから変な札のせいでアビリティが使えなかったって言ってるじゃない・・・・」
 麗華も同様に頬杖を付き、片方の手で長方形の紙をヒラヒラさせ、ふて腐れていた。
「その札にはアビリティを抑える効果があるようですね、実に調べ甲斐があります」
「にしてもさ、堂本隊長がキルブラックにいたなんて・・・」
 ユニオンの掲示板にはそのことが記載され、ユニオン中騒ぎが起こっていたのだ。発祥は言うまでもなく啓助の報告で。
 流石の洋もそのことを自ら口にすると、それきりパンを頬張るその手を止めた。
 暗い雰囲気の中、チームルームのドアが突然開き何者かが入ってきた。
「お、おはよう」
 扉を開けたのは恵だった。
 何故啓助達のチームルームに恵が入って来たのか、それはチームルームのドアに記されていたのは第6番隊D班ではなく、第3番隊B班という文字が書いてあったからだ。
 啓助達は帰還した途端に隊の移動を言い渡されていた。それは専攻隊が次々と倒され数が足りないから、そして全隊の班はDまでとなっていたのだ。
「あー!もうなんか空気重くなってるし!乃恵琉、何か面白い話しでもしてよ!」
 麗華は場の空気に耐えられず声を上げた、しかし乃恵琉は黙って首を横に振り、窓の向こうを見つめていた。
「あのー、ボクが話ししようか〜?」
 そう言いだしたのは、洋だった。

83ライナー:2011/08/18(木) 21:59:22 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 恵を除く全員は信じられなかった。洋は普段から食に対してしか興味を持たず、幼い頃は食べ物に釣られて誘拐までされるほどだったそうだ。
「私は是非聞いてみたいな」
 恵はそう言って行儀良く空いている椅子に腰掛けた。
 やはり、恵を除く全員は一斉に顔を見合わせた。そのとき啓助は思った、洋は食にしか執着心が無かったもののこの場を盛り上げようと頑張っているのだと、そして他の2人も同じ事を考えているのだと思った。
 それは、クスッと笑って洋の方に目線を戻したからだ。
「じゃあ話すよ〜、あれはボクがユニオンに入る前のことだったんだ・・・・」

 洋はその頃、少し貧しくてあまり豪華なものは口にすることが出来なかった。
「母ちゃん、おなか減ったよ〜。夕ご飯まだぁ〜?」
 小学生の洋は薄汚れたランニングシャツにベージュの短パンを穿いていた。その頃から洋は丸々と太っていた。
「まだ3時だよ?いい加減おし、全く丸々太っちゃって・・・・」
 洋は仕方なく外に出て、走り出していった。着いた先はその時でさえ滅多になかった駄菓子屋だった。
 その駄菓子屋には見た目は古いが、コンビニに普通に立ち並ぶような菓子が置いてあった。
「よっ!デーブ!今日の朝見たときよりも真ん丸になってるなぁ〜!」
 洋に悪口を言ったのは同じ学校のいじめっ子達、しかし悪口を言いながら去っていくいじめっ子達を見て洋は首を傾げていた。やはり鈍感なのもこの頃からだった。
「ボク今日のお昼はご飯3杯しか食べなかったけどな〜」
 洋はそう言って、並ぶ菓子袋を眺めていた。
 菓子が並ぶ向こうにはレジがあり、そこにはいつも居眠りをしている駄菓子屋のお婆さんがいた。学校ではそのお婆さんを「居眠り婆」と言い、眠っている間によく子どもたちに万引きをされていた。あのいじめっ子達もその犯人の一部だ。
 洋は暫くその場で固まっていたが、黙って駄菓子屋を出て行った。
「あれ?井上君?どうしたのこんなところで」
 洋に話しかけてきたのは同じクラスの細海 由香(ほそみ ゆか)洋がいつもいじめられる度に庇ってくれる水色のバンダナを被った正義感の強い女の子。
「うーん、お腹空いちゃって・・・」
「それで駄菓子屋にいたの?でも井上君お小遣い貰ってないんでしょ?万引きなんかしちゃ駄目よ」
「うん、だから見るだけにした〜」
 すると由香は口を軽く押さえて笑い、洋に言った。
「しょうがないなー、私の家に来なよ。パンご馳走するから」
 由香は洋の返事を聞く間もなく、腕を掴み走っていった。
 2人が足を止めると、焼きたてのパンの良い匂いがした。由香の家は少し洒落たベーカリーカフェで時たま由香は洋に家のパンをご馳走してくれたのだ。
「今日のおやつはバターロールだけどそれで良いよね?」
 洋が深く頷くと、由香はドアを押し開け中に入っていった。

84ライナー:2011/08/18(木) 23:08:08 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 由香の家にはいるとパンの良い香りが部屋中に広がっていた、その匂いを体中で感じることが出来るのは洋にとって、天にも昇る思いだった。
「ママ、井上君また連れて来ちゃった!」
 レジの近くには由香の母が腰掛けていて、中々に美人だった。
「こんにちはー、井上君が来てくれるとお客が絶えないのよね。食べっぷりが良いからかしらね」
 パン工房の奥からはコック帽を被って、由香の父が出てきた。
「今日も君の食べっぷり、見せて貰うよ!」
 由香の父は焼きたてのバターロールの入ったバスケットをテーブルに置き、にっこり笑い「さあ!召し上がれ!」と言った。
 由香と洋は洒落た椅子に腰掛け、バターロールを手に取った。
「いただきマース!」
 2人は声を揃えてそう言うと、パンを口いっぱい頬張った。
 由香の一口は小動物のような一口だったが、洋の一口は大きく見ているだけでこちらが満腹になってしまうような勢いで食べ続けた。
 食べ終わると、由香の母親は親切にコップに水を注ぎ2人の前に置いてくれた。
「今日も井上君のお陰で夕方だっていうのにお客が押しかけてきたわね」
 すると今度は由香の父がもう一つのバスケットをテーブルに置いて洋に差し出した。
「今日儲けさせてくれたお礼だよ!また来て儲けさせてくれよ!」
「もうっ!パパったら!」
 その瞬間、その空間には沢山の幸せが詰まっていた。笑う事の出来る空間、笑顔を作れる空間、それが洋には嬉しくて仕方がなかった。
「じゃ、気をつけてね。バイバイ!」
 ドアノブを片手に手を振る由香を見て、洋も2,3回振替すと背を向けて家まで走り出した。
 家に帰ると、洋の母は台所で夕ご飯を作っているようだった。

85明優:2011/08/19(金) 16:31:20 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
久々にコメントさせてください^^
私の小説を最後まで見届けてくれてありがとうございます☆
あんな下手くそな小説なのに・・・。新しい小説も書きましたのでお暇な時
読んでくれたら嬉しいです☆
ライナーさんは表現力とか上手ですね!!
良いところがたくさん出ている小説だと思います☆
大変かと思いますが、もっと見たいです☆(←読者の声
ずっとこの小説を見届けたいと思うので、頑張ってください☆

86ライナー:2011/08/19(金) 17:09:58 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
明優さん≫
 コメントありがとうございます!
 僕は恋愛を物語に取り込んでみたいなと思って最初見ていたのですが、とても恋愛系の理解に苦しむ人間に分かりやすく書かれて、参考にっていうかいつの間にか物語に引き込まれていたのです^^だからそれが明優さんの実力ですよ!
 読んでますよ!僕も受験生なのでなかなかコメントする機会がなく疲れています(焦)
 お褒め頂きありがとうございます!表現力は結構自分でも力入れたつもりです^^褒められると調子乗ることがあるんで、アドバイスもビシッとして下さっていいですよ^^;
 今書いているストーリーはサブなんで恋愛入れてます。なのでこの話が終わり次第、恋愛小説のプロにアドバイスお願いしたいと思います^^

87ライナー:2011/08/19(金) 17:26:35 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
訂正です
84≫の下から二行目の振替すは、振り返すです。

88ライナー:2011/08/20(土) 12:09:15 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 洋の至福の時も過ぎ、気持ちを切り替えるように静かに深呼吸をした。
 深呼吸を3回ほど繰り返すと、母親を背に抜き足で台所に接する部屋を通過して行く。そして、真っ直ぐに自分の部屋に飛び込むと貰ったパンを隅に隠した。
 その後、何食わぬ顔で母親の居る台所に足を運び、一言「ただいま」と声を掛けた。
「お帰り」
 洋の母は洋に一言言ってそのまま何も喋らなかった。洋にはその時間がとても苦しかった、次第に心臓の鼓動が早くなり冷や汗が出てきた。
「・・・・洋」
 母親に言われ、ドキッとして洋は母を見る目に力を入れた。すると、洋の母は炊事中の手を止めその手を拭くと、洋の方をゆっくり向いた。
「いくら隠したって、その匂いとアンタの行動で伝わってくるよ。また、細海さんの家に行ってたんだね?」
 洋はガッカリした顔で頷き、そのまま顔を下に向けた。
「もうご馳走になっちゃいけないって言ったわよね?」
「で、でも、貧乏だからってみんなと同じような事しちゃ駄目なのかな〜・・・・」
 静かに洋の母は台所から隣の居間に移ると、洋にここに座るように言った。
 そして洋が座ってから、洋の母はその向かい側に正座すると洋に言った。
「洋が今していることは、みんなと同じ事じゃないのよ。あんなに毎日毎日行っているのは洋ぐらいなもの・・・・」
 洋はその言葉を聞き、今まで自分がしてきた事が間違っていたと言うことにショックを受けた。
 今までの洋の生活は暮らしが貧しく、世間に冷たく見られることの無いよう普通に過ごすというのが決まりだった。しかし、洋の食い意地の前にはその決まりも脆く、この前も散々と注意されたのだ。
 その原因は由香の家に外出することだった。食い意地を張った洋はいくら食べさせても数分後にはまた腹が減り、世間には身なりのことも含め、ろくなものを食べていないと思われるのも無理はなかった。
「だからこれからは、なるべく給食でもおかわりの回数を減らすこと。いいわね?」
 洋は弱々しい声で「はい」と言うとその話しは、そこで切れた。
 その日の夜、洋はふとトイレに行こうと目が覚めた。そして部屋から出ると、居間の方から明かりが漏れ話し声が聞こえる。洋は無意識にその声に耳を傾けた。
「洋のことなんですけど・・・・・」
 洋の母の声がする、誰かと話している様子だった。
「ああ、分かっている。俺の給料で、ああも馬鹿みたいに食われちゃたまらんからな」
 もう一人の声は洋の父親だった。漏れる光に目を近づけると、ヨレヨレのスーツを着てコップに入った水をグイグイ飲んでいる。
「もう少し給料が上がれば晩酌くらい出来るのになぁ・・・・」
「それよりも、今日洋の先生から電話が掛かってきて、お子さんにはいつも何を食べさせているのですか?なんて聞かれちゃって。もうどうしたらいいのか・・・・」
 洋はそれ以上話を聞く気になれず、耳を遠ざけトイレに行くのも忘れ寝床に戻った。

89ライナー:2011/08/20(土) 15:45:41 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 次の朝、洋は目が覚めた瞬間大きな失敗を犯してしまった事に気付いた。布団がグッショリと水気を帯びていたのだ。
 久々の失敗に青ざめていると、それと一緒に昨夜の悲劇を思い出した。
 自分が居ると多くの人に迷惑が掛かる……せめてまともにならなければ、と。
 洋は濡れた敷き布団を窓に干し、何やら意気込んだ様子で自分の部屋を後にした。
「おはよう」
 洋は朝の挨拶をキチッとすると、顔を洗い朝ご飯に手を付けた。
「(まともに、まともに……)」
 朝ご飯はご飯に味噌汁、おかずには漬け物といった和食だった。洋にはいつもの半分以下の量で、おかわりを毎日のようにしていた。しかし、今日に限って用意されたものだけに食いつき、おかわりはしなかった。
 その後、歯を磨き準備を完璧に済ませると、勢いよく家を出て行った。
「あれ?今日は随分と飯が残ってるんだな」
 まだ家にいる洋の父はネクタイを締めながら朝の飯にありつこうとしていた。
「そう言えば、洋また食べた後二度寝してるみたいだから起こしてきてくれます?」
 台所では洋の母が洗い物をしながら頼み掛けていた。
 洋の父はヤレヤレと、いつもの家事に取り付こうとするように洋の部屋に行った。
 しかし、洋の部屋に残っていたのは窓から差す眩しい光と、その窓に掛けてある乾いた布団だけだった。
「おーい、母さん。洋どこにも居ないぞ?」
「え!?もしかしてもう出かけたの?しかも、おかわりしてないみたいだわ……」
 その頃、洋は強い日差しの中を建物の陰に隠れながら学校へ向かっていた。
「おーい、デブ!今日は朝も早い分、真ん丸度もアップしてるな!」
 いつもはいじめっ子達に合う時間にも家を出でなかった洋は、悪口より優越感が先走っていた。
 学校でも洋は自分に「まとも」という言葉を言い聞かせ、おかわりは何とか一杯に抑えた。
 難なく学校も終わり洋は腹を抱えながら家へ真っ直ぐ進んでいた。
「井上君!」
 洋が緊急事態の中、由香が手を振って洋の方へと走ってきた。
「今日、おかわり一杯だけだったでしょ!今日も家に寄って来なよ!」
 しかし洋はその言葉に首を横に振り、驚いて立ち止まっている由香を余所に歩き去っていった。
 家に着くとただいまも言わずに自分の部屋に飛び込んでいった。そして空腹を紛らわすために、宿題をしていた。
 空腹のあまりおかしくなっている洋は、晩ご飯前にグチャグチャの字で書いていた宿題を終わらせ、やはり晩ご飯はおかわりせずに平らげた。風呂から上がった後は急いで朝乾かした布団の中へ潜っていた。

90kokoro:2011/08/20(土) 22:02:11 HOST:d172.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
世の中には簡単で儲かる仕事があるもんだ(*・ω・)。 ttp://tinyurl.k2i.me/Xxso

91ライナー:2011/08/20(土) 23:55:45 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
 次の朝、洋は布団から起き上がった。正確には空腹により眠れず朝が来たので仕方なく起きた、と言う方が正しいのであろう。何せ洋は1晩中腹を鳴らしていたのだから。
 昨日ほどの元気はないものの、驚く両親に挨拶をして顔を洗い、おかわりは無しのルールで朝を済ませ家を出た。
 眠いのか、それとも腹が減っているのか、もう何も分からない状態で家を出て行く洋に洋の父は急いで追いつき、歩く洋の腕を掴み引き留めた。
 洋の父は片手にゴミ袋を持ち、いかにも朝のサラリーマンを醸し出した様子で話しかけた。
「洋、お前最近元気ないな。どうかしたのか?」
 問い質す父親に洋は、細い目をさらに半開きにして振り向いた。
「僕は普通じゃないから〜……」
 洋の分かりづらい答えを聞くと、洋の父はため息を吐いた。そのため息はガッカリした様子ではなく、微かな笑みが見えたため息だった。
「母さんがさ、朝はしっかり食べないと力も出ないから朝だけならおかわりいいってよ」
 その言葉を聞いた途端、洋の重たい目は細いながらもパッチリ開き光を帯びて輝いた。
「ほら、もう一回食って来い!歯磨きももう一回、忘れんなよ」
 洋の父は洋の背中を家の方向に向かって力強く叩くと、ゴミ捨て場にゴミを置き会社へと歩いていった。
 洋は嬉しさのあまりその場を動くことが出来なかった。しかし、一回腹が鳴ると家の方向に向かってその足を踏み出した。
 そしてその日の学校だった。朝ご飯をいつも通りしっかり食べてきた洋は昨日より威勢が良くなっていた。
 洋はやっといつもの自分に戻れたと思い、由香に昨日のことを謝りに行こうと思った。昨日の自分はどうかしていた、と。
 しかし、由香の机の方へと近づくと周りには何人もの女子がいた。いつもなら由香の机の近くには誰も寄りつかず、別グループを作って話している女子しかいなかった。そう、由香にもまともに女友達が出来ていたのだ。
 洋のことばかりをヒイキするあまりに煙たがって誰も寄りつこうとはしなかったが、元は才色兼備で完璧な友達思いの優しい女の子だったのだ。
 その事に気付いた洋は何だか気が引けて、また自分の席に座り込んだ。
「(これで良いんだ……今まで由香ちゃんはボクに巻き込まれていたからみんなに相手にされなかったんだ……良いんだこれで……良いんだ……)」
 洋はその日の給食を我慢するどころか喉にも通せなかった。気付いたら、色々な大切なものを失っていたから。
 もちろん食べることだって好きだったし、明るい家庭を作り出すことも出来、良かった。しかし、それ以上に大切な友達……いや、それ以上に思っていた人を失っていた。
 この時、初めて洋が恋愛感情を知った。切なさを知った。失う事の辛さを身をもって知った。
 その日は夕ご飯になっても、洋は空腹を感じることは無かった。

92ライナー:2011/08/21(日) 12:54:33 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
 洋はそのまま、何日経ってもおかわりをすることはなかった。周りで何が起きようとどんなに叱られようと、洋の耳には一言も一文字も入らずただボーっとしていた。
 そしてある日のことだった、洋は朝の食事を珍しく抜いた。それはもう辛い状況なのだが、それ以上に苦しみを訴える物には敵わなかった。
 ぼーっとしているまま時は、既に下校時刻。担任の先生の招集があり洋のクラスの面々は教室に集まっていた。
「今日は皆さんに悲しいお話があります」
 先生の話も早々に洋は机に伏せて寝ている。
「実は、細海さんの事なのですが、今日限りでこの学校とはお別れします」
 洋はその言葉を微かに耳で感じ取った。無意識に耳に入ってきてしまった。
「み、皆さん。今まで仲良くしてくれて有り難う御座いました!」
 由香の別れの挨拶で教室は拍手と様々な歓声が上がる。お別れの一言や、有り難うの一言などが……
 洋はここで敢えて拍手も何もしなかった、自分が出しゃばれば白けると分かっているから。心の中で今までにない苦しみを抑え、涙を堪えた。
 洋は自分が久々に感情的になったのに気付いた。自分は今まで鈍感でそんなことほとんどやったことがないから。
 その日、洋は由香に話しかけられる事はなかった。今までもずっと断り続けてきたし、関わろうとしていなかったから話したくないのも分かる。
 洋は家に着いてから、自分の部屋にこもった。
「(もう、会えないのか……)」
 その時に洋は思い出した、由香が引っ越すまでの色々な出来事を。楽しく笑ったり、遊んだり、楽しいことはあったがケンカは一度もしたことはなかった。洋は鈍感だったからだ。
 しかし、今では鈍感を振り払い、由香への気持ちを正直に伝えられるようになったのではないのか。
「………」
 洋は気が付くと体が勝手に動いていた。一直線に家を飛び出し、外へ出た。そして一番近い駅の方向目掛けて、今までにない力を振り絞り駆けていった。
 洋の居るこの街は京都ではないが、中々に碁盤の目のような形の道をしていて、道を一本間違うとドンドンずれていく厄介な代物だ。
 しかし洋は急ぐ且つ慎重に事を進め、いつもマイペースな状況では到底出来ない疾走ぶりを見せた。
「(よーし、このままなら余裕に間に合うぞ〜!)」
 駅に近づくに連れ、洋の足取りも軽くなり今までの悲しさが吹き飛んでいった。
 しかし、後一歩のところで洋は足が止まった。洋が真っ直ぐ見据える先には、3人のいじめっ子達が横一列に並び邪魔をしていたのだ。
「どこ行くんだよー!デーブ!」
「退いてくれないか!駅に行くんだ!」
 洋の凄まじい変わりように、いじめっ子達は驚いた。
「お、お前、何か最近変だな……暗くなったり、勢いづいたり……」
 すると、別のいじめっ子が言った。
「だーから、由香に嫌われるんじゃネ?」
 一人が言うと、他の二人も「だよな〜」と合わせ、洋の方を向いた。
「由香は今駅にいると思うけど、お前みたいな嫌われもんにはきっと会いたくねえんだよ!」
 その瞬間いじめっ子達は木の棒を振り上げ、洋に襲いかかった。

93ライナー:2011/08/21(日) 14:37:54 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
16〜Ⅱ、思い出のバンダナ 
 洋は向かってくる棒に対し、躱すことが出来なかった。
 普段はそこまで動くこともあるわけではないし、体型のことも考えると太った体は命中しやすいのも目に見えていた。
 しかし洋はやられるだけでは留まらなかった。
「(由香に会うには痣だらけなんてみっともない……)」
 そう思うと、洋の体には見えない力が溢れていた。叩かれたまま、体をいじめっ子達に突っ込むと、いじめっ子達はまるでボーリングのピンのように吹き飛びアスファルトの地面へと倒れた。
 どうやら、洋のまん丸い体型も無駄ではなかったようだ。
 洋はそのまま駅に向かって走って行く、まるで友を助けに王城へ走るメロスのように。
 走れば走るほど辛く、時には血痰まで出てきたが、洋は諦めなかった。
 駅に着くと急いで家から持ち出した金を使い切符を買った。そして改札を抜けホームへと走っていった。
 しかし、そこには由香の姿はなかった。洋は急に今まで込めていた力がどこかへ消え、膝をついて座り込んでしまった。
 暫く黙っていると、洋はゆっくりと立上がった。そしてその瞬間垣間見えた、希望の光が、洋にとってここぞと思える希望が。
 なんと、不覚にも向こう側のホームに居たのだ。洋はそれ気付くと、急いで階段を上り、反対側のホームまでたどり着くと由香の方へ駆け寄った。
「おーい!」
 由香はその声に気付き、洋の方を向くと嬉しさと驚きが詰まったような顔をしていた。
「井上君!!」
 洋は立ち止まったときは息が荒く、とても喋れなかった。
「だ、大丈夫?」
 由香がペットボトルに入ったお茶を差し出すと、洋はそれを全て一気に飲み干した。
「……由香ちゃん、この前はごめん」
 由香は洋のその言葉を聞くと笑顔を見せ言った。
「いいよ、別に。今までケンカなんてしたこと無かったよね。最もケンカらしいケンカだったのか分かんないけど……」
 二人は急にキョトンとした表情になり、その顔を見合わせると自然に笑いが込み上げた。
「でも、よかったぁ〜!!いつもの井上君に戻ってて」
「え?」
「だってさ、食欲のない井上君なんて井上君じゃないもん」
 すると、ホームの向こうから電車のやってくる音が響いた。
「あ、あのさ〜。ボクも途中まで着いてって良いかなぁ?」
 電車が目の前に停車し、ドアが開くと由香は深く頷いた。
 電車の中では人が少なく、一番後ろの車両は洋と由香二人きりだった。
「パパとママが二人はこっちでおしゃべりしてればー、だって」
「まあ、由香ちゃんと会えるのも最後だからね〜」
「そんなこと無いよ!たまにはこっちに遊びに行くし、井上君だって私の所に遊びに来てくれるよね!?」
「うん」
 洋は今までこのような至福を感じたことがなかった。由香の家で至福を感じたのは今思えば、パンの香りではなく由香の優しさだったと洋は思った。
 そして洋の出なければならない時間が来てしまった。洋は次の駅で足を降ろし由香に言った。
「今までありがとう……まあ、いつか会いに行くよ〜」
「うん、じゃあこれ、私から」
 由香は洋に山吹色のバンダナを差し出した。

94ライナー:2011/08/21(日) 16:00:10 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
「これ、私が被ってるのとツインだったんだけど、井上君にあげるよ」
「……ありがとう」
「井上君、じゃあね」
 由香がそう言うと、電車のドアは閉まった。そして走る音を響かせながら電車は去っていった。
 洋は山吹色のバンダナを受け取ったとき、由香の気持ちが分かった気がした。
 言葉には出来ない思いの伝達が――

「……ってこんな感じかな〜」
「君にしては中々に面白い話しでしたよ。君にとってそのバンダナ、飾りじゃなかったんですね」
 乃恵琉以外も少ししんみりした様子だったが評価が良かった。
「んじゃ、お前ら!張り切って任務行くぜ!」
「何アンタが仕切ってんのよ」
 洋のお陰でチーム全員が何やら吹っ切れた、そんな1日だった。

95ライナー:2011/08/22(月) 23:54:09 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
17、乃恵琉の事情
 ある日のチームルームだった。名ばかりの物だが第3番隊B班として自覚を持った時だった。
「何て言うか……暇だな〜」
 丁度この日は2週に1度の定期的な休暇の日だった。
 啓助は早々とチームメイトや、別隊のチームから任務を取られほとんど仕事をしていなかった。
「アンタこれ以上サボると単位落ちて訓練生に落とされるわよ〜」
 麗華は余裕の表情で啓助をからかった。ちなみに単位とはユニオンに付属されたシステムで、単位が一定に上がると専攻隊や良くなれば隊長までも任されることがある。しかし、それとは逆に単位を落とすとほとんど一日を訓練で終える訓練生に落とされるのだ。そしてその下に待ち受けるのは最終的に脱退、一つ間違えれば過酷な運命を受け持つシステムだ。
 隊員が少なくなったせいで単位のレベルが下がり、ややさぼり気味の啓助は一言「ヨッシャ!」と気合いを入れるように立上がるとチームルームを出て行った。
「ちょっと、アンタどこ行くの?脱退すんの?」
「気が早すぎるだろ!っていうか同じチームなのにそれは無いだろそれは!」
 啓助はチームルームのドアから顔を覗かせている麗華を振り向き、咄嗟に突っ込んだ。
「じゃあ、どこ行くの?脱退届出しに行くの?アンタにしては潔いわね」
「だから違うって言ってんだろがっ!お前はどんだけ俺を脱退させてェんだよ!俺は心身共に鍛え直すため師匠の元にだな……」
 突っ込んだ後、啓助が誤解されないように真剣な表情で説明していると、麗華がチームルームのドア越しにポテトチップスを囓りながら言った。
「じゃあ、破門されに行くの?ってか破門するの?」
「破門するって自ら自分で破門する奴見たことねーよ!ってか破門されるために行くのもどんだけ無駄足なんだよ!」
 啓助が息継ぎしないで突っ込み終わり息を荒くしていると、麗華がチームルームからヒョコッと出て来た。
「んじゃ、私も着いていこうじゃない。破門の瞬間をこの目で見るため」
「だから破門じゃねェェェェェーー!!」
 啓助の叫びがユニオンの廊下中に響き渡った。

 結局啓助は麗華を連れ、師の所へ行くことになった。
「何で着いて来るんだよ……」
「いや、まともにザコの異能力者(アビリター)も倒せない奴がどんな師匠に教わってんだろうと思って」
「とても突っ込みたいが、言い返せないのは何故だ……あ、俺がまともにザコ異能力者(アビリター)倒せてないからか……」
 啓助は麗華の騒動後の任務で二度も違反を犯した異能力者(アビリター)を逃がしていた。その時麗華も同行していて、きっとその事を根に持っていたのだろう。
「にしても何で、狼火の里(ろうびのさと)に?こんな荒れたところにいるの?」
 狼火の里とは、啓助が以前遠征に出かけた街の名で、啓助が洋(ひろし)に悉く出番を奪われ炎狼を倒した時に付いた名だった。あれ以来、炎狼がこの街付近に生息するようになったととも言われている。
 しかしながら啓助は思った。しっかり家も建ち、電気がやや使えなく、地面のアスファルトが剥がれているだけで麗華にとって「こんなに荒れている」なのだから。
「居るよ、しっかりとな。お前みたいなお嬢様育ちじゃ分からないか」
 麗華は少しムッとして、言い返した。
「破門育ちには分からないわよ」
「なんだよ破門育ちって……」
 すると突然、前方から強い風が吹いた。啓助は驚いて2、3歩後退ると、麗華の騒動が終わりカールが掛かった桃色の髪が縦に螺旋を描き啓助の顔面に当たった。
「痛てて、お前の髪目に入っちまったよ」
「うっわ、最悪。後で洗い直さないと」
 麗華はそう言って、嫌そうに髪をハンカチで拭いた。
「俺はどこかのいじめっ子か」
「それよりも、今のただの風じゃないようね。衝撃波かしら」
 麗華は啓助の通う道場を一直線に見つめると、その中からは戦闘をしながら出てくる乃恵琉と英治の姿があった。

96:2011/08/23(火) 12:06:00 HOST:zaq7a66c196.zaq.ne.jp
コメしますw

凄すぎです!!!

また少ししか読んでませんけど・・←殴

でも、少しずつ読んでいきます!!!

これからも頑張ってください!!

97ライナー:2011/08/23(火) 22:00:35 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
燐さんコメントありがとうございます!
出来たら凄い部分を教えて頂けると今後の参考になるのですが……^^;(欲しがるな)
そうですね、全然少しずつで良いと思いますよ。僕の小説なんかより良い小説いっぱいありますから(笑)

98ライナー:2011/08/23(火) 22:59:52 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
「あれ?師匠何やってんだ?乃恵琉も門下生だったか……」
「あれって辻の師匠だったんだ。まあ、乃恵琉に余裕で遣り合っているから『弱い』は無いわね」
 2人は乃恵琉と英治の戦闘を見ながら会話を交わした。
 戦闘を続けている2人は通行人に関わらず危ない戦い方をしていた。道の端には窪みが出来、道場の隣の建物は外壁にヒビが入り大変だった。
 その戦いをまじまじと見つめ、15分ほど経ったときに啓助達は思った。この戦闘は試合じゃないと。
 気が付くと乃恵琉達が戦っている辺りは段々と荒れ地と化し、通行人や壊された建物に住んでいる人々は迷惑そうにその戦闘を見つめていた。
「辻、あれ何とかしなさいよ」
「あ、俺ちょっと用事思い出した」
 啓助は何とも態とらしく白を切っている。
「その用事があの人なんでしょ」
 麗華は何とも冷静に言い返すと、啓助は渋々乃恵琉達の方へ近寄った。
 啓助が近寄っても2人は気付かず、絶えず戦闘を行っている。その戦闘をしている中でも、やはり英治の方は笑顔が顕在していた。
 頃合いを見計らって啓助は氷を作り出そうとするが、双方中々距離を取らず難しかった。
「ホラ、辻ー!さっさとしなさいよー!」
 麗華の催促が聞こえ、啓助は少し焦りつつも頃合いを見計らう。そして両者の技同士がぶつかり合い距離を置いたその瞬間、啓助はその間に道幅半分くらいの氷山を作り出した。
 すると、啓助が見越したとおり両者の動きが止まった。乃恵琉はハッとした表情をしていたが、英治は恐れ入るほどに笑顔しか映っていなかった。
「師匠に乃恵琉。もっと状況見て判断しようぜ……」
 乃恵琉と英治は啓助の存在にやっと気付き、2人して同時に啓助を見た。
「こ、これは失礼。僕としたことが……またも冷静な判断力を失っていた……」
 乃恵琉は啓助の方に歩み寄り、反省した様子だったが英治は全くその様子が見られなかった。
「乃恵琉君、僕も必死で止めたのに聞いてくれなかったのかい?」
 英治はこの期に及んで言い訳をしてる。
「父さん、いい加減にして下さい。母さんが心配しておられます、家に戻って下さい」
 その時、啓助と麗華は自分の耳を疑った。乃恵琉は今、英治のことを父さんと言っていた。しかし、勤勉で真面目な乃恵琉と笑顔が眩しい穏やかな英治はあまりにも違いすぎた。唯一似ていると言えば、眼鏡を掛けているところだ。
 唖然としている啓助と麗華に乃恵琉は気付き、感づいたように紹介した。
「あ、こちらは僕の父、黒沢英治です。それと、啓助君。さっき父の事を師匠と呼びましたよね?この人に教わらないほうが良いですよ……」
 そして気付いた。啓助は、乃恵琉と英治の苗字が同じ事を。
「啓助君、久しぶりですね。また私の所に修行に来てくれましたか、先に道場に入っていてください」
「だから、父さん止めて下さい!いい加減母さんの所へ……」
 乃恵琉が言いかけると、英治はそれに対して笑顔で言い返した。
「大丈夫ですよ、お母さんには手紙をしっかり出していますし」
「だからそうではなく、たまには家に帰ってこいと言っているんです!母さんは父さんに強く言うのが怖くて僕の方に手紙をくれるんですよ!」
 英治がうーんと唸りながら首を傾げて考えていると、啓助と麗華が目に入った。その途端、いかにもマイペースな提案が英治の口から放たれた。
「じゃあ、帰るか帰らないか、啓助君達で勝負を付けて貰いましょう。詳しく説明すると、僕と乃恵琉君が啓助君かあのお嬢さんを鍛え、2週間後に対決させる。トレーナーバトルです」
 英治の自分勝手な提案に乃恵琉は「良いでしょう」と本人達の同意もなく引き受けた。
「では僕は啓助君を貰っていきますよ」
 乃恵琉はそう言って、啓助の腕を引っ張ると思い詰めたような顔で、ズンズンと歩いていった。
「(って、乃恵琉。あの壊した部分どうすんのよ……)」
 麗華が心の中で呟くと、同様に腕を引っ張られ英治に道場へと連れられた。
「啓助君を取られてしまったので、お願いしますよ。お嬢さん」
「あ、私麗華って言うんだけど……ってどうなってんのよぉ〜!!」

99ライナー:2011/08/24(水) 00:51:38 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
 一方、啓助と乃恵琉の方では啓助が未だに乃恵琉に腕を捕まれたままだった。
「ちょ、ちょっと待てよ!展開早すぎて訳分かんないって!どういう事なのか説明しろよ!」
 啓助がそう言って乃恵琉の手を振り払うと、乃恵琉は啓助の方に振り向いた。
「しょうがないですね。じゃあ、落ち着いて聞いてください……」
 乃恵琉は歩きながら話し始め、啓助は2週間後に対決するのを覚悟してその後を追った。
 乃恵琉が言うに、英治は実の父親と同時に1人の優秀な武道家らしい。
 その頃の英治はある武道の四天王の1人に君臨する人材で、その名を世に轟かせていたらしい。
 その頃の英治は無口で勤勉な性格で人々からはその無言さでとても恐れられていた。
 しかし、珍しいことにフランスに四天王と互角に渡り合うという武道家が居たらしく、英治はその武道家に会うべくフランスに発った。だが、その先でエメラルドグリーンの瞳を持ったフランス人女性と恋に落ち、結婚した。それが後に乃恵琉の母となる人だった。
 それからというものの、英治の性格は一変し、無口から明るい性格になり「四天王は疲れました〜」とふざけたようにその座を降りたとか。
 そして、その性格ぶりは周りを振り回し今に至るという。
「よく、お前そんなこと聞き出せたな」
「父さんじゃありませんよ、四天王の方達にです。それに父さんに聞いても笑ってごまかすだけですしね」
 気が付くと、歩いた先は鉱山が一面に広がっていた。

100ライナー:2011/08/24(水) 15:53:51 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
 〜 作 者 通 信 〜
 丁度良い数100≫と言うことで作者通信です^^
 物語はもちろんいろんな人々からのコメントや、誤字脱字の訂正(苦笑)キャラクター紹介などでレス番号100に到達しました。読んでくださっている皆様ありがとうございます! m(_ _)m
 99≫は何だか詰めるためにやった感じがもろに出ていますが^^;
 飽きっぽく何やっても1ヶ月以上続かない自分がここまで出来たのは読者の皆様のおかげだと思います!
 今回は何故この物語を出したのか、について書いていこうと思います。
 題材はこの前区切りが付いたばかりの、麗華救出編についてです。
 この話は本来、洋が洋(ひろし)の方に変化し、どこかのお嬢様と結婚する条件として屋敷の支配人を啓助達と戦わせ勝つ、という設定にしようとしました^^;
 何故そこで麗華の話しに変更したのか、それは本編で空気キャラと化しそうになったからです。(救出編でもかなり影薄くなりましたが^^;)
 でも、戦闘の部分は人数が減っただけで、全然問題ないはず!しかしバトルものとなると戦闘のバリエーションが中々思いつきません(焦)
 これからも読者が読みたくなるような、バトル、感動、恋愛、ギャグ、などなど入れていきたいので応援宜しくお願いします!!

101竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/26(金) 16:32:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

100レス到達おめでとうございます!
読んでる途中に思って、あまり言及されていなかったから気になっていたんですが、やっぱ英治は乃恵琉の肉親でしたか^^
ホントは兄と思ってたけど…。

まあそれは置いといて。
これからも頑張ってくださいね!
このコメントを僅かな力の足しにしていただければ幸いです。

続きも楽しみにしてますので、お互い頑張りましょう!

102明優:2011/08/26(金) 17:30:14 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
100突破おめでとうございます!!
これからも読者でいたいので、よろしくお願いします^^
これからも頑張ってください☆

103ライナー:2011/08/26(金) 23:10:19 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
 二方様コメントありがとうございます!画面の向こうでモノホンの土下座もやらせて頂きます。m(_ _)m

 竜野翔太さん≫
 いつも読んで下さり、ありがとうございます!
 コメントの度に小説の内容まで語って頂けるので嬉しいです!!
 確かに、英治さんは年齢ハッキリと出してないんで兄にしようか親にしようか自分も迷っていた次第にごぜぇます(笑)
 はい、これからも頑張りますので仲間として、ライバルとして(敵うかどうかは分かりませんが)頑張りましょう!!
 ちなみに受けが良かったようなので、メイドさんのレギュラー化計画を今立てています^^

 明優さん≫
 またのコメントありがとうございます!!
 こちらこそ、これからも読者であって貰いたいので、宜しくお願いします^^
 明優さんの小説もちょくちょくコメしますのでお互い励まし合い、頑張りましょう!!

104ライナー:2011/08/27(土) 00:38:21 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
18、武器の道程
 啓助は言われずともこの場で修行することは目に見えていた。鉱山は鉱山でもやはり山、山と言えば修行の原点なようなものだし、何よりそれ以外に鉱山に来る理由が無かった。
 乃恵琉は、暫く歩きながらモノクロに染まった鉱山の地面を見つめていた。そしてふとある所で足を止めしゃがんだ。
 しゃがむと、足元に転がっている野球ボールくらいの鉱石を片手に取り、その石を真上に軽く投げ重さを量っていると、突然、啓助にその石を投げつけた。
 啓助は慌てて両手を出し、その石を掴み取ると、大きさに似合わない重さが啓助の両手を襲った。
「なっ!何だこの石……!」
 乃恵琉は人差し指で眼鏡を押し上げると、啓助に言った。
「ここの石は物質その物は石ですが、密度が鉄並みにあり、筋力向上に持って来いかと……」
「なるほど!んじゃ、早速修行を……」
 啓助がそう言いかけると、乃恵琉が手のひらを目の前に出し待ったを掛けた。
「君にこれからは武器を握って貰います」
 面倒くさそうに「武器ィ……?」と呟く啓助に乃恵琉は1つ大きな溜め息を吐いた。
「……君は今、自分が補助として装備しているエアライフルで充分、なんて思っているようでは駄目ですよ。普通時の攻撃が素手だと、ちゃんとした武術を習っていない限り腕1本無くなるのは確実です」
 啓助は先程のやる気のない顔を強張らせ、唾を呑んだ。
 考えてみれば、乃恵琉は槍型のナチュラルランスとその第2形体のエレクトリックナイフを持ち合わせているし、洋は武器を装備していないが異能力(アビリティ)『メター』で体の部位を打撃系の武器に変換することが出来る。この前一緒のチームになった恵に至ってはエナジーボントという銃2丁も持っている、しかもあのタイプは確か銃把を逆さに持ち、撃鉄、銃身、銃口を突きのように繰り出す『銃拳術』が出来るタイプだと本人が目を輝かせながら教えてくれた。
「あれ?でも、麗華は?」
「麗華はチームで唯一、アビリティと武器を同時に使う事が出来、異能力(アビリティ)『サイコキネシス』を用いた『物体念動』を使います」
 物体念動というのは、麗華が独学で編み出したらしい術で、武器に念力を纏わせその武器の力を向上させるという術だった。啓助はその言葉に少々疑問符が浮かんでいたが、乃恵琉の丁寧な説明でとりあえずは理解をした。
「それで、まあ問題の武器の方ですが、麗華はジャックナイフを六刀流で使います」
「6ッ……!俺は一体どんな武器を持てば良いんだろうか……」
 六刀流と聞いただけで物凄く弱気になっている啓助に、乃恵琉はポンと肩を叩いた。
「武器は自ら動くことはありません、ですからそれを操る人間の素質と、その人間に合う武器を選ぶことが大事です」
 すると向こうから、啓助の聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれ?若と、啓助さんじゃないスか」
 啓助達がやってきた方向と同じ方向から聞こえた声の人物は、啓助が道場で一戦を交えた福井健二の声だった。

105竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/27(土) 08:53:11 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

いつになったら言うのかな?みたいな感じで待ってましたw
迷ってたんですか?でも父という方が意外性あるかも?みたいな感じですよ^^

いやいや、ライバルんんて僕が敵うわけないじゃないですか…。
はい、お互いを励みにして頑張りましょうね!

おお、これは吉報!
今からもう楽しみです^^

106ライナー:2011/08/28(日) 13:50:27 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 竜野翔太さん≫
 正直、英治さんは出て来るときに乃恵琉も出そうと思っていました。ですが、何か訳分からん内にその設定から遠ざかってしまいまして^^;でも、父親設定を気に入って貰えたので良かったです^^
 ネタバレになるのであまり言えませんが、メイドさんが仲間になるのはだいぶ後になるかもです^^;その替わり、チョクチョクメインキャラの誰かを邪魔して現れますのでご期待下さい!

107ライナー:2011/08/28(日) 15:28:51 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 啓助は呼ばれて返事をしたが、一つの言葉が耳に引っ掛かった。そして目を瞑って、頭の中で記憶を巻き戻ししてみる。「あれ?若と、啓助さんじゃないスか」……
 若?若とは誰だろう?啓助は再び疑問符を浮かべたが、その答えは言うまでもなくここまで一緒に来た人物だった。
「福井さん、その呼び名は止めて下さいと申しておいたはずですが……?」
 乃恵琉が嫌物を見るような目で健二を睨んだ。
「ま、良いじゃないスか。ところでこんな何もないところで何してるンスか〜?」
 健二が問いかけると、乃恵琉はヤレヤレと言わんばかりの顔で先程まであった一部始終を漏れなく全て語った。
 啓助は、乃恵琉のアウトプット能力は優れているなと思ったが、近所の家々を壊したことを隠していたのが気に食わなかった。
「フーン、どおりで師匠は普段習っている門下生を差し置いて、一人の少女を個別指導をしていた訳だ」
 乃恵琉は嫌物を見るような表情は一切変えなかったが、健二に「父が申し訳ありません」と一言言った。
 この遣り取りを見て啓助は、麗華と洋を2人に照らし合わせた。何となくそう感じたのだ。キリキリした方と、それを宥めるように場を和ませる暢気者、人間とはこの2種類で構成されているのか、そうとさえも思っていた。
「ま、僕も暇ですし、次はちゃんとした試合をするためにも付き合うスっよ」
 健二はそう言うと、何歩か後ろに下がり、先程啓助が掴んだボールくらいの石を手に取り大きく振りかぶった。
「んじゃ、啓助さん投げますんでどちらか片手で取って下さいよ〜」
「え!?片手!無理無理無理無理、さっき両手でも大変だったんだぞ!!」
 啓助の言葉を耳に入れず、健二は剛速球を投げるピッチャーのように投球した。
 その速さは当然の如くプロ並みではなかったが、あの重い鉱石を100キロ近い速さで啓助に向かって飛ばしている。
 啓助は反応することが出来ずに、竦んだままその石を見据えていた。しかし、啓助の右手は反射的に石の目の前に出て、鞭を地面に叩き付けるような軽い音が啓助の手に響いた。
「……と、取れた」
「なるほどなるほど、啓助さんの場合は右手が反応しやすい手……つまり、武器の利き手ッスね」
「今のは偶然だっつの!大体両手使わないと無理だって!」
 啓助の意見に健二は、「あ、そう」と一言言うと続けて、これしかないと言わんばかりの声を上げた。
「左手で右手を補佐出来るように、洋剣を使ってみたらどうスか?」
 洋剣、またの名はサーベルだが、チーム内では誰も使っていないことから啓助は少し親近感を持った。
 しかし、親近感を持てた事と自分がそれに合う事で、乃恵琉の言う「その人間に合う武器」は決まった訳だが、肝心の「それを操る人間の素質」は未だ遠い存在だった。
「では、武器が決まったところでトレーニング開始と行きます」
 そして、洋剣を使うための修行が乃恵琉の掛け声で始まった。

108ライナー:2011/08/30(火) 00:07:10 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
「では、武器を持つときの握力を鍛えましょう。そうしないと、簡単に武器を手元から外されてしまいますから」
 乃恵琉は先程と同じ、野球ボールくらいの鉱石を二つ持ってくると、啓助の手にそれぞれ一つずつ持たせた。
 ただ重量が二つ分になると言うだけのことなのに、二倍とは到底思うことの出来ない重さが啓助の両手を襲った。
「そして、武器で攻撃する場合は腕力の力は必要不可欠ですが、それを充分に支えるための足腰の強化も必要ですね、両足にも取り付けましょう」
 啓助が反論する前に早々と乃恵琉は動き出す。足にフィットする様な鉱石を見つけ出し、縄できつく縛り付けた。
 啓助は立ち止まっている時点で限界に近く、ただ地蔵のように立ち尽くすしか術がなかった。
「これほどにも……辛いものなのか……」
「これくらいでへバるようじゃ、二週間後はキツいっすよ〜?」
「まあ、最初はキツイでしょう。ユニオンの訓練ほどだとは思いますが……」
 啓助は苦笑いをして、ロボットのモノマネをやるように歩き、訓練を開始した。

 それからというもの、啓助は訓練でも乃恵琉に腕力、足腰を鍛えるようにと言われ、鉱石を手足に縛り任務に出かけた。啓助自身チームメイトとの実力の差がありすぎることが判明し、頑張ろうと思う気持ちがそこかしこに漲っていた。
 だからこそ、任務中でも脱水症状寸前で成果を出したり、ユニオンの通常訓練でも良い効果を残せた。
 しかし、一番大変だったもの、それは……寝起きに襲う筋肉痛だった。
「痛っ〜!この前の任務はホントに死ぬかと思ったぁ〜!でも、今じゃほとんど警察頼りに何ねぇみたいだし、俺も頑張んなきゃな!」
 啓助はベッドから飛び起きると、急いで着替え個室を出て行く。
 チームルームに入ると、乃恵琉が椅子に格好良く腰掛け、コーヒーを飲みながら本を読んでいた。洋は洋でいつもながらパンをこれでもかと押し込むように頬張っている。
「ハヨッす、あれ、麗華と恵は?まさか寝坊か〜?全くし方がないな〜」
 乃恵琉は白いカップに入れられたコーヒーを音無く飲み干すと、そのカップを静かにテーブルに置く。そして、本に栞を挟んで懐にしまった。
「啓助君じゃあるまいし、そんなことあるわけ無いでしょう。麗華はともかく、関原さんは寝坊はしませんよ」
 白いカップを食器洗浄機に逆さにして置くと、乃恵琉はチームルームのドアの前に立ち、そして言った。
「それに、いま女性達は水中戦訓練をしているところです。女性達が終われば、今度は僕達の番ですから僕は先に行っていますよ」
 乃恵琉は啓助達を背にそう言い残すと、チームルームを出て行った。
 洋もそれを追い掛けるように急いで出て行った。
「フー、にしても何日か錘を背負ってただけで、立ってるだけでも辛いとは……水中戦訓練大丈夫かな、俺……」
 弱音を吐いていても始まらない、啓助は自分にそう言い聞かせてチームルームをヨタヨタと出て行った。

 以前は迷宮だ、何て言っていたユニオンの廊下だが今はだいぶ慣れていた。そう言う場面での成長で啓助は自分を励ましていた、そうもしなければ精神的に参ってしまうのだ。
 しかし、その参ったことに……いや、今回は迷宮が啓助の中で復活してしまったことに参っている。
 元々、普通科・水中科・空軍科・潜入科などなど色々なグループがある中で、ほとんど水中科しか使わない訓練なのにと普通科の啓助は心の中で愚痴った。
 実は情けない話し、更衣室の場所を久々だからか、ど忘れしてしまったのだ。
「ヤベー!あの時洋に付いてけば良かったぁ……」
 啓助は慌てふためきながら、ユニオンの廊下という迷宮の奥へと進む。すると、奇跡かと思えるほどに偶然にも水中戦訓練室に繋がる更衣室を見つけたのだ。
 藁に縋り付く思いでそのドアを開けると、恵が視界に入ってきた。
 その姿は、完全にどこからどう見ても着替え真っ直中でユニオンで普及されていた水着を脱ぎかけている。
 啓助は暫く、その透き通るような肌と美しい白銀の髪に魅了されていた。
 突然、恵は「え?」という表情で啓助の方を振り向く。そして啓助は我に返り、自分のしてしまった行為に気付きドアを思いっきり音を立てて閉めた。
「(やっちまったー!よりによってチームメイトだとは……!)」
 啓助が更衣室を背に、心の中で何度も後悔した後、全力で恵への謝罪の言葉を考えていた。
 考えている途中、意外にも早く背後からドアの開く音がした。途端に啓助が謝ろうと振り向くと、二人の顔は互いの目の前にあった。

109ライナー:2011/08/31(水) 00:12:11 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「あっ……」
 2人は声を漏らし、同時に顔を火照らせた。
 啓助は、自分の中で心臓がバクバク鳴っているのが聞こえた。恵に近づくほどに、何故かいつもと違う心境になってしまうのだ。
 暫くお互いの時間が止まったかのように思えた。
 咄嗟に恵は我に返ると、素早く顔を遠ざけひどく顔を赤面させた。
「……関原、ごめん!言い訳にしか何ねェけど、修行が思ったよりきつくてフラフラしてたんだ」
 啓助も少し赤面したまま、頭を深く下げた。
 恵は顔を真っ赤にしたまま、大丈夫と言うように、両手の手のひらを前に出した。
「あ、あ、あの、あの!ぜ、全然気にしてないからっ!しゅ、修行大変なんだね!が、頑張ってねっ!」
 そう言い残すと、恵は赤い顔を両手で隠しながら、素早くユニオンの廊下を走っていった。
 啓助はその姿を見送り終わると、遅刻しそうなのを思い出した。
「やべー!急がなねェと!」
 そして、女子更衣室でなく男子更衣室に飛び込むように入っていく。

 啓助が支給された水着を慌ただしく着た。しかし、ユニオンで支給した水着とはいえ、スクール水着とさして変わらなく素早く着替えることが出来た。
 水技室に入ると恐ろしく広いプールが啓助の目に広がった。今の今まで、啓助は水中戦訓練は重力コントロール室で仮想訓練することになり、任務の成果で実践的な訓練の許可を出されていたのだ。
「今日、調度入ってきた辻ね?初日から遅れるなんて良い度胸……罰としてクロール100m一本」
 水着姿で、首にホイッスルを提げた女が啓助に言った。この女性は、第二番隊隊長、霞浦(かすみうら)で薄紫色のショートカットという髪型に、細い目にはほんのり青が掛かる瞳を持っていた。
 啓助が渋々返事をし、プールの方へ振り向くと、幾人かの男子隊員が泳ぎながらこちらを覗くように見ていた。恐らく、霞浦の方を見ているのだろう、啓助はそう思った。
 顔立ちは実年齢30前半という情報とは裏腹に、10歳以上若い顔つきで、それにプラスされて大人っぽいスタイルがあるのだ。
 しかし、啓助はそれを好きにはなれなかった。鋭い目つきが異様に恐ろしく見えてしまうのだ。
 啓助はプールサイドを歩きながら、乃恵琉と洋に挨拶代わりのアイコンタクトを苦笑いの顔でする。
 向こうが気付くと、啓助は安心したようにプールに足を入れ、背後の壁を蹴った。
 水面と水中の間を手に行き来させ、クロールを泳ぐ。
 プールの底は下へいく度に黒が増した。実際の海をなるべく表現しようと、出来るだけプールの底を深くしたらしい。
 さらに凄いと思われるのは、プールの縦幅が霞浦に指定された、調度100mなのだ。しかし、啓助は修行の成果があったおかげか、早く泳ぎ、バテる事無く泳ぎ切った。
 啓助が水から上がると、霞浦が招集を掛けた。
 全員が集まると、座るように指示し、バケツに入ったゴムボールを前に出した。
「これから、実践的訓練を開始する。今から、ここにあるゴムボールをプール全体にばらまくから、それを一番多く取ってきた人が勝ちよ。ちなみに勝った人には、単位得点をあげる。ルールとしては、ボールの取り合い有り。それと、水中で遣り合うから、スイムチューブは着用オッケーよ。それじゃ開始します」
 霞浦は、ゴムボールをバケツごと放り込むようにして投げ入れた。
「啓助君、君の修行の成果を見せて貰いますよ」
 乃恵琉はそう言うと、啓助よりも先に深いプールの中へ飛び込んだ。
「……しゃ!やってやるぜ!」
 啓助も意気込んでプールへと飛び込んでいった。

110レイ@ヴァルガ:2011/08/31(水) 15:39:37 HOST:110-133-206-232.rev.home.ne.jp
読ませていただきました。
素晴らしい作品だと思います。
わざとらしくない程度にフォローが入れられているので
とてもいい文章力だと思います。

一つ言えば、乃恵琉の口調的に、もう一つ「、」などで
区切りを増やしたほうが似合うかと。

上から目線ですみません))ペコ
これからも応援させていただきますので、どうぞまた。
                            byレイ

111saorin:2011/08/31(水) 22:30:57 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
不景気だと騒がれていますが・・・(#^^)b☆ ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh

112kokoro:2011/09/01(木) 11:23:17 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
不景気だと騒がれていますが・・・(・_・)!! ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh

113ライナー:2011/09/02(金) 08:00:38 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
レイ@ヴァルガさん≫
コメントありがとうございます!
アドバイス、参考になりました!しっかり活用していきたいと思います!

114ライナー:2011/09/02(金) 18:16:55 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 訓練生降格が掛かっている啓助は、やけに気合いが入っていた。
 だが、その気合いの良さも束の間だった。スイムチューブのお陰で水中でも息は出来る、だが深いプールの底に着いて気が付いた。その水圧と、光の届かない世界に。
 水圧は水深50mと言うほどあって、中々に苦戦を強いられるようだった。背中には錘が乗せられるように。
 一方、明度の問題だが、太陽の光に照らされているのとは訳が違い、真っ暗で何も見えない。
「(これ以上単位を落としてたまるか……!)」
 恐ろしいほどの水圧を避けるため、そこの部分よりも少々高い場所へ浮かび上がる。
 そして、その場で暗さに目を慣らすと、そこの方に向かって睨み付けた。
 暗い中、何とか目を凝らすと、鮮やかな色のゴムボールから次々と見つかった。と言っても、たったの2個だったが。
 他のゴムボールを見つけるべく、再度啓助は目を凝らす。しかし、啓助はこちらに向かってくるアビリティのオーラを感じ取った。
 啓助が感じ取るに、アビリティのオーラは3つ。しかし、異能力者(アビリター)で無い者もこちらに向かっているかもしれない。
 既にボールを1個ほど持って行って、水面に浮かび上がっていった者もいたが、恐らく単位得点に余裕のある者。
 今、調度感じ取っているオーラは、専攻隊に行くことに憧れを抱く者、単位得点が厳しい者だろう。アビリティ使用禁止とはいえ、オーラでとても必死さが伝わってくる。
 こちらとしても、単位得点的には厳しい。そう考えた啓助はオーラの発生地を正確に感じ取り、挟み撃ちにならないよう水面近くへと浮かび上がった。
 そして、啓助が下を見下ろすと、水中でも破門を打つように激戦が繰り広げられていた。
「(フー、危ねェ……!)」
 啓助がホッと胸を撫で下ろす。そして激戦が落ち着くと、啓助はコソ泥の様に零れ球を探そうとした。
 が、その瞬間、啓助の左腹部に激痛が走った。
「(……!な、何だ!?)」
 水中だというのにも関わらず、その勢いで啓助はかなりの距離で飛ばされる。
 啓助は、驚き振り返ると、そこにいたのは乃恵琉の姿だった。
 乃恵琉は突き出した足を元に戻した、激痛は乃恵琉の蹴りだったのだ。
 得意顔になっている乃恵琉を見て、啓助はハッとした。自分の手のひらを見ると、先程まで握っていたゴムボールが消えていた。
 そして、乃恵琉の方を再び振り返ると、乃恵琉が持っているゴムボールの他に、啓助の持っていたゴムボールが握られていた。
「(乃恵琉……!俺を試そうとしているのか……!?それに俺の単位得点まで掛かってるってのに……)」
 得点を失い訓練生になりたくない、仲間にこれ以上負けられない、修業の成果を無駄にはしたくはない。啓助はその一心で乃恵琉を追った。
 乃恵琉は素早く水面へと浮上する、このまま啓助のゴムボールを持って行き、自らの得点にする気なのだろう。
 そして、乃恵琉が水面に顔が触れ、そこから顔を出そうとした途端だった。啓助は乃恵琉の足を掴んでいた。
 啓助は乃恵琉の足を掴んだまま、勢いよく水中に引き戻し、ゴムボールを持つ手に手を掛けた。
 乃恵琉はそれを両足蹴りで引き離し、体勢を立て直すと、距離を取り、逃げるように泳いだ。
「(させてたまっか……!)」
 再び乃恵琉を水面に近づけさせないよう、啓助は水面近くを泳ぎ、乃恵琉を追い詰めた。
 暫くして、逃げる乃恵琉の動きや、数々のフェイントをくぐり抜け、やっとの思いで壁際に追い詰めた。
 そして、勢いをつけて乃恵琉に蹴りを繰り出した。
 しかし、追い詰めた壁が仇となり、乃恵琉は壁を利用し素早く蹴りを躱す。
 啓助は不意を突かれ急いで乃恵琉を追うが、先程よりも素早さもキレも増した泳力が啓助を更に引き離した。
 現在、啓助の持つゴムボールの数は0。かなりの時間が経っていることから、余ったゴムボールはもうないだろう。しかし、ここで諦めては単位が下がり訓練生へ降格するのは確実だろう。
「(くそぉ……!)」

115yuri:2011/09/03(土) 07:14:16 HOST:7c294c75.i-revonet.jp
世の中には簡単で儲かる仕事があるもんだ(#^^)b! ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh

116ライナー:2011/09/03(土) 11:39:44 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
 yuriさん≫
 こういう一行レスは受け付けておりません。
 お仕事の宣伝は、別の場所でやってください。
 ちなみに、こういう事をする人間を荒らしというのですよ^^
 以後参考に。

117ライナー:2011/09/03(土) 13:35:28 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
 しかし、その事が分かっていても啓助の体力は既に限界に達していた。
 一週間頑張った修行は、今まで啓助以上の修行を経験してきた乃恵琉達に比べたら、何の力も発揮しなかったのだ。
 啓助は自分の無力さを知り、乃恵琉を追うその動きを止めた。
 乃恵琉はそのまま水面へと浮上していった。そして、啓助の脱力した姿を目を細めて見ると、態とらしくゴムボールを啓助の真下に落とした。
 驚いた様子で、啓助は落ちてくるゴムボールを拾う。
 そして、何か思い詰めたように水面に浮かんでいった。
 水から体を上げると、全員がプールサイドで霞浦を囲むように座らされていた。
「これで全員ね。辻は……1個ね、じゃあ0の人が1単位取り上げって事で」
 霞浦の言葉で、啓助単位降格は免れた。
 啓助は一瞬乃恵琉の方へ目をやる。しかし、乃恵琉は何事もなかったような顔で体を拭いていた。
「じゃあ、今日はここまで。次の訓練では長距離水泳のタイム計るから、そのつもりでね」
 こうして、水中戦訓練は無事に終わった。
 訓練終了後、啓助はロッカーに急いで入れてしわだらけになった隊服を着ていた。
「啓助君」
 着替え中に、ふと乃恵琉が啓助に声を掛ける。
 乃恵琉は早々に着替え終わり、キチッとした着こなしが真面目さをより一層引き出していた。
「今回の事で、君の実力の方を、試させて貰いましたが……」
 啓助は思わず唾を呑む。
 あれ程やられっぱなしだと、お世辞にも結果がよいとは言えない。
「今の実力では、洋よりも、弱いです」
 乃恵琉の言葉に、啓助は石で殴られたような頭痛を覚えた。
 自分でも分かってはいたものの、ああもハッキリ弱いとだけ言われると、今までの修行の辛さや苦しみが蘇るようだった。
「それに、君は最後僕からゴムボールを取り返すことを諦めましたね。その時点で君は麗華に勝つことは不可能でしょう」

 一方こちらはチームルーム。
 訓練を終了し、恵と麗華が何やら話し込んでいた。ガールズトークというヤツだろう。
「で、何か進展あったの?」
 麗華が恵に問う。
「え?な、何のこと……?」
 恵は冷や汗を流しながら、引きつった顔で笑みを見せる。
「顔に書いてあるわよ、好きな奴がいるって」
 顔を引きつらせたまま、恵は目線を麗華から逸らし、斜め上に向けた。
「だから、筋とはどうなんだって聞いてんの!」
 麗華の言葉を聞いた途端、恵は顔を真っ赤にして慌てふためいた。
「ち、ち、違うよぉ!そんなこと無いよ!」
 麗華は恵の言葉を聞き、つまらなそうな表情で「あ、そう」と一言言った。
 しかし、恵の顔を見て思った、顔は正直者だと。
「……ま、誰かというのは置いといて、恵のアビリティは『ヴィーナス』なんだから上手く使わないとね」
 啓助の話から遠ざかると、恵の顔からは段々と赤みが消えていく。
 だが、その顔は薄く火照りが残り、恥ずかしそうな表情が残っていた。
「で、でも、『ヴィーナス』は動物と心を通わせる能力であって、べ、別にこんな事をするつもりは……」
「でも、出来ない訳ではないんでしょ?」
 麗華の問いに、恵の顔はまた少し火照り、浅く頷いた。
 すると、チームルームのドアが開き、訓練を終えた啓助達が戻ってきた。
 訓練は厳しいし、疲れるのは当然なのだが、明らかに啓助は乃恵琉や洋よりも元気がない。
「……麗華、お前は修行の方順調?」
「もちろん、辻は駄目なの?」
「ああ、ちょっとな……」
 啓助は、ため息を吐きながら視線を逸らすと、一瞬恵が視界に入ったのを感じた。
「関原、ちょっと良いか?」
 相手の返事を聞かぬまま、啓助は恵の腕を引っ張り、チームルームを出た。

118kokoro:2011/09/03(土) 13:40:24 HOST:7c294c75.i-revonet.jp
>>楽に稼げるアルバイトの件。情報載せておきます(^ω^)。 ttp://tinyurl.k2i.me/Xxso

119竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/03(土) 16:08:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
久しぶりです^^
進めば進むほど面白くなってきますね!
やっぱ僕はメイドさんと麗華ちゃんが好きでs((
ところで、文中に出てきた『金』に『垂』という字は何て読むのですか?

120ライナー:2011/09/04(日) 14:22:53 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
お久しぶりですね^^読んでますよ小説、魁斗君が羨ましい所までですが(今から読みますよ!)
麗華は結構僕も好きです。ツンデレっぽく仕上げたいので(笑)
メイドさんの件は、少しレギュラー化に時間が掛かりますが、宜しくお願いしますm(_ _)m
錘ですか?あれは(おもり)と読みます。広辞苑見たんで、正確なはずです!
ではでは今後ともごひいきに^^

121ライナー:2011/09/04(日) 14:30:12 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
32行目の筋ですが、辻です。

122ライナー:2011/09/04(日) 15:12:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「スキャン完了デスね」
 チームルームの外から、男がノートパソコンを広げていた。
 男は白いワイシャツの上に、青いスーツとオレンジのネクタイを身につけている。
 その男は一見どこかの正社員のように思えたが、足下だけがそのイメージを翻していた。
 足下にはバスケットボールのような灰色の玉があり、男を浮かび上がらせていたのだ。恐らく、ユニット系のロボットだろう。
 ユニット系のロボットは、男の両足に3つずつ付いていて、下半球の部分は青白い光を帯びていた。
 男はノートパソコンを閉じると、ユニット系のロボットを使い、上空に舞い上がった。
 舞い上がった先には、砲台などの武器が完備されたユニオンの屋根があった。
 そして、男はロボットを操りながら、砲台の上に腰掛けると、再びノートパソコンを開いた。
「ここの砲台センサーは範囲が狭すぎデスね。まあ、そのお陰で楽に侵入できマシタが……」
 男はノートパソコンのキーボードを鳴らしながら独り言を呟いている。
「にしても調べてみれば、あの井上洋という太めの人物、沙斬を殺したとは到底思えないデス。しかし、DNA検出で完全一致していマスし……」
 男は、ノートパソコンに刺さっているUSBメモリーを抜き出し、ポケットにしまった。
「やはり、ここのチームも戦闘力は低いが、侮れなさそうデスね。堂本さんに報告、報告」
 男はキーボードの音を暫く鳴らしたまま、砲台の上に座っている。
 キーボードの音を止ませると、男はロボットの方に目を移した。
「……磁場浮遊システムが狂っていマスね。やはり、もっと信用のおけるメーカーのものを使うべきデシタ」
 男は、ロボットの青白く光る半球を見つめて言う。
 そして、懐からマイナスドライバーを取り出すと、ロボットを分解し始めた。
 それでも何か物寂しいのか、再び独り言を呟く。
「そう言えば、この前雇ったスイーパーの少女。あの人は、水野家でまんまと黒沢乃恵琉にやられマシタね。彼も侮れないデス」
 男は分解した部品を他のロボットの上に置く。
「それに、水野麗華。あの少女も侮れないデス。この前修行らしい事をやっていたみたいデスが、あの動きは名前の通り華麗デスね」
 ロボットに持たせた部品を受け取りながら、独り言をまだ続ける。
「思い出せば、柿村君が裏切っていマシタっけ。行方が知れず、堂本さんが処分に困っていマシタね。まあ、雑魚は大きくなってから釣るものデスし……」
 男はネジを受け取ると、ロボットに付けた。どうやら修理は完了したらしい。
「では、そろそろ行きマスかね。ユニオン完全封鎖に……」

123ライナー:2011/09/04(日) 17:23:12 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
19、刺客はキルブラック
 啓助は、恵をチームルームのすぐ側に連れ出していた。
「あー、いきなり連れ出してゴメン。関原なら分かってくれると思って……」
 頭を軽く下げながら、啓助は言う。
「だ、大丈……夫!そ、相談事?」
 恵は顔を真っ赤にして、無理矢理な笑顔を作った。
「ああ、俺ってさ、チームの中でも……結構弱いじゃんか。だから、どうやったら役に立てるかなって……」
「え………?」
 何となく期待はずれな表情で、恵はキョトンとした。

 一方、ドアの内側では、麗華がドアに紙コップを付け、耳を澄ましている。
「……!辻ったら、こんな状況で……!」
 紙コップを耳に当てながら、麗華は文句を言っている。
 乃恵琉はコーヒーカップを片手に大きくため息を吐いていた。
「盗聴はいけませんよ、麗華」
「ど、ドアのメンテナンスよ!さっき辻達が出てったときに、変な音がしたような……」
 麗華の言い訳に乃恵琉はまたも大きなため息を吐く。
「蝶番が軋む音でしょう。僕が油を差しておきますから、麗華はどうぞ紙コップを引いて下さい」
 乃恵琉の完璧な推理に、麗華は渋々ドアから紙コップを引いた。
「こんな性格だから、女子にもモテないのよ」
 麗華は悔し紛れに、乃恵琉の嫌みを言い放つ。
 しかし乃恵琉はその言葉に動じず、涼しげな顔で言った。
「僕は、女性が嫌いなんです。特に話しが通じない女性は、絶対拒否です」
「ホントは女の子苦手なんだよね〜」
 洋の言葉に、乃恵琉はほんの少し頬を火照らせた。
 横では麗華がバレない程度に笑いを堪えている。

「……やっぱ、こんな質問答えらん無いよな」
 啓助の言葉に、恵は慌てて否定する。
「あ、いや、そうじゃなくて……その、啓助君は啓助君のペースで頑張れば良いと思う。だって、みんなより遅いスタートだし、そうと思えば修行の成果出てると思うよ!」
「………」
「あ、やっぱり駄目だった?」
 恵は、恐る恐る啓助の様子を伺う。
 すると、啓助は少し俯きながら嬉しそうな笑みを浮かべた。
「お前に話して良かったよ、ありがとな!」
 啓助は顔を上げ、恵に視線を向けた。
 恵は少し照れながら、戻ろうか、と一言言った。
 そしてドアノブに手を掛ける、が、何故か鍵が掛かっている。
 啓助は、ドアを叩きながら乃恵琉達の応答を待つ。
「こちらは大丈夫ですが、ドアは鍵が外れません。とりあえず、メインコントロールルームに向かって下さい。こちらのコンピューターは使えませんので」
 何とか乃恵琉の返事を聞き、啓助はひとまず安心した。
「分かった。じゃあ、とりあえず行ってみる。何かあったら、お前らもこっちに連絡しろよ」
 啓助は恵とアイコンタクトを取ると、恵の先導でコントロールルームへ向かった。

124竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/04(日) 17:57:15 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

僕はツンデレ好きなので麗華を好きになったかもしれません((
もしかして語尾がカタコトの人が言っていた乃恵琉に負けたメイドって…いや、なんでもないです((

そうなんですか、ずっと読めなくてちょっと困りました…
難しい漢字とかはなるべくふりがなふった方がいいと思いますよ^^

125ライナー:2011/09/04(日) 18:41:24 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 ユニオン廊下を走りながら、啓助達は周りの異変に気付いた。
 所々電灯が切れていたり、システムがダウンしているところが見られたのだ。
「関原、これって良くあることなのか?乃恵琉は随分冷静だったが、俺にはかなりの非常時にしか見えねェんだけど……」
「まあ、黒沢君はああいう性格だし……あ、それと、啓助君。私のこともファーストネームで良いから……」
 そう言う恵の顔はほんのり紅が差していた。
「え?ああ……」
 啓助は曖昧な返事で済ませる、そして気が付くとメインコントロールルームと書いてあるドアを見つけた。
 ドアに近づき、重たそうな自動ドアを引き戸のように開けようとする。
 しかしドアは鉛のように重く、鍵が掛かっているようにしか思えなかった。
「何で開かないか?それは僕が止めておいたからデス」
 声がする方に2人は振り向く。
 すると、そこには黒装束を来た下っ端らしき人物と、青いスーツを着た男がユニット系のロボットを操って浮かんでいた。
「僕はキルブラック右陣隊長、来待(らいまち)。宜しくデス」
 この、いかにも辛抱強そうな名前の持ち主、来待は片手にノートパソコンを手にしていた。
「また、キルブラックか……今度はユニオンに乗り込んで来やがったな!どういうつもりだ!」
 来待はノートパソコンのキーボードをいじりながら口を動かした。
「ユニオン全員をユニオン内に封鎖して、毒ガスをばらまいて全員殺す予定なんデス。でも、君達は一番動きやすい位置にいるので先に排除させて貰いますデス。危ないですから」
 手を払うようにして、来待は下っ端達に啓助達を殺すよう指示をする。
 下っ端の行方を分けて、啓助は右の下っ端を、恵は左の下っ端を分けて倒すことになった。
「軽く予行演習の相手になって貰うぜ!」
 啓助は自分の手元に氷で作った剣を出し、下っ端に向かって斬りかかる。
 しかし、下っ端は30cmほどの小刀を逆手持ちにして上手く防ぎ、啓助との距離を取った。
 相手のペースを作られないよう、啓助は氷の剣を右手に持ち、急接近していった。
 氷の剣が振り下ろされ、下っ端は小刀の刃を上に向ける。
 剣同士、鈍い音を立てながらぶつかり合うが、またも同じように距離を取られる。
 啓助は次こそ距離を取られないようにと、渾身の力を振り絞り、氷の剣を振り払った。
 今度は啓助の力が勝り、啓助のペースに持ち込めたと思えた。が、使用している剣が氷だったため、刀身にヒビが入ってしまう。
 仕方なく、啓助は身を引き自ら距離を取った。
「(こう距離を取られちゃ、攻撃するにも一苦労だ。それに歩かされてる気がする……下っ端だからって気は抜けないな)」
 氷の剣を啓助のアビリティ『フリーズ』で、ひとまず修復する。
「(こっちから近付けば適応に対処されるし、こっちが待っても近付きはしない。どうすれば……)」
 しかし、下っ端なんかに手こずっては駄目だ。啓助は自分にそう言い聞かせると、黒装束目掛けて氷の剣を突き出した。
 それでも、同じように小刀で弾き返されてしまう。それに相手はじっとその場で身を固めいるが、啓助の運動量は下っ端との距離、往復10以上しているため、息がかなり荒い。
 そして、思わず啓助の足下がふらついてしまった。

126ライナー:2011/09/04(日) 18:51:32 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
ツンデレって良いですよね(笑)
まあ、存在感維持に……そんなところです^^;

そうですか?竜野さんも結構難しい漢字使ってるんで大丈夫かと思いました。
それに、自分で推測できる程度の漢字しか使用していないので、大丈夫かなと……
それではガンガン……というわけでもありませんが、ふりがな使っていこうと思います。
アドバイス、ありがとうございました!

127ライナー:2011/09/08(木) 00:04:54 HOST:222-151-086-020.jp.fiberbit.net
 足がふらつき、何とか一歩後ろに下がるところで、踏ん張りを効かせた。
 すると、啓助が後ろに下がったとき同時に黒装束は距離を詰めるように一歩踏み込んだ。
「(……!?)」
 啓助は試しに、もう一歩後ろに下がる。
 またも同じに黒装束は、同じ分だけ距離を詰めた。
「なるほどな……!」
 何かを悟ったように、啓助は笑みを溢し、距離のある相手に向かって氷の剣を突き出す。
 突き出された氷の剣は、剣先が砕け氷の破片が下っ端を襲った。
 下っ端は纏っている黒装束を、なびかせながら平行移動で躱す。
 しかし、下っ端の平行移動した先には啓助が駆け寄っていた。
 相手が気が付く間も無く、砕けて尖りが増えた氷の剣を腹部に食らう。
 地割れでも起こるような衝撃を与え、啓助はゆっくりと剣を引く。そして、倒れ込む下っ端を余所に来待の方へと視線を向ける。
「今のは勿論小手調べだよな?」
 その言葉が出ているときには、恵も勝負が付いていた。恵の足下で、黒装束の下っ端が寝そべるように倒れている。
 啓助の言葉に、来待はノートパソコンの画面を見つめながら言った。
「ええ、お陰で欲しいデータは集まりマシタ。データのため僕はそろそろおいとましマス」
 下っ端達をコテンパンに倒した啓助達に、来待は背を向ける。
「おい、逃げるのか!」
 来待は、去ろうとする動きを止め、背を向けたまま言った。
「僕は必ず、少なくとも四捨五入して100%の勝率がなければ戦いマセン」
「何故100%にこだわる!」
 来待は鼻で笑い、ヤレヤレというような声調で言った。
「僕は、キルブラックに就く前は平凡な株式会社で働いていマシタ。ある日、ある取引で、99,5%は確実でしょう、そんな言葉に騙されたばっかりにその会社は潰れマシタ。だから90%さえも僕は信じマセン」
 昔話を語る来待の声調は、進む度に険悪さを増していく。
 まるで、変身途中の狼男のように。
「共倒れした会社の人は、保証してくれる。そう言ったはずなのに、それにも関わらずその人は逃げマシタ。99,5%は人から全てを奪ウ、そうとしか思えマセン」
 啓助は、来待が敵だというのに心のどこかで同情をした。
 裏切られる辛さを、身をもって体験しているとどうも同じ心境になる。
「だから、運を加算して僕の勝率を計算すると、99,6%デスが、99,8%を超えなければ僕は戦い増せん」
 計算のことについては啓助はサッパリだったが、相手の勝率を上げればいい、その事だけは理解し来待に言った。
「さっきの戦いでバテ気味なんだが……」
 意外と平気をそうに啓助を見る恵は、キョトンとしている。しかし、来待は驚いたように啓助に笑みを見せた。
「……良いデショウ」
 そうして、互いに話がまとまり、戦闘態勢に入る。
 恵の方も啓助の後ろで、銃把を逆さに持ち、銃拳術の体勢を作っていた。
「では、僕の信用できる武器をお見せしまショウ」
 すると、来待は高く跳び上がり、床に足を付けた。
 その時に、来待の足の下に浮かんでいた、バスケットボールくらいの大きさのユニット系のロボットが動き出す。
「これは、僕の武器「リモートユニット」100%僕の理想が詰まってマス」
 合計六機のリモートユニットは、所々青白い光を照らし威嚇していた。まるで、生きているかのように。

128明優:2011/09/08(木) 12:25:12 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
久々のコメントさせてください☆
本当にライナーさんの小説って
いつ見ても面白いし、読みやすいし・・・。
文章力もすごいですね!!
でもたまに読めない漢字があります(泣
まぁ、これは私がバカなだけなのですが(泣
色々な漢字を知っているライナーさん、
小説が面白いライナーさん!!
本当にすごいと思います☆
前に、燐と2人でライナーさんの小説、すごいよね!と
話してました☆
これからも面白い小説を、書いてください☆
必ず見ます☆

129ライナー:2011/09/09(金) 14:48:41 HOST:bc31.ed.home.ne.jp
明優さん≫
コメントありがとうございます!
いつもお褒め頂き、書く意欲があがっております(笑)
とりあえず明優さんの小説も見ていますが、まだ読みが途中なのでもう少し待っていてください^^;
これからもよろしくお願いします!

130ライナー:2011/09/09(金) 20:44:58 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
127≫30行目の増せんは、マセンです。


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